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北海道のバックグラウンド地域における粒子状物質の長期変動

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Academic year: 2021

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Institute of Energy, Environment and Geology, Kita 19 Nishi 12 Kita-ku, Sapporo, Hokkaido 060–0819, Japan 2 National Institute for Environmental Studies, 16–2 Onogawa, Tsukuba, Ibaraki 305–8506, Japan

* Corresponding Author: (E-mail) [email protected]

In order to investigate the long-term trend of baseline level air pollution in Hokkaido, particulate matter observations were carried out in Ochi-ishi, Nemuro City, and Rishiri, Hokkaido, Japan, from 1997 to 2018. Overall, there was a decreasing trend in inorganic elements and sulfate ion, which are thought to be mainly derived from anthropogenic sources, after 2009. This coincided with the decreasing trend of PM and other air pollutant emissions in China, which peaked in 2011. On the other hand, no clear long-term trend was observed for nitrate. In addition to the relatively small decreasing NOx emissions in China, there is the possibility that biomass combustion in Siberia or other regions may have contributed to this. Seasonal changes in the SPM were particularly high in March, April, October and November. Al, Fe, which are components in soil, and As were high in March to April and November, and Cd, Sb and Pb, which are considered to be the mainly derived from anthropogenic pollution, were especially high in November, March and April. The concentrations were generally higher in Rishiri Island than in Ochi-ishi, suggesting that the influence of anthropogenic sources in the western continent was strong. On the other hand, the concentrations of methanesulfonic acid (MSA), which is considered to be of biological origin, and V, considered to be of marine origin, increased in the summer mainly from June to July, and this tendency was significant in Ochi-ishi.

Key words : Ochi-isi, Rishiri, background measurement, SPM, PM

2.5

, Vanadium, Methanesulfonic acid

1. は じ め に

浮遊粒子状物質(SPM)の全国の年平均値には緩やかな低 下傾向が見られ、2014年以降は99.6%以上の測定局で環境 基準を達成している(環境省,2018a)。また、粒径2.5 µm 以下の微小粒子状物質(PM2.5)の全国の年平均値は2013年 以降SPMと同様に緩やかに低下しており、2016年以降 は86%以上の測定局で環境基準を達成している(環境省, 2018b)。一方、北海道におけるPM2.5については、2020年 4月現在、22の常時監視局と国設札幌及び国設利尻の計24 局において観測が行われているが、2014年には2度の高濃 度事例が発生し、3月には室蘭で、7月には札幌、旭川及び 千歳で注意喚起が行われた。さらに2019年3月の高濃度事 例では旭川、北見及び釧路で注意喚起が行われた。その結 果、2014年度は3局、2018年度は1局が短期あるいは長期 基準超過となった(北海道環境生活部,2020など)。これら のことからPM2.5の動態を把握することは重要である。 このような中、筆者らは人為的な汚染等の影響が少ない バックグラウンドレベルの粒子状物質の観測を目的とし、根 室市落石岬地球環境モニタリングステーション(以下「落石」 と表記)において大気中粒子状物質の長期観測を実施してき た。本サイトにおいても、バックグラウンドとしての汚染は 存在し、都市域の汚染を評価する際に無視できない。特に、 大気が日本及びアジア大陸の陸域における発生源、及び海域 における船舶などの影響をどの程度受けているかを推定する ことは重要であると考えられる。 落石において、1997年にSPMの採取を開始した。ここ ではそのSPMについて無機元素成分の長期変動について検 討した他、2000年から観測を開始したPM2.5について、水 溶性成分を中心とした長期変動についても検討を行った。ま た、大陸からの影響を把握する上で重要な日本海側の国設利 尻酸性雨測定所(以下「利尻」と表記)においても長期観測を 行ったので併せて報告する。

2.

 調 査 方 法

2. 1 試料採取地点 試 料 採 取 地 点 をFig. 1に 示 し た。 試 料 採 取 は 落 石 (43°09′N、145°30′E、 海 抜27 m) 及 び 利 尻(45°07′N、 141°12′E、海抜40 m)で行った。観測点の落石が位置する 落石岬は、根室市街から南南西に約21 kmの、根室半島の

