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デング熱に合併した可逆性の脳梁膨大部病変を伴う 軽症脳炎

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Academic year: 2021

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(1)

デング熱に合併した可逆性の脳梁膨大部病変を伴う 軽症脳炎! 脳症の 1 例

1)長崎大学病院感染症内科(熱研内科),2)長崎大学熱帯医学研究所ウイルス学分野

齊藤 信夫

1)

北庄司絵美

1)

神白麻衣子

1)

古本 朗嗣

1)

森本浩之輔

1)

森田 公一

2)

有吉 紅也

1)

(平成 26 年 9 月 8 日受付)

(平成 27 年 1 月 27 日受理)

Key words : dengue fever,

clinically mild encephalitis!encephalopathy with a reversible splenial lesion(MERS), magnetic resonance imaging(MRI)

デング熱は熱帯,亜熱帯地域を中心に近年,患者数 が急速に増加しており,本邦においても海外渡航者の 増加と相まって,輸入感染症症例が増加している1)2) デング熱は蚊によって媒介され,4〜10 日の潜伏期を えて突然の発熱,筋肉痛などで発症する.通常,発症 後 3〜7 病日に解熱がみられる.この解熱期に血管透 過性が亢進し,出血,ショックなど多彩な症状が引き おこされる1).可逆性の脳梁膨大部病変を伴う軽症脳 !脳症(clinically mild encephalitis!encephalopathy with a reversible splenial lesion;MERS)とは近年 提唱された感染や薬剤など様々な原因によっておきる 予後良好な臨床画像症候群である3).今回我々はデン グ熱解熱期に軽度の神経症状を呈し,MRI の特徴的 画像所見より,デング熱に合併した MERS と診断し た 1 例を経験したので報告する.

患者:48 歳男性.

初診時主訴:発熱,関節痛,頭痛,倦怠感.

既往歴:20 歳頃気管支喘息(現在は無治療),1 年 前より検診で耐糖能異常,高血圧,高脂血症を指摘(す べて無治療).

嗜 好 歴:喫 煙 15 本!日(15 歳 か ら 41 歳),飲 酒 焼酎 2 合,ビール 1 缶(350mL)!日.

職業:貿易業.

渡航歴:30 歳頃より仕事関係で頻回の海外渡航歴

あり.これまでカンボジア,タイ,フィリピンなどに 渡航歴有り.

薬剤性アレルギー:既往無し.

現病歴:上記のとおり貿易関係の仕事で頻回の海外 渡航歴があったが,これまで,デング熱を疑う発熱性 疾患の既往はなかった.20XX 年 7 月 Y-13 日より仕 事でタイ,カンボジアに滞在し 7 月 Y-9 日に帰国した.

滞在中や帰国直後は特に症状なく発熱もみられなかっ た.7 月 Y-3 日(帰国後 6 日目)39℃ 台の発熱,関節 痛,頭痛,倦怠感を認めた.感冒と考え自宅にあった ホスホマイシンを自己判断で内服した.ホスホマイシ ン内服後より全身性の蕁麻疹を認めたため近医救急外 来を受診した.輸入感染症による発熱を疑われ精査加 療目的に同日同院に入院となった.デング熱を疑い長 崎県環境保健研究センターに RT-PCR 検査の血液検 体が提出された.入院後も発熱が持続するため,全身 管理や精査が必要になる可能性を考慮され,7 月 Y 日

(発症第 4 病日)当院へ転院となった.

当院入院時現症:体温 39.0℃,血圧 136!95mmHg,

呼吸数 10 回!分,SpO2 96%(室内気下),意識清明,

呼吸音清,心雑音なし,腹部平坦,軟で圧痛なし,体 表リンパ節触知せず,体幹部,四肢に広範囲に紅斑あ り,ターニケットテスト陽性.

入院時検査所見:白血球 2,700!μL,血小板 11.9×104

!μL と減少がみられた(Table 1).

生化学検査:CRP 3.29mg!dL と上昇し,また肝機 能検査で AST 106IU!L,ALT 111IU!L と上昇して おり,Na 131mEq!L と低下がみられた.

