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九州大学学術情報リポジトリ

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

脂質結合型疎水性ビタミンB_<12>を用いた新規二分 子膜型人工酵素の構成と反応特異性に関する研究

小川, 晃弘

九州大学工学応化分子合成化学

https://doi.org/10.11501/3099873

出版情報:Kyushu University, 1994, 博士(工学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

第 6 章 ピタミン B 1 2 人工脂質とペプチド脂質からなる 二分子膜型人工酵素による炭素骨格組み替え反応

第 1章でも述べたように,コバルトー炭素結合を有するピタミン B12類は生体内 において種々の酵素反応に関与している。この際,補酵素ピタミン B12が周囲のア ポ酵素と結合することによりコリン環が歪み,それによってコバルトー炭素結合が 活性化され,結合が開裂して反応が進行する。またコリン環のアミド周辺置換基も

アポ酵素と相互作用することによりコバルトー炭素結合の関裂を促進し,かつ生じ たラジカル種を安定化すると考えられている37d)。補酵素ピタミン B

12について下方 (α側)配位子のヌクレオチド部は触媒作用に直接関係しておらず,むしろ補酵素分 子の酵素タンパクによる認識部位として重要である。一方,上方(s側)配位子のア デノシル基は補酵素機能と直接関係があり最も重要な部位である。上方配位子と補 酵素活性の関係から,アデニン部およびリボース部での酵素一補酵素相互作用がコ バルトー炭素結合の活性化と触媒機能の発現を可能にしていると考えられる107)。こ のように,ピタミンB12が関与する酵素反応においてアポ酵素は重要な役割を演じ ており,アポタンパクの機能に着目した研究を行うことは反応機構の解明に対して 重要な鍵を握っていると考えられる。

しかしこれまでのピタミン B12に関する研究は天然のピタミン B12が水溶性であ り,生体内での酵素反応が水溶媒系で進行するという理由から水,アルコール中で の均一反応として取り扱われていた。その結果として触媒化学的に良好な成果が得 られていないことは,酵素反応がアポ酵素が構成する局所的に疎水的なミクロ環境 で進行することを示唆するものである。このような観点から村上らはアボタンパク モデルとしてペプチド脂質が水中で形成する二分子膜ベシクルを用いて研究を行っ ている9496)。このモデルは水中で局所的に疎水的な反応場を提供できるという点で 生体内での疎水的ミクロ環境を反映していると考えられる。また,補酵素ピタミン B12も疎水性場に取り込まれやすいように天然のピタミン B12のコリン環の周辺置 換基を修飾した疎水性ピタミン B12を用いている。このようにして構築されたホロ 酵素モデルは天然のピタミン B12依存性酵素反応の反応機構を解明するための有用 なモデルに成りうると考えられる。

‑95‑

(3)

6.1  これまでの二分子膜型人工酵素系における研究成果108)

ピタミン B12が関与する酵素反応のうち,以下に示す式6.1から式6.3までの反応は 炭素骨格の組み替えを伴う反応であり,式6.1はメチルマロン酸からコハク酸,式6.2

はメチルアスパラギン酸からグルタミン酸,式6.3はs‑メチルイタコン酸から αーメ チレングルタル酸への変換反応である。このような酵素反応を人工酵素系で再現す るために,村上らは先程述べた二分子膜型人工酵素系を用いて酵素モデル反応を行 っている(図6.1)。

?qH  メチルマロニル‑CoA C02H  ムターゼ

H3C‑CH  H2?一 向 (6.1 ) 

COS  CoA  COS  CoA 

C N│H。 グルタミン酸ムターゼ ?  ?H2 

叫 C ‑ T ‑ H ‑ c q H 叫 C

9‑CH2‑CH‑C02H 6.2 

CH

Cc│ lH

α・メチレングルタル酸 ムターゼ

H~C 一一 CH 一一 C02H (6.3 ) 

CH

A .

化学量論的な反応による炭素骨格組み替え反応

メチルマロニルーCoAムターゼ型反応(式6.1)では,基質が

p

位の炭素に二つの電子

吸引基を持ち,その一方が転位するという特徴を示している。実際の酵素反応では 基質とコバルトとの聞にコバルトー炭素結合を形成している証拠は得られていない が,何らかの相互作用により基質は活性化されて基質ラジカルが生成しているはず である。この現象をモデル系で再現することは困難であるため, コバルトー炭素結 合を有するアルキル錯体を合成し,光照射することによりアルキルラジカルを発生 させるという手法を用いている。人工酵素系と生体内での結合の活性化の方法は異

(4)

なるが,アルキルラジカルを発生させるという点では光照射の方法は有効である。

このような手法を用いて村上らは例えば電子吸引基としてエステル基,アセチル基 を有する基質と疎水性ピタミン B12からアルキル錯体 [{H3CC(COCH3)(C02C2HS)  CH2} (H20)Cob(III)7C3ester]Cl01を合成し,種々の媒体中で光照射により基質ラジ カルを発生させ,生成物解析を行っている(式6.4)。生成物解析の結果を表6.1に示 す。

02C

. c

02

....CH

ノヘ" ,C02R 

門 口

同 町

UU

H n H

W

c c  

/

¥  

M

3 C H H O   M H M U  

V

Il

pv

u H  

M

CH HO  

F3  

UH

ハ u  

hl M

qu

 

qu

u H    

ν

CH3  ペプチド脂質

(N+CsAla2Cn

疎水性ピタミンB12

¥¥ 

図6.1 二分子膜型疎水性ピタミン B

12人工酵素

‑97‑

(5)

H:cC1

旦 一 〉

?c  OCH

fC  q C

2?C  O CH3 

C H3 hv  ト~3C一一CH3 H2‑? C H3 H ‑ ? C H3

O~~5 C 02C2H COCH3  CO~2 (6.4) 

