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ICT を利用した「主体的・対話的で深い学び」を育むpre‒reading課題

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Academic year: 2021

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雑誌名

教職教育研究 : 教職教育研究センター紀要

24

ページ

1-10

発行年

2019-03-31

(2)

ICT を利用した「主体的・対話的で深い学び」を育む pre‒reading 課題

大喜多 喜 夫

⚑ はじめに 国語の授業を含めて、ことばの学習を対象にした授業 では「読み」の授業が不可欠である。いくら、「やりと り」や「発表」に焦点をあてた、すなわち「話す」1) とを中心にするようなコミュニケーション指向の授業ス タイルにおいても、授業活動としての読みの指導は避け ることができない。 しかし、読みの授業では多くの場合、学習者は受け身 の活動から抜け出すことができない。「話す」ことに焦 点をあてた授業と比べて、どうしても学習者にモーティ ベーションを持たせることは難しい、というのが一般的 な考えであろう。 読みの授業で、学習者のモーティベーションを引き上 げる試みとして一つとして、「⚓段階の読み」と呼ばれ る学習方法がある。これは読む活動に入る前、その途 中、そして読んだ後に、学習者にそれぞれ異なったタイ プの課題を与えて、学習者が読む活動に、より積極的に 取り組むための課題設定の方法である。 ⚓段階の読みでは、このうち、学習者の読みに対する モーティベーションを引き上げるという点で、読む前の 課題が重要な役割を果たす。教材を前にして、学習者に 読んでみようという心構えを持たせることが、この課題 の目的となる。 この読む前の課題の設定の重要性は、スキーマ理論に 裏打ちされている。すなわち、適切なスキーマを与える ことにより、学習者はより前向きに、日常生活での読む 作業に類似した読みの活動に、従事できると考えられて いる。これは国語の授業についても言える。例えば、な じみの浅い古典の教材に、より積極的に取り組めるため には、このスキーマをいかに効果的に学習者に与える か。これが学習の効果を左右する。 このスキーマを学習者に与えるには、いくつかの方法 が考えれられる。本稿では、この方法を学習スタイルの 観点から考察を進める。学習スタイルという概念が、教 育心理学の分野で導入され、そしてことばの学習の分野 に応用され始めたのは、1980年代の中頃である。 人は、新しい情報に接した場合、それを理解し、記憶 にとどめる。この過程は、いわゆる認知と呼ばれる過程 であるが、それぞれの学習者は、自分に適したスタイル を持っている、という考えるのが学習スタイルの基本的 な姿勢である。学習スタイルは、学習者の年齢、性別、 あるいはその時の心理や身体の状態によって、揺らぐか もしれない。しかし、基本的にはこれはその人が生来、 持っているものであるとされる。 近年、ICT の発展は目を見張るものがある。教育へ の応用は、当然、積極的に取り組まれており、これまで 想像しなかったような実践が報告されている。本稿で は、スキーマ理論、読解に入る前の課題の設定、学習ス タイルをキーワードにして、ICT の利用の可能性を考 えたい。 ⚒ スキーマ理論 2-1 スキーマとはなにか 人は通常、五感を通して新しい情報に接する。この五 感とは視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚であるが、普段の ことばの授業活動で直接に関係するのは視覚と聴覚であ ろう。(もちろん、ことばの授業以外にまで範囲を広げ ると、これ以外にも考えられるが、本稿では、ことばの 習得を目的にした授業に焦点を絞る。) 人が新しい情報を理解しようとするとき、そのなかに 含まれる既習の情報を手がかりに作業を進める。多くの 場合、既習の情報とは、語彙の(及び読者がそれから連 想する)情報で、これらを組み合わせて、新たな情報を 理解しようとする。ことばの学習において、この既習の 語 彙 の 情 報 と は、い わ ゆ る 言 語 学 で 言 う、機 能 語 (function words)2) でなく内容語(content words)3)

ことである。反対に言えば、新たな情報を前にして、こ の既習の語彙の情報がないと、たちまち立ち往生する。 既習の語彙があれば、それを基に人は連想をたくまし くし、様々なイメージを心に抱く。これを言語教育の分 野ではスキーマ(schema)4) と呼ぶ。このスキーマは、 その人のこれまでの生活体験が基礎となるので、人に よって決して同じではない。 例えば、「海」という語彙に接して、人によって心に 抱くスキーマは異なる。漁、日焼けした顔、遭難、ダイ ビング、レジャー、暑い夏の海、など様々である。これ は、その人が経験してきた社会生活や文化的な環境によ る。海辺で生まれ育った人と、これまで海など目にした

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こともない山間部での生活経験しかない人を例に取れ ば、明らかなことである。 新たに情報を前にして、既習の語彙に対して持つメン タル・イメージであるスキーマを活発にして、人は、そ の新しい情報に含まれる内容を予想し、またそれに対す る期待を膨らます。これが、わたしたちが通常の母語の 言語生活で行っていることである。 2-2 スキーマの重要性 例えば、新聞記事にある新たな情報を前にして、その 内容について期待したり予想したりする場合、私たちは そのタイトルや写真を手掛かりにする。 以下の英文5)は、いったい何について説明しているの か。なお、下線は本稿の著者による。

