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―初等学校教員の養成・任用制度―

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フランス教師教育研究

―初等学校教員の養成・任用制度―

小野田 正利

Teacher Education in France

― Training and Appointment of Primary School Teachers

Masatoshi ONODA はじめに

 フランスの初等中等教育機関に勤務する教員は,その担当校種および資格別に大きく四 種に分けられる。すなわち幼稚園・小学校の初等教育を担当する教諭(instituteur,

institutrice)コレージュの普通教育を担当するPEGC教授,リセを担当するセルティフィ エ教授およびアグレジェ教授である。これら教員の養成と任用の制度はそれぞれ異なって いるが,本稿においては教員の「試補制度」との関係上,一般性を有している初等教育の 主たる教員である「教諭」に限定して述べることとする。なお,公立学校に勤務する教諭

はすべて国家公務員である。

 ところで,正教員への任用の一形態としての試補制度は,一方で教員養成および研修制 度,他方で任期制・終身制といった雇用制度と大きく関係していることはいうまでもない。

フランスはこれまで,試補制度を採る代表的な国の一つとされてきた。

 教諭の養成は,数年後の教員需要を見込んでの計画養成であり,師範学校(エコール・

ノルマル,6cole normale)という目的因養成機関への入学試験(concours)自体が,すで に採用(recrutement)そのものを意味している。そして師範学校卒業後,免許を取得して,

一定の期間,見習い教員(試補,stagiaire)を経て,正式任官(titularisation)されるの である。任官後は配転,人事異動はあるものの,国家公務員として終身雇用(定年は60歳)

される。

 ところが,1979年のブーラック改革(当時の文相,C. Beullac)により,教員養成の面 で大きな改革が行われた。養成期間の延長,およびその間の教育実習期間の延長とそれの 重視,さらには学年進級の合否に際して,能力・適性評価を行う審査委員会の設置などで ある。ノこの影響を受けて,任官制度も変更され,これまでのいわゆる試補制度は消滅して きている。

 そこで本稿では,ブーラック改革以前の試補制度,および改革後の教員養成制度と任官 制度について考察することとする。

1.ブーラック改革以前の試補制度

ブーラック改革以前の正教諭の採用には大きく分けて2種類のものが存在していた。一 長崎大学教育学部教育学教室

(2)

つは師範学校への入学により,バカロレア取得後,1年ないし2年の教職課程を経て「初 等教員免許状」(Certificat d Aptitude P6dagogique, CAP)を得て教諭となるレギュラーコー スである。もう一つは,正資格を持たない代用教員を経るコースである。これは教職適格 性を認められた者が代用教員(rempla穿ant)としての職務を果たし,師範学校で短期の教 職理論を学び(四か月半)実習校での教育実習(一か月)を経て,CAPの受験資格を得,

正教諭となる道である。

 後者の代用教員を経て正教諭となる例は,決して稀ではなく重要部分を占めていた。特 に第二次大戦後の人口増加による,いわゆる学校爆発(explosion scolaire)は,師範学校 が充分な数の教諭を提供できないという中で,深刻な教員不足を生み出した。師範学校入 学者の枠が極めて小さいことの他に(1学年1学級で平均して40名以下)職業面での魅力 に乏しく,他の職種に有能な青年たちが流れていくという現実があったのである。代用教 員を正教諭化していくという制度は,まさにその対応策として出てきたのであった1)。し かし1970年代に入って,人口増加の波が静まり,良質の教員養成を行うという措置がとら れはじめるに及んで,代用教員による正教諭への道(代用教員としての採用)は消滅して いく2)。これ以後,正教諭へのルートは,いかなる形をとっても,すべて師範学校への入 学=採用試験を経ることとなる(後述参照)。

 さて,レギュラーコースとしての師範学校入学による養成と任用について述べることと する。入学後は国の奨学生としての教生(61合ve maitre)となり,授業料,寄宿料は無償 のほか,若干の手当が支給される一方で,10年間教員としての在職が義務づけられている。

教生は,バカロレア試験に合格後,1年ないし2年(1970年代はほとんど2年)の教職専 門課程を履修する(専門課程在学中は試補公務員となる)。この専門課程在学中には,理 論教育の他に,3ヵ月間の教育実習(10月,1月,4月の各学期始まりの時期に1ヵ月ず つ)が組まれている3)。こうして教生は最後に卒業試験としての「師範教育課程修了証」