18  1b  1c 

表6.1 錯 体1の光開裂反応についての生成物解析結果的

媒 体 収率j%

1 8  1b  1c 

メタノ‑)レ 70  痕跡量 8.0 

ベンゼン 65  痕跡量 10 

N+CSAla2C16b)  25  痕跡量 63 

a)アルキル錯体[{H3CC(COCH3)(C02C2HS)CH2} (H20)Cob(III)7C3ester]ClO 1を含む (5.0 x 10‑5mol dm‑3)溶液に200

C

で500Wタングステンランプにより 30cmの距離から1 時間光照射した。反応溶液はリン酸ーホウ砂緩衝液 (0.05moldm‑3, pH 9.2)を用いた。

反応生成物解析はガスクロマトグラフ法により行った。

b)  N+C

s

Ala2C16の濃度:5.0 10‑3moln3

均一系での反応では還元生成物18が主生成物であったのに対して,アポ酵素モ デルの二分子膜中ではアセチル基が転位した化合物1cが極めて高い収率で得られた。

この結果から村上らは合成二分子膜の提供する反応場効果により異性化反応が進行 しやすくなったと結論している96b,96c,96t)。

グルタミン酸ムターゼ(式6.2)のモデル反応として,式6.5に示すような変換反応 を検討している63)。その結果,メタノールやベンゼンなどの均一系では還元生成物 28と2cのみが得られたが,二分子膜内での反応では異性化生成物2bが得られた。

1H2  t':JH2 

一叫C~一Wぺ3

? ?HH ‑C 02C  hv  H:p‑ C H   ??H‑C02C ト~C‑ C  fH2  H2C

H‑C02C2H (6.5) 

02C2H 02C2H 02C2H O:cC 2H

28  2b  2c 

さらに転位する置換基は天然の場合と同じくグリシル基であることを明らかにし ている63c)。この反応はモデル系によるアミノ酸骨格変換の最初の成功例である。

(6)

B .

基質の活性化を伴う炭素骨格組み替え反応

化学量論的な反応では異性化反応が進行するものの触媒としての機能を発現して いるわけではない。出発物質としてハロゲン化アルキルを用い, Co(I)錯体との反応 によりコバルトー炭素結合を生成し,光照射によりラジカルを発生させている。実 際の天然酵素系では炭化水素類を基質としており

C‑H

結合の活性化により基質ラ ジカルが生成する。 Schrauzerらは三塩化バナジウムと空気中の酸素から基質を活性 化することにより相当するラジカル種を生成させ, Co(II)状態のコパラミンとの反 応によりアルキル錯体の合成に成功している109)。村上らはこの結果を二分子膜型人 工酵素系に適用し, Co(II)状態の疎水性ピタミン B12とアルキルラジカルからアル キル錯体を合成し,二分子膜中で光開裂させることにより,完全サイクル型のホロ 酵素モデル系の構築に成功している(図6.2)77110)

この人工ホロ酵素はグルタミン酸ムターゼ型の反応とメチルマロニル‑CoAムター ゼ型の反応のみならず,環拡大反応(式6.6および式6.7)にも応用でき77),有機合成 化学的にも応用範囲は広い。

σ 日[)

ー~ (6.6) 

。 。

V よ/ O

CH

~

V3+ O (6.7) 

(7)

バルク水柑

盤 ・ 仲

hm

川 侵

・ 0

H

デ̲j̲

R

or 

H

2C

一 て

‑R

/ / / / / / / / /  

@  J  叩 え へ /

y

/02

x=y=

電子吸引基

H, CH

6 . 2

二分子膜型ピタミン

B

12人工酵素での反応模式図

以上に述べたように,二分子膜型人工酵素系では均一系での反応と比較して異性 化反応が効率よく進行することが明らかになった。しかし,図6.1に示したようにこ の場合,疎水性ピタミンB12は二分子膜内に非共有結合的に固定化されているにす ぎない。そこで第 1章でも述べたように,二分子膜内で疎水性ピタミン B

12をより 強く固定化し,ミクロ環境極性を下げるために新規ピタミン B12人工脂質を用いて 新たな二分子膜型人工酵素系を構築し(図6.3),種々のモデ、ル反応について検討した。

(8)

~C02R

H3

q u q . M   M H M

U F U

5 5  

ζ n ζ M H U H   ) ) /

¥  

3 C H H O   M U M

C

C

MH  

MCHO 

Rd  

ζ

MH

 

M

qu

q  

u 

MH  

)

J q d u H M

UUEdJR2

2 H H   0 c c  

︿

C

¥

0 2 m H O H Z H H  

IllN

CI

C

c

3 H  

NC

C H O

RM

 

MH  

FU M

d

qM

  MH  

ν

ペプチド脂質

問+CSAIa2C1S)

Br‑

新規ピタミンB12人工脂質

プ--'~ア

図6.3 新規二分子膜型人工酵素の模式図

‑101‑

(9)

6.2  メチルマロニル国CoAムターゼ型モデル反応、

6.1でも述べたように,メチルマロニルーCoAムターゼは(R)‑メチルマロニルーCoAと スクシニルーCoAの聞の可逆的異性化反応を司る酵素であり,移動基は‑COSCoAとい うチオエステル基である。種々の基質アナログを用いてモデル反応が行われている が,特に反応場として二分子膜を用いた場合にアセチル基,チオエステル基などの 電子吸引性基は効率よく転位することが明らかになっている96)。本研究ではこれま でもよく研究がなされており,そのアルキル錯体が非常に安定であるジエステル型 の基質を用い,新規二分子膜型ピタミン B12人工酵素の反応性について検討した。

6.2.1  実験の部

a)  試 薬 類

ペプチド脂質の合成法は第2章で述べた。疎水性ピタミン B12類の合成法は第3

章で,新規ピタミン B12人工脂質類の合成法は第4章ですでに述べた。基質および 標品の合成は文献111)記載の方法に従って行った。アルキル錯体の合成は6.2.1cで 述べる。反応に使用した溶媒は市販品を文献112)に従って精留したものを用いた。

