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徳 江和 雄 〈はじめに〉

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(1)

世帯所得分配の不平等化

一不平等化の時期区分とその要因一

徳 江和 雄

〈はじめに〉

1 データによる時期区分 H 時期区分の裏づけ 1【−A l965−80

∬−B 1980−86 皿 むすび

〈はじめに〉

戦後イギリスにおける所得分配が如何に変動し,そこに如何なる変動要因が 認められるのか。小論は,最近までの文献をもとにこの問題に対して妥当と思

われる時期区分を与え,それが如何なる要因にもとつくのかを同様に最近まで の研究成果をもとにして明らかにすることを目的としている。そして,ここか ら如何なる課題が提起されているかを整理することである。

われわれは,古くから経済理論が取り上げてきた賃金,利潤,地代という

「要素所得」(Factor income)ではなく,近年統計的に開拓されてきた「個人 所得」(personal income)の分配に焦点を当てる。 Atkinson(1983)によれ ば,これは図1のように賃金収入(earnings),投資所得,移転所得,資本受 領からなり,これから税,支出,資本移転を控除した貯蓄が期末の富に追加さ れ,次期の投資所得に貢献する。就業(労働,経営)と富所有が個人所得にとっ て決定的であることが理解される。又,所得を潜在購買力とする理論からすれ ば富(資産)価値の変動も重要であるが,データの制約によってこれの十分な

(2)

取扱は今のところなされていない(1)。ついでに,個人所得とGNP,国民所得 との関係は図2に示されている。

図1  個人所得の概念(1)

年1       年2

フロー 賃金収入 Earnings       賃金収入

+投資所得       =個人所得+移転所得

+投資所得 {移転所得等

+資本受領Capital receits 一税

一支出

一資本移転Capital transfer

ストック

=貯蓄

@ ↓

@年末の富

=初の富+貯蓄 ソース  :Atrinson(1983),P36

図2 個人所得の概念(2)

国民総生産 GNP 一減価償却

=国民所得NI 一留保会社利潤

一会社への諸課税(例,法人税)

一政府に発生する利潤

+個人への政府移転(例,年金)

+政府による利子支払い 十キャピタル・ゲイン

+帰属所得(例,自家生産)

=税引き前個人所得

ソース  :Atkinson(1983), P222

しかし個人所得に限定した場合でも,利用可能なデータの中から如何なるデー タを選択すべきであるのかが重要ポイントとなる。それによって所得変動のイ メージや時期区分が決定されるからである。1節の課題はこれであるが,H

(3)

節以降では,代表的な2論文をもとにこの時期区分の裏づけを行う。

1 データによる時期区分

個人所得のデータにかんする調査と研究はThomas Starkに負うところが 極めて大きい(2)。以下は,Stark(1989)とJenkins(Feb.1991)からの転写で,

包括的な所得分配の変動を示すものである。

図3は戦後から1980年年代中葉にかけての3種の不平等指標(ジニ係数と10 分位間比率3))を示す。ここから所得分配の不平等の変動にかんし,次の2つ の時期区分をしうる。

図3 不平等の諸指標

10分位間比率 ジニ係数       (1983=100)

0.43 120

0.42 CSO所得単位㈲ ll8

0.41 O.40

、 、

@ 、、   、    、、

@     、\

目6 P14

0.39 lI2

0.38

0.37 IlO

0.36 O.35 O.34 O.33 O.〕2 O.31

E、世舳        !        \      !!  \       !,   \\      ノ

@   \  、フルタイム女性賃金収入㈲∴

@        \\, 1>7\        、  ハ        ノ

108 P06 P04 P02 P00 X8

0.30 、  1  〆 96

029 、 A1  、    1    94

0.28

O27

フルタイム男性賃金収入㈲・、 ムヴ \ ぺ      、! 、     、 ∫      ●      、   ゾ      9

92

0.26 、,.㍉   召@、! 88

0.25 86

1945      !955      1965      !975       1985

ソース  :Stark (1989), Fig.9.1

(4)

(1)CSOの所得単位のジニ係数とフルータイム(FT)男子賃金収入の10分 位問比率から戦後から1977にかけての不平等の縮小傾向,その後1980年代中 葉にかけての不平等拡大傾向。(データについては後述)。

(2)FECの世帯所得のジニ係数から50年代末から1967にかけての不平等の縮 小傾向,その後1980年代中葉にかけての不平等拡大傾向。後者は更に1968一 73にかけての不平等拡大とその後77へかけての緩慢な縮小の時期と,78以降 80年代にかけての急激な不平等拡大期とに区分される。

