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術前検査により特発性血小板減少性紫斑病と診断された患者に対してラリンジアルマスクを使用し全身麻酔下で智歯抜去術を行った1症例

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Academic year: 2021

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Ⅰ.緒 言. 特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic�thrombocyto- penic�purpura,以下 ITP)は血小板減少をきたす後天性 の自己免疫性疾患である.₁₉₉₈年に Gasbarriniら₁)が Helicobacter pylori(以下 H. pylori)陽性の ITP患者に 対して,H. pylori除菌療法の有用性を報告して以来,H. pylori関連 ITP症例に対する治療法については明確化さ れてきた.今回われわれは,術前の血液検査で血小板数 ₂.₅万/μlと低値を示し,内科でH. pylori関連 ITPと診 断された患者に対して H. pylori除菌療法を施行後,ラ リンジアルマスク(以下,LMA)を用いて全身麻酔下で 抜歯を行い良好な結果を得られたので報告する.. Ⅱ.症 例. 患者は ₅₄歳の女性,身長 ₁₅₅�cm,体重 ₅₀�kg.既往歴 に高血圧症を認めた.下顎右側智歯部の疼痛を主訴に近 歯科医院を受診し,下顎右側智歯周囲炎と診断された. 同部の抜歯目的にて当科を紹介受診した.患者の抜歯に 対する恐怖心や抜歯による侵襲の大きさを考慮し,全身 麻酔下での手術を予定した.. Ⅲ.経 過. 初診時の血液検査で,血小板数 ₂.₅万/μlと低値を示 した.初診日の ₃カ月前に職場で受けた検診では血小板 数の異常を指摘されなかった.初診 ₂カ月後に再度血液 検査を行ったところ,血小板数 ₃.₁万/μlと再び低値を. 示したため当院内科へ精査を依頼し,手術を延期した. 同日内科での血液検査の結果,H. pylori抗体 IgG�₁₃.₉� U/ml(正常値 ₀.₀~₉.₉�U/ml)と高値を示した.胃内視 鏡検査により萎縮性胃炎(C‒Ⅲ)と診断された.骨髄穿 刺検査では ITPに矛盾しない骨髄像を認めた.以上より H. pylori関連 ITPと診断された. 当院内科にてアモキシシリン水和物(パセトシン 錠®),クラリスロマイシン(クラリスロマイシン錠®), ボノプラザンフマル酸塩(タケキャブ錠®)の内服によ るH. pylori除菌療法を施行した.その結果,除菌後の血 液検査では血小板数 ₈.₂万/μlと改善した.しかし,そ の ₁カ月後の血液検査では血小板数 ₅.₀万/μlと再度減 少を認めたため内科主治医は再除菌を検討したが,患者 は抜歯を優先したいとのことであった.患者の抜歯に対 する恐怖心や,根尖が下歯槽管に近接した深い埋伏智歯 のため手術時の骨削除量,それに伴う疼痛を考慮し再度, 全身麻酔下で抜歯を予定した.手術当日に血液検査にて 血小板数を確認し,異常低値の場合には血小板輸血を施 行する可能性を患者に説明し同意を得た.手術当日の血 液検査で血小板数は ₅.₁万/μlであった.血小板輸血を 施行せずに手術を施行することにした.麻酔管理はミダ ゾラム ₅�mg,プロポフォール ₁₄₀�mgで急速導入を行っ たのち,LMA(LMA�FlexibleTM#₄)を挿入し気道確保 を行った.術中は自発呼吸下にて呼吸管理を行い,酸素 ₂�l/min,亜酸化窒素 ₄�l/min,プロポフォール ₄~₇�mg/ kg/hで維持を行った.局所麻酔薬として ₁/₈万アドレナ リン添加 ₂%リドカイン塩酸塩(キシレステシン A®)計 ₅.₄�mlを注射後,抜歯を行った.術後出血の可能性を考 慮し抜歯窩に酸化セルロース(サージセル®)を挿入し て縫合後,止血を確認し終了した.手術時間は ₄₀分,麻 酔時間は₈₀分で,術中の血圧は₉₈~₁₃₀/₆₃~₉₀�mmHg, 心拍数は ₈₀~₉₀回/分,経皮的動脈血酸素飽和度は ₉₉% 前後で呼吸循環動態は安定していた.翌日,右側頰部に. 46. 短 報. 術前検査により特発性血小板減少性紫斑病と診断された患者に対して� ラリンジアルマスクを使用し全身麻酔下で智歯抜去術を行った ₁症例. 医療法人協仁会小松病院歯科口腔外科. 