リン酸緩衝液は反応の直前に調整したものを用いた。

b)  基質及ぴ標品の合成

基質および標品はスキーム6.1~こ従って合成した。

スキーム6.1

?02CA  H3C‑?H 

C02C2Hs  ζ

EMl

l

4N

u u

NC

E

41

J

? o ρ

5

BrHρ‑?‑CH3  C02C戸5

u H  

4 0  

α

♂ 

U U H μ u u

ClClC 

£ 

u H   H2S0

abs. C2HsOH 

?02C仇 H3C‑qH 

CH2C02C2Hs 

(10)

5 5  

が 列

ρ ρ  

O H O  

c ‑ c l C  

£ 

u H   1. NaH  zu

r a  

M﹄

同州

c c c   q

q c i c ‑ ‑ c  

u

qu

u u    

2. CH~

( i)  2,2・ピス(エトキシカルボニjレ)ートプロモプロパン

?Oρ

洲 H3C

?H

C 02C2Hs 

H

一 切

M

pv

? O ρ

B

C

一 ? 一

CH3

CO~2Hs

少量の無水THFで洗浄した水素化ナトリウム (60%油性)14g (0.34mol)を無水THF 溶 液150mLに 懸 濁 し た 。 窒 素 雰 囲 気 下 で メ チ ル マ ロ ン 酸 ジ エ チ ル エ ス テ ル51g (0.29mol)の無水THF溶液1∞mLを1時間で滴下した。室温で1時間撹持後,臭化メチ

レン153g(0.88mol)を20分間で滴下した。室温で1時間さらに泊浴温度800

C

で12時間 還流した。室温まで放冷後,冷水で数回洗浄しジエチルエーテルを加えて抽出した。

無水硫酸ナトリウムで乾燥後,溶媒を減圧留去し残盗を減圧蒸留して無色透明液体 73g (93%)を得た。

bp:  117‑‑1180

/3mmHg. 

Beils低泊試験:陽性.

IR (neat) / cm‑1: 1730 (エステルC=ostr). 

lH NMR [500~z,

CDα3'

TMS]: 1.27 (6H, t, CH2CH3), 1.57 (3H, s, CH3),  3.77 (2H, s, CH2Br), 4.20‑‑4.25 (4H, m, CH2CH3). 

(ii)  1,2‑ピス(エトキシカルボニル)プロパン

COOH 

H2S0 H3β‑CH 

abs. C2HsOH  CHρOOH 

?qC2H5  H3C‑?H 

CH2C 02C2Hs 

少量の無水ベンゼンで洗浄した水素化ナトリウム (60%油性)3.0g (0.13mol)を無水

(11)

ベンゼン8臼nLに懸濁した。窒素気流下でメチルマロン酸ジエチルエステル5.6g (3.2 x 10‑2mol)の無水ベンゼン溶液4臼nLを約30分間で滴下し,室温で激しく撹持し た。反応混合物が白色ワックス状になったところでヨウ化メチル6.4g(4.5 x 10‑2mol)  の無水D:MF溶液3 Lを加えて1時間室温で撹持した。反応混合物を塩化アンモニウ ム水溶液で塩析し,ジエチルエーテル(50mLx 2)で抽出した。抽出液を10%(w/w)  チオ硫酸ナトリウム水溶液と振塗して無水硫酸ナトリウムで乾燥した後,溶媒を減 圧留去し,減圧蒸留して無色液体3.1g(55%)を得た。

bp: 76~77t / 1nmHg.

IR (neat) / cm‑11730 (エステルC=ostr). 

lHN恥1R[500MHz, CDα3' TMSJ:  1.21 (6H, t, CH2CH3), 1.39 (6H, s, CH 3),  4.13 (4H, q, CH2CH3). 

(iii)  2,2・ピス(エトキシカルボニル)プロパン

d F h d

H H  

J

ζ

c c  

J

/

O H O  

c ‑

c

c

O

UH  

1.  NaH  hUF h d

MHlmoUH  2 a r 2  

ρcρ 

O 一 O C l C l C  

pv

q u  

 

u H   2. CH3

メチルコハク酸5.0g(3.78 x 10‑2mol)の無水エタノール10伽止混合溶液に98%濃 硫 酸lmLを加え7時 間 加 熱 還 流 し た 。 エ タ ノ ー ル を 室 温 で 減 圧 留 去 し た 後 , 蒸 留 水 1∞mLを加え国体の炭酸ナトリウムで中和し,ジ、エチルエーテル(1∞mLx2)で抽出

した。無水硫酸ナトリウムで乾燥した後ジ、エチルエーテルを室温で減圧留去し,減 圧蒸留して無色液体3.5g(49%)を得た。

bp: 79~80oC /6mmHg. 

IR (neat) / cm‑1: 1740 (エステルC=Ostr). 

lHN恥1R[500MHz, CDα3' TMSJ: 1.18 (3H, d, CH3CH), 1.21 (6H, t, CH 3CH

2),  2.34,2.68 (2H, dd, CHCH2), 2.87 (1H, d, CH3CH),  4.10 (4H, q, CH

3CH

2). 

