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不確実性構造と経営の機能的 階層関係(3)

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(1)

ーー ユ ーー   509  

不確実性構造と経営の機能的  

階層関係(3)  

井  上  勝  人   

5.3ayes theoremと情報理論  

われわれは前稿紅おいて,企業の投資計画の問題は企業の全体に・大きな影響   をおよばすものであるから,企業の全体的関連ならびに不確実性を考慮して決   定されなければならないことを明らかに・した。すなわち,前者については操業   度状況や財務構造などへの影響の考慮が必要であり,後者についてほ従来のど   汐ネス・、エコノミックスにおける伝統的分析が一列のぺイオフ。マトリックス   による確定条件下での決定であることを指摘して,両者の欠点を補うものとし  

く1)  

てハーツ(D・B.He工・tZ)のシミコ.レーション・モデルを一例として一考察した。   

ハ−ツのシミユレーション・モデルほ上述の2点を考慮した示唆に富む論攻   であったが,最初に与え,る主観確率(sub.iective probability)の問題の分   関してや1鮮明を欠くうらみがあり,追加情報によって事前確率を修正する関   係が明確でなかった。また,アメリカのど汐ネス・・エコノミックス派に.属する   人々のなかで,はじめて不確実性と危険概念を自己の企業経済学の体系のなか  

(2)  

に導入しようと試みたのはノ、イネス(W.W.Haynes)であったが,彼ほ不確実   性の考察軋一・章をさいて従来のビジネス・エコノミ.ックスがほとんど確定性湛 

おける問題のみを論じていることを指摘し,それでは不十分であるので最近に 

(1トHertz,D・B′,RiskAt)alysisinCapitalInvestment,Earvard BusinessReview, 

Jan−Feb.,1964.  

(2)Haynes,WいWい,ManageialEconomics,1963・芥確実性という言葉を各所紅使用    しているのは,特紅V−ゲルマンらのManagerialEconomicsであるが,彼らがその言  葉を常識的に使用しているの紅対し,ハイネス牲不確実性そのものをとりあげて決定論    的に考察しょうとしているので,あえて最初と云うのである。   

(2)

寛42巻 策5号  

510  

一一 2 −  

おける決定理論の進歩紅鑑み,これらの分析用具をもっと導入すべきことを強  

(3)  

謁してrtJ、る。しかし彼はその注目すべき方法であるBayesian法に関しては,1   章で論ずるのは無理であるとしてこその有効性を認める以外には言及していな   い。そこで,こ.れらの二つの理由から,本稿でほ事前確率の追加情報に・よる改   訂という見地に.焦点をしばり,まずその中心問題でもありペイジアン法の名の  

(4)  

由来をなしているBayesの定理(Bayes theorem)紅ついて吟味し,ひいてほ   ベイ汐アン法の特質を考察してビジネス・エコノミックスの体系払おいてそ・れ  

(8)  

がいかなる位置と役割を有すべきかを明らかにしたい。   

さてペイジアン法の中核をなすペイズの定理であるが,この定理をいっそう   わかりやすく把握するためにほ,条件付確率(COnditional,prObability)の考   え方の把握から接近するのがもっともよいと思われる。けだし,このベイズの   定理は条件付確率の云い直しであり,形式的紅ほそれ以上の何ものでもないと   云った方がよいかもしれないからである。  

(¢)  条件付確率牲,確率空間(β,耳.P)を基礎の確率空間とし,A,β∈ダとす  

ると,P(A)キ0のとき,   

(3)Haynes,Op・Cit…,p・555,Ch・14・  

(4)BayesianとはBayes的という意味で,事前確率を追加幡報虹よって−改訂するとき,ペ    イズの定理が用いられるのでこのように意われる。なお,Thomas Bayes(?叫1763)は    イyグランドの数学者であるととも紅キリスト教の僧侶でもあった。  

(5)以下の論述は,クラーメル「確率論入門」(大石泰彦訳)鎚−39ぺ一汐.FelleI,W.,An  

Introduction to Probability TheoryandItsApplications,Volumel,PP.104−114  Schlaifer,R.,Probability and Statistics for Business Decions,ppn330−339..に 

よる。  

(6)空間nの部分集合から成る集合族ダが,つぎの三つの条件をみたすダをJ集合体とい    い,空間nとその部分集合から成る一つの♂集合体ダとの組(n,ダ)を可測空間という。  

(α)nモア;  

(β)d∈ダならば,d(∈ダ;  

(γ)dlノ42−・l∈ダならば,U芸=1琉声軋  

可測空間(n,ダ)において,つぎの二つの条件をみたす〆なず上の測度といい,n,ダ,  

〃の組(払 ダ,〝)を測度空間という。  

(α)すべてのd(ダに実数〝(d)ゝ0が対応する。  

(β)〟1d2…∈ダが互い紅.累ならば,〝叩毘血)〒∑諾1〝(d慮)りダ上の〝(n)=1をみたす測  

度〝を確率測度という。−・般に.,〝の代りにPと書き,(n,タ)を確率空間,ア(d)をd   の確率という。   

(3)

不確実性構造と経営の機能的階層関係(3)   −β −・  

511  

(1)P(利A)=彗篭㌢  

で与えられる。すなわら,式(1)の左辺は事象Aが起こったという条件の下での   事象βの確率を表わしており,特定の事象Aをきめて,その条件の下でいろい   ろの事象の条件付確率を考えるということである。このことは式(1)の右辺をみ   ると,Aを新しい確率空間とし,その確率はもとの確率空間に.おける確率を− 

(7) 定の数P(A)で割ったものに.等しい。つまり,ある事象の確率を考えるとき,  

確率空間全体で考えないで,そのうちの−一一・部分で考える必要があり,・一・般の確   率空間では,この間の式(1)の関係を定義として用いて,事象Aのもとにおける   事象βの条件付確率とよぶのである。   