The procedure is actually quite simple. First, you arrange things into different groups on the makeup. Of course, one pile may be sufficient depending on how much there is to do. If you have to go somewhere else due to lack to facilities, that is the next step. Otherwise, you are pretty well set. It is important not to overdo any particular endeavor. That is, it is better to do too few things at once than too many. (Cook, 1996: 72) 個々の単語の意味は明確であっても、全体として何の ことかは、たとえ英語を母語とする人にとっても、この ままでは容易ではない。 この文の書き出しは the procedure(その手順)であ るが、これは何の手順なのか不可解で、それを示唆する 語彙がない。⚒行目の the makeup には、化粧、追試験、 組織、気質、作り話、決算、などの意味がある。しかし、 ここでは、そのなかのどれに相当するのか。これに関し ても、読み始めでは検討がつかない。⚕行目の facilities (設備、施設)についても、具体的に何のことなのかは、 これもヒントになる言葉はない。このような理由で、こ こに挙げた説明文は、英語を母語とする人にとっても理 解するには厄介な文章である。 ある意味では、上記の説明文をいきなり読むというこ とは非現実的である。その理由は、通常私たちが、この ような文を読む前には、それが何について書かれている のかの情報が提供されているからだ。その情報は、たい ていの場合、タイトルや写真・挿絵によって提供される。 少なくともタイトルだけでは与えられる。 もしこの説明文にタイトルとして About Washing Clothes(洗濯について)という一行が添付されている なら、随分と様子が違ってくるに違いない。当然、the procedure は「洗濯の手順」、 the makeup は「洗濯物

の素材」、facilities は「洗濯機」や「乾燥機」のことで あることは簡単に想像できる。このような想像のもと で、この説明文を理解しようとし、内容についての期待 を高める。 2-3 スキーマ理論とその中心的な要素 与えられた文字情報を理解しようとする過程は、読み 手である学習者が、与えられた文字情報そのものから意 味を理解するような受け身的なものではない。通常は、 読もうとしている内容についての先行知識に基づいて読 み進める。この先行知識と読んで得られる文字情報とを 照らし合わすことで、読み手が積極的に新たな情報を理 解しようとする。スキーマ理論を一言で説明すると、こ のようになる。 ここでのキーワードは、「照らし合わす」と「積極的 に」である。 読みの作業は、常に読み手の持つ情報と文字情報と の、やり取りである。このやり取りを繰り返し、読者は 自分の持つ情報の再構築を重ねる。先に挙げた洗濯の手 順の説明文を例に取れば、タイトルが与えられている と、読みながら読み手は、表⚑のようなことを順に思い めぐらしながら文章の理解を進めようとする。 表⚑ 読み手と書き手の相互作用 ⚑) The procedure:なるほど、タイトルが「洗濯 について」だから、これは洗濯の手順のことか。 ⚒) Simple:そうだよな、洗濯の手順って、そんな に難しいことでもないよな。こんな簡単な洗濯 の手順について、この文章は何を言いたいのか な? ⚓) Makeup:これは、どんな意味だろう。あっそ うか、洗濯に関することだから、素材のことか な。そうだ、different groups(違ったグルー プ)とあるので、そうに違いない。でも私は、 グループに分けることなんて、面倒で普通はし てないよ。 ⚔) One pile:ひと山?なるほど、洗濯物を素材に 分けた山のことなんだな。ひと山って、一体、 どれほどの大きさのことなんだろう? など、読み手は常に心のなかで、いろいろと考えながら、 言い換えれば、書き手に問いかけながら、与えられた文 章から、何か新たな情報を得ようとするのである。これ が、「照らし合わす」ことである。 積極的とは、照らし合わせることを繰り返す過程で は、読み手は決して受け身で作業を進めてはいないこと を意味する。書き手の意図を確かめようと、一言一句に

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神経を集中させているのである。この過程で、時には初 めて見る語彙に直面するかもしれない。でも、その時に は文脈からその意味を類推し、その類推した意味が正し いかどうかを確かめようと、懸命に書き手との相互作用 を繰り返し、読み進める。 2-4 外国語教育現場での読み スキーマ理論が教育現場に与える示唆は大きい。 かねてより、外国語教育における読みの授業形態に対 しては批判が多かった。聞く、話す、書くの分野の学習 活動に比べると、費やされる時間の割合が多すぎるとい うだけではない。その方法についてもさまざまな意見が あった。 代表的な意見は、学習者は与えられた読みの教材の字 面の意味を追う作業に明け暮れ、内容の理解まではされ ていない、という意見だ。言い換えると、この批判は文 法訳読式の授業形態の功罪の、罪そのものかも知れな い。 字面の意味を追う作業、すなわち bottom‒up 形式の 読み6)では、学習者の意識は一語一句の意味の理解にと らわれ、結局、まとまった意味理解はできず、読み本来 の楽しみ、あるいは喜びまでには至ることは難しい。い わゆる「木を見て森を見ず」の読みのなかで、学習者は 作業を進めることになる。 このような作業に興味を持つ学習者も、いないわけで もない。それは特別、文法や語彙という言葉の学習その も の に 関 心 が あ る 学 習 者 で あ る。し か し、こ の bottom‒up 形式の読みの活動は、私たちが普段から行っ ている言語生活での読みの方法とは、かなり異質のもの である。さまざまなメディアが提供する文字情報を、私 たちは日ごろ読んでいるが、一言一句意味を確かめて読 むことはあまりしない。難解な言葉にであってもあって も、前後関係から意味を憶測する。そして、その憶測し たことが正しいのかを文脈で確かめながら、読むという 作業を、無意識に進めているのである。 一言一句の意味を追う読みの作業では、どうしても受 け身の作業が中心となる。興味のない分野の教材で、何 が書いても予測すらできないのでは、読む楽しみどころ ではない。読むことに対しては負のモーティベーション を与えるだけである。これが、文法訳読式の授業形態の 罪の構図である。 一言一句の意味を追う形態だけが、非現実的な読みの 要素ではない。読むための教材には、何がテーマとして 書かれているのか、またそのテーマに関して読み手であ る学習者は、人それぞれどのようなイメージを持ってい るのか。これについて考える十分な時間が与えられない まま、いきなり読みの作業に追い立てられる。これで は、学習者はたまったものではない。ますます読むこと への負のモーティベーションはつのるばかりである。 2-5 読みの指導へのスキーマ理論の示唆 外国語の授業での読みの学習の風景は、従来から、概 ね前節で描写した通りである。とくに大学受験を控えた 場面では、そうならざるをえない。難関を突破するた め、語彙や文法事項の確認に重点が置かれるのは当然で ある。読み手の興味や関心などには配慮されることな く、読解の作業が黙々と行われる。 しかし、受験対策に特化していない通常の読みの授業 では、学習者の読もうとする態度が少しでも高められる ような試みがなされるべきであろう。 私たちは母語での言語生活で、さまざまな形態の読み の活動に従事する。その過程で、私たちは読むという活 動に対して積極的に取り組む。これは、通常の外国語の 読みの授業では見られない。その理由を解く鍵はスキー マ理論にある。 読みの授業では、学習者にはいきなり読む活動として 必要な教材が与えられる。まるで 2-2 で扱った、「洗濯 について」の英文が与えられるのと同じである。学習者 はスキーマなしで読みの活動に従事し、一言一句、意味 の確認をする。これは母語における読みの活動とは遊離 した活動で、まるで複雑な暗号文を解くようなものであ る。学習者には、教材から新たな情報を得たいという興 味や関心などあるはずもない。読むこと自体、一種の苦 行である。 なるほど、学習者にスキーマを与えるような工夫がな いわけでもない。あるまとまった内容を取り扱う読み物 (つまり文部科学省の検定教科書やサイドリーダー)に は、単元ごとにタイトルや写真・挿絵などが付け加えら れている。これはまさしく学習者に、スキーマを与える もので、読む作業に対するモーティベーションを少しで も高めることを意図している。 しかし、せっかくタイトルや写真・挿絵が提供されて いるにもかかわらず、読み手としての学習者がどのよう なイメージ、すなわちスキーマを構築するのか。これを 十分に確認しないまま読みの作業に着手する。また、ス キーマは学習者によって異なる。学習者が概ねどのよう スキーマを心に抱くのか。またそれが、これから読もう とする教材を、興味を持って読むのにふさわしいスキー マかどうか。これらを十分に確認することが、学習者が 興味や関心を持って学習活動に従事するための必要不可 欠なことである。 学習者にスキーマを与えるような工夫がされている教 材でも、十分には活用されていないのが実情である。ま してや、学習者がスキーマを構築するすべが皆無である 教材(すなわち、構文、文法、あるいは語彙の点から、 受験生として重要な項目を含んでいる○○大学××学部

