博 士 ( 工 学 ) 生 明 清
学 位 論 文 題 名
Studies on Structure and Carbonization Reaction of Pitches by High‑Temperature Magnetic Resonance Spectroscopies
( 高 温 磁 気 共 鳴 分 光 法 に よ る ピ ッ チ 類 の 構 造 お よ び 炭 素 化 反 応 に 関 す る 研 究 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
本 論 文 は 、 高 温 磁 気 共 鳴 分 光 法 が 従 来 か ら 用 い ら れ た 種 々 の 機 器 分 析 法 に 比 べ て 多 く の 特 徴 を 有 す る こ と に 着 目 し 、 ポ リ ェ チ レ ン の 微 細 構 造 、 石 油 系 ピ ッ チ お よ び 石 炭 の 構 造 、 熱 分 解 ・ 炭 素 化 反 応 に つ い て 研 究 を 行 っ た 成 果 を 纏 め た も の で あ り9章 よ り 構 成 さ れ て い る 。
第1章 は 緒 言 で あ り 、 本 研 究 の 関 連 分 野 を 概 括 す る と 共 に 解 明 す べ き 諸 点 を 摘 出 し た 。 併 せ て 本 研 究 の 目 的 を 述 べ て い る 。
第2章 で は ポ リ ェ チ レ ン の ミ ク ロ 構 造 に つ い て 述 べ た 。 ポ リ ェ チ レ ン 生 産 量 中 の6割 を 占 め る 低 密 度 ポ リ エ チ レ ン (LDPE) は 、 微 量 の 分 岐 構 造 、 分 岐 構 造 と 重 合 機 構 と の 関 係 が 必 ず し も 明 確 に は さ れ て い な い 。LDPEの 高 温13C−NMR測 定 条 件 の 最 適 化 を 行 っ た 結 果 、 主 鎖 メ チ レ ン 炭 素 ピ ー ク に つ い て 約10000と い う 高 いS/Nを 得 る こ と が で き た 。 こ の ス ペ ク ト ル を モ デ ル コ ポ リ マ ー 実 測 値 お よ びLindeロan一Adamsの経 験則 を併 用し て 解 析 し た 結 果 、 こ れ ま で に 知 ら れ て い る 孤 立 型 分 岐 種 の ピ ー ク 以 外 の 微 小 な ピ ー ク は 、2 次 お よ ぴ3次 の 連 続back−biting反 応 に よ り 生 成 す る 複 合 型 分 岐 種 に 帰 属 で き た 。 分 岐 末 端 部 の 炭 素 に っ い て モ デ ル コ ポ リ マ ー 実 測 値 を 基 準 値 と し 定 量 分 析 を 行 い 、4官 能 型C2、 4官 能 型 以 外 の C2お よ びC4の 相 対 濃 度 か ら LDPEの 分 岐 生 成 反 応 は 1次 の back← bitingが 主 要 な も の で あ る こ と を 明 ら か に で き た 。2次 、3次 、4次 と い っ た 多 次 の 連 続 back← bitingも 大 き な 割 合 を 占 め て い る こ と も 併 せ て 明 ら か に で き た 。 第3章 で は 、 石 油 系 ピ ッ チ の 加 熱 処 理 過 程 に お け る メ ソ フ ェ ー ズ の 球 晶 の 発 生 、 成 長 に つ い て in− situ高 温 1H− NMRお よ び ESRに よ り 検 討 し た 。 高 温1HーNMRス ペ ク ト ル の 半 価 幅 を 測 定 す る こ と に よ ル メ ソ フ ェ ー ズ 胚 芽 の 核 発 生 をin一situで 捉 え た 。 メ ソ フ ェ ー ズ へ の 転 移 現 象 は 種 々 の ピ ッ チ に つ い て 芳 香 族 水 素 分 率 あ る い は ス ピ ン 濃 度 に 関 し ほ ぼ 同 じ レ ベ ル で 起 こ る こ と を 見 出 し た 。ESRス ピ ン ロ ー ブ 法 に よ っ て 、 メ ソ フ ェ ー ズ 転 移 以 前 の メ ソ フ ェ ー ズ 胚 芽 の 核 発 生 お よ び 冷 却 過 程 に お け る メ ソ フ ェ ー ズ の 生 成 を 検 出 で き る こ と を 見 出 し た 。 冷 却 過 程 に お け る 粘 性 と 生 成 し た メ ソ フ ェ ー ズ 球 晶 の 大 き さ と の 間 に 密 接 な 関 係 が あ る 可 能 性 を 示 し た 。
