九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
高強度鋼板用プレス成形金型の摺動特性改善に関す る研究
阿部, 幸佑
https://doi.org/10.15017/1441196
出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
高強度鋼板用プレス成形金型の 摺動特性改善に関する研究
阿部 幸佑
目次
第1章 緒論
1.1
緒言1.2
高強度鋼板のプレス成形性に関する従来の研究1.2.1
薄鋼板の成形様式1.2.2
各種高強度鋼板のプレス成形性1.2.3
高強度鋼板の形状凍結性(スプリングバック特性)1.3
温・熱間プレス成形に関する従来の研究1.3.1
熱間プレス成形1.3.2
温間プレス成形1.4
金型の摩擦・摩耗低減に関する従来の研究1.4.1
表面硬化処理1.4.2
潤滑剤1.4.3
プレス成形性への影響1.4.4
スプリングバック特性への影響1.5
本研究の目的および論文の構成第2章 高強度鋼板の液圧バルジ成形における
スプリングバック挙動に及ぼす摩擦の影響
2.1
緒言2.2
実験方法2.2.1
供試材2.2.2
引張試験2.2.3
解析用材料パラメータ2.2.4 FEM
解析2.3
結果および考察2.3.1
鋼板強度とスプリングバック特性の相関に関する検証2.3.2
金型肩部形状とスプリングバック特性の相関に関する検証2.3.3
スプリングバック特性に及ぼす鋼板-金型間の摩擦係数の影響2.4
結言第3章 ショットピーニング処理を用いた
金型表面テクスチャー制御による摺動特性向上
3.1
緒言・・・・・・・・
1
・・・・・・・・
5
・・・・・・・・
5
・・・・・・・
13
・・・・・・・
16
・・・・・・・
17
・・・・・・・
17
・・・・・・・
19
・・・・・・・
22
・・・・・・・
22
・・・・・・・
22
・・・・・・・
23
・・・・・・・
25
・・・・・・・
26
・・・・・・・
27
・・・・・・・
29
・・・・・・・
29
・・・・・・・
29
・・・・・・・
30
・・・・・・・
34
・・・・・・・
38
・・・・・・・
38
・・・・・・・
46
・・・・・・・
47
・・・・・・・
49
・・・・・・・
50
i
3.2
実験方法3.2.1
供試材およびショット処理条件3.2.2
ドロー試験3.2.3
表面粗さ測定3.2.4 FEM
解析3.3
結果および考察3.3.1
表面テクスチャーが及ぼす摺動特性への影響3.3.2 FEM
解析による摺動特性向上メカニズムの検証3.3.3
掘起し効果および油だまり効果が及ぼす摺動特性への影響3.4
結言第4章 金型表面テクスチャーおよび貝粉固体潤滑剤を用いた
冷・温間プレス成形における摺動特性向上
4.1
緒言4.2
実験方法4.2.1
供試材およびショット処理条件4.2.2
貝粉固体潤滑剤4.2.3
冷間ドロー試験4.2.4
温間リングオンプレート試験4.2.5
温間ドロー試験4.3
結果および考察4.3.1
冷間摺動特性に及ぼす貝粉粒径の影響4.3.2
貝粉粒径および濃度と塗布可能性4.3.3
バインダー添加量と温間摺動特性の関係4.3.4
温間摺動特性に及ぼす貝粉添加潤滑剤の影響4.4 FEM
解析4.4.1
解析方法4.4.2
貝粉による温間摺動特性向上のFEM
解析結果4.5
結言第5章 総括
参考文献
・・・・・・・ 52
・・・・・・・ 52
・・・・・・・ 53
・・・・・・・ 55
・・・・・・・ 55
・・・・・・・ 59
・・・・・・・ 59
・・・・・・・ 62
・・・・・・・ 72
・・・・・・・ 74
・・・・・・・ 75
・・・・・・・ 77
・・・・・・・ 77
・・・・・・・ 77
・・・・・・・ 83
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・・・・・・・ 85
・・・・・・・ 86
・・・・・・・ 86
・・・・・・・ 94
・・・・・・・ 96
・・・・・・ 100
・・・・・・ 107
・・・・・・ 107
・・・・・・ 110
・・・・・・ 113
・・・・・・ 114
・・・・・・ 116
ii
第 1章 緒論
1.1 緒 言
現 代 社 会 では,特 に発 展 途 上 国 における産 業 の急 速 な発 達 とともに,地 球 温 暖 化 ,オゾン層 の破 壊 お よび酸 性 雨 などの環 境 問 題 が深 刻 化 している.そ の中 で,自 動 車 が走 行 中 に排 出 する CO
2の削 減 は燃 料 消 費 を抑 えることであ り,消 費 者 の直 接 的 な経 済 負 担 を緩 和 するため,社 会 的 関 心 が極 めて高 い.