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付け根の南西端に位置し、観測点は根室市落石の集落から は約2 km離れている。落石の直近の気象観測所である根室 の最多風向(1990–2010の平年値)は12–2月はNW–NNW、 5–9月はS–SEである(気象庁,2020a)。落石では、冬には 中国北部・沿海州、夏には北部太平洋からの気塊流入が卓 越しており(国立環境研究所地球環境研究センター,2020)、 年平均気温は約6°Cと低い。また、特に春から夏にかけて霧 が多く、霧日数は年間100日を超える年もある。 利尻島は稚内の西側約40 kmに位置し、中央に利尻山を 有する周囲約63 kmの島である。観測点の利尻は利尻島南 部の仙法志の海岸線から700 m程北の山側に位置し、周辺 500 mに人為汚染発生源はない。利尻の直近の気象観測局で ある稚内の最多風向(1990–2010の平年値)は11–3月はW、 4–6月はSSW、7月はE、8–10月はSW–WSWである(気 象庁,2020a)。また、年平均気温は約7°Cである。 2. 2 試料採取と成分分析 2. 2. 1 試料採取 SPM試 料 は 直 径47 mmの メ ン ブ レ ン フ ィ ル タ ー (ADVANTEC、A080A047A)上に、サイクロンにより分級 し、吸引流量20 L/分で1ヶ月間採取を通年で行った。 PM2.5は二段インパクタ(東京ダイレック製)をフィル タ ー ホ ル ダ ー(NILU)に 装 着 し、 ①10 µm以 上(50% カ ッ ト )、 ② 粒 径10–2.5 µm(50%カ ッ ト )、 ③2.5 µm以 下(PM2.5)の3段階の粒径範囲で粒子を石英フィルター

(PALLFLEX、TISSUQUARTZ 2500QAT-UP)上に吸引流

量20 L/分で2週間採取を通年で行い、③の石英フィルター 上にあるものをPM2.5とした。 また、全硝酸測定用試料は1段目のインパクタを用いて粒 径2.5 µm以上の粒子(粗大粒子硝酸塩)を石英フィルター上 に捕集しカットした後、2段目に微小粒子硝酸塩用テフロン フィルター(ADVANTEC、T080A047A)、3段目にガス状 硝酸用ポリアミドフィルター(PALLFLEX、NX047100)を 装着し、吸引流量10 L/分で2週間採取を通年で行った。な お、ポリアミドフィルターについてはガス状硝酸のみなら ず、試料採取時に前段のフィルターでカットした粗大粒子硝 酸塩やテフロンフィルターから揮散した硝酸塩も含まれてい ると考えられることから、ガス状硝酸と微小粒子硝酸塩を合 わせて整理することとした。この方法では、粒子状をカット してガス状のみの捕集を試みるとしても、前段の粒子状物質 から揮発するガス状硝酸が加わってしまうため、ガス状硝酸 のみの測定は行っていない。ゆえに本報告ではガス状硝酸を 含む形で測定しているため、粒子状硝酸としては過大評価し ている可能性がある。 以上の試料採取方法、採取期間及び分析項目を、Table 1 にまとめ、採取方法の概要をFig. 2に示した。 2. 2. 2 成分分析 試料採取後のメンブレンフィルターならびにPM2.5用石英 フィルターは恒温(約20°C)、恒湿(約35%)室に24時間以 Fig. 1 Sampling sites.

Table 1 Sampling condition and analyzed components.

Sample Classifying Method Filter Suction Speed Sampling Period Sampling Sites Component SPM Cyclone (10 µm100% Cut Off)   Membrane Filter 20 L/min 1997–2018 Ochi-ishi and Rishiri V, As, Cd, Sb, Tl, Elements (Al, Fe,

Pb and Bi) PM2.5 ①Impactor (10 µm  50% Cut Off) ②Impactor (2.5 µm  50% Cut Off) ③Filter Holder

①Donut-shape Quartz Filter (47×20 mmφ)

②Donut-shape Quartz Filter (47×20 mmφ)Quartz Filter (47 mmφ) 20 L/min 2000–2018 Ochi-ishi Water-soluble Components (SO42−, NO3−, Cl−, MSA, NH4+, Na+, K+, Ca2+ and Mg2+),

Carbon (EC, OC) Total Nitrate Ion ①Impactor (2.5 µm  50% Cut Off) ②Filter Holder ③Filter Holder

①Donut-shape Quartz Filter (47×20 mmφ)

Teflon Filter (47 mmφ)Polyamide Filter (47 mmφ)

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上放置後秤量した。 無機元素分析については、メンブレンフィルターの全 量をマイクロウェーブ分解用100 mLテフロン容器に入 れ、HNO3(6.5 mL)、HF(1 mL)、H2O2(2.5 mL)を 加 え、 高 温 高 圧 分 解 後、 テ フ ロ ン ビ ー カ ー に 移 し、 ホ ッ ト プ レート上で乾固した。残渣を少量のHNO3(2%)で溶解