いずれを選択すべきであろうか。そもそも所得の「不平等」を語ることが出 来るためには「所得取得単位」が明確で,比較可能な基礎をもつものでなけれ ばならない。これがデータ選択の基準となる。統計上では子供や退職老人は世 帯(household)の稼ぎ手(heads)から所得配分をうける立場にあるため,

文字通りの「個人別所得」のデータは,世帯内の所得配分の情報が明らかにさ れていなければ不可能であり,実際現状ではそうである。世帯の稼ぎ手が所得 源であるから,稼ぎ手の年齢,世帯の規模,ニーズ,ライフサイクル等を考慮

して同等スケールの「所得単位」を確立することが重要である(Atkinson

(1983),PP68−75)。

この点を踏まえるならば,3種のデータの特徴と所得分配の不平等の変動に かんする実証研究の成果(後述)からわれわれは(2)を選択することが妥当であ ると考える。

① まず,フルータイム(FT)男子稼得所得はNew Earning Survey

(NES)による国民所得並びに税の控除基準を上回る雇用者の賃金とサラ リーの1%サンプル調査にもとつくもので,税その他控除前の稼得であり,

90%のカバリッジである(フルータイム婦人労働者は55%)。これは図1 で見たように個人所得の全体を代表するものではない。

② また,中央統計局(CSO)データは国税当局の個人所得調査にもとづ くものであるが,1949から70年代末までは年次的に公表されてきたがそれ 以後4年毎の公表となる。データの単位が単一個人か婚姻男女かのいずれ かであるという欠陥をもつ㈲。

③ これに対しFamily Expenditure Survey(FES)データは7,000〜

12,000世帯の年次調査にもとつくもので,世帯(単一成人とその生計をと もにする家族)の粗週正常家計所得(gross weekly normal household income〔5))である。これには批判があるが6},上記のデータ選択基準の要

(5)

請により多く応えうるデータであると判断される(の。

そこでJenkins(Feb.1991)から転写した図4はRCDIW/Stark(8)のFES シリーズを示す。すなわち住宅給付にかんして1984年からのデータに修正をほ どこしたした,10分位集団の実質平均週所得を示ず9)。

図4 10分位グループ別平均実質所得,1986年価格

£/800

700 U00

   /@ /

@/@/

     /^

P \ノ1一

500       1@ ! h鞠、、  !一1

P1@       、ノ

400

   , 

@,1       , m       ●r       ,

@      一 

@       ρ ,一 一  一 309

       〆…一一_! 一… 〉〔二_/ノ

Q一一〆 _…一・一_… 一…}一

200

   .一,・一〆        ,.・ ρ島゜

@     , 9 噸 o ・ ・ .       響ノ・一

ニニゴニー一一 {〜一 一一一〜』 一一}  

100 @      層_齢_._一一一一一一一一一一一、殉_一_。一一一,一一一一一一一一一_曹__r___一一一一一一一一一、一一一 A 、_一一一一

_.._一._一._.._一._一一一一一一・一 °『、一 一一ロー 一鴨 囎隔゜唖一 一昌昌一

0 1967  1969  1971   1973  1975  等977  1979  1981  1983  1985  1987

注:粗平常週世帯所得(1984年以降,補足給付(SB)受給者の住宅給付は所得に含まれ

ない)

ソース:RCDIW/StarkのFESシリーズ, Jenkins(Feb.1991),Fig.4.

ここから次の3点が確認される。

A l967年から70年代末にかけて既に不平等化の拡大傾向が存在する。図3 のFESのジニ係数のグラフと重ねて見ると,この傾向ははっきりする。

B 同時に1967−80の期間は,1967−1973の拡大,73−77の縮小,77−80の 不平等の復活というサイクリカルな変動を伴っている。

C 不平等の拡大傾向は1980年代には一層鋭く展開される。

以上は,個人(世帯)所得の分配の変動にかんするおおまかな時期区分とし て上記(2)の内容を補強している。

(6)

