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教授・学習過程の分水嶺 [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)教授・ 学習過程の分水嶺 キーワード: 教授・ 学習過程、児童・ 生徒文化、可視性の高い文化、可視性の低い文化、教師の判断、繰り返し、 発達・ 社会システム専攻 岡部 一夫 目次. どもに享受される教育環境や教授・学習過程にはこのよ. 第1章 本研究の目的と方法. うな、教育という雨を、運命付ける分水嶺はみられるの. 第1節 教師の働きかけの過程とそのメカニズム. であろうか、筆者は、強くそのことにこだわりをもって. 第2節 現場研究の方法としてのエスノグラフィ−. 本論を書いている。. 第2章 分析の枠組み. 小学校に入学してくる子どもたちは、入学して、ほぼ. 第1節 学級文化. 1週間の間にめざましく変容する。入学してくるまで子. 第2節 学級の中にあるルール. どもたちは、保育所や保育園や幼稚園で過ごしている。. 第3節 教師と子どもの関係性. そこには、それぞれの文化があり、子どもたちは、その. 第4節 教授・学習過程にある仕組み. 文化の影響を受けて入学してくる。 従って、 入学当初は、. 第5節 4つの概念装置の関連. 1年生の学級には多文化の状況があるといえる。この多. 第3章 就学前段階. 文化の状況が入学してから1週間ほどで一定方向へ向か. 第1節 就学前の子どもの育ち. って収束し始める。この入学初期に、担任教師が小学1. 第2節 就学前に存在する子どもの人格. 年生に働きかけて学校の生活に早く慣れるように理解を. 第4章 入学する子どもたちを変容させるもの. 促進しようとするとき、どのような、指導の手だてをと. 第1節 子どもを取り巻く教育的環境. ろうとするのか、担任教師の働きかけの過程を具体的な. 第2節 入学から1週間と、その後の経過. 形態で観察することで、担任教師の働きかけの過程とそ. 第3節 学級という囲われた社会の中にある文化. の意図を明らかにしそこにあるメカニズムを示すのが本. 第4節 教師と子どもの相互関係. 論の意図である。 また、結城による 幼稚園での研究(1)や、上原らによ. 第5節 教師と子どもの関係性の発達. る小学校授業における教師の言語的相互作用の適切に関. 第6節 教室における教師と子どもの相互作用に介在. する研究(2)、刑部による子どもの「参加」を支える他者. する多文化. −集団における相互作用の関係論的分析の研究(3)、杵淵. 第5章 内在する土着の習慣性 第1節 教師の判断や決定の特質. による小学校低学年の子どもたちが学級のまとまりを形. 第2節 教授・学習過程場面での繰り返し. 成していく課程を教育思想として研究をしたもの(4)は見. 第3節 学級で培われてきた雰囲気. られるものの本論が対象とした、入学当初の子どもと教. 第6章 教授・学習過程にある二面性と可視性の低い文. 師の変容を研究したものは、存在しないことから本論の. 化にみられる課題. 意義が認められよう。 そこで、1年生を参与観察の対象に選んだ。何故なら、. 【引用文献・参考文献一覧】. この時期に子どもたちが小学校という公共的意味を帯び. 【参考資料】. た集団に初めて接近することになるからである。 さらに、 観察期間を、入学から1週間と区切ったのは、入学当初. はじめに. において子どもたちが行動範囲においても、交友関係に. 本研究は、担任教師の子どもへの働きかけの過程を明. おいても、行動基準においても急激な変容が予想でき、. らかにし、そこにあるメカニズムを検証した。. その教授・学習過程にある仕組みが際だつ期間だと考え たからである。. 第1章 研究の目的と方法. 調査対象として、F市のある公立学校の1年生の学級. 山に降る雨は、山の尾根をあるものは右へ、あるもの. を選んだ。入学式当日の平成15年4月10日(木曜日). は左へ誘われ、この分水嶺を境にして運命を分かつ。子 1.