入院後経過(Fig. 1):入院 2 日目(発症第 5 病日)

別刷請求先:(〒852―8523)長崎市坂本 1―12―4 長崎大学病院感染症内科(熱研内科)

齊藤 信夫

(2)

Fig. 1 Clinical course after onset of fever Table 1 Laboratory findings (Day 3 and Day 5)

Day 3 Day 5 Day 3 Day 5

Haematology Chemistry

WBC 2,700 /μL 45,000 /μL TP 7.4 g/dL

Neut 76 % 27 % ALB 4.2 g/dL

Lymph 21 % 58 % BUN 12 mg/dL 11 mg/dL

Mono 3 % 5 % CRE 0.9 mg/dL 0.76 mg/dL

Eosino 0 % 0 % T-bil 0.7 mg/dL 0.6 mg/dL

Baso 0 % 0 % Na 131 mEq/L 135 mEq/L

Atypical-Lymph 0 % 10 % K 3.9 mEq/L 3.9 mEq/L

RBC 517×104/μL 492×104/μL Cl 96 mEq/L 102 mEq/L

Hb 15.6 g/dL 15.2 g/dL AST 105 IU/L 147 IU/L

Hct 44.9 % 42.9 % ALT 111 IU/L 131 IU/L

Plt 11.9×104/μL 6.2×104/μL LDH 377 IU/L 479 IU/L

ESR 22 mm/h 2 mm/h ALP 177 IU/L 163 IU/L

γ-GTP 169 IU/L 131 IU/L

Infectious diseases: CK 60 IU/L 60 IU/L

Malaria rapid test negative (day 3, day 5) CRP 3.29 mg/dL 1.71 mg/dL Dengue PCR positive (day 2)

negative (day 4) Degue lgM positive (day 4, day 9) Chikungunya PCR negative (day 4) Chikungunya lG M negative (day 4)

HIV Ag/Ab negative

には 37℃ まで自然に解熱し症状も改善した.第 3 病 日に前医で採取した血液検体より RT-PCR でデング ウイルス 1 型であることが判明し,デング熱の診断に 至った.後日測定した第 4 病日,第 9 病日のデングウ イルス特異的 IgM 抗体も陽性であった.入院 3 日目

(発症第 6 病日)には解熱しており,vital sign の変動 もみられなかったが,前日には認めなかった左手握力 の低下,両下肢の脱力,両上下肢の浮腫,頭痛が出現 した.意識清明(GCS:E4V5M6),脳神経系に異常 を認めず,深部腱反射低下なし,病的反射を認めず,

起立,歩行に異常なく,感覚障害も認めなかった.血 液検査では,解熱時に一時的な上昇傾向があったヘマ トクリット値は改善傾向がみられ,Na 135mEq!L は

若干低値であった.筋逸脱酵素は CK 60IU!L と正常 範囲内であった(Table 1).症状が軽度であり,髄液 検査は行わなかった.脳血管性病変の除外のため,頭 部 MRI(Magnetic resonance imaging)を施行した.

頭部 MRI では,新規梗塞像や出血像などは認められ なかったが,脳梁膨大部が拡散強調像で高信号を示し,

FRAIR と T2 で淡い 高 信 号 を 示 し て い た(Fig. 2).

画像からは MERS が疑われたため,無治療経過観察 とした結果,翌日には症状は改善傾向を認め,症状の 出現から 3 日目(発症第 9 病日)には完全に消失し退 院となった.その後も経過は良好であり,再発等は認 めなかった.これらの予後良好な臨床経過と特徴的な 画像所見よりデング熱に合併した MERS と診断した.

