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モノリシック集積化に関する研究

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光通信用 InP/InGaAs ヘテロ接合バイポーラ トランジスタの高速化およびフォトダイオードとの

モノリシック集積化に関する研究

Study of high-speed InP/InGaAs heterojunction bipolar transistors and their monolithic integration with photodiodes for optical fiber

communication systems

2012 年 2 月

柏尾 典秀

(2)

(3)

1

目次

第1章 序論 ... 4

1-1.背景 ... 4

1-2. 次世代光通信システムの実現に向けた課題 ... 6

1-3. 高信頼InP/InGaAs HBTの高速化 ... 7

1-3-1. 高周波特性の指標について ... 7

1-3-2. 電子回路に必要とされるfTfmax ... 8

1-3-3. 高信頼InP HBT構造 ... 10

1-4. InP/InGaAs HBTとフォトダイオードのモノリシック集積化 ... 12

1-5. 本論文の目的 ... 14

1-6. 本論文の構成 ... 14

参考文献 ... 16

第2章 レッジ構造を備えた0.5μmエミッタInP/InGaAs HBT ... 19

2-1. 概要 ... 19

2-2. InP/InGaAs HBTの性能指標 ... 19

2-3. InP/InGaAs HBTの高速化に向けたデバイススケーリング ... 24

2-4. デバイス構造 ... 26

2-5. デバイスプロセス工程 ... 28

2-6. デバイス特性 ... 30

2-6-1. DC特性 ... 31

2-6-2. 高周波特性 ... 34

2-6-3. 信頼性 ... 38

2-7. まとめ ... 43

参考文献 ... 44

第3章 更なる微細化に向けた薄層レッジ構造の検討 ... 46

3-1. 概要 ... 46

3-2. 更なる高速化に向けて ... 46

(4)

2

3-3. 新エミッタ層構造 ... 48

3-3-1. InGaAsとInPの伝導帯障壁の影響 ... 49

3-3-2. 薄層アンド―プInPエミッタでの高電流密度動作 ... 52

3-4. デバイス構造とデバイスプロセス工程 ... 53

3-5. デバイス特性 ... 56

3-5-1. DC特性 ... 56

3-5-2. 高周波特性 ... 59

3-5-3. 信頼性 ... 63

3-6. まとめ ... 65

参考文献 ... 67

第4章 薄層レッジ構造を備えた0.25μmエミッタInP/InGaAs HBT ... 68

4-1. 概要 ... 68

4-2. デバイス構造とデバイスプロセス工程 ... 68

4-3. デバイス特性 ... 73

4-3-1. DC特性 ... 73

4-3-2. 高周波特性 ... 75

4-3-3. 加速寿命試験 ... 80

4-4. まとめ ... 82

参考文献 ... 83

第5章 Beイオン注入を用いたInP/InGaAs HBTと単一方向キャリアフォトダイオードのモノリシック集 積化 ... 85

5-1. 概要 ... 85

5-2. はじめに ... 85

5-3. Beイオン注入とRTAによるp型光吸収層の形成 ... 88

5-4. デバイス構造とデバイスプロセス工程 ... 90

5-5. UTC-PD特性... 94

5-6. HBT特性 ... 99

5-7. まとめ ... 101

参考文献 ... 102

(5)

3

第6章 非選択再成長法を用いたInP/InGaAs HBTとUTC-PDのモノリシック集積化 ... 105

6-1. 概要 ... 105

6-2. 非選択再成長の効果 ... 105

6-3. InP/InGaAs HBTおよびUTC-PDの層構造とOEICプロセス工程 ... 106

6-4. 再成長InP/InGaAs HBTおよびUTC-PD特性 ... 109

6-5. OEICの特性 ... 116

6-6. まとめ ... 119

参考文献 ... 120

第7章 結論 ... 122

謝辞 ... 125

本研究に関する業績 ... 126

(6)

4

1 章 序論

1-1.背景

データトラフィックの急激な増大に伴い、光通信ネットワークの大容量化への要求が年々増加して いる。ネットワーク大容量化の実現には、光素子の高帯域化に加え、電子集積回路(IC: Integrated

circuit)の高速化が不可欠である。特に、光通信用ハイエンドのICには高速動作が要求されるため、

Siよりも数倍電子移動度が高いGaAsやInPなどの化合物半導体を用いた電界効果トランジスタやバ イポーラトランジスタが多く使われている。

化合物半導体は材料や組成を変えることでバンド構造を自由に設計できる利点を持つ。例えば、

異種材料の組み合わせ(ヘテロ接合)を適用したトランジスタの1つに高電子移動度電界効果トランジ スタ(HEMT: High Electron Mobility Transistor)がある。HEMTでは電子供給層と電子走行層がヘテ ロ接合により分離される構造となっており、イオン化不純物散乱の影響を受けずに電子の高速走行が 可能となっている。一方、バイポーラトランジスタにヘテロ接合を応用したトランジスタとしては、エミッ タ・ベース接合にヘテロ接合を用いたヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT: Heterojunction bipolar transistor)がある。エミッタ・ベース接合にヘテロ接合を用いることで、ベースからエミッタへの正孔の逆 注入を抑制できるため、電流利得の劣化を伴わずにベース層の高濃度化とエミッタ層の低濃度化が 両立できる。それによりエミッタ容量を大きく低減でき、高速動作が期待できる。また、HBTはHEMT と比較して、相互コンダクタンスが高く、高耐圧動作および低消費電力動作に優れており、しかも素子 サイズが小さいために高集積化が可能である。