(Certificat de Fin d Etudes Normales)の試験を受ける(6月)。

 卒業後は,新学期の始めから(9・10月)県の教育行政責任者である大学区視学者が,

当該者をまず「試補教諭」(見習い教員,instituteur stagiaire)として,県内の公立幼稚園,

小学校に派遣(d616gation)する。この場合,一般的には師範学校での成績順に空きポス トを優先的にうめることができる。試補教諭として任じられた先の市町村長が「就任」

(installation)行為をすることによって教諭としての活動が開始される。

 新学期に試補教諭となってから一ないし二ヶ月の問に,最後の関門であり正教諭として の資格免許である「初等教員免許状」(CAP)の試験が行われる(通常は12,月以前)。 CAP 取得のための試験は,口述(教育学,学校法規)筆記(作文)および実地の三種類である が,師範学校卒業生は,口述,筆記試験を免除され実地試験のみを受ける。実地試験とは,

審査委員立会いのもとで3時間授業をすることであり,通常は受験者の勤務する学校の学 級で行われる。審査委員会は,国民教育県視学官(県内数地区の初等教育担当視学官),

幼稚園・小学校の中で指導的立場にある正教諭,および3分の1は師範学校,リセ,コレー ジュ,小学校,幼稚園の中から選ばれた教員により構成されている。各試験とも20点満点 で採点され,平均点が10点以上の場合,合格となる4)。

 CAP試験に合格した後は,翌年の1月1日に正式任官(titularisation)され,晴れて正 教諭(instituteur titulaire)となる。法令上は2年以上の見習い期間を義務づけているが,

(3)

師範学校在学期間も見習い期間とみなされている。このため結局,師範学校出身者の試補 期間は,実質的には約三ヵ月である5)。なお,代用教員についてはCAP取得後,1年後 に正式任官される。正式任官は,大学区視学官の提案にもとづき大学区総長の命令によっ て行われる。

皿.改革後の教員採用,任官制度

 (1)師範学校への入学

 1で述べた教諭任用制度は,1970年代後半から徐々に大きく変化してきた。まず1978年 8月22日付政令は,教諭の採用形態を定めるものであったが,この政令は,今後の教諭は バカロレア資格を有するものの中から,競争試験によって「採用」し,期間・程度の差は あるにせよ,すべて師範学校において専門養成を経たものを正式任官することを原則とし た6)。師範学校の入学試験における定員は,当該年度入学者の養成期間終了後の需要をみ こして,大臣が定め,これを各県ごとに大学区総長,大学区視学官,国民教育県視学官の 意見を聞いて割り当てるという形となっている。

 この入学試験には2種類あった。1つは受験の年の1,月1日に16歳以上22歳以下の志願 者に対するもの,もう1つは同じく30歳以下で,補充教諭(instituteur suppleant)の職 務を90日以上経験した志願者に開かれているものである。前者の試験は1981年になって16 歳以上25歳以下に修正され,また1982年からは特別の採用試験が導入されることになり,

今日(1985年段階)では,3種類の入学試験が存在している7)。

 ①内部試験(concours externes)ノfカロレア取得者で,補充教諭の経験を持つ30歳以下   のものが受験できる。

 ②外部試験(concours internes)16歳以上25歳以下の者でバカロレア取得(予定)者が   受験できる。

 ③特別試験(concours sp6ciaux)30歳以下で「大学一般教育修了証」(Dip16me d   Etudes Universitaires G6n6rales, DEUG)を所持,又それと同等の資格を有している   ものが受験できる8)。

 これら3種の試験の定員は〈表1>の通りである。

       〔表1〕師範学校入学者定員の推移

外 部 試 験 内 部 試 験 特 別 試験

1981年度 6,635 4,565

1982年度

(不  明) (不  明) (不  明)

1983年度 4,900 4,500 2,700 1984年度 4,000 3,150 3,000 1985年度 100

800

6,000       (1981年8月18日 i;1:綿1瀧碁3年6月8日)

 師範学校は各県(約100)に男女別に1校ずつ置かれることになっているが,現在は全 部で121校(男子師範21校,女子師範22校,混合78校)あり,1982−83年度には全体で,

(4)