H 時期区分の裏づけ

前節の時期区分②を選択することが妥当であるとすれば,これを踏まえて次 の問いが発せられよう。

(ア)戦後(あるいは戦前)から1967年にかけての所得分配における平等化傾 向は如何なる要因によるのか。

(イ)これに対し1967−70年代末における不平等化への逆転は何によるものか。

これは傾向,トレンドであるのか,あるいはサイクリカルな変動であるの か。いずれにせよ,それらの原因はなにか。

(ウ)他方,不平等化は80年代において一層鋭く展開されるが,それは何故か。

1967−79の不平等化と区別される独自な要因が認められるのであろうか。

上記3問を通して,世帯所得の変動,不平等と不平等化の測定は,つぎの3 要因の貢献度の測定を必要とするであろう。

①世帯の稼ぎ手の年齢,世帯の規模,稼ぎ手の年齢別平均所得,地域別世 帯所得という人口の統計学的要因。

②賃金・サラリー,投資所得など(労働,金融)市場経済要因。

③福祉国家による所得移転。

かかる測定が可能であるためには,これらの要因を包括しうるデータの開 発と統計技術の開発が不可欠である。上記の設問(ア)にかんする研究状況の記 述はここでは留保し別稿にゆだねざるをえない⑳。しかし設問(イ)に対しては Mookherjee&Shorrocks(1982)が,(ウ)に対してはStark(1989)が基本的 な回答を与えている。

皿一A 1965一屡980

前者,Mookherjeeらは,世帯規模の調整を行っていないFESデータを用 いているため,専ら年齢グループ別変動要因を摘出するという観点から測定を 行っている。測定方法は,タイル係数(11),平均耐数偏差(1。)などの不 平等値を,次のように同一年齢グループ内要因と年齢グループ間要因とに分解=

構成するというやり方である⑳。

11あるいは1。二同一年齢グループ内要因+年齢グループ間要因

右辺の第2項は「年齢効果」と呼ばれるが,さらに年齢構成と年齢グループ

(7)

別平均所得の2要因に分解される。これらの具体的イメージは図5,図6によっ て与えられる。

図5から,1965−1980年の期間に,一方で40代,50代世帯の減少,他方で40 才未満の若年世帯と65才以上の退職世帯の増大(これは単独年金生活者の増大 を反映する)が示される。図6からは年齢別世帯所得の変動が示される。すな わち,一方で,65才以上の退職世帯の所得の減少,他方では30代,40代世帯の 所得の増大(これは婦人の就業率の増大を反映している)があり,かくして年 齢一所得プロフィルのアーチガ鋭角化したことが示される。

図5 年令別世帯の人ロシェア

0.26 0.24

ら〃

0.22

/・

^,・ノ

0.2

O.18 O.16 O.14

     /へ\謎.…..    ノゲ

^穿㌧内,ノ      、  噌       

0.12 \・黛   7

0.1

0.08 \ノ

0.06

0−30       30−40       40−50       50−60       60−65        65十

注:人ロシェア=年令別世帯の人口÷総世帯人口

[コ = 1965    十 == 1970    〈〉= 1975    △ = 1980

ソース:Mookherlee&Shorrocks(1982),table 3

かかる年齢グループ間要因と同一年齢グループ内要因が世帯所得の総変動に 如何に貢献したのか。表1とこれを示した図7,図8並びに表2を参照された い。ここから,次の点が分かる。

(1)総変動を見ると,すでに1967年以降に不平等化の傾向,トレンドが確認

される。

(8)

図6 年令別世帯の相対平均所得

1.5

/傘蕊.〆哲ン・

L1 ,グう〆

ゼ2多/      、 ,       腰

0.8 \、

Y、.

0.7 、、 、・.

0.6 \瓦

@\ ・、

@ 、千

0.5

F

0−30       30−40       40−50       50−60       60−65        65十

注:年令別世帯の平均所得比=年令別世帯の平均所得÷総人口の平均所得

[コ=1965    十 =1970    〈〉=1975    △==1980 .

ソース:図6と同じ。

表1 総不平等の年別分解,年別

指標         1。 11

         年令グルー

N   総不平等       年令効果         プ内要因      年令グルー@         年令効果総不平等     プ内要因

1965      0.196      0.166      0.036 0.182      0.149      0.033 1966      0.194      0.162      0.032 0.181       0.152       0.030 1967      0.190      0.159      0.031 0.178       0.150       0.028 1968       0.196      0.154      0.042 0.183      0.146      0.037 1969      0.211      0.167      0.044 0.197       0.158       0.039 1970       0.215      0.170      0.046 0.195      0.154      0.041 1971       0.223       0.171       0,052 0.205      0.159      0.046 1972       0.211      0.162      0.049 0.190      0.147      0.043 1973       0.228      0.169      0.059 0.208       0.157       0.051 1974       0.226      0.170      0.055 0.206      0.156      0.049 1975      0.224      0.164      0.060 0.199      0.147      0。052 1976       0.219      0.159      0.060 0。199      0.146      0.053 1977      0.216      0.162      0.054 0.194      0.146      0.048 1978       0.217      0.160      0.057 0.196      0,146      0.051 1979      0.226      0.161      0.065 0.199      0,142      0.057 1980       0.237      0.167      0.070 0,212      0ユ51      0.061

