二分子膜型人工酵素系でも化合物Iが生成した。この化合物は還元生成物Gから メチル基が脱離した化合物である。ベンゼン中において生成量が最も多いことから,
生成機構を調べるためにまずベンゼンに6.4.1bで合成したメチルアセトアミドマロ ン酸ジエチルエステル(還元標品)を溶解し, 6.4.1 dと同様な条件下で光照射を行っ た。もし化合物 Iが還元生成物Gを経由して脱メチル化していれば,還元標品の光 照射によっても生成するはずである。しかし,ガスクロマトグラフ法による生成物 解析の結果,還元生成物以外のピークは確認できなかった。次に疎水性ピタミン B12の影響を考慮して,疎水性ピタミン B12共存下で同様の反応を行った。嫌気条 件下での光開裂反応ではCo(In錯体が生成するので,疎水性ピタミン B12として
[Cob(II)7C3ester]Cl04を用いた。しかし反応の結果,還元体が回収されたのみであった。
また,疎水性ピタミン B12不在下における反応性を検討するために,水素化トリ n・ブチルスズと過酸化ベンゾイルを用いて6.4.1bで合成した(ブロモメチル)アセトア
ミドマロン酸ジエチルエステル(基質)を無水ベンゼン中で光照射する方法を用いた (式6.9)
。
ひい‑吋‑0
(Bnz・) + n‑Bu3SnH R‑Br + n‑Bu3S n
.
… 工 2 G r o 。 ‑
ー
Bnz‑H + n‑Bu3Sn • .. R + n‑Bu3SnBr(6.9)
この方法によってアルキルラジカルを発生させた場合も脱メチル化合物Iは生成 しなかった。これらの結果から化合物 Iは還元生成物 Gを経由して生成したもので はなく,またその生成にはコバルトー炭素結合が不可欠であることが示された。
異性化生成物については,すべてエステルが分子内転位した化合物が得られ,ア セトアミド基が転位した化合物は確認できなかった。均一系では少量のエステル基 転位生成物 H が得られたのみであったが,二分子膜型人工酵素系では転位生成物 H の生成量が増大し,特に新規二分子膜型人工酵素系では化合物 Hが主生成物として 得られた。これらの結果から,アミノ酸誘導体の炭素骨格組み替え反応についても
新 規二分子膜型人工酵素系は有効に働いていることが明らかになった。
6.5 総括
本 章 で は 第2章と第4章でそれぞれ合成法を述べたペプチド脂質と新規ピタミン B12人工脂質により構築された新規二分子膜型人工酵素系により,ビタミン B12依 存性酵素反応のモデルとしてメチルマロニルーCoAムターゼ型モデル反応, αーメチレ
ングルタル酸ムターゼ型モデル反応について検討した。また,有機合成への応用と してアミノ酸誘導体の炭素骨格組み替え反応についても検討し,従来の二分 子 膜 型 人工酵素系と反応性の比較を行った。その結果,以下の知見が得られた。
( 1 )カチオン性の二分子膜型人工酵素系を用いたメチルマロニルーCoAムターゼの モデル反応ではハロゲン化アルキルが生成したために異性化生成物の割合が 低下した。この問題はアニオン性の二分子膜型人工酵素系を用いることによ
って解決され,反応選択性も向上した。 ESRスペクトルによる検討の結果,
ハロゲン化アルキルはラジカル相互のカップリングにより生成することが示 された。
( 2 )アニオン性の二分子膜型人工酵素系を用いることにより反応選択性が向上し たため,これを用いて αーメチレングルタル酸ムターゼのモデル反応を行った。
新規二分子膜型人工酵素系以外では異性化生成物は得られなかったが,反応、
系にシアン化物イオンを添加することにより 異性化生成物の生成割合が飛 躍的に向上した。電子スペクトル, ESRスペクトルの結果から,この場合ア ニオン中間体を経由して反応が進行していると判断される。
( 3
)アミノ酸誘導体の炭素骨格組み替え反応について検討した結果,新規二分子 膜型人工酵素系において最も多く異性化生成物が得られた。この結果から新 規二分子膜型人工酵素はピタミンB
12依存性酵素のモデル反応だけでなく,他の有機合成にも応用できる可能性があると考えられる。このことからさら
に複雑なアミノ酸骨格を有する基質を用いた場合にもこの人工酵素系は有効 に働くことが期待される。
以上の結果から いずれのモデル反応においても従来の二分子膜型人工酵素系(非 共有結合系)よりも新規二分子膜型人工酵素系(共有結合系)の方が異性化反応は 有利に司どられることが明らかになった。