(2) から1週間を連日参与観察し、その後4ヵ月間継続観察. (所)に特徴がみられた。. した。一方で、教師のなす学級経営現象は複雑で時には. 同時に、就学前における新1年生に対して、小学校は、. 目に見えにくい現象も多い。これは単一の方法ではとら. どのように関わり、保護者はどう接し、保育所、保育園、. えにくいからであり、対象をより詳しく捉えるためには. 幼稚園は、どのように関与しているのかを探る。. 定量技法と質的分析を組み合わせた複数の方法が本研究. 本研究の中心をなすものは、入学初期にあるのである. の内容に合致するので結城の方法をとった。つまり、数. が、 この就学前の園児を取り巻く環境をみつめることで、. 量化できない現象をエスノグラフィーで分析・解釈する. 入学を境にその前とその後という静態的な視点で分析を. とともに、定量技法で見えたものと重ねることで、対象. するのではなく、入学後の子どもの変化を就学前からの. をより客観的に捉えたいと考えた。. 一連の流れとして動態的観点で捉えるのがねらいである。. 第2章 分析の枠組み. 第4章 入学する子どもたちを変容させるもの 学級という囲われた社会の中にある文化(5)は、二つの. 本研究では、4つの概念装置(学級文化、ルール、関. 側面を持つ。一つは、可視性の高い文化であり、個人が. 連性、仕組み)に基づいて事例分析を行う。 学級文化は教室における教師と子どもの相互作用によ. 習得し保持しており、具体的に容易に記述することが可. って作り出される。また、学級文化が凝集性の高いもの. 能な文化の側面である。もう一つは、可視性の低い文化. であることが子どもと教師の関わり方を規定する。この. であり、個人が無意識のうちに教えられ獲得した見えな. 学級文化という概念を分析の視点にする。また、子ども. い文化の側面である(5)。本研究では、子どもと接する場. たちが集う学級は、教授・学習活動をスムーズに行うた. 面で可視性の高い文化に基づく教師の判断や可視性の低. めの、様々な教師と子どもの、また子ども同士の活動が. い文化に基づく教師の判断があることがわかった。それ. あり、自然にあるルールが生まれてくる。このルールに. は、教師が、はっきりこうあるべきであると判断してい. 視点をあてて分析を行う。一方で、このルールは、学級. る場合と、何となく判断している場合があることを意味. の中で繰り広げられる様々な出来事に適応されていく。. する。. このルールと教師の判断との間に、関連性があり、時間. 教師は、めくるめく出現する学級の中にある事象に対. の経過とともに変容していく。変化していく中で教師の. する判断に迫られる。そこで、可視性の高い文化に基づ. 子どもへの対応も関連して変化をみせる。また一方で、. く教師の判断と可視性の低い文化に基づく教師の判断を. 教師は、 瞬時に判断しなければならないものも多数あり、. 使い分け対応している。 次に、教授・学習過程にあるくり返しについて述べる。. 一日の勤務の中でたくさんの判断をせざるを得ない場面 に出くわす。そして、それぞれの場面に煩雑に対応して. 小学1年生の学級での様子を参与観察した。その結果、. いる。 そのような状況の中で教師と子どもの相互作用が、. 可視性の高い文化や可視性の低い文化の中に、以下のよ. どのように行われているのか、学級を見据える上での重. うな教師と子どもの相互関係を認めることができた。こ. 要な要素となり得る。そこで、この教師と子どもの関連. れは、4月11日の始業時からの記録の抜粋である。 子どもからの刺激(子どもの答えや反応)を○で、教. 性を一つの分析装置とした。また、教授・学習過程には、 集団教育の仕組みがあり、集団を意識して呼びかけが、. 師からの刺激(発問等の教師から子どもへの働きかけ). くり返し行われている。このような仕組みを軸に分析を. を●で表す。. 行った。 [8時27分] 最後の一人が登校する。. 第3章 就学前段階. T. 「おはよう」 (●). ここでは、入学してくる子どもに影響を持つ幼稚園・. C. 「おはようございます」 (○). 保育園・保育所〈以下、各園(所)と記述する〉の特色 に触れたい。そこには、各園(所)での保育方針、それ. 教師は、子どもにカバンをおく場所を教え手伝い、席. を受けての取り組み、長年にわたる経験から積み重ねら. まで誘導する。学習時間が迫っているので急いでいる。. れた様々な工夫、があった。そこは、シンボリックな場. ざわめきの中 「勉強するっちゃろ」 とある子が言う。 (○) [形式的な挨拶]. であったり、のびのびとした雰囲気が充満していたり、. ここで始業のチャイムが鳴る。. 地域との交流を大切にしたりしていて、それぞれの園 2.