将来教諭になる学生は23,996人(男7,331人,女16,065人)であった9)。

 計画養成をとっているので師範学校への入学者イコール教諭としての任用者ということ を意味する。入学志望者は,どの県を志望するかを決め願書を提出する。試験日,志願期 間は,大学区総長が定めることになっている。バカロレア取得者に開かれている入学試験 の内容は〈表2>に示すとおりである。

   〔表2〕 師範学校入学試験の内容

      (1982年6月15日付省令)

試   験   内   容 試験時間 得点係数

・文学理解,言語知識,筆記表現力をみる文

7

1

献研究  ・

3時間

4

・綴字試験

・論理的思考,数学的にデータを使う能力を

7

2

みる科学的資料の分析 3時間

2

・筆記,論理展開力試験

1 ・体育,スポーツ試験

4

2

・朗読歌唱試験 15分

3

・デッサン・造形

3

選択{ 3時間

3

・手工,技術能力

準備

審査委員会との面接 45分

10

(一般的なテーマを題材とした文書,資料を基にして) 面接

30分

任意 あらかじめ申請することによって受験する

1時間 1 試験 外国語の訳出(辞書無)

      (B.O no 25,24−6−1982)

 合否判定を行う試験審査委員会は,大学区総長によって任命されるが,その構成委員は 大学区視学官を委員長とし,師範学校長,師範学校教授,国民教育県視学官の中から若干 名,および公立の初等・中等・高等教育機関の教員の中から若干名が加わる。筆記試験,

口述(面接)試験の考査には,2名以上の委員が立ち会う。試験の採点は20点満点で行わ れ,5点以下は不合格となる。この点数に得点係数を乗じて判定される。一次試験で満点 の半分以上をとり二次試験へ,一次二次試験合格して満点の半分以上で三次の面接試験を 受けられる。審査委員会は成績順に名簿を作成し,大学区総長がこれをもとにして,合格 者を「教生」(61eve instituteur)に任命する10)。

 なお,DEUG所持者からの特別入学試験の内容については,これとは若干異なるが,同 じく一次,二次,三次試験が行われ,成績順に合格者が決められ,大学区総長によって「試 補教諭」(instituteur stagiaire)に任命される11)。

(2)教育実地研究としての実習の強化

 1978年6月25日付省令(ブーラック改革)は,教員養成の内容を大きく変化させた。こ れにより教諭の養成は,専門性の維持・強化とともに三年課程に引き上げられ,単位制

(5)

(unit6 de formation)をとることにより師範学校と大学との連携が図られた。初等教員養 成は,大学程度への水準上昇となったのである。

 師範学校内での教職に関する専門教育(20単位)の他に,国立大学と協同して開講され る一般教育(10単位)を,三年間で修得することによって,卒業時に「大学一般教育修了 証」(DEUG)を授与される12)。

 第一年次は,基礎養成として学校の観察を行い,教職への関心を高め,基礎知識の強化・

補充,および初歩的な教授力を身につける年であり,第二,三年次は,深化養成として一 般教育,専門教育の履修と,教育実習を通して教授力をつける年とされている。

 特に教育実習(stage)については,極めて高い比重が置かれている。まず入学後の第 一年次の第1学期は,教諭としての職務上関わりをもつ幼稚園,小学校,特殊教育機関,

コレージュの最初の学年などに対して観察実習を行う(3ヵ月)。そして第一年次第2学 期より第三年次の第2学期までは,各学期ごとに平均して2週間の教育実習が行われ(計

7学期,計14週間)このうち第一年次の第3学期と第二・三年次のうちの各1学期におけ る実習は,責任担当実習(stage en responsabilit6)として,一つの学級で教生が責任をもっ て授業を行い学級運営をすることとなっている。他方では,第一年次後と第二年次後の夏 の休暇期間を利用しての,キャンプ,子ども会活動といった余暇活動に参加する実習,お よび企業,行政機関,公共機関での実習が組織されており,原則として参加が求められて いる。そして最後に,養成課程の総仕上げとして第三年次の第3学期には,その全期間(3ヵ 月)を通して,同じく責任担当実習が組まれている13)。

 教職に就く前に求められる学校現場での実地研究(訓練)として,学校外の社会教育面 での実習を含めて教育実習の拡大とその重視が図られている。この実習の重視が後に述べ るような,以前までの試補制度の消失に影響を与えていると思われる。