し、定 容 後ICP-AES(Hitachi P-4010(∼2009)、Agilent 710ES(2010∼))及 びICP-MS(Hitachi P-5000(∼2009)、 Agilent 7700x(2010∼))によって定量した。なお、SPM試 料の分解操作や標準試料調製等の、試料や高純度試薬を扱 う操作はクラス1000のクリーンルームに設置してあるク リーンドラフト内で行い、HNO3、HF及びH2O2は多摩化 学(株)製AA100クラスのものを用いた。なお、Vについて は土壌粒子起源のV(sVとする)を全V濃度から差し引い た非土壌由来V(total V(ng/m3-0.00166*Alµg/m3(向井 ら,1989)、以下V-sVと表記、単位はng/m3)を求め、この 数値を検討に用いた。 水溶性成分(メタンスルホン酸(以下、MSAと表記)を 含む)の分析については、PM2.5用石英フィルターの1/4 を、20 mLの純水中で30分間超音波抽出した。抽出液を ポアサイズ0.2 µmのシリンジフィルター(ADVANTEC、 25CS020AN)で ろ 過 後、 陰 陽 両 イ オ ン と も イ オ ン ク ロ マ ト 法(Dionex DX-500(∼2008)、Dionex ICS2100及 び

ICS1600(2009∼))により定量した。なお、硫酸イオンにつ いては、全硫酸イオンから海塩由来のものを除いた非海塩 由来硫酸イオン(total SO42−(µg/m3)-0.25*Na(µg/m3)(向井 ら,1989)、以下Ex-SO42−と表記、単位はµg/m3)を計算し、 この数値を用いた。 炭素成分分析については、PM2.5用の石英フィルターを 直径8 mmの円形ポンチで打ち抜き、カーボンアナライザ (DRI Model2001A OC/EC)に導入し、有機炭素(OC)と元 素状炭素(EC)をIMPROVEプロトコルによる熱分離法に より定量した。定量に際しては、反射率による補正を行っ た。 硝酸分析については、石英フィルター、テフロンフィル ター及びポリアミドフィルターそれぞれの全量を10 mLの 純水中で30分間超音波抽出し、その抽出液を水溶性成分と 同様の分析法により定量した。

3. 結果と考察

3. 1 SPM 及び無機元素成分の季節変動と長期変動(落石及 び利尻) Fig. 3及び4に、落石及び利尻におけるSPM及び無機元 素成分の経月変動、年平均の推移及び月平均値を示した。 SPMは2001年及び2002年に利尻、落石ともに高くなって いた。この両年は黄砂の観測日数が1967年から2018年ま での観測の中でも上位であり(気象庁,2020b)、2002年は 特に札幌や釧路で複数回黄砂が観測されるなど特異な状況 であり、平年には例のない黄砂の到来により高くなったと 考えられる。また、落石のSPMは2009年及び2010年には 若干上昇し、その後2012年、2013年には若干低下、2015 年には再上昇という動きを示していた。これらの変動に関 しては、落石における微小粒子状物質自動計測器(紀本電子 工業製PM-712、β線吸収方式)による観測結果(Network

Center for the Acid Deposition Monitoring Network in East

Asia, 2009–2018)とおおむね一致していた。季節的には、 春と秋に極大が見られ、利尻の方がその傾向が顕著であっ た。 無機元素成分を見ると、Al、Fe等土壌に多く含まれる元 素は、2001年と2002年の春など、黄砂時などの土壌由来 粒子が長距離輸送される条件の際に著しい上昇が見られた。 月平均値で見ると、4、3、11月の順に高濃度となっており、 おおむね利尻の方が高い。黄砂の観測頻度が高い春だけでは なく、秋にも高濃度となったことが着目されるが、これは秋 には移動性高気圧の東進に伴い大陸の気塊が西方から地表付 近を輸送される機会が多いためと考えられる。しかしこれら の土壌由来元素は最近の10年は高濃度が観測されていない。 As、Cd、Sb、Tl、Pb及びBiのような人為起源汚染が主 な発生源であると考えられる元素においても、秋、冬、春 に濃度が上昇する傾向を示し、11及び3·4月が特に高く Fig. 2 Outline of sampling conditions.

