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(1)

いわゆるGPS捜査と強制処分法定主義について

著者 河村 博

雑誌名 同志社法學

巻 69

号 7

ページ 2897‑2916

発行年 2018‑02‑28

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000312

(2)

    同志社法学 六九巻七号八六九二八九七

             

一  はじめに   平成二九年三月一五日、最高裁大法廷は﹁車両に使用者らの承諾なく秘かにGPS端末を取り付けて位置情報を検索し把握する﹂GPS捜査の適法性等について判断を示した(最高裁平成二九年三月一五日大法廷判決刑集七一巻三号一三頁。以下、﹁平成二九年大法廷判決﹂という。)。この種捜査手法に関して高裁等の下級審の判断が、これを任意捜査とするものと強制捜査とするものに分かれていたところであり、最高裁の判断が待たれていたところであるが、従前の主要な裁判例、議論等を概観しながらこの最高裁判例の意味するところを考えてみたい。

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    同志社法学 六九巻七号八七〇二八九八

二  強制処分に関する判例の概観   犯罪事実、犯人性等に関する積極・消極両面での証拠収集の過程として捜査をみると、その証拠として、証拠物とともに人の供述が重要な役割を占める。この人の供述には、被害者・目撃者などのように過去の実体験事実に関する供述のほか、捜査官の五官の作用による認識内容、特別の専門的知識経験に基づく認識・判断といったものも、他者の事実認定の資料となる場合には、いずれも人の認識・判断・記憶・(口頭又は文書による)再生の過程を経ることになるので、ある意味共通の性格を有しているといってよいであろう。

  証拠物であれば物としての形状などが変わらなければ、証拠としての価値に本来変わりないが、人の認識等を経るものに基づいて正確な事実認定をしようとする場合には、人の五官の作用による認識そのものをいかに正確に記録し、これをその状態で事実認定の用に供するかが極めて重要となるであろうし、その観点から、認識者の主観による過誤を排するには機械的措置を用いた客観的で正確な認識と記録・再生は大きな意味を持つことになる。GPS捜査をめぐる問題を考えるに当たっては、捜査官が対象物・対象者を追尾し、その位置、行動等を把握する尾行(通常形態におけるものが任意捜査であることは異論がないであう。)、さらに、これを正確に記録することとの関係をどのように考えるかという点を避けては通れない。

  ところで、強制処分(強制捜査)は、刑訴法に特別の定めがなければ行うことができず(刑訴法一九七条一項但し書。強制処分法定主義)、しかも、事前の令状審査という司法的抑制が行われるのを原則としている(令状主義)。強制処分とそうでないものを区別する基準として有形力行使に関する判例では、﹁個人の意思を制圧し、身体、住居、財産などに制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意

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    同志社法学 六九巻七号八七一二八九九 味する・・・強制手段にあたらない有形力の行使であっても、何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるのであるから、状況のいかんを問わず常に許容されるものと解するのは相当でなく、必要性、緊急性なども考慮したうえ具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されるものと解すべきである﹂とされているが 1

、このうち﹁特別の根拠規定がなければ・・・﹂はかねてから指摘されているように強制処分法定主義のトートロジーであり、﹁個人の意思を制圧し﹂の箇所も被処分者の知らない間に行われるもの(例えば、通信傍受の類)を考えると、意思の制圧が不可欠のものともいえない。例えば、宅配便業者の運送過程にある梱包された宅配荷物を宅配業者から借り受け、空港税関内で外部からX線を照射して内容物の検査(射影の観察)した事案につき、﹁捜査目的を達成するため、荷送人や荷受人の承諾を得ることなく、これに外部からエックス線を照射して観察したものであるが、その射影によって荷物の内容物の形状や材質をうかがい知ることができる上、内容物によってはその品目などを相当程度具体的に特定することも可能であって、荷送人や荷受人の内容物に対するプライバシー等を大きく侵害するものであるから、検証としての性質を有する強制処分に当たるものと解される﹂としている 2