HBTの歴史は古く、バイポーラトランジスタが発明された4年後の1951年にShockleyにより、初め て提案された[2]。1957年にはKroemerによりHBTのバンド構造の理論的な解析が行われたものの

[3]、しばらくの間は良好なヘテロ界面を形成する技術がなく、GaAs/Ge等の様々なヘテロ接合の基

本的な特性の報告に限られていた。[4]。1970年代に入り、液相成長(LPE: Liquid Phase Epitaxy)で HBT作製が可能になり、GaAs基板上に作製されたAlGaAs/GaAs HBT(エミッタ層にAlGaAs、ベー

ス層にGaAs、コレクタ層にGaAsを用いたHBT)において良好なDC特性が実現されるようになった

[5,6]。1980年代になると、有機金属気相成長法(MOCVD: Metal Organic Chemical Vapor

(7)

5

Deposition)や分子線エピタキシー(MBE: Molecular Beam Epitaxy)といったより急峻なヘテロ界面を 実現可能なエピタキシャル成長法技術が登場し、GaAs基板上に作製されたAlGaAs/GaAs HBTに 加えて、InP基板上に作製されたInAlAs/InGaAs HBTやInP/InGaAs HBTなど様々なヘテロ接合バ イポーラトンジスタが報告されるようになった[7-9]。1980年後半から1990年初めにかけて、化合物半 導体の特徴の一つである速度オーバーシュートを積極的に活用したHBTが報告され、例えば、

AlGaAs/GaAs HBTで電流利得遮断周波数fが171GHz、InP/InGaAs HBTでf=165GHzが報告さ れ、化合物半導体HBTの高速特性に対する高いポテンシャルが実証された[10,11]。特に、

InP/InGaAs HBTはInGaAsコレクタ層におけるΓ-Lバレー間エネルギー差が0.55eVとGaAsの2倍 以上あるため、GaAs系HBTに比べて速度オーバーシュートが生じやすく電子走行時間の短縮が可 能となり、GaAs系HBTに比べて高いfTが実現されるようになった。2001年には、Ida等により、

InP/InGaAs HBTにおいてコレクタ電流密度動作を高め、高速化する手法によりfT=341GHzという非

常に高いfが実現されている[12]。この報告をきっかけに、他の研究所でも同様の手法により

InP/InGaAs HBTの高速化が研究され、2006年にはイリノイ大学によりfT=765GHzが報告され、

InP/InGaAs HBTの優れた高周波特性が実証されてきた[13]。

InP/InGaAs HBTは高速動作に優れているだけでなく、光素子(特にフォトダイオード)を集積した

光電子集積回路(OEIC: Optoelectronic integrated circuit)の作製が容易である特徴を持つ。

InP/InGaAs HBTを用いたOEICは1993年に初めて実現された[14]。InP/InGaAs HBTのベース・コ レクタ層をpinフォトダイオードに利用できるため、InP/InGaAs HBTのエピタキシャル層構造と製造工 程をほとんど変更する必要はない。InP/InGaAs HBTの動作速度の進展に伴い、2000年ごろまで各 研究機関でInP/InGaAs HBT OEICの研究が行われた[15-17]。2000年には40Gbit/sのOEICが報 告されるなど、InP/InGaAs HBTはICだけでなく、OEICの構成デバイスとしても期待されていると言え る。

(8)

6

1-2. 次世代光通信システムの実現に向けた課題

図1-1に、光通信システムにおける伝送容量の年次推移を示す。通信方式は、時分割多重方式 (TDM: Time Division Multiplexing)に始まり、続いて波長多重方式(WDM: Wavelength division

multiplexing)、さらに近年ではコヒーレント通信方式が導入されつつある状況である。伝送容量は10

年で約100倍に近い伸びで推移しており、2010年には1チャンネル当たりの伝送速度が100Gbit/sを 超えることが報告されている。しかしながら、1チャンネル当り100Gbit/sを超える光通信システムでは、

構成要素である電子回路の高速化が必要なことはもちろんのこと、部品間の高速アナログ電気信号 劣化の影響が無視できなくなることが懸念される。InP HBTは100Gbit/s級ICの実現を可能にする優 れた高周波特性を有しており、次世代の光通信システム向け電子デバイスとして有望である。さらに、

InP基板上に形成されていることから、InP HBTと光素子を1チップに集積(モノリシック集積)すること が可能であり、次世代光通信システムで懸念される部品間の高速アナログ信号劣化を抑制し、システ ムの設計マージンを拡大することが期待されている。そこで、本論文では次世代光通信システムへの 導入を目指し、高信頼InP HBTの高速化と光素子(特にフォトダイオード)とのモノリシック集積化に ついて議論する。

図1-1 光通信システムにおける伝送容量の変遷

(9)

7

1-3. 高信頼InP/InGaAs HBT の高速化

1-3-1. 高周波特性の指標について

高信頼InP HBTの高速化について議論する前に、トランジスタの高周波特性の指標について説明

する。高周波特性の指標として、fTおよびfmaxが用いられる。h21およびメイソンの単一方向利得(UG:

Mason’s unilateral gain)の周波数依存性に対して、-20dB/decadeで外挿し、fTおよびfmaxはそれぞれ h21=1およびUG=1となる時の周波数と定義されている(図1-2)。

図1-2 h21UGの周波数特性

ちなみに、高周波測定で得られたSパラメータをZパラメータに変換し、h21およびUGの周波数特性 を求めている。

22 21

21 Z

h =−Z (1-1)

[

Re( )Re( ) Re( )Re( )