(12)

c)  コバルトー炭素結合を有する疎水性ピタミン B

12類 (アルキル錯体)の合成

生体内ではアデノシルコパラミンのコバルトー炭素結合がアポ酵素により活性化 され,ホモリシス開裂により生成するアデノシルラジカルが基質から水素原子を引 き抜き,基質ラジカルが生成すると考えられている。しかし,生体内での現象をモ デル系で再現するのは困難であるため,人工酵素系ではコバルトー炭素結合を有す るアルキル錯体を合成し, これを用いて基質ラジカルを発生させるという手法を用 いている。

アルキル錯体の合成には次の三つの方法がある(図6.4)。一般的に最も広く用いら れている方法はCo(I)錯体と求電子剤との反応である。 Co(I)錯体はヨウ化物イオン の107倍もの求核性を有する最強の求核反応種であり 113),アルキルハロゲン化物114) やアシルハロゲン化物との

SN2

反応,小員環化合物の開環反応115‑116),不飽和化合 物への付加反応117)のいずれかによりコバルト‑炭素結合を生成する。他に基質ラ ジカルとCo(II)錯体の反応による方法118), Grignard試薬やアルキルリチウムのよう な求核剤とCo(III)錯体の反応によってもアルキル錯体は生成する119)

州 o ( Eh)¥¥

ぞり~+ (求核剤) RY 

図6.4 アルキルコバルト錯体の生成方法

本研究ではCo(II)錯体を還元剤によりCo(I)錯体に変換し,アルキルハロゲン化物 との反応によりアルキル錯体を合成した。

‑105

(13)

( i ) アコ[(2,2ーピスエトキシカルボ、ニル)プロピル]コピリン酸‑10‑[NN‑ジ ヘ キ サ デ シル‑Na(6'ートリメチルアンモニオヘキサノイノレ)ーL‑アスバルトアミド臭素酸 塩]ヘフ。タメチルエステル過塩素酸塩:

[(H20){ (C2HSC02)2(CH3)CCH2} Cob(III)(1 0‑N+CSAsp2C16)7C1ester]CIO 4 

NaBH

902~ 同 H2?‑?‑CH3  Br C02~ 同

[Cob(II)(10‑N+CSAsp2C16)7Clester]CI047ng(3.59 x 10‑5mol)を3臼nLのメタノール に溶解した。これにリン酸緩衝液 [pH7, O.Olmol dm‑3,μO.I(KCI)] 15札 を 加 え , 窒 素ガスを吹き込んで十分脱酸素した。以下の操作はすべて暗所で行ったO 窒素気流 下で水素化ホウ素ナトリウム 70mg(1.85 10‑3mol)を加えて激しく撹持すると溶液 の色が暗緑色に変化した。溶液に2,2‑ピス(エトキシカルボニノレ)‑1‑ブロモプロパン 103mg(3.74 x 10‑4mol)を加えて8分間撹持した。 60%(w/w)過塩素酸水溶液3mLを加 えて過剰の水素化ホウ素ナトリウムを失活した。反応混合物を塩化メチレンで抽出

し水洗した後,無水硫酸ナトリウムで乾燥し室温で減圧乾回した。残溢をベンゼン に溶解し,ヘキサンを加えて再沈殿を行い茶褐色固体69mg(890/0)を得た。

IR (KBr) / cm‑1: 2920, 2850 (C‑H str.), 1730 (エステルC=Ostr.),  1640 (アミドC

=u

str.),  1120, 630 (α04 ‑str.). 

uv ハ

TJS(CH2C12) / nm:入max267 ε(, 1.5 x 104), 298 (1.8 x 104), 416 (6.9 x 103),  462 (6.3 x 103). 

[(H20){ (C2HS

2)2(CH3)CCH2} Cob(III)( 1 0‑N+CSAsp2C16)7C1 ester]CIO 4の電子スペク トルを図6.5に示す。

元素分析

実測イ直:

c

, 58.66 ; H, 8.29 ; N, 5.24 %  CI06H179BrCICoN8026H20としての

計算値:C, 58.57 ; H, 8.39 ; N, 5.15 % 

(14)

A  B 

. .  

 , '

, 

, •

, •

, 

• ‑

• ' 

• • •

1.5 

¥ J  、 ,

'  2.0 

1.

5 7

‑ o g

¥ ω

l

OH

. .   ‑ .

,司、

.、

、     

          

   

︐ ︐ 

a '  

︐ a '  

︐ 

︐ ︐ ︐ ︐ ︐ ︐ 

﹀ ¥ ︑

i z

1

0.5 

600  700  500 

波長

/nm 4 0 0  

300 

[(H20) {(C2HSα)2)2(CH3)CCH2}Cob(III)(10‑N+CSAsp2C16)7Clestぽ]Cl04 の電子スペクトル(溶媒:塩化メチレン)

図6.5

B :

光照射後

A :

光照射前

(15)

(ii)  アコ[(2,2・ピスエトキシカルボニル)プロピル]コピリン酸‑10‑[N,N‑ジ、ヘキサデ シル‑Na‑(6'ートリメチルアンモニオヘキサノイノレ)ーL‑アスバルトアミド臭素酸 塩]ヘプタプロピルエステル過塩素酸塩:

[(H20){ (C2H5C02)2(CH3)CCH2} Cob(lII)(1 0‑N+C5Asp2C16)7C3ester]CIO 4 

NaBH

?qC2H5  H

勾 一

?‑CH3

Br  CD2C2Hs 

[Cob(II)(10‑N+C5Asp2C16)7C3ester]Cl04183mg (8.52 x 10‑5mol), 2,2・ピス(エトキシ カルポニル)ー1‑ブロモプロパン235mg(8.52  x 10‑4mol)について(i )と同様な操作を行 った。なお,精製はゲルクロマトグラフ法[SephadexLH‑20,メタノール]により行 い,茶褐色粘調物 139mg(69.4%)を得た。

IR (KBr) / cm‑12930, 2850 (C‑H str.), 1730 (エステルC=Ostr.),  1650 (アミドC=Os甘.), 1100,630 (α04 ‑str.). 

uv ハ

TIS(CH2C12) / nm:入max268 ε(, 1.5 104), 315 (2.0 x 104), 410 (6.4 x 103),  469 (8.2 x 103). 