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の問題の一部ばかり編集した受験問題集など)について は推して知るべし、である。 悲しいかな、生徒の進学率を最優先にしている中等学 校では、スキーマの構築などまるで考慮に入れられてい ない受験問題の読解を、英語学習に中心にしているのが 多い。このような学校のなかには、一応は生徒に文部科 学省の検定教科書を購入させるが、教材として十分には 活用されてはいない学校もあると聞く。これは、本来あ るべき読みの学習指導の方法から見れば、最悪のパター ンである。 要するに、読みの指導においては、読む作業に入る前 に、その教材の内容について学習者がどのような予備知 識を持つのかを、時間をかけて確認することが必要なこ とである。 2-6 読みづらい古典の教材を、より学習者にとって 親しみやすくするために 前節では、外国語の読みの授業を少しでも興味深くさ せる方法の一つとして、あらかじめ読者にスキーマを与 えることが必要だと述べた。ここでは、さらに対象を外 国語でなく、私たちの母語である古典の教材を例にと り、読みの授業におけるスキーマの大切さを確認した い。 日本の中等教育では古典は、国語科では古くからの日 本の文化を知る目的の教材として、これまでから取り上 げられてきた。しかし、古典は学習者にとっては読みづ らいというのが現実である。ここでは、古典の分野で教 材として取り上げられることの多い『伊勢物語』から 112段を例にとり、その読みづらさをスキーマの観点か ら考察したい。 むかし、男、ねんごろに言い契るける女の、 ことざまになりにければ、 須磨の海人の 塩焼く煙風をいたみ 思わぬ方にたなびきにけり この部分は和歌とそれに先立つ導入部から成り立つ。 和歌の部分を現代語訳に直すと、以下のようになる。 「須磨の海辺で漁師が、塩釜に海の水を煮詰めて、 塩を取っている。その煙が、突然の強い風に流され て、思いもかけない方向に流されていることよ。」 和歌に含まれる語彙を一言一句、ていねいに解釈し現 代語訳に直すと以上のようになる。このように訳したと ころで、誰しも読み手は、「だからそれがどうしんだ」 と疑問を持つことになる。このようなことにならないよ うに、和歌を提示する前段階の導入部分で、スキーマ (と同じ役割をする情報)が与えられている。以下に、 スキーマの構築となる導入部分を現代語で提示したい。 「昔々、あるところに男がいました。その男には、 恋仲になって将来を約束した女がいました。その女 の人は、他の人に心を奪われ、その男から去って行 きました。そこで男は次のような歌を詠みました。」 ここではスキーマは本稿 2-2 の「洗濯について」のよ うに、端的にタイトルとしては与えられてはいない。し かし、その役割を担っているのがこの部分である。和歌 を味わうために、その導入部分で必要な予備知識が与え られているにもかかわらず、それが多くの学習者にとっ てなじみのない古語で書かれているので、ますます、こ の112段の和歌は難解で、無味乾燥な、面白くない教材 となる。 もし、この前段階の部分だけは現代語で提示すれば、 言い換えれば、スキーマを明確に示すことができれば、 もっと多くの学習者が、この和歌を楽しむことができる のではないかと思われる。それほど読みの学習では、ス キーマの構築は大切だ。 112段を授業で扱うとすれば、時間が許せば、さらに、 表⚒のような授業活動へと発展させることができる。 表⚒ 想定される授業活動 (学習者は) Step⚑ 前段階のスキーマの情報を確認する。 Step⚒ 女に心変わりされた男の心境を考える。 Step⚓ 考えたことを他の学習者と交換する。 Step⚔ 提示された和歌の大意を考える。 Step⚕ 考えたことを他の学習者と交換する。 表⚒の授業活動の例は、読み手のスキーマの構築を重 視したものであるが、この授業活動では、もう一つの大 きな要素が含まれている。それは、実際に和歌を味わう 学習活動に先立ち、与えられたスキーマからそれぞれの 学習者が何を考え、さらに他の学習者との間でその考え を交換するという課題が与えれている点であり、すなわ ち Step⚒と Step⚓がこれにあたる。この課題は、外国 語教育では pre‒reading 課題と称されるもので、アク ティブラーニングとして考えてみたい授業形態の一部で ある。

