児童のソーシャルスキルと学級生活満足度との関係 ―教師評定によるソーシャルスキルの測定―
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(2) 藤原・西村・福住・村上・河村:児童のソーシャルスキルと学級生活満足度との関係. 11. に実施され,学校生活満足度の向上,抑うつ症状や孤. の一方で,縦断的視点では,1 時点目のソーシャルス. 独感の低減など,学校適応に関する指標の改善が報告. キルを共変量として投入した回帰分析において,2 年. されている (e.g., 在原他, 2009; 石川他, 2010; 金山他, 2000; 曽. 後の学校生活満足度との関連が示され,効果は小さい. 山, 2012) 。. ものの,かかわりのスキルは承認感と正の関連を,配. 一方,ソーシャルスキル教育の通常学級への普及と. 慮のスキルは被侵害感と負の関連が示された。このよ. 並行として,実証的研究では学校場面に関する様々な. うに,ソーシャルスキルと学校適応に関連する変数と. 指標との関連に注目する相関研究も行われてきた。例. の関連は,横断的視点と縦断的視点では異なることが. えば,児童生徒による自己報告によってソーシャルス. 示唆されているため,研究デザインとその視点を明確. キルを測定した研究では,ソーシャルスキルが高い子. にした上で知見を蓄積していく必要があるといえよう。. どもほど,学級内のクラス地位 (戸ヶ崎・坂野, 1997) や. 本研究では,ソーシャルスキルの学校適応との関連. 友人からのソーシャルサポート(東海林他, 2012)が高い. に関する研究の中で,小学生に対してもソーシャルス. ことが示されている。また,海外の研究ではあるが,. キルと学級生活満足度との関連がみられるかどうかを,. 教師評定によって測定されたソーシャルスキルに問題. 横断調査によって検討することとした。測定に用いた. が見られる子どもほど,将来的な不適応を起こすリス. ソーシャルスキルは河村(2001)が作成したソーシャル. ク の 高 い こ と が 示 唆 さ れ て い る (Farmer & Bierman,. スキル尺度の内容,すなわち,配慮のスキルとかかわ. 2002)。これらの研究が示すようにソーシャルスキルの. りのスキルである。庄司(1991)によると,ソーシャル. 個人差は,子どもにとって望ましい社会的結果やより. スキルの各定義に共通する要因として,学習される,. 広範囲な学校適応や不適応問題の個人差を生じさせる. 対人関係の中で展開される,他者との相互作用の中で. と考えられている。. 個人の目標達成に有効である,社会的に受容され価値. ソーシャルスキルと学級生活満足度との関連. あるものである,の 4 つが挙げられているが,河村. ソーシャルスキルと学校適応に関する研究の中で,. (2001) の尺度はこれらの要因が考慮された上で,子ど. 我が国では学級生活満足度もしくは学校生活満足度に. もが適応するために学級生活で必要とされるソーシャ. 着目した研究が行なわれている(村上・西村, 2014; 西村他,. ルスキルから構成されている。そしてこの尺度は,. 2017; 小野寺他, 2004; 八越・新井, 2007) 。学級生活満足度お. Bierman et al.(2010)が指摘している学校教育で必要と. よび学校生活満足度とは,河村(1999)および河村・田. されるソーシャルスキルの内容を概ね包含している。. 上 (1997) によって作成された尺度によって測定され. 彼らによると,小学校の段階では,集団の中で友だち. る心理概念であり,「承認感」と「被侵害感」を総合. から受容され,拒絶やいじめなどを避けること,また. して操作的に定義される。どちらの概念も学校適応に. 相互支援的な友人関係を築くことが子どもの社会的課. 関する主観的評価(自己認知)であり,承認感は学級の. 題として挙げられており,これらの課題を達成するた. 中で教師や級友から承認されている程度を,被侵害感. めには, 「集団のルールや公平さに関するスキル」, 「セ. はいじめや冷やかしなどの被害の有無もしくはその程. ルフコントロール」 , 「友人へのサポート (情動サポー. 度を測定している。この尺度の特徴は,子どもの生活. ト)」が重要なスキルとして設定されている。これらは. 満足感(life satisfaction)を直接的に測定するアプローチ. 主に対人関係のマナーや学校のルールの順守にあたる. (Huebner, 1991) とは異なり,いじめ被害や不登校の可. 配慮のスキルに対応するものと考えられる。この点に. 能性を早期に発見することを目的とした臨床的妥当性. 関しては,河村(2003)も,小学校段階では児童が学級. に重きを置き,承認感と被侵害感という 2 因子で子ど. 生活満足度を得るためには一定レベルの配慮のスキル. もの学級もしくは学校での満足度を間接的に測定しよ. が欠かせないことを指摘しており,配慮のスキルの重. うとしている点にある。先に示した西村他(2017)の研. 要さについて述べている。一方,中学生にあたる青年. 究では,中学生を対象にソーシャルスキルと学校生活. 期以降は,対人関係が拡大し,またその構造がより複. 満足度との関連に対して横断的視点と縦断的視点から. 雑化していく中で,教師や親などの影響が薄れていく. 検討がなされている。その結果,横断的視点では,能. ことが指摘されている(Bierman et al., 2010)。そのため,. 動的に友だちとかかわろうとする際に必要な「かかわ. より自分自身で積極的に活動していくことが求められ,. りのスキル」は承認感と正の関連,被侵害感と負の関. 他者と積極的に交流するために必要なコミュニケー. 連を示し,対人関係のマナーや相手への気遣いを表す. ションスキル,自己主張,リーダーシップの発揮など. 「配慮のスキル」は承認感とのみ正の関連を示した。そ. に関連するかかわりのスキルがより重要になると考え.