(3)

Fig. 2 MRI imaging on day 5, showing high signal lesions in the splenium of the  corpus  callosum  (SCC)  on  DWI  (A)  and  relatively  high  intensity  on  FLAIR  (B)  and T2-weighted (C). ADC map (D) shows reduced diffusion (450×103 mm2/sec)

今回我々はデング熱に合併した MERS の 1 例を経 験した.MERS は MRI 所見による臨床画像症候群で あり,MRI 普及率の高い本邦から多くの報告がみら れる3).予後良好な臨床経過と可逆性の脳梁膨大部病 変により診断される.MERS の原因は感染症や薬剤 など多岐に及ぶが,感染症の病原体としては,インフ ルエンザウイルス,ムンプスウイルス,大腸菌など様々 な報告がある3).我々が検索しえた範囲では,デング 熱を合併し MERS と診断された報告は 1 例のみであ り,本邦においては初めての報告である4)

MERS の発症機序ははっきりと解明されていない が,可逆性であることから一過性に脳梁膨大部に発症 した脳浮腫が病態の一因であるという説がある.また Takanashi らは,MERS 患者において,低ナトリウ ム血症が多いことを指摘し,病態との関連を示唆して いる5).デング熱重症化の主な病態は解熱期におきる 血管透過性亢進による血漿漏出である6).この血漿漏

出により脳浮腫,電解質異常(低ナトリウム血症),

末梢組織の循環不全などが脳症や MERS を引きおこ す可能性は十分考えられる.

MERS の特徴的 MRI 画像所見は脳梁膨大部に T2 強調画像で高信号,T1 強調画像で等信号もしくは低 信号,拡散強調画像で高信号を均一に示し,造影 MRI で造影増強効果は認めない3).デング熱による脳 MRI 所見は脳浮腫や脳炎など非特異的なものが多いとされ ている7).脳梁膨大部に異常所見を認めている症例は 少ないが,Bhoi らは報告では 2 例で脳梁膨大部に異 常所見認めている8).しかし,これらの症例は詳細な 臨床経過が記載されておらず,臨床画像症候群である MERS と診断できるかどうかは不明である.

デング熱による神経症状合併は比較的稀であり,東 南アジアからの報告では,デング熱発症患者のうち 0.5%〜5.4% の頻度であった7)9)10).神経症状合併は,① 脳炎,②脳症,③神経筋合併症,④眼合併症に分類さ れる11).重症デング熱患者 75 例の脳組織病理所見に

(4)

よる検討によると,脳浮腫所見が多く(88%)脳炎所 見はわずか 4% のみであった12).本症例でもウイルス 血症を過ぎた解熱期に発症していることや臨床症状か らは脳症に分類されると思われる.系統的にデング熱 による神経症状合併例を検討した研究はいくつかある が,含まれている患者の多くは重症例であり軽症例は 少ない.ベトナムからの報告では 21 例中 2 例は軽症 例で臨床的に脊髄炎と診断されている9).しかし,MRI が施行されておらず MERS であったことも否定でき ない.この様に,これまでのデング熱神経症状合併の 報告の一部に MERS が含まれているのかもしれない.

報告が少なかった原因として,MERS という概念が 最近提唱された症候群であること,臨床経過が軽症で あるため MRI を施行されず見逃されている可能性が あることが挙げられる.

今回我々は,デング熱に合併した MERS の 1 例を 経験した.デング熱の解熱期にみられる血漿漏出は脳 浮腫,低ナトリウム血症を引きおこし MERS を誘発 しうると考えられた.また,デング熱による神経症状 合併の一部に MERS によるものが含まれている可能 性がある.今回のような症例から,より詳細な疾患の 理解が進むことはデング熱の解熱期に出現した軽症の 神経症状に対する治療方針の決定に役立つと思われ る.

謝辞:本症例の初診とデング熱診断を行って頂いた 長崎原爆病院神経内科 木下郁夫先生と長崎県環境保 健研究センターに深謝いたします.

本論文の要旨は第 299 回内科学会九州地方会で報告 した.

利益相反自己申告:著者 森本浩之輔はファイザー 株式会社から奨学寄付金を受けている.

文 献

1)WHO (World Health Organization). Dengue:

Guidelines for Diagnosis, Treatment, Prevention and Control : New Edition(new edition ed).

World Health Organization, Geneva, 2009.

2)国立感染症研究所ウイルス第一部.デングウイ

ルス感染症情報.2014 年;Available at : http:!!

www.nih.go.jp!niid!ja!dengue-survey!1591-2012 09.html. Accessed 7 月 25 日,2014.

3)Takanashi J:Two newly proposed infectious encephalitis!encephalopathy syndromes. Brain Dev 2009 Aug;31(7):521―8.