。結局、判例の基本的立場は﹁相手方の意思(合理的に推認されるものも含む。)に反して、身体、住居、財産など重要な権利(法益)に制約を加えて、捜査目的を達成する行為を強制処分としている﹂旨の学説の理解は正しいものがあると思われる 3

  これに対し、強制処分に当たらないとされたものとして、例えば、五官の作用による認識等の証拠化(強制処分であれば検証)として、公道上及びパチンコ店内にいる被告人の容貌、体型などのビデオ撮影が、また、証拠物の押収として、不要物として公道上のごみ集積所に排出されたごみの占有取得がそれぞれ問題とされた最高裁平成二〇年四月一五日決定刑集六二巻五号一三九八頁(以下、﹁平成二〇年決定﹂という。)がある。同決定では、ビデオ撮影に関し、﹁捜査機関において被告人が犯人である疑いを持つ合理的な理由が存在していたものと認められ、かつ、前記各ビデオ撮影

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    同志社法学 六九巻七号八七二二九〇〇

は、強盗殺人等事件の捜査に関し、防犯ビデオに写っていた人物の容ぼう、体型等と被告人の容ぼう、体型等との同一性の有無という犯人特定のための重要な判断に必要な証拠資料を入手するため、これに必要な限度において、公道上を歩いている被告人の容ぼう等を撮影し、あるいは不特定多数の客の集まるパチンコ店内において被告人の容ぼう等を撮影したものであり、いずれも、通常、人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所におけるものである﹂との理由により、﹁捜査目的を達成するため、必要な範囲において、かつ、相当な方法によって行われたものといえ、捜査活動として適法なもの﹂とした。何人もその承諾なしにみだりに撮影されない私生活上の自由を有するとされているが

)4

、合理的な嫌疑(理由)の存在、その程度に基礎づけられた当該関連証拠資料入手の必要性と手段の相当性から任意捜査として適法とされたものである。学説としては、公道上の公道であっても長期間継続的なビデオ撮影は、﹁特段の事由がない限り合理的必要性を欠き、不相当な撮影方法というべき﹂との指摘があるが

)5

、相当性ありとされた本件の撮影方法は、平成一四年一二月一一日午前八時四四分から午後零時五二分までの間、捜査車両内から路上を歩く被告人を見かけたときにその姿をビデオ撮影したもの、同月二五日ころから平成一五年三月中旬ころまでの間、マンションの一室を借りて、同室内から行動観察とビデオ撮影したもの、同年一月二日、パチンコ店店長に依頼し、店内の防犯カメラをズームアップするなどしてビデオ撮影したもの、同月二八日及び二九日には、眼鏡のブリッジ部分に超小型カメラをセットし、腰にレコーダーを装着し警察官が交代で被告人の近くの席に座るなどして撮影したものであった 6

  また、ごみの押収に関しては、﹁被告人及びその妻は、これらを入れたごみ袋を不要物として公道上のごみの集積所に排出し、その占有を放棄していたものであって、排出されたごみについては、通常、そのまま収集されて他人にその内容が見られることはないという期待があるとしても、捜査の必要がある場合には、刑訴法二二一条により、これを遺

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    同志社法学 六九巻七号八七三二九〇一 留物として領置することができる﹂として適法性を認めた。この公道上に出されたごみについて、わが国の憲法三五条の母法とも言うべき修正第四条が保護するプライバシーへの合理的期待との関係について、アメリカ連邦最高裁はかねてから公道上に出されたごみには誰もが容易にアクセスでき、ゴミ回収者が選別し、警察等にこれをさせることはありうることでプライバシーへの合理的期待は認められないとしているところであり 7

、本件でも捜査の必要性、手段の相当性と比較衡量されるプライバシーの制約について同様の判断がなされたとも言い得よう。

  これに対し、﹁捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が、その身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するよう働きかけ、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯人等により検挙する﹂おとり捜査にあっては、そこで問題となるのは相手方の人格的自律権等の侵害と捉える考え方もあるが 8