同様にして,P(β)キ0のときは  

P(Anβ)  

(2)P(A】β)   

タ(β)  

が成立し,これはβが生起したという仮定のもとでのAの条件付確率である。  

(1)と(2)とから,普通,確率論の乗法の規則として知られてこいる次の公式を得   る。  

(3)P(A「1β)=タ(A)P(βlA)  

=P(β)P(Alβ)  

(3)から,もしP(A)とP(β)とがともに・ゼロに等しくないならば,  

P(A)P(βlA)  

(4)ア(A】β)   

P(β)  

を得る。   

ところで,βほ.〃個の事象Al,……い・A兜のうちの一つと結合してのみ生起しう   るにすぎず,しかもこれらゐ〟個の事象のうらの任意の二つは互いに排反であ   ると仮定するならば,   

A古口Aノ≒¢(ざ≒.グ)で,かつ  

(7)換言すれば,条件付確率は同時確率(joint probability)を周辺確率(marginal    probabilty)で割ったもの紅ひとしい。   

(4)

第42巻 第5号  

512   

− 4 −  

β=(βrlAl)ぴ(β「1A2)ぴ……ぴ(βnJ4花)   

乃   

=β∩(ぴA£)  

名Hl   

とかくことができ,   

殉 (5)P(β)=∑P(βnAす)  

名=1  

γも       =∑P(β仁裁)P(A宜)  

ゴ1   

が成り立つ。こ.れは,仝確率の定理として知られているものであるが,式(4)の   事象Aを任意の事象A宜でおきかえ,式(3),式(5)を代入すると,  

(6)P(射β)=芸  

戸1  

が成り立つ。これが−・般にベイズの定理と云われるものである。現代の確率論   ではこのような簡単な形のものではなく,Aのある部分グ系ダに湧寸して条件付確   率♪(A」ダ)や条件何平均値且(.方】ダ)を定義するが,ここではそれに.立入らな   い。   

ところで,このベイズの定理の意味するところは,Aを原因とよぶならば,  

(6)式ほ原因の確率紀聞するペイズの定理となる。つまり,原因Aが作用してい   る確率P(Ai)をAlの事前確率(prior probability)とよぴ,さらに原因Alが作   用しているとの仮定のもとで,この原因A£がβの生起を結果するある確率P(β  

lAi)が存在する。かくて,式(6)ほAiの事後確率(posterior probability),す   なわちβの生起を認めたとの仮定のもとで計辞されたところの原因Aが作用し   ている確率♪(A官lβ)の式を与えるものであると云うことができる。   

ところが,クラーメルの指摘するように,−・般にべイズ定理の統計的適用に  さいしての実際的重要性を著しく滅殺する原因として,事前確率P(A乞)はたい  

(8)  

ていの場合まったく知られていないということが挙げられている0ベイズはか  

(8)クラーーメル前掲書,39ぺ−ジ○   

(5)

513  

不確実性構造と経営の機能的階層関係(3)  

− 5 −   

くの如き批判を予知してか,未知なるものの等確率の原則なるいわゆるペイズ  

(9)  

基準なるものを提唱している。そこで,このベイズ基準をベイズ定理の事前確  

枇適用すると,しばしばはっきりした理由なしに・,P(Aせ)=÷となる0この  

ことほ,クヲ−メルの指摘した点が,ペイズの意図するとこ.ろ紅もかかわら   ず,依然として正当な意味を持っているもののごとくに思われる。しかし,ペ   イズの提唱した未知なるものの等確率の原則ほあながち根拠のないものでは.な  

(10)  

いのである。すなわち,情報理論によると,全く未知なるものとはエントロピ   ー(entI・Opy)が最大のもののことであり,エントロピーが最大に.なる場合は   それぞれの事象の確率が等しいときであることが証明されるのである。すなわ   ち,いま試行rのエソトロピ一方(T)が与えられたとして,各々の事象Al,A2  

・,A柁の個数乃を固定しでおいて.,生起確率Pl,P2…・…・,P循を動かしてガ(r)  

を最大ならしめるには,Pl十P2+・‥…・+P循=1の条件を考慮して,ガ(r)を各   P叔つき微分して0とおけばよい。入をLagrangeの未定乗数とすると,  

(7)品−〔町)叫トPl・一戸讐−‥‥‥−・Pれ)=0   

珠T)=∑鞠g十む=・−・∑勒gP宜    と表わせるから   ゐgPi+・1−入=O   g=1,2,‥1…,〝  

となる。よって,   

Pl=P2=……・…=P免   となる。条件式より   

タl=P2=… 

=P竹=  

(9)ベイズ基準とは,将来の状態に・ついてこその生起確率を不明と仮定した場合,将来の各   状態の生起確率を等しいと考えて,各計画案の期待値を求め,その最大な計画案を選択   

しようとする。拙稿,不確穿性構造と経営の機能的階層関係(1),香川大学経済論荘,欝    41巻第5・6号参照。  

uo)情報理論の古典的労作としては,Shannon,C一・,The MathematicalTheory of    C叩.munication,BellSystemTech,J .JulyandOctober,1948.があるが  の情報理論に関説する論述ほ,主として,Theil,H ,Ecor)0micsandhformatioz7Theo・   

工y,1967,paSSim.国軍渚典,ORのたの情報の理論入門,35−45ぺ−ジー應治,白根,横    井,大前共著,オぺレ−レヨソズ・リサ・−サー理論と実際.284−293ぺ−ジなどによる。   

(6)

発42巻 第5号  

− 6・−・   514  

となる。よって確率がすべて等しい場合軋エントロピー・が最大となる。これで   ペイズ定理の事前確率に,最初に・ペイズ基準砿よって÷という値を与えるこ  

との正当性が証明されたわけである。   

ところが,この点をもう少し掘りさげて−検討してみると,エントロピーが最   大に・なる場合は等確率のときであると云うときの等確率の場合という意味は,  

事象Al,A2,刷‥,A花の生起することに関して何らの情報がないから等確率と   おかざるを得ないと考えられるのであり,とのような情報ゼロということは当   然に‥エントロピーが最大の場合であって,事象A£が起こるか起こらないか草々  