田中亮太朗 田�村�仁�孝 布�谷�陽�子 南� �暢�真 佐伯英里子 藤 喜久雄. 【キーワード】 �特発性血小板減少性紫斑病,ヘリコバクターピロリ,全身麻酔,ラリンジアルマスク,ピロリ 菌除菌. ₂₀₂₀年 ₁₂月 ₁₄日受付/₂₀₂₁年 ₂月 ₁₆日受理 doi:₁₀.₂₄₅₆₉/jjdsa.₄₉.₂_₄₆. 内出血を認めたが抜歯窩からの持続的な出血を認めず, 第 ₄病日に退院した.退院 ₂週間後に内出血の消失を認 めたため当科終診となった.. Ⅳ.考 察. ITPとは血小板減少をきたす明らかな基礎疾患や薬剤 の関与なく血小板数の減少を認める疾患である.抗血小 板自己抗体の血小板への結合により,脾臓などにおける 網内系細胞で血小板の貪食・破壊の亢進を認め,血小板 減少をきたす ₂)とされているが,抗体産生機序について は明らかにされていない. 近年 H. pylori関連 ITP症例に対する除菌療法の臨床 的有用性から,₂₀₁₀年 ₆月には保険診療の適用となって いる.しかし H. pyloriが ITPの発症にどのような機序 で関与しているか完全には明らかにされていない.竹内 ら₃)は₂₀₀₇年に免疫複合体形成による ITP発症への関与 を報告している.これは H. pyloriの菌体成分(抗原)が 血小板に結合し,産生された抗体との免疫複合体形成が ITP発症に関与する可能性を示唆した報告である.現 在,本邦では日本ヘリコバクター学会をはじめとする多 くの機関で病態解析を行っている. 成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド₄)に よると,ITPと診断された際にはまず H. pylori感染の 有無について検討する.H. pylori陽性と診断された場合 には H. pylori除菌療法を施行する.H. pylori陽性症例 においては除菌成功例の ₅₀~₇₀%で血小板数の増加を 認める.H. pylori陰性,あるいは H. pylori除菌療法に て血小板数の増加を得られなかった症例においては,出 血症状および血小板数に応じた治療方針を決定する. ITPの診断に関しては現在でも除外診断を主体とする. 田中ら₅)は抜歯後の異常出血を契機に混合性結合組織病 に合併した ITP症例を経験したと報告している.手のレ イノー現象,手指に限局した皮膚硬化から混合性結合組 織病と診断し,皮膚に内出血斑と点状出血を認め,血小 板減少の原因となるようなウイルス感染症や薬剤の使用 歴を認めないことから ITPと診断された.本症例では術 前に皮膚や粘膜に出血斑を認めなかったが,初診時と初 診 ₂カ月後の血液検査でともに血小板数の著明な減少を 認めた.既往歴に血小板減少をきたす疾患のないこと, 内服薬に血小板減少を引き起こす薬剤のないことから ITPと診断された.また,内科での精査によって H. pylori関連 ITPと診断されたため H. pylori除菌療法を 施行した. 成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド₄)の ITP患者の緊急時あるいは外科的処置時の対応として, 血小板数の著減により生命維持に関わるような主要臓器. への出血をきたしている患者や,手術を必要とする患者 では早急に血小板数の増加を必要とする.治療には免疫 グロブリン大量療法(以下 IVIG),メチルプレドニゾロ ンパルス療法,血小板輸血を推奨している.さらに ITP 患者の観血的処置時に推奨される血小板数は,簡単な抜 歯 ₃.₀万/μl以上,複雑な抜歯 ₅.₀万/μl以上と記載さ れている.稲葉ら₆)は血小板数 ₃.₉万/μlの ITP患者に 対して IVIGを施行し血小板数を ₅.₀万/μl以上に改善さ せたのちに抜歯を行った症例を報告している.抜歯窩に は局所止血剤を挿入し事前に作製した止血床を装着する ことで良好な経過を得られたと報告している.厚生労働 省の血液製剤の使用方針₇)に,ITP患者に対しては血小 板輸血を予防的に行わないことを推奨するとの記載があ る.しかし抜歯においては血小板数 ₁万/μl以上を目安 に血小板輸血を行ってもよいとも記載されている.本症 例では,手術当日の血液検査にて血小板数 ₅.₁万/μlで あり血小板輸血を施行せずに抜歯を行った. 本症例では LMAによる麻酔管理を施行した.口腔内 の手術では術野の確保から経鼻挿管を選択することが多 いが,鼻出血を引き起こす可能性を考慮し本症例では行 わなかった.