、捜査機関側の働きかけに応じるかどうかの意思決定の自由が確保されているのであれば、本来、その手法の公正さにあると思われ 9

、判例が﹁機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象におとり捜査を行うことは、刑訴法一九七条一項に基づく任意捜査として許容される﹂とし、制約されることとなる権利等に言及してないのもこの点を意識してのことと思われる ₁₀

。また、強制処分として法定される証拠収集方法等の類型におとり捜査が含まれておらず、強制処分かどうかではなく、方法の適法・違法が問題とされてきたのも、この捜査手法のある意味での特殊性を表しているともいえる。

1) 

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    同志社法学 六九巻七号八七四二九〇二

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三  GPS捜査に関する判例等の概観   GPSは、衛星測位システム(

G lo ba l P os iti on in g Sy st em

)の略称であるが、このGPS衛星を利用した位置情報の取得方法としては、対象となる車両等にGPS装置を取り付ける装着型と携帯電話等に内蔵されているGPS機能を利用する非装着型に分かれ、装着型の捜査に関してはこれに令状を要するとするジョーンズ判決(

U nit ed S ta te s v . Jo ne s, 13 2 S.C t. 94 5

20 12

)と非装着型の捜査には令状を要しないとした連邦控訴裁判所判決があること、これをめぐるトレスパス論、モザイク理論等はすでに紹介され、GPS捜査に関連するわが国の判例・裁判例との関係などについても多くの研究がなされているところであるが ₁₁

、平成二九年最高裁大法廷判決の意義・課題等を検討するため従前の裁判例等も今一度振り返ってみることとしたい。

  平成二九年大法廷判決の事案は、広域で発生した窃盗等の被疑者として四名の者が浮上し、その窃盗事件に関し、組織性の有無、程度、組織内における各人の役割を含む犯行の全容を解明する捜査の一環として、平成二五年五月二三日頃から同年一二月四日頃までの約六个月半の間、これら被疑者四名のほか、うち一名の知人女性も使用する蓋然性があ

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    同志社法学 六九巻七号八七五二九〇三 った自動車等合計一九台に、同人らの承諾なく、かつ、令状を取得することもなく、GPS端末を取り付けた上、その所在を検索して移動状況を把握する捜査が行われた。この捜査手法につき、先に逮捕された被告人に対する判断が地裁(大阪地裁平成二七年六月五日決定・判例時報二二八八号一三四頁)と高裁(大阪高裁平成二八年三月二日判決・判例タイムズ一四二九号一四八頁)を経て最高裁大法廷判決として示されたものであるが、遅れて逮捕された者に対する大阪地裁平成二七年一月二七日決定は結論を異にし、同事件におけるGPS捜査は任意処分と位置づけられていた ₁₂

。同様に、平成二九年最高裁大法廷判決までの最近の裁判例でGPS端末を取り付けた装着型捜査を任意処分としたものとしては、広島地裁福山支部平成二八年二月一六日判決(

W L JP C A 02 16 60 06

)とその控訴審判決である広島高裁平成二八年七月二一日判決(判例秘書

L 07 12 03 75

)及び福井地裁平成二八年一二月六日判決(

L E X /D B 25 54 85 1

)があるが、強制処分としたものには、上記大阪地裁平成二七年六月五日決定、名古屋地裁平成二七年一二月二四日判決・判例時報二三〇七号一三六頁、水戸地裁平成二八年一月二二日決定・公刊物未搭載、名古屋高裁平成二八年六月二九日判決・判例時報二三〇七号一二九頁、東京地裁立川支部平成二八年一二月二二日決定(