自 動 車 産 業 分 野 では,このニーズに応 えるためハイブリッド車 あるいは電 気 自 動 車 など動 力 機 関 の革 新 が進 められてきた.他 方 で,燃 費 改 善 の手 法 とし て は,車 両 の軽 量 化 も 常 道 の一 つ である. Fig.1.1 は車 両 重 量 と燃 費 の関 係 を 示 している
1).車 両 重 量 を 10% 低 減 すると,燃 費 は概 ね約 5~8% 改 善 すること ができ る .それゆ え , 自 動 車 メ ー カ 各 社 で は ,重 量 増 加 要 因 となる 衝 突 安 全 性 , 操 縦 安 定 性 , 静 粛 性 な どの 車 両 性 能 を 確 保 ある い は 向 上 し つ つ , 軽 量 化 を両 立 させることが重 要 課 題 となっている
2).このような背 景 から, Fig.1.2 に 示 す よう に近 年 自 動 車 用 材 料 とし て高 強 度 鋼 板 の使 用 量 が急 速 に増 加 し て
いる
3 -8).鋼 板 を 高 強 度 化 するこ とで,部 材 を薄 肉 化 して軽 量 化 し ても,万 が
一 衝 突 し た際 には高 い 衝 突 エネル ギー 吸 収 能 によって乗 員 の安 全 性 を 確 保 できるためである
4).軽 量 かつ安 全 な車 体 開 発 を目 標 に, 1994 年 から実 施 さ れ た ULSAB(Ultra Light Steel Auto Body) , ULSAC(Closure) , ULSAS(Suspension) および ULSAB-AVC(Advanced Vehicle Concept) などの 一 連 のプロジェクトにおいては, Fig.1.3 に示 すようにほぼ全 ての構 成 部 材 を高 強 度 鋼 板 に置 換 することで,価 格 上 昇 なし に 20~30% の軽 量 化 が可 能 である ことが示 された
5 -8 ).
しかし ながら,鋼 板 の強 度 が増 す につ れて, 1) プレ ス 成 形 時 に割 れ,しわ , スプリングバッ クなどの不 良 は発 生 し易 くなり
9),また, 2) 成 形 に大 き な荷 重 を 必 要 とする ため金 型 寿 命 が低 下 す る
10 ,11),という深 刻 な問 題 が顕 在 化 した.
プレ ス 成 形 性 に関 す る 課 題 に 対 し て, 組 織 制 御 に よる 素 材 特 性 の向 上 が研
究 され
12 -16 ), DP(Dual Phase) 鋼
1 4,15)および TRIP(TRansformation Induced
Plasticity) 鋼
12 ,16)などが開 発 されてきた.しかし,組 織 制 御 による材 質 向 上 は 限 界 に近 く,今 後 のさらなる高 強 度 化 と成 形 性 向 上 の要 求 には対 応 が難 しい.
一 方 ,欧 州 ではダイクエンチなどの熱 間 プレス成 形
17 -21 )による成 形 性 改 善 が
1
主 とし て発 達 し てきたが,国 内 では一 部 の車 種 に適 用 されてはいるも ののほと んど普 及 していない .いずれにせよ,組 織 制 御 ,温 ・ 熱 間 プレス成 形 のいず れ のアプローチでも,金 型 寿 命 低 下 という問 題 は解 決 することができない.