]

4 11 22 12 21

2 12 21

Z Z

Z Z

Z UG Z

= − (1-2)

(10)

8

なお、fTおよびfmaxはデバイスパラメータを用いて以下のように記述できる。

(

( )( ) ( )

)

2

1

, ,

,

,in Cex C Cin Cex

C EE E F E E

T r C r R C C R C C

f = + + + + + +

τ

π (1-3)

in C B

T

C R f f

,

max = 8

π

(1-4)

ここで、rE: 動的エミッタ抵抗、CE: エミッタ・ベース容量、τF: ベース・コレクタ走行時間、REE: エミッタ 寄生抵抗、CC,in: コレクタ内部容量、CC,ex: コレクタ外部容量、RC: コレクタ抵抗、RB: べース抵抗で ある。これらの式の導出については2章で詳しく述べる。

1-3-2. 電子回路に必要とされるfTfmax

次に、電子回路の動作速度とInP HBTのfTおよびfmaxとの関係について議論する。まず、電子回 路の構成要素であるエミッタ結合論理の遅延時間(tECL)を解析式から求める [18,19]。

⎥⎥

⎢⎢

⎡ ⎟

⎜ ⎞

⎝⎛ +

⎟⎟+

⎜⎜⎝

⎛ +

⎟⎠

⎜ ⎞

⎝⎛ + +

= 2

max ,

,

max 0.15

2 2 4 1 1

15 . 0 1 2 1 1 2

1

f f V C

V C f

t f L T

in C

ex L C

T

ECL π (1-5)

ここで、VL: 論理振幅、CC,ex: コレクタ外部容量である。

なお、電子回路の動作速度は1/3.3tECLとなることが知られている[19]。この式をもとに40Gbit/s、

100Gbit/sおよび160Gbit/s級ICにおいて必要とされるfTおよびfmaxを見積もった。図1-3にその計 算結果を示す。合わせて、これまでInP HBTおよびSiGe HBTで報告されているfTおよびfmaxをプロ ットした。特にfTfmaxのバランスの良い部分のみに着目すると、40Gbit/s級ICに必要とされるfTおよ びfmaxはそれぞれ150GHz以上となる。また、100Gbit/s級ICにはfT>300GHzおよびfmax>300GHz、

160Gbit/s級ICにはfT>450GHzおよびfmax>500GHzが必要となることがわかる。InP HBTのfTおよ びfmaxの最高値はSiGe HBTよりも2倍以上高い700GHz以上を示している。InP系材料特有の速度 オーバーシュートにより、電子走行速度が~4x107cm/sとSi系材料の2倍以上の速度であることが高 いfTあるいはfmaxが得られる要因の一つである。さらに、InP HBTはfTfmaxのバランスが良く、SiGe

(11)

9

HBTでは難しい400GHz以上のfTおよびfmaxが実現されていることがわかる。つまり、InP HBTを用 いれば、160Gbit/s級ICの実現も十分可能性があると言える。

図1-3 InP HBTとSiGe HBTにおいて報告されているfTおよびfmax。エミッタ結合論理の遅延時間 から求められた40Gbit/s、100Gbit/sおよび160Gbit/s級ICで必要とされるfTfmaxの関係について の計算値も記載。

0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000

0 100 200 300 400 500 600 700 800 SiGe HBT

InP HBT(研究レベル) InP HBT(レッジ構造有)

f

max

(G H z )

f

T

(GHz)

160Gbit/s

100Gbit/s

40Gbit/s

UCSB

NTT

HRL

UIUC

(12)

10

1-3-3. 高信頼 InP HBT構造

これまでInP HBTは高速特性が優れていることを述べてきたが、通信システムに導入する際、高速

特性だけでなく、信頼性の確保が非常に重要である。従来のInP/InGaAs HBTは、図1-4に示すよう に外部ベース層が露出された構造である。そのため、エミッタから電子の一部が外部ベース層上の再 結合中心に捕獲され、ベース表面再結合電流が増加し、電流利得の劣化を招いていた[20]。この電 流利得劣化は、InP/InGaAs HBTを光通信システムに導入する上で非常に大きな問題となる。

図1-4 従来のInP/InGaAs HBTの断面構造

そこで、NTTでは40Gbit/s級IC向けの1μmエミッタInP/InGaAs HBTに対して、図1-5に示すレ ッジ構造を導入し、電流利得劣化の抑制を試みた[21]。作製したHBTは電流利得57と、レッジ構造 のないHBTの2倍程度の高い電流利得が得られるとともに、実用に足る高いデバイス寿命(接合温

度125℃でデバイス寿命108時間以上)を持つことを実証した[22]。なお、NTTで開発した40Gbit/s

級IC向け1μmエミッタInP/InGaAs HBTの構造は、70nm厚のアンド―プInP、50nm厚のp型InGaAs、

300nm厚のInGaAsである。レッジ構造は外部ベース層上のアンド―プエミッタ層の一部を意図的に

(13)

11

残すことで形成している。エミッタ層にアンド―プInPを用いているのは、レッジ層として利用した時に 空乏化しやすいこととアンド―プInPエミッタはn型ドープのInPエミッタに比べてエミッタ・ベース容量

図1-5 レッジ構造を導入したInP/InGaAs HBTの断面図

が小さく、低消費電力で高速動作が期待できるからである。なお、レッジ構造を備えた1μmエミッタ HBTの高周波特性はコレクタ電流密度1mA/μm2において、fT=169GHz、fmax=255GHzであり、レッジ 構造のないHBTの高周波特性に対して全く遜色のない特性であった。なお、図1-3からもわかるよう にこの高周波特性は40Gbit/s級ICには十分な値である。

