• 検索結果がありません。

ヒステリシス減衰型動吸振器の最適設計

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "ヒステリシス減衰型動吸振器の最適設計"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)ばね論文集 第 65 号(2020). 69. ヒステリシス減衰型動吸振器の最適設計 * 浅見敏彦 **,水川凱斗 **,山田啓介 ***. Optimal Design of a Hysteretically Damped Dynamic Vibration Absorber Toshihiko Asami, Yoshito Mizukawa and Keisuke Yamada. In the optimization of dynamic vibration absorbers(DVAs), it is generally assumed that the damping force changes in proportion to the velocity of the object; this damping is called viscous damping. However, many DVAs used in practical applications are made of polymeric rubber materials having both restorative and damping effects. This polymer material is considered to show a hysteretic damping force that is proportional to the displacement rather than the velocity of the object. Despite the widespread use of such hysteretically damped DVAs, there are very few studies on their optimal design, and yet the design formula of the well-known general viscously damped DVA is presently used for the design of this type of DVA. This article reports the optimal solution of this hysteretically damped DVA. For generality, it is assumed that the primary system also has structural damping that can be treated as hysteretic damping. Two optimization criteria, namely the H∞ optimization and stability maximization criteria, were adopted for the optimization of the DVA. For these optimization criteria, exact algebraic solutions were successfully derived. Key Words : Vibration Suppression, Hysteretically Damped Dynamic Vibration Absorber, Optimal Design, Exact Algebraic Solutions. 1.緒 言. 衰させることを動吸振器の設計目標としている4)..  動吸振器(DVA : Dynamic Vibration Absorber)とは,制.  動吸振器の減衰特性には,数学的に最も取り扱いの容易. 振対象となる物体(これを主系と呼ぶ)の振動を抑えるた. な粘性型の線形減衰が仮定されていた.この粘性減衰型動. めに,その物体に取り付けられる小型の振動体のことをい. 吸振器の最適設計に関しては,上記の三つの最適化規範に. う.1928 年に Ormondroyd と Den Hartog によって1)初め て減衰のある動吸振器の最適化手法が提案されて以来,多. 対して,主系にも同様に粘性減衰を有する場合の一般解が H∞最適化を除くすべての規範に対して代数解の形で求め. くの研究者によって動吸振器の最適設計が試みられてきた.. られている2).. これまでに提案された動吸振器の最適化規範は,H∞ 最適.  一方で実用に供されている動吸振器の多くは,ばねと. 化,H2 最適化,および安定度最大化の三つに分類できる2). H∞ 最適化とは最も早く提案された規範であり,主系の共. ダッシュポットおよび質量の組合わせではなく,高分子材. 振点の高さを最小に抑えることを目的とする.この規範は 現在では H∞最適化規範と呼ばれる.次に提案された最適. 子材料の減衰特性は,減衰力が物体の運動速度に比例して. 化規範は,不規則励振を受ける主系の全周波数域にわたる. るヒステリシス減衰型の特性を有していると言われている.. 運動エネルギーを最小化するために考案された3).このこ. ところが,このヒステリシス減衰型動吸振器の最適設計に. とは,主系の周波数応答関数の下の二乗面積を最小化する ことで達成でき,これには H2 最適化規範という名前が付. 関する研究5),6)は少なく,実際にはそれと等価な粘性減衰 型動吸振器の最適設計の計算式を用いて設計されているの. けられている.これら二つの規範は,いずれも強制的な励. が現状である.. 振を受ける振動系の定常応答に注目した設計法であるが,.  本研究は,このヒステリシス減衰型動吸振器を最適設計. 安定度最大化規範では主系の自由振動応答を最短時間で減. するための設計式を提案しようとして始めたものである.. 原稿受付日 2019 年 11 月 6 日 * 日本ばね学会 2019 年度秋季講演会 ** 兵庫県立大学 University of Hyogo *** 関西大学 Kansai University. 料である防振ゴムと補助質量で構成されている.この高分 変化する粘性型の減衰ではなく,物体の運動変位に比例す.