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⚓ 読み手のモーティベーションを高める課題 3-1 Pre‒reading の課題 読みの作業に入る前に、内容に関する大まかな情報を 提供し、読み手に期待感を与え、さらに読もうとするこ とへのモーティベーションを高めること。これがスキー マを構築することの狙いである。このスキーマの構築に ついては、外国語科の文部科学省の検定教科書やサイド リーダーのテキストでは、タイトルや写真・挿絵により 何らかの形で提示されている場合がほとんどである。 外国語科の教科書やサイドリーダーに限らず、読んで その内容を理解することを中心とした国語科の場合でも 同じことが言える。現代文、古典に限らず、教材として 提示された内容については、学習者は必ずしも日常の読 みの言語生活において無意識に構築しているスキーマを 持つことは少ない。したがって、単元の最初には、たい ていタイトルや写真・挿絵があり、学習者にスキーマの 構築を促す工夫がなされている。 にもかかわらず、タイトルや写真・挿絵を利用して、 学習者のスキーマ構築に十分に配慮されている授業は少 ない。これが、読むという学習活動が受け身的な活動に なる要因である。そしてこれが重なり、bottom‒up の 活動が中心になるにつれ、ますます学習者にとって読む 授業は偏り、学習者の授業活動への関心は薄まるばかり になる。 しかし、国語科の教科書を含めて、外国語科の教科書 あるいはサイドリーダーをよく見ると、まとまったもの を読むような内容を扱う単元には、ある種の工夫がされ ていることに気付く。それぞれの単元の最初には、ほと んどの場合、特徴的な課題が設定されている。図⚑を見 たい。 これは中学校外国語用文部科学省検定教科書である一 冊からの引用である。この単元のタイトルは「Speech and a Game」であり、下の部分にアメリカ、ワシント ン特別区にあるジェファーソン記念堂と、それを背景に した満開の桜の花の写真が掲載されている。 この単元の読みの活動に入る前に、学習者がスキーマ の構築を促す役目となるのが、この写真である。学習者 はこの写真を見ながら、このページのタイトルの下に提 示されている課題、「授業のはじめに、一枚の写真を使っ て Show and Tell7)のスピーチをします。さくらは何を

紹介しているのでしょうか。」に取り組むことになる。 この課題の意図は何か。目的は何か。 教室内で行われる読みの活動は、ある意味では不自然 で作為的である。私たちの日頃の言語生活における読み と比較すると、二つの点で、はなはだ遊離し異質である。 先ず、私たちの日頃の読みには、積極的に読みたいと いうモーティベーションが伴う。ある事件の続報が気に かかるので新聞記事を見る、友人と計画している旅行先 の情報を集めたいのでガイドブックを見る、地球の温暖 化について調べたいので関係の書籍を読む。これらには 全て、読むことに対する読み手のモーティベーションが 伴う。一方、教室の読みのために提供される教材には、 読みたいという積極的なモーティベーションはない、あ るいはあったとしても少ない。教材として学習者に一方 的に与えられているからだ。 次に、教室を形成している集団も作為的である。まと まって教えるために無理やり組織されたグループであ る。これも問題である。ある事件の続報が気にかかるの で新聞記事を見る場合では、おおよそ、事件について興 味を持つ仲間が他にいて、その人にはその人の予想があ り、読み手にはそれとは違った予想があるのかも知れな い。どちらの予想が的中しているのか。それを確かめる のもモーティベーションを高める要素になる。計画して いる旅行先の情報を集めたいのでガイドブックを見る場 合もそうである。旅行に一緒に行く人が他にいて、一緒 に計画を練っているなら、読むことへのモーティベー ションがより高められる。 以上のように、読むことへのモーティベーションとい う点からは、この⚒点で教室内での読みは現実からはな はだかけ離れている。 この現実離れしている教室内での読みを、少しでも母 語の言語生活での読みに近づけ、読み手のモーティベー ションを高めようとしているのが、図⚑にある課題、「授 業のはじめに、一枚の写真を使って Show and Tell のス ピーチをします。さくらは何を紹介しているのでしょう か。」になる。このようにして、実際に学習者が読みの 作業に入る前に与えられる課題を pre‒reading 課題と呼 ぶ。