[(H20){ (C2H5

2)2( CH3)CCH2} Cob(III)( 1 0N+C5Asp2C16)7C3ester]CIO4の電子スペク トルを図6.6に示す。

元素分析

実測値:C, 59.94 ; H, 8.54 ; N, 4.88 %  C120H207BrCICoNg0265/2H20としての

計算値:

c

, 60.12 ; H, 8.91 ; N, 4.67 % 

(16)

A  B 

, 

,   

, 

, 

, 

, 

, 

4

, 

,  ‑•

.  .  .  .  .  . 

.  .  .  .  .  .  .  .  . 

   

.  .  . 

  

 

1.5 

1.0 

l ‑

o g

g H

V ¥

ω 1

0

l

n

0.5 

500  600 

波長

/nm

300  400 

[(H20){ (C2H5α)2)2(CH3)CCH2} Cob(III)(l 0‑N+C5Asp2C16)7C3ester]CI04  (溶媒:塩化メチレン)

の電子スペクトル 図6.6

B :

光照射後

A:

光照射前

‑109‑

(17)

(iii)  アコ[(2,2・ピスエトキシカルボニル)プロピル]コピリン酸‑10‑[N,N‑ジヘキサデ シル‑Na‑(6'ースルホヘキサノイ jレ)‑L‑アスバルトアミドナトリウム塩]ヘプタメ チルエステル過塩素酸塩:

[(H20){ (C2HSC02)2(CH3)CCH2} Cob(III){ 1 0‑(S03 ‑)CSAsp2C16} 7C1 ester]CIO 4 

NaBH4 

?02Q H2q‑?

CH3

Br C02~ 同

?02C5

H

2 G 一 ? 一

CH3

C02C2Hs 

[Cob(II) { 10‑(S03

CSAsp2C16}7C3ester]CI0453mg (2.8 x 10‑5mol), 2,2ーピス(エトキ シカルボニル)‑1・プロモプロパン75mg(2.8 x 10‑4mo1)について(i )と同様な操作を行 い,茶色固体41.5mg(69.9%)を得た。

IR (KBr) / cm‑1: 2930, 2850 (C‑H s包), 1730 (エステノレC=ostr.), 1650 (アミドC

=u

str.),  1100,630 (α04 ‑str.). 

uv ハ

TJS(CH2C12) / nm:λmax 266 (E, 2.1 104),301 (2.6 x 104), 318 (2.5 x 104),418  (9.5 x 103),469 (9.9 x 103). 

[(H20){ (C2HS

2)2(CH3)CCH2}Cob(III){ 10(S03)CSAsp2C16}7C1ester]CI04の電子ス ペクトルを図6.7に示す。

元素分析

実測値:

c

, 58.97 ; H, 8.01 ; N, 4.80 %  CI03H168CICoN7Na028Sとしての

計 算 債 :

c

, 58.85 ; H, 8.06 ; N, 4.66 % 

(18)

2 . 5  

B  A 

1.5 

l gu

1

¥ ω γ 2

1.0 

0.5 

500  600  波長/nm

300  400 

[ ( H 2 0 ) {  ( C 2 H 5 C 0 2 ) 2 ( C H 3 ) C C H 2 }  C o b ( I I I ) {  1 0 ‑ ( S 0 3

) C 5 A s p 2 C

16} 

7  C 

e s t e r ]  

0

の電子スペクトル(溶媒:塩化メチレン)

八 一 一

‑ I ' I f

¥ i

i i

¥ ¥

図6.7

B :

光照射後

A :

光照射前

‑111‑

(19)

(iv)  アコ[(2,2・ピスエトキシカルボニル)プロピル]コピリン酸‑10・[N,N‑ジヘキサデ シル‑Na‑(6'ースルホヘキサノイjレ)司L‑アスバルトアミドナトリウム塩]ヘプタプ ロビルエステル過塩素酸塩:

[(H20){ (C2HSC02)2(CH3)CCH2}Cob(III){ 1 0‑(S03 ‑)CSAsp2C16} 7C3ester]CI04 

NaBH4 

?02QH2q‑?‑CH3  Br C02~ 同

?02C2H5  Hi{一?‑CH3

C02C2Hs 

[Cob(II) {1 0・(S03

CSAsp2C16}7C3ester]CI0452mg (2.5 x 10‑5mol), 2,2‑ピス(エトキ シカルボニル)‑1‑ブロモプロパン75mg(2.8 x 10‑4mo1)について(ii)と同様な操作を行 い,茶色固体32.6mg(56.3%)を得た。

IR (KBr) / cm‑1: 2930,2850 (C‑H s江), 1730 (エステルC=Ostr.), 1650 (アミドC=Ostrふ

1100,630 (α04 ‑str.). 

uv ハ

TJS(CH202nm:max268 ε(, 1.8 104),300 (2.1 104), 319 (2.2 104), 420  (7.3 x 103), 474 (9.1 x 103). 

[(H20){ (C2HS

2)2(CH3)CCH2}Cob(III){ 10(S03)CSAsp2C16}7C3ester]CI04の電子ス ペクトルを図6.8に示す。

元素分析

実測値:C, 61.54 ; H, 8.54 ; N, 4.44 %  C 117H 196CICoN7Na028Sとしての

計算値:C, 61.14 ; H, 8.60 ; N, 4.27 % 

(20)

2 . 0  

15  15 

υ 

o

ご1.