(2) 70. 一般性を期すために,主系にもヒステリシス型の構造減衰.  ここでω1 とω2 は,次のように定義される無減衰固有角. があると考えて研究を行った.その結果,H∞ 最適化と安. 振動数である.. 定度最大化規範に対しては代数的厳密解を得ることに成功 し,本論文において報告する.. . ・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2).  なお,Fig. 1 に記された記号ηは損失係数(loss factor). 2. 解析モデルと無次元パラメータの定義. と呼ばれる無次元パラメータであるが,式(1)のように定.  Fig. 1 と Fig. 2 は,本研究で取り上げるヒステリシス減. 義された減衰比ζとは,励振振動数比λ=1 においてη=2ζ. 衰系と一般粘性減衰系のそれぞれの解析モデルを示してい る.これらの図において,m1−k1 系が制振対象となる主系,. の関係があることが知られている.  ここで,Fig. 1 に示されたヒステリシス減衰系の解析モ. m2−k2 系が動吸振器を表している.いずれの図においても. デルについて注意をしておく.ヒステリシス減衰振動系を. (a)が主質量に直接外力が作用する力加振系,(b)が振動. このような複素ばね要素によって表現するとき,系には必. 系の基礎が揺動する変位加振系となっている.主系に減衰 がないとき(Fig. 1 ではη1=0,Fig. 2 では c1=0)には,力. ず不安定な極(特性根)が現われることを指摘しておかな. 加振系であっても変位加振系であっても,動吸振器の設計. を見出すさまざまな方法が提案されている7)が,本研究で. パラメータの最適値に差は生じない.しかしながら,減衰. は,その中で逆フーリエ変換を用いてヒステリシス減衰系. 系に対しては両者に差が生じることから,これら二通りの. の安定な自由振動応答解を得る方法を採用する.. 場合について動吸振器の最適解を探索する必要がある.そ の結果分かったことであるが,Fig. 1 に示されたヒステリ. ければならない.自由振動が発散することを避け,収束解. 3. ヒステリシス減衰と一般粘性減衰の基本的な違い. シス減衰系の場合には,図(a)の力加振系と図(b)の変位.  最初にヒステリシス減衰と粘性減衰の違いを明確にして. 加振系の間で動吸振器の最適設計値には差を生じない.こ. おく必要がある.Fig. 3 は単一の質量で構成されるヒステ. のことは Fig. 2 に示された一般粘性減衰系との大きな違い. リシス振動系と一般粘性減衰系を示している.いま,これ らの系の質量 m が正弦波変位 x(t)=asinωt を受けるとき,. であると言える.  本研究では,次のように定義された無次元パラメータを 用いて計算を進めて行く.. ばねとダッシュポットによって基礎に伝達される力 FT を. 計算する.仮に,ヒステリシス減衰系の損失係数ηを 0.2, 一般粘性減衰系の減衰比ζを 0.1 とすると,力と変位の間 には Fig. 4(a)と(b)に示すようなヒステリシスループで (1). 描かれる関係がある.このような現象は,正弦的な変動力 と変位の間に位相差があることによってもたらされる.こ のヒステリシスループが描く面積が散逸される振動エネル ギーを表すが,ヒステリシス減衰の特徴として,動作点が ループを周回する速度によってループの形が変化しないこ とが挙げられる.一方の粘性減衰系では,質量の運動速度 が速いほど(言い換えれば,無次元化振動数λが高いほ ど),楕円の面積が増加し,減衰力が大きくなる.逆に, 質量の運動速度,従って振動数がゼロに近づくとき,粘性 減衰はゼロに収束するが,ヒステリシス減衰は同じ大きさ. Fig. 1 Analytical model of a hysteretically damped system subjected to(a)force and(b)motion excitation.. Fig. 2. Analytical model of a viscously damped system subjected to (a)force and(b)motion excitation.. を保ったままである.  Fig. 5 は自動車のサスペンションに使われているゴム ブッシュの荷重・変位曲線を示している8).加振振動数を. Fig. 3 Single-mass vibrator y system:(a)Hysteretically damped system,(b)Viscously damped system..