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3-2 Pre‒reading 課題の意図と目的 ESL、あるいは EFL の学習環境に関わらず、読みは 言葉の学習に中心であるべきである。というのは、信頼 のおける情報を求める場合、読みは有効な手段であるか らだ。実際、インターネットがこれほどまでに発達した 現代の社会において、読みによる情報の入手は他のメ ディアに頼るより、ますます重要になった。 読みによる情報の入手の重要性は、一般の社会生活に おいてだけではない。学業の分野においては、ことさら である。高等教育における専門分野の情報の入手では、 どれほど効率よくこの作業ができるかが、決定的な要素 となる。公的な教育の場では、多くの時間が読みの学習 活動に充てられるのはこのためだ。 それほど重要な読みの作業に関わらず、学習者には読 みの活動にはなかなか積極的に取り組もうとしないのが 現状である。それは、話す活動や書く活動と比較する と、読む活動や聞く活動は、どうしても受け身にならざ るを得ないからである。外国語の学習における読みの学 習を、より母語での読みの活動に近づけ、学習者がより 積極的に、より高いモーティベーションを持って読む課 題に取り組めるように考えられたのが、いわゆる「⚓段 階の読み」8) の学習方法である。 母語においては、私たちは様々な理由で書かれたもの を読もうとする。例えば、旅行書を読むときには、ある 地を訪れたいと思うからであり、それが動機である。ま た、私たちはその旅行書を読みながらいろいろなことを 考える。例えば、このホテルは高すぎるので、他の適当 なホテルはないか、他に観光地はないか、など考えなが ら読む作業を進める。さらに読み終わった後では、とも に旅行を計画している他の人と、情報を交換するであろ う。そのように考えると、日ごろの母語の読みにおい て、読む前、読んでいる最中、そして読んだ後の⚓つの 段階で、私たちが無意識にしていることを、外国語の読 みの活動では通常しない。この⚓つの要素を外国語の読 みの学習のなかに帯活動として、作為的に取り入れよう とする試みが、⚓段階の読みの課題設定である。 この⚓段階の読みの課題の設定では、読む前の課題を pre‒reading の 課 題、読 ん で い る 最 中 の 課 題 を during‒reading の課題、そして読んだ後の課題の設定 を post‒reading の課題と呼ぶ。 Pre‒reading の課題の意図は、通常はモーティベー ションのない外国語での読みの課題を前にしている学習 者に、母語での読みと同じような意識を持たせることで ある。そして、外国語での読みに、より積極的に取り組 ませることを目的にしている。 3-3 Pre‒reading の課題の例 Pre‒reading の課題の例は図⚑にみられる、「授業の はじめに、一枚の写真を使って Show and Tell のスピー チをします。さくらは何を紹介しているのでしょうか。」 である。学習者はジェファーソン記念館を背景にした満 開の桜の写真を見て、さくらがこれからしようとしてい るプレゼンテーションの内容について想像をたくましく するであろう。この pre‒reading の課題はおおよそ表⚓ のようなステップを踏む。 表⚓ Pre‒reading での学習者の取り組みの内容 Step⚑ 写真を見て、さくらのプレゼンテーションの内 容を想像する。 Step⚒ 想像した内容について、⚔人のグループの中で 意見の交換をする。そのなかで誰が考えたこと が、これから読み、さくらのプレゼンテーショ ンの内容として最も、それらしいかを話す。 Step⚓ 各グループの代表者は、最もふさわしいと考え た内容をクラスの前で発表する。 各グループではさまざまな意見が出るだろう。学習者 Aは、さくらがホームステイ先で訪れたワシントン特別 区のことについて話すと思うかも知れない。学習者B は、桜は日本だけでなく、アメリカでも育てられていて、 それが毎年美しく開花していることについて話すと思う かも知れない。学習者Cは、さくらが友達が住むアメリ カの春について話すと思うかも知れない。学習者Dは、 背景にある建物の名前となっているジェファーソン大統 領についての話だと思うかも知れない。そしてこのなか で、どれがさくらのプレゼンテーションに近いかを、討 論することになる。次に、グループの代表者はグループ の意見をクラス発表することになる。 このような手順を経て、各グループの意見が出そろう と、それぞれの学習者は、それでは一体、さくらのプレ ゼンテーションの内容は、どのグループ考えた内容に近 いのか、と興味津々となるであろう。この段階で、学習 者に初めてこのページの本文を黙読させると、どうであ ろう。どのグループの意見がさくらの話す内容なのか (あるいは近いのか)を見極めようと、学習者は読みの 活動に積極的に従事するであろう。 ここでの pre‒reading の取り組みは以上のようになる であろう。

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⚔ 学習スタイルから見たスキーマの提示 4-1 学習スタイルとは何か Pre‒reading の課題設定は、読む活動に入る前に、学 習者に教材の内容に対するスキーマを与え、読むための モーティベーションを高めるという点で、外国語の授業 だけでなく、日本語、あるいはその他の科目でも重要な 学習的な効果が期待できる。 ここではスキーマを与える方法について、学習スタイ ルという観点から考察を加えたい。学習者が新たな情報 に接したときに、これを理解しようとする方法は、学習 者によって同じではない。日常、私たちは新しい情報を 五感を通して認知する。視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚 の⚕つであるが、学習の場では、おもな知覚方法として 体覚、触覚、視覚、聴覚が挙げられる。学習者はこれら を駆使して学習活動に従事するが、その人によってどの 知覚方法が自分に合っているのかは一律ではない。また これは男女によっても、発達段階によっても同じではな い。 さらに、一人の個人についても、その人がたまたまお かれた環境や状況によっても異なる。例えば、精神的あ るいは身体的な一時的な要素によって異なる。心配事が あるとき、あるいは身体的な苦痛のもとでは、普段は、 聴覚だけで十分な情報を処理できる人も、聴覚だけでは なかなか情報を処理できない。したがって、補足的にこ れ以外の方法で、例えば視覚を通して情報を理解しよう とすることもある。あるいは、これとは正反対の場合 の、学習者もいる可能性もある。 これを学習スタイルは学習者によって一様ではない、 と表現する。体覚とは、野外活動、劇、パントマイム、 ロールプレイなど、身体の活動により行われる。触覚と は、ものを書いたり、描いたり、模型作りをしたり、実 験など、実際に学習者が手ずから教材とかかわることに より行われえる。言いかえればハンドオンラーニングで る。視覚とは目を通してされ、聴覚とは耳を通して行わ れる。 また、学習スタイルには、体覚、触覚、視覚、聴覚の ほか、場独立性、場依存性の要素を含めることもある。 さらに、個人で学習する方がその人の性格に合っている のか、あるいはグループ学習がふさわしいのか、などの 要素も含めることもある。 場独立性とは、与えられた情報のある特定の部分への 分析能力が高いタイプの人のことで、例えば、新たな音 楽に接して、それを構成する音符を思い浮かべるタイプ の人で、場依存性とは、これとはちがいそのリズムの軽 快さや、声楽であれば、その詩に心を動かされるタイプ の人のことである。 個人で学習する人は、単独で課題の解決に取り組もう とする人のことで、グループ学習の傾向のある人は、同 じ学習スタイルを持った仲間と共同して取り組むのを好 む人のことである。 注意したいことは、学習スタイルとは学習者それぞれ が、生来持って生まれたものであり、ある学習者を他の 学習と比較し、それを基準に優劣をつけるものではな い。それより、学習スタイルという概念の重要な点は、 学習者はさまざまな方法で、与えられた情報を理解しよ うとする、というのが学習スタイルの基本的な考え方で ある。 4-2 スキーマの提示の方法と学習スタイルとの関係 読みの学習に入る前に、学習者がスキーマを持つ重要 性は先に述べたが、ここでは学習スタイルの視点に立っ てスキーマの提示の方法について考えたい。 学習スタイルの観点からは、学習者は、体覚、触覚、 視覚、聴覚を通して新たな情報を理解する。日常の言語 生活においては読みの作業に入る前に、人はおもに視覚 を通してスキーマを構築しすることになるが、教室内で の学習活動として学習者は、視覚だけでなく聴覚を通し てスキーマを構築する。聴覚とは教師からの言葉による ものであり、視覚とは目を通して得られるもので、文章 や写真・挿絵などである。 図⚑の例では、課題として与えられている文章課題 と、視覚で得られるジェファーソン記念堂と満開の桜の 写真により、学習者はスキーマを構築する。もちろん、 これらの視覚の情報だけでなく、これらを利用した教員 からの聴覚的な情報も与えられる。これら聴覚と視覚を 通した情報が重なって、学習者はスキーマを描くことに なる。 聴覚からの情報だけでも十分だと思われるが、やはり 教室内という作為的な環境での読みでの、学習者のモー ティベーションを高めることを目的として、学習効果の 視点から聴覚と視覚の両面からの提示がされている。こ の理由を、学習スタイルの視点からは次のように説明す ることができるであろう。 学習者は生来、自分にふさわしい学習スタイルを持っ ている。スキーマを形成するのに、学習者のなかには、 聴覚で与えられるよりも、視覚を通して与えられるほう が、自分の学習スタイルに合っている人もいる。また、 その逆の学習者もいるかも知れない。また、一人の学習 者についても、一時的な環境の変化で、生来持っている と考えられている学習スタイルにも変化が生じることも ある。 さらに、教室内の学習者すべてが視覚的、あるいは聴 力的な健常者とは限らない。あるいは、通常は視覚的、 聴力的な健常者であっても、一時的な体調の体調の不良 から、そうではない場合もある。