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なっていた。As、Cd、Sb及びPbについては、Sbが自動 車のブレーキダストから発生する(Iijima et al., 2008, 2009) 他、廃棄物焼却、石炭燃焼、鉄鋼業、非鉄金属精錬等から発 生することが報告されている(Hanaishi et al., 2001; Iijima et al., 2008, 2009)。またTlの主な用途は、銀、鉛及び水銀 との各種合金の原料、化合物として高屈折光学ガラスの原料 などであり(環境省,2017)、Biは鉛フリーはんだやスプリ ンクラーに用いられる熱を検知する低融点合金や冶金添加物 として主に用いられている(石油天然ガス・金属鉱物資源機 構,2011)。これらの元素は、いずれもおおむね落石よりも 利尻の方が高く、特に11月から3月の期間は利尻と落石の 差が大きくなっていた。2.1で述べたようにこの期間の主風 向がWであることを考え合わせると、これらの元素の濃度 上昇には大陸の人為発生源の影響が強いことが示唆された。 2014–2016年にはPbやCd等の特異的な高濃度が見られた が、上昇はいずれも落石のみで、利尻では見られず、局所地 域的な汚染の可能性が高いと考えられた。これらの人為起 源元素の経年変動については、利尻のCd、Sb、Pb及びAs に、また落石のSbに減少傾向(1%有意)が認められた。中 国における大気環境は2014年から2016年にかけて改善し ており、近年の日本におけるPM2.5濃度越境汚染寄与の減少 にもつながったとの推定が報告されている(鵜野ら,2017)。 また、中国のPM排出は2005年以降減少傾向にあり(Li M. et al., 2017)、中国統計年鑑によれば、中国国内のばいじん の排出量は、2014年から2017年にかけて低下が続いている (科学技術振興機構,2020)。少なくとも2014年以降につい ては、アジア大陸からの越境汚染の減少が、利尻における人 為汚染元素の減少傾向に関する要因の一つであると考えられ る。 このように人為起源元素の減少が見られる一方、SPM濃 Fig. 3 Temporal change of SPM and elements concentrations(SPM) at Ochi-ishi and Rishiri. V-sV means total vanadium minus vanadium corresponding soil component (total V (ng/m3)-0.00166*Al (µg/m3)).

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度には明らかな減少傾向が見られなかった。これは、3.2、 3.4及び4に後述するように、PM2.5中のOCや、ガス状硝 酸を含むため粒子態としては厳密には過大評価となるが微小 粒子中の硝酸イオン、及び粗大粒子中の硝酸イオンに減少傾 向が見られなかったことが要因であると考えられる。 前段落までに挙げた土壌由来元素や人為起源元素とは違 い、V-sVは利尻よりも落石の方が高く推移し、6月と7月 を中心に5月から9月にかけての夏に濃度が上昇し、この傾 向は落石において特に顕著であった。また、V-sVの長期ト レンドとしては他の元素と異なり近年の増加傾向が認められ た。V-sVの主な発生源は重油燃焼であると考えられ、A重 油は中小事業所のボイラーならびに小型漁船等に用いられ る。一方、C重油は発電ボイラーや船舶、特に大型船の燃 料などに使われる。C重油のような重質重油の燃焼排気粒 子にはVがA重油燃焼の100倍程度の極めて高い濃度で含 まれており(海洋政策研究財団,2008)、大型船舶からのV Fig. 4 Annual and monthly average of SPM and elements concentration (SPM) at Ochi-ishi and Rishiri. V-sV means total vanadium minus vanadium corresponding soil component (total V (ng/m3)-0.00166*Al (µg/m3)).

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排出量が大きいことが予測される。海上における大気汚染 物質の排出に関する貨物船や漁船などの排出ガスの寄与計 算から、北海道近海では太平洋側で排出が多くなっている と報告されている(海洋政策研究財団,2008)。またアジア から北米へ向かうコンテナ輸送量は、1997年から2006年 にかけて増加、その後2009年にかけて減少し、その後2012 年にかけて再増加しており(日本海事広報協会,2007; 国 土交通省,2018, 2020)、これはV-sVの変動と類似してい る。過去の北海道内都市域におけるSPMの調査結果(大塚 ら,2002, 2014)より、落石の他に北海道太平洋側の都市で ある釧路においても、夏にAlなど土壌成分の濃度が減少す るにもかかわらずVの濃度上昇が観測されている。また本 報告の分析項目ではないが、NiはVと共に重油もしくはそ の原料となる原油に広く含まれる元素である。既存のPM2.5 の観測結果(大塚ら,2014)から、落石ではV/Ni比は2.6 程度でVとNiの相関がほぼ直線関係となっており、この比 は重質重油を燃料とした大型船排気の値、2.7(海洋政策研 究財団,2008)に近いものであった。気象要素としては、北 海道太平洋側において、夏には太平洋高気圧の勢力が北海道 まで広がり、南側からの風系が主体となる(気象庁,2020a; 国立環境研究所地球環境研究センター,2020)。これらのこ とにより、夏には太平洋側からの気塊の影響を強く受けて大 気中V-sV濃度が上昇し、この発生源としては貨物船や漁船 等の発生源による重油燃焼の影響が大きいことが推測され る。 3. 2 PM2.5濃度及び水溶性成分濃度の長期変動と季節変動 (落石) Fig. 5及び6に、落石におけるPM2.5及びPM2.5中水溶性 成分の変動を示した。PM2.5の年平均濃度は5–6 µg/m3程度 の、ほぼ横ばいで、札幌や旭川の都市部で見られる減少傾向 (秋山ら,2015)とは違う傾向を示した。PM2.5の緩やかな減 少傾向は全国的に見られ(鵜野ら,2017; 環境省,2018b)、 自動車排ガス対策など、国内の排出抑制が都市部に効果をも