(3) ばね論文集 第 65 号(2020). 71. 0 Hz から 100Hz まで変化させたときに,ヒステリシスルー. の図は示唆している.. プがほぼ同じ形に保たれており,高分子材料で作られた防.  防振ゴムの持つ非線形特性には特に注意を払わなければ. 振ゴムはヒステリシス型の減衰特性を有していることをこ. ならない.Fig. 5 に示された荷重・変位特性を持つゴムブッ シュは,実は軟化ばね特性を有している.同じ研究グルー プが行った他の実験では,硬化ばね特性を有する防振ゴム の例が報告されている9).Fig. 5 の実験では,このような 非線形性が現われないように,ゴムブッシュに加えられる 変位は極めて微小に抑えられている.変位が大きくなると 楕円の形が歪んでくるし,温度上昇による特性変化も現わ れる.本研究ではこのような非線形特性は考えない.特に 柔らかい高分子材料に見られるクリープ現象についても考 慮しない.. 4. ヒステリシス減衰型動吸振器の最適化設計  H∞最適化規範の評価指標は H∞ノルムと呼ばれる次のパ ラメータである2). (a) Hysteretically damped system. . ・・・・・・・・・・(3). この hmax は共振点の高さを表し,これを最小化すること. が H∞最適化の目標である. その最小値は hmin と表記される. 4.1. 無減衰系に対する最適解  主系に減衰がないときには,Fig. 1 と Fig. 2 に示された 単一質量動吸振器に対して,次のような代数的厳密解がす でに求められている.まず,Fig. 1 のヒステリシス減衰系 に対しては5),6) . ・・・・・・・・・・・・・(4). 次に,Fig. 2 の一般粘性減衰系に対しては6) (b) Viscously damped system Fig. 4 Relationship between input displacement and transmitted force.. (5)  これらの式から計算された無減衰系に対する H∞最適解 は Fig. 6 に示されている.式(4)と(5)に記された最適同 調νopt の差は極めて小さく,この図では 1 本の線のように 見える.また,λ=1 においてζ=η/2 の関係があること から,ζ2opt/2 の値がこの図に破線で示されているが,そ の線はη2opt の線よりも大きな値を示している.さらに, 最小化された共振振幅 hmin については,ヒステリシス減衰 系の方(黒線)が一般粘性減衰系(灰色線)よりも大きく なっている.言い換えれば,ヒステリシス減衰型動吸振器 は粘性減衰型動吸振器よりも制振性能が劣る. Fig. 5 Hysteretic load–displacement relationships for a rubber bush (natural rubber polymer)used in a car suspension) ..  H∞ 規範に基づいて最適に設計されたヒステリシス型と 粘性型の動吸振器が取付けられた系の周波数応答関数が Fig. 7 に示されている.ここでも粘性減衰型動吸振器を有.

(4) 72. する系の方が共振点の高さが低くなっていることが確認で. 4.2. 減衰系に対する H∞最適解. きる.しかしながら, 実用的な質量比の範囲(μ≤ 0.2)では,.  同様にして,ヒステリシス減衰系に対する H∞規範の一. その差は無視できるほど小さい.. 般解が本研究において次のように求められた.この解の導 出手順については,既発表の粘性型動吸振器の場合10)と同. η1=ζ1=0. η ν. じであり,ここでは省略する.. ν η η h ν ζ h. . η. ν. (6) ここで . ζ. Fig. 6 Optimal solutions for hysteretically and viscously damped DVAs attached to an undamped primar y system. μ=0.05. η1=0. (7) . (a) Hysteretically damped system. μ=0.05. ζ1=0. (8)  この解は,Fig. 1(a)に示された力加振系に対して導か れたものである.同図(b)の変位加振系に対してはこれら とは異なる式が導かれるが,その式を計算すると,νopt と. η2opt については上記の式(6)から(8)で計算される値と同 (b) Viscously damped system Fig. 7 Frequency response functions for an undamped primary system with an optimally tuned and damped DVA.. じ値になる.ただし,後述されるように,最小化された共 振点高さ hmin については,上記の式(6)と(8)から計算さ れる値よりは大きな値になる.  式(8)は r2=1−1/h2max で定義される r2 に関する三次方.

