「動き」の修正に関する事例的研究(2) -インターバルランニング習得過程における動きの発生論的考察-
14
0
0
全文
(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第59巻 第1号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.59,No.1. 平成20年8月 August,2008. 「動き」の修正に関する事例的研究(2) −インターバルランニング習得過程における動きの発生論的考察−. 後藤 俊輔・佐藤 徹*. 北海道教育大学函館枚 保健体育教室 *北海道教育大学岩見沢枚 スポーツ教育課程. ACaseStudyonCorrectionofSportMovement(2) −MovementGeneticalConsiderationonAcquisitionProcessofIntervalRunninginHurdleRace− GOTO Shunsuke andSATO Toru† DepartmentofPhysicalEducation,HakodateCampus,HokkaidoUniversityofEducation. *DepartmentofSportEducation,IwamizawaCampus,HokkaidoUniversityofEducation. 概 要 本研究は,ハードル選手を対象にキネステーゼ・アナロゴンを用いた予備運動の実施による動きの修止過 程を観察したものである。被験者はインターバルを3歩で走ることができない状態にあった。そこでキネス テーゼ・アナロゴンを用いた予備運動を実施した。結果として被験者の技術的欠点は改善されたことから, 処方した予備運動は,アナロゴンとして有効に作用したと言える。. Ⅰ 研究目的 ハードル走において,インターバルランニング. 得することができない者も存在する。それはイン ターバルランニングという動きが,その前後動作 であるハードリング動作やスタートから1台目ま. はハードリング動作と同様に競技力を高める上で. での加速能力等と関連した動きであることが理由. 重安な技術と解されている。そのため,指導現場. として考えられる。よって,インターバルランニ. ではスピード感のあるインターバルランニングを. ングを改善するためにはインターバルランニング. 選手に習得させるため,走力の強化やインターバ. のみならず,その動きに関連した,前後の動きを. ルを縮めてハードル走を行う「ショートインター. 含めて全体的に改善する必要があると言える。. バル法」等,様々な練習が行われている。. 本研究は,発生運動学の立場からインターバル. だが,選手の中にはこうした練習を行っても自. ランニングをうまく走ることができない選手を対. 己の技能に合致したインターバルランニングを習. 象に,技術の修正の方策を考えるものである。そ. 109.
(3) 後藤 俊輔・佐藤. こで今回は事例として高校生のハードル走を取り 上げた。. 徹. た。. 被験者の動きの良否については,「月刊陸上競 技」の「トレーニング講座」の中で記載されてい るハードル走の指導方法17)19)や関岡が執筆した. Ⅰ 研究方法 1. 被験者について. 被験者には,北海道立函館C高等学校陸上競技 部に所属し,ハードル競技を専門とする女子選手 を選んだ。. 被験者は7年間,専門的に陸上競技を行ってき た。100メートルハードル(100mH)については 中学2年生から本格的に取り組んでいる。. 競技成績は中学校時代には目覚しい活躍は見ら. 「陸上競技の方法」16),日本陸上競技連盟編集 の「実践陸上競技トラック編」12)等を基に検証 を行った。. 技術的欠点抽出後その結果を基に予備運動を考 案した。その際,被験者からインターバルランニ ングについてどのような動きの感覚で走っている のか等の質問を何点か行った。. 予備運動は二段階に分けて実施した。各段階に おいて実施回数等の量的な基準は設けておらず,. れないものの,高等学校では2006年度北海道高等. 被験者の主観的視点等から動きの理解(運動感覚. 学校新人陸上競技大会において準決勝進出(記録. 的理解)ができたと判断した段階で次の予備運動. :17秒49)を果たし,翌年の2007年度北海道高等 学校陸上競技選手権大会でも準決勝進出(記録:. 16秒53)を果たしている。タイムも1秒以上短縮 させている。. タイム短縮の一要因として,先行研究3)で行っ. へと移行した。 これら運動の外的経過はすべてビデオカメラに より収束した。 2)考察方法. 結果の考察は,予備運動前後の撮影動画を基に,. たハードリング動作の修正指導が考えられる。. 金子6)が提唱している発生論的運動分析の手法を. ハードリング動作の修正により,ハードルを越え. 用いて行った。その際,被験者の主観的視点の変. た後も,ある程度高いスピードを保つことができ. 容と,動きの外的経過の変化の照らし合わせにつ. るようになったことが記録に結びついていると言. いても行っている。. える。 だが,こうした動きの改善にも拘わらず,被験. 者は2007年度の北海道陸上競技選手権大会におい て,7台目のハードルを越えるまでしかインター バルを3歩で走ることはできなかった。