超100Gbit/s級のICを実現するためには、エミッタサイズの微細化とともにHBTのエピタキシャル

層を薄層化し、2mA/μm2以上の高電流密度動作にし、fTおよびfmaxを300GHz以上に向上させる必 要がある[23]。このような高電流密度動作には、エミッタ・ベース接合における空間電荷効果を低減す るために、エミッタ層の不純物濃度を増加させる必要がある。しかしながら、n型エミッタ層をレッジ層 に利用した場合にレッジ層が機能し、高いデバイス寿命が得られるかどうか検証する必要がある。ま た、高電流密度動作では、Ti/Pt/Auで構成されるエミッタ電極がエミッタ層内に拡散し、エミッタ・ベー スがショートし、電流利得の突然劣化をもたらす問題もある[21]。この劣化を抑制するためには、高融

(14)

12

点の電極を導入する必要がある。さらに、高融点金属を電極に導入したことで、高周波特性に影響が ないことも検討しなければいけない。このように、次世代光通信向けの高速InP/InGaAs HBTの実現 には、デバイスの微細化や薄層化とともに、エミッタ層の高濃度化や電極の高融点化などデバイス構 造の改善が不可欠となる。

1-4. InP/InGaAs HBT とフォトダイオードのモノリシック集積化

伝送速度が100Gbit/sを超えるような次世代光通信システムでは、各素子間の寄生成分による信号 劣化が無視できなくなる。最も信号劣化が顕著になるのは、高速な電気信号が通るフォトダイオードと 電子回路の間の配線である。この信号劣化を最小限にするためには、フォトダイオードと電子素子と を一つのチップにOEIC化し、配線の長さを最小限にすることが望ましい。

図1-6にInP/InGaAs HBTのベース・コレクタ構造をそのままpinフォトダイオードとして利用した時

の断面図を示す。この構造は、HBTの一部をpinフォトダイオードとして利用しているため、HBTとpin フォトダイオードのモノリシック集積化が容易である。

図1-6 HBTのベース・コレクタ層をpinフォトダイオードとして利用したOEICの断面図

(15)

13

また、pinフォトダイオードはInP/InGaAs HBTのデバイスプロセス工程の一部をそのまま流用できる ため、HBTと同様に高い歩留まりが期待できる。

しかしながら、pinフォトダイオードはInP/InGaAs HBTと容易に集積できるものの、速度の遅いホー ルが応答に関与しているため高速動作では高出力化が難しいという問題がある。しかも、pinフォトダ イオードは後段に高い利得のトランスインピーダンスアンプを何段も必要とするため、受光回路を複雑 にしてしまう(図1-7)。

図1-7 従来の光通信システムの受信機構成

図1-8 単一走行キャリフォトダイオードを用いた光受信機構成

(16)

14

この問題を解決するために、NTTではp型光吸収層とワイドギャップの電子走行層からなる単一走 行キャリアフォトダイオード(UTC-PD: Uni-traveling-carrier photodiode)を開発し、100GHz以上の高速 応答と1V以上の高出力特性の両立を実現した[24]。UTC-PDを用いれば、その出力で直接InP HBTの識別回路を駆動するシンプルな受光回路構成が可能となる(図1-8)。この構成により、受光回 路の高性能かつ小型化が期待される。したがって、100Gbit/sを超える受光回路応用に向けた

UTC-PDとInP/InGaAs HBTのモノリシック集積化は光通信システムの高性能化に非常に魅力的であ

る。

1-5. 本論文の目的

以上、述べたようにInP/InGaAs HBTは次世代光通信用ICおよびOEIC向けのトランジスタとして 最も有望である。本研究の目的は、超高速光通信用ICおよびOEICへの応用を目指し、実用化に耐 えうる信頼性を備えたInP/InGaAs HBTの高速化を追求するとともに、InP/InGaAs HBT ICの高機能 化に向けてInP/InGaAs HBTとUTC-PDのモノリシック集積化技術を検討し、OEICを実現することに ある。

1-6. 本論文の構成

本論文は7章から構成されている。第2章では、InP HBTのスケーリング則について議論し、次世 代光通信用ICの高速化に向けて、レッジ構造を備えた0.5μmエミッタInP/InGaAs HBTの試作・評 価を行い、実用に耐えうる構造かどうか議論する。第3章では、更なる微細化に適した新エミッタ構造 を提案し、試作・デバイス評価を行い、薄層レッジ構造の効果を検証する。第4章では、更なる高速 化に向けて、薄層レッジ構造を備えた0.25μmエミッタHBTを試作し、その高周波特性と加速寿命試 験を行い、今後のInP/InGaAs HBTの展望について議論する。第5章では、InP/InGaAs HBTを利用 したOEICの実現に向けて、Beイオン注入を用いたInP/InGaAs HBTとUTC-PDの集積化技術につ いて検討する。第6章では、非選択再成長法を用いて、InP/InGaAs HBTおよびUTC-PDそれぞれ

(17)

15

を最適化した構造でのモノリシック集積化を検討するとともに、実際にOEIC試作・評価を行う。最後 に第7章で論文全体のまとめとする。図1-9に本論文の各章の関係を示す。

図1-9 本論文の章構成

(18)

16

参考文献

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(20)

18

[21] Y. K. Fukai, K. Kurishima, M. Ida, S. Yamahata, T. Enoki, “Highly reliable InP-based HBTs with a ledge structure operating at current density of over 2 mA/μm2,” in Proc. Indium Phosphide and Related Materials (IPRM), 2005, pp. 339-342.