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スキーマの提示の方法については、学習者に与えられ る読む文章の内容によっても、何が効果的なのか一概に 言うことは困難である。文章の内容が具体性の高いもの か、あるいは抽象的なものによっても異なる。抽象的で 論理の展開が中心となる読み物であれば、学習者には内 容をより良く理解できるように、より具体性の高い情報 を与える必要があり、そのためにはそれなりの情報の提 供方法を考えねばならない。時には、視覚、聴覚以外の 学習スタイルの要素を考慮することも、併せて考える必 要もあるかもしれない。 大切なのは、教室という恣意的な場面での読みの活動 では、いかにスキーマを構築させるのかが重要であり、 通常の場合とは異なる、多方面からの情報提供の方法を 学習効果の点から模索することになる。 4-3 学習者の主体性を促す Pre‒reading の活動例 「⚓段階の読み」での Pre‒reading の課題は、学習者 にスキーマの構築を促すのが目的であり、またその方法 として、学習方法の観点からは、教員は聴覚だけでなく 視覚も利用することが重要である。 ここでは、pre‒reading の課題のなかで、スキーマの 構築だけでなく、読みの作業に向けてさらに学習者の主 体的で積極的な関与を引き出すことを目的にして、どの ような活動があるのかを考えたい。 学習者の主体的で積極的な学習活動への活動、すなわ ち端的に言えば、最近の「アクティブラーニング」9) いうことになる。この言葉は、初等教育から高等教育に おいて、これからの公教育の方向付けを知る上で、キー ワードとなる。 図⚑を例に取り、3-3 では pre‒reading の課題として の意義を説明した。そして、この課題の取り組む実際の 内容を表⚓で提示した。この表におけるアクティブラー ニングの要素は、Step⚒と Step⚓に集約されている。

Step⚒では、Step⚑で個人が考えた Show and tell の 内容について自由に話した結果を、グループ単位で持ち 寄り意見交換される。さくらのプレゼンテーションとし て考えられる最も近い内容は、グループのなかのどの生 徒が考えた内容なのかを各グループでまとめ、Step⚓で それをグループの代表がクラス発表する。そして、各グ ループからの意見がでそろうと、それぞれの学習者は当 然、「それでは実際、さくらはプレゼンテーションで何 を話すのだろうか」と思いを巡らせるに違いないだろ う。ここで学習者は初めて、用意された読みの活動に従 事する。 以上のようなステップを踏むことにより、無味乾燥な 活動に陥りやすい読みの活動が、私たちの母語の読みの 活動にかなり近づくことになるのではないかと思われ る。 さて、学習者のアクティブラーニングを促すこの Step⚒と Step⚓には、学習スタイルの視点に立つと、 さらに次のような要素が含まれている。 4-1 では、学習スタイルとは何かを説明した。この概 念には、それぞれの学習者が新たな情報に接し、理解を 深める過程で、一人で課題を解決しようとするのか、あ るいは他の学習者と意見の交換をしながら、すなわちピ ア・グループで課題の解決をしようとするのか。これも 学習者によってスタイルが異なるが、この考え方も学習 スタイルの一つに含まれる。 個人学習を好むのか、あるいはグループ学習を好むの か。この学習スタイルも個人によって、傾向があること は知られているが、学習者の視点から考えると、さまざ まな学習スタイルを考慮した課題の設定をすることで、 単調になりがちな学習活動に刺激を与えることになる。 他方から考えると、学習者にとって自分の意見を他の人 と交換することは、学習の雰囲気を変える上でも効果的 であろう。 最近は高等教育でも授業中での私語する学際が多くみ られ、あちこちで問題としてあげられる場合が多い。私 語すること自体は良くないことであるが、自分の考えを 誰かに伝えたいのは人間の性の一つかもしれない。私語 することを教員として注意しつつ、他方では、ピア・グ ループでの意見の交換の機会を提供するのも、ここはこ れで十分意味のあることである。 ⚕ ICT を利用した pre‒reading 課題の与え方 5-1 ICT としての IWB の pre‒reading 課題への応用