つまり,. Ⅱ 結果 1.技術的欠点の抽出. 予備運動の考案・実施にあたって,被験者の現. 7台目のハードル以降のインターバルは5歩で. 状の動き(図1:4台目から5台目まで)から技. 走っていた。そこで,被験者の競技力を向上させ. 術的欠点の抽出を行った。. るためには,インターバルランニングの改善が必. 関岡のハードル間のランニングは「短距離走の. 要と判断し本研究に取り組んだ。. 疾走フォームと原則的には同じ」16)という論述か. 2.方法. ら,被験者のインターバルランニングと短距離走. 本研究では被験者の運動経過に見られる技術的. の動き(図2)に類似性があるかどうかの確認を. 欠点から,その改善策としての予備運動を考案し,. 行う必要がある。そこで,両者の動きの比較を行. 実践による効果の検証を行った。. うため,被験者のハードル走の4台目から5台目. 1)予備運動実施までの過程. までの重ね図(図3)を作成した。その際,被験. 予備運動を考案する際に,まず始めに,被験者. 者の身体の上下動を観察するため,ハードリング. の運動の外的経過から技術的欠点の抽出を行っ. 後の接地時における頭部の位置(図3−1−1)を. 110.
(4) 「動き」の修正に関する事例的研究(2). 基準に,地面と平行に直線を引いた。また,歩幅. ①短距離走では,歩幅に均等性が見られるが,イ. の比率を把握するため,接地時の地面を基準に直. ンターバルランニングでは歩幅の均等性が見ら. 線を引いた。. れない. 被験者のインターバルランニング(図3−1). ②短距離走に比べ,インターバルランニングでは. と短距離走(図3−2)の比較から,次の点が動. 身体の上下動が大きく跳ねるように前に進んで. きの差異として挙げられる。. いる. 111.
(5) 後藤 俊輔・佐藤. インターバルランニングの場合,ハードリング. の着地で生じる衝撃を受けながら走らなければな らないため,インターバルランニングの1歩目は 他の2歩に比べ,必然的に小さくなる。この点に ついて宮下は,理想的には短距離走の動きである が「多少疾走が変わることは余儀なくされる」12). とし,その際の歩幅の割合を数値で表した場合,. 「1歩目<3歩目<2歩目」となることを論じて おり,関岡もこれと全く同一の見解を示してい. る16)。 被験者のインターバルランニングの歩幅も2歩 目が最も大きく,次いで3歩目,1歩目の順であ ることから,宮下らが論じる割合と比較しても差. ために現れた動きと推測することができる。この. 異は見られない。だが,被験者のインターバルラ. 動きは短距離走の同局面(図4−2−3)には見ら. ンニングの場合,短距離走に比べ身体の上下動が. れない。. 大きく,「跳ねる」ように前に進んでいるため,. 被験者のように,短距離走に比べインターバル. リズムも「タン,ターン,ターン」と間延びして. ランニングのリズムが遅くなってしまう事例に直. いる。. 面した際,その間題が体力的要因であるのか技術. 関岡は3歩の理想的なリズムについて「タン,. 的要因であるのかの判断を行う必要がある。今回. 夕,夕」と間延びせずに走ることを論じており16),. の事例の場合,被験者は「前半(1∼2台目)は. この点からも被験者のインターバルランニング. 問題なく走ることができるのに,後半になると失. は,短距離走の動きとは類似していないと言える。. 速していく」と語っていることから,インターバ. 2.予備運動の処方. ルランニングをうまく走ることができない原因は. 1)技術的欠点の考察. 被験者の技術的欠点から,インターバルランニ ングを上下動の少ない短距離走の動きに近づける ことが最終的な目標となる。そのため,本章では. 被験者の体力的要因とは考え難い。反対に,「後 半になるにつれ失速していく」という言葉から, 技術的な面に問題がある可能性が考えられる。. 被験者は昨年度,ハードリング動作について修. 上述した技術的欠点を基に予備運動の考案を行. 正3)を行い,踏み切り動作,前傾姿勢に入るタイ. う。. ミング等が改善された。その際,インターバルラ. 筆者は被験者の外的運動経過の観察を行った. ンニングについては特別な練習を行っていない。. 際,技術的問題として挙げた動きを改善すること. だが,「着地と次に続く走運動とが融合」14)され. を目的に,被験者に「もう少しインターバルラン. るインターバルランニングにおいて,自己の技能. ニングのリズムを早めることはできないか」とい. に合致したインターバルランニングのリズムや歩. う質問を行っている。その間いに対し被験者は,. 幅を,前もって運動感覚的に理解していなければ,. 「これ以上リズムを速くしてしまうと,脚が届か. インターバルランニングの先取りが行えないた. ない」と返答している。この言葉からも,被験者. め,修正したハードリング動作の技術を自分の技. のインターバルランニング(図4−1)に見られる,. 能に合致したインターバルランニングに合わせて. 脚を大きく前に振り出し,意図的に歩幅を伸ばす. 活用することが難しくなる。. 動作(図4−1−13)は,「通常の走運動のリズム ではインターバルを3歩で走ることができない」. 112. 被験者は未だかつて10台のハードルすべてを3 歩で走りきれた経験はない。この点からも,被験.