金 型 の寿 命 を決 定 づける主 たる要 因 は,鋼 板 と金 型 の間 に生 じる摩 擦 であ る.摩 擦 とは,接 触 する 2 つの物 体 間 にお いて作 用 する物 理 現 象 であり,回 避 する ことは不 可 能 である .そし て,金 型 の使 用 が進 む につ れて,摺 動 部 (す べり合 う部 分 )の表 面 は繰 返 し摩 擦 によって刻 々と塑 性 変 形 していく.そして,
最 期 には金 型 に焼 付 きが発 生 することで,プレス機 械 の作 動 精 度 低 下 あるい は停 止 を 引 き 起 こし ,同 時 に製 品 形 状 の精 度 も 大 幅 に低 下 す る.こ れがす な わち金 型 の寿 命 を意 味 している.金 型 の寿 命 低 下 を 改 善 するためには,完 全 に回 避 することは出 来 ないまでも,摩 擦 ・ 摩 耗 を 低 減 することが有 効 な方 法 で ある .こ のよう な摩 擦 ・ 摩 耗 といっ た摺 動 特 性 に関 する 問 題 を 解 決 する 手 段 と し て,金 型 表 面 を 硬 化 さ せ るこ とで塑 性 変 形 に伴 う 焼 付 き を 抑 制 す る 方 法 お よび 摺 動 部 に潤 滑 剤 を 注 入 す ることで,摩 擦 を 小 さ くする 方 法 が経 験 的 に知 られている.
本 研 究 では ,高 強 度 鋼 板 の プレ ス 成 形 性 ,ス プリン グバ ッ ク特 性 お よび 金 型 寿 命 へ の摺 動 特 性 の寄 与 を 明 らかにした上 で,金 型 表 面 処 理 および潤 滑 剤 の活 用 による 摺 動 特 性 を 向 上 さ せ る 手 法 を 追 求 し た.さ らに,開 発 技 術 の 工 業 化 を視 野 に入 れ,その有 用 性 を確 認 検 証 した.
2
500 1000 2000 3000 45.0
1500 2500
40.0
25.0 20.0 15.0 30.0
5.0 35.0
0 Fue l c ons um pt ion (km /ℓ ) 10.0
Vehicle weight (kg)
MT car AT car
CVT car Hybrid car 2015 standard
Fig.1.1 Relationship between vehicle weight and fuel consumption
1)TS/270MPa 340-390 440-540 590 780 980
0 20 40 60 80 100
’2004
’2014 projection
Structural ratio (%)
Fig.1.2 Anticipated progress of application of high strength steel sheet
8)3
TRIP 450/800 4.18%
BH 210/340 3.29%
BH 260/370 8.31%
CP 700/800 0.56%
DP 280/600 3.89%
DP 300/500 8.99%
DP 350/600 3.26%
DP 400/700 4.53%
DP 500/800 23.64%
DP 700/1000 29.40%
HSLA 350/450 1.33%
IF 300/420
2.86% Mart 950/1200 3.02%
Mart 1250/1520 0.88%
1.86% Misc
Fig.1.3 Breakdown for various steel sheet proposed in ULSAB-AVC
6)4
1.2 高 強 度 鋼 板 のプレス成 形 性 に関 する従 来 の研 究
1.2.1 薄 鋼 板 の成 形 様 式
薄 鋼 板 は,適 用 される 各 製 品 において要 求 される構 造 的 な強 度 特 性 以 外 に,種 々の複 雑 な形 状 への成 形 性 が強 く要 求 される.特 に自 動 車 用 鋼 板 など は,プレ ス 加 工 に よっ て最 終 的 な部 材 形 状 に成 形 さ れる のが 一 般 的 である . 薄 鋼 板 の成 形 様 式 は Fig.1.4 に示 すように, (a) カップ成 形 に代 表 される,効 率 的 に材 料 をポンチとダイス の間 に流 し 込 むことによって大 きな成 形 高 さを 確 保 する深 絞 り成 形 , (b) 板 厚 を減 少 させながら風 船 を膨 らます 要 領 で成 形 する 張 出 し 成 形 , (c) 打 ち抜 い た穴 を 広 げる 要 領 で端 部 に 大 き な引 張 り変 形 を 与 える伸 びフランジ成 形 ,および (d) 曲 げ成 形 の 4 種 のモードに分 類 することがで き
22),実 際 の部 品 はこれらのモー ドの組 み 合 わせで成 形 される.各 々 の加 工 モードによって必 要 とさ れる特 性 も 異 なるこ とから,成 形 の容 易 さを表 すプレ ス 成 形 性 も, (a) 深 絞 り性 , (b) 張 出 し性 , (c) 伸 びフランジ性 および (d) 曲 げ性 の 4 種 に細 分 化 され,異 なる手 法 ならびに指 標 によって評 価 されている.
