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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 理 学 ) 太 田 尚 志

    

学 位 論 文 題 名

Rational design

synthesis and characterization of influenza     hemagglutinin blocker based on cyclic gltcopeptides

(インフルエンザウイルスヘマグルチニン結合性環状糖ベプチドの分子設計)

学位論文内容の要旨

    インフルェンザは毎年、世界中で大流行し多くの死者を出す恐ろしい病気である。しか し頻繁に起こる抗原性変異が有効なワクチンや築の開発を困難にしている。従って早急な抗 インフルエンザ薬の開発や治療法が望まれている。インフルェンザの感染はウイルスのエン ベ口一プ表面に存在する糖夕ンパク質のマグルチニンが宿主細胞に存在するシアル酸を有す る糖鎖を認識することにより始まる。その後、同じく糖夕ンパク質であるノイラミニダーゼ と共同しェンドサイトソ亠シスにより宿主細胞に取り込まれ増殖を開始する。インフルェン ザの一連の感染経路で重要な役割を担っている機構は糖鎖一夕ンバク質問の特異的相互作用 であり、ウイルス感染以外にも受精、発生、分化、成長、老化、がん化、などの様々な機能 をその構造の違いにより制御する大変興味深い生命現象である。近年になって、この相互作 用に着目した新しい糖鎖医薬の開発研究が盛んに行われるようになった。その基礎となる概 念は、糖鎖―夕ンバク質問の特異的相互作用を人工的に合成した糖鎖誘導体(ブ口ッカー)

を用いて阻害し、ウイルスや毒素の宿主細胞への結合をブ口ックしようというものである。

糖鎖ブ口ッカーはターゲッ卜夕ンバク質の糖鎖結合部位は突然変異を起こしにくい、安全性 が高く分解されにくい、効果が高い等の有益な利点を多く持っため、近年このようなアプ口 ーチによる糖鎖リガンドの設計が積極的に行われ、ノイラミニダーゼ阻害剤、ベ口毒素ルガ ンド(スターフイッシュ)等の有用性の高い化合物が設計、合成された。特に現在使用され ているノイラミニダーゼ阻害剤(ザナミビルとその誘導体)は新しい糖鎖医薬として非常に 大きな成果を挙げた。このような糖鎖―夕ンパク質問の特異的相互作用を利用したブ口ッカ ーの設計にはいかに結合カの強い化合物を設計するかが鍵であるが、糖鎖ブ口ッカーの効カ は直接結合に関与する糖鎖の構造の他に、糖鎖部位周辺の環境(側鎖やスペーサーの構造、

電荷、多価性、配向等)が複雑に絡み合って発揮するため、あらかじめ予測することは困難 である。しかしこれまでの研究成果、知見を考慮しさらにコンピュータケミスト1」ーのカを 借りることによりこれまでにない、より理に適った高い効果が期待される糖鎖リガンドの設 計が可能となった。

  現在、実用化されている抗インフルエンザ薬はM2夕ンバクの阻害剤である塩酸アマンタジ ンとノイラミニダーゼブ口ッカーのザナミビルの二種類あるが、塩酸アマンタジンは効果が A型インフルェンザにのみであり副作用が大きい点から実際の使用から遠ざかっている。

一方、ノイラミニダーゼ阻害剤はごく最近実用化されたため、まだ耐性ウイルスの出現は見 られていないが、長期間に亘る使用に対して耐性ウイルスや副作用が現れる可能性がある。

したがって既存の薬とは異なる作用機構による抗インフルエンザ薬の開発が必要である。

  インフルエンザノイラミニダーゼと同じく膜糖夕ンバクであるへマグルチニンに対するブ 口ッカーはまだ実用化されていない。ヘマグルチニンブ口ッカーは初期感染に重要な役割を

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担うヘマグルチニンに着目し たブ口ッカーであるためノ イラミニダーゼ阻害剤と組み 合わせ た治療による効果上昇、また 耐性ウイルス出現の際での代替築としてその開発は有用である。

  本研究では 貫して糖鎖医 薬を指向した新しいヘマグ ルチニンブ□ッカーに着目し て研究 を行った。コンピュータモデ ルングによる分子設計、効 率のよい合成方法、糖鎖の配 置およ びその周りの構造が活性に与 える影響ついて検討した。 第・章では序論として生体内 での糖 鎖一 夕ン バク 質相 互 作用 に置 ける 糖鎖 の 役割 及びそれ を利用した糖鎖医薬について 過去の 様々な研究成果を基に説明し た。