(6) 「動き」の修正に関する事例的研究(2). 者は自己の技能に合致したインターバルランニン. とで運動へと志向が向き,成功体験を体感するこ. グについての運動感覚的理解はできていないと言. とが可能となる。恐怖心などによって,実行しよ. える。. うとしている運動に対し「できる気がしない」と. ちなみに,本論において随所で用いる「理解」. 感じてしまえば,練習に対する意欲は低下してし. とは,頭による理解,即ち学習等を通じて知識を. まう。そのため,「できる気がする」状況を作る. 高めていく営みとは一線を画する。. ことが重要なポイントとなる。. 運動学習の場合,自分が行う運動をその運動の. 銭谷19)も論じていることだが,上述のように. 外的経過から理解することはできたとしても,そ. ハードル走の練習で一般的に用いられる正規ハー. れを実行に移すことができない例も少なくない。. ドルは恐怖心を誘発させやすい。そこで,その代. それは運動を行う際には,自己の身体のみが感じ. 用としてぶつけてもケガをしないソフトハードル. ている運動感覚が存在することにある。われわれ. を用いることで,忌避感情を消失させることが可. はこの運動感覚を身体を通じ,動きとして理解す. 能となる。. ることで連動を可能にしている。そのため,この. ②予備連動の考案. 運動感覚が理解できていなければ身体をその運動. 技術的欠点の考察から予備運動の目的は,自己. に合わせて使うための方法がわからないため,運. の技能に合致したインターバルランニングの運動. 動を実行に移すことは難しい。したがって,ここ. 感覚的理解にあると言える。. でいう理解とは,「動きとしての理解」「運動感覚. 被験者は自己のインターバルランニングを改善. 的理解」あるいは「身体的了解」という意味であ. するために,ハードル走の練習中,通常時の走運. る。. 動のリズムで走ることを何度か意識したことがあ. よって,予備運動では自己の技能に合致したイ ンターバルランニングの運動感覚を動きとして理 解することが課題となる。 2)予備運動について. ると述べている。だが,問題点の解決には至らな かった。. 被験者の動きが改善されない原因に意識の差異 化現象がある。ハードルを越える際,われわれの. (丑予備運動の留意点. 意識はハードルという外の対象物に向けられる。. 予備運動を実行するにあたって,その状況の設. そのような場合,自己の身体に意識を向けること. 定が非常に重要になってくる。ハードル走を例に. はできなくなる。金子はこれを「カンとコツの相. とると,試合用の正規ハードルを使った練習では,. 互隠蔽原理」7 ̄p・29)と説明してい. ハードルに脚を引っ掛けて転倒してしまう等の失. コツというのは「身体中心化の作用」7 ̄p・24),つ. 敗を経験することも少なくない。こうした経験は,. まり,自己の身体へと向けられる意識である。対. その後の運動の実行に支障をきたす恐れもある。. して,カンというのは「身体を取り巻ぐ情況に動. 三木は,動きの習得の過程において「成功体 験」11)が重要になることを説いている。それは成. 功体験を積み重ねることによって,「運動感覚意. る。ここで言う,. 感志向を投射する作用」7 ̄p・25),言い換えれば, 自分の身体の外に向けられる意識のことである。. 被験者の場合,ハードルにのみ意識が向けられ. 識が充実」されることにあると言う。よって,失. てしまうため,インターバルランニングの際に,. 敗が尾を引き,成功体験を感じることができない. 自己の身体に意識を向けることができなかった。. ような練習環境では選手の運動を促発することは. それが,練習中に意識しても技術が改善されな. 難しい。そこで金子は練習環境の設定について,. かった理由である。. 「なじみの地平」6 ̄p・246)の有効性を説いている。. 「何となく『嫌な気分はしない』など,その道動 世界を感情的に忌避しない」6 ̄p・418)状況を作るこ. したがって,被験者の意識の対象をハードルか ら自己の身体に切り替える必要がある。そこで, 正規ハードルに代えてミニハードルを使用した. 113.