[22] Y. K. Fukai, K. Kurishima, M. Ida, S. Yamahata, and T. Enoki, “Highly reliable InP-based HBTs with a ledge structure operating at high collector current density,” Electron. Commun. Jpn. 2, Electron., vol. 90, no. 4, pp. 1-8, Apr. 2007.

[23] M. Ida, K. Kurishima, and N. Watanabe, “Ultrahigh-speed InP/InGaAs DHBTs with very high current density,” IEICE Trans. Electron., vol. E86-C, no. 10, pp. 1923-1928, 2003.

[24] T. Ishibashi, N. Shimizu, S. Kodama, H. Ito, T. Nagatsuma, and T. Furuta, “Uni-traveling-carrier photodiodes,” in Ultrafast Electron. and Optoelectron. Tech. Dig., 1997, pp. 166-168.

(21)

19

2 章 レッジ構造を備えた 0.5μm エミッタ InP/InGaAs HBT

2-1. 概要

本章では、InP/InGaAs HBTの小信号等価回路を用いて、デバイス設計に重要なデバイスパラメー タと高周波特性の指標である電流利得遮断周波数fTおよび最大発振周波数fmaxを導出する。その後、

導出された式をもとに、高速化に向けたデバイススケーリングについて述べる。更に、デバイススケー リングをもとにレッジ構造を備えた0.5μmエミッタInP/InGaAs HBTを設計し、試作・評価を行い、その 結果について議論する。

2-2. InP/InGaAs HBT の性能指標

InP/InGaAs HBTの優れた高周波特性を最大限に活用するためには、トランジスタの小信号等価

回路パラメータを求め、電子の走行時間と寄生成分(抵抗成分や容量成分)を正確に把握することが 極めて重要である。バイポーラトランジスタの小信号等価回路としては、コレクタ電流をEB間電圧VEB 依存の電流源とするπ型とエミッタ電流IE依存のT型の2つのモデルがある。π型モデルは半導体物 理を用いて説明しやすく、また小規模回路への適用のしやすいことから教科書等で多く用いられてい るが[1]、ここではデバイス構造に対して物理的に意味のあるT型モデルを用いることとする。図2-1に

InP/InGaAs HBTの小信号等価回路図を示す[2]。 等価回路がT型で構成された場合、四端子回路

パラメータとしてZパラメータを用いるのが有効である。まず、点線で囲った部分の四端子パラメータ (Zin)を求める。点B’での電流および電圧をそれぞれIB’、VB’、点C’での電圧および電流をVC’、エミ ッタ動的抵抗での電流をiE’とすると、以下の3式が得られる。

' '

'

(

B E

)

B E C

B

R Z I Z I

V = + +

2-1

) (

)

( ' ' ' '

'

C B E E

C BC

C Z I i Z I I

V = −

α

+ + (2-2)

' '

' C (1 E E) E

B I j r C i

I + = +

ω

(2-3)

(22)

20

図2-1 InP/InGaAs HBTの小信号等価回路図

REE: エミッタ寄生抵抗、rE: エミッタ動的抵抗、CE:エミッタ・ベース間容量、RB:ベース抵抗、CC,in: 内 部ベース・コレクタ容量、CC,ex: 外部ベース・コレクタ容量、GBC: 出力コンダクタンス、α:ベース到達率、

RC: コレクタ抵抗

(23)

21

計算を簡略化するため、エミッタ部分とコレクタ部分のインピーダンスをそれぞれまとめて、ZEおよび ZBCと表記している。ZEおよびZBCは以下の式で表わされる。

E E

EE E

C r j

R Z

ω + +

= 1

1 (2-4)

in C BC

BC G j C

Z

,

1 ω

= + (2-5)

(2-1)から(2-5)を用いて、点線で囲われた部分のZパラメータを求めると、

⎟⎟⎠

⎜⎜ ⎞

− +

= +

⎟⎟⎠

⎜⎜ ⎞

=⎛

) 1

( '

' 22

21 12 11

α α BC E BC

E

E E

B in

in in in

in Z Z Z Z

Z Z

R Z

Z

Z

Z Z (2-6)

となる。ただし、

E E

F

C r j

j ω

ωτ α α

+

= − 1

)

0exp(

' (2-7)

である。次に、ZinCC, exをそれぞれYパラメータに変換後、加算し、Zパラメータに再度変換する。最 後に、コレクタ抵抗部分を加えると小信号等価回路全体のZパラメータは以下のようになる。

⎟⎟

⎟⎟

⎜⎜

⎜⎜

+ +

− − +

− + +

+ + +

+ + + −

+ +

− + +

=

⎟⎟⎠

⎜⎜ ⎞

⎝ + ⎛

⎟⎟

⎟⎟

⎜⎜

⎜⎜

+ +

+ +

⎟⎟=

⎜⎜ ⎞

=⎛

BC B ex C

BC C

BC E

BC B ex C

BC B

BC BC E

BC B ex C

BC B E BC

B ex C

BC B

B E B

C

ex C

in in ex

C in in

ex C

in in ex

C in in

ex C

in

Z R C

R Z Z Z Z

R C

Z R

Z Z Z

Z R C

Z Z R

Z R C

Z R

Z R R

R C

Z Z C

Z Z

C Z Z

C Z Z

C Z Z

Z Z Z Z

,

2 ' '

,

' '

,

'

,

'