  第二章ではコンピュータケ ミストルーを利用した新規 インフルエンザヘマグルチニ ンブ口 ッカーの設計について述べた 。これまでの知見で効果的 なブ口ッカーは様々なポリマ ー上に 多数のシアル酸を結合させた 化合物であり、シアル酸の 数(密度)を増加させること により 劇的に効果を上昇させること ができる(クラスター効果)。しかし合成ポリマーの安全性はま だ十分に調査されていないた め、実用化は難しい。そこ で私は生体内での使用に汎用 性の高 い環状ペプチドに注目した。 新規ブ口ッカーは、環状ベ プチドの土台にスベーサーを 介して GM3型 糖鎖 を 結合 させ た環状 糖ベプチドであルマグルチ ニンの構造特性を考慮して設 計した ため高い効果が期待できる化 合物である。

  第 三章 では 設計 し た環 状糖 ベプ チド の 化学 法と酵素 法を組み合わせた合成につい て述べ た。設計した環状糖ペプチド は糖鎖とぺプチドの化学的 性質の大きな違いから化学的 手法の みで合成することは非常に困 難である。そこで化学合成 法と酵素合成法を併用するこ とによ り、効率よく目的物質を合成 することに成功した。近年 、主流になりつっある固相法 による 環状ベプチドの簡便かつ効率 的な合成法についても述べ た。

  第四章では合成した環状糖 ベプチドの実際のへマグル チニンの阻害活性について述 べた。

活性は二種類の測定法により 行った。まず、はじめにへ マグルチニンの赤血球凝集阻 害活性 につて鳥赤血球を用いて行っ た。活性は糖鎖の本数に従 って高い効果が得られた。し かし土 台となる環状ベプチドの配列 により活性が異なる事が見 出された。次に表面共鳴プラ ズモン (SPR)法に よ って 合成 した化 合物の結合を解析した。こ の実験結果からも糖鎖の本数 以外に 環状ベプチドの配列が活性に 影響を与える事が示唆され た。

  第五章では第四章で得られ 活性について環状糖ペプチ ドの構造に関する視点から考 察を行 った。環状糖ペプチドの活性 がその土台となる環状ペプ チドの配列に依存することが 見出さ れた が、 環状 糖ベ プ チドの コンフォメーションが活性に 強く影響を与えていると仮 定しNMR による構造解析から安定構造 を算出し活性との相関につ いて述べた。強い活性を持つ 環状糖 ベ プ チ ド は 糖 鎖 が 同 じ 向 き に 配 向 し ヘ マ グ ル チ ニ ン の 効 率 す る こ と が 示 唆 さ れ た 。   第六章は第一章から第五章 までの総括として結果と考 察について手短に述べた後、 本研究 から導き出された結諭を述べ ている。本研究ではコンピ ュータモデリングを駆使し設 計した インフルエンザヘマグルチニ ンブ口ッカーとしての環状 糖ベプチドは、その簡便な合 成法と 活性結果から有用性が高い物 質であることを示した。ま たヘマグルチニン阻害活性は 土台の 環状ベプチドの配列に強く依 存する事を、様々な誘導体 のヘマグルチネーション阻害 活性お よび表面共鳴プラズモン分析 から明らかにした。さらに 環状ペプチドの配列が糖鎖の 立体構 造 に 影 響 を 与 え る が 故 に 活 性 に 差 が 生 じ る こ と をNMR構 造 解 析 か ら 示 し た 。

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨

主 査   教 授   西 村 紳 一 郎 副 査   教 授   新 田 勝 利 副 査   教 授   田 中   勲 副 査   助 教 授   門 出 健 次

     学位論文題名

Rational design ,synthesis and characterization of influenza   hemagglutinin blocker based on cyclic gltcopeptides

( イ ン フル エ ン ザ ウイ ル ス ヘマ グ ル チニ ン 結 合性 環 状 糖ベ プ チ ドの 分 子 設 計)

  インフルエンザは抗原性が年々変わるうえに、新型ウイルスが出現するため効果的な予防、治療法 が確立されていない厄介な伝染病である。インフルエンザの感染はウイルスのエンベロープ表面に存 在する糖タンパク質のマグルチニンが宿主細胞に存在するシアル酸を有する糖鎖を認識することによ り始まる。その後、同じく糖タンパク質であるノイラミニダーゼと共同しエンドサイトソーシスによ り宿主細胞に取り込まれ増殖を開始する。インフルエンザの一連の感染経路で重要な役割を担ってい る機構は糖鎖―タンパク質問の特異的相互作用であり、ウイルス感染以外にも受精、発生、分化、成 長、老化、がん化、などの様々な機能をその構造の違いにより制御する大変興味深い生命現象である。

近年になって、この相互作用に着目した新しい糖鎖医薬の開発研究が盛んに行われるようになった。

その基礎となる概念は、糖鎖一タンパク質問の特異的相互作用を人工的に合成した糖鎖誘導体(ブロ ッカー)を用いて阻害し、ウイルスや毒素の宿主細胞への結合をブロックしようというものである。