(7) 後藤 俊輔・佐藤. 撒. ハードル走を予備運動として考案した。被験者に. き(図3−1参照)に見られた身体の上下動は抑. とってミニハードルを用いたハードル走は,「走. えられ,歩幅にも均等性が見られる(図6−1)。. り抜けるようなイメージ」で行うことができる運. この点から,予備運動によって被験者のインター. 動であるため,自己の身体へ意識を向けやすい。. バルランニングは,短距離走(図3−2参照)の. また,自己のこれまでの経験や学習の結果が後 の学習に影響を与える「学習の転移性」5)の面か. 動きに近づいたと言える。. また,他の変化としてインターバルランニング. ら,ミニハードル走実施後に,ソフトバーで作成. の1歩目が挙げられる。予備運動の実施によって. した40cmハードル走,同様にソフトバーで作成. 被験者の1歩目は予備運動前に比べ歩幅が伸びて. した正規ハードルを用いたハードル走(以下正規. いる。. ハードル走)を実施し,被験者がミニハードル走. 歩幅が伸びた要因として水平速度の向上が挙げ. で習得したインターバルランニングに合致した. られるが,これはインターバルランニングの前段. ハードリング動作の習得を試みた。. 階の動きでもあるハードリング動作による影響が. 3.結果. 大きい。. 1)全体経過における動きの変容. 予備運動の実施によって被験者の動きは図5 (3∼4台目)のように修正された。インターバ. ハードリング動作において,踏み切り方向が鉛 直方向に近ければ近いほど,推進力でもある水平 方向の速度は減衰してしまうため,着地後の1歩. ルランニングからハードリング動作へと移行する. 目は小さくなる。予備運動の実施によって被験者. 際の局面(図6)を比較すると,予備運動前の動. のインターバルランニングの1歩目は伸びた。こ. 114.
(8) 「動き」の修正に関する事例的研究(2). の点からも,被験者のハードリングはより水平に. は,インターバルランニングの改善以外にハード. 近い失速の少ない動作に変容したと言える。. リング動作の滞空時間の短縮にも繋がったという. 2)ハードリング動作の変容. 被験者のインターバルランニングから,ハード. ことが分かった。. また,踏み切りに入るための予備動作にも差異. リング動作も水平に近い動きに変容したと言え. が生じている。予備運動前では,ハードリングに. る。そこで,被験者の予備運動前後のハードリン. 入る際,身体を鉛直方向へ引き上げるため,踏み. グ技術についての比較を行った。. 切り1歩前の「沈み込み動作」(図8−1−10∼12). 被験者の踏み切り局面を示したものが図7であ る。この図から被験者の踏み切り方向が予備運動. が予備運動後(図8−2−10∼12)に比べて深いこ とが特徴的である。. を通じ,水平に近い動きになったことが分かる(図. 予備運動前では踏み切り1歩手前から踏み切り. 7−2)。踏み切り方向を水平に近づけることにつ. に移行する際,脚が大きく振り出されてしまう動. いてエツカー2)は失速を防ぐこと以外に,滞空時. き(図4−1参照)が見られた。だが,予備運動. 間が短縮されることを指摘している。この点から,. 後の同局面(凶9−12∼14)においてこのような. 被験者が習得したスピード感のある流動的な動き. 振り出し動作は見られず,短距離走(図4−2参照). −−. 115.