(5) ばね論文集 第 65 号(2020). 73. 程式を解いて得られた式であるが,この三次方程式をカル. この図に示されるように,主系の減衰η1 が増加するに従っ. ダノの方法で解くと,実数解が 3 個生じる還元不能の場合. て,νopt は単調に減少し,η2opt の値は単調に増加する.. に陥る.その実数解の一つに我々の欲しい解があるが,そ の実数解には虚数単位の i が含まれる.実数解に虚数単位.  Fig. 9 は式(6)によって最適設計された動吸振器を有す る系の最小化された共振点高さ hmin を表している.この図. が含まれるのを避けるために,ここでは三角関数の三倍角 の公式を利用したビエタの方法によってこの方程式を解い た.その結果,我々の欲しい解は式(8)に示された二つの rmin の式のいずれかに含まれることが分かった.このよう. の(a)は式(6)と(8)によって計算される力加振系の hmin 値を,同図(b)は変位加振系の hmin 値を示している.前者 は 1 以下の値をとり得るが,後者は 1 以下にはならない点 が大きな違いである.その理由は,この後に示される周波. に rmin については 2 種類の計算式が存在していることにな. 数応答関数の形から理解できる.この図から,より大きな. るが,動吸振器の通常の適用領域ではその第 1 式で十分カ. 動吸振器を取付けるほど共振点が低く抑えられていること. バーできる.. が分かる.また,この図においてグレーで記されたμ=0.  主系の損失係数η1 を横軸にとり,適当な質量比μに対 して,式(6)から(8)によって計算された H∞ 最適解を図. の曲線は,動吸振器無しの振動系の共振点高さを表してお り,μ=0.05 の曲線との開きが大きいことから,たとえ小. 示すると Fig. 8 のようになる.上記の H∞最適解の計算式. さな動吸振器であっても,それを取付けることによってか. には計算上の制約があり,μの値を 1 にすると式(8)に示 された パラメータ h1 から h3 の分母がすべてゼロになって. なりの制振効果が期待できると言える.. しまう.よって,Fig. 8 においてはμの値は 0.99 までしか. 図(b)の変位加振系に対する周波数応答関数を示したもの. 計算されていない.この図において,横軸のη1 がゼロの. である.力加振系の Fig. 10 において,縦軸にとられた主. ときのνopt とη2opt の値は式(4)による計算値と一致する.. 系の変位応答は静的変位|f/k1|で除して無次元化されて.  Fig. 10 と Fig. 11 は,それぞれ Fig. 1(a)の力加振系と同. H∞-optimal tuning ratio νopt (a). (a) Force excitation system. H∞-optimal loss factor (b) Fig. 8 H∞-optimal solutions for a hysteretically damped system. (b)Motion excitation system Fig. 9 Minimized resonance amplitudes for hysteretically damped systems.

(6) 74. μ=0.05. η1=0. η1=0. μ=0.05 (a). η1=0. μ=0.05. μ=0.05 (a). μ=0.1. η1=0. μ=0.1. μ=0.1 (b) Fig. 10 Frequency response functions for a damped primary system subjected to force excitation.. μ=0.1 (b) Fig. 11 Frequency response functions for a damped primary system subjected to motion excitation.. いるが,この静的ばね定数には損失係数η1 が含まれてい. 系への振動の揺れ戻しが起こらないからである.. ない.ヒステリシス減衰系では静的な力に対しても減衰力. 5.1. ヒステリシス減衰系に対する最適解の導出手順. が作用することになるので,縦軸をこのように無次元化す.  Fig. 1(a)に示されるヒステリシス減衰を有する主系に. ると,静止状態(λ=0)においても無次元された変位は 1 にはならず,それよりも小さな値になる.そのため,Fig. 10 に示されるように,共振点の高さが 1 よりも小さくなると いう現象が現われる.一方,変位加振系では,振動伝達率の |x1/x0|の値は静止状態において必ず 1 になるので,共振 点の高さは Fig. 11に示されるように必ず1よりも大きくなる. 5. ヒステリシス減衰型動吸振器の安定度最適化設計  安定度最大化設計においては,動吸振器は次の評価指標 を最大化するように設計される4). . ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9).  このΛの値は,最も右側に位置する特性根と虚軸との距 離を表す(Fig. 12).この規範で設計された動吸振器が取 付けられた振動系は,自由振動が最も早く静止するように なる.これは Fig. 13 に示されるように,動吸振器から主. Fig. 12 Characteristic roots of a three-degree-of-freedom vibratory system..