0

..4 

300  波 長

ν V

0.5 

6 . 8 [ ( H 2 0 ) {  ( C 2 H s

C0

2 ) 2 ( C H 3 ) C C H 2 } C o b ( I I I ) {  1 0 ‑ ( S 0 3

) C

S

A s p 2 C

16}

7C3ester]CIO 

の電子スペクトル(溶媒:塩化メチレン)

A :

光照射前

B :

光 照 射 後

(21)

d)  測定方法

( i ) 測定機器は以下のものを使用した。

電子スペクトル:目立 220A型ダブルピーム分光光度計 目立 U‑3210型自記分光光度計

ガスクロマトグラフ:島津GC‑9APFガスクロマトグラフ装置

島津C‑R3A‑FFCガスクロマトグラフ用データ処理装置 pHメーター:Beckman ~ 71型 pHメーター

超音波照射装置(プロープ型):Branson So凶日er250 Vortex撹祥器:Vortex ‑Genie K ‑5 5 O‑G 

( ii ) 光開裂反応

反応、セルは,図6.9に示すようなジャケット付恒温反応装置を用いた。

Po  Pi 

Wo 

Wi 

図6.9 ジャケット付き恒温反応装置

Pi:不活性ガス入口 Wi:温度調節用水入口

Po:不活性ガス出口 Wo:温度調節用水出口

N+CSAla2C16 77.3mg (1.0 x 10‑4mo1)を3仇nLのサンプルピン中でクロロホルム1mL

(22)

に溶解後,クロロホルムを室温で24時間減圧下に留去して薄膜を形成した。これに リン酸緩衝液 [pH7, O.OOlmol dm‑3,μO.OI(KCl)]  2臼nLを加え, Vortex撹祥器で3分間 振渥して分散した。さらに超音波照射(30W,15分)を行い,単一層二分子膜ベシクル を形成した。次の操作は暗所で行った。この溶液にアルキル錯体2.0x 10‑6mo1のメタ ノール溶液200μLをマイクロシリンジで注入し反応容器内に入れ,反応容器内にアル ゴンガスを吹き込み,溶存酸素を除去した。光照射を行いコバルトー炭素結合を開 裂した後,反応液に塩化メチレンを加えて抽出した。溶媒を減圧留去した後,所定 量の塩化メチレンを加えてガスクロマトグラフ法により生成物解析を行った。カラ ムの充填剤としてシリコンDC‑550(島津製作所)を用いた。生成物の定量は絶対検 量線法により行った。なお,光照射にはプロジェクターランプ(500Wのタングステ

ンランプ)を用い, 30cmの距離から行った。反応容器は恒温漕により200Cに保った。

6.2.2  ピタミン B12カチオン性人工脂質とペプチド脂質からなる超分子系による 異性化反応

アルキル錯体およびペプチド脂質は以下のものを使用した。

H~302C

H3 Z‑

n u  

︒ ︐ ﹄

.

r・ ︑

M H U H

C I C C  

q M R U R J W  

d

r k

︑ 乍

M U U H

C C

︑ ︑ ︐

v

d

︐ ︐

E

tいノ︑

i /

¥

4 .M H

︑ ︐

M︿

CH HO

= H H   ll NE IC IG

‑c  

ー同日

MH

1N

C

C H O

KM 

U

MH

 

nu

︐ ︐ ︐ ︑  

MJ

MH

 

' ' E

X=CH2C(CH3)(C02C2Hsh, Y=H20, Z=CI0

X=CH2C(CH3)(C02C2Hsh, Y=H20, Z=CI04, R=CH3 

Ru  

q u q d  

u u U H   p u p u  

R U R d  

lulu︐ 

U H M u   p u p u  

/

¥ 6  

U

J3Cuomd 

M H M H M

C !

M℃ 

C H O N  

E

w 

U

 

UH

 

PU M

qU  

1MJ U

H 

PU 

X=CH 2C(CH3)(C02C 2'Y=H20, Z=CI04, R=C :

‑115

(23)

カチオン性の新規ピタミン B12人工脂質(アルキル錯体)をN+CSAla2C16が形成す る単一層二分子膜ベシクルに取り込ませて光開裂反応を行った。ガスクロマトグラ フ法による生成物解析結果を表6.2に示す。

C OCH" C02C2HS 

I--~ hv  H2G

γCH3 H3C‑ γ C H3 

?02C

+ 同C

?H CH3

?02CH29

一 ? 一

CH3

I  C 02C2HS  C02C2HS  C~C~S Br  C02C2HS 

ぐCa'"' )

"'‑=ニノ

表6.2 生成物解析結果(基質として2ムピス(エトキシカルボニル)‑1‑ブロモプロ パンを用いた場合) 反応温度 20.00.10Ca)

媒 体 アルキル錯体 収率c)/ 

A  B  C 

N+C5Ala2C16b) 

26.0  0.88  65.5  ベシクル

11.3  0.85  67.1 

69.8  6.7  14.5 

メタノ jレめ

88 

。 。

ベンゼンめ

82  1.3 

a)各アルキル錯体(1.010‑4mol1‑3)溶液に, 500Wタングステンランプで30cmの距 離から 1時間光照射した。反応溶液はリン酸緩衝液 [pH7, O.OOlmol dm‑3,μ0.01  (KCl)]を用いて行った。生成物解析はガスクロマトグラフ法により行った。

b)  N+C5Ala2C16の濃度 :5.0 x 10‑3mol dm‑3c)ガスクロマトグラムによる収率。

d)文献96fより引用。

表6.2から分かるように二分子膜型人工酵素系においてのみ臭化物Cが生成した。

この化合物はメタノール,ベンゼンといった均一系における反応では全く生成しな い。しかも,新規ピタミン B12人工酵素系ではこの臭化物が主生成物として得られ た。従来の二分子膜型人工酵素系でも臭化物が若干生成していることから均一系と は異なる反応が起っていることは確かである。アルキル錯体は光照射によりコバル

トー炭素結合のホモリシスによりアルキルラジカルとCo(II)錯体を生成する。ここ で水素源が豊富なメタノールのような媒体中では,アルキルラジカルは水素原子を 引き抜いて還元生成物が非常に多く生成する。一方,二分子膜中ではアルキルラジ

(24)