(3) 12. 教 育 心 理 学 研 究 第 69 巻 第 1 号. られる1。このように,小学校段階と中学校段階では各. 様に学校現場におけるその実用性も高いことが指摘さ. 発達段階に対応する社会的課題が異なるため,教育指. れている(金山他, 2004)。. 導上,子どもたちに求められるソーシャルスキルの内. 海外の研究を中心にソーシャルスキルに関する尺度. 容が変わり,さらにそれに伴い学級生活満足度と関連. を包括的にレビューした Matson & Wilkins(2009)は,. のみられるソーシャルスキルも変容することが予測さ. 広 く 使 用 さ れ て い る 評 価 ツ ー ル の 一 つ と し て,. れる。特に小学校段階では,配慮のスキルの重要さを. Gresham & Elliott(1990)が開発した social skills rating. 示唆する結果が得られるのではないだろうか。なお,. system(SSRS)およびその改訂版である social skills. 本研究では,ソーシャルスキルの社会的結果の指標と. improvement system-rating scales(SSIS-RS; Gresham &. して学級生活満足度に着目するが,その正当性を示す. Elliott, 2008)を紹介している。この評価ツールは,自己. 根拠として,学級生活満足度は子どもの不適応問題に. 評定のみならず,教師や親による評定も可能であり,. 対して学校現場で広く利用されている標準化された心. 子どものソーシャルスキルを幅広く捉えているのが特. 理検査によって測定されること,ソーシャルスキルト. 徴である。改訂版では, 「協調」, 「主張」, 「責任」, 「共. レーニングの般化効果を検証する指標として先行研究. 感」 , 「セルフコントロール」 , 「コミュニケーション」 ,. で測定されていること (e.g., 在原他, 2009; 浅本他, 2010; 藤. 「活動への積極的な関与」の 7 つの下位カテゴリが行動. 原, 2014; 本田他, 2009),などを考慮した。本研究のような. 面を表す項目から構成されている。対象は,幼稚園か. ソーシャルスキルと学校適応に関する指標との関連に. ら中学適齢期の子どもである。一方,我が国のソー. 着目する相関研究は,子どもの適応感の向上を目的と. シャルスキル研究において,教師評定は特別な教育的. したソーシャルスキルトレーニングのターゲットスキ. ニーズを持つ子どものソーシャルスキルの測定(e.g., 猿. ルの選定において,重要な基礎的知見を提供するもの. 渡・小島, 2010; 宇佐美他, 2011)やソーシャルスキルトレー. と予想される。. ニングの効果測定を中心に用いられてきたが (e.g., 藤. 教師評定による検討の必要性. 枝・相川, 2001; 本田他, 2009) ,通常学級の子どもを対象と. ソーシャルスキルと学級生活満足度との関連を検討. した教師評定による尺度を作成する試み自体は数少な. するにあたって,本研究では教師評定を導入する。教. い。例えば,磯部他(2006)は,通常学級の児童を対象. 師評定を導入する理由は次の通りである。ソーシャル. とした「働きかけ」,「学業」,「自己コントロール」,. スキルの測定について,学校現場では,実施が簡便で. 「仲間強化」, 「規律性」から構成される尺度を開発した. ありコストがかかりにくい自己評定が用いられること. が,当時の動向として教師評定尺度の少なさを指摘し,. が多い反面(小野寺・河村, 2003),回答が主観的になりや. 有用な評定尺度の開発は急務であると述べている。. すく社会的望ましさによるバイアスも生じやすいとい. ソーシャルスキルと学校適応との関連を検討するソー. う問題がある(相川, 2000)。一方,教師評定は,教師の. シャルスキルの相関研究でも,子どものソーシャルス. 主観的評価である側面は否めないものの,子どもの社. キルの測定には教師評定の積極的な活用が望まれてい. 会的望ましさや子ども自身の主観的評価に関するバイ. るが (藤原他, 2019),その理由は,複数人による多面的. アスの問題を一定程度回避することが可能である。そ. なアセスメントが重要であり (Erdley et al., 2010; Kraemer. して,ソーシャルスキルを概念化するにあたっては. et al., 2003),教師評定は有用な情報源の一つになり得る. 様々な立場があるが(Gresham & Elliott, 1987),ソーシャ. と考えられているからである(Bierman et al., 2010)。この. ルスキルの行動的側面を重視するならば,子ども自身. 点については,自己評定の項目と内容の一致した教師. による主観的評価ではなく,あくまで観察可能な外部. 評定の尺度が必要であり,同一尺度による複数の評定. 評価こそを重視する必要があるといえよう。この点に. 方法 (multi-informant assessment) に対応した評価ツール. 関して,対象となる児童の日頃の様子を観察している. の活用が求められている流れ(Matson & Wilkins, 2009)と. 担任教師による評定は理に適っており,自己評定と同. 本研究のねらいは合致するだろう。 本研究の目的と構成. 1. Bierman et al.(2010)の指針の留意点としては,それらのス キルや課題がその時期に重要になるだけであり,他のスキルが 不要であることを意味していない点である。例えば,青年期で は親密な仲間関係を築く上では,相手の気持ちを考えたり,仲 間関係を維持するための最低限のマナーが必要であったり,河 村(2001)の配慮のスキルに該当する内容も重視されている。. 本研究ではソーシャルスキルの測定に教師評定を導 入し,児童のソーシャルスキル(配慮のスキルとかかわり のスキル)と学級生活満足度との関連を検討することを. 目的とする。この目的を達成するため,ソーシャルス キルから学級生活満足度へのパスを仮定したモデルを,.
(4) 藤原・西村・福住・村上・河村:児童のソーシャルスキルと学級生活満足度との関係. 13. データの階層性を考慮したマルチレベル構造方程式モ. の評定を教師に依頼するが,その際には,新川・富家. デリング (multilevel structural equation modeling: multilevel. (2015) のように教師評定の尺度を実施する上での意見. SEM) によって検討する。データの階層性を考慮した. を求め,それを参考にする。彼らは,児童生徒の学. 分析を行う理由は,学級担任制を採用している小学校. 年・学校段階に応じたソーシャルスキル尺度の開発の. では,児童の学級生活満足度に対する担任教師の指導. 過程で,尺度項目の測定可能性を検討するために教師. 力が一定の影響を及ぼしており,第一種の過誤を引き. に評定を依頼したが,現場の教師からは「学校場面で. 起こす原因に成り得るデータの階層性 (本研究では学級. 観察不可能な行動が含まれている」や「意図がわかり. 間分散) が生じている可能性が高いからである (清水,. にくい項目がある」などの意見があったことも紹介さ. 2014)。また教師評定についても,一人の教師が複数の. れ,教師評定用の尺度を作成する際の留意点について. 児童を評定する場合も同様にデータの階層性が生じて. 言及している。項目の妥当性については,学級で適応. しまう。本研究では,尺度の作成に伴い,教師評定用. している児童と対人関係で心配のみられる児童を教師. のソーシャルスキル尺度の因子構造(配慮のスキルとかか. に抽出してもらい,それらの児童のソーシャルスキル. わりのスキル) を確認する必要があるが,その際はマル. 得点の差をもって確認する。作成された尺度に一定の. チレベル確認的因子分析 (multilevel confirmator y factor. 妥当性が担保されているのであれば,学級で適応して. analysis) を行う。本研究で検討するモデルを. いる児童は対人関係で心配のみられる児童よりも,. Figure 1. に示した。教師評定によるデータへのマルチレベル確. ソーシャルスキルの得点は高いことが予想される。. 認的因子分析の適用事例は少ない (e.g., Murray et al.,. 本調査では,先述のとおりマルチレベル確認的因子. 2018)。本研究による検討は当該研究領域の知見の蓄積. 分析を用いて,教師評定によるソーシャルスキル尺度. に貢献するであろう。. の因子構造(配慮のスキルとかかわりのスキル)および児童. 本研究では,まずは予備調査を実施し,教師評定用. 評定によるソーシャルスキルの項目との因子的弁別性. の項目の選定を行う。ソーシャルスキル尺度の原項目. について確認する。その後,教師評定によるソーシャ. Figure 1 本研究で検討するマルチレベル確認的因子分析モデル Level 2 (学級レベル) 児童評定による 配慮のスキル (Level 2). 児童評定による かかわりのスキル (Level 2). 教師評定による 配慮のスキル (Level 2). 教師評定による かかわりのスキル (Level 2). …. …. …. …. …. …. …. …. 児童評定による 配慮のスキル (Level 1). 児童評定による かかわりのスキル (Level 1). 教師評定による 配慮のスキル (Level 1). 教師評定による かかわりのスキル (Level 1). Level 1 (個人レベル). 注) 各因子は 5 項目から構成されている。見易さを重視するために一部の項目および全ての誤差項を省略している。 双方向の矢印は因子間相関を表している。 L1:Level 1 L2:Level 2.