4)Sreedharan SE, Chellenton J, Kate MP, Ke- savadas C : Reversible pancallosal signal changes in febrile encephalopathy : report of 2 cases. AJNR Am J Neuroradiol 2011;32(9):

E172―4.

5)Takanashi J, Tada H, Maeda M, Suzuki M, Terada H, Barkovich AJ:Encephalopathy with a reversible splenial lesion is associated with hy- ponatremia. Brain and Development 2009;31

(3):217―20.

6)Simmons CP, Farrar JJ, Nguyen V, Wills B:

Dengue. N Engl J Med 2012 12;366(15):

1423―32.

7)Cam BV, Fonsmark L, Hue NB, Phuong NT, Poulsen A, Heegaard ED:Prospective case- control study of encephalopathy in children with dengue hemorrhagic fever. Am J Trop Med Hyg 2001;65(6):848―51.

8)Bhoi SK, Naik S, Kumar S, Phadke RV, Kalita J, Misra UK:Cranial imaging findings in dengue virus infection. J Neurol Sci 2014 15;342(1- 2):36―41.

9)Solomon T, Dung NM, Vaughn DW, Kneen R, Thao LTT, Raengsakulrach B,et al.:Neurologi- cal manifestations of dengue infection. Lancet 2000;355(9209):1053―9.

10)Domingues RB, Kuster GW, Onuki-Castro FL, Souza VA, Levi JE, Pannuti CS:Involvement of the central nervous system in patients with dengue virus infection. J Neurol Sci 2008 15;

267(1-2):36―40.

11)Carod-Artal FJ, Wichmann O, Farrar J, Gascon J:Neurological complications of dengue virus infection. Lancet Neurol 2013;12(9):906―19.

12)Araujo FM, Araujo MS, Nogueira RM, Brilhante RS, Oliveira DN, Rocha MF,et al.:Central nervous system involvement in dengue : a study in fatal cases from a dengue endemic area. Neu- rology 2012 6;78(10):736―42.

(5)

A Case of Clinically Mild Encephalitis!encephalopathy with a Reversible Splenial Lesion due to Dengue Fever

Nobuo SAITO1), Emi KITASHOUJI1), Maiko KOJIRO1), Akitugu FURUMOTO1), Konosuke MORIMOTO1), Kouichi MORITA2)& Koya ARIYOSHI1)

1)Department of Clinical Medicine, Institute of Tropical Medicine and2)Department of Virology, Institute of Tropical Medicine, Nagasaki University

Clinically mild encephalitis!encephalopathy with a reversible splenial lesion (MERS) has been recently proposed as a clinical-radiological syndrome. Several causes of MERS have been reported including infec- tious diseases. We present herein on a case of MERS induced by dengue fever in a Japanese traveler. A 48- year-old male returning from Thailand and Cambodia was admitted for an unknown fever. Following admis- sion, the dengue virus was diagnosed with a positive RT-PCR result. On day 5 of the illness, regardless of reduced fever, weakness suddenly developed in both upper limbs. A cerebral MRI showed hyperintensities in the splenium of the corpus callosum on T2-weighted and diffusion-weighted images. The symptoms re- solved completely within two days of onset. The patient was diagnosed as having MERS due to the MRI features and the mild clinical course. Although only a few cases of MERS caused by dengue fever have been reported, the condition is possibly underdiagnosed. It is hypothesized that dengue fever can induce MERS as dengue fever can cause increased endothelium permeability and hypo-sodium which have been proposed in the pathogenesis of MERS. However, there is currently limited evidence for this. Further re- search is recommended to demonstrate a causal association between dengue fever and MERS.

〔J.J.A. Inf. D. 89:465〜469, 2015〕

Fig. 1 Clinical course after onset of fever Table 1 Laboratory findings (Day 3 and Day 5)
Fig. 2 MRI imaging on day 5, showing high signal lesions in the splenium of the  corpus  callosum  (SCC)  on  DWI  (A)  and  relatively  high  intensity  on  FLAIR  (B)  and T2-weighted (C). ADC map (D) shows reduced diffusion (450×10 3  mm 2 /sec) 考 察 今回我

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