Fig. 5 Temporal change of concentrations of water soluble components (PM2.5) at Ochi-ishi. Ex-SO42− means Excess-SO42−

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たらしていると考えられる。PM2.5の季節変動については、 春に高く、その他の季節に大きな濃度差はなかった。月別で は、3、4月に高濃度となり、9月に低い傾向を示した。この 理由として、春は移流の影響が大きいことが考えられる。 PM2.5の主要成分はEx-SO42−などの水溶性成分と3.4で後 述する炭素成分であった。その中で、Ex-SO42−は2007年を ピークに近年は減少傾向を示していた。SO2の中国におけ る排出量は2007年頃までは増加傾向を示し、その後減少 に転じ、2011年以降は一様な減少傾向を示しており(Li C. et al., 2017)、落石における2007年以降の減少傾向と矛盾し ない。ナトリウムイオンやマグネシウムイオンは3–5月に 高くなっていた。3–5月のNa/Mg比の平均値は8.2–8.3で、 海塩のNa/Mg比8.3(Bowen, 1983)に近い値であり、海塩 の影響があると考えられた。一方、塩化物イオンについて は、海塩由来としてナトリウムイオンとの比から計算される 濃度よりも実測値はかなり低く、夏にその傾向が顕著であ り、長期間の採取中に揮散していると考えられた。また、硝 酸イオンは3月と4月に高濃度となり、3.1で示したSPM の土壌由来や人為起源成分と同様、移流の影響が大きいと考 えられる。カリウムイオンは10月に高くなっていた。 MSAは、海洋植物プランクトンから大気へ放出される ジメチルサルファイド(DMS)の二次生成物であり(Mukai et al., 1995)、MSAの増加には海洋植物プランクトンの増殖 が関係していると考えられる。MSAは2017年及び2018年 Fig. 6 Annual and monthly average of water soluble components concentrations (PM2.5) at Ochi-ishi. Ex-SO42− means

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に増加が見られた。季節的には、MSAはSPMのV-sVと 同様に夏にピークを示すのが特徴であった。MSAの前駆物 質であるDMSの、海域における表層濃度に関するモデル計 算(Kloster et al., 2006)では、落石や利尻の位置する北緯 40度付近では6–8月に最も高濃度となる結果が示されてい る。本報告でもMSAの濃度変化は、その結果と一致してい た。 3. 3 Vs-V 及び MSA をトレーサーとした Ex-SO42−の季節別 寄与評価(落石) Fig. 7に、落石におけるV-sV(SPM)とMSA(PM2.5)の 変動を重ねて示した。6、7月を中心に夏に高い傾向を示す これら2成分は、ほぼ同様の変動傾向を示すが、MSAの方 が夏のピークの立ち上がりが早い傾向が見られる。冬には MSA濃度はほぼゼロになるのに対して、V-sVは冬にも濃 度が下がりきらず一定の発生源寄与が見られる。夏の高濃 度に関しては、一見V-sVとMSAが同じ発生源から由来し ているかのように見えるが、本来MSAの発生が海洋の植 物プランクトンの発するDMSを起源としているのに対し、 V-sVは主に重油燃焼が起源であり、両者の起源は全く異な ると考えられる。3.1に述べたように、V-sVの発生源とし ては船舶の可能性があることから、これら2成分の季節変動 の類似性は、互いに海洋に発生源があることによると解釈で きる。夏には海洋性の大気の影響が北海道でも高くなること が、二酸化炭素の観測例からも示されており(国立環境研究 所地球環境研究センター,2020)、その海洋性大気の影響を 受ける度合いによって季節変動の幅にも影響が出ると考えら れた。一般に大型の貨物船舶は通年にわたりこの海域を航行 しており、漁船は夏から秋に漁をすることが多いが春先や 冬でも操業が行われている。一方DMSを生産する海洋の植 物プランクトンは6–8月に存在量が高く季節性が強いため、 MSA濃度の季節変化には植物プランクトン量の季節変化と 海洋性大気の寄与の両方が関係していると考えられる。 また、Ex-SO42−については、北海道においては重油燃焼に よる寄与や生物起源のDMSからの寄与が考えられるため に、V-sVやMSAとの相関が存在することが想定されるが、 Ex-SO42−はV-sVやMSAほどの明確な季節変動がなく、春 先に濃度が高くなるケースが見られる。これはEx-SO42−の 発生源として石炭燃焼など重油以外のものがバックグラウン ドでも存在することが要因であると考えられる。

