フラン及びその類縁体を用いる生理活性天然物の合 成
著者 津吹 政可
雑誌名 星薬科大学紀要
号 34
ページ 13‑22
発行年 1992
URL http://id.nii.ac.jp/1240/00000082/
フラン及びその類縁体を用いる生理活性天然物の合成 津 吹 政 可
星薬科大学 医薬品化学研究所 有機合成化学研究室
Natural Product Syntke8is Utilizing Furan8 and Their Amlogues Masayo8hi TSUBuKI
乃2s云吻 θ(ゾ1晩4 c碗α1 C加鋤5〃ツ,盈Os万σ〃⑫〃5⑳
天然物合成において機能的な合成素子を利用す ることは効率的な合成を行う上で有効な手法の一
つといえる.合成素子の要件として入手の容易
さ,化学修飾の簡便性,さらに幅広い適用性等が 求められ,その様な観点から多くの機能性合成素 子の開発が進められている.著者らは,フラン及 びその類縁体が容易に入手あるいは合成し得るこ と,またフランが潜在的に有する1,4・ジカルボ ニル化合物との等価性に着目し,その機能性を発 現し活用することによりフランの合成素子として の有用性を明らかにすると共に生理活性天然物の 合成を行った.本稿では,フラン及びその類縁体ノを用いる数種の生理活性ステロイド並びにラクト ン系抗生物質の合成を紹介する.
フランの導入はその一般法である2一リチオフラ ンとカルボニル化合物あるいは2・アシルフランと Grignard試薬等の有機金属試薬との反応を用い て行い,フリルメタノール1を出発物質とした.
フランの潜在的な機能を引き出す目的で,1を酸 化等の処理によりブテノリド2あるいはピラノン 3に誘導した.両者の化合物はフランの1,4・ジカ ルボニル等価性を失うことなく図1に示すように 環上の炭素において化学修飾が可能となる機能性 複素環化合物と考えられる.
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3 Figure 1
1ステロイド側鎖の高立体選択的構築法の開発と その天然物合成への文用1)
エクジソンやブラシノリドに代表される生理活
ク
oxygenated
natura∫produc恰
性ステロイドは高度に酸化された側鎖を有してお り,その側鎖部の立体化学が生理作用の発現に重 要な役割を果している.側鎖部の構築は鎖状化合
本研究は平成3年度有機合成化学協会奨励賞受賞研究の一部である.
proc. Hoshi Un三v. No.34,1992
物の立体制御と考えられ,フラン及びその類縁体 を構成単位として用いる一方,その機能性を踏ま えて側鎖の高選択的構築法の開発を行った.
H
R?H
凡 22
H
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45
Hσ
H
1・1エクジソン及びその類縁体の合成
エクジソンは昆虫の変態に関わる重要な物質で あり,20位の水酸基の有無によりα一エクジソン4
とβ一エクジソン5型に分類されている.エクジソ ン類の合成では22位ヒドロキシル基の立体制御
が課題となる.
砕エクジソン側鎖の合成
エクジソン側鎖の(22R)ヒドロキシル基の立体 制御を22位での還元反応により検討した.20・オ キソステロイド6と2・リチオフランより3行程で 得られるフラン9(R=Me)をその等価体であるジ
ヶトン10を経由しヶトン11とし,種々の試剤を
用い還元を行ったがallti・Cram型生成物である 15を優先的に与えるのみであった2).また,オレフィン8の立体選択的還元反応はAに示すように
進行することを示唆しており,これを基に化合物 9(R=H)のフラン環部の接触還元による22位で の立体制御を試みたが20,22位間の自由回転のた め選択性は得られなかった3).{ぱ会{〕㌍㌫
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18 20
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19 21
Figure 314
15
これを解決するために合成素子として2一メトキシ フランを用い20,22位間を固定した(E)一及び
(Z)一イリデンブテノリド18,19を製し,これらの 接触還元により高立体選択的にラクトン20,21を 得た.両化合物はそれぞれα・エクジソン側鎖14
とその異性体15に導いた4).