(5) 14. 教 育 心 理 学 研 究 第 69 巻 第 1 号. ルスキル得点と児童評定によるソーシャルスキル得点. 定用の項目の実施可能性について改めて検討した。. との関連を検討するが,その際は,クロスインフォー. ソーシャルスキルの研究を専門とする研究者 4 名に. マントに関する評定間の関連について言及した. よって,教師による観察可能性の観点から 30 項目に対. Gresham et al.(2010)の研究や Renk & Phares(2004)の. して評定が実施され,評価の高かった項目がリスト. メタ分析の結果が一定の基準となろう。前者の研究に. アップされた。その上で,SSIS-RS で設定されている. よると,教師評定と子どもによる自己評定の相関係数. 下位カテゴリ(協調,主張,責任,共感,セルフコントロール,. は .21 であり,後者では . 25 であることが報告されて. コミュニケーション,活動への積極的な関与)を参照しつつ,. いる。これらを確認した後,教師評定によるソーシャ. それらが網羅されるよう配慮のスキルとかかわりのス. ルスキルと児童評定による学級生活満足度との関連を. キルを,それぞれ 5 項目抽出した。可算平均得点を用. 検討する。西村他(2017)が示した配慮のスキルは被侵. いて,これらの各 5 項目と教師評定では使用しない残. 害感と,かかわりのスキルは承認感と関連することを. りの項目から構成される得点との相関係数を算出した. 仮定したモデルを作成し,その後,適合度を参照しな. 結果,配慮のスキルは r=.92(p<.001),かかわりのス. がら,探索的にモデルに改善を加えていくこととした。. キルは r=.79(p<.001) であった。また,学級で適応. 予備調査 目的. している児童と対人関係で心配のみられる児童の配慮 のスキルの平均得点は,それぞれ順に,3.67(SD= 0.42)と. 2.82(SD=0.82)であり,それらの得点に差が. 河村(2001)が作成したソーシャルスキル尺度から教. みられた(差得点 0.85,95% CI=[0.43, 1.27],t=4.13,df=. 師評定に用いる項目を選定することであった。. 28.44,p<.001,Cohen's d=1.30) 。同様に,かかわりのス. 方法. キルの平均得点は,それぞれ順に,3.55(SD=0.38)と. 調査対象と内容 関東圏の公立小学校 1 校の 5 名の. 3.04(SD=0.60)であり,それらの得点にも差がみられ. 担任教師であった(男性教師 3 名,女性教師 2 名)。平均年. た(差得点 0.51,95% CI=[0.19, 0.83],t=3.22,df=32.00,. 齢は 29.2 歳であり,平均教師経験年数は 3.6 年であっ. p=.003,Cohen's d=1.02) 。また,それぞれの項目に対す. た。まず,担当する学級に在籍する児童の中から,学. る得点差の効果量は,配慮のスキルが 0.90―1.52,か. 級で適応していると児童と対人関係で心配のみられる. かわりのスキルが 0.41―1.24 であった。これらの結. 児童,男女それぞれ 2 名ずつ抽出を求めた(各学級 8 名,. 果から,教師評定による配慮のスキルとかかわりのス. 計 40 名) 。次に,抽出された児童に対して,河村(2001). キルの測定に関して,選択された項目には一定の代表. が作成したソーシャルスキル尺度の 30 項目にもとづ. 性と外的基準による妥当性が担保されていることが確. き,4 段階評定(1:ほとんどしていない,2:あまりしていな. 認された。. い,3:ときどきしている,4:いつもしている)で回答を求め. 本 調 査. た。また同時に,教師評定の実施に関する留意点など についての聞き取り調査も行った。なお,児童の抽出. 目的. にあたって,不適応の児童ではなく,対人関係で心配. 教師評定による児童のソーシャルスキルと児童評定. のみられる児童という尋ね方にした理由は,断定的な. による学級生活満足度との関連を検討することであっ. 表現が倫理的問題に抵触する恐れがあると調査協力校. た。. から指摘されたからである。. 方法. 手続きと倫理的配慮 担任教師に調査を依頼し,回. 調査対象 関東圏の公立小学校 7 校の 41 学級に在籍. 答は強制ではなく回答しなくても不利益を被らないこ. する児童 4 年生から 6 年生を対象に質問紙調査が実施. と,また聞き取り調査の結果も含め個別の結果につい. された。当該学級に在籍する児童は合計で 1,147 名で. ては,管理職が確認することはないことなどが説明さ. あり,その中から 1,133 名 (男子 598 名,女子 535 名) の. れた。実施の際には,デモグラフィックデータとして,. 回答が得られた (平均年齢は 10.71 歳)。内訳は,4 年生. 性別と年齢,教師経験年数が尋ねられた。以上の手続. 405 名 (男子 216 名,女子 189 名),5 年生 353 名 (男子 186. きについて,校長の許可を得た。. 名,女子 167 名),6. 結果と考察. であった。1 学級あたりの児童の平均人数は 27.63 人. 担任教師からは少ない項目数が望ましいとの意見や 評定の難しい項目について指摘があったため,教師評. 年生 375 名 (男子 196 名,女子 179 名). (範囲:18―37)であり,欠測値のない完全回答は. 1,123. 名の児童から得られた。なお,マルチレベル構造方程.