L E X /D B 25 54 85 1

)がある。上記大阪高裁平成二八年三月二日判決は﹁警察官が対象から離れた場所にいても、相当容易にその位置情報を取得でき、本件では、車両によっては位置情報が取得された機関が比較的長期に及び、回数も甚だ多数に及んでおり、・・・サービス利用者が事前に登録した時間帯における対象の位置情報及びサービス利用者が検索取得した対象の位置情報が、過去一か月分及び当月分に限られるものの保存されており、警察官らは、このような位置履歴ファイルをパソコンにダウンロードして、対象の過去の位置(移動)情報を把握することが特に妨げられない状況にあったと認められる﹂ことから、﹁このようなGPS捜査が、対象車両使用者のプライバシーを大きく侵害するものとして強制処分に当た﹂ることを肯定した上で、必要性の程度や検証許可状発布の要件は実質的に満たされていたことなどを理由に重大な違法があったとは認め

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    同志社法学 六九巻七号八七六二九〇四

られないとしたもののようにも思われるが、﹁違法と解する余地がないわけではない﹂をどのように評価するかにもかかわりその考えは判然としない。

  これらの裁判例は、弁護人の主張のあり方とも関係したところがあるようにも思われるが、いずれも人の所在に関する情報が、当該個人のプライバシーに係わるものであること、位置情報の検索・取得が強制処分であれば検証に当たることを前提にしつつ、①他人から目視されることを通常予想していない、換言すると、プライバシー保護に対する合理的期待が高い私的な場所等における所在に関するプライバシーを現に侵害しているかどうか、②車両による尾行の補助的手段(失尾した場合の位置探索を含む。)として用いたかどうか、③測位精度がどの程度のものであったか、④その使用期間、使用回数がどの程度のものであったか、⑤保存された情報の量・利用状況がどのようなものであったか、⑥機器装着に当たり公道以外の私有地への立入りなどがあったどうか、⑦機器装着による自動車等への損害の有無・程度がどのようなものであったか、あるいは、⑧GPS端末を取り付けることが私的場所等の所在情報の取得可能性、その蓄積などによる交友関係、嗜好など私的な行動性向の把握可能性、危険性を内在していることが重要であるとするかどうか(機器装着の持つ潜在的危険性の重視。特に前記水戸地裁平成二八年一月二二日決定)などについての認定、評価、考え方がその結論に影響を及ぼしているように思われる ₁₃

。また、前記名古屋高裁平成二八年六月二九日判決は、﹁犯人検挙に至るまで長期間にわたり漫然と続けられることにより、ともすれば過度の情報収集が行われ、プライバシー侵害の程度も深刻となり得る危険性を相当はらんでいる。そうすると、GPS捜査が強制処分と判断される場合も少なくなく、その際どのような法的規制が考えられるかも当然考慮すべきであろう。本件GPS捜査は、既存の強制処分の類型で言えば検証の性質を有することは原判決の指摘するとおりである。検証として行う場合、GPS捜査の特質を踏まえて合理的な規制をするためには、令状の事前提示に代わる条件、検証の対象や期間の特定等、検討を要する種々の問題

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    同志社法学 六九巻七号八七七二九〇五 があり、解釈論的にも解決の必要性に迫れているように思われる。加えて、科学技術の進歩に伴い、GPSの位置探索精度の高度化、端末の小型化、軽量化が進むことは明らかであり、このような科学技術の進歩の成果を捜査に用いること自体は認められてしかるべきである反面、精度が上がり記録化がより詳細かつ容易になることを考慮すると、プライバシー侵害の危険性も一層高まるものと考えられる。自動車以外の対象に利用される可能性も高くなるであろう。より根本的には、GPS端末を利用した捜査全般に関する新たな立法的措置も検討されるべきである﹂とする。同名古屋高裁判決は、示唆に富むとはいえ、自動車以外の対象をも含めた場合の立法的措置のようにも思われるので、後に、平成二九年大法廷判決と併せて検討することとしたい。

