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結 言

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 98-117)

ピタミン B12類は生体内で二つの補酵素型すなわちアデノシルコパラミンおよび メチルコバラミンのいずれかの形で種々の酵素反応に関与している。このうちアデ ノシルコパラミンが関与する酵素反応にはメチルマロニルーCoAムターゼによるメチ ルマロン酸からコハク酸への変換,グルタミン酸ムターゼによるメチルアスパラギ ン酸からグルタミン酸への変換,トメチレングルタル酸ムターゼによる s‑メチルイ タコン酸から αーメチレングルタル酸への変換などにみられる炭素骨格の組み替えを 伴う異性化反応が含まれており,これらの反応はこれまでの有機化学や有機金属化 学には見いだされない特徴を有しているため,触媒化学的および有機合成化学的見 地からも注目に値する。しかし,これらの反応機構については説得力のある結果が 得られておらず,未だに推測の域を脱していない。これは天然のピタミン B

12が水 溶性であるためモデル反応が水を媒体とした系で行われており,疎水的ミクロ環境

を表すモデルとはなり得なかったことにも原因がある。生体内では補酵素ピタミン B12がアポ酵素と結合することにより初めて異性化反応が進行することから,酵素 反応の反応機構を検討し,再現するためには生体内と同じくアポ酵素機能に着目し たホロ酵素系を人工的に構築することが必要である。水溶液系で異性化反応がほと んど進行しなかったことは,ピタミン B12類が生体内においてアポ酵素が形成する 疎水的ミクロ環境に位置していることを示唆するものである。そこで本研究におい てはアポ酵素の機能を意識して人工的により安定な触媒系を構成することにより,

炭素骨格の組み替え反応に関して分子レベルでの解明に焦点をあてた研究を目的と した。さらに,人工酵素系の最大の目的である天然酵素が有する以上の触媒機能を 発揮するようなピタミン B12依存性人工酵素の開発を目的とした。疎水的ミクロ環 境を提供するアポ酵素モデルとして二本鎖ペプチド脂質が水中で形成する二分子膜 ベシクルを利用した。このアポ酵素モデルは天然のアポ酵素と同様に疎水的でかつ 基質の運動性を著しく抑制する反応場を提供することから,ピタミン B12依存性の 炭素骨格組み替え反応に顕著な影響を及ぼすと考えられる。一方,疎水的な環境下 での反応を検討するためにはアポ酵素内部に補酵素が有効に固定化される必要があ る。このため天然のピタミン B12を修飾して化学的安定性にも優れた疎水性ピタミ ンB12を合成した。アポ酵素モデルと疎水性補酵素因子の組み合わせにより構成し

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た人工酵素は疎水的ミクロ環境を反映したモデルと成 りう るが,生体内での酵素の 厳密な構造を再現するにはー工夫する必要がある。従来の人工酵素系ではアポ酵素 モデル内において疎水性ピタミン B12が水への難溶解性を駆動力として非共有結合 的に固定化されているために疎水性ピタミン B12の位置がはっきりと固定化されて いない。生体内ではアポ酵素内でピタミン B12が強固に固定化されていると考えら れるため,より精巧なモデルを開発するためにはアポ酵素内での疎水性ピタミン B12をより強く固定化することが必要であると考えられる。このような観点から,

疎水性ピタミン B12をペプチド脂質に共有結合により導入した新規人工脂質を分子 設計した。この化合物を疎水性補酵素因子とし アポ酵素モデルと組み合わせるこ

とにより構成した人工酵素の反応性および反応場特性に関して検討を行った。その 結果,次のような成果を得た。

( 1 )コリン環の10位にアミノ基を導入した疎水性ピタミン B12誘導体とアミノ酸 残基としてアスパラギン酸を有するペプチド脂質からピタミン B12活性を持つ新規 人工脂質を合成し,その二分子膜形成能について検討した。新規人工脂質分子単独 では水中で二分子膜を形成しないが,アラニン残基を有するペプチド脂質と組み合 わせることにより混合二分子膜を形成することが明らかになった。特に新規人工脂 質の含有量が2モル%までは安定な二分子膜構造をとることが示された。