(6) 藤原・西村・福住・村上・河村:児童のソーシャルスキルと学級生活満足度との関係. 式モデリングにおいて,本研究ではレベル 2 を学級レ ベルとした。McNeish &. Stapleton(2016)を参照する. 15. ない,2:あまりしていない,3:ときどきしている,4:いつも している) による回答を求めた。同様に,Table. 1 には. と,41 という学級数はレベル 1(すなわち個人レベル)の. 実施された 10 項目の平均値と標準偏差および級内相関. 固定効果の推定に対しては十分な数であると判断でき. 係数を示した。. る。. 手続きと倫理的配慮 学級生活満足度尺度は公刊さ. 教師評定による児童のソーシャルスキルについては,. れている心理検査であり,図書文化社から購入した。. 41 学級の担任教師から回答が得られた(男性教師 21 名,. 質問紙本体の表紙には,学年と性別,出席番号の欄が. 女性教師 20 名) 。41. あり,それらの記入を求めた。また,学級生活満足度. 名の教師の平均年齢は 36.51 歳,平. 均教師経験年数は 10.76 年であった。. 尺度と同時に,ソーシャルスキルに関する質問紙が実. 調査内容 (a)ソーシャルスキル(教師評定): 予備調. 施された。学級生活満足度尺度および教師評定による. 査で抽出された 10 項目に対して,4 段階評定(1:ほと. ソーシャルスキルの結果とデータを照合するため,学. んどしていない,2:あまりしていない,3:ときどきしている,. 年と性別のほかに出席番号の記入を求めた。調査の実. 4:いつもしている)で回答を求めた。Table. 1 には実施さ. 施においては担任教師により以下の 3 点が調査参加者. れた 10 項目の平均値と標準偏差および級内相関係数. に伝えられた。それらは,この調査は学校の成績に関. (intra-class correlation coefficient: ICC)を示した2。 (b)学級. 係がないこと,回答は強制ではなく回答しなくても不. 生活満足度尺度 (児童評定) : 河村・田上 (1997) が作成. 利益を被らないこと,個人のプライバシーは守られる. した尺度を用いた。この尺度は「承認感」と「被侵害. こと,であった。. 感」の 2 因子で構成され,それぞれ 6 項目によって測. 教師評定によるソーシャルスキルについては,担任. 定される。4 段階評定 (1:まったくあてはまらない,2:あ. 教師に評定を依頼し,児童の調査と同様に,回答は強. まりあてはまらない,3:少しあてはまる,4:とてもあてはまる). 制ではなく回答しなくても不利益を被らないこと,ま. による回答を求めた。(c)ソーシャルスキル (児童評. た個別の結果については管理職が確認することはない. 教師評定によるソーシャルスキル尺度の妥当性の. こ と な ど が 説 明 さ れ た。実 施 の 際 に は,デ モ グ ラ. 一部およびマルチレベル因子分析における因子的弁別. フィックデータとして,性別と年齢,教師経験年数が. 性を確認するために,児童に対しても上述した 10 項目. 尋ねられた。以上の手続きについては,すべて各学校. について評定を求めた。4 段階評定 (1:ほとんどしてい. 長の許可を得た。. 定):. 解析ソフトと欠測値について 平均値と標準偏差,. Table 1 本研究で用いた項目の平均値と標準偏差および級内相 関係数. 統計ソフトウェア環境である R 3.4.4 を,マルチレベ ル構造方程式モデリングは Mplus ver. 7.11(Muthén &. 教師評定. Muthén, 1998-2012)を用いて行った。. 児童評定. M. SD. ICC. M. SD. ICC. 配慮のスキル 項目 1 項目 2 項目 3 項目 4 項目 5. 3.17 3.10 3.49 3.21 3.45. 0.81 0.78 0.71 0.74 0.70. .124 .173 .191 .123 .226. 3.68 3.35 3.48 3.59 3.66. 0.55 0.70 0.67 0.64 0.57. .027 .049 .057 .043 .032. かかわりのスキル 項目 6 項目 7 項目 8 項目 9 項目 10. 3.21 2.78 2.88 3.12 2.85. 0.81 0.79 0.83 0.80 0.89. .192 .191 .264 .226 .207. 3.29 2.85 3.03 3.20 2.82. 0.81 0.82 0.88 0.95 0.91. .022 .038 .022 .025 .033. 欠測回答への対応について,近年,多重代入法(multiple imputation method)や完全情報最尤推定法(full-informa-. ICC:級内相関係数(intra-class correlation coefficient) 2. 信頼性係数の算出および相関分析はオープンソースの. 本研究で使用した 10 項目は,標準化された心理検査である hyper-QU(図書文化社)の一部である。項目の内容については 第一著者に問い合わせのこと。. tion maximum likelihood method) による欠測値処理が薦め. られているが,本研究では多重代入法を選択した。こ の理由は,完全情報最尤推定法ではマルチレベル構造 方程式モデリングを行なう際に,独立変数に欠測のあ るデータが分析からデフォルトで除外されてしまうか らである。また,データの階層性を無視して欠測値処 理を行ってしまうと級内相関係数や回帰係数の推定に バイアスが生じるため (Lüdtke et al., 2017),階層性を考 慮した形で疑似データセットを作成した (疑似データは 20 個)3。マルチレベル構造方程式モデリングではこの 3. 欠測値処理の Mplus 上のコードについては,http://www. appliedmissingdata.com/multiple-imputation-multile.html に公 開されているものを用いた。.
(7) 16. 教 育 心 理 学 研 究 第 69 巻 第 1 号. データセットを用いた。なお,本調査では,調査が途. スキルとかかわりのスキルの因子間相関は .80 であり,. 中で打ち切られたという報告はなく,調査実施時には. 教師評定における配慮のスキルとかかわりのスキルの. 児童が回答するための十分な時間が保障されていた。. 因子間相関は .99 とそれらの値は極めて高かった。こ. そのため,特定の学級でアンケートへの回答が遅い児. の結果は教師評定と児童評定ともに,学級レベルでは. 童のデータがある時点から欠測値になるなどの事態は. 配慮のスキルとかかわりのスキルを 1 つの因子として. 生じておらず,ランダム欠測(missing at random)の仮定. 仮定したモデルの方が妥当であることを示していると. はおおよそ成立していると判断した。. 考えられる。ただし,本研究では,学級レベルに関し. 結果と考察. て教師評定と児童評定における両スキルの相関係数に. マルチレベル確認的因子分析 まず,ソーシャルス. 関心はあるものの,中心的な関心はあくまで個人レベ. キルを測定する 10 項目に対して児童評定と教師評定の. ルの結果にある。そのため,潜在変数を用いたマルチ. 回答を用いて,4 因子を想定したマルチレベル確認的. レベル回帰分析では,学級レベルに関するモデルの修. 2 =1534.77 因子分析を行なった。適合度指標は,χ(318). 正は加えず,このまま 2 つの因子を想定した解析に進. (p<.001) , CFI=.862,. RMSEA=.058,であった。また. むこととした。. SRMR については個人レベルでは .088 であった。個. 尺度の信頼性係数および基本統計量,相関関係 尺. 人レベルの結果を Table 2 に示した。因子負荷量を参. 度の信頼性を検討するために,R 3.1.0 上の MBESS. 照すると,すべての項目において .40 以上の値が確認. パッケージの関数 ci.reliability()を用いて,hierarchical. されたため,それぞれの項目が想定した因子に対応し. ω 係数(Kelley & Pornprasertmanit, 2016)とその標準誤差お よび 95%信頼区間を算出した。ブートストラップの回. ていると判断した。この結果から,児童評定と教師評 定によるソーシャルスキルの得点は因子的に弁別され ることが確認された。. 数は 1,000 回とした。Kelly & Pornprasertmanit(2016) のシミュレーション研究によると,McDonald's ω は項. 一方で,学級レベルの結果は,すべての項目におい て .50 以上の負荷量が確認されたものの,SRMR の値. Table 3. は .197 であり,データと仮定したモデルの当てはま. 