  前記①ないし⑧の考慮要素のうち、①は、ビデオ撮影に関する平成二〇年決定のいう﹁通常、人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所﹂すなわち、他人からその所在、外観、行動、音声などを認識されること自体は受忍せざるを得ない場所、状況のものであるかどうかを問題とするものであるが、対象が自動車の場合には、本来、自動車が通行、駐車できる場所は限られ、しかも、それは公道等他人に観察され得る場所であることが一般的である。尾行であれば、失尾したのでない限り、対象車両の公道等での運転状況の詳細、外部から見通せないような私有地等への出入はもちろんのこと、運転者、同乗者の行動、下車後の行動等も認識されることになる。これに対し、GPS装置が装着された場合の捜査活動によって得られるのは、対象車両の位置のみであって、その精度も相当劣ったものになることは明らかであり、その点では、プライバシー侵害の程度は軽微といえる。GPS装置の装着方法が携行品・所持品に対して行われるような、すなわち、対象となる人の所在そのものを明らかにするような場合には、公道等だけではなく、住居内等、プライバシー保護の要請の高い場所における位置情報(測位精度の限界はあるが)の検索・取得も可能となるので尾行や自動車の場合と同一に論じることができないのはいうまでもない ₁₄

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    同志社法学 六九巻七号八七八二九〇六

  ②の尾行の補助的手段としてのGPS装置の装着についてみると、そこで得られる情報内容とプライバシーとの関係自体は、失尾した場合の位置検索を可能にしているとはいえ、捜査官以外の他人から認識されることを受忍せざるを得ない状況下での位置情報という点では、①と同様である。その意味で、現に尾行が行われている場合の利用というのは、④の使用期間、回数の少ない一場面ということもできようか。

  ③の測位精度の点は、宅配荷物のX線検査に関する平成二一年決定とも共通する問題である。測位精度が低ければ、得られる位置情報が漠然とし、具体的に特定されたものとは言い難いので、強制処分の考慮要素としてのプライバシー侵害の程度は低いといえよう。しかし、その精度が著しく高い場合を考えると、精度自体は現に尾行している場合でと異なるところがないといえるので、私的領域への侵入といえるようなものでない限り、①と同様ということになる。

  ④のGPS装置の使用期間、回数の点は、尾行との対比で考えると、一日二四時間、失尾のない態勢で長期間にわたり尾行を継続するという、一般的な通常の事件では取られることが想定できないような捜査手法としての尾行であったかどうかということであろう。これは、位置検索の容易性とともにGPS装置装着による捜査手法の持つ特殊性といえるかもしれない。

  ⑤の保存された情報の量、利用状況は、尾行の際にビデオ撮影がなされた場合を考えると、情報の質の面では、そのプライバシー侵害の程度は、①と同様、尾行よりも低いといえる。しかし、④との関係ではGPS捜査に特有の様相を呈することになる。

  ⑥の私有地への承諾なき立入りなどの点は、そこで生じ得る問題に、尾行の場合と異なるものはないといえよう。これに対し、⑦については、装脱着に当たり自動車を毀損するようなものでなければ、財産的損害自体が重大なものとなることはない。しかし、機器とはいえ、対象物に管理者の承諾なく接触し、これを継続するというのは、尾行自体には

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    同志社法学 六九巻七号八七九二九〇七 ない要素であり、尾行の補助手段としてみた場合でも、⑥とともに処分の着手に当たることになり ₁₅

、法益侵害の内容、方法の相当性などが問題となるであろうし、仮に強制処分となる場合には、刑訴法一二九条に規定する必要な処分に当たるもののように思われる。ただし、この点は、様々な目的から既にGPS機器が装備されている自動車等を対象とする場合には問題となることはない。