ソース:Mookherjee&Shorrocks(1982),Table 1から。

(9)

図7 総不平等とその要因(1):平均耐数変差1。

0.24 0.22 0.2

0」8

0.16

+一小_〆一…へ〆…〜〜軟ト←ゼ+

0.14 0.12 0.1 0.08 0.06 O.04

      ,一◇

@     金一冷..◇一・ゆで◇一ゆ・一ゆ゜ 昌◇ 一◇一ザゆ

モ一一・金・..φ〆 0.02

1965     1967     1969     1971     1973     1975    1977    1979 1966     1968     1970     1972     1974     1976     1978     1980

注:□=総不平等値  +=年令グループ内要因  ◇=年令効果 ソース:Mookherjee&Shorrocks(1982), Table lから。

図8

O.22

総不平等値とその要因(2):タイル指標

0.2 0.18 0ユ6

O.14 ←・一・・一! 牢〜/脳+㌧+一躯鱈!

0.12 0」

0.08 0.06 O.04

       ..,o・・一◇

@         .φ..ゆ…◇ ・・◇ ゆ◇1㌦◇…◇◇…。...◇…◇…φ

0.02

1965     1967     1969     1971     1973     1975     1977     1979 1966     1968     1970     1972     1974     1976     1978     1980

注:□=総不平等値  +=年令グループ内要因  ◇=年令効果 ソース:図7と同じ。

(10)

表2 総不平等トレンドへの年令グループ内/間要素の変化の寄与

指標 1。 11

の変化

総不平等 年令グルー訥 年令効果 総不平等 年令グループ内 年令効果 1965−70 0.020   0。010  0.010 0.014        0.006      0.008 1970−75 0.008      −0.006     0.014 0.004      −0.008     0.Ol2 1975−80 0.013        0.003      0.OlO 0.Ol3        0.004      0.009 1965−80 0.041        0.007      0.034 0.031   0.002  0.028 ソース:Mookherjee&Shorrocks(1982), Table 2から。

(2)このトレンドは,殆ど年齢グループ問要因,つまり年齢効果によって決定 されていることが看取される。言い替えれば,年齢効果はウェートは小さい が,総変動に対し不平等の拡大傾向を与えるトレンド要因となっている。

更に彼らは平均耐数偏差(1。)の増分への寄与分析を行い,年齢効果の うち年齢構成要因よりも年齢別平均所得要因が規定的であるという結論を下 している。すなわち,年齢一所得プロフィルのアーチの鋭角化が主要なトレ ンド要因である。とすればこれを規定する,婦人の就業率の増大,若年世帯 の収入を規定する賃金構造,退職者世帯の収入を左右する年金計画などが年 齢グループ別の分配を引き起こす主因として注目されねばならないことにな

るに%

(3)同一年齢グループ内要因は,年齢効果要因よりも大きい変動要因であるが 1965−70年における増大,1790−75年にかけての減少,75−80年にかけての 再度の増大というサイクリカルな変動をとり,総変動にもかかる影響を与え ている。但しこの同一年齢グループ内要因についての掘り下げは行われてい ない。しかし,後述のStark(1989)に従って,これが上記②市場経済要因,

③福祉国家要因にかかわると判断することは誤っていないであろう。すると,

これらの要因によって何故,如何に所得分配はサイクリカルな変動を展開し たのか,という課題が与えられることになる。

H−B 1980−86

Stark(1989)は上記Moonherjeeらの研究を意識しつつ,サッチャー時代

(1979−86)におけるFESデータにたいしてタイル指標1墾その要因の測定を

(11)

行った。表3,4,5,がそれである。

表3 総不平等の年令分解 A l980と1986

タ  イ  ル  指  標      ジ ニ 指 数 年   総不平等  グループ内要因  年令効果  総不平等  年令効果

1980        0。2134       0.1542       0.0592       0.3579       0。1877 1986        0。2755       0.2095       0.0660        0.4040       0.1863