( 2 )アポ酵素モデルとしての合成二分子膜に2モル%の新規人工脂質を含有させる ことにより構成した新規ホロ酵素モデル系では アルキル化した疎水性ピタミン B12のCo‑C結合の光開裂により基質ラジカル種を発生させ,生成物を得るという反 応条件をとった。初めにピタミン B12依存性酵素反応のひとつであるメチルマロニ ルーCoAムターゼのモデル反応として新規二分子膜型人工酵素系によるメチルマロン 酸ジエチルエステルからコハク酸ジエチルエステルへの変換反応を行った。その結 果,カチオン性の新規人工酵素系では異性化生成物がほとんど得られず,ハロゲン 化アルキルが大量に生成した。ハロゲン化アルキルの生成により異性化反応が効率 よく進行しなかったと考え,アニオン性の新規人工酵素系により上記モデル反応を 行った結果ハロゲン化アルキルは生成せず,代わりに異性化生成物の割合が増加し

た。異性化率もこれまでの二分子膜型人工酵素系における最大の値を得た。

(  3 

)新規人工酵素系の反応性についてさらに検討するために 十メチレングルタ ル酸ムターゼのモデル反応としてs‑メチルイタコン酸ジエチルエステルからトメチ

レングルタル酸ジエチルエステルへの変換反応について検討した。アルキル錯体を 光開裂させるという反応条件下では異性化反応はほとんど進行せず,アルキル基の

p

水素が脱離した化合物が大部分得られた。しかし,新規人工酵素系においてのみ 少量ながらも異性化生成物が得られたことは,新規人工酵素系は特にアニオン性の 新規人工酵素系は異性化反応に対する良好な人工ホロ酵素であると考えられる。さ らに,反応系にシアン化物イオンを添加することにより,異性化生成物の割合が飛 躍的に増大した。このことからシアン化物イオン添加系ではシアン化物イオンのト

ランス効果によりコバルトからの電子移動が起り,その結果アニオン中間体が生成 して転位反応が進行しやすくなったと判断した。

(  4 

)天然酵素が有していない機能を人工酵素系で発現させるという観点から,ピ タミン B12依存性酵素反応の枠を離れ,有機合成への応用としてアミノ酸誘導体の 炭素骨格組み替え反応について検討した。モデルとしてアセトアミノマロン酸ジエ チルエステルを用い新規人工酵素系で反応を行ったところ,均一系および従来の二 分子膜型人工酵素系と比較してエステル基が転位したアセトアミドアスパラギン酸 ジエチルエステルが多く生成した。この結果は,新規人工酵素系が他の有機合成反 応においても有効な触媒として作用できる可能性があることを意味している。

( 5 )新規人工酵素系において異性化反応に及ぼす反応場の効果について検討した。

その結果,二分子膜内では疎水性ピタミン B12はバルク水相とは完全に異なる疎水 的なミクロ環境に位置しており,脱溶媒和されていることが明らかになった。また,

単一層二分子膜ベシクルの構造を乱すことも示唆された。さらに,蛍光偏光度は新 規人工酵素系の方が大きな値を示し,疎水性ピタミン B12の分子運動がかなり抑制

されていることが明らかになった。錯体分子および基質ラジカルの脱溶媒和,分子 運動の抑制効果は異性化反応が進行するための主要因であることが示唆されている

ことから,新規人工酵素系においても水分子の存在が制限された疎水的なミクロ環 境下で疎水性ピタミン B12の分子運動がさらに抑制され,コバルトとアルキルラジ カルが長い間相互作用できるようになり アルキルラジカルの寿命がのびたために 異性化反応がより効率よく進行したと考えられる。

以上に述べたように,本研究では二分子膜内における疎水性ピタミン B12の固定 化を強化することにより より高機能性の人工ホロ酵素を構築することが可能とな

った。しかし,天然の酵素が発現するような立体特異的,選択的転位といった反応

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ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 98-117)

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