  ⑧は、機器の性能による情報取得の可能性を問題にするという点で、人が現に行う尾行とは異なる、機器を用いた捜査特有の問題といえる。平成二一年決定で控訴審と最高裁の判断が分かれたのは、モニター画像の詳細さという事実の評価の違いとみるのではなく、現実の画像か検査機器の持つ性能に着目するかの違いによるとの理解に立てば、平成二一年決定の考え方をGPS捜査に当てはめたものと評価することになる。しかし、大量情報の収集・集積・分析による私的な行動性向等の把握可能性については、アメリカにおける﹁モザイク理論﹂を意識したものと思われるが、いわゆる客観的証拠の収集、関係者らの取調べ等、無辜を処罰したりすることがないよう捜査に万全を期そうとすればするほど被疑者とって有利・不利を問わずできる限り多くの証拠を収集してこれを分析、検討し、事実認定を間違いのないものにしようとすることになるので大量の情報の収集・集積・分析自体は問題となるものではないであろう。これを他の目的に利用するのを制限するとの視点は、何をもって大量とするかの問題も含め、少なくとも我が国では、刑事手続の捜査手法が強制処分かどうかを判断する際の要素ではないように思われる ₁₆

  このような下級審裁判例を踏まえて平成二九年大法廷判決が示されたことになるが、平成二九年大法廷判決は、総論として、﹁GPS捜査は、・・・その性質上、公道上のもののみならず、個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものを含めて、対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする。このような捜査手法は、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うから、個人のプライバシーを侵害し得るも

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    同志社法学 六九巻七号八八〇二九〇八

のであり、また、そのような侵害を可能とする機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において、公道上の所在を肉眼で撮影したりするような手法とは異なり、公権力による私的領域への侵入を伴うものというべきである﹂との見解を総論的に示した上で、﹁個人のプライバシー侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、刑訴法上、特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる・・・とともに、一般的には、現行犯人逮捕等の令状を要しないものとされている処分と同視すべき事情があると認めるのも困難であるから、令状がなければ行うことのできない処分と解すべきである﹂としている。ここでは、前記①で述べたように、この事件で用いられた車両へのGPS機器装着という手法、そこから必然的に伴うことになる私的領域での位置情報の取得限界というものを無視ないし離れて、GPS捜査一般の持つ可能性、危険性から強制処分かどうかを判断するという姿勢を明確にしたということができ、平成二一年決定が機器の持つ性能に着目した判断との理解を支持するものといえよう。しかし、自動車と人が身に着けるような所持品の類を同一に論じるのは、極論すると公道上の行動をビデオ撮影するのと自宅内でのそれをビデオ撮影するのを、今日の高性能ビデオ機器の持つ画像・音声の取得・記録性能やその継続性・検索可能性等に着目して同一に論じるような論理の飛躍があるような印象を与えかねないであろう。捜査手法の相当性等を判断する上で法益侵害の危険性がそれぞれの手法自体において類型的・本質的に異なるにもかかわらず、これを全く区別しない点には異論もあり得るところと思われ、総論とはいえ、判例がこのような判断手法を他の捜査手法の強制処分性の判断においても今後とることになるのか注目されるところである。

  その上で、ア  GPS捜査が﹁検証﹂と同様の性質を有するものの対象車両等の所在を検索する点で﹁検証﹂では捉えきれない性質を有すること、イ  検証許可状と捜索許可状の発付を受けて行うとしても、対象車両の使用者の行動を

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    同志社法学 六九巻七号八八一二九〇九 継続的、網羅的に把握することを必然的に伴い、被疑事実と関係のない使用者の行動の過剰な把握を抑制できず、裁判官の令状審査を要するとする趣旨を充たせないおそれがあること、ウ  各種強制処分が手続の公正担保の趣旨から原則として事前の令状呈示を求められており、これに代わる公正担保の手段が仕組みとして確保されていないのでは適正手続保障の観点から問題が残ること、エ  ウの問題解消のため、一般的には、実施期間限定、第三者立会、事後通知等が考えられるが、捜査の実効性にも配慮しつつどのような手段を選択するかは刑訴法一九七条一項但し書の趣旨から立法府に委ねられており、事案ごとに、令状を審査する裁判官の判断により、多様な選択肢の中から的確な条件の選択が行われない限り是認できないような強制処分を認めることは、同但し書の趣旨に沿うものではないことを指摘し、GPS捜査の特質に着目した立法的な措置が講じられることが望ましいとした。