であるとみるのほ常識的にもうなづけるのであるが,逆に.確率分布が不明であ   るなら,すべてを等確率とおくことに.ほならないことに注意しなければならな   い。すなわち,何らかの情報があれば,それだけエントロピーほ減少していく  

と考えられ,もはや等確率とみることは全く不可能であるのであるから,・エソ   トロピ−・最大は等確率の場合というのは,そ・の事象の生起に.関する情報が全く   の未知なる場合のみに.妥当するのであって,このような場合はわれわれの日常   紅おいてほ・そう多く見られるものでほなく,特に企業における意思決定を問題  

とするときは,その基本としてのぺイオフ表を作成すること自体に,行動の仕  

方と状態とを独立変数とした関数関係設定の可能性を前提としており,そのた   めにほ非常紅多くの情報がなければペイオフ表など作成できるものではない。   

かかる場合に.,ぺイオフ表作成に.関する情報ほ多くあるが,当該■事象の生起   確率に.関する情報のみが全く不明であるということはあり得ないのである。け   だし,完全情報が理想化された仮定ないし前提であるとするならば,情報皆無  

もまた理想化された観念上の所産物であると考えられるからである。われわれ   はペイズ定理の事前確率に.関してそれがペイズ基準の適用されることの是非を   論じて,是の場合は情報理論のエントロピー最大は等確率という命題を導入し   て論じ,否の場合は情報皆無という完全情報に.似た理想的前提の現実への非翼   当健からこれを論じた。いまやわれわれはペイズ定理における事前確率の重さ  

という見地から,さらにこの問題を考察してみよう。   

ベイズ定理の要諦ほそれがペイジアン法の中核としで再生していると.とに㌧見   

(7)

不確実性構造と経営の機能的階層関係(3)   − 7・」  

515  

られるどとく,追加情報に.よる事前確率の改訂という点に求められる。したが   って,極端に云うと事前確率などはどうでもよいのであって,肝要なところは   事後確率という概念軋ある。しかし,いくらどうでもよいと云ってもこれを全   く盗意泊勺にきめることは科学の名において許されることでほないので,ペイズ   は未知なるものの等確率の原則を提唱した。しかし,ベイズ基準などあっても   なくても,それが情報の追加によって逐次改訂することをくり返していけば,  

たとえ事前確率紅誤った値を与えていても,追加情報さえ得られるならばベイ   ズ基準は最初の出発点を与えるだけの存在となるのである。かくしてここに・至   れば,事前確率としてほペイズ基準ほ必らずしも必要でなく,われわれの確信  

(11)  

の度合としての主観確率(subiective probability)をもってこれに.代行せし   めることができるであろう。われわれとしてほむしろ,この主観確率におけ5   主観性の,追加情報に.よる客観化という点にペイズ定理の意義を認めたいので  

あり,より広く云えば,社会科学紅おける主観性と自然科学に・おける客観性の   統合の問題に一つの燭光を与え.るものという点で評価したいのである。すなわ   ち,経済学に.数理科学的方法を適用する分野として−ほ,従来経営の管理技術的   側面に.限定され,人間の判断の領域紅ほ、到底適用不可能であり,極端な場合紅   ほともすると管理技術的側面さえもその導入に危倶の念を抱く人々もあったの   であるが,亘れは結局,自然科学方法の吸収に急のあまり,社会的事象紅対す   る数理科学的適用に.伴う主観性の介入紅対して充分な考慮をほらうひまがなか   ったからであるように.思われる。したがって,もう−・つの極端な場合には,0月   さえ適用すれば何でもたちどころに.解決してしまうという0点万能主義も生じ   たのである。一・般に,社会事象をモデルとして表現する紅.際しては,抽象化・  

単純化のための主観性を捨象することはできず,また,そのモデルに・よる解析   が事前計算のために.も主観性の介入は不可避な問題なのである。そしてこれ把 

(11)将来の状態について,・その生起に・対するある人の確信の度合を表わしたものを,その    人の主観確率という。将来の状態∂に・対サーる主観確率を好(のと書けば,け好(のは通常の客    観確率と同じように,0≦好(の≦1でぁり,また,互いに排反でかつ全体としですべて   

の場合をつくすβの集合については確率の合計は1と′なるように打㊥)は定められなければ   

ならない。   

(8)

第42巻 第5号  

− β −  

516  

加えて−,経済価値が通常では効用と同一・のものと規定せられていることから看  

(12) 敬し得るように.,その本性上人々の主観的判断に.もとづくものであって,物的  

価値のように.客観的なものではないという事情が加わって主観性を倍加するの  

(】3)  

である。ベイズ定理のかかる主観性紅対するわれわれに対する示唆がどのよう   なものであるかを明らかにするために,さらに.ペイズ定理に・対する吟味を続け   よう。  

ゎれわれはさきに,ペイズ定酢‥おける事前確率がペイズ基準紅よって−  

とおかれることの証明を情報理論に.おける分析用具を使っておこなった。そ■し   てその際のエントロピー展大という意味は情報皆無ということであり,この情   報皆無という前提ほ完全情報という仮定と同様に・批判さるべきであることを指   摘した。したがって,情報がいくらかでも存在すればそれだけエントロピーは  

減少するから,もはや÷という値をおくことは不可能になり,そこに判断の  

介入を許すこととなって,主観確率の導入が許容される根拠としたのである。   

しからば,この主観確率を用いた結果の客観性をどのように証明すべきであ   ろうか。この点を考察するために,われわれは再び情報理論に・分析用具を求め   よう。   

まず,ペイズ定理の対数をとると,  

P(A£)P(βlA名)  