(9) 後藤 俊輔・佐藤. 徹. の動きに類似していることが観察できる。この点. した重ね図である。外的運動経過から,予備運動. からも踏み切り動作が水平方向に近づいたと言え. 前に比べ,インターバルランニング1歩目の歩幅. る。. が伸びていること,そして,それに伴って,イン. 以上の点から,予備運動を通じて被験者のイン ターバルランニング並びに,ハードリング動作は 改善の方向に向かったと言える。. ターバルランニング全体の歩幅の割合に均等性が 出てきたことが観察できる。. また,インターバルランニング時の身体の上下 動(図11)も予備運動前に比べ小さいことから,. 予備運動の実施によって技術的欠点であった「跳 Ⅳ 考察 1.予備運動の考案. 1)ミニハードル走の実施におけるキネステー ゼ・アナロゴンの養成 ミニハードル走の目的は「自己の技能に合敦し. ねる」ような動きは消失し,目的であった「自己 の技能に合致したインターバルランニング」が発 生したと言える。. ミニハードル走において被験者は,予備運動前 は苦しそうに走っていたインターバルを,予備連. たインターバルランニングの習得」にあることか. 動では流れるようなスピードで走っていた。そし. ら,筆者はミニハードル走実施前の被験者に「走. て,本数を重ねる毎に「以前に比べてインターバ. り抜けるようなイメージ」で運動を遂行するよう. ルが近く感じる」「脚が速く回る感じがある」など,. に助言を与えている。. 自己の運動感覚について語る言葉も増していっ. 助言の「走り抜けるようなイメージ」とは,身 体の水平移動を意識し,自己の最も速いスピード. た。 このような選手が語る自己の運動感覚を表現し. で走るイメージを表現した言葉である。被験者も. た言葉というのは,主観的で科学的根拠が無いと. 納得し実行に移していた。そして,この感覚を意. いう理由から無視されてしまうケースが少なくな. 識して遂行された運動経過が図10である。. い。だが,言語によって運動感覚を表現するとい. 図は被験者のミニハードル走の3∼4台目を表. 116. う行為は,自身の運動経過について「自己観察」9).
(10) 「動き」の修正に関する事例的研究(2). が行われていなければできることではないので,. 被験者の躊躇無く走る姿を見て筆者は,イン. 指導者にとってそれら言葉は,外的運動経過の観. ターバルランニングのイメージは掴めたかどうか. 察だけでは難しい選手の動きの定着具合を知るた. について尋ねた。その間いに対し被験者は「短距. めの手掛かりにもなる。. 離走のように走っていくイメージで動けばできる. 佐野は「体験の世界をただ漠然としたその技の 『感じの世界』として認識するにとどまるならば,. と思う」と述べたことから,自己の身体に合致し たインターバルランニングの類似運動感覚(キネ. 運動学習の実践を実り多きものとすることは難し. ステーゼ・アナロゴン)が養成されたと判断し,. い」15)とし,運動感覚に意識を向けることが運動. 次段階の予備運動でもある40cmハードル走へ移. 学習において重要な意義を担っていることを説い. 行した。. 2)40cmハードル走の処方の意義. ている。 この点について金子も「質的な向上を目指して. 修正を加える前提には,自分のさばいた技の運動. ①40cmハードル走の目的. 40cmハードル走の目的は,ミニハードル走で. 経過をしっかり把握できなければならない」4)と. 得た,「自己の技能に合敦したインターバルラン. し,自身が行った運動経過について自己観察を行. ニング」を基に,そのインターバルランニングに. うことが,運動修正において重要であることを指. 繋がるハードリング動作の基礎図式を習得するこ. 摘している。. とにある。. 被験者の「脚が速く回る感じ」「インターバル. ミニハードル走時の被験者のハードリング動作. が近く感じる」という言葉は,予備運動前のイン. (図12−1)は,越える障害の高さが低いことも. ターバルよりもスピード感があり,動きの差異を. あり,ほぼ水平に近い状態で前方へと進んでいる。. 感じることができたことを表現している言葉と捉. また,高いスピードを意識したことにより,踏み. えることができる。こうした言葉からも,被験者. 切り位置が遠いことが特徴として挙げられる。こ. は予備運動前と予備運動中の運動感覚の差異を自. の動きは,短距離走(図12−2)に非常に類似し. 己の身体を通じて理解していることが分かる。. ている。. また,被験者は反復練習を重ねるにつれて徐々. 本来,ハードルリング動作は高い障害を越える. に細かな点まで言語で表現することができるよう. 技術として用いられるため,踏み切り動作時に身. になっていった。この表現について金子は「その. 体をハードルの高さに合わせて鉛直方向に引き上. つどに異なるモナドコツに出会いながらも,同じ. げる動作を行う必要がある。一般的に,この鉛直. 感じの類似性が確信される」6 ̄p・274). 過程と論じて. 方向への引き上げ動作を抑え,踏み切り角度を少. いる。この点からも,被験者は反復練習の中で自. しでも水平方向に近づけることが,水平速度を高. 己の動きの類似性を感じ取り,習得を目指す動き. めるためのポイント17)と解されている。だが,. のコツを統覚化していったと考えられる。. 水平方向へ跳ぶことを過度に意識してしまうこと. 117.