(7) ばね論文集 第 65 号(2020). 75. 取付けるヒステリシス減衰型動吸振器の設計手順を以下に 記す.この系のコンプライアンス伝達関数は,複素数を用 いて以下のように表現される.. . ・・・(16). この式のパラメータμとη1 はどちらも正の実数であり, . これらの値が与えられると,連立方程式(16)は以下の正 の重根をとる. (10). 系の特性方程式は,この式の分母をゼロと置くことによっ て得られる.このとき s=iλの置き換えを実施すると,そ. . の特性方程式は次式となる.. (17) この重根は動吸振器の最適同調条件と最適損失係数を表し. . ・・・・・・・・・・(11). 演算子 s の係数は複素数であるので,式(11)は以下のよ. ていることから,添字“opt”が付けられている.こうし て特性方程式が重根をとるとき,特性根の二乗値は次のよ うな単一の値をとる.. うに整理できる. ・ ・・・・・・・・・・・(12). . . ・・・・・・・・(18). ここで ・・(13). . この二乗特性根は複素平面上では第三象限に存在する.そ れゆえ,その偏角は 180° から 270°または 540° から 630°の. この特性方程式は s2 に関する二次方程式であるので,そ. 領域にある.. の解は以下で与えられる.. 次に,式(18)の平方根をとると. . (14) ・. . ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(19). が最大値をとることが証明されている.式(14)は,根号. 今度は,特性根 s1 と s2 の偏角は,それぞれ 90°から 135° と 270°から 315°の領域にある.したがって,s1 と s2 は複. 内の値がゼロになるときに重根をとるので. 素平面内の第二象限と第四象限に存在する.. 既研究4),13)により,特性方程式が重根をとるときに安定度. . ・・・・・・・・・・(15).  複素数の平方根もまた複素数であるので,これらの特性 根は以下のように表現できる. . 式(13)を式(15)に代入すると. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(20). 式(19)と(20)を等値すると . μ=0.1, ζ1=0 optimization 2 optimization Stability maximization υ. 2. A 20. ・・・・・・・・・・・・・・・・(21) 0 および B 02. 0 であることから,式(21)の解は次の. ように表される. . ・・(22). 最後に,s1 は複素平面の第二象限に,s2 は第四象限に存在. Stability. することから,それらの座標は  . ・・・・・・・・・・・・・・・・・(23). ここで Fig. 13 Free vibration response of an undamped system with DVAs designed by different optimization criteria.. (24).

(8) 76. 5.2. 粘性減衰系に対する最適解. と最適損失係数η2opt の値を 主系減衰η1 に対して表示した.  同様にして,粘性減衰系に対する安定度規範解は. 4). ものである.これらの最適値が主系の損失係数η1 に対し て変化するようすは Fig. 8 と似ているが,変化の仕方は それよりもずっと大きい.. . ・・・・・・・・・(25). この最適解は,特性方程式が共役二重複素根を持つ領域に 加えて,異なる二重実根を持つ領域においても成立するこ とが確認されている.  一般粘性減衰系においては, 主系の減衰比が増加すると, 特性方程式は異なる二実根を持つようになる.まず,特性 根が共役二重複素根をとるときには,その座標は以下のよ うに表される. . ・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(26). ここで Fig. 14 Stability-maximized solutions for damped DVAs attached to an undamped primary system. . ・ ・・・(27). この式において,座標 y1 は平方の形で表されていること に注意されたい.  次に,特性方程式が異なる二重実根を持つときには,そ れらの座標は次のように表される.. (a) Stability-maximized tuning ratio νopt.. (28) 系の安定度は s2 によって決定される.ζ1 → 1 に対しては, μ=0 のときを除き,s1 は 0.5 に収束するが,s2 は 0 に収束する. 5.3. 無減衰系と減衰系に対する最適解の表示  Fig. 14 は,無減衰系に対して最適化されたヒステリシ ス減衰型動吸振器と粘性減衰型動吸振器の安定度規範の解 を示している.この図を Fig. 6 と比較すると,安定度規範 の解においては,ヒステリシス減衰系の最適同調解と粘性 減衰系の最適同調解が明確に異なることと,最適損失係数 と最適減衰比の値がかなり大きいことが分かる.また,こ こでも粘性減衰型動吸振器を有する系の方がヒステリシス 減衰を有する系よりも安定度の値が大きく,高性能である ことが分かる.  Fig. 15(a)と(b)は,式(17)で計算される最適同調νopt. (b) Stability-maximized loss factor η2opt Fig. 15 Stability-maximized solutions for a hysteretically damped DVA attached to damped primary system..