 (3)教職能力および適性評価の手続き

 師範学校に入学を認められた教生は,試補公務員(fonctionnaire stagiaire)として扱わ れ,指定された俸給と手当を受給すると同時に,それに伴う職務上の権利と義務を有する こととなる。懲戒制度については,訓告,戒告,他の師範学校への配転,停学(1年以内)

および退学の5種類がある。訓告と戒告については,師範学校長の提案にもとづき大学区 総長が行うが,配転,停学,退学については重要な効果をもつので,教育行政当局だけで なく教諭代表も加わった「教諭に関する県人事同数委員会」(Commission Administrative Paritaire D6partemental des instituteurs, CAPD)(後述参照)への諮問を経て,師範学校 長の提案にもとづき大学区総長が行うこととなっている。また「能力不足」(insuffisance)

(養成課程中の成績が悪い)および「教職不適性」(ina加tude)を理由として師範学校からの退学処分 が存在している(師範学校の校則違反,職務慨怠による欠席の場合は先の懲戒罰の手続きとなる)。

 上級学年への進級の際の評価制度とあわせて,教職適格性の審査による進級,退学制度 について述べることにする。

 第一年次の終了時に,1年間の学習状況の総括をして,第2年次に進級するか又は留年 もしくは退学の判定が行われる。これを行うのは大学区視学官を委員長とし,当該県内の 師範学校長(1〜2名),教員養成に関わる者として国民教育県視学官,師範学校教授,

教育カウンセラー(若干名)および教諭育成の経験をもつ公教育機関の職員(若干名)で

(6)

構成される,いわゆる「学習課程評価委員会」である。評価委員会は,師範学校での養成 関係者により作成された成績一覧表を調べた上で,教職への適性および履修状況を検討す る。これにもとづき,その結果を大学区総長に提出する。退学については更に,師範学校 教授会の意見を経て,学校長の提案にもとづき大学区総長が決定するという手続きがとら

れている14)。

 第三年次の第3学期に,就職前養成の最終段階として組まれている3ヵ月間の責任担当 実習の評価も,教職適格性を判断する上で極めて重要なものとなっている。この教育実習 には,管轄区内の国民教育県視学官および師範学校長により指名される少なくとも2名の 実習観察指導者が立ち会う。そして実習後に,国民教育県視学官(委員長)と師範学校教 授1名,公立学校教諭1名で構成する「学習委員会」が,教生一人ひとりについて,関係 者からの意見を集めて,実習の成績について多数決により決定を下す(視学官を除く2名 の委員のうち少なくとも1名は,当該教生の実習授業を観察していなければならない)。

委員会は「不可」の評価をすることもできる。この場合には,その決定に対する反論=救 済措置をとることが求められ,また必要があれば,その評価をする以前に実習委員会は,

当該教生の,少なくとも連続2時間分の授業指導に臨席し,本人と面接を行うことになっ ている。

 実習を終えた第三年次の最後には,先の「学習課程評価委員会」が最終的な結論を下す ことになる。師範学校での学習状況・成績と,とりわけて第三年次第3学期の教育実習に 対する評価を総合的に検討し,最終評価を行う15)。この場合,留年ないし退学の決定も ありうるが,いずれにせよその決定については「能力不足」,「不適性」の理由が具体的で 明確でなければならないことが厳しく求められている。不合理,不服な決定については,

当然その取消訴訟を行政裁判所に提訴することができる16)。このように教職適性を評価 する上では,専門家による指導と評価にもとづいて,合議制の下で慎重な考慮をもって行 われることが一つの特色といえる。

 こうして師範学校での課程を良好な成績で修了した教生は,その課程中に組まれている 大学一般教育の単位を修得していることから,高等教育の第1段階としての「大学一般教 育修了証」を取得するとともに,ただちに大学区視学官より「教諭免許状」(Dip16me d Instituteur)を交付される。これらは形式的な手続きにすぎない17)。

 (4)正式任官制度〈図1参照〉

 正教諭としての採用=任官制度も同様に大きく変化した。すなわち一般的には師範学校 を卒業する際に(6月)「教諭免許状」を取得し,そのことによって以前のような試補期 間を経ることなく,新学年度(9月)より正式任官されるのである。