β・エクジソン側鎖の合成
ステロイド側鎖の立体制御には固定された環系 の還元反応がきわめて有効であることが判明したノ
ので,これを6員環系に拡張しβ一エクジソン側鎖 の高立体選択的構築法に適用した.すなわち20・
オキソステロイド22と2・リチオフランより得ら れるフリルメタノール23を順次酸化しピラノン
24に導き,24の二酸化白金触媒による接触還元
を行うと反応はDに示すように高選択的に進行しラクトン25,26を与えた.両化合物をMeMgBr
にて処理しβ・エクジソン側鎖27に導いた5).
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Figure 4 本法を甲殻類より単離された2一デオキシエクジ
ソン33の合成に応用した.プレグネノロンより 調製した20一オキソステロイド28を上記方法に従
いピラノン29に導き,29の還元反応を鍵反応に
用いて,その立体選択的合成に成功した6).また,本法の応用性を証明すべくエクジソンの類縁体で
ある24位にメチル基を有するマキステロンA側
鎖の合成を行った.すなわち合成素子として2・プロモー4一メチルフランを用い,これをリチオ化後 ケトン28に導入しさら1こピラノン30に導き,
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36 9H
Proc. Hoshi Univ. No.34,1992
30の接触還元反応により(22R,24S)一体32のみを 得た.本化合物32はメチル化により24一エビ・2・
デオキシマキステロンA34を与えた.一方,マ
キステロンAは(24R)の立体配置を有しているので,化合物32を用いて24位の立体反転を行っ
た.ラクトン32を速度論支配下にプロトン化すると反応はEに示すように進行し35を主成績体
として与えた.本化合物を先と同様に変換してマ キステロンA側鎖36の合成に成功した6).1・2ウィタノリド側鎖の合成
ウィタノリドはナス科植物中に存在するδ・ラク トン環を側鎖部に有する抗腫瘍性ステロイドであノ
り,構造の新規性及び生理活性の両面から注目を 集めている.ウィタノリドもエクジソンと同様に
(22R)の立体配置を持つヒドロキシル基を有して いるので,ピラノン誘導体を経由するウィタノリ ド側鎖の合成を行った.すなわちスチグマステロ
ールより容易に得られるアルデヒド37に2・リチ オ・3,4・ジメチルフランを導入し,アルコール38
とし,38を順次酸化しピラノン39とした.23位
のカルボニル基を段階的に還元しウィタノリドR側鎖40並びに27・デオキシウィタファーリンA
側鎖41の簡易合成法に成功した7).OMg 37
ソH°
1}A勉O,Py 2}Z∩Hg
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39
Figure 6
1・3プラシノリド及びその類縁体の合成
ブラシノリドは顕著な植物生長促進作用を示す ステロイドであり,農業上への応用も期待されて いる.ブラシノリドは側鎖部に四個の連続する不 斉中心を有しており,この系の立体選択的構築法 の開発が重要な課題である.
プレグネノロンよりの合成
α・エクジソン側鎖合成におけるイリデンブテノ リドの高立体選択的還元反応の知見を基にする と,ブラシノリド側鎖構築には5員環上に適切な 官能基を有するイリデンテトロネートが重要中間 体として考えられる.そこで合成素子としてα・イ
ソプロピルテトロン酸を選び,このジアニオンを
HO^,
Hひ
耀
o
bras画nol栢e
ケトン42に付加すると反応はキレーションモデ
ルFで進行し43を与えた.化合物43をトリフ ルオロアセチル化後,脱離すると主成績体として(Z)・イリデンテトロネート45が得られた.本化
合物45を接触還元反応に付すと,予期した通り
四連続不斉中心の立体化学が一挙に制御されたラクトン47を単一生成物として与えた.化合物47
は数行程でブラシノリド側鎖51に変換されると
共に,ブラシノリドの形式合成にも成功した.本 還元反応はGに示すように立体障害の小さい側から還元が進行するものと考えている.また43の
脱水により得られるexo一オレフィンを異性化すノるとエネルギー的に有利なs・trans立体配座(H)
を経て(E)・イリデンテトロネート54を与えた.
化合物54は上記と同様の変換を行い,22,23,
24一エピブラシノリド56の合成にも成功した4).
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≡ん」 ・・B+
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H
本法はテトロン酸のα位置換基を任意にかえる ことも可能であり,これを証明するためにα・メ チルテトロン酸より26,27・ビスノルプラシノリド 53の合成も行った8).さらに,高活性ブラシノリ ド類縁体の創製を目的として本方法論により8種
の新規誘導体を合成した9).