本研究で用いた尺度の ω 係数とその標準誤差,95%信. りの良さには疑問の残る結果となった 。まず,学級レ. 頼区間. 4. ベルでの教師評定と児童評定における配慮のスキルの 因子間相関は .36,かかわりのスキルの因子間相関は. 配慮のスキル(教師評定) かかわりのスキル(教師評定) 配慮のスキル(児童評定) かかわりのスキル(児童評定) 承認感 被侵害感. .70 であり,これらの値は尺度の妥当性を支持する結 果の一つともいえる。一方,児童評定における配慮の Table 2 マルチレベル確認的因子分析の結果(個人レベル) 項目. 教師評定. 児童評定. F1. F2. F3. F4. 配慮のスキル 項目 1 項目 2 項目 3 項目 4 項目 5. .79 .80 .78 .70 .71. ― ― ― ― ―. .60 .65 .66 .57 .54. ― ― ― ― ―. かかわりのスキル 項目 6 項目 7 項目 8 項目 9 項目 10. ― ― ― ― ―. .72 .45 .78 .74 .67. ― ― ― ― ―. .58 .66 .71 .62 .64. .11. .46 .06. .16 .43 .57. 因子間相関 F1 F2 F3. ω. SE. 95% CI. .87 .83 .75 .78 .81 .82. 0.006 0.007 0.011 0.010 0.008 0.009. [.86, .88] [.82, .85] [.73, .78] [.76, .80] [.80, .83] [.80, .84]. SE:標準誤差(standard error) CI:信頼区間(confidence interval) 4. Ulitzsch et al.(2017)のマルチレベル因子分析に関するシミュ レーション研究によると,レベル 2 の因子間の相関関係が強い ほど(1 因子に近づくほど),また,レベル 2 のクラス数が小さ いほど,レベル 2 の SRMR の値には上方バイアス(値が大きく なる傾向)が生じることが明らかにされている。本文中に示し たとおり,学級レベルでの配慮のスキルとかかわりのスキルの 教師評定と児童評定の因子間相関は,それぞれ.80 以上と極め て高く,1 次元性を仮定することもできるため,上方バイアス がかかっている可能性が高い。なお,Ulitzsch et al.(2017)で は,ある個人に対して複数の評定者が,その個人の特性を評定 するという設定の上でシミュレーションを行なっている。すな わち,レベル 1 が評定者,レベル 2 がターゲットとなる個人で ある。一方,本研究では,レベル 1 が個人(児童),レベル 2 が学級である。扱っているデータの階層性は異なるが,その基 本的構造は同じである。.
(8) 藤原・西村・福住・村上・河村:児童のソーシャルスキルと学級生活満足度との関係. 17. Table 4 本研究で用いた尺度の平均値と標準偏差,95%信頼区間および相関係数 a.配慮のスキル(教師評定) b.かかわりのスキル(教師評定) c.配慮のスキル(児童評定) d.かかわりのスキル(児童評定) e.承認感 f.被侵害感. M. SD. 95% CI. 3.29 2.97 3.55 3.04 3.15 1.55. 0.60 0.64 0.45 0.64 0.58 0.59. [3.25, 3.33] [2.93, 3.01] [3.52, 3.58] [3.00, 3.78] [3.12, 3.18] [1.52, 1.58]. a. b. c. .29***. .37*** .14***. d. e. f. .18*** .22*** -.15*** .20*** .36*** .22*** -.12*** .38*** .11* .47*** .43*** -.23*** .16*** .37*** .45*** .57*** -.27*** .19*** .18*** .39*** .56*** -.48*** -.14*** -.12** -.21*** -.26*** -.47***. 注) 上三角行列にはデータの階層性を考慮していない通常の相関分析の結果を,下三角行列にはデータの階層性を考慮した マルチレベル相関分析の結果を示した。 CI:信頼区間(confidence interval) *p<.05 **p<.01 ***p<.001. 目間の誤差相関が存在するときに,推定値にバイアス がかかることが明らかにされており,hierarchical ω と. (2017) が示した配慮のスキルは被侵害感と,かかわり. その信頼区間を提示することが薦められている。結果. 2 =2043.42(p た。このモデルの適合度指標は,χ(408). については,Table 3 に示したとおり,十分な内的一貫. <.001),CFI=.846,RMSEA=.059,AIC=49178.06,. 性に関する値が得られたため,加算平均得点を尺度得. BIC=49781.97 であった。また,モデル間の統計的な. 点として用い,平均値とその 95%信頼区間,標準偏差. 差異を調べるために,χ2 値の差の検定を行った結果,. を算出した。さらに相関係数を算出した。これらの結. 2 =20.27,p<.001) 。変数間 5%水準で有意であった(χ(2). 果については Table 4 に示した。上三角行列にはデー. の関連に注目すると,仮説通り,かかわりのスキルは. タの階層性を考慮していない場合の相関係数を,下三. 承認感と正の関連が,配慮のスキルは被侵害感に対し. 角行列にはデータの階層性を考慮したマルチレベル相. て負の関連がみられた。このモデルを基準にモデルの. 関分析による結果を示した。教師評定によるソーシャ. 改善を試みた結果,配慮のスキルから承認感に対して. ルスキル尺度と児童評定によるソーシャルスキル尺度. パスを仮定した場合にモデルの改善がみられた。この. については,配慮のスキルとかかわりのスキルのどち. 2 =2000.19(p<.001), モデルの適合度指標は,χ(407). のスキルは承認感との関連を仮定したモデルを作成し. らとも正の相関係数が確認された。また教師評定に. CFI=.850,RMSEA=.059,AIC=49144.98,BIC=. よって測定されたソーシャルスキルと学級生活満足度. 49753.93 であり,モデル間の差は 5%水準で有意で. との関連については,どちらのスキルとも承認感と正. 2 =43.23,p<.001) 。ま た,個 人 レ ベ ル の あ っ た (χ(1). の関連,被侵害感と負の関連を示していた。. SRMR は .084 であった。Figure 2 に非標準化解の結. 潜在変数を用いたマルチレベル回帰分析 教師評定. 果を示した。配慮とかかわりの両方のスキルと承認感. によるソーシャルスキルと児童評定による学級生活満. との関連および配慮のスキルと被侵害感との関連が確. 足度との関連を検討するために,最尤法による潜在変. 認された。ただし,承認感と被侵害感の決定係数(R2). 数を用いたマルチレベル回帰分析を行った。その際,. の値は,それぞれ .06(SE=0.02,p=.001)と .03(SE=. 配慮のスキルとかかわりのスキルがともに 5 項目,承. 0.01,p=.016)であり,効果量は小さかった。なお,学. 認感と被侵害感がそれぞれ 6 項目から潜在変数化され. 級レベルの結果については SRMR の値が .181 であった。. た。これらの項目の級内相関係数は,承認感を構成す. また,学級レベルの承認感と被侵害感の決定係数(R2). る 項 目 で .025―.116,被 侵 害 感 を 構 成 す る 項 目 で .016―.076 で あ っ た。Musca et. al.(2011)や. Huang. の値は,それぞれ .39(SE=0.20,p=.057)と .07(SE= 0.13,p=.586)であり共に. 5%水準で有意ではなかった。. (2018)の見解や本調査で取得したデータセットの構造 (クラス数やクラスサイズなど)を考慮すると,これらの値. はマルチレベル構造方程式モデリングの導入が推奨さ れる大きさであると判断した5。 2 =2063.69 まず Null モデルの適合度指標は,χ(410). ( p <. 0 0 1 ), C F I =. 8 4 4 , R M S E A =. 0 6 0 , A I C =. 49198.34,BIC=49792.19 で あ っ た。次 に,西 村 他. 5. 一般的に,教育現場における調査において,級内相関係数 は .05 から .20 の値が報告されることが多いが(Hedges & Hedberg, 2007),理論式から推測できるように .05 よりも小さ い値が得られることはある。その一方で,近年の研究では,0 よりもわずかに大きい級内相関係数でも(例えば .01),第一種 の過誤の問題が高まることを考慮しなければならないとする主 張がみられるようになってきた(Huang, 2018)。.