(9) ばね論文集 第 65 号(2020). 77. 5.4. 特性根の軌跡と安定度. 系では逆に増加する.それゆえ,粘性減衰系では過減衰と.  安定度規範で最適化された動吸振器を有するヒステリシ. いう状況が現われるが,ヒステリシス減衰系では系の減衰. ス減衰系の特性根の軌跡は式(23)と(24)から計算するこ. がどれだけ大きくなっても過減衰にはならない.. とができ, その結果は Fig. 16(a)に示されている.同様に,.  これらの特性根と虚軸(x=0)の水平距離は最大化され. Fig. 16(b)は式(26)と(27)から計算された粘性減衰系に. た安定度を示しており,その値Λmax が Fig. 18 に示されて. おける特性根の軌跡である.両者の基本的な違いは,ヒス. いる.ヒステリシス減衰系においては,最大安定度は主系. テリシス減衰系では複素根が共役になっていないことと,. 減衰の増加および動吸振器の質量の増加と共に大きくなっ. 実根が存在しないことである.このことは,ヒステリシス. ていくが,粘性減衰系においてはζ1 が 0.5 を越えるとこ. 減衰系の一般解が実数では表現できないことによる.また,. の関係が逆転する.すなわち,主系と動吸振器の質量比μ. Fig. 16(a)から明らかなように,ヒステリシス減衰系にお. が大きくなるほど系の安定度が低下するという現象が現わ. いては実部が正の複素根が存在する.これは運動方程式に. れる.このことは,Fig. 17(b)において,ζ1=0.5 の曲線. 不安定な解が存在することを意味しているが,物理現象で. がほぼ鉛直に立っていることからも伺える.すなわち,ζ1. は発現しない.このことは,Fig. 1 の解析モデルが自由振. が 0.5 を超えると,μが増加するに従って特性根と虚軸の. 動に対しては不完全であることを意味する.. 水平距離が減少している.粘性減衰系では,主系減衰が臨.  Fig. 17 は,Fig. 16 に示された特性根のうち,第二象限. 界減衰比(おおよそ 0.5–1.0)を超えると,特性根は複素数. に存在する特性根のみを示している.Fig. 17(a)と(b)を. から実数に変化する.このとき,特性根の座標は式(27). 比較すると,主系減衰の増加に伴い,粘性減衰系の固有角. から式(28)に急に切り替わる.これが,Fig. 18(b)におい. 振動数(図の虚軸の値)は減少するが,ヒステリシス減衰. て曲線の勾配が不連続に変化している理由である.. (a) Hysteretically damped system. (b) Viscously damped system Fig. 16 Trajectory of characteristic roots when the stability index is maximized (overall view of the roots).. (a) Hysteretically damped system. (b) Viscously damped system Fig. 17 Trajectory of characteristic roots when the stability index is maximized (roots in the second quadrant) ..