(11) 後藤 俊輔・佐藤. は,踏み切り時の腰が抜けた姿勢を誘発させる要. 徹. ②40cmハードル走の実施による動きの全体. 因にもなりかねない3 ̄p・99)。そのため,まずはハー ドリング技術の基礎図式を習得し,その動きの意. 的把握. 図13が40cmハードル走の3∼4台目を表した. 味を理解することが必要となる。上述のように. 重ね図である。この図からハードリング動作時の. ハードル走では,ハードリング動作時に失速をい. 水平移動とインターバルランニングの歩数の割合. かに防ぐかが重要なポイントとなる。よって,ハー. が,ミニハードル走時の動き(図10参照)と非常. ドル走の走形態を短距離走に近づけることを目標. に類似していることが観察できる。. とするならば,ハードリング動作は,ダイソンが. インターバルランニングについても,身体の上. 提起しているランニングフォームが変容された動. 下動(図14)が小さく,この動きもまたミニハー. き1)であることが望ましいと言える。. ドル走の動きに類似していることから,ミニハー. ミニハードル走では通常時の走運動に近いイ. ドル走の実施によって養成されたキネステーゼ・. メージで走ることができるため,「高いスピード. アナロゴンにより「学習の転移」が行われたと言. を維持しながらハードルを越える感覚」は養うこ. える。. とができるのだが,障害が低すぎるため,「ハー. 続いてハードリング動作(図15)であるが,そ. ドルの高さに合わせて身体を引き上げる感覚」は. の特徴として踏み切り後の局面(図15−1∼3)に. 養うことができない。そこで,40cmハードルを. おいて身体の引き上げ動作が行われている点が挙. 使用し,「ハードルの高さに合わせて身体を引き. げられる。また,ハードリング動作による移動距. 上げる感覚」を養うことが40cmハードル走の目. 離(図13−1∼7)もミニハードル走時(図10−1. 的となる。. ∼7)とさほど違いが見られないことから,被験. その際,イメージはミニハードル走で得た「走 り抜ける感覚」であることから,ハードルをソフ トバーで作成し,走り抜けるイメージで運動を遂 行しても,恐怖感を感じない状況を設定した。. 者はミニハードル走の実施によって養成された 「高いスピードを維持しながらハードルを越える 感覚」を基に,40cmハードルを越えることによっ て「ハードルの高さに合わせて身体を引き上げる 感覚」を養成することができたと言える。. 118.
(12) 「動き」の修正に関する事例的研究(2). いた。更に,ハードルの高さについて「特に問題. なく対応できた」「この感じで正規ハードルを跳 べば,うまく走ることができるかもしれない」と 語っている点からも,40cmハードル走において も,ミニハードル走時の運動感覚に近いイメージ で動くことができていたと解釈することができ る。 2.自己観察による動きの修正過程(正規ハード. こうした動きが発生した要因として,被験者が ミニハードル走の実施の中で,ハードル走の全体 的な流れをゲシュタルトとして理解していたこと が考えられる。ハードル走の場合,ハードリング. ル). 2つの予備運動実施後,被験者は正規ハードル 走の練習へと移った。. 被験者は前段階の予備運動実施後,「この感覚. 動作とインターバルランニングが交互に行われ. なら正規の高さであってもいけそうな感じがあ. る。そのため,ハードリング動作からインターバ. る」と語っていた。その言葉通り,正規ハードル. ルランニングへの切り替えし,インターバルラン. 走(図6−1参照)においても技術的欠点とされ. ニングからハードリング動作への切り返しの局面. た動きは消失している。. を一連の流れとして理解することが必要となる。. だが,被験者は最初からこの動きができたわけ. 譲原はこの点について,「運動全体はその要素. ではない。正規ハードル走の練習開始直後は自己. の総和以上のものであり,我々の目標はあくまで. のイメージ通りに走ることができなかった。失敗. も運動全体の把握,分割したものの中にはないも. を繰り返す中で,少しずつ動きを修正し,最終的. のの把握であり,習得である」18)とし,動きの全. に図6−1の形へと変容した。. 