深 絞 り成 形 は, Fig.1.4(a) に示 したよう に,金 型 によっ て挟 み 込 まれているフ ランジ 部 の 体 積 が 減 少 す る 変 形 であり ,こ の部 分 で は縮 み 変 形 が 生 じ る . 深 絞 り 性 は 例 え ば 円 盤 状 の 鋼 板 を 円 筒 カ ッ プ 状 に 成 形 す る 際 の 限 界 絞 り 比 LDR ( limiting drawing ratio )によって評 価 され, LDR が大 きいほど深 絞 り性 が優 れる. LDR は破 断 せずに絞 り抜 ける最 大 ブランク径 D
Ma xとパンチ径 d
pを 用 いて次 式 (1.1)で定 義 される.
𝑳𝑳𝑳𝑳𝑳𝑳 = 𝑳𝑳 𝒅𝒅 𝐌𝐌𝐌𝐌𝐌𝐌
𝒑𝒑 … … (1.1)
代 表 的 な 深 絞 り 性 評 価 試 験 方 法 で ある Swift 深 絞 り 試 験 法 の 模 式 図 を , Fig.1.5 に示 す
23). Fig.1.4(a) でも示 したように,深 絞 り成 形 においてはフランジ 部 が面 内 圧 縮 を受 けて円 筒 縦 壁 部 に流 入 するため,板 厚 方 向 に比 べて板 幅 方 向 のひずみ量 が大 きい.このため, LDR は鋼 板 の塑 性 異 方 性 の指 標 である ランクフォード値 ( r 値 )と良 い相 関 がある事 が知 られており, r 値 の大 きな材 料 ほど深 絞 り性 に優 れている
24 ). r 値 は,引 張 試 験 において試 験 片 平 行 部 に一 様 なひずみを 与 えた際 の板 幅 方 向 および 板 厚 方 向 の真 ひ ずみより得 ることが
5
でき,次 式 (1.2) で定 義 される
25 ).ここで, w
0は試 験 片 の初 期 板 幅 , w は引 張 後 の板 幅 , t
0は試 験 片 の初 期 板 厚 , t は引 張 後 の板 厚 をそれぞれ示 す.
𝒓𝒓 = 𝜺𝜺 𝜺𝜺 𝒘𝒘
𝒕𝒕 = 𝐥𝐥𝐥𝐥
𝒘𝒘 𝒘𝒘𝟎𝟎
𝐥𝐥𝐥𝐥 𝒕𝒕𝟎𝟎 𝒕𝒕 … … (1.2)
Fig.1.6 に LDR と r 値 の関 係 を示 す.
張 出 し成 形 は, Fig.1.4(b) に示 したように,フランジを拘 束 し材 料 を流 入 させ ずに板 厚 を減 少 させ ながら成 形 高 さを 確 保 する成 形 である .張 出 し 性 の評 価 法 としては Fig.1.7 に模 式 図 を示 すエリクセン試 験 法
2 6)が最 もよく用 いられて おり,試 験 において鋼 板 が破 断 に至 る 限 界 の張 出 し 高 さを エリクセン値 とし て 張 出 し性 の評 価 値 とする.張 出 し成 形 では,加 工 が進 むにつれて板 厚 が減 少 し,変 形 の大 き い 部 位 でくび れが生 じて破 断 に至 る .し たがっ て,ひ ずみ が局 所 集 中 しにくい材 料 ,すなわち加 工 硬 化 指 数 ( n 値 )および伸 びが大 きな材 料 ほど張 出 し性 に優 れる
27 ). n 値 は,引 張 試 験 による真 応 力 σ および真 ひずみ ε の関 係 を次 式 (1.3) で近 似 した時 の真 ひずみ ε の指 数 として定 義 される
28 ).
𝝈𝝈 = 𝑪𝑪𝜺𝜺 𝒏𝒏 … … (1.3)
n 値 とエリクセン値 の関 係 を Fig.1.8 に示 す.高 強 度 鋼 板 は一 般 的 に高 r 値 化 が難 しい ため ,自 動 車 部 品 の生 産 にあたっ ては,深 絞 り成 形 を 可 能 な限 り低 減 し,張 出 し 成 形 に置 換 するよう設 計 がなさ れる.しかし,深 絞 り成 形 を受 ける 部 位 を完 全 に排 除 することは不 可 能 であるし,鋼 板 の強 度 が 980MPa 級 以 上 となると,張 出 し性 の確 保 も極 めて困 難 となる.