, 22

, 21

, 12

, 11

, 22

21 12 11

) 1 ) (

1 ) (

(

) 1 ( )

(

1 0

0 0 1

1

α α α α

α α

(2-8) ただし、|Zin|=Z11inZ22in-Z12inZ21in、ΔZin=Z11in-Z12in-Z21in+Z22inである。

次に、得られたZパラメータをもとに重要なデバイスパラメータを抽出する。HBTの出力コンダクタン スは十分に小さいのでZBC

(24)

22

in C in

C BC

BC G j C j C

Z

, ,

1 1

ω

ω

= + , GBC << ωCC,in (2-9) となる。Z12の変形を行い、ω2の項を無視すれば、

⎥⎥

⎢⎢

⎡ ⎟⎟ −

⎜⎜

− + + −

+ +

− + + +

E E ex

C in C

ex C in

C B ex

C in C

ex C E

E F B

ex C in C

ex C B

EE E

C C r

C C C C R

C C C r R

j

C C

R C R

r Z

2 2

, ,

, ,

2 0 ,

, , 0

, ,

, 0

12

) 1 ( )

(

) 1 (

α τ

α ω

α

(2-10)

ここで、α0≈1とすれば、

[ ]

Z12rE + REE

Re (2-11)

となり、エミッタ抵抗が抽出できることがわかる。次に、Z22-Z21について変形する。

⎟⎟

⎜⎜

− + + +

− + ≈

+ +

=

− ( )

1 )

( , , 2 , ,

, , ,

, 21

22

ex C in C ex

C in C

ex C in C B C BC B ex BC

ex C BC

C j C C

C C

C C R R

Z R Z

C R Z

Z

Z ω (2-12)

虚部に着目すると、ベース・コレクタ全容量は以下の式で抽出できる。

[

(Z22 Z21)

]

CC,in CC,ex

Im

1 ≈ +

ω (2-13)

さらに、(Z12-Z21)/(Z22-Z21)の変形を行う。

(

( , , )

)

0 0

, ' , 21 22

21 12

ex C in C C F E E BC

B ex C

ex C

BC j r C R C C

Z R C

C Z Z

Z Z

Z ≈ − + + +

+

= +

− α α ωα τ (2-14)

これより、

) (

Re 1Im

, ,

21 22

21 12 21

22 21 12

ex C in C C E E

F r C R C C

Z Z

Z Z Z

Z Z

Z ⎥≈ + + +

⎢ ⎤

⎥ −

⎢ ⎤

− τ

ω (2-15)

CC,in+CC,exは式(2-13)から抽出できるので、もしRCを別の測定で求めることができれば、τF+rECEを抽 出することができる。

(25)

23

さらに、トランジスタの性能指標として用いられる電流利得遮断周波数fTについてZパラメータを用 いて求める。まずh21Zパラメータで表わすと、

[ ]

[

E E F E EE C Cin Cex B Cex

]

ex C B ex

C in C E EE

C R C

C R R r C

r j

C R C

C r R j Z

h Z

, 0

, ,

0 0

, 0

, ,

0 22

21

21 1 ( ) ( )( ) (1 )

) 1 ( ) )(

(

α τ

α ω α

α ω

α

− + +

+ + + + +

− + +

+

≈ −

= (2-16)

となる。fTは|h21|=1となる周波数として測定されるのではなく、|h21|が20dB/decadeで減少する領域に 対して外挿し、外挿した直線が|h21|=1となる周波数をfTとしている。20dB/decadeで減少することは言 いかえれば、1/ωに比例する領域であり、上式の分子の虚部と分母の実部が省略できる周波数領域 である。したがって、|h21|=1となる角速度をωT、α0≈1とするとfTは以下の式となる。

(

( )( ) ( )

)

2

1

2 E E F E EE C,in C,ex C C,in C,ex

T

T r C r R C C R C C

f = = + + + + + +

τ π

π

ω (2-17)

最後に、最大発振周波数fmaxを求める。メイソンの単一方向利得UZパラメータで表わすと[3]

[

Re( )Re( ) Re( )Re( )

]

4 11 22 12 21

2 12 21

Z Z

Z Z

Z U Z

= − (2-18)

Zパラメータを代入し、α0≈1とすると、

[

, , , , , , , )

]

2 ( ) ( )( ) ( )( )(

4 B Cin T B Cin E EE Cin T B Cin Cex E EE Cin Cex

T

C C

R r C C

R C

R r C R C

U R

+ +

+ +

+

≈ −

ω ω

ω

ω

(2-19) と表わされる。ここで、ωT <<1/(rE+REE)(Cc,in+Cc,ex)とωT <<1/Rc(Cc,in+Cc,ex)が成り立つとするとU=1の 時の周波数fmax

in C B

T

C R f f

,

max = 8

π

(2-20) となる。

(26)

24

2-3. InP/InGaAs HBT の高速化に向けたデバイススケーリング

2-2では、InP/InGaAs HBTの重要なパラメータとデバイス性能指標であるfTおよびfmaxを導出した。

本章では、fTの高速化に向けたデバイススケーリングについて議論する。エミッタ動的抵抗rEはpn接 合の順方向ダイオード特性により、下記の式となる。

C C

E

E qI

nkT qI

nkT qI

r =nkT =

α

0

(2-21)

式(2-21)を式(2-17)に代入して変形すると、fTICの関数で表現できる。

Tc C EE Tc

E C C

B T

C R R C

qI C nkT

f ( ) ( ) ( )

2

1 = τ +τ + + + +

π (2-22)