B 変化の寄与

タ  イ  ル  指  標      ジ ニ 係 数 年   総不平等  グループ内要因  年令効果  総不平等 年令係数

1965−80*       0.031      0.002        0.028        0.032        0.048 1975−80ホ       0.Ol3      0.004        0.009        0。011        0.Ol6 1980−86        0.062      0.055        0.007        0.046      −0.002

注:FESは年令グループ別平均所得を公表していないため,推計した。

B表*印は,Mookherjee&Shorrocksの数値を示す。

ソース:Stark (1989),Table 9.2, 9.3

表4 総不平等の世帯規模別要因への分解

タ  イ  ル  指  標        ジ  ニ  係  数 年   総不平等  グループ内要因  規模効果  総不平等 規模効果

1980         0.2134       0.1504       0.0630        0.3579       0.1839 1986         0.2755       0.2098       0.0657       0.4040       0.1879

変 化

1980−86        0.0621       0.0594       0.0027        0.0461       0.0040

注:規模別グループは,1人,2人,3人,4人そして5人以上世帯。

ソース:Stark (1989),Table 9, 4

表5 総不平等の地域別要因への分解 タ イ ル 指 数

年   総不平等  地域内要因  地域間要因

1979−80     0.2106       0,2079        0.0027 1985−86      0.2612       0,2561        0.0051 1985−86

1979−80     0.0506       0.0482        0.0024

注:南東価格による調整。

ソース:Stark (1989),Table 9. 5b

(12)

Moonherjeeらと異なり,年齢効果だけでなく世帯規模,地域別世帯所得も 測定している。しかし,これらの人口統計学的要因の総不平等への影響はマイ ナーであり,むしろ同一の年齢グループ内,同一世帯規模内,同一地域内の変 動が圧倒的であることを明らかにしている。「1980年以来,全ての年齢,世帯 規模,地域グループにとって不平等は増大した」(Stark(1989),pl85)ので ある。ここからStarkは不平等増大の原因を別の要因,「世帯の取得する所得 の変動パターン」に求める。では,それは如何に変動したのか。表6を参照さ れたいα尋。ここから,次の3点が看取されよう。

表6 所得タイプ別の不平等貢献

タ イ プ 集 中 指標 総所 得 比

1980    1986 1980    1986 賃金・サラリー 0.474    0.534 0.712    0.643

自  営  業 0.520    0.600 0.055    0.077

投 資 所 得 0.242   0.499 0.033    0.042

年     金 0.145    0.270 O.026    0.043

そ  の  他 0.291    0.360 0.057    0.065

国 家 給 付 一〇.250   −0.214 0.120    0.130

不平等への寄与 不平等への寄与率%

1980    1986 1980    1986 賃金・サラリー 0,338    0.343 92.8    82.2

自  営  業 0.029    0.046 7.9     11.1

投 資 所 得 0.007    0.021 2。0     5.0

年     金 0.004    0.Ol2 1.0     2.9

そ  の  他 0.017    0.023 4.6     5.5

国 家 給 付 一〇.003   −0.028 一8.3    −6.7

全  所  得 0.365    0.417

不平等変化への寄与%

1980      1986    幾何平均 賃金・サラリー 64.7       55.5       60.0

自  営  業 6,2       8.7       7,5

投 資 所 得 12.2      15.9      14.0

年     金 4.6      8.7      6.5

そ  の  他 6.2       5.8       6.0

国 家 給 付 6.2       5.8       6.0

ソース:Stark(1989).Table 9. 6

(13)

(1)賃金・サラリー(雇用者賃金収入)は,世帯所得に対しする比重が1980 年の71%から86年の64%へ縮小し,世帯所得の総不平等への貢献も1980年 の93%から86年の82%へ縮小している。しかしなお,総不平等の増分への 貢献は80/86年平均で60%を占め,賃金・サラリーが世帯所得不平等にお ける鋭い増大の主因となっていることが明かとされる。

(2)自営業所得,投資所得は,総所得に占める比重は小さいながら急増して おり,不平等増大への貢献も鋭く増大している。

(3)加えて国家給付による不平等の相殺効果も80年に比し86年には減少して

いる。

これら3点の複合,相乗作用がサッチャー時代に入ってからの世帯所得不平 等化の爆発(図3,4)をもたらしたわけである。しかし,最大の要因(1)に焦 点を当てるならば次の点が要注意点である。

第一に,不平等増大に向けての男女別労働者間格差の影響は,この期間にむ しろ減少している。表7がそれである。ここでも各性別労働者グループ内の変 動が決定的であり,ここでフルタイム男子労働者内の変動が総変動の3/4以 上を説明する(p186)。(これは,1960−80年における婦人の就業率上昇を反 映する賃金一所得プロフィルの鋭角化の影響と対比されよう)。