伸 びフランジ成 形 は, Fig.1.4(c) に示 したよう に平 板 を縁 に沿 って曲 げ ,フラ ンジを 形 成 する 成 形 様 式 である.したがっ て,伸 びフランジ性 は端 部 ,特 に打 ち抜 き端 部 の変 形 能 を表 している.代 表 的 には Fig.1.9 に示 すような,円 形 に 打 ち 抜 い た 穴 を 円 錐 ポ ン チで 広 げ る 穴 広 げ 試 験 に よっ て 評 価 さ れ , 元 穴 径 D
0に対 する最 終 穴 径 D
hまでの穴 広 げ率 λ がその指 標 として用 いられる
29 ,3 0). 穴 広 げ率 λ は次 式 (1.4)で定 義 される.
6
𝝀𝝀(%) = 𝑳𝑳 𝒉𝒉 𝑳𝑳 −𝑳𝑳 𝟎𝟎
𝟎𝟎 × 𝟏𝟏𝟎𝟎𝟎𝟎 … … (1.4)
穴 広 げ率 は, Fig.1.10 に示 す切 欠 き伸 びとの関 係 からも分 かるように,極 限 変 形 能 ,局 部 伸 びと良 く対 応 することが知 られている
31 ).伸 びフランジ性 向 上 の ためには,局 部 変 形 域 でのボイド生 成 を 極 力 抑 制 するため,粒 界 でのひず み 集 中 を低 減 する金 属 組 織 の均 一 化 およびボイドの起 点 となる炭 化 物 ,酸 化 物 の減 少 ,析 出 粒 子 間 隔 の増 加
32 )といった組 織 制 御 が重 要 とされる.
曲 げ 成 形 は, Fig.1.4(d) に 示 し たよう に 単 純 に鋼 板 を 曲 げ る 成 形 様 式 であ る.上 述 し た他 の成 形 様 式 と比 べると単 純 な変 形 ではある が,実 際 の成 形 品 の多 くでは,深 絞 り成 形 および 伸 びフランジ成 形 と組 み合 わされて,複 合 的 に 曲 げ成 形 されている.単 純 な曲 げ 性 は,曲 げ部 外 表 面 に割 れを 生 じることなく 平 板 を 180 °に折 り曲 げ られる最 小 半 径 によって評 価 され, Fig.1.11 に熱 延 鋼 板 の試 験 結 果 を示 すが,局 部 伸 びとの良 い相 関 が得 られている
33).そのた め,一 般 的 に局 部 伸 び が小 さい 高 強 度 鋼 で問 題 となる .曲 げ 性 も 伸 び フラン ジ性 と同 様 に局 所 的 な大 変 形 による 破 壊 に耐 える 能 力 ととらえるこ とができ る.
したがっ て,曲 げ 性 の向 上 は伸 び フランジ性 の向 上 と同 様 の考 え 方 で達 成 で きると言 える.
7
Fig.1.4 Systemized deformation modes on press forming of steel sheets (a) deep- drawing, (b) stretch-forming, (c) stretch-flanging and (d) bending
22)Flow
Shrinkage
Stretch Flow
Flow
Stretch
Stretch Stretch
Stretch
(a) Deep-drawing (b) Stretch-forming
(c) Stretch-flanging (d) Bending
8
Fig.1.5 Procedure for swift deep drawing tests
23)Punch
Die
Blank Holder
D D+ ∆ D
d
pr
dr
pd
dd
pBroken Unbroken
Fig.1.6 Relationship between Lankford value and limiting drawing ratio in mild steel
24)Limit in g d ra w in g r at io
24
22
21 23
Average Lankford value
0.5 1.0 1.5 2.0
20 0
Mild steel
9
Die
Punch
Holder Test piece
Contact surface
Eriksen value
Fig.1.7 Eriksen test procedure
26)Fig.1.8 Relationship between work hardening coefficient and Eriksen value
27)Er ic hs en va lu e (mm)
11.0
10.6
10.4 10.8
Work hardening coefficient
0.17 0.21 0.23 0.25
9.8 0.15
0.19 10.2
10.0
10
(a) Before test
(b) After test
Fig.1.9 Hole expanding test procedure
30)11
B en din g ra diu s ( mm) 3.2
1.6 4.8
Elongation by notched test piece (%)
10 15
5 0
Broken Unbroken Hot rolled steel sheet (t=3.2mm)
Fig.1.11 Relationship between elongation of notched test piece and bending radius in hot rolled steel sheet
33)Fig.1.10 Relationship between ultimate deformability and limiting hole expansion ratio
31)Limit in g hol e expa ns ion ra tio (% )
200
100
50 150
Ultimate deformability
1.0 1.5 2.0 2.5
0 0.5
12
1.2.2 各 種 高 強 度 鋼 板 のプレス成 形 性
前 項 で述 べたように,薄 鋼 板 のプレス成 形 性 は成 形 様 式 に応 じて 4 種 類 に 分 類 され,指 標 となる特 性 もそれぞれ異 なる
34).当 然 ,各 成 形 様 式 に適 する 金 属 組 織 は 異 な る . し た が っ て , 適 用 す る 部 材 の 形 状 と 加 工 方 法 に 応 じ て 様 々な高 強 度 鋼 板 が開 発 されている.