(3) となりの学級から 「よろしくお願いします」 の声がする。. T. 「座って聞くんだよ、座って。いいね。 」 (大きな. T. 「おはようございます。 」 (●). 集団). C. 「おはようございます。 」 (○). −中略−. 形式的な挨拶である。教師も、子どもも. C. 「水やったりすると?」. 「おはようございます。 」を型どおりに繰り返している。. T. 「水はねぇ、係りの人がやってるから、○○は、. −中略−. もう見るだけ。 」 「ね。 」 (小さな集団). [高次元の挨拶]. 教授・学習過程にある繰り返しは、大きな集団と小. T. 「お顔」 「(おはようと言うときは)目と目が合. さな集団を対象にしている。教師は、大きな集団と小. うようにしてください」. さな集団を使い分け学習を進めていた。このように、. T. 「ね」 (●). 教授・学習過程には、二面性があることが見えてきた。. この隣の席の子ども同士が相手を意識してする挨拶 の練習の時、ある一人の子どもの身体技法が見られたの. 第5章 内在する土着の習慣性. で次に示す。. 次に、教師の判断や決定の特質を示す。本研究では、. C. 「できた」 (○)教師の目を見ている。じっと見. 可視性の低い文化に基づく教師の判断が、学級文化(6). 上げている。子どもはできたことを認めてほしいのであ. に大きな影響を及ぼすこともがえてきた。つまり、学級. る。これは、子どもの「私のことをちゃんと見てよ、上. の中で繰り広げられる様々な出来事は、実に多様で膨大. 手にできたんだから」というパフォーマンスであり、こ. である。従って、意識してマニュアル化したものだけで. れに対して教師も「分かったよ。 」というパフォーマンス. の対応では不十分である。教師が、瞬時に判断しなけれ. をとる。教師と子どもは、相互に影響し合っているので. ばならないものもあり、また、一日の勤務の中でたくさ. ある。また、それに答えるかたちで教師はオウムがえし. んの判断をせざるを得ない場面に出くわす。そして、そ. にその子に向かって. れぞれの事象が煩雑に交錯している。. 「できた」 (よくできましたの意味) (●)と共感しなが. そのような状況の中で教師の可視性の低い文化に基. ら言う。そうしながら、できていない子どもには、机の. づく教師の判断が決定に大きく影響してくる。それは、. 横に行って、肩に手を添えて正しい方法に直す。. 教師の持つ価値観や倫理観や年代による考え方の差異、. このように、教授・学習過程は、くり返し行われてい. 教職経験や教師の生活経験などによるものである。この. る。また、これらの事例から、教授・学習において、教. 可視性の低い文化に基づく教師の判断は、教師個々人で. 師と子どもの関係は互いに影響し合って、変化している. 異なっており、特に教師個々人の生育歴が、一人一人異. ことがわかる。. なることからもわかるとおり、そこには様々な判断基準 がある。従って、教師個々人が持つ可視性の低い文化に. 最後に、教授・学習過程にある二面性について記す。 4月15日(火)入学から4日目の教師と子どもの様子. 基づく教師の判断が学級文化を作り上げると言っても過. を考察する。この日子どもたちは、入学後、初めて中庭. 言ではないと考える。 また、教授・学習過程にある繰り返しをみると、学級. へでる。学校の校庭の様子を知る学習である。. の中に、様々な判断基準が存在する中で、教師と子ども の相互関係は互いに影響し合って変化しているといえる。. [小学校の中庭] T. 「溝に、 石をいっぱいためちゃうと、 雨とかでね、. 教師は、教育目標を達成させるために子どもに同じこ. 水が流れるとき流れないで、ここが水浸しにな. とを繰り返し伝えていく。同じ内容を違った言い方で、. っちゃうのね。だから、石は溝の中に入れない. または異なる方法で実行しようとすることがわかった。. ようにしてください。帰りがけ気をつけてよ。. この間、子どもは、知らず知らずのうちに教師の意図し. 石を溝に入れないよ?大丈夫?顔が下に向いて. た、一定方向に行動していく仕組み6)に取り込まれる。. る人。意味わかるかな?」 (小さな集団). 時折、教育目標から一時的に、はずれた子どもも出てく. −中略−. るが、自分の行動を修正することで、学級の仲間として. T. 「ここの溝のことね。石が詰まると水が流れませ. 迎え入れられる仕組みがあった。 また、本研究で、学級で培われてきた雰囲気の存在が、. ん。だから石を入れないようにしましょう。」. 認められた。そして前述の、子どもが、知らず知らずの. (大きな集団) 3.