(10) 78. 5.5. 主系の周波数応答と自由振動応答. 色線よりもやや右側にシフトしているのは,粘性減衰系で.  Fig. 19 は,安定度規範によって最適に設計された動吸. は振動の周期がやや長くなることによるものである.Fig. 20. 振器が取付けられた系のコンプライアンス伝達関数を示し. の(a)と(b)を比較すると,安定度規範で設計された動吸振. ている.安定度規範では動吸振器の減衰がかなり大きく設. 器が取付けられた振動系の方が確かに振動が早く収束する.. 計されるため,図に示されるように,振動系にはかなり鋭. 6. 結 言. い共振点が一つだけ現われる.  Fig. 1 に示されたヒステリシス減衰系においては,一般.  本研究の結果,ヒステリシス減衰型動吸振器の制振性能. 解が実数のみで表現できないために,任意の初期条件に対. は,H∞ 規範においても安定度規範においても,粘性減衰. して自由振動応答を計算することはできない.しかしなが. 型動吸振器より劣ることが明らかになった.ただし,動吸. ら,初期変位が与えられた問題に対しては,Fig. 19 の周. 振器の通常の使用状況(μ 0.2)においては,その差は無. 波数応答関数を逆フーリエ変換することによって計算するこ. 視できるほど小さい.ヒステリシス減衰型動吸振器の最適. とはできる 14).その計算例を Fig. 20 に示している.Fig. 20 (a)と(b)は,それぞれ H∞ 規範と安定度規範によって最. (1)最適同調比νopt に関しては粘性減衰型動吸振器とほぼ. 適化された動吸振器が取付けられた主系の自由振動応答で. 等しいが,安定度規範で動吸振器を設計するときには. ある.灰色線はヒステリシス減衰系の,そして黒線は同一. 粘性型よりも少し小さい値をとる.. 条件における粘性減衰系の自由振動応答である(主系の減. 設計に関して以下の結論が得られた.. (2)損失係数ηは一般に減衰比ζの 2 倍の値にとられるが,. 衰比ζ1 は損失係数η1 の 1/2 に設定されている).この程. 動吸振器の最適損失係数の値η2opt は最適減衰比ζ2opt の. 度の減衰比(ζ1=0.1)と質量比(μ=0.1)に対しては,二つ. 2 倍の値よりも僅かに大きくなる. (3)H∞最適化に関しては , 減衰系に取付ける動吸振器の最. の振動系でほとんど差が生じないことが分かる.黒線が灰. μ. η1 1.0 0.5. μ=0 0.005 0.02 0.05 0.1 0.2 0.3 0.5 0.7 1.0. Λmax. 0.2. 0.05 0. μ=0.05 (a). Λmax. (a)Hysteretically damped system. μ=0 0.005 0.02 0.05 0.1 0.2 0.3 0.5 0.7 1.0. 0.05. 0.005 0.02. η1. μ. 0.3 0.1 0.5 0.2 0.7 1.0. (b) Viscously damped system Fig. 18 Maximized stability index for a system with an optimally tuned and damped DVA.. μ=0.1 (b) Fig. 19 Frequency response functions for a hysteretically damped system subjected to force excitation..