Fig. 8にV-sVとEx-SO42−の相関を月ごとに示した。Fig.

8では5、6、7、8、9月及び冬(11、12、1及び2月)でプ ロットの記号を変えて散布図を示しているが、冬と夏では両 者の相関に大きなずれがあり、冬(11–2月)の両者の濃度比 の平均0.32(V-sV ng/Ex-SO42− µg)は、隠岐島で観測された 冬の値(Mukai et al., 1990)の範囲内(0.21–0.38)であった。 隠岐のこの時の硫酸イオンは主に石炭燃焼からの寄与と考え られており、北海道でも同様の起源を想定することができ る。一方、5月–9月のその比はおおむね0.5–3程度の範囲に あり、それぞれの月においての相関は高くなくばらつきが見 られている。切片をゼロに取った時の回帰直線の傾き、すな わちV-sVとEx-SO42−の比は5、6、7、8及び9月がそれぞ れ1.0、1.6、1.8、1.7及び1.2と夏の隠岐島の比(0.32–0.59 (Mukai et al., 1990))よりもかなり高くなっていた。大型船 舶に用いるC重油におけるVとSの含有量は、産地によっ て異なるが広い範囲を持っている。VとSの比をV/SO4と

Fig. 7 Temporal change of concentration of V-sV (SPM) and MSA (PM2.5) at Ochi-ishi. V-sV means total vanadium minus

vanadium corresponding soil component (total V (ng/m3)-0.00166*Al (µg/m3)).

Fig. 8 Correlation of V-sV (SPM) and Ex-SO42− (PM2.5)

at Ochi-ishi (Winter: November, December, January and February. V-sV means total vanadium minus vanadium corresponding soil component (total V (ng/m3)-0.00166*Al

(µg/m3)) and Ex-SO

42− means total SO42− (µg/m3)-0.25*Na

(µg/m3).). The solid lines are regression lines of each plots to

pass through the origin. The dashed lines in the plot area are slopes 3 and 0.5.

(9)