  アの点については、目視でないこととの関係では、各種機器を利用しての探索もその画面上の表示を認識することが、仮に強制処分であれば検証と考えられてきたと思われる。電子計算機機能なども用いての検索との関係では、例えば、携帯電話の基地局を利用した移動体端末の位置情報の取得の場合、電気通信事業法・総務省告示関連ガイドラインの関係もあって、検証許可状によることとされ、対象となる携帯電話番号、位置探索実施方法、場所、期間、回数等の条件については、刑訴法二一九条一項の﹁検証すべき場所若しくは物﹂に関する記載として扱われてきたことを否定することになるのかという問題があろう ₁₇

。イのうち捜索許可状に言及する点については、現在の刑訴法は、捜索差押が情報ではなく有体物を対象とすることとしていることから、その場で引き続き対象物を押収することを目的としない場合に捜索許可状を発付することとなるのか ₁₈

という疑問があるほか、過剰な位置情報の把握は、対象車両の位置の限度での運転者の行動の把握であって、前記①の尾行との対比で過剰といえるのかという疑問がないではない。ウ及びエの強制処分法定主義と条件設定の関係については次項で検討することとしたい。

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    同志社法学 六九巻七号八八二二九一〇

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    同志社法学 六九巻七号八八三二九一一 四  強制処分における条件設定に関する判例の概観   検証の一種である身体検査令状には裁判官が適当と認める条件を付し得ること刑訴法に規定されているが(刑訴法二一八条六項)、各種の条件を付した上で令状を発することが法の予定しない新たな強制処分を認めることとなるなど強制処分法定主義に反することになるのかについて若干の検討を試みたい ₁₉

  この点学説の批判の多いものとして、強制採尿のための捜索差押令状がある。すなわち、最高裁昭和五五年一〇月二三日決定刑集三四巻五号三〇〇頁が、それまでの実務の主流であったと思われる令状の併用、すなわち、医師の手による必要性からの鑑定処分許可状と直接強制の必要性などからの身体検査令状の併用によるのではなく ₂₀

、﹁体内に存在する尿を犯罪の証拠物として強制的に採取する行為は捜索・差押の性質を有するものとみるべきであるから、捜査機関がこれを実施するには捜索差押令状を必要とすると解すべきである。ただし、右の行為は人権の侵害にわたるおそれがある点では、一般の捜索・差押と異なり、検証の方法としての身体検査と共通の性質を有しているので、身体検査令状に関する刑訴法二一八条五項(筆者注。改正前のものであるので現行では六項)が右捜索差押令状には準用されるべきであって、令状の記載要件として、強制採尿は医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件の記載が不可欠である﹂とし、さらに、最高裁平成六年九月一六日決定刑集四八巻六号四二〇頁が、捜索差押許可状という証拠物の押収に関する令状であるにもかかわらず、未だ身柄拘束されていない被疑者について﹁強制採尿令状の効力として、採尿に適する最寄りの場所まで被疑者を連行でき、必要最小限度の有形力の行使ができる﹂として身体の自由の強制的制限も可能としたことである。

  また、最高裁の判断自体は通信傍受法制定後ではあるものの、最高裁平成一一年一二月一六日決定刑集五三巻九号一

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    同志社法学 六九巻七号八八四二九一二

三二七頁は、﹁電話傍受は、通話内容を聴覚により認識し、それを記録するという点で、五官の作用によって対象の存否、性質、状態、内容等を認識、保全する検証としての性質を有﹂し、﹁電話傍受は通信の秘密を侵害し、ひいては、個人のプライバシーを侵害する強制処分である﹂とした上で、重大な犯罪に係る被疑事件について﹁被疑者が罪を犯したと疑うに足りる充分な理由﹂があり、電話傍受を行うことが﹁犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められるとき﹂には、﹁対象の特定に資する適切な記載がある検証許可状により電話傍受を実施することは﹂通信傍受法制定前も﹁法律上許されていたものと解するのが相当であ﹂って、同検証許可状には種々の条件も付し得るものとした。