わgP(A=月)=ゐg   

ケ之      ∑や(βJト射)P(Aプ)  

ノ ̄l   

となるから,   

〝   

わgP(A官】β)=ゐgP(A£)−卜ゐgタ(β仁血)一ゐg∑P(β仁ん)P(Aプ)  

タゴ1   

となり,  

(1功 一屑正確に云えば,価値は一つの関係であって−・財の効用そのものではない。財の性    能ないし客観的効用を基礎としてまづ主観的な効用の判断が成立し,一一財の効用と他財    の効用とが比較考塁されるときに価値なる概念が成立する。中山伊知郎著,経済学−・般    理論,10ぺ−ジ脚注参照。  

は3)清水籠螢著,経営計画設定理論,序参照。   

(9)

不確実性構造と経営の機能的階層関係(3)   −9 −・  

517  

(8)ゐgP(A」月)−−・ゐgf〉(A£)  

=ゐgP(βlA官)・−ゐg∑P(風上ん)P(A官)  

を得る。式(8)の右辺の第2項ほA£とβlA表−がきまれば,従属的に.きまってごくる  

(ll)  

から,また∑P(β仁4)P(Aも)はP(β)でもあるから,その対数ほ山定となり,  

この方程式ほAiという仮設のもとでえられた情報盈はデータβを得ることによ   って,その仮設の事後確率と事前確率の対数の差として与えられると解釈する   ことができ・る。すなわち,式(8)な整理して,  

(9)ゐgP(A£lβ)−・ゐgf〉(A£)  

=ゐgヂ(βlA宅)卜わgf)(β)〕  

を得る。   

元来,情報理論に.おいてあいまいさを計鼠するの紅対数表現をもっでするの   ほ,基本的には試行の結果生ずる事象のあいまいさは生ずる事象の数点の関数   であることと試行のあいまいさは累加的匿増加するという性質とを満たすため   に対数表現がもっとも適合しているからである。すなわち,烏が大きいときほ   あいまいさも大きく,小さいとき特に1のときほあいまいさは0である。ま   た,2つの独立な試行rl,\7壱があり,rlの結果,烏個の事象が対称的紅.実現可   能であり,7もの結果,J個の事象が対称的に.実現可能であるとすると,試行rl  

と7盲とを接合した場合,複合試行rl・7ちの結果,烏J個の事象が実現可能であ   り,n・7ものあいまいさほ71のあいまいノ (ゐ)と二托のあいまいさ./ (J)の和に.等   しい。以上の二つの性質を満足する計鼠としては,わgl=0ならびに.ゐg(幼=  

ゐg烏+ゐgJとなることからみても分るように.,対数表現がよいことになる。こ   のようなこを念頭に.おいて式(9)の意味を情報理論的に.考えれば次のようにな  

㈹ 右辺のp(Ai)は最初に事前確率として与えられる主観確率であり,p(別Ai)も主観確    率の値の前提のもとで得られる結果の確率で既知,したがって,既紅知られる事象のあい   

まいさは0であるから,その対数の値は,その式では一雇である。もっとも,実績統計    など紅よって得られる先験的確率によってp(Ai)が定まる場合K,は,無理に.p(Ai)を主    観確率に.おく必要はない。むしろ移動平均法,回帰分析法などによって得られる予測値    をフルに活用すべきであって,その場合紅はp(BIAi)も実績から求められる確率である    から既知である。なお,この場合の先験確率とは市場調査のような実験をおこなう前に    既に.与えられている確率という意味である。   

(10)

第42巻 第5号  

ーJO・−  

518  

る。まず,右辺のわgP(βlA£)はA官が受信されたことを知ったとき,βが送ら   れた確率のあいまいさを表わし,送られたバ/ンポル軋ついての不確実さの程度   を示す−ものと云える。左辺ほ事後確率のあいまいさから事前確率の凱、まいさ   を引いたものであるから,送られた情報愚からその情報を受けたとする確率の   あいまいさ,換言すれば,情報理論で云うところの雑音把.よるあいまい度を引   いたものに.等しいこと紅なる。以上を要するにベイズ定理は両辺の対数をとっ   て変形してみると,その式の意味内容からは,雑音のある離散的チャγネルの   情報路紅おける伝達情報盈の公式と・・一致することを云いたかったのである。し   たがっで,われわれは次に雑音のある情報路における伝達情報藍の公式を導か   ねばならない。それに.よって,ベイズ定理対数表現紅.よる意図を補充すること   ができるであろう。   

われわれはさきに.ペイズ定理を考察するのに.条件付確率の考え方からはじめ   るのが適当であると考えたが,情報理論にぃおける雑音の妨害効果の考察紅もこ   の考え方がそのままあてほまるこノとを知る。すなわち,途中のチャンネルに・雑   音があるときは信号紅誤まりが発生し,この誤まりほ受信側に.まらがった情報   を与えるから,送り側が受け側でどのようにリンボルが受信されたかを知るこ   とによ・つて,次のシ∵/ポルを送るに・あたって,残されているあいまいさをどの   ように.考え/たらよいかをきめるととができる。したがって,まずrlの結果,A   が受信されたこ.とを知った場合,:指の実行紅当って,βの受信紅関する確率   は,式(1)と全く同じ式で与えられる。そこで,まず,nの結果,Alが受信され   たことを知った,場合,7壱の実行に.当ってのあいまいさは,式(7)の〝(ア)より  

−∑P(β11)わgP(β11)  

で規定される。同様に.A2,A$,A乃,が受信されたことを知った場合のあいま   いさは  

−∑P(βl,ク)わgP(βl〟)  

となる。そしてAlの受信される確率がタ(1),……,A几の受信される確率がP(紹)  

であるから,上記のあいまいさ紅,これらを重みとして荷重平均をとると,  

−∑P(1)P(β11)わgP(β11)   