IWB(Interactive White Board)10) によって代表され

る ICT(information and communication technology) の教育現場への導入は、最近の教育テクノロジーの利用 形態を加速度的に変化させている。すでに、学習者にス キーマの構築を促すための pre‒reading 課題の重要性は 述べたが、ここでは pre‒reading の課題を実施するさい の、最近よく利用されている ICT 関連の機器を使った 教育の効果について考察したい。 図⚑の例では、pre‒reading 課題は、課題文とジェ ファーソン記念館の桜という、視覚による提示が行われ ることで、学習者のスキーマの構築が促されている。し かし、スキーマの構築の基本となる、学習者の知識やこ れまでの経験は、必ずしも学習者の間では均一ではな い。図⚑でのジェファーソン記念館と桜の写真が、学習 者に均一のスキーマを構築できないと、もし教員が判断 すれば、さらにそれを補う情報を探し、これを提供する ことになる。 もし、このような場合、教員は予め準備しておいた視 覚資料を IWB で提示することができる。(あるいは、

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サーチ・エンジンを使って、その場で検索し提示するこ とも可能である。)これまでとは異なり、情報の取得、 保存、そしてその提示に必要な作業が、IWB 及びその 周辺機器を利用することで大変簡素化される。情報も静 止画像だけでなく、動画も簡単に入手し、保存し、さら に提示できる。また、提示する情報も最新のものが、い つでも入手できるのが最近の ICT の特徴である。ICT とその周辺の機器を利用して、読みの作業に入る前のス キーマの構築を促すための、文化的や社会的な補足的な 説明を、イラスト、写真・挿絵、さらに図表などを利用 して随時に提示することができる。 5-2 学習者の「主体的・対話的で深い学び」を支える ICT 中学校学習指導要領(平成29年告示)を見ると、「主 体的・対話的で深い学びの実現」11) が中心的な教育理念 であることが分かる。日々の教育活動でこれを具体化す る方法として ICT、そしてその周辺機器がどのように 寄与するのか。これについて pre‒reading の課題を例に 取って考察したい。 教育活動における主体性とは、学習者が発散性の高い 課題の解決に取り組む過程で培われ、強化される学習的 な要素である。発散性の高い課題解決に学習者が取り組 むには、その教育環境を整備することが前提である。こ の教育環境が ICT とその周辺機器であり、これに学習 者が自由にアクセスすることで、「主体的な学び」が育 成される。主体的な学びとして、図⚑の pre‒reading 課 題を例に取ると、表⚔のような活動の流れが想定できる。 表⚔ ICT を利用した pre‒reading 課題の学習者の活動の流れ Step⚑ 写真のなかの白い建物はアメリカのジェファー ソン記念館であることを教えられる。 Step⚒(個人学習) 与えられた情報に基づき、記念館の設置された 場所やその周辺の様子についての情報を得る。 Step⚓(個人学習) Step⚒で得られた情報や、写真の中の「桜の花」 をキーワードにして、サーチ・エンジンからさ らに情報を集め、それに基づいて、さくらの Show and Tell のプレゼンテーションの内容を想 像する。 Step⚔(グループ学習) 想像した内容をグループで話し合い、グループ としての意見をまとめる。代表者が IWB とその 周辺の機器を利用してクラスで発表する。 Step⚕(個人学習) 読みの活動を始める。 以上の活動を分析すると次のようになる。Step⚒と Step⚓で学習者は発散性の高い課題の解決に向けて、 LAN システムにリンクした通信機器を利用して、情報 の取集に従事する。そしてそれをまとめ、グループ内で 紹介するための資料を作成する。資料の作成と保存は学 習者個人の情報端末で行う。 Step⚔では、学習者はグループ内で持ち寄った情報を 交換する。そしてグループの意見をまとめ、それを代表 者が発表するための資料を機器の上で作成し、保存す る。まとまった考えを、通信機器とリンクされた IWB を利用して他のグループに発表する。この Step⚔では グループ活動が中心となり、「対話的な」学習が可能と なる。 Step⚕では学習者はグループ活動から離れて、個人学 習に戻る。いくら「対話的な」学習が大切だといっても、 こればかりでは弊害も生まれる。学習スタイルの観点か らは個人学習の要素も必要であるし、学習は個人で行う のが基本であり、個人の学習で得た方法や知識を補足 し、より高めるのがグループ学習の根本である。個人の 学習なしのグループ学習では、逆に他の人の情報にすが ろうとする、いわば受け身的な学習者を作ることにな る。 グループ学習、個人学習の観点で学習の過程を考える と、一般的には学習は個人学習で始まり、それに基づい てグループ学習が続き、再び個人学習に戻り学習作業は ひと段落する。 ⚖ まとめ 本稿では、読みの学習の導入段階で学習者が取り組む pre‒reading 課題の意義を、スキーマの構築という観点 から考察した。また学習者が均等にスキーマを構築する ための情報の提示の方法を、学習スタイルという視点か ら考えた。これらを踏まえ、個人学習及びグループ学習 の意義を、学習者の主体的・対話的で深い学びを支える 教育方法の一つとして捉えた。 学習者が教員とピア・グループ、あるいは情報を提供 する媒体と相互的に情報を交換し、これを自らの積極的 な学習活動に結び付ける方法として、ICT 及びその周 辺機器は、これまでにない可能性を持っている。 教育の場に ICT 及びその周辺機器の導入が加速度的 に進んでいるが、実際の運用に関しては、学習活動のど の段階でこれらの機器を利用するのか、またそれはどの ような学習理論が背景にあるのか。これらを、しっかり と考えたうえで ICT の活用を促したい。 ここでは、外国語、国語に関わることなく、一般的に 読みの授業の入る前の段階における ICT の活用の意義 を、その背後にある学習理論を見据えながら考察した。