自 動 車 の 車 体 パ ネル 用 部 材 には,とくに 高 い 深 絞 り性 が要 求 さ れる ため , 高 r 値 鋼 板 が適 用 されている
35 ).現 在 ,製 鋼 段 階 で C , N を低 減 し,さらに Ti , Nb などを用 いて C , N を析 出 物 として固 定 することで固 溶 C , N を極 限 まで低 減 し た IF ( Interstitial atom Free ) 鋼
36 )が 主 流 となっ てい る .し かし ながら,
500MPa を超 える高 強 度 鋼 板 で r 値 を高 めることは容 易 ではないため, IF 鋼 ベ ースでは低 強 度 レベル鋼 板 しか開 発 できていない.
一 方 ,車 体 構 造 部 材 には張 出 し性 および 深 絞 り性 が必 要 とされるが,衝 突 安 全 性 が重 視 されるため成 形 性 の改 善 より高 強 度 化 が優 先 されてきた
37 ).し かし,その中 で, 590 ~ 1180MPa の引 張 強 さを有 した上 で,主 に伸 びの改 善 を 図 った鋼 板 が種 々開 発 されてきた. HSLA ( High Strength Low Alloy )鋼
38 ), DP 鋼 および TRIP 鋼 などから適 用 部 位 の設 計 基 準 に応 じて素 材 の選 択 がな されている. HSLA 鋼 板 は,固 溶 強 化 と析 出 強 化 を組 み合 わせた鋼 種 で,汎 用 の高 強 度 鋼 板 として広 く利 用 されている. DP 鋼 板
14 ,15 )は,組 織 制 御 によっ てフェライ ト( 軟 質 ) とマル テンサイ ト( 硬 質 ) の複 合 組 織 化 し た鋼 種 である .生 産 工 程 における 急 冷 温 度 を 制 御 し,マル テンサイトの体 積 率 を変 化 させること で,任 意 の強 度 レベルの鋼 板 が製 造 されている. TRIP 鋼 板
12 ,16 )は,残 留 オ ース テナイ トのひ ずみ 誘 起 変 態 を 積 極 的 に利 用 し た鋼 種 である .成 形 時 ,塑 性 変 形 の進 行 につ れて加 工 硬 化 指 数 が高 いオース テナイ トからマルテンサイ トへの変 態 が生 じ,変 態 した部 分 の強 度 が向 上 することでネッキング発 生 を抑 制 する.この機 構 によって TRIP 鋼 板 は DP 鋼 板 以 上 の伸 びを示 す.
サスペ ンショ ンなどの足 回 り部 材 も 車 体 構 造 部 材 と同 様 に,衝 突 安 全 性 を 要 求 されるため,強 度 および剛 性 が重 要 である
39 ).しかしながら,足 回 り部 材 の強 度 レベルは 440 ~ 590MPa 級 が主 体 で,車 体 構 造 部 材 ほどの高 強 度 化 は進 んでいない.この理 由 の一 つとして,足 回 り部 品 の加 工 方 法 が挙 げられる.
足 回 り部 品 の成 形 には,伸 びフランジ加 工 の一 種 である打 抜 き穴 にフランジを 立 てる バ ー リング加 工 が多 用 さ れる .サ ス ペ ンショ ン用 高 伸 び フランジ性 高 強
13
度 鋼 板 としては,ベ イナイ ト単 相 あるい はフェライ ト+ ベイナイ ト複 合 組 織 鋼 板
40,41 )
が主 流 であった.最 近 では母 相 をフェライト単 相 として結 晶 粒 および析 出
物 を微 細 化 することで, 980MPa 級 以 上 に高 強 度 化 し た鋼 板 も 開 発 されてい
る
42,43 ),足 回 り用 でも,ホイールディスクなど張 出 し成 形 が主 体 の部 品 に対 し
ては,上 述 の DP 鋼 板 あるいは TRIP 鋼 板 が用 いられている.