して求めると、この値は国内では比較的低いが、品質の悪 い重油ほど高い傾向があり0.3–4(例えば日本造船研究協 会,1982)程度のばらつきが見られた。これらの値は、今 回観測された夏のV-sVとEx-SO42−の比(0.5–3)に矛盾しな い。 5月から9月に対して比が変化することに対しては、大き くは次の二つの理由が考えられた。(1)外洋船などの大型船 に用いられるC重油においてSやVの含有率は産地によっ て異なることに加えて、小さな漁船等が用いるA重油はV 含有率が少なく、V/Sの比率も低いと考えられる。例えば A重油のバナジウム濃度はC重油の100分の一程度である (森下,1976; 海洋政策研究財団,2008)。そのため、外洋船 からの寄与率と漁船などの寄与率が変わればその比率も変 化することになる。(2)これまでの研究例から、MSAと生 物起源由来の硫酸の比はおおよそ0.1–0.2との報告(Mukai et al., 1995)が あ り、5–8月 の 平 均0.1 µg/m3Fig. 5)の MSA濃 度 は0.5–1 µg/m3Ex-SO 4 2−濃 度 を 与 え る と 想 定 でき、本報告におけるEx-SO42−濃度(2 µg /m3程度)のう ち、最大50%程度が生物起源と考えることができるため、 (V-sV)(/ Ex-SO42−)比にも変動を与える可能性がある。 先に述べたように、Ex-SO42−の全体の濃度は減少気味では あるが、夏のV-sVやMSAのトレーサーから見られる太平 洋上に起源を持つEx-SO42−は減少している要素は見られず、 全体の濃度減少を決めているのは春や冬の濃度減少が主に寄 与しているものと考えられた。 3. 4 炭素成分(落石) Fig. 9に落石におけるPM2.5中炭素成分濃度の長期変動を 示した。炭素成分は、2003年5月と2004年10月に高濃度 が見られ、いずれもOCが炭素成分の約8割を占めていた。 近年では、炭素成分は2001年の秋、2003年の春、2004年 の秋、2005年の秋にピークが見られ、それ以降2007年の秋 から2009の年、2011年の秋のピークの後、2014年以降の 春と秋の全体的な高濃度が見られた。バイオマス燃焼から排 出される粒子の主成分は炭素成分であり、そのうちOCが8 割近くを占める(伏見ら,2010)ため、OCが大半を占める 炭素成分の高濃度の原因としては、森林火災など大規模な バイオマス燃焼が考えられる。例えば2003年5月にロシア 極東地方で起こった火災は1,300万haにわたり、その煙は 北北海道からアラスカに達し、また2004年10月の火災は極 東ロシアや中国東北部で3万ha以上を焼いたとの報告(The Global Fire Monitoring Center, 2003, 2004a, 2004b)があ る。アメリカ航空宇宙局の公開している衛星画像(National Aeronautics and Space Administration, 2021)で地上の高温 点とエアロゾルの状況を見ると、上記の2003年5月の中旬 と下旬及び2004年10月中旬に、アジア大陸の多くのホット スポットから北海道に流入するエアロゾルが視認でき、大陸 からバイオマス燃焼由来のエアロゾル流入があったことが推 測できる。このような大陸のバイオマス燃焼の長期的な状況 を見るため、北海道に近いロシア沿海州(Primorsky)と中 国北部(黒竜江省、吉林省、遼寧省、内モンゴル自治区)及 びモンゴルにおける火災面積をGlobal Wildfire Information Systemの デ ー タ ベ ー ス(Global Wildfire Information System, 2021)から抜き出してFig. 10に示した。これらの 火災面積の変動は落石のOCの変動と類似点が多い。例えば 2003年の春に多く、2004年の秋にはロシア沿海州での面積 が大きいことがわかる。2009年の秋や2012年の秋には焼失 面積が少ないこととOCの動きは概略一致している。有機炭 素成分と火災面積が全く同じ経年変動をしているわけではな いが、2014年以降のこの地域での火災の規模が拡大傾向に あることなどを含めて、OC濃度の後半の増加との対応も見 られており、落石でのOCの変動は東北アジア地域における Fig. 10 Burned area by wildfire estimated at Global Wildfire Information System (GWIS): Primorsky is far east Russia region, North China includes Heilongjiang, Jilin, Liaoning and Nei Mongol (Global Wildfire Information System, 2021).

(10)

バイオマス燃焼から発生する粒子の影響を部分的にも受けて いると推定できる。 一方Fig. 11に示したように全体の傾向としてECは減少 傾向を示していることがわかった。日本国内におけるディー ゼル排ガスのPM規制が段階的に進められ、2005年より格 段に厳しくなっており、この効果が一つの要因であることが 考えられる。ECが減少しているのにかかわらずOCに減少 傾向が見られないことからは、前述のバイオマス燃焼から排 出される粒子の組成のうち、炭素成分に関してはOCが8割 近くを占める(伏見ら,2010)ことから、バイオマス燃焼の 影響が減少していないことが示唆される。 季節変動については、ECは4月と10月に極大が見られ た。一方、OCは10月が一番高く、次いで4月と5月が高 くなっており、この傾向はカリウムイオンの濃度の季節変化 とも一致していた。

4. 全硝酸(落石)