(11)

不確実性構造と経営の機能的階層関係(3)  

−jJ−  

519  

−・∑P(2)P(β12)ゐgP(βt2)   

−∑P(3)P(β】3)ゐgP(β13)  

一云p(〝)P(β1紹)わgP(β座)   

は嘲 =−∑P(A,β)わgP(β!A)   

が求まる。式(1αほ云うまでもなく条件付エントロピー・,−∑P(勘A)ゐgP(上=  

A)にA形の実現する確率P(〝)をかけたものであるから,条件何誌ソトロビー・の  

規待値であるムつまり,この条件付エントロピーの期待値は,受信側で信号A   を受ける確率P(A)と条件付エントロピL−とから求められ,情報源から送られ  

たシンボルを.ガ,受けたシ㌧/ポルをプとすると,   

茸(∬仁γ)=−・ミp(A)慧p(鋸A)わgP(引A)  

=一−ゑp(A,β)わgP(引A)  

となり,この条件付.エントロピL−の期待値ほ.,チャンネルで発生する雑音紅よ   る影轡を示すものであるから,チャンネルの情報伝達の割合ほ.,情報源から単   位時間に.出てくる情報盈から,雑音紅よるこの影響(equivocation)を引いた  

ものになる。すなわち,情報源から送られたシンボルを.方,受けたシγポルを.γ   とし,情報源からの単位時間に出てくる情報畳を点で表わすと,  

(川 属=茸(.方)一方(ガ1.γ)  

と表わすことができる9式は1)はペイズ定理の対数をとった式(9匿内容において  

−・致する。   

かくして,ペイズ定理を対数的紅表現して,変形した式(9)の両辺のすぺての   Aとβについて平均をとると,雑音のある情報路における伝達情報盈を求める  

/ 式皿と−・致することが分ったわけであるが,このことはペイズ定理が,ある仮  

設のもとで得られた情報盈がデータを得ることによって改訂される過程が情報  

理論における雑音の除去ということに.一哉するのであり,最初の事前確率にた   とえ誤った値を与えても,換言すれば,確信の度合たる主観確率をもってして   

(12)

帯42巻 第5号  

−・J2−   520  

も,そのあいまい皮ほ追加情報を得てペイズ定理を適用することによって改訂   され客観的なものとなることの正当性を物語るもの把.はかならないのである。   

以上われわれほペイズの定理を情報理論の考え方をかりて吟味し,結局その   意味を事前確率のあいまいさを情報を追加して減少せしめ,決定の客観性を保   持しようとするはたらきに求めた。たしかに.事前確率のあいまいさは統計的実   践性常とっては最大のウイークポイントであったと思われるが,経営学的見解   でほそれがかえってわれわれの判断つまり主観性と数学的客観性とを有機的に  統合する機縁となり,ひいては社会科学浸.ぉける主観性がいかに自然科学的方   法の中に親局込まれるぺきであるかを示す一例としてわれわれはこれを高く評   価すべきであることを指摘した。しかりとするならば,上述の機能は情報の追   加ということから生ずるのであるから,情報追加の手段を講ずることがきわめ  

て大切なことになる。しかもそ・の情報は信頼度がより高いものという点からは   より新しい情報したがって意思決定作業の分析中に.おいても情報を追加し訂正  

(15)  

して,決定の成果を向上せしめるこ.とが求められる。かくして,よりよい決定   をおこなうために」はいかなる情報をいかなる手段で採取するか′という問題が考   察されねばならず,かかる問題と連絡せしめられてほじめてペイズの定理ほそ  の本来の意義を発揮するであろう。われわれはかかる問題を市場調査の例にト求   めてペイズ定理との連結を考察し,ひいてはビジネス・エコノミックスの体系   においてそれがいかなる地位と役割を有すべきかを明らかに.しよう。  

6.Bay由iam法  

さて,われわれは以上に.おいてニペイズ定理そのものについてこれを求める公   式やその意味するところを情報理論の考え方からして考察してきたのである   が,いまやそれを用いで事後確率を求め,その際に抑々この公式の要求する条  

㈹ かかる決定の逐次的多段階的性質はベルマンの動的計画法の基礎を提供する。Cfl・Be−  

1lmar),R.Dynamic Programming,1957.Be11man,R.,and S.Dreyfus,Applied    Dynamic Programming,1962(邦訳,小田中,有永共訳,応用ダイナ・ミックプログラ   

ミソグ,日科技連)参照。   

(13)

不確実性構造と経営の機能的階層関係(3)  

−・Jβ−  

521  

件が経営経済学的にいかなるものであるかを考察する段階にせた。よく知られ   ているよう紅,ペイズ定理を用いてかかる問題に.答えようとする考え方をペイ   ジアン(ベイズ的)法と呼ぶのであり,その意味でわれわれはペイジアン法に   ついて−吟味する段階に.きたと云えよう。   

ペイ汐アン法という言葉は最近よく使われるが,その意義は必ずしも論者紅  

(16)  

より同一・でほない。しかしこ.れらの主張の相違ほ力点のおきどころが異なると   いう微妙なニュ.アンスのちがい程度のものであり,しかもすで払われわれが使   用してきた意義すなわち,事前確率を追加情報に.より改訂する軋際レくイズの   定理を使用する方法という規定は,ペイジアン法という言葉で含意せしめられ  