(9) 18. 教 育 心 理 学 研 究 第 69 巻 第 1 号. Figure 2 潜在変数を伴うマルチレベル回帰分析の結果(個人レベル) 教師評定による 配慮のスキル. .15***(0.02). d1. 承認感. -.20***(0.04). .04(0.03). 教師評定による かかわりのスキル. -.15***(0.01). .10***(0.03). 被侵害感. d2. 注) 非標準化解の結果を示した。括弧の中の値は標準誤差である。 ***p<.001. られている。近年の議論では,この不一致は,妥当性. 考 察. のなさではなく,測定の文脈の要因によるものである. 本研究では,教師評定による児童のソーシャルスキ. と積極的に解釈されることが多い (e.g., Kraemer et al.,. ルと児童評定による学級生活満足度との関連が検討さ. 2003)。また,De. れた。予備調査をふまえて教師評定用の項目が選定さ. 文脈とは具体的に(a)その行動を観察する文脈の中で. れ,本調査で行われたマルチレベル確認的因子分析に. の情報提供者の違い(例えば,本人であるか教師であるか),. よって教師評定と児童評定のソーシャルスキルの得点. と(b)その行動をする本人が行動評定される文脈で. Los Reyes et al.(2013)では,測定の. が因子的に弁別されることが示された。そして潜在変. 表出する行動の違い(例えば,友だちの前なのか先生の前な. 数を用いたマルチレベル回帰分析によって,両変数の. のか),の二つによって説明されるとし,むしろ様々な. 関連が検討された。教師評定によるソーシャルスキル. 文脈での測定が推奨されている。これらの指摘をふま. および児童評定による学級生活満足度には,データの. えれば,本研究におけるソーシャルスキルの教師評定. 階層性を考慮した適切な解析が求められる程度の級内. は,まず自己評価との関連においては他の他者評定尺. 相関係数の値が報告され,マルチレベル構造方程式モ. 度と同等に基準関連の妥当性という意味において妥当. デリングを導入する必要性も再確認された。以下に,. であるといえる。そして,自己評定と組み合わせるこ. 本研究の成果を整理する。. とによって様々な文脈を捉えるという意味において,. 本研究の成果. より有効な測定の実現可能性を示したと考えられる。. まず,マルチレベル確認的因子分析を用いて,配慮. 予備調査で得られた学級で適応していると児童と対人. つの因子(児童評定と. 関係で心配のみられる児童の教師評定の得点差に関す. 教師評定をあわせると計 4 因子)を想定したモデルを検討し. る結果もあわせると,本研究で作成した教師評定によ. た。その結果,児童評定と教師評定で使用された尺度. るソーシャルスキル尺度に関しては,十分な妥当性に. 項目は共に,配慮のスキルとかかわりのスキルの 2 因. 関する証拠が提出されたといえよう。. 子に分かれることが明らかになった。そして,教師評. 次に,潜在変数を用いたマルチレベル回帰分析を. 定と児童評定の相関係数は .36―.38 であり,効果量. 行った結果,教師評定によるソーシャルスキルは児童. は小から中の間であった。これは Gresham et al.(2010). 評定による学級生活満足度と関連していたことが明ら. や Renk & Phares(2004)で報告されている自己評定と. かになった。具体的には,配慮のスキルとかかわりの. 教師評定の相関係数(それぞれ順に,.21, .25)とほぼ同水. スキルは承認感と正の関連が,配慮のスキルは被侵害. 準であった。この関連の解釈には慎重になる必要があ. 感と負の関連が確認された。ここで注目すべき結果と. るが,自己評定と教師評定に代表される他者評定に関. して,かかわりのスキルだけではなく,配慮のスキル. しては,例えば,行動問題や情緒的問題 (Achenbach et. に承認感との正の関連が確認された点である。この点. al., 1987) ,あるいは内在化問題や外在化問題(Achenbach. については,子どもの行動特徴がその環境にふさわし. et al., 2005) においても同程度の相関であることが示さ. いものであるほど,仲間や教師からの正の強化を多く. れており,一定の不一致(discrepancy)があることが知. 受けることが指摘されているが (大対他, 2007),先述し. のスキルとかかわりのスキルの 2.