硝酸イオンについては、2.2のPM2.5採取法では保存性が ないために、ここで全硝酸の採取を行い、それを解析した。 なお、2.2.1で記述したように、全硝酸にはガス状硝酸を含 むので、粒子状の硝酸として評価するには過大評価となる。 Fig. 12及び13に、落石における全硝酸その他の濃度変動 を示した。全硝酸濃度の季節別変動を見ると、春及び秋に濃 度が上昇する傾向を示し、そのピークはここ数年比較的高い 濃度を示しているのが特徴と言える。落石は海塩成分が多 く、海塩粒子に硝酸が取り込まれやすいため、硝酸は粗大粒 子態が主体となる。特に海塩濃度が増加する秋は粗大粒子の 割合が顕著に増加している。春は、海塩成分の他、大陸から の汚染物質の輸送が増え、粗大粒子の増加の他に微小粒子硝 酸塩とガス状硝酸とを合わせた割合が増えることが、春に おける全硝酸濃度の増加要因と推察される。なお、観測さ れた全硝酸には、窒素酸化物が暗反応等により硝酸に酸化 されたものが含まれる可能性がある。ただし、落石で観測 されたNOxの濃度範囲は月平均で1 ppb程度の低い濃度で あった(Network Center for the Acid Deposition Monitoring Network in East Asia, 2008–2019)。一方、7月を中心とし た夏は霧発生日数が多くなり、化石燃料消費量の減少の他、 ウォッシュアウトによる除去が他の季節に比べて顕著になる ことにより濃度が減少していたと考えられる。 全硝酸の長期変動としては、2009年及び2010年に増加、 炭素成分と同様に2012年と2013年に減少が見られた。硝 酸に関してもOCと同様にアジア地域の火災面積との類似性 も一部見られる。また、長期的には、Ex-SO42−とは異なり、 増加の傾向を示した。国立環境研究所による排出インベント リREASによる中国の窒素酸化物排出量と、衛星観測によ る中国上空の対流圏窒素酸化物カラム濃度の変動(Okamoto et al., 2018)では、2011年をピークに中国における排出量は 減少傾向を示しているが、落石での観測では、近年は濃度 の減少は見られなかった。これは例えば中国北部(内モンゴ ル、遼寧、吉林及び黒竜江各省)の森林火災面積が2011年 以降はむしろ増加傾向にある(科学技術振興機構,2020)な ど、バイオマス燃焼による発生量の変動が要因の一つである と考えられる。

5. 結

北海道の人為的な汚染等の影響が少ないバックグラウンド レベルの大気汚染状況の推移を見るため、根室市落石及び利 尻において粒子状物質の長期観測を行った。その結果、人為 汚染源から主に発生すると考えられるSb等の無機元素成分 や2007年以降のEx-SO42−の減少傾向が見られた。また、季 節別の変動傾向からは、土壌に多く含まれる無機元素成分 は4、3及び11月に、無機元素成分のうち人為汚染が主な発 生源と考えられるAs、Cd、Sb、Tl、Pb及びBiは11、3及 び4月が特に高く、おおむね落石よりも利尻の方が高濃度で あり、西方の人為発生源の影響が強いことが示唆された。一 方、落石のMSA及びV-sVは6月と7月を中心に5月から 9月にかけて濃度が上昇し、V-sVについてはその傾向が落 石において顕著であった。この時期は南風が卓越しており、 MSAは南側海上における生物由来のDMS起源と考えられ Fig. 11 Annual and monthly average of EC and OC concentrations (PM2.5) at Ochi-ishi.

Fig. 12 Temporal change of concentrations of Nitrate Ion at Ochi-ishi.

(11)

また、ECは徐々に減少が見られたものの、OCに関して は、北東アジアにおける火災面積との類似性が見られたこと から、近年の濃度上昇はその影響と考えられた。全硝酸の長 期変動については、はっきりとした減少傾向は見られず、森 林火災などのバイオマス燃焼が影響している可能性も考えら れた。

本研究は国立環境研究所の受託研究「温室効果関連物質の 長期モニタリング」にて実施した。また、試料採取に際し、 地球・人間環境フォーラムの島野富士雄様、津田憲次様及び 湯本康盛様、また落石において試料採取の労をお取りいただ いた滝田隆様及び千石勝好様に多大な協力を賜った。深く謝 意を表します。

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(13)

られ、近年の中国におけるPMやSO2排出量の減少傾向と矛盾しない。一方、全硝酸やOCについては明確な長期減少傾向 は見られなかった。中国国内のNOxの排出量削減が進んでいないのに加え、大陸におけるバイオマス燃焼による発生が影響 している可能性がある。非土壌由来V(V-sV)は落石で増加が見られた。粒子状物質の季節別の変動傾向としては、3–4月及 び10–11月が特に高くなっていた。成分の中では、AlやFeなどの土壌に多く含まれる元素や人為汚染が起源である多くの元 素は、3–4月及び11月に高い濃度を示した。また人為汚染起源の中でもSb、Bi、Tlは11月が特に高い濃度であった。多くの 人為起源元素は利尻の方が落石よりも高濃度であり、大陸からの越境影響が強いことが示唆された。一方、生物起源であるメ タンスルホン酸(MSA)及び船舶起源と考えられるV-sVは6–7月を中心とした夏に濃度が上昇し、この傾向は太平洋に面し た落石において顕著であり日本海側の利尻と異なる特徴を示した。

Table  1  Sampling condition and analyzed components.
Fig. 5  Temporal change of concentrations of water soluble components (PM 2.5 ) at Ochi-ishi
Fig. 8 に V-sV と Ex-SO 4 2− の相関を月ごとに示した。 Fig.
Fig. 12  Temporal change of concentrations of Nitrate Ion  at Ochi-ishi.

参照

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