 卒業者は,ただちに新学期より予定された県内の幼稚園,小学校の教諭職に就き教育活 動を行う。もし当該県に空きポストが無い場合には,同じ大学区の他の県に,それも不可 能であれば他の大学区の県に配属する措置がとられる。

(7)

〔図1〕

師範学校入学者(外部・内部試験)の任用制度

定員枠の設定(各県ごと)

入学試験  ←一〈試験審査委員会〉

大臣

大学区総長

  ↑

大学区視学官

第1年次入学,教生=試補公務員

第2年次進学 評価

,〈学習課程評価委員会〉

」6

第3年次進学

第3学期〈3ヶ月間〉    〈実習委員会〉

      評価 責任担当実習

評価

大学一般教育修了証DEUG

6月  教諭免許状取得 交付 大学区視学官

9月  配属・正式任官 大学区総長

 ↑ 大学区視学官

 ところで正教諭となるためには,すべての公務員に要請される一般的条件として,フラ ンス国籍,市民権,職務の行使に対する肉体的適性などのことのほかに,教諭について特 別に必要とされる道徳性(moralit6)と非宗教的身分(合tat laique)および教諭免許状の 所持が求められている。しかしこれらの条件は,師範学校への入学試験の際にチェックさ れているので,正式任官の際の条件は,ただ教諭免許状の所持だけであるといえる18)。

 師範学校卒業期に教諭免許状を取得した者は,新学年度の,行政当局によって定められ る日(date administrative)より正式任官される19)。諸般の事情で免許状取得が遅れ,教 諭としてすでに勤務しつつ,新学年度の第1学期中(9月〜12,月)に免許状を取得した者

も,前記新学年度の行政当局によって定められる日に遡って,正式任官される。また留年 あるいは休学によって,師範学校での在学期間が延長した者についても,教諭免許状取得 後の翌月の1日から,あるいは新学年度,新学期から正式任官されることとなっている20)。

 このように,もはや試補としての任用期問を経ることなく,教諭として求められる資格 としての教諭免許状を取得することによって,ただちに正教諭としての任官(いわゆる本採 用)されているのである。任命権者は,大学区総長である。国家公務員になるにあたって

は,正式任官されることと,常勤職に任命されることが必要である。この二つは法的には

(8)

別のものであるが,事実上同時に行われる。なお,ちなみに1982−83年度において,公立 の初等教育機関ではたらく教諭の数は,297,940人(うち女性73.8%)その中で正教諭は

290,963人である21)。

 ところでフランスにおいては,人事に関しての民主的手続きを保障するための「人事同 数委員会」(CAP)が存在していることが一つの大きな特色といえる。同数委員会は,公 務員に対する個別人事問題,キャリアの管理についての諮問機関(採用,任官,昇進,人 事異動,懲戒等)であるが,行政当局代表委員と職員代表委員が同数比で構成され,関係 する人事問題について行政当局はその決定に際して,同数委員会の意見を尊重するという 立場がとられているところに特徴がある。教諭については,各県ごとに同数委員会(CAPD)

が置かれ,大学区視学官主宰の下に,教育行政代表10名,教諭代表10名(当該県の教諭が 2,800人以下の場合は5名ずつ)から成っている22)。教員組合は積極的に同数委員会の活 動に参加し,代表委員選出にも力を入れている。比例代表制なので各組合が候補者名簿を 作成し,選挙活動を行っている。教諭に関する県人事同数委員会の権限は,人事異動,懲 戒,昇進の3つに限られているが,これ以外の問題すべてについても諮問される権限を有

している。

 このように教員代表が委員席全体の半数を占める委員会の存在により,行政当局の恣意 性を排除し,教員の身分保障がなされていることは注目に値する。

おわりに

 以上述べてきたように,フランスでは師範学校卒業後の見習い勤務制度=試補制度は,

今日では消滅している。それは以前の教諭資格としての初等教員免許状取得の試験:が,師 範学校卒業後に実施されていたのに対し,現在では卒業時に教諭免許状を取得することに なっているからである。この背景には,一方で教育実習を含めた教員養成カリキュラムの 充実があると同時に,他方では,師範学校内での進級・卒業に際しての様々な委員会によ

る,慎重な能力・適性の評価制度が存在していることによると思われる。

 なお付言すれば,フランスでは現在,教員養成および採用のあり方をめぐって大きな改 革論議がまきおこっている。国民教育大臣の諮問委員会(ペレッティ委員長)は,1982年 2月に,教師教育に関する報告書を提出している23)。また1986年度からは,教諭とコレー ジュの普通教育担当教授(PEGC)の養成を一本化し,養成年限をさらに1年延長し,4 年にすることが予定されている24)。したがって現在の任用制度もまた大きく変革される ことが予想される。

       〈註>

1)R.Pi6rot, Le statut de l instituteur public, LGDJ.,1972, pp.52−55.