(11) ばね論文集 第 65 号(2020). 適設計値を計算するための代数的厳密解が得られた . (4)安定度規範に関しては , 減衰系に取付ける動吸振器の 最適設計値が極めてシンプルな代数的厳密解から計算 できることを示した. (5)複 素ばね表現されたヒステリシス減衰系においては, 一般解は粘性減衰系のように共役複素数の形では表現 できない.. 79. (2002),284-295. 3) Crandall, S. H., and Mark, W. D.,“Random Vibration in Mechanical Systems,”Academic Press(1963) , 71. 4) 西原修 , 松久寛 ,“安定度規範による制振装置の設計と 調整 ,”Dynamics and Design Conference ’ 97, No. 9710-1(1997),165-168. 5) 浅見敏彦,西原修 , 渡辺晋哉 ,“動吸振器の最大振幅倍. (6)ヒステリシス減衰系のばねを複素数表現すると必然的. 率最小化設計における代数的厳密解(第 2 報,ヒステ. に不安定な解が現われる.この不安定解は実際には発. リシス減衰動吸振器の場合) ,”日本機械学会論文集(C. 現しない.. 編),66-644(2000),1186-1193. 6) Asami, T., and Nishihara, O.,“Closed-Form Solution. 参考文献. to Optimization of Dynamic Vibration Absorbers. 1) Ormondroyd, J., and Den Hartog, J. P.,“The Theory. (Application to Different Transfer Functions and. of the Dynamic Vibration Absorber,”ASME Journal. Damping Systems) ,”ASME Journal of Vibration and. of Applied Mechanics, 50-7 (1928) , 9-22.. Acoustics, 125-3(2003),398-405.. 2) Asami, T., Nishihara, O., and Baz, A. M.,“Analytical Solutions to and Optimization of Dynamic Vibration Absorbers Attached to Damped Linear Systems,” ASME Journal of Vibration and Acoustics, 124-2. 7) 長池勝,長松昭男 ,“モード解析に関する研究 (第 3 報, 1 自由度系に対する基礎検討) ,”日本機械学会論文集 (C 編),51-464(1985),710-718. 8) 柴田耕一 , 見坐地一人 , 加藤英樹 ,“ゴムの振動特性に 関する研究 (周波数及び変位振幅依存型の非線形振動. μ=0.1, ζ1=0.1, η1=0.2. 特性),”日本機械学会論文集 C 編 , 59-564(1993) , 24082414. 9) 柴田耕一 , 一ノ瀬博明 , 桜井弘幸 , 大澤慶吉 ,“ハード ニング型復元力特性を示す免震用積層ゴム非線形振動 に関する研究 ,”日本建築学会構造系論文集 , 61-490 (1996),119-127. 10) Nishihara, O., and Asami, T.,“Closed-Form Solutions to the Exact Optimizations of Vibration Absorbers (Minimizations of the Maximum Amplitude Magnification Factors),”ASME Journal of Vibration and Acoustics, 124-4(2002),576-582. 11) 浅見敏彦 , 水川凱斗 ,“H∞規範と H2 規範に基づくヒス テリシス減衰型動吸振器の最適設計 ,”Dynamics and. H∞ -optimal system (a). μ=0.1, ζ1=0.1, η1=0.2. Design Conference 2019, No.19-13(2019). 12) 浅見敏彦 , 水川凱斗 , 山田啓介 ,“安定度規範に基づく ヒステリシス減衰型動吸振器の最適設計 ,”日本機械 学会 2019 年度年次大会 , No.19-1(2019). 13) Asami, T., Mizukawa, Y., and Ise, T., “Optimal Design of Double-Mass Dynamic Vibration Absorbers Minimizing the Mobility Transfer Function," ASME Journal of Vibration and Acoustics, 140-6( 2018), 061012. 14) 清水信行ほか 12 名 ,“振動のダンピング技術 ,”日本機 械学会編,養賢堂(1998),34.. (b) Stability-maximized system Fig. 20 Free vibration responses for hysteretically and viscously damped systems optimized different criteria..

(12)

(13)

Fig. 3  Single-mass vibratory system: (a)  Hysteretically  damped system, (b)  Viscously damped system.
Fig. 4  Relationship between input displacement  and trans- trans-mitted force.
Fig. 7  Frequency response functions for an undamped pri- pri-mary system with an optimally tuned and damped  DVA.
Fig.  8  H ∞ -optimal solutions for a hysteretically damped  system
+7

参照

関連したドキュメント

 肺臓は呼吸運動に関与する重要な臓器であるにも拘

This paper proposes a method of enlarging equivalent loss factor of a damping alloy spring by using a negative spring constant and it is confirmed that the equivalent loss factor of

A Study on Vibration Control of Physiological Tremor using Dynamic Absorber.. Toshihiko KOMATSUZAKI *3 , Yoshio IWATA and

thevibration-controllmgcharacteristicofthesysteminthecaseofparametrlcexcitationisinvestigated,where

and Shitani, Y., “Vibration Control of a Structure by Using a Tunable Absorber and an Optimal Vibration Absorber under Auto-Tuning Control”, Journal of Sound and Vibration, Vol.. S.,

Key words: Conditional monetary risk measures, Conditional monetary utility func- tions, Conditional dual representations, Dynamic monetary risk measures, Dynamic monetary

Next, using the mass ratio m b /m t 100 as in Figure 5, but with e 0.67, and e w 1, we increase the acceleration parameter to a sufficiently large value Γ 10 to fluidize the

・ 各吸着材の吸着量は,吸着塔のメリーゴーランド運用を考慮すると,最大吸着量の 概ね