るところの例えば確率変数の値や確率密度に何らかの主観的判断が入るような   計算プロセスを総称して云う立場をも,今までの論述から或る程度意をくめる  

ことができると思われるので,今後もかかる意味でペイジアン法という言葉を   使用していきたい。   

ところで,すでに.指摘したごとく,ハイネスが「従来のど汐ネス・エコノミ   ックスはすべて確定条件の下での決定のみを対象としてきた。」という言葉紅は  

二つのことが意味されていると考えられる。それほ欝−・にほ,予測された事象  

が確実に実現するという意味であり,第2にほ,情報ほすべてあらかじめ与え   られているという意味である。前者は確定情報の問題であり,後者は問題を表   現する際に.用いられる定数,係数,パラメータおよび確率はあらかじめ判って   いることを前提としてきたということである。しかし,現実紅おける決定では   確定条件のみならず危険と不確実性とを含めた不確定条件をも考慮しなければ   ならず,しかも情報は与えられてほいないで探求し採取しなければならないの   である。こ.のような不確定性下に.おける情報未知なる場合,決定理論で止すで  

(1ア) に.考察したように.,目的充足度の最大となる行動の選択が不可能なので,例え  

姻 ベイ汐アン法は,ベイズ定理を用いるからこのよう紅呼ぶ場合と,さらに・−・般的に,   

決定理論において:その計静プロセス中に主催的判断が入るものを総称して云う場合があ   

る。前者を狭義ベイ汐アン法,後者を広義ペイジアン法と呼ぶことができよう。  

(川 拙稿,不確実性構造と経営の機能的階層関係(1),(2),香川大学経済論叢算41巻第5・   

6号,7号参照。   

(14)

算42巻 算5弓   522  

− ヱ4−  

ば,受けるであろうところの損失を最小にするような行動の選択に・よらざるを   得ないこ.とを示している。しかし,単に損失を最小にする場合でも,それのみ   で終るのではなぐ情報が未知ならばそこになんらかの方法で情報を得て,より   よい行動をとることを模索するにちがいない。すなわち,情報未知で不碇定性   ならば例えばミニ・マックス選択基準に.よって−損失期待値の最大を最小に.するで   あろうが,企業が長期利益の極大化を目的とするかざり,損失を最小に.するこ   とでほ.満足せず,例えば市況が好転するか不況になるかの予測をおこ、なって追   加情報の獲得を試みるであろう。かかる場合の適切な例として例えば市場調査   が考えられる。   

−・般に.,市場調査のような実験によって情報を得ようとする場合,ゲ」ム理   論の考え方の枠組でほ,計画と市場調査結果の組み合わせである決定関数を経   営者の戦略に.とり,自然の状態としで好況・不況などを措定するのが基本的な   べイオフ表の作り方である。しかしながら,かかる場合の決定関数の数は,後   述するよう紅,計画と謝査結果の組み合わせやさらに調査項目,調査法などを   考慮すると飛躍的に・増大してくる。そこで,調査の行為を経営者の戦略にとら   ずに・市況の生起確率を推定するはうに組昂入れるこ.とが考えられる。ベイ汐ア  

ン法はこの市況の生起確率に.対する事前確率と調査行為を結合する方法を可能   ならしめるものと云うこともできよう。   

いま,市場調査の結果を利用して事後確率を求める方法を⊥・般化して述べて   みよう。事前確率である主観確率にA乞なる値を重みづけたときの市場調査の結   果が旦ブであったとすると,P(β7】A£)はAが起こったあとでβブの生ずる確率で   あるから,主戯確率がA£であったときの市場調査ほβ.〆である割合を表わしてい   る。逆に,P(A tβプ)ほ市場調査の結果,例えば来年は好況であるという調査   報告が出たあとで,その原因である主観確率がA名紅なる確率を示しているか  

ら,これが求められれば市場調査結果を主観確率としての事前確率に.吸収せし   めることができる。すで軋述べたように,  

P(A電)P(βJIA乞)  

P(A‡】βグ)  

ヲタ(Aブ)P(βメIA豆)   

(15)

不確実性構造と経営の機能的階層関係(3)   −J5−  

523  

なる関係があるから,右辺のP(A )ほ事前確率として既知,ア(β′IA富)も謁査   鎗果から求められる確率であるから既知。したがってP(Alβグ)は求められ,  

問題の転化が可儲である。ゆえに・,P(A名lβブ)ほ主観確率を市場調査紅・より改   訂したものと考えられる。なお,市場調査は,いろいろな方法と当該状況に・よ  

り,その信瀬度が異なってくるから,市場調査をもとに・してどの計画を採択す   るかの基準としてほ,考えられる損失の期待値をとることが適当である。   

以上のことを念頭払おいて,事前確率を市場調査という情報を得て改訂す−る  

(181  

解法ほつぎの形式で与えられる。   

3種の経常釘画α㍉α2,α$の好況としての主観確率,Al,不況として・の主観   確率A2に倒する損失はエ(Aノ,α慮)(去−ニ1,2,3;.グ=1,2)である。好況か不況かの事   後確率P(Aブlβた),(ブ=1,2;ゐ=1,2)は,主観確率Aプと市場調査β1,β2により与   えられるが,その際の損失期待値ほ   

エ(αゎβた)=P(Allβゎ)エ(Al,α宜)+・P(A21βた)エ(A2,α宜)(オ=1,2;3;ゐ=1,2)  

で与えられるo  

i)まず市場調査の結果がβ1=好況になることを予測した場合を考える。   

市場調査の信額皮を過去の実繚で調べると,つぎのような条件付確率で示さ   れる。  

第1表P(夙IAブ)の表   β1  β2   好 況Al  

不 況A2  

0.6 0.4   0.2 0.8   

また,3種の経営計画案(勘,α2、α8)のうち市場が好況の場合には計画¢1に   よる利益がもっとも大きく,この場合の利益を基準紅とって,他の計画の市況   に対する利益減少高を損失と見なして計上す・るとつぎの扱失表ができるとす   る。  

は功 以下の仮設例での数値ほ,松田・洲乏内・杉山・出居共著,ORのための基挺数学5,  

188−200ぺ一汐から引用した。   

(16)