2) R.Pi6rot, Les reformes r6centes du statut de l instituteur public , AJD.A.,20−1−1981, p.33.

1975年6月3日付通達.

3)国立教育研究所内日本比較教育学会「教師教育」共同研究委員会編『教師教育の現状と改革一 諸外国と日本』第一法規,1980年,136頁.

4)佐藤武彦「フランスの教員養成」国立教育研究所紀要,第30集,1962年,156頁.Code Solei, Le

livre des instituteurs, S.UD.E.L,1978, no785.

(9)

5) R.Pi6rot, op. cit., pp.60−62.

6)1978年8月22日付政令(no78−873)第2条,第3条.

7)1981年9月4日付政令(no81−823)1982年6月15日付政令(no82−512).

8)特別試験は1983年より三年間の臨時的措置となっている.1983年6月8日付政令(no83−462).

9) L㌔…ducation hebdo, no52,26−1−1984, P.11.

10)1982年6,月15日付省令.

11)1982年6月15日付省令,1983年6月8日付省令.

12)養成の内容については,杉山浩之「現代フランスの教師教育に関する研究(II)」日本比較教育学  会紀要,第9号,1983年,『日本教育年鑑』1981年,415−417頁,などを参照.

13)1979年6月26日付通達(no79−195).なおこの3ヵ月間の実習は,正教諭の現職教育・研修制  度を支える役割も果たしている.すなわち教諭職務の質的向上と生涯教育のために1972年度より制  度化された研修制度は,その教諭としての全勤務期間を通して(初任の5年間と退職前の5年間を  除く)1年間の有給教育休暇を教諭に与えることとなった.実際には3ヵ月間(又は6週間)の研  修期間となっているが,この教育休暇期間中その職務を肩代わりするのが,まさに師範学校3年次

 生の教育実習でもあるのである(R.Pi6rot, op. cit., p.34).

14)1978年8月22日付政令(no78−873)第14条,1982年8月27日付通達(no82−369).なお,第二  年次進学に際して,卒業後7年以上の職務継続を約束する.

15)1982年3,月25日付省令.

16)1982年8月27日付通達(no82−369).なお,退学者は試補公務員としての扱いを受けていた関  係から,10年間国の業務を行うか,または一定金額を国庫に返還しなければならない.

17)1979年6月25日付省令,第10条(1982年3月25日付省令で修正).

18)1983年7,月13日付法律(no83−634)第5条,1886年10月30日付法律,第5条,第17条,1978年  8月22日号政令(no78−873).

19)地域によって新学期の開始日が異なるが,1981年の場合,9月8日から29日までの間であったの  で,この任官の日は,9,月7日であった.1981年4月6日付事務通知(no81−150).

20)1984年3月20日付事務通知(no84−108).

21)Minist前e de l Education nationale, Reperes et r6f6日目nces statistiques,1984, SIGES, p.65.なお,

女子教員の数の増大に対する措置として,1977年度から,女子教諭数が全体の65%を超える県では,

男女別に師範学校への入学試験をすることを義務付けた.しかしこれについては男子を有利にさせる ことになり,男女平等原則とのからみで多くの問題を引き起こした.小野田正利「公立学校教員採用 における男女別採用の問題一一フランスの採用制度との関連で」,季刊教育法,第66号,1987年1月目

22)M.一L.Sauss童er, L6g董slation scolaire, Fernand Nathan,1978, pp.190−192.

23)Rapport au ministere de 1 Education nationale de la commission sur la formation des personnels de rEducation nationale, La documentation franca孟se,1982,339p.

24)『海外教育ニュース』第7集,1985年,文部省大臣官房調査統計課、Cahiers de l 6ducation

nationale, No27,1984−9, p.9。

       (昭和61年10月31日受理)

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