また,経口挿管と比較して LMAを使用し た場合,喉頭損傷や気管損傷の発症を低減でき,低侵襲 で気道を確保できると考えられる.また LMAを使用す ることによる偶発症の ₁つとして誤嚥がある.骨削除や 歯牙分割など注水下での抜歯を必要とする場合には,よ り注意深く吸引を行うべきである.さらに本症例では筋 弛緩薬を使用せず自発呼吸下にて麻酔管理を行い,誤嚥 のリスクを低減させた.当科では,歯科麻酔科医ならび に術者は LMAを用いた全身麻酔下での手術に精通して いる.特に LMA�FlexibleTMを使用し,エアウェイ チューブを屈曲させることで術野の確保が容易になり術 式を妨げるようなことはない.本症例のように血小板数 低値の患者の抜歯に際してLMAを選択することは,鼻, 咽頭,喉頭からの出血を予防するためにも有用であると 考える.. Ⅴ.結 語. 今回,H. pylori関連 ITP患者に対して LMAを用いて 全身麻酔下で抜歯を行った.血小板数低値の患者に対し て観血的処置を伴う歯科治療を行う場合,止血困難に陥 る可能性を有している.今回,術前の血液検査で異常な 血小板数の減少を認め ITPと診断された患者に対して, 内科医と連携することにより安全な全身管理を行うこと ができた.また,LMAを用いることにより侵襲の少な い麻酔管理を行うことができた.. 日歯麻誌 ₂₀₂₁,₄₉(₂),₄₆‒₄₈ 47. なお,本症例の要旨は第 ₄₈回日本歯科麻酔学会総会・学術 集会(₂₀₂₀年 ₁₀月,オンライン開催)において発表した. 本論文のすべての著者に開示すべき利益相反はない.. 文 献. � ₁)� Gasbarrini�A,�Franceschi�F,�Tartaglione�R,�Landolfi�R,� Pola�P,�Gasbarrini�G:Regression�of�autoimmune� thrombocytopenia�after�eradication�of�Helicobacter pylori,�Lancet,�₁₉₉₈,�₃₅₂(₉₁₃₁),�₈₇₈.. � ₂)�血液凝固異常症に関する研究班:特発性血小板減少性紫 斑病(指定難病 ₆₃),難病医学研究財団難病情報セン ター,₂₀₂₀‒₀₈,www.nanbyou.or.jp(参照 ₂₀₂₀‒₁₁‒₂₂). � ₃)�竹内啓晃,森本徳仁,杉浦哲朗:ヘリコバクター・ピロ リ関連特発性血小板減少性紫斑病の発生機序とピロリ 菌低分子蛋白の関与,日ヘリコバクター会誌,₂₀₀₈,₉. (₂),₅₀‒₅₅.. � ₄)�柏木浩和,桑名正隆,羽藤高明,高蓋寿朗,藤村欣吾, 倉田義之,村田 満,富山佳昭:成人特発性血小板減少 性紫斑病治療の参照ガイド ₂₀₁₉改訂版,臨床血液, ₂₀₁₉,₆₀(₈),₈₇₇‒₈₉₆.. � ₅)�田中純平,平島惣一,坂口 修,志渡澤和佳,吉岡 泉, 大矢亮一:免疫性血小板減少による抜歯異常後出血を契 機に発見された混合性結合組織病の ₁例,日口外誌, ₂₀₁₇,₆₃(₉),₄₆₁‒₄₆₆.. � ₆)�稲葉有希,香川智世,高森翔子,渋谷亜佑美,野井翔太, 足立 健,村上拓也,越沼伸也,肥後智樹,山本 学: 特発性血小板減少性紫斑病患者に対し,γ‒グロブリン大 量療法施行後に抜歯を行った ₁例,滋賀医大誌,₂₀₁₆, ₂₉(₁),₃₆‒₃₉.. � ₇)�厚生労働省医薬・生活衛生局:血液製剤の使用指針の改 定について,厚生労働省,https://www.mhlw.go.jp/stf/ seisakunitsuite/bunya/₀₀₀₀₁₅₉₈₉₃.html(参照 ₂₀₂₁‒₀₂‒ ₀₁). 48 術前検査により ITPと診断された患者に対して LMAを用いて全身麻酔下で抜歯した症例. �. Anesthesia Management Using a Laryngeal Mask Airway for a Patient with Helicobacter pylori-related Idiopathic Thrombocytopenic Purpura Diagnosed . by Preoperative Examination:A Case Report. Department�of�Dentistry�and�Maxillo-facial�Surgery,�Komatsu�Hospital Ryotaro�TANAKA,�Masataka�TAMURA,�Yoko�NUNOTANI,�Nobumasa�MINAMI,��. Eriko�SAEKI�and�Kikuo�FUJI. Abstract. Idiopathic� thrombocytopenic� purpura�(ITP)� is� an� acquired�autoimmune�disease�in�which�the�number�of�plate- lets� decreases� without� the� involvement� of� an� underlying� disease�or�a�drug�that�causes�thrombocytopenia.