(4) うちに教師の意図した一定方向に行動していく仕組みと. (2)上原禎弘・梅野圭史・厚東芳樹・岩谷諭・渡邊博. 学級で培われてきた雰囲気には密接な関係性が存在する. 編「小学校体育授業における教師の言語的相互作用の適. ことも理解できた。. 切性に関する研究:−サッカー授業における品詞分析を 手がかりとして−」 『鳴戸教育大学実技教育研究』 , 13,. また、子どもは、教師の指導姿勢をしっかり見抜いて 行動している。学級間で差異ができるのは、この、教師. 2003年。. の土着の習慣性を持った言動を子どもが読み取る面と学. (3)刑部育子「子どもの「参加」を支える他者−集団. 級で培われてきた雰囲気の作用によるものであり、結果. における相互作用の関係論的分析−」『東京大学大学院. として教師の意図した方向へ子どもを導くことと、教師. 教育学研究科紀要』 ,第34巻,1994年。. の指導姿勢との関連を指摘できる。. (4)杵淵俊夫「教師たちは、如何なる手順を辿って、 小学校低学年の子どもたちを「みんな(学級) 」のまとま りへと形成しようとするのか?」 『上智大学研究紀要』 ,. 第6章 教授・学習過程にある二面性と可視性の低い文. 第21巻第1号,2001年。. 化にみられる課題 さらに、今後の研究課題として次のことが残される。. (5)ここでは、 「文化」を、 「ある一定の組織体におい. 一つには、可視性の低い文化にみられる新たなる課題. てそれまで一貫して維持され続けてきた外的・内的な問. は、時間の経過とともに、入学後の教授・学習過程をみ. 題に対する解決の様式があって、したがってそれは組織. つめることで、教師と子ども、またそれを取り巻く様々. に参入してくる新参者に対しても同時に問題に関わって. な教育環境に介在する、教授・学習過程を動的に分析で. 同じように正しい方法として教え込み、認識させ感じさ. きると考えられる。学級担任の働きかけの意図は、可視. せることになる。 」ととらえる。. 性の高い文化に基づくものと可視性の低い文化に基づく. 中留武昭『学校を創る校長のリーダーシップ −学校改. ものがみられた。その一つである可視性の低い文化に基. 善への道− 』 ,エイデル研究所,1998年,p.36.. づく教師の判断が、学級経営に大きく影響するとも推察. (6) 「仕組み」とは、子ともに強制的に教え込むのでは. される。教師の持つ可視性の低い文化がどのようにして. なく、 気がつくといつの間にか子どもが協調的に行動し、. 形成されるのであろうか。そこに、本研究は可視性の低. 知的にも技術的にも高度な活動ができるよう方向付けら. い文化に基づく判断に着目しつつ多くの事例について子. れていく仕組みをいう。 結城恵,前掲論文,p.124.. 細に検討する余地を残している。 もう一つは、教授・学習過程の持つ二面性について、 時間を追ってその変化をみつめることや、この二面性の. 【主要参考文献】. 間にある関係については検討の余地を残している。つま. 1.上原禎弘・梅野圭史・厚東芳樹・岩谷諭・渡邊哲博. り、この二面性が、時間の流れに沿って変化することや. 編「小学校体育授業における教師の言語的相互作用の適. 子どもの思考が外部の刺激を連続して受けることにより. 切性に関する研究:−サッカー授業における品詞分析を. 成長していくことに触れ、より動的な研究が進められる. 手がかりとして−」 『鳴戸教育大学実技教育研究』 , 13,. ことが課題としてみえてきた。. 2003年,pp.85-93. 2.岡本夏木・高橋恵子・藤永保編『幼児教育の現在と. また、本論では、文化を学級文化として捉えて来た。 そこでは、可視性の低い文化が可視性の高い文化へと姿. 未来』 ,岩波書店,1994年。. を変える過程が不透明であり、新たなる課題としてみえ. 3.熊谷智子「教師の発言に見られる繰り返しの機能」. てきた。可視性の低い文化からから突如として可視化さ. 『日本語学』 ,明治書院,1997年3月号。. れる文化があると推察されるからである。このような変. 4.佐伯胖・藤田秀典・佐藤学・鹿島和夫編『言葉とい. 容は、いつの時点で可視化されたのか、また、それには. う絆』 ,東京大学出版会,1995年。. どのような力が働いたのかが、子どもの変容に関係の深. 5.渋谷真樹『 「帰国子女」の位置取りの政治−帰国子女. い学級文化を語る上で新しい課題として浮上してきた。. 教育学級の異差のエスノグラフィー−』 ,勁草書房,20 01年。. 【主要引用文献】. 6.志水宏吉・徳田耕造編『よみがえれ公立中学−尼崎. (1)結城恵「 教授・学習の集団的文脈」志水宏吉編著. 市立「南」中学校のエスノグラフィー』 ,有信堂高文社,. 『教育のエスノグラフィー』 ,嵯峨野書院,1997年。. 1994年。 4.

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参照

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