体像からでしか得ることができないものがあるこ とを論じてい. る。まさに,ハードリング動作とイ. 修正の際,被験者は自己の問題点を言葉で表し ている。例えば,「(踏み切り位置が)近くて上に. ンターバルランニングの「繋ぎ」の局面の運動感. 跳んでしまう」「もう少し(踏み切りが)遠い方. 覚は,全体像からでしか知ることができない感覚. がスピード感があると思う」「(インターバル)ラ. であり,自己の身体へ意識が向けられやすいミニ. ンニングのリズムが崩れた」といった類の言葉で. ハードル走でなければ習得は難しいと言える。. ある。. また,ハードリング動作時の身体の引き上げ動. その後,その言葉を基にスタートの位置を下げ. 作が生じた要因には,前年度のハードリング動作. るなどの工夫を行っていた。これは金子の述べる,. の修正があると考えられる。ハードリングを修正. 「感覚運動性イマージュ」8)における運動の「感じ」. したことにより,障害を越える動きの基礎図式は. と実際の運動の「感じ」とを比較しながら運動を. でき上がっていたものの,ハードル走の全体的な. 形成化していく過程である。. 流れについては運動感覚的に理解できていなかっ. 「感覚運動性イマージュ」とは,予め保持して. たため,次のインターバルランニングに繋げるこ. いた運動経験によって運動投企された像のことを. とができなかったと推測することができる。それ. 示している。被験者はこの感覚運動性イマージュ. が今回の予備運動を実施したことにより,ハード. と実際の運動とを比較し,それを基に自己の動き. ル走の全体的な流れを理解することができたた. の修正を実行していたと考えられる。. め,図13のように動きが改善されたと言える。 被験者は主観的な印象として,「(スピード感は) ミニハードル走時とさほど違いはない」と語って. このような行動は予備運動前の被験者には見ら れなかった。その理由は,自己の技能に合致した ハードル走の運動感覚的理解の不足によるものと. 119.
(13) 後藤 俊輔・佐藤. 撒. 思われる。今回の修正過程のなかで,自らの動き. この状態で目標とする運動の習得に励むことは,. の感覚を理解することで,被験者は自己観察能力. 上記で述べた動感(運動感覚能力)の分化が行わ. も高くなっていった。それよって被験者は,目標. れるためコツが掴みやすい。. とする動きの修正に一層積極的に取り組むことが. 本研究でも明らかであるように,誤った動きで あってもそこには必ず何らかの意味が存在する。. できたと言える。. 指導者がその動きに内在している意味を理解する ことによって,「学習者との感覚運動的コミュニ. Ⅴ 結語. ケーション」13)を行うことができるようになる。. 本研究では,ハードル走においてインターバル. この感覚運動的コミュニケーションを形成するこ. ランニングをうまく走ることができない選手を対. とで,選手の運動感覚意識にも近づくことができ,. 象に,その運動経過から技術的欠点を抽出し,類. 目的とした運動修正が可能となる。. 似運動感覚(キネステーゼ・アナロゴン)を養成. より高度な技能を習得するためには,当然この. するための予備連動を処方し,目標とする連動の. ような動きの修正が必要となる。形だけに固執し. 形成化を図った。. てしまい,そこにある意味合いを無視してしまっ. その結果,被験者の動きは大きく改善された。. ては,合理的な技術の習得には繋がらない。指導. 被験者の運動感覚は予備運動の実施によって変容. 者はこうした点にもっと注意を向ける必要がある. したと言える。それは,被験者の予備運動時の外. だろう。. 的運動経過からだけではなく,それら運動に対す. 以上から,動きの修正・習得過程において目標. る取り組み方,発する言葉からも見て取ることが. 像のキネステーゼ・アナロゴンを身体に養成する. できる。こうした動きの変容には,被験者の身体. ことは,有効な方法と結論付けることができる。. 内に養成された目標とする運動のキネステーゼ・ アナロゴンが関係している。 参考文献. 被験者は予備運動を反復することで少しずつコ ツを把握していっている点から,被験者の身体内 で三上の論じる「受動的志向性(意識)から能動 的志向性(意識)への転換」10)が起こっていたと 言える。