スチグマステロールよりの合成
スチグマステロールより容易に得られるアルデ ヒド57を用いるブラシノリド合成も数多く開発 されているので,フランを合成素子とする別途合
OM8 57
一
克
τHF,・7㏄
{
む
59
Figure 8
︷ ・.
60
レ
24
一一◆・bra醐nol栢e
Proc. Hoshi Univ. No.34,1992
成法を確立した.すなわち57に3一イソプロピル・
2・リチオフランを付加し主生成物として得られる
(22R)・フリルメタノール58を順次酸化しピラノ ン59に導いた.先のβ一エクジソン合成と同様に
59の接触還元により23,24位の立体化学が制御
されたラクトン60が得られた.本化合物60は
既にブラシノリドに変換されており,その形式合成を達成した1°).
上記反応の応用としてピラノンの機能性を活用 するブラシノリドの一般的合成法を開発した.ブ ラシノリドの母核部の官能基を有するアルデヒド 61に2一リチオ・4一メチルフランを付加し,上記と
同様にピラノン62に誘導した.エノン62を塩
化セリウムと共に水素化ホウ素ナトリウムで還元 後,アリルアルコールを保護し63とした.不飽ノ和ラクトン63へのジメチル銅リチウムによる1,4・
付加反応は,1に示すように隣接するエトキシエ チルオキシ基の反対側より進行し(22R,23R,
24S)・体64を単一生成物として与えた.ラクトン 64はプラシノリド側鎖部の全ての不斉中心を有し ており,これをブラシノリドに誘導したω。本法
の利点はピラノソ63への求核剤及び求電子剤を
各種組み合わせることにより側鎖部の24,25位に 任意の置換基を導入することが可能な点にある.これを証明するためにラクトソ64のα一位にメチ ル基を導入し高い活性を有する25・メチルブラシ
ノリド71を合成した.また,ピラノン63への
ジフェニル銅リチウムの付加反応により新規化合 物69の合成にも成功している.61
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62
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0 71
Figure 9IIラクトン系抗生物質のエナンチオ選択的合成 II 16・置換5,6・ジヒドロ・α・ピロン類の合成 6一置換5,6・ジヒドロ・α一ピロン系天然物は植物や 菌に広く分布し約65の誘導体が知られており,
これらは植物生長阻害,昆虫摂食阻害,抗菌及び 抗腫瘍作用等の生理活性を有する.本化合物群は
フリルメタノールより効率的変換が可能と考えら れるので,数種の光学活性天然物の合成を行っ
OH
た.
1
フリルメタノールの不斉酸化による合成
光学活性ピラノンの不斉合成法の開発を目的と
し,2級のフリルメタノール72の不斉酸化反応
を検討した.フリルメタノールはアリルァルコー ルの拡張系と考えられるので,そのSharpless酸 化による速度論的分割法を適用したところ高い光学純度を有するフリルメタノール72及びピラノ
Table 1
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O.7eq. TBHP
・
2σ℃・・35℃
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OH
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㎝
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racemb 72 optk副yac6v672
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%的 %yieb 蜘)lutg oon而gura6㎝
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L
図 43 Rロ◎peny| L
82 32 Rcycbhe蛸 L >98 44 R
decy|
D 》98 44 Sン73の合成に成功した12).本法はきわめて酸化 反応を受けやすいフリルメタノールを用いている ためオレフィンを置換基に有する化合物にも使用
できる.
本法を用いて(十)一アセチルホマラクトン82及 び(十)・ゴニォタラミン83の合成を行った.すなノ
わち化合物74,75を上記反応に付し光学活性ピラ ノン78,79を製し,ラクトールを保護した後還元 によりアルコール80,81とした.これらを数行程 で目的とするα・ピロン系天然物82,83へ変換し た.合成品は高い光学純度を有しており,本不斉 酸化反応の有用性を証明した13).
㌔一・欝闇一転,
む 74酬・ 76R・M・ 78R。晩 75R・Ph 77 R・Ph 79 R。Ph
?EE
む◇》《晩
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82 グ RδH
、。酬e\°
81RヨPh 止.