�We�report� a�case�in�which�a�patient�diagnosed�as�having�Helicobacter pylori-related�ITP�underwent�wisdom�tooth�removal�while� under�general�anesthesia�performed�using�a�laryngeal�mask� airway�(LMA).�The�patient�was�a�₅₄-year-old�woman�who� was� ₁₅₅ cm� tall� and� weighed� ₅₀ kg� and� had� a� history� of� hypertension.�A�preoperative�blood�test�showed�a�platelet� count�of�₂₅︐₀₀₀/μl.�She�was�diagnosed�as�having�H. pylori- related� ITP� in� the� Department� of� Internal� Medicine� and� was� treated�with�H. pylori� eradication� therapy.�Since�her� platelet�count�recovered�to�₅₁︐₀₀₀/μl,�we�extracted�a�right�. mandibular� wisdom� tooth� under� general� anesthesia� per- formed�using�an�LMA.�No�abnormal�bleeding�was�observed� during� or� after� the� operation,� and� the� patient’s� progress� was�good.�Hemorrhage�after�invasive�dental�treatment�is�a� concern� in� patients� with� low� platelet� counts.� In� patients� with� H. pylori-related� ITP,� the� platelet� count� can� be� restored� to� normal� by� performing� H. pylori� eradication� therapy.�The�use�of�an�LMA�can�further�reduce�the�risk�of� damage�to�the�larynx�and�trachea�and�provide�non-invasive� anesthesia�management.�Here,�we� report� a� case� in�which� the� anesthesia� management� of� a� patient� with� H. pylori- related�ITP�could�be�safely�performed�in�cooperation�with�a� doctor.. Keywords:IDIOPATHIC�THROMBOCYTOPENIC�PURPURA,�HELICOBACTER�PYLORI,�GENERAL�ANESTHE- SIA,�LARYNGEAL�MASK�AIRWAY,�H.�PYLORI�ERADICATION Address correspondence to:Ryotaro�TANAKA,�Department�of�Dentistry�and�Maxillo-facial�Surgery,�Komatsu�Hospi- tal(E-mail:ryotaro₅@outlook.jp)

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