カルの寿命が伸ぴ,コバルト原子との相互作用がより長くなるために均一系よりも 転位生成物の比率は増加することになる。しかし新規二分子膜型人工酵素系の場合,

これまでとは全く異なる結果が得られ,転位生成物はほとんど生成せず還元生成物 以上に臭化物が生成した。臭素源としてはペプチド脂質分子の対イオンである臭化 物イオンが考えられる。そこで,この臭化物の生成機構について検討した。

6.2.3  臭化物生成機構の解明

a)  試薬類

2,2ーピス(エトキシカルボニル)ー 1‑ブロモプロパンの合成は6

1bで述べた。 [(H 20) { (C2HSC02)2(CH3)CCH2}Cob(III)(10N+C5Asp2C16)7C1ester]CIO 4の合成は6.2.1cで述 べた。臭化テトラ n‑ブチルアンモニウム (TBAB) (東京化成試薬一級), N‑t‑ブチル サーフェニルニトロン (PBN) (Al制

c h

試薬)は市販品をそのまま使用した。ベンゼ

ン(和光純薬試薬一級)は市販品を精留したものを用いた。

[測定機器]

GC‑MSスペクトル:日本電子九.1S‑AM120型質量分析装置 ESRスペクトル:日本電子 JES-~在E・3 型

x ‑

バンド分光光度計

b)  試料の調整

( i)  GC‑MSスペクトル

光照射後の反応溶液を塩化メチレンで抽出し,減圧濃縮した試料をマイクロシリ ンジで注入しGC

(ii)  ESRスペクトル

TBABとPBNをベンゼンに溶解した溶液, [(H20){ (C2H5C02)2(CH3)CCH2}Cob(III)  (1 O‑N+C5As p2C16)7 C1es ter ]Cl 04とPBNをベンゼンに溶解した溶液, TBABとPBNと [(H20){ 

( ら

HSC02)2(CH3)CCH2}Cob(III)(1 O‑N+C5Asp2C16)7C lester]Cl04をベンゼンに 溶 解 し た 溶 液 そ れ ぞ れ を サ ン プ ル チ ュ ー ブ に 入 れ , 各 サ ン プ ル チ ュ ー ブ をFreeze‑

(25)

pump ‑and‑thaw法により脱気封管してESRスペクト ルを測定した。なお,アルキル錯 体を含む試料の調整は暗所で行った。

c)  GC‑MSスペクトル

?02C内 川 ?02Ch 

m ーヤ

CH3 C

?

CH3

C 02C2H C02C2H

?02C5 + 同C

?HCH3

C~C {i s

?02C

H29‑9‑CH3  Br  C02C2Hs 

( Ca'll  ') 

""""./

異性化反応により生成した化合物Cが臭化物であるか否かを確認するためにGC‑

MSスペクトルを測定した。カラムの充填剤として DB‑1(J & W  Scientific)を用いた。

図6.10のAに反応後に得られたマススペクトルを,図6.10のBに標品である2,2‑ピス(エ トキシカルボニル)‑1‑ブロモプロパンのマススペクトルを示す。

図6.10のAから得られたマススペクトルは標品である2,2‑ピス(エトキシカルボ、ニ ル)ー1‑ブロモプロパンのものとスペクトルパターンが一致していることから,臭化物 Cは確かに生成していることが明らかになった。この臭化物Cはアルキル錯体を合成 する際に用いる基質であるが,アルキル錯体合成後の精製過程で基質は完全に除い ており,またアルキル錯体の元素分析もよく 一致していることから残存する基質は ないと考えられる。従って,臭化物Cは異性化反応の過程で生成したものと推察さ れる。

d)  ESRスペクトル

異性化反応中に臭化物が生成しているとすれば,臭素源はペプチド脂質の対イオ ンである臭化物イオンであると考えられる。そこで臭化物の生成機構を調べるため に, ESRスペクトルを測定した。二分子膜系では反応系が複雑であるため,非極性 な環境を提供するベンゼンを溶媒として用い,光照射を行った。嫌気条件下,ベン ゼン中で[(H20){(C2HSC02)2(CH3)CCH2} Cob(III)(1 0‑N+CSAsp2C

16)7C

ester]CIO 4に光 照射したところ,臭化物が20%程度生成した。このためここで得られた結果は二分

(26)

41 

115 

99 

50  100  l50  200 

m/Z 

41 

69 

87  115 

50  100  150  200  250 

図6.10 化合物Cのマススペクトル m/Z 

A:反応後に得られたもの;B:標品 [2,2・ピス(エトキシカルボニノレ)・1‑ブロモプロパ ン]

‑119‑

(27)

子 膜 系 に も 適 用 で き る と 考 え ら れ る 。 そ こ で , 臭 素 源 と し て 脂 質 分 子 の 臭 化 物 イ オ ンの代わりに臭化テトラ n‑ブチルアンモニウム (TBAB)を用い,スピントラッピン グ 法 に よ る 検 討 を 行 っ た 。 ス ピ ン ト ラ ッ プ 剤 と し て 光 に 比 較 的 安 定 なN‑rt‑ブチノレー αーフェニルニトロン (PBN)を用い,系中に生じてくるラジカル種を検出した120)。 PBNは式6.8のようにラジカル種を捕捉し,そのスピン付加体のESRスペクトルは窒 素核(1

1)との相互作用により3本に分裂し,それぞれは隣接の炭素に結合した水素 核 (1= 1/2)との相互作用により2本に分裂する。しかし,捕捉したラジカル種の構造

はESRスペクトルには反映されない。まず, TBABとPBNのベンゼン溶液について得

CH= R .  