(10) 藤原・西村・福住・村上・河村:児童のソーシャルスキルと学級生活満足度との関係. 19. たように小学校の段階では,仲間や集団の中で対人関. れがちであったが,子どもの学校適応問題に対するよ. 係上の基本的なマナーに関連したソーシャルスキルの. り確かな知見を提出するという目的において,今後さ. 使用が求められている(河村, 2003)。小学生段階では,. らなる活用が望まれるであろう。そのためにも,以下. 配慮のスキルに関連した行動が求められていると推察. に本研究の限界について記し,教師評定を用いた研究. されるため,配慮のスキルを使用することで他者から. を進める上での注意事項を読者と共有しておく。まず,. 正のフィードバックを得る機会が多くなったものと考. マルチレベル構造方程式モデリングの結果について,. えられる。したがって,配慮のスキルと承認感に正の. 決定係数が低かったことについてである。つまり,個. 関連が示されたと考えられる。. 人レベルで,教師評定によるソーシャルスキルと児童. これらの結果をふまえると,本研究からは以下の教. 評定による学級生活満足度に関連はみられるものの,. 育的示唆が得られる。それは,学級生活満足度はいじ. その関連は限定的であるということに注意する必要が. めや不登校などの生徒指導上の課題と関連しているた. ある。この結果については,例えば,教師は自身が不. め(河村・田上, 1997),教師から見てソーシャルスキルの. 適切であると考える行動をしている子どもは,友人か. 使用が乏しいと判断された児童は,上記のような課題. ら受容されにくいと考える傾向があるが (Erdley et al.,. を抱えやすい傾向にあることが明らかにされたことで. 2010),そのような行動をしていても,友人からは受容. ある。そして,ソーシャルスキルの使用に注目する際. されている場合もあること (Bierman et al., 1993) などか. には,対人関係のマナーや相手への気遣いといった言. ら一定の解釈が可能であろう。また,この点に関連し. 動に関連している配慮のスキルに,特に注意を向ける. て,学級レベルのモデルにおいては,十分な結果が得. 必要があるだろう。学校生活において,教師が児童の. られていない点にも言及せねばならない。上述したよ. 様子を注意深く観察することは重要ではあるが,その. うに教師評定には教師の主観的バイアスが存在し,特. 際に,自己主張などの能動的な言動に注目しがちであ. に学級レベルの結果に関しては,その解釈が非常に難. ると指摘されている(近藤, 1994)。そのため,配慮のス. しくなる。学級レベルの分散 (学級間分散) は,教師評. キルよりも,能動的な行動と関連しているかかわりの. 定による児童のソーシャルスキルの学級間分散である. スキルの使用に注目しやすい可能性があると推察され. と共に,教師個人の評定の個人差が反映されている可. る。しかしながら,本研究の結果からは,対人関係の. 能性も否定できないからである。例えば,児童のソー. マナーや気遣いといったどちらかというと教師にとっ. シャルスキルを厳しく評定する教師とそうではない教. て注目しづらいと思われる行動こそが,適応的な学校. 師という評定傾向に対する個人差が学級レベルの分散. 生活を過ごす上で重要であると指摘することができる。. を生み出しているかもしれない。さらには,教師自身. したがって,ソーシャルスキルという観点からは,小. の疲労 (バーンアウト) や学級内での子どもの問題傾向. 学校の段階では,配慮のスキルの重要性を意識した教. に対応できているかという効力感も教師の評定に関連. 育実践の展開が求められると考えられる。そして,学. することが報告されている(Pas & Bradshaw, 2014)。他に. 級によってニーズは異なるが,ソーシャルスキルト. も,学級レベルの結果が安定しなかった原因としては,. レーニングの実践においては,まずは配慮のスキルを. クラス数が少なかったことも考えられる。本研究では. ターゲットスキルとして選択することの重要性が確認. 一定の基準を満たすクラス数は確保された上で検討が. されたといえよう。配慮のスキルと同等にかかわりの. 行われたが (McNeish & Stapleton, 2016 を参照),結果を安. スキルの指導も必要であることには変わりはないが,. 定させるためには,さらにクラス数を確保した大規模. かかわりのスキルというのは,相手から受け入れられ. な調査が必要である。. てはじめて対人関係上の意味を成すものであろう。配. 本研究の限界としてもう一つ指摘しておくべきこと. 慮のスキルの育成は,他者からのかかわりを受け入れ. は,教師評定で用いた項目数が少なく,かつ内容の偏. る環境の構築そのものである。学校適応や不適応の問. りが生じている点についてである。ソーシャルスキル. 題に取り組むにあたっては,小学校では以上のことに. と学級生活満足度との関連は,選定された尺度項目の. 留意すると,より良い教育実践に繫がるのではないだ. 特徴,すなわち外部からの行動が観察可能な項目とい. ろうか。. う特徴が反映された結果である可能性は否定できない。. 本研究の限界と今後の展開. そして本研究では,現場の教師の意見をもとに項目数. これまで教師評定の導入は,子どもの主観的評価に. の少ない尺度を作成して検討を行ったが,このような. 関するバイアスの問題を回避するといった面に注目さ. 取り組みは,我が国で用いられている既存尺度の内容.
(11) 20. 教 育 心 理 学 研 究 第 69 巻 第 1 号. の偏りを指摘し,ソーシャルスキル尺度の網羅性の重. キル研究の文脈の中で,児童のソーシャルスキルと学. 要性を説いた安達(2013)の指針とは相容れないもので. 級生活満足度との関連を,教師評定を用いて検討した. ある。この点については,本研究の限界として認めざ. 貴重な研究である。この検討を通して,教師評定デー. るを得ないが,原尺度と選択された項目の相関係数が. タや学級間差を含むデータに対する適切な解析を,マ. 高いことを予備調査で確認したこと,およびマルチレ. ルチレベル構造方程式モデリングを導入することに. ベル構造方程式モデリングで潜在変数を導入したこと,. よって示すことができた。児童生徒の問題行動や不登. 以上の 2 点によって,この問題に対する一定の解決が. 校等の諸問題に対するソーシャルスキル教育の意義を. 計られたことについては強調しておきたい。. 確実なものにしていくためにも,自己評定によるソー. その上で今後の展望として,以下の 2 点を挙げる。. シャルスキルへの依存からの脱却は長年にわたる課題. 第 1 に,ソーシャルスキルの社会的妥当化の命題に関. であった6。ソーシャルスキルと社会的結果および広範. する社会的結果について様々な変数を用いた検討の必. 囲な学校適応との関連を検討する相関研究においても,. 要性についてである。本研究では社会的結果および広. 今後は自己評定だけではなく教師評定などをあわせた. 範囲な学校適応の指標の一つとして学級生活満足度に. 多面的な測定が期待されるであろう。我が国のソー. 注目し検討を行った。しかしながら,社会的結果とし. シャルスキル研究には長い歴史があるが,本研究がこ. ては,Gresham(1986)で挙げられている仲間受容感や. のような研究の流れのきっかけとして,数年後に位置. 人気度,学業達成などの変数をはじめ,他にも自尊感. づけられるのであれば幸いである。. 情や孤独感,抑うつなどの,ソーシャルスキルトレー. 引用文献. ニングにおける般化効果のターゲットと成り得る変数 が多々ある。また,磯部他(2006)では教師評定を用い. Achenbach, T. M., Krukowski, R. A., Dumenci, L., &. て児童の問題行動などとの関連が調べられている。こ. Ivanova, M. Y.(2005) . Assessment of adult psychopa-. のように自己評定だけでなく,外部評定なども交えな. thology: Meta-analyses and implications of cross-. がら社会的結果に対する指標を測定し,知見を蓄積し. informant correlations. Psychological Bulletin, 131(3),. ていく必要がある。第 2 に,縦断的視点による検討の. 361-382. https://doi.org/10.1037/0033-2909.131.3. 361. 必要性である。本研究ではある横断的視点からソー シャルスキルと学級生活満足度との関連について検討. Achenbach, T. M., McConaughy, S. H., & Howell, C. T.. したが,教師評定によって測定されたある時点での子. . Child/adolescent behavioral and emotional (1987). どものソーシャルスキルの個人差が,後の学校適応や. problems: Implications of cross-informant correlations. 不適応の個人差をどの程度予測するのかに関する縦断. for situational specificity. Psychological Bulletin,. 的検討が必要になろう。この検討によって,予防教育. 101 (2), 213-232. https://doi.org/10.1037/0033-2909.. で主張されている早期対応の重要性,そして将来子ど. 101.2.213. もが抱えうる学校適応や不適応の問題に対して,どの. . 子どもを対象としたソーシャルスキ 安達知郎(2013). ようなソーシャルスキルを指導すれば良いのかが明確. ル尺度の日本における現状と課題―ソーシャルスキ. になると考えられる。また,Bierman et al.(2010)や新. ル教育への適用という視点から 教育心理学研究,. 川・富家(2015)が指摘しているように,学校段階で重. 61 (1), 79-94. https://doi.org/10.5926/jjep.61.79. 要とされるソーシャルスキルの内容は変わってくる。. . 人づきあいの技術 サイエンス社 相川 充(2000). そうであるならば,必然的に,学校段階や時間経過と. 在原理沙・古澤裕美・堂谷知香子・田所健児・尾形明. ともに教師評定によるソーシャルスキルと学級生活満 足度との関連は変容するであろう。藤枝(2014)が指摘 しているように,子どもが学習する必要性の高いソー シャルスキルを発達という観点から整理することは, 教育実践において学習目標とすべきソーシャルスキル の選定基準を提示にすることに繫がるはずである。さ らなる検討が待たれる。 これらのような限界と課題はみられるものの,本研 究は,通常学級に通う児童を対象としたソーシャルス. 6. 自己評定への依存に関する証拠として,安達(2013)のレ ビューを紹介する。この研究では,我が国で作成されたソー シャルスキル尺度がレビューされ,開発された 34 個の尺度の うち 31 個が自己評定によるものであることが報告されている。 また,学校教育におけるソーシャルスキル訓練の効果を検討し た 23 編の論文中,計 48 個の測定方法が用いられたが,自己評 定による質問紙が 19 個と最も多いことも報告されている。さ らに独自のチェックリストを用いた研究は 14 個あったものの, そのうちの半数にあたる 7 個が自己評定によるものであること が報告されている。.