糖鎖ブロッカーはターゲットタンパク質の糖鎖結合部位は突然変異を起こしにくい、安全性、効果が 高い等の有益な利点を多く持っため、近年このようなアプローチによる糖鎖リガンドの設計が積極的 に行われてきた。特に現在使用されているノイラミニダーゼ阻害剤(ザナミビルとその誘導体)は新 しい糖鎖医薬として非常に大きな成果を挙げた。このような糖鎖一タンパク質問の特異的相互作用を 利用したブロッカーの設計にはいかに結合カの強い化合物を設計するかが鍵であるが、糖鎖ブロッカ ーの効カは直接結合に関与する糖鎖の構造の他に、糖鎖部位周辺の環境(側鎖やスペーサーの構造、

電荷、多価性、配向等)が複雑に絡み合って発揮するため、あらかじめ予測することは困難である。

しかしこれまでの研究成果、知見を考慮しさらにコンピュータケミストリーのカを借りることにより これま でにな い、より 理に適 った高い 効果が期待される糖鎖リガンドの設計が可能となった。

  現在、実用化されている抗インフルエンザ薬はM2タンパクの阻害剤である塩酸アマンタジンとノイ ラミニダーゼブロッカーの二種類あるが、塩酸アマンタジンは効果がA型インフルエンザにのみであ り副作用が大きいという欠点がある。一方、ノイラミニダーゼ阻害剤はごく最近実用化されたため、

まだ耐性ウイルスの出現は見られていないが、長期間に亘る使用に対して耐性ウイルスや副作用が現 れる可能性がある。したがって既存の薬とは異なる作用機構による抗インフルエンザ薬の開発が必要 である。

  インフルエンザノイラミニダーゼと同じく膜糖タンパクであるへマグルチニンに対するブロッカー はまだ実用化されていない。ヘマグルチニンブロッカーは初期感染に重要な役割を担うへマグルチニ

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ンに着目したブロッカーであるためノイラミニダーゼ阻害剤と組み合わせた治療による効果上昇、ま た耐性ウイルス出現の際での代替薬としてその開発は有用である。

  そこで本研究では一貫して糖鎖医薬を指向した新しいへマグルチニンブロッカーに着目して研究を 行った。コンピュータモデリングによる分子設計、効率のよぃ合成方法、糖鎖の配置およびその周り の構造が活性に与える影響っいて検討した。

  ヘマグルチニンは三量体糖タンパクであり、単量体のそれぞれに一辺が約40Aの三角形上にシア ル酸結合部位が存在する。本研究ではこれらの特徴を踏まえ新しいへマグルニンブロッカーとして環 状糖ペプチドを設計した。設計した環状糖ペプチドはコンピュータシュミレーションの結果、ヘマグ ルチニンブロッカーとして合理的な構造を持つことを示した。設計した環状糖ペプチドは、化学法と 酵素法を併用して効率的に合成した。糖鎖とペプチドの性質の違いから化学法のみだと合成が極めて 困難である糖ペプチドを、一級アミンとグルタミンの側鎖を架橋させる酵素のトランスグルタミナー ゼを用いて簡便に合成することに成功した。この際、環状ペプチドを合成する必要があるが、液相法 では 大変 手間 と時 間が 掛か る合 成を 、環 化 反応 を含 めた 固相 法に より 効率 的に 達成 した。

  合成した環状糖ペプチドの阻害活性を赤血球凝集活性及び表面共鳴プラズモン法により評価した。

活性は糖鎖の本数に従って高い効果が得られた。しかし土台となる環状ペプチドの配列により活性が 異なる事が見出された。この実験結果から糖鎖の本数以外に環状ペプチドの配列が活性に影響を与え る事が示唆された。

  二種類の活性実験から、活性は環状糖ペプチドの土台となる環状ペプチドの配列に依存することが 示唆された。そこで環状糖ペプチドのコンフォメーションが活性に強く影響を与えていると仮定しNMR による構造解析から安定構造を算出し活性との相関について調べた。その結果、強い活性を持つ環状 糖ペプチドは糖鎖が同じ向きに環の外側に配向し、活性を持たない環状糖ペプチドにはそのような効 果がないことを示した。すなわち活性を持つ環状糖ペプチドは効率よくへマグルチニンに結合するこ とが示唆された。この結果から活性の違いは糖鎖の向きが重要であり、それを司る要因に環状ペプチ ドの配列が重要な因子であることを明らかにした。

  これを要するに、著者は、インフルエンザヘマ グルチニンプロッカーについて設計、合成、

活性 相関 の新 知見 を得 たも ので あり、様々な疾患に対しての新しい糖鎖医薬開 発に貢献する ところ大擬るものがある。

    よっ て著 者は 、北 海道 大学 博士 (理 学 )の 学位 を授 与さ れる 資格 ある もの と認 める。

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参照

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