524    第42巻 第5雪  

J6  

8     α  

○﹈     α  

t 〃  

≠⁚≠︒.∴  

3  1   2  4  

かくて,既知のデータは 

P(Al)=0.6,タ(β11ノ41)=0・6   P(A2)=0.4,P(β11A2)=0・2   およぴ  

エ(Al,〃1)=0,エ(A2,勘)=6   エ(Al,α2)=2,エ(A2,β2)=4   エ(Al,α8)=3,エ(A2,〃8)=1   事後確率を求めると,  

ク(Al)P(β1iAl)  

P(Al】β1)  

1  

l )+タ(A2)P(β  

)P(β11A   

0.6×0.6   0.36   0.6×0.6、十0.2XO.4  0.44  

P(A2)P(βllA2)  

P(4=β1)=   l  

二l=う  

Al)十P(A2)P(β1  

P(Al)P(β1   

0.4×0.2     0.08   0.6×0.6+0.4×0.2  0.44  

期待損失値は   

計画α1:エ(〃l,仇)=P(All仇)エ(Al,α1)+P(A21動)エ(A2,の)  

一×0+×6=詰   

計画α2:エ(α2,β1)=P(Allβ1)エ(A l,α2)+ク(A21β1)エ(A2,α2)  

一×2+×4=譜   

計画〃8:エ(〃8,β8)=P(All仇)エ(Al,α3)・+タ(A21飢)エ(A2,α8)  

−−×3+×1=譜  

(17)

不確実性構造と経営の機能的階層関係(3)  

−J7−  

525  

各損失を比較すると,計画のが最小の損失を与える計画であることが分る。  

(ii)市場調査の結果がβ2=不況に.なることを予測した場合。   

既知のデータほ‥(i)の場合と同様にP(Aグ),エ(Aゎの)と   P(β21Al)=0.4  

P(β21A2)=0.8   事後確率は  

P(Al)P(動=Al)  

P(Al】β2)  

P(Al)P(β2」Al)+・P(A2)P(」  

0.6×0.4   0.24  

0.6×0.4+0.4×0.8  0.56  

P(A2)P(β2】A2)   0.32  

P(A2」β2)=  価=【石二盲6  

損失期待値は   

計画α1:エ(α1,β2)=ダ(Al」β2)エ(Al,α1)+P(A2=知)エ(A2,α1)  

−▼・一×0・ト×6=一一   

計画α2:エ(α亭,β2)=P(Allβ2)エ(Al,α2)+P(A21β2)エ(A2,α2)  

×2十 

×4=一   

計画α$:エ(α8,β2)=P(Allβ2)エ(Al,α8)+P(A2】β2)エ(A2,α8)  

一×3十×1=  

各扱失を比較すると,計画α8が最小の損失を与える計画であることが分る。   

以上の結果を総合して,期待扱失を最小紅する計画は.市場調査の結果が好況   ならば,計画α1,市場調査の結果が不況ならば,計画〃$を選ぶことが合理的で   あることが分った。   

以上のごとくして,市場訝査という追加情報が得られれば,こ.れに.よりタ(Aブ)  

の主観確率を改訂して,より信頼度の高い予測情報のもとに.,上述の方法を用   いて,計画するこことができることが示された。かくして,ペイジアン法の特徴   ほ次の諸点に求めることができる。   

(18)

第42巻 第5号  

−Jβ−   526   

まず第1に,情報が加わるはど損失の少ない計画の選定が可能であること。  

すなわち,市場調査について二つの項目β1==市況は好況紅なる,β2ニ市況ほ   不況に.なる,に.づいて:調査し,3種の計画を選択するのであるから,調査項目   紅.よりどの計画を選ぶかの方法は32=9通りある。記号dl,d2,・・で選定の仕   方の番号を示すとすると,市況がAブで計画選択の仕方ゐを採用するときの損失   の期待値エ(晶,Aブ)はすでにふれたよう紅,つぎのように.して求められる。たと  

えば,d2=(β1ならばα1,β2ならばα2),Alの場合に・は,   

エ(d2,Aタ)=P(β11Al)・エ(Al,α1)+P(β21Al)・エ(Al,α2)  

欝3表  

dl♂2 d8 d4 ゐ d¢ d7 d8 d9   調査の結果β1  

〝   β2  

α1(Zl(71 α2 α2 α2 α8 α$ 〃8   

α1(柁 α8 αl α2 α8 (Zl α2 α$  

9通りの選定の仕方に.ついて扱失の期待値を求めると,   

第4表  

dl d2 d$ ♂4 ゐ(ね d7(ね d9  

0 0.81.21.2 2 2.41.82.6 3    6 4.4  2 5.6 41.6 5 3小41  

が得られる。市場調査の結果β1,β2と,計画案α1,α2,α8との組合せ,つまり決   定関数d(α,β)をつくり,この決定関数を経営者の戦略と考え.て,おのおのの   戦略あについてア(Al),P(A2)で重みをつけた損失期待値を計算すると,第1表   から ア(Al)=0.6,P(A2)=0・4とすると,  

タくdl)=P(Al)エ(dl,Al)+P(A2)エ(dl,A2)=0十0.4×6=2・4   同様に.して r((ね)=0.6×0.8十0.4×4.4=2・24  

γ(d8)=0.6×1・2+0・4×2=1・52   γ(d4)=0.6×1.2+0.4×5.6=2.96   r(♂6)=0.6×2十0.4×4=2い8  

γ(♂8)=0.6×2.4十0.4×1.6=2・28   

(19)

不確実性構造と経営の機能的階層関係3)   −Jクー・  

527.−  

タく(わ)=0.6×1.8+0.4×5=3.08  

′(d8)=0.6×2.6十0.4×3.4=2.92   γ(d9)=0.6×3十0.4×1=2.2  

となる。したがって.−最小値グ(♂8)=1.52であるから,市場蘭査がβ1ならばα1,  

市場調査がβ2ならばα8を選定することになり,前述の計算と・−・致する。かくし   て−,市場調査という情報を追加すること紅よっで,期待損失の値は1.52である   のに.対し,市場調査を追加しない場合には,計画動を採用するときの損失期待   値として  、   