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Notes 1)「話す」:従来から外国語の学習は、「聞く」「話す」「読 み」、「書く」の⚔領域から成っていたが、このうち「話 す」については平成29年公示の中学校学習指導要領、及 び平成30年公示の高等学校学習指導要領では、「やりと り」と「発表」の分野に分けられた。 2) Function words:機能語と呼ばれる語彙グループで、指 示代名詞、人称代名詞、前置詞、接続詞、冠詞、助動詞 などで、それ自体では意味を持たない語彙のことであ る。これらは、通常、単独で使用さえることはない。 3) Content words:内容語と呼ばれる語彙グループで、名 詞、動詞、形容詞、副詞、疑問詞で、それ自体で意味を 持つ語彙のことである。これらは、通常、単独で使用さ れることができる。 4) Schema:ス キ ー マ と 呼 ば れ る。ス キ ー マ は content schema(内容スキーマ)と formal schema(形式スキー マ)に分類される。通常、スキーマは内容スキーを指し、 本文でも内容スキーマとして扱う。 5) この文は、読むという作業で、スキーマがどれほど重要 な役割を果たしているかを確認するために、しばしば引 用される一節である。あえて日本語に改めると以下のよ うになるだろう。「その手順は、実際はいたって簡単で す。先ず、その makeup に従って、違ったグループに分 けてください。もちろん、どれだけたくさんのことをす るかにもよるんですが、一山さえあれば十分でしょう。 設備がなければ、どこかほかの場所へ行かないといけま せんが、それは次に考えることです。もし、設備があれ ば、それで準備は万端です。あまりやり過ぎないように することが大切です。つまり、一度にたくさんのことを し過ぎるより、少なめの方が、いいですね…」(本稿著 者訳) 6) Bottom‒up の読み:読みや聞く作業において、情報に 含まれる一言一句を対象にして進める方法を bottom‒up と 呼 び、反 対 に 内 容 の 概 略 を 読 み 進 め る 方 法 を top‒down という。片方に偏ると弊害が生じる。通常の 母語の読みでは、この両方を適宜使い分けながら作業を 進める。

7) Show and tell:おもに英語を母語とする圏内で初等教育 の課程で見られる学習活動。児童・生徒が家から持って きた品物について、クラスでプレゼンテーションする活 動。日本の英語教育でも最近、盛んに取り入れられ、中 学校の教科書に本文図⚑の例のように教材化されている ことが多い。 8) ⚓段階の読み:本文で紹介した pre‒reading のほか、 while‒reading と post‒reading の⚓つからなる。While‒ reading では学習者に、さらに読み進めたいという気持 ちを持たせるような課題の設定がされる。「次には何が 起こるとおもいますか」など。Post‒reading では、通 常の母語による読後のように、感想を述べたり、物語 だったら教材の内容が終わった後での、話の展開などに ついて自由に意見の交換が行うような課題が設定され る。いずれも学習対象としての読みを、日常の読みに近 づけようとする学習活動である。 9)アクティブラーニング:文部科学省の HP では、次のよ うに定義されている。 「教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学 習者の能動的な学習を取り入れた教授・学習法の総称。 学習者が能動的に学習することによって認知的、倫理 的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力 の育成を図る。発見学習、問題解決学習、体験学習、調 査学習等が含まれるが、教室内でのグループディスカッ ション、ディデート、グループワーク等も有効なアク ティブラーニングの方法である。」

http: //www. mext. go. jp/ component/ b_menu/ shingi/ toushin/__icsFiles/afieldfile/2012/10/04/1325048_3.pdf #search=%27%E6%96%87%E9%83%A8%E7%A7%91% E5%AD%A6%E7%9C%81 + %E3%82%A2%E3%82%AF %E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%96%E3%83%A9% E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%82%B0 + % E5%AE%9A%E7%BE%A9%27 (as of 2019/02/18) 10)IWB:IWB は、日本では一般に「電子黒板」と称され ているが、この呼び方は、この機器の構造的な特徴を捉 えたもので、機器の特徴的な機能や役割を十分には伝え るものではない。したがって、本稿では、英語で一般的 に称される IWB と呼ぶことにする。 11)「主体的・対話的で深い学びの実現」:「中学校学習指導 要領(平成29年告示)」第⚑章「総則」第⚓「教育課程 の実施と学習評価」⚑として「主体的・対話的で深い学 びの実現に向けた授業改善」というタイトルで章立てさ れ、詳説されている。また、「資質・能力の育成に向け て、生徒の主体的・対話的で深い学びの実現を図るよう にする」が、各教科、すなわち「国語」、「社会」、「数学」、 「理科」、「音楽」、「美術」、「保健体育」、「技術家庭」、「外 国語」における 第⚓「指導計画の作成と内容の取扱い」 の⚑(⚑)に見られる。 参考文献

Cook, V. 1996. Second language learning and language teaching 2nd. Edward Arnold: London.

Okita, Y. 2015. To learn how to teach English. Kwansei Gakuin University Press: Nishinomiya.

Kinsella, K. “Understanding and empowering diverse learners in ESL classrooms” in Reid (ed.) 1995. Reid, J. (ed.) 1995. Learning Styles in the ESL/EFL

Classrooms. Heinle & Heinle Publishers: NY.

大喜多喜夫(2000)『英語教員のための応用言語学』昭和堂 大喜多喜夫(2004)『英語教員のための授業活動とその分析』

昭和堂

石田穣二訳注(1999)『新版伊勢物語』角川書店 (2012)『New Horizon English Course 3』東京書籍

文部科学省(2017)『中学校学習指導要領(平成29年告示)』 東山書店

参照

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