83
Figure 10光学活性グリセルアルデヒドよりの合成
α・ピロン系天然物には6位置換基にポリエン部 を有するものが多く知られているので,アルデヒ
ド88のWittig反応による別途合成法も確立し
た.光学活性源として(R)一グリセルアルデヒドを 用いフリルメタノール85を製し,85を順次酸化,還元反応に付しピラノン86とし,さらに数行程で アルコール87に導いた.重要中間体であるアル
デヒド88は不安定なため,87のSwern酸化に
より反応系内に調製し,続いてWittig反応を行 った.本法により(一)・アルゲンチラクトン89及 び(+)・ゴニォタラミン83の合成を達成したω.Proc. Hoshi Univ. No.34,1992
1し。蟻
o。
…隅脇84
o
む
亡し噺
。
当㎝田
90 32:1 83 Figure 11
II・2マリンゴリドの合成
β・エクジソン合成に見られるように,3級フリ ルメタノールは四置換不斉炭素を含むδ・ラクトン
環構築に最適な基質となるので,これを藍藻
Lヅη9⑳α吻α元μSCμ1αより単離された海産性抗生
物質であるマリンゴリド96の新規合成法に応用
した.光学活性源として上記と同様に(R)・グリセノルアルデヒドを用い,2一リチオー4一メチルフランを
付加した後,Swern酸化し2一アシルフラン92に 導き,92のGrignard反応により目的とするフ
リルメタノール93を調製した,本反応はキレー ションモデルJで進行するものと考えられる.化合物を順次酸化しピラノン94とし,数行程で
(一)・マリンゴリド96の合成に成功した15).
1)
o
91
7、
c,H1〆H 93
一驚・器罐・
95 96
II・3カナデンソリドの合成
Figure 12
カナデンソリド105はPε勿6磁μ功εακα∂εηsθ から単離されたビスラクトン構造をもつ抗生物質 であり,類似のアベナシオリドと共に合成化学的 に興味ある対象化物である.上記のようにフリル メタノールより得られるピラノンはその環上での 立体制御が選択的に行えることが判明したので,
本法を用いるビスラクトン構造の一般的合成法の
2 1
_3
15 gH19
ぼ冷
開発を行った.光学活性フリルメタノール98は
3・フランメタノール97と吉草酸アルデヒドから 製したラセミ体98のSharpless酸化による光学分割により得た.これをピラノン99に導いた
後,99を接触還元ついでL一セレクトリドで還元 することにより三連続不斉中心が立体制御されたピラン100を得た,本化合物の1級アルコール部
をカルボン酸101とし,101を酸処理後,ラクト
97 98
103RロO
TBSO O 99
匪
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4 8 2
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100 4}㌔
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†04 105
Figure 13
一
ル102を酸化することによりビスラクトン103
の立体選択的構築に成功した.また,102はラク トール104に変換し(一)・カナデンソリド105の合 成を達成した16).以上のように,フラン及びその類縁体は合成素 子として極めて有用でしかも幅広く適用しうるこ とを示すと共に,これを生理活性天然物の効率的 かつ高選択的な合成に応用した.
これら合成素子は次のような利点を有してい
る.
1) フラン及びその類縁体の多くは化学品とし て比較的安価に購入が可能であり,また任意の位 置に置換基を導入した誘導体も容易に合成しやす
い.
2) これらは潜在的に1,4一ジカルボニル化合物 としての等価性を有しており,プテノリドあるい はピラノンに導くことによりその機能性を有効に 発揮できる.
3) ブテノリド及びピラノンは環上の全ての炭 素で化学修飾が可能であり,多機能性複素環化合 物と考えられる.
4) これらは環系由来の1,2・あるいは1,3・不斉 誘導等による立体制御が効率よく行え,最大四個 の連続する不斉中心の立体選択的構築が可能であ
る.
謝辞
本研究を遂行するに当たり,終始暖かい御指導 と御鞭燵を賜りました星薬科大学元学長,東北大 学名誉教授故亀谷哲治先生並びに星薬科大学教授 本多利雄先生に厚く御礼申し上げます.また,本 研究は加藤正博士,日暮勝之修士,木川雅晴修士,
慶野勝幸修士,金井一夫修士,小林有二修士を始 めとする多数の共同研究者の御協力によって遂行 できたものであり,心から感謝の意を表します.
Reference8
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