これは別言すれば,金子の論じる「『内 観的反復』による習得」6 ̄p・377). を指しており,「運. 動感覚能力によってその日標像との差を確認しな がら,私のコツやカンの統覚を志向する」6 ̄p・377) 過程である。この過程では,自己観察を行いなが ら反復練習を実施することによって一回毎の運動. の動きの感じを再認化することができる。その繰 り返しにより「運動感覚意識の分化」6 ̄p・377)が促. され,動きのコツが徐々に統覚化されていく。 目標とする動きに必要な運動感覚を,予備運動 を通してキネステーゼ・アナロゴンとして形成す ることで,目標像に対して運動投企が行えるよう になる。能動的キネステーゼを土台とする運動投 企は,自己の身体へと意識が向けられているため,. 120. 1)ダイソン:金原勇ほか訳(1972)陸上競技の力学. 大修館書店:東京,p.137. 2)エツカー:安井年文・青山清英訳(1999)基礎から の陸上競技バイオメカニクス.ベースボールマガジン 社:東京,p.83. 3)後藤俊輔(2006)「動き」の修正に関する事例的研究 −ハードル指導におけるキネステーゼ・アナロゴンの 活用−.北海道教育大学紀要(教育科学編),58. 4)金子明友(1974)体操競技のコーチング.大修館書 店:東京,p.276. 5)金子明友・朝岡正雄(1990)運動学講義.大修館書 店:東京,p.101. 6)金子明友(2002)わざの伝承.明和出版:東京. 7)金子明友(2005)身体知の形成(下).明和出版:東 京. 8)金子一秀(1990)運動修正における知覚の構造化. スポーツ運動学研究,3:p.10. 9)マイネル:金子明友訳(1981)スポーツ運動学.大 修館書店:東京,p.123. 10)三上肇(2003)コツの自覚に関するモルフォロギー 的考察.スポーツ運動学研究,10:p.15..
(14) 「動き」の修正に関する事例的研究(2). 11)三木四郎(2005)新しい体育授業の運動学.明和出 版:東京,p.119.. 12)R本陸上競技連盟(1990)スポーツQ&Aシリーズ 一笑践陸上競技トラック編−.大修館書店:東京, p.115. 13)佐藤徹(1996)運動の形.子どもとかたち−いま問 われている教科教育における「型」と「形」−.北海 道教育大学教科数青学研究図書編集委員会,p.98−99. 14)佐藤徹(2005)体育教師養成のための運動観察能力 の発達位相に関する実証的研究.科学研究費補助金研 究成果報告書,基盤研究(C)(2),p.32.. 15)佐野淳(1988)運動学習における「運動の全体的把握」 に関するモルフォロギー的考察.スポーツ運動学研究, 1:p.40. 16)関岡康雄(1990)陸上競技の方法.迫和書院:東京. p.108.. 17)冨田学(2006)トレーニング講座高校編−ハードルー.. 月刊陸上競技5月号.講談社:東京,p.154. 18)譲原晶子(1988)運動メロディーの発生に関するモ ルフォロギー的考察.スポーツ運動学研究,1:p.44. 19)銭谷満(2004)トレーニング講座高校編−ハードルー. 月刊陸上静技 5月号.講談社:東京,p.165.. (後藤 俊輔 函館校大学院生) (佐藤 徹 岩見沢校教授). 121.
(15)
関連したドキュメント
ロボットは「心」を持つことができるのか 、 という問いに対する柴 しば 田 た 先生の考え方を
これはつまり十進法ではなく、一進法を用いて自然数を表記するということである。とは いえ数が大きくなると見にくくなるので、.. 0, 1,
児童について一緒に考えることが解決への糸口 になるのではないか。④保護者への対応も難し
手動のレバーを押して津波がどのようにして起きるかを観察 することができます。シミュレーターの前には、 「地図で見る日本
(自分で感じられ得る[もの])という用例は注目に値する(脚注 24 ).接頭辞の sam は「正しい」と
遠くに住んでいる、家に入られることに抵抗感があるなどの 療養中の子どもへの直接支援の難しさを、 IT という手段を使えば
以上の基準を仮に想定し得るが︑おそらくこの基準によっても︑小売市場事件は合憲と考えることができよう︒
今日のセミナーは、人生の最終ステージまで芸術の力 でイキイキと生き抜くことができる社会をどのようにつ