表7 賃金収入不平等の性別分解

タイル指標  グループ内要因  グループ間要因 注:*21才以上のフルタイム男子 1979       0.0705     0.0209    労働者及び,18才以上のフ 1983象       0.0911     0.Ol82    ルタイム女子労働者 1983†       0.0903     0.0164    †成人賃金率のフルタイム労

1988?@       0.1182     0.0163     働者

1979−88変化    0・0477    −0・0046  ソース:Stark(1989),Table9.8 第二に,そこでフルタイム男子労働者に限定して変動を見ると,表8は,職 種別格差(肉体労働・非肉体労働間)の不平等要因が1979〜1986にその値を4 倍以上増大させていることを示している。これは総不平等増大の殆ど30%を説 明する。

表8 肉体/非肉体労働別の賃金収入不平等の分解 年    総不平等  グループ内要因 グループ問要因

1979         0.0732      0.0691      0.0041

↓988         0.1218      0.1039      0.0179

1979−88   0・0486    0・0348    LO138 ソース:Stark(1989),Table9,10

(14)

この職種間要因は,Adams et al(Feb.1988)が示したようにさらに相対平均 賃金効果と相対職種人口効果に区分される。前者は図9 に見るように高給職種

(非肉体労働)における稼得の急増であり,後者は図10に見るように上位6グ ループ(及び僅かであるが下位5グループ)における雇用増,他方中位6グルー プにおける雇用の減少である(図9,図10ではフルタイム婦人労働者を含めて いる。また70年代における婦人・肉体労働者の稼得の急成長にも要注意)。

Starkはフルタイム男子労働者稼得の総変動へのそれぞれの貢献を算定し,前 者に10%,後者に30%を割当ている。

図9 肉体/非肉体労働時間における実質賃金収入の通年変化率,%

40

30

20

10

0

1973−79      1979−86 1973−86

囮男子・肉体労働圓男子・非肉体労働  図女子・肉体労働 閉女子・非肉体労働 注:表7の注をみよ。

ソース:Adams et a1(Feb.1988), Table 2から。

また表9は産業構造効果を示している。これは上記の職種構造効果を補強す るものである。すなわち賃金水準と賃金分散の面で中位の産業(金属,建設)

で雇用が減少し,一部は完全に稼得喪失へと転落するか,あるいは一部は次の 部門に吸収された。すなわち賃金水準と賃金分散で高位の産業(金融,保険)

と低賃金であるが高賃金分散の産業(その他サービス,流通,ホテル)で雇用 が増大した。

(15)

図10 肉体/非肉体労働部門別の雇用シェア,%

60

50

十・・…十・..

@  ㌔+幽一・・+・一・・+・....      +・…+......      ・十,.

@        °+° °+・・…+一+・・…+・…+,....斗

40

30

20 h◇ ◇ ° 一・・・・・…...。...,...、。..◇…◇…◇…◇

10

1973      1975      1977      1979      1981      1983      1985      1987 1974      i976      1978      1980      1982      1984      1986

注:□=上位6グループ  +=中位6グループ  ◇=下位5グループ

ソースbFAolams et al(Feb.1988), Table 7

表9 雇用の産業構成の変化

1987年平均 雇用の増加 1987年の

SICグループ フルタイム成人 (1000人) 10分位問

賃 金(£) 1980/6〜1986/6 比  率

1.エネルギー,水道 248.1 一186.6 1,792 2.銀行, 金融, 保険 230.7 十512.2 3,887

3.抽出 (燃料を除く) 216.6 一292.5 2,597

4.交 通 , 通 信 214.9 一142.2 2,632

5.金属製品,機械製作等 207.0 一917.2 2,723

6.建       設 194.1 一239.3 2,656

7.その他,サービス 191.5 十303.3 3,031 8.そ の 他製造 業 188.7 一442.7 3,255 9.流通,ホテル,食堂 162.2 十62.0 3,207

0.農業, 森林, 漁業 142.7 一42.1 2,196

全   部   門 198.9

ソース:FESとEmploment Gazette Historial Supplement,

Nα1,Feb.1987;Stark (1989), Table 9. 9

(16)