  平成二九年大法廷判決が問題とした被疑事実と関係のない対象者の行動等の過剰な把握の抑制に関しては、検証許可状の﹁検証すべき場所若しくは物﹂の記載に当たり、﹁傍受すべき通話、対象となる電話回線、傍受実施の方法及び場所、傍受できる期間をできる限り限定することにより、傍受対象の特定という要請を相当程度満たすことができ﹂、身体検査令状に関する刑訴法二一八条現行第六項が、﹁その規定する条件の付加が強制処分の範囲、程度を縮減させる方向に作用する点においては、身体検査令状以外の検証許可状にもその準用を肯定できると解される﹂として、捜査機関以外の第三者の立会による、対象外と思料される通話内容の遮断といった条件の付与が可能である旨、また、傍受すべき会話に該当するかどうかの判断のため、対象該当性が明らかでない会話についても、該当性の判断に必要な限度で傍受を行うことは刑訴法一二九条所定の﹁必要な処分﹂に含まれるとした。

  通信の秘密の中核というべき現に行われている通話内容と同様の保護が与えられるべきものを敢えて挙げるとすれば、他人から聞かれないことを期待することが合理的なものとしてそれにふさわしい音量などでなされる、例えば、室内での会話があろうが、自動車へのGPS捜査によって得られる情報とは質的に異なると言わざるを得ない。人の携行品等を対象とする場合であっても、あくまでも携行品等の位置情報によって得られるものは、人の思想信条、プライバ

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    同志社法学 六九巻七号八八五二九一三 シーといった侵害されることとなる法益、これに対する侵害から保護すべき程度・必要性等が通信傍受や室内会話の秘聴におけるそれとは明らかに大きな差異があるように思われる。このような重大な権利、法益を、しかも直接的に侵害するものであるため、通信傍受などは第三者の立会いによって対象外のものに対する傍受遮断措置、該当性判断のための傍受などが問題となるのであろう。

  平成二九年大法廷判決が問題とする令状の事前呈示については、電話傍受の場合には、通信事業者に呈示されることになり、GPS捜査の場合、非装着型(対象物に既に装置が組み込まれている場合等)であれば、電話傍受同様、通常は、対象物の運転者、所持者以外のGPS情報管理権限者等に呈示して令状を執行することになろうが、装着型にあっても、対象物管理者の承諾を得て装着する場合には非装着型と同様の手続きを踏むことになる。これに対し、対象物の使用者、管理者等の承諾を得ることなく秘かに装着する場合にはこの呈示がないのは同大法廷判決の指摘する通りである。令状呈示に、処分を受ける者の異議申立を可能にするという機能を期待するのであれば ₂₁

、このことは検証についての不服申立をどのようにするかという問題と関連することになる。仮に平成二九年大法廷判決や東京高裁昭和四四年六月二五日判決高刑集二二巻三号三九七頁のように手続きの公正担保に令状呈示の意義を求めるとするならば、本人不在の場合には呈示することなく執行に着手するが、本人の代人なり、刑訴法一一四条による立会人がいるときはこれに呈示するのが妥当であろうとする考えが有力である ₂₂

。また、対象者に事前呈示することによっては、捜査目的が達成できないことが明らかな場合にはこれを行わないことも許されると考えられ、前記最高裁平成一一年決定もこのことを違法とはしていないように見受けられる。この公正担保のための措置が、検証許可状の認めた特定の対象物等に執行されたことを確保するためであるとすると、その執行着手の際に、例えば、位置情報提供サービス事業者への令状呈示、装着時に捜査従事者以外の者の立会、あるいはその執行状況の記録化などで担保できるように思われる。これが、被疑事実

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