β〈エ(〃£)〉=P(Al)エ(Al,α£)+P(A2)エ(A2,α名)  

で求められるから,3種の計画紅対する損失期待値を第2表から求めると,   

β(エ(α1))=P(Al)×0+P(A2)×6    β(エ(α2)〉=P(Al)×2+P(A2)×4    β〈エ(α8)〉=P(Al)×3+P(A2)×1  

となり,P(Al)=0.6,P(A2)=0..4   であるから   

β(エ(α1)〉=2.4,属(エ(α2))=2.8,且〈エ(α8)〉=2.2  

を得る。最小値は計画α3であり,期待損失の値は.2.2である。かくて−,市場訝   査という情報を追加したときの期待損失の値は1・52,追加しないときの期待損   失の値ほ2.2であるから,情報が加わると,損失の少ない計画の選定が可能で  

あることで分る。   

第2紅,前にも述べたが,後の計昇例でも分るように・計画と市場調査結果の   組み合わせである決定関数を戦略にとると,3種の計画と2種の調査結果だけ  

でも32=9通りの組み合わせとなり,これがさらに・計画の種類がふえ調査項目   がふえると決定関数の数は幾何級数的に.増大する。そこで,ペイジアン法でほ   市場調査の行為をAl,A2の主観確率と結合せしめ,より簡単紅計算すること   に成功している。すなわち,前例でほ2種の主観確率(Al,A2)と9通りの計/  

画の蓮定の仕方である決定ルールのグーームを,2種の主観確率(Al,A2)と3   種ゐ計画(αl,鶴,α$)のグ・−ムで損失期待値を最小紅するという簡単な問題紅   

(20)

第42巻 第5号  

ー20 −  

528  

転化したのである。   

欝3紅,3種の討画秦(勘,α2,〃8)は,確場が好況の場合ほ計画α1による利   益がもっとも大きいとして,との場合の利益を基準にとって,他の計画の市況   に対する利益減少高を損失と見なして,第2表を作成したが,この考え方は経   済学の械会損失の考え方にもとづくものである。意思決定に・際し,機会概念の  

く19)  

導入の極めて重要なることは既に詳述したが,ペイジアン法はかかる考え方と    一・致している。   

第4に,計画と情報との関係が定量的紅把握可能であ,る。すなわち,新鮮で信   頼度の高い情報を加えるはど,よい計画が採択できることをペイジアン法ほ示   

しているが,労力,時間費用もまたそれに伴って増大する。したがって計画倒   れに.ならないよう軋するため紅は,予測のための費用が計画を改尊したために   生ずる費用を上廻らないよう紅改善しなくてはならない。このため紅,予測の    費用を損失に加え,両者の和のもっとも小さい予測方法を選択することが必要    となるが,この計算も(ここでは計算例は示していない)ペイジアン法の応用    として可能である。   

第5に.,そして最後紅,ペイジアン法は社会科学における主観性と数学的客    観性を有機的に.統合すること紅成功している。このことについては既に・ふれた    ので簡単紅とどめるが,数理科学的方法を社会科学へ導入するについて,その    主観性をどのように処理するかという従来からの難問に,ペイジアン法は.・一つ   の解答を与えたと云っても過言ではない。   

以上われわれはペイズの定理紅立脚しつつ主観確率を追加情報に.より改訂す    るいわゆるペイ汐アン法の意義を明らかにし,それの諸特徴を導き出したので    あるが,すで紅その過程把.おいて気付くどとく,ペイジアン法の要求する条件    な、いし前提というものは,情報の採取と利用とを積極的に.おこなおうとする考    え方である。かかる考え方は,いみじくもハイネスの指摘するよう陀.従来のビ    ジネス・エコノミックスには存在しなかったのであり,そこでは常紅情報をあ  

8功 拙稿,線型計画法の経営経済学的展開,研究年報8号参照。   

(21)

不確実性構造と経営の機能的階層関係(3)   −2∫−  

529  

らかじめ与えられたものとして一分析をすすめてきたのである。これはその母胎   である経済学の企業理論より伝承せしめられてきたもので,かかる考え方への   批判は,むしろ企業行動科学の側から起ったのである。すなわち,企業行動科  

(20) 学では情報は与えられるものではなく探求されるべきものであるとして,伝統  

的意思決定論の立場を批判している。経営学が経営の経済論と管理論の組織論  

(21)  

を媒介とする統一・より成り立つものとすれば,ビ㌢ネス・エコノミ′ックスは今  

後益々企業行動科学の成果を積極的に摂取しなければならず,その意味でペイ  

ジアン法の導入中ハイネスの積極的主張は高く評価されなければならぬであろ   う。かくして,ビジネス・エコノミックスの体系におけるペイジアン法の位置   と役割は−・の変革一従来のピ汐ネス・エコノミ.ックスの考え方の枠組からの逸   脱を意味サるものであり,したがってunder certaintyからunder uncertainty   の分析理論として変容する過程に.おける中心的役割をに.なうも〟のと考えるこ.と   ができる。そしてその崩芽はすでに∴ンユレイプァーのAnIntroduction to  

(92)  

ManagerialEconomics underUncertainty,として結実しているのであって,  

ペイジアン法がかかる変容への起動動機を与えた点に.,われわれはその経営経   済学的意義を認めるぺきであろう。  

鋤 Simon,H.A‖ Administrative Behavior,p.67・pp。80−81。  

位封 山本安次郎,経営学の基礎理論,102ぺ」−ジ。  

C22)Schlaifer,R..,Probability andStatisticsfor寧usisnessDecisions−AnIntroduc−   

tion to ManagerialEconomics under Uncertainty,1959 

参照

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