(12) 藤原・西村・福住・村上・河村:児童のソーシャルスキルと学級生活満足度との関係. 子・竹内博行・鈴木伸一(2009). 小学校における集. 21. の社会的スキル訓練の効果に関する実験的検討 教. 団社会的スキル訓練が対人的自己効力感と学校生活. , 371-381. https://doi.org/10. 育 心 理 学 研 究, 49 (3). 満足度に及ぼす影響 行動療法研究, 35(2), 177-. 5926/jjep1953.49.3_371. 188.. . 中学生に対する学級単位の集団ソー 藤原和政(2014). 浅本有美・国里愛彦・村岡洋子・在原理沙・堂谷知香. シャル・スキルトレーニングの効果に関する研究―. 子・田所健児・伊藤大輔・伊藤有里・佐々木美保・. 学級環境に着目した検討 学級経営心理学研究,. 尾形明子・鈴木伸一(2010). 小学校 1 年生に対する. , 75-85. 3(1). 集団社会的スキル訓練の試み―取り組みやすく,動. . 藤原和政・西村多久磨・福住紀明・河村茂雄(2019). 機づけを高める集団 SST プログラム 行動療法研究,. 視点取得はソーシャルスキルの変化を予測するか―. 36 (1), 57-68.. , 562-570. 親和動機の調整効果 心理学研究, 89 (6). Bierman, K. L., Smoot, D. L., & Aumiller, K.(1993). Characteristics of aggressive-rejected, aggressive. https://doi.org/10.4992/jjpsy.89.17051 Gresham, F. M.(1986) . Conceptual and definitional. , and rejected(nonaggressive)boys. (nonrejected). issues in the assessment of children's social skills:. Child Development, 64 (1), 139-151. https://doi.org/. Implications for classifications and training. Journal. 10.1111/j.1467-8624.1993.tb02900.x Bierman, K. L., Torres, M. M., & Schofield, H. L. T.. of Clinical Child Psychology, 15 , 3-15. https://doi. (1) org/10.1207/s15374424jccp1501_1. (2010). Developmental factors related to the assess-. Gresham, F. M., & Elliott, S. N.(1987) . The relation-. ment of social skills. In D. W. Nangle, D. J. Hansen,. ship between adaptive behavior and social skills:. C. A. Erdley, & P. J. Norton(Eds.), Practitioner's. Issues in definition and assessment. Journal of Spe-. guide to empirically based measures of social skills(pp.. cial Education, 21 (1), 167-181. https://doi.org/10.. 119-134). Springer. De Los Reyes, A., Bunnell, B. E., & Beidel, D. C. (2013). Informant discrepancies in adult social anxi-. 1177/002246698702100115 Gresham, F. M., & Elliott, S. N.(1990) . Social skills rating system. Pearson Assessments.. ety disorder assessments: Links with contextual. Gresham, F. M., & Elliott, S. N.(2008) . Social skills. variations in observed behavior. Journal of Abnormal. improvement system: Rating scales. Pearson Assess-. Psychology, 122(2), 376-386. https://doi.org/10. 1037/a0031150. ments. Gresham, F. M., Elliott, S. N., Cook, C. R., Vance, M. J.,. Erdley, C. A., Nangle, D. W., Burns, A. M., Holleb, L. J.,. & Kettler, R.(2010) . Cross-informant agreement for. & Kaye A. J. (2010). Assessing children and. ratings for social skill and problem behavior ratings:. adolescents. In D. W. Nangle, D. J. Hansen, C. A.. An investigation of the Social Skills Improvement. Erdley, & P. J. Norton(Eds.), Practitioner's guide to. System—Rating Scales. Psychological Assessment,. empirically based measures of social skills(pp. 69-85). Springer. Farmer, A. D., Bierman, K. L., & The Conduct Problems Prevention Research Group(2002). Predictors and consequences of aggressive-withdrawn problem. , 157-166. https://doi.org/10.1037/a0018124 22 (1) . 発達障害児へのセルフモニタリング 半田 健(2014) を取り入れた社会的スキル訓練―短期維持効果の検 , 177-187. 討 行動療法研究, 40 (3) Hedges, L. V., & Hedberg, E. C.(2007) . Intraclass cor-. profiles in early grade school. Journal of Clinical. relation values for planning group-randomized trials. Child and Adolescent Psychology, 31 (3), 299-311.. in education. Educational Evaluation and Policy. https://doi.org/10.1207/S15374424JCCP3103_02. Analysis, 29(1) , 60-87. https://doi.org/10.3102/0162. 藤枝静暁(2012). 子どもを対象としたソーシャルスキ ル教育の実践研究 風間書房. 373707299706 . 不適応状 本田真大・大島由之・新井邦二郎(2009). 藤枝静暁(2014). ソーシャルスキル教育における発達. 態にある中学生に対する学級単位の集団社会的スキ. 段階ごとの目標スキルの選択と実施時期に関する研. ル訓練の効果―ターゲット・スキルの自己評定,教. 究 カウンセリング研究, 47(4), 221-231.. 師評定,仲間評定を用いた検討 教育心理学研究,. 藤枝静暁・相川 充(2001). 小学校における学級単位. , 336-348. https://doi.org/10.5926/jjep.57.336 57 (3).
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