231 4 号(4 月)2020〕 第 2 日目(午前)第Ⅲ会場
アミノ酸・ビタミン B
6恒常性に関与する
新奇ビタミン B
6結合タンパク質
伊 藤 智 和
(名古屋大学大学院 生命農学研究科) ビタミン B6ビタマーのうち活性型補酵素であるピ リドキサールリン酸(PLP)は,アミノ酸代謝を中心と した多様な生体反応に関与し,過不足なく生体内に維 持される必要がある.PLP の恒常性は,合成,リサイ クル(サルベージ) ,輸送など複合的なメカニズムが 関わり,ビタミン B6を生合成できない動物などでは, これらメカニズムのいずれかの異常はてんかんなど重 篤な影響をおよぼすことが知られている. 近年の研究から,バクテリアから哺乳類に広く存在 するビタミン B6結合タンパク質(YggS/PROSC タンパ ク質ファミリー)が,細胞内のビタミン B6の恒常性維 持に必須な役割を担うことが明らかとなってきた. 我々は以前より,E. coli の当該タンパク質の欠損(yggS 欠損)が,イソロイシンやバリン,ケト酸,CoA 代謝 など,様々な代謝系を撹乱することを報告してきたが, その要因はよくわかっていなかった.2016 年,ヒトに おける YggS タンパク質のオーソログをコードする PROSC 遺伝子が,早期発症性ビタミン B6依存性てん かんの原因遺伝子であることが同定された.同病患者 の脳脊髄液では,PLP レベルの低下や,PLP 依存性酵 素の活性低下が疑われる代謝物の変動が認められ,患 者由来の線維芽細胞では PLP レベルが著しく上昇する ことが報告された.これに関連し,E. coli の yggS 欠損 株がピリドキシン(PN)に高感受性であることや,菌 体内にピリドキシンリン酸(PNP)を特異的に蓄積する こと,シアノバクテリアの YggS オーソログである PipY 欠損株が,ȕ-chloro-D-alanine やD-cycloserine など の PLP 酵素阻害剤に高感受性であることなど,ビタミ ン B6やアミノ酸代謝異常を示唆する多くの表現系が報告されていた.
我々は,YggS/PROSC タンパク質ファミリーの欠損が, 酵母やサルモネラ菌などにおいても PNP の蓄積を誘導 することや,E. coli の yggS 欠損株で認められるフェノタ イプの多くが PNP から PLP への変換を触媒する PNP オ キシダーゼを過剰発現させることによって消失すること を見いだした.E. coli において,セリンヒドロキシメチ ルトランスフェラーゼをコードする glyA と yggS の二重 欠損株が合成致死性を示すことなどから,yggS 欠損株 におけるグリシン開裂系(GCV)の機能低下が疑われ,こ の構成因子であり PLP 依存性酵素であるグリシン脱炭酸 酵素(GcvP)が PNP によって競合的に阻害されることを 明らかとした.GCV 開裂系はグリシンの異化とともに, C1 代謝に重要な 5, 10-methylenetetrahydrofolate の合成に も関わる.現在までの解析結果は,E. coli の yggS 欠損 株において認められた多様な代謝系の変動が,PNP の異 常蓄積によって惹起されている可能性を示唆した.本発 表では,我々の研究成果を中心に,本タンパク質ファミ リーが担うビタミン B6・アミノ酸代謝制御機構について 紹介したい. 【略歴】 2009 年,名古屋大学大学院生命農学研究科 応用分子 生命科学専攻 博士課程修了.以後,京都大学化学研 究所 博士研究員,名古屋大学大学院生命農学研究科 助教を経て 2016 年 6 月より現職.アミノ酸代謝関連 酵素の構造機能相関などについて研究している. 2 -Ⅲ- S1 図 1 ビタミン B6 ピ リ ド キ シ ン リ ン 酸(PNP), ピ リ ド キ サ ー ル リ ン 酸 (PLP),ピリドキサミンリン酸(PMP),およびそれぞれ の脱リン酸体.PLP は様々なアミノ酸代謝酵素の補酵素 としてはたらく.