ただし、CTc=Cc,in+Cc,exである。ftを2倍に増加させるためには、式(2-22)の右辺を半分にすればよい。

ここでは、ICを一定として、fTを高速化するデバイススケーリングを行う。まず、式(2-22)の第1項につ いて考える。τBおよびτCは以下の式で表わされる[4,5]。

2 2

2 EXT B

B n

B

B T

V T D

T + ∝

τ

= (2-23)

C n C

C T

V T

=2

τ

(2-24)

ここで、Dnはベース層における電子の拡散係数、VEXTは電子の放出速度、Vnは電子のドリフ ト速度である。τBTBが十分大きい場合、TB2に比例する。式(2-23)および(2-24)より、第1項を半 分にするためにはベース層厚を1/√2倍、コレクタ層厚を1/2倍にすればいいことがわかる。次に、式

(2-22)の第2項について考える。エミッタ容量CEおよびコレクタ全容量CTcは以下の2式で表わされ

る[6]。

C B E E E

E

E k A T T I

T A

C = k1 + 2 (2-25)

(27)

25

C C

Tc T

A

C = k3 (2-26)

k1, k2およびk3は定数である。CTcを1/2倍にすることを考える。TCは1/2倍になるので、ACは1/4倍 にしなければならない。また、AE≈ACかつIC=JCACであることから、ICを一定にするためには、JCを4倍 にする必要があることがわかる。さらに、AEが1/4倍、TBが1/√2倍となることと式(2-25)より、TEは1/

√2倍にすればよいことになる。最後に、第3項について考察する。RCREEに比べて非常に小さい ので、REECTcについてのみ考えればよい。第2項での考察から、CTcは1/2倍になるので、REEが一定 であれば第3項は1/2倍になる。かつAEが1/4倍であることとREEE/AEの関係式から、ρEを1/4倍 にすればよいことが分かる。表2-1にICが一定になることを前提にしたデバイススケーリングについて まとめた。これ以降はこちらの表を参考にデバイスの高速化を検討する。

表2-1 デバイススケーリング(コレクタ電流一定モデル)

(28)

26

2-4. デバイス構造

これまでNTTでは光通信用40Gbit/s ICの実現に向けて、レッジ構造を導入した1μmエミッタInP HBTを開発してきた。レッジ構造を導入することにより、電流利得の経時劣化を抑制し、デバイス接合

温度125℃にてデバイス寿命1x108時間という非常に高い信頼性を実証してきた[7]。1μmエミッタ

HBTは、高濃度n型InGaAsエミッタコンタクト層、高濃度n型InPエミッタコンタクト層、70nm厚のア ンド―プInPエミッタ、50nm厚のp型InGaAsベース、300nm厚のn型InGaAsコレクタで構成され、

fTは160GHz程度と40Gbit/s級ICへの応用には十分な高周波特性を持つ。しかしながら、超

100Gbit/s級ICはfT>300GHzの高周波特性を必要とするため、1μmエミッタHBTでは100Gbit/s級 ICの実現は難しい[8]。そこで、表1のデバイススケーリング則をもとに、fTが1μmエミッタHBTの2 倍になるように100Gbit/s級IC向けのデバイス構造を設計した(表2-2)。

表2-2 100Gbit/s級IC向けInP HBTスケーリング

(29)

27

図2-2 0.5μmエミッタInP/InGaAs HBTの断面図

まず、ベース・コレクタ走行時間を1μmエミッタHBTの半分に低減するために、p型InGaAsベース 層の厚さを35nm、n型InGaAsコレクタ層の厚さを150nmに薄層化した。また、ベース層は、薄層化 によるべース抵抗の増加を低減するために、1μmエミッタHBTのカーボン濃度(4x1019cm-3)よりも高 い5x1019cm-3のカーボンをドーピングした。伝送線路モデル(TLM: Transmission line model)測定から、

ベースシート抵抗は646Ω/□と良好な結果が得られた。エミッタ層はスケーリング則に従い、70nmか ら50nmまで薄層化した。また、表2-2より4mA/μm2以上のコレクタ電流密度動作が必要であることが わかる。しかしながら、高電流密度動作ではエミッタ・ベース接合において空間電荷効果を引き起こ すため、エミッタ層の高濃度化による補償が重要となる。そこで、4mA/μm2の実現に必要なエミッタ濃 度を求めた。fTがピークとなるコレクタ電流密度JCmaxは熱電子放出理論から以下の式で表わされる [1]。

* max

2 m qn kT

v qn

JC E R E

=

π

= (2-27)

(30)

28

nEは、エミッタ濃度、kはボルツマン係数、Tは絶対温度、m*は電子の有効質量である。InPでは vR=9.8x106cm/sであるので、JCmaxを4mA/μm2にするためにはnE=2.6x1017cm-3となる。エミッタ層の高 濃度化は高電流動作に不可欠であるものの、レッジ機能の低下を招く恐れがある。したがって、試作 ではエミッタ濃度を1x1017cm-3と3x1017cm-3の2水準にし、エミッタ濃度が電流利得に与える影響を 調べることとした。また、エミッタコンタクト層は高濃度n型InGaAsとし、1μmエミッタHBTと同じ構造 とした。図2-2に作製したInP/InGaAs HBT断面図を示す。InP/InGaAs HBTエピタキシャル層は MBE法により、3インチ半絶縁性InP基板上に成長している。寄生容量とコレクタ電流低減のために、

エミッタ幅は0.5μmに微細化し、ベース・コレクタメサは1.6μm幅まで微細化している。また、高電流密 度動作で発生する半導体内部へのエミッタメタル拡散を抑制するために、高融点のタングステンをエ ミッタ電極に用いている[7]。