ζU

︒ ︒

 

MH  

H

Ic‑

HClClC 

N

o

MH  

ClR 

られたESRスペクトルを図6.11に, [(H20){ (C2HSC02)2(CH3)CCH2}Cob(III)(10‑N+CS  Asp2C 16)7C1es ter]CI04とPBNの ベ ン ゼ ン 溶 液 に つ い て 得 ら れ たESRス ペ ク ト ル を 図 6.12に,最後に上記の両系を一緒にした系,すなわちTBABと[(H20){(C2HSC0

2)2  (CH3)CCH2}Cob(III)( 10N+CSAsp2C16)7C1 ester]CI04とPBNのベンゼン溶液について得

られたESRスペクトルを図6.13に示す。

TBABのみを光照射した系では明瞭なスピン付加体のシグナル (AN

14.4G, AH 

2.0G)が観測されたことから(図6.11),光照射によって臭素ラジカルが生成している と考えられる。また,アルキル錯体を光照射した系でも明瞭なスピン付加体のシグ ナル (AN= 14.7G, ~ = 2.9G)が観測されたことから(図6.12)コバルトー炭素結合の 光開裂によりアルキルラジカルが生成していることがわかる。さらに, TBAB,アル キル錯体共存下でのESRスペクトルについてもスピン付加体のシグナル (A

N=15.0G, 

~=2.9G) が観測されたことから(図 6.13) ,ラジカル種が生成していることがわか る。しかしその強度は TBABのみのスペクトル(図6.11)またはアルキル錯体のみの スペクトル(図6.12)と比較すると減少している。上記二つの観測結果とあわせて考 えると,光照射により臭素ラジカルとアルキルラジカルが生成するが,このラジカ ル相互はPBNによって捕捉されるよりも速く反応し,臭化物を生成する結果,強度 の減少が生じたと推察される。 PBNがラジカル種を捕捉する速度はメチルラジカル

(28)

2.007  210G 

図6.11 ベンゼン中におけるTBABの光照射後のESRスペクトル (PBN添加系)

500Wタングステンランフ。で40cmの距離から30分間光照射後 測定条件:TBAB, 1.0 x 10‑3mol1‑3;PBN, 1.0 x 10‑1mol dm‑3;温度, 200

C ;

増幅値, 3.2103

110G 

2.006 

図6.12 [(H20){ (C2HSC02)2(CH3)CCH2} Cob(III) (1 0‑N+CSAsp2C16)7C1 ester]CIO 4のベン ゼン中における光照射後のESRスペクトル (PBN添加系)

5

w

タングステンランプで40cmの距離から30分間光照射後

測定条件:[(H20){ (C2HSC02)2(CH3)CCH2} Cob(III)(1 0‑N+CSAsp2C16)7C1 ester]CIO 4'  1.0 x 10‑1mol dm‑3; PBN, 1.0 x 10‑1mol dm‑3;温度, 200

C ;

増幅値, 3.2x 1()2

‑121‑

(29)

2.006 

図6.13 [(H20){ (C2HSC02)2(CH3)CCH2}Cob(III)(10‑N+CSAsp2C16)7C1ester]Cl04'  TBAB混合系のベンゼン中における光照射後のESRスペクトル (PBN添加系)

500Wタングステンランプで40cmの距離から30分間光照射後

測定条件:[(H20){ 

( C 2 H s

C0

2 ) 2 ( C H 3 ) C C H 2 }  

Cob(III)(1 0N+CSAsp2C16)7C1es ]CI0 4, 1.0 x 10‑3mol dm‑3TBAB, 1.0 x 10‑3mol dm‑3; PBN, 1.0 x 10‑1mol dm‑3,  温度, 200

C ;

増幅値, 3.2 102

の場合は 4x 106 mol‑dm‑s‑l 121)であることから,臭素ラジカルとアルキルラジカ ルの反応、はそれ以上の速い速度で起っていると思われる。

以上の測定結果から異性化反応の際に生成する臭化物は光照射の際に生成する臭 素ラジカルとアルキルラジカルの反応により生成すると考えられる。

6.2.4  反応機構

アルキル錯体を種々の媒体中で光開裂することにより単純還元生成物,エステル 基転位生成物,臭化物が生成した。光照射によりまずアルキルラジカルとCo(II)錯 体が生成し,このアルキルラジカルから上記化合物が生成することになる。 6.2.2に 述べたように,メタノール中では水素源が豊富なため還元生成物のみ生成した。し かし,ベンゼンのような非極性媒体中ではアルキルラジカルとコバルトとの相互作 用が起るために転位生成物も少量ではあるが生成した。一方,二分子膜系では均一 系とは異なり臭化物が多く生成した。 6

3に示したESRスペクトルの結果から,臭

(30)

化物は臭素ラジカルとアルキルラジカルの反応によ り生成する ことが示唆された。 しかしその生成割合は従来の二分子膜型人工酵素系と比較して新規二分子膜型人工 酵素系の方が飛躍的に多く,主生成物として得られている。後者の反応系では新規

ピタミン B12人工脂質を用いており,この脂質の対イオンも臭化物イオンであるこ とから,その臭化物イオンが有効に作用していると考えられる。すなわち,このこ とは二分子膜ベシクルを形成するN+C

SAla2C16の臭化物イオンよりもピタミン B 12人 工脂質の臭化物イオンの方がアルキルラジカルとより近い距離にあり,後者の方が 反応しやすいことを意味している。以上の結果から考えられる反応機構をスキーム 6.2にまとめた。このスキームではコバルト‑炭素結合の光開裂によって生成したア ルキルラジカルの電子がエステル基との間に非局在化した橋かけ構造をとり,この 中間体から水素原子の引き抜きが起り還元生成物Aあるいは異性化生成物Bが生成 する。従って,異性化生成物が生成するための橋かけ構造の形成とアルキルラジカ ルと臭素原子の反応の競争が起り,本研究の条件下では後者の反応の方が敏速に起 っていると推察される。

スキーム6.2

:

C 2 H 5 H 2 A C H

~よと~

← 二

CD2C2Hs  ACH

p O

Hs

H3C‑R‑CH3  CD2C2Hs 

?02C2H5  CH2?H‑cH3

C02C2H

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