だが,Starkによれば,職種間要因は総不平等の30%(表8),職種構造効 果は相対賃金効果と相対人口効果を合わせて総不平等の40%を説明するに留まっ ている。そして,残り60〜70%は同一職種(肉体労働・非肉体労働)内の要因 によって説明される。これは如何なる要因であろうか。

Starkは,①雇用の産業構造における変化のインパクト,②肉体労働・非肉 体労働内の職種の変化のインパクト,③地域,小企業,その他の要因,④これ

らと関連して労働市場の弾力性を高める市場効果を挙げ,この市場効果を残り 60〜70%の不平等の主因と見なしている。すなわち,サッチャー政権下におけ る労働組合の力の後退,失業の激増,所得政策の放棄という新しい事態が,

「市場のルール」の哲学が支配的となる分野を広め,そこでは市場が「不平等」

を生み出すという役割を担った。80年代からの失業の増大は,一方でパート・

タイマーの増大,他方で長期及び短期の国家給付への依存者を増大させ,かく して賃金収入の不平等を激増させた㈲。

皿 むすび

1節ではFESデータを選択することによって,世帯所得が1967年を画期と してそれ以前の平等化傾向が逆転し不平等化傾向へと転換したことを見てきた。

かかる時期区分は,戦後イギリスの所有分配過程を一貫して平等化の過程であっ たとする見解に対し鋭い批判となろう。例えばRubinstein(1986)は時期区 分(1)の1977年までの所得平等化傾向を更に一般化してイギリスの社会経済過程

に内在する(inherent)歴史的トレンドと見なしている(同, p 83)。それは 第一次世界大戦以降明確になり,第二次大戦で一層強められたとしている。し かし,データによる裏づけ,論証のやり方に難点が有り,説得力に欠けている。

確かに1967年以前までの時期の平等化傾向が如何なる要因によるのかが検討課 題として残されていることは既述した通りである。

1965−80年の期間にかんしては総変動は,不平等化のトレンドとともにサイ クリカルな変動要因を含むことが示された。そして変動要因の測定は,「年齢 効果」としての人口統計学的要因が主要なトレンド要因であること,これに対

して国家による所得移転と市場経済的要因はサイクリカルな変動要因であり,

かくして長期的には安定的であることが明かにされた。すると,課題は1−A 節末尾で見たように新たに設定されることになる。国家給付や市場経済的要因

をしてかくあらしめた背景は何か,と。これは,1970年代までマクロ経済の動

(17)

向,経済政策,所得政策を,他方では賃金支払い構造,労使関係,政労使のコー ポラチズムを解明することになろう゜⑤。

しかしサッチャー政権下,1979−86年に示された不平等化の爆発は,その原 因を人口統計学的要因から市場経済的要因へとシフトさせた。今や,後者が不 平等化の主役となった。では,この要因は,サイクリカルなものか,それとも トレンド,あるいは長期構造的な要因であろうか。Stark(1989)の研究は 1980−86年という短期的にとどまっており,今,最終的な結論を下すことは到 底不可能である。ここではH−B節で紹介したStark(1989)を踏まえて課題

を整理しよう。

設問1:Starkはフルタイム男性労働者の稼得の不平等を「産業構造効果」,

「職種構造効果」(これは相対賃金効果と相対人口効果に分かれる),「市場効果」

で説明しているが,これら3効果の定義,従って相互の関連が明確でない。

「産業構造効果」を単に別の観点から見た「職種構造効果」と見なすことが出 来るのか。又,「市場効果」を同一職種内の変動要因(表9)と見なすことが 出来るのか。

設問2:賃金・サラリー,投資所得,自営業所得などの市場経済要因の80年 代における変動はサイクリカルかトレンドかのいずれであるのか。あるいは,

そうではなくサイクリカルであると同時に長期トレンド的なものと考えるべき であるのか。

かく設問する理由は以下の通り。まず,サイクリカルな諸変動はサッチャー 政権下で構造的に変質する諸契機が与えられたと考えられるからである。第一 に,77年以降新しい所得政策のもとで職種別賃金収入は再び不平等の増大を復 活させるが(図3),これは,賃金アップを引き延ばされて来た高給階層によ る新しい所得政策のもとでのリアクションであるα6。そしてこれは,サッチャー 政権下では新しい産業労働政策,所得政策の放棄,新しい労使関係の形成とい う新しい構造的枠組みが与えられることになる゜の。第二に,高給職種グループ は賃金収入だけでなく投資所得も急増させているが,これはサッチャー政権下 の新しい課税政策,財政,金融政策という構造的枠組みが与えられたからであ