2-5. デバイスプロセス工程

図2-3にデバイスプロセス工程を示す。まず、タングステンベースのエミッタ電極を堆積し、エミッタメ サフォトパターンを形成する(図2-3(a))。次に、ドライエッチングにより、タングステンエミッタ電極、高

濃度n型InGaAsエミッタコンタクト層、高濃度n型InPエミッタト層を順次除去する。さらに、n型エミ

ッタ層を半分程度除去し、30nm厚エミッタ層を残す(図2-3(b))。この30nm厚のエミッタ層はレッジ層 として機能する。この工程では、高濃度n型InPエミッタ層を完全に除去することが重要となる。もし、

高濃度n型InPがレッジ層上に残っている場合、レッジ層は空乏化せず、リークパスになってしまい、

著しく電流利得を劣化させてしまう。次に、シリコン窒化膜を堆積し、一部の外部ベース層上のエミッ タ層を残して、シリコン窒化膜およびn型InPエミッタ層を除去し、ベース電極を形成する(図2-3(c))。

エミッタメサをフォトレジストで保護した後に、ウェットエッチングによりベース・コレクタメサを形成した。

外部ベース・コレクタ容量を低減するために、ベース・パッド構造を導入している[9]。最後に、各デバ イスにおいてウェットエッチングにより素子間分離を行い、層間絶縁膜(BCB: Benzocycolbutene)により パッシベーションした。

(31)

29

図2-3(a) エミッタメサパターン形成後の0.5μmエミッタHBTの断面図

図2-3(b) エミッタメサ形成後の0.5μmエミッタHBTの断面図

(32)

30

図2-3(c) ベース電極形成後の0.5μmエミッタHBTの断面図

2-6. デバイス特性

0.5μmエミッタHBTでは、高いコレクタ電流密度動作を実現するために、n型ドーピングされたエミ

ッタ層を用いている。そのため、アンド―プInPを用いている1μmエミッタHBTに対して、レッジ機能 の低下が懸念される。本段落では、まず、レッジが機能しているかどうかDC特性により評価する。さら に、レッジ導入により、高周波特性に影響ないかどうか調べる。最後に、加速寿命試験を行い、レッジ 機能を調査する。

(33)

31

2-6-1. DC特性

図2-4に、作製したHBTの典型的なI-V特性を示す。エミッタ幅は0.5μm、エミッタ長は3μm、エミ ッタ濃度は1x1017cm-3である。作製したHBTは、良好なターンオン特性を示し、コレクタ電流密度

10mA/μm2まで注入できることを確認した。ブレークダウン電圧(BVCEO)は、3V以上であり、実用に足

る耐圧を示した。

図2-4 エミッタサイズが0.5μm×3μmのHBTにおけるエミッタ接地コレクタI-V特性

図2-5に、エミッタ濃度が1x1017cm-3と3x1017cm-3のHBTのガンメルプロットを示す。コレクタ・エミ ッタ電圧は1.2Vとした。どちらのガンメルプロットにおいても、0.5Vのベース・エミッタ電圧でのベース 電流は十分小さく、10-8A以下であった。電流利得はエミッタ濃度が1x1017cm-3では58に対して、エミ ッタ濃度が3x1017cm-3では54であった。いずれのエミッタ濃度でも電流利得が50以上は得られたも のの、エミッタ高濃度化によるレッジ機能の低下は見られた。エミッタ濃度が1x1017cm-3の電流利得は

0 2 4 6 8 10 12

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5

Col le c tor current d e nsity (mA / μ m

2

)

Collector-emitter voltage, V

CE

(V)

Emitter size: 0.5 x 3 μm2 IB step: 50 μA/step

(34)

32

1μmエミッタHBTと同等であるので、レッジが十分に機能していると考えられる。そこで、以下では 1x1017cm-3のHBTを主に評価することとする。

図2-5 0.5μmエミッタHBTのガンメルプロット。コレクタ・エミッタ電圧は1.2Vである。

レッジ層の効果を詳細に調べるために、エミッタサイズの異なるHBTのガンメルプロットを測定した。

エミッタ濃度は1x1017cm-3である。図2-6に、電流利得のコレクタ電流密度依存性を示す。ベース・コ レクタ接合における衝突電離電流の影響を低減するために、コレクタ・ベース電圧VCBを0Vとした。コ レクタ電流0.1mA/μm2以上では、電流利得のエミッタサイズが縮小してもほとんど減少しない。電流 利得特性についてより詳細に調べるために、式(2-28)を用いてベース再結合電流を解析した[10]。

⎟⎟⎠

⎜⎜ ⎞

⎝ + ⎛

⎟⎟⎠

⎜⎜ ⎞

=⎛

=

E E C L C

bi C

B

S L J J J

j I

I β

1 (2-28)

ここで、Jbiはエミッタ・ベース接合内部の再結合電流、JLは長さ当たりのエミッタ周囲の表面再結合電 流、LEおよびSEはエミッタの長さおよび幅である。図2-7にJLのコレクタ電流密度依存性を示す。式 (2-28)を用いて、LE/SEに対するβ--1の依存性をプロットすることでJLを見積もった。比較として、レッジ

10-10 10-8 10-6 0.0001 0.01

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

1x1017cm-3

3x1017cm-3

Current (A)

Base-emitter voltage, V

BE (V)

Emitter size: 0.5 μm x 3 μm VCE = 1.2 V

IC

IB

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