各 種 高 強 度 鋼 板 の成 形 性 を Fig.1.12 に示 す
34).前 項 で述 べた通 り,深 絞 り性 は r 値 と,張 出 し性 は伸 びとそれぞれ相 関 があり,伸 びフランジ性 は穴 広 げ率 によって評 価 される.したがって, Fig.1.12 からも,成 形 様 式 に応 じた 4 種 類 のプレス成 形 性 ならびに強 度 の全 てを満 足 するような鋼 板 が存 在 しないこと が分 かる .例 えば ,伸 び 向 上 は深 絞 り性 を 低 下 さ せ ,二 相 組 織 化 は伸 び フラ ンジ性 を低 下 させる傾 向 にある.さらに,実 際 の部 品 の成 形 では, 4 種 の成 形 様 式 が混 在 しているため,組 織 制 御 だけでは対 応 できないことは明 白 である.
したがって,年 々高 強 度 化 が進 んでいる自 動 車 部 品 のプレス成 形 に対 応 する ためには,ここまでに記 述 してきた材 料 工 学 的 な見 地 のみではなく,塑 性 加 工 学 研 究 の発 展 が必 要 不 可 欠 である.
14
Fig.1.12 Relationship between tensile strength and indexical property for press formability in various high strength steel sheet
34)Tensile strength (MPa)
0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600
El onga tion (% )
2.5
1.5 1.0 2.0
0.5 50 40
20 10 30
100 80 60 40 20
IF
IF
TRIP DP
HSLA
Martensite Bainite
TRIP
HSLA DP
IF Bainite Martensite
TRIP
DP HSLA
La nkf or d va lue Limit in g hol e expa ns ion ra tio (% )
15
1.2.3 高 強 度 鋼 板 の形 状 凍 結 性 (スプリングバック特 性 )
前 項 まで に述 べ た プレ ス 成 形 性 は, 鋼 板 を 破 断 さ せ る こ となく各 種 様 式 の 成 形 が可 能 かを 示 す 指 標 であっ た.一 方 ,高 強 度 鋼 板 においてはス プリング バック,すなわ ち除 荷 後 に角 度 の変 化 ,反 り,お よびねじ れとい った形 状 不 良 が生 じ やす い ため ,高 強 度 化 ととも に形 状 凍 結 性 の低 下 が 大 き な問 題 となっ ている.スプリングバックは,プレス成 形 完 了 時 の内 部 応 力 の弾 性 回 復 に基 づ く現 象 である.また,この際 にすべての内 部 応 力 が解 放 されるのではなく,主 に 曲 げモーメントがゼロになるような形 状 変 化 が起 きるとされている
44 ).板 材 の単 純 曲 げ成 形 後 のスプリングバック量 は次 式 ( 1.5 )で表 される
45 ).ここで, θ は鋼 板 の曲 げ角 度 , ∆θ はスプリングバックによる曲 げ角 度 変 化 , Y は降 伏 強 度 , E はヤング率 , R は曲 げ半 径 , t は板 厚 を示 す.
∆𝜽𝜽
𝜽𝜽 = 𝟑𝟑 𝒀𝒀 𝑬𝑬 𝑳𝑳 𝒕𝒕 … … (1.5)
ここで,式 ( 1.5 )より,鋼 板 の降 伏 強 度 増 加 に伴 い,スプリングバック量 が大 きく なるこ とが明 らかである .また, 同 じ く式 ( 1.5 ) は,ス プリングバ ッ ク特 性 が 弾 性 回 復 に起 因 した現 象 であり,主 として素 材 の強 度 およびヤング率 に支 配 される 特 性 であることを示 している.したがって,形 状 凍 結 性 に対 しては,プレス成 形 性 のように r 値 ,伸 びおよび極 限 変 形 能 向 上 といった素 材 特 性 改 善 では解 決 出 来 ない.現 在 ,高 強 度 鋼 板 の形 状 凍 結 性 改 善 法 としては, 1) フォーム成 形
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