る。

だが他面では,サッチャー政権下での諸政策は,今まで進行しつつあった構 造変動それ自体に変動を循環的に加速させるインパクトを与えている。第一に,

マクロのマネタリスト政策による81−82年不況の深刻化は,脱工業化=製造業

1

(18)

の衰退という構造変動を加速し失業を激増させた。第二に,職種間の賃金構造 や雇用構造の変動も同様に市場効果によって変化のインパクトを強化されよう。

すると,構造変動それ自体が新しい秩序と均衡を求めて不平等を逆転せざるを えなくなる,という見通しが与えられるからである。

〈註〉

(1)Atkinson(1975), p 35は,中央統計局CSOの所得統計で,潜在購買力 なる所得概念からみて欠けるものとして,キャピタル・ゲイン,物的給付

(fringe benefits),自家生産,帰属家賃を挙げている。

(2)代表的文献としてStark(1978)。

(3)Stark(1989),p193。ジニ係数Gは

G=[1−{Σn、(Y*、十YホH)一Σ(n、2−1)W、/6}/NY]

㌔      *N/(N−1)

但し N=世帯総数

ni=i番目のグループの世帯数 Y富1=i番目グループまでの所得の合計 W、霜i番目グループの幅(width)

Y=所得の合計

また,10分位グループ間比率=

トップ10%所得(賃金収入)グループの最低所得(賃金収入)

最低10%所得(賃金収入)グループの最高所得(賃金収入)

(4)Atkinson(1983),p64はCSOの所得単位シリーズによる所得分配を評価し,次 のように批判する。①異なる大きさの家族間のニーズを評価していない,②理論的に 与えられる所得概念に程遠い,③インフレーションを考慮していない,④ライフタイ ム所得との関係がない,⑤課税以外の政府活動が反映されていない,と。公的所得統 計に対してはTitmus(1962)の批判がある。

(5)これは時々のボーナス等を加えた,通常の「持ち帰り」(take−home)の所得に所 得税や国民保険料を加えたもの。Family Expenditure Survey(1985),Annex A,

para.15,又, Jenkins(Feb.1991),p2を参照のこと。

(6)Atkinson&Micklewright(1983)

(7)CSOや保険社会保証省(DHSS)も再分配の評価や資力調査付き給付の効果に

(19)

関する評価をFESデータを用いて行っている。 Jenkins(1991)を含む所得分配の 研究も当データを用いて行われている。わが国では毛利(1990)がFESデータを用 いたEconomic Trends発表のデータを用いてサッチャー政権の所得維持政策を評価

している。

(8) RCDIWはRoyal Commision on the Distribution of lncome and Wealth(1979)のFESシリーズで, Stark(1987)はこれを1986年へ延長させた。

(9)Jenkinsは70年代、と80年代の所得変動が社会福祉の増大に貢献したか否か,所得の 増大と平等配分との関連を如何に考えるか,という大問題に一つの回答を与えている が,それはここでのテーマではない。

(1◎ さしあたり,次の文献が注目すべきものである。Lydall(1959),Prest and

Stark (1967), Stark (1972)。

(11) Shorrocks (1980)。

(吻Atkinson(1983)は言う,「(若年労働者への賃金のように)賃金構造の進展あるい は年金計画の進展が年齢グループ別分配の変動を引き起こしたとするならば,これは,

分配の平等を判定するさいに考慮したい要因となろう」(p75)と。

(13 タイル (Thei1)指標は, Stark (1989), p 194から。

yk     yk   Yk

T=Σ一TK十Σ一10gr=ヲY      Y    Y 但し

Yk=kグールプ(年齢,性,地域等の)の所得額。

Yk=その平均。

Y=所得の総計。

Y=その平均。

T、=kグループのタイル指標。

式の右辺第一項はグループ内の不平等を,第二項はグループ間不平等を現す。

(14 これはKakwani(1980)の集中指標を測定したものである。

㈲ Stark(1989),pp.188−190。また0 Higgins(1985)を見よ。

⑯ 賃金構造,労使関係に関する代表的文献として,Marsden(1983),Clegg

(1983)のch.8and 9, Heald(1983)のch.9,高橋(1987)を。

㈲ 新しい労使関係の動向として,さしあたりSisson and Brown(1983)を。

〈参照文献〉

(20)

(1)和文

るその構造と動向一」, 『イギリス福祉国家の研究』(東京大学出版,補論)

高橋克嘉(1987),rイギリス労使関係の変貌』(日本評論社)

(2)English

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参照

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