第4章 で は 高 温13C―NMRに よ り 石 炭 系 ピ ッ チ お よ び 石 油 系 ピ ッ チ 数 種 の メ ソ フ ェ ー ズ 生 成 過 程 をin―situで 観 測 し 検 討 し た 。430℃ に お け る 石 炭 系 ピ ッ チ 及 び 未 処 理 の 石 油 系 ピ ッ チ の メ ソ フ ェ ー ズ 出 現 ま で の 所 要 時 間 は ほ ぼ 同 じ で 水 素 化 石 油 系 ピ ッ チ に 比 べ る
と短いこと、また未処理あるいは水素化いずれの石油系ピッチのメソフェーズの出現から 転移終了までの所要時間はほぼ同じで石炭系ピッチに比べると短いことを見出した。石油 系ピッチのメソフェーズ出現に関し脂肪族炭素含量の臨界領域が存在することを明らかに した。メソフェーズの出現から転移終了までの所要時間はミ積層した芳香旗平面分子中の 炭素に帰属される180 ppmのピークの半価幅と相関があることを見出した。メソフェーズ 中の分子の脂肪族炭素はメソフェーズの流動性増加及びメソフェーズに特徴的な180 ppm のピークの先鋭化を弓fき起こしていることを示した。
第5章 では 高 温1。C―NMRによ り390℃加 熱処理過程 における石 油系ピッチ の化学 構造変化、分子運動の変化およぴメソフェーズ生成過程をin−situで定量的に観測し検討 した。本法によルメソフェーズ生成の極く初期段階が観測でき、また長鎖脂肪族基および メチル基の炭素領域のスペクトル変化から脂肪族構造の変化を明瞭に捉えることができた。
この炭素化初期過程を5段階に分割しそれぞれの段階を特徴づけた。化学構造変化および 分子運 動の変化は メソフェーズ転移現象と密接な関係があることも併せて見出した。
第6章ではinーsitu高 温13C−NMRから得ら れたデータを基に石油系ピッチのメソフ エーズ生成過程の速度論的解析を行った。研究対象となった石油系ピッチのメソフェーズ 生 成過 程 は自 己 触媒 型 の反 応過 程であるこ とを明らか にした。390℃、410℃及び4 30℃におけるメソフェーズ生成過程の速度式および速度定数を決定した。メソフェーズ 生成過 程の速度定 数はアレニ ウス式に従 うことを見 出し、活性 化工ネルギ ー237 kJ mol‑1及ぴ頻度因子2.59xl016 X,‑l h‑lを決定した。
第7章では水素化により原料石油系ピッチの化学構造およぴその特性を変えた場合の、
メソフェーズ生成機構に与える影響およぴ生成したメソフェーズピッチの特性変化を高温 13CーNMR、 固 体 高 分 解 能13C−NMR、DSCお よ び 水 素 移 動 特 性 に よ り 検 討 し た 。 水素化処理は高温における水素移動能の増大およびメソフェーズ生成温度の高温シフトを 弓「き起こすこと示した。DSCによルメソフェーズピッチの分子サイズの特徴を測定する ことに成功した。水素化処理による水素移動能の増大により平均の分子サイズがより小さ くしかも分子サイズ分布が均質なメソフェーズが生成する。メソフェーズの分子サイズの 減少は 液体状態で の13C―NMRスペクト ル中のメソフェーズに特徴的な180 ppmのピー クの先鋭化を引き起こしている可能性を示した。
第8章では石油系ピッチで適用したin―.situ高温13C−NMR法をピッチよりさらに複 雑な構造をもつ石炭について炭素化初期過程における化学構造変化および分子運動の変化 を検討 することに 応用した。連続的に測定したin−situ高温13C−NMRスペクトルから 炭素化初期過程における特徴的な温度を決定することができた。ピークの半価幅が最小に なる温度および軟化点から半価幅最小点までの温度幅は研究対象となった石炭4種のうち の石炭化度の低い方から3番目までの石炭について石炭化度と相関があることを見出した。
酸化炭の加熱処理過程における分解反応あるいは高分子化反応に対し石炭中の脂肪族炭素 が大きな役割を果たしていることを示した。
第9章は2章かち8章までに得られた実験結果を総括し、複雑な分子集団、そ.れら反応 系 の 研 究 に 高 温 磁 気 共 鳴 法 が 有 用 な 分 析 法 で あ る こ と を 述 べ た 。
学位論文審査の要旨 主査,教授 真
副査 教授 稲 副査 教授 堤 副査 教授 千
田 雄 三 垣 道 夫 耀 広 葉 忠 俊
学 位 論 文 題 名
Studies on Structure and Carbonization Reaction of Pitches by High‑Temperature Magnetic Resonance Spectroscopies
(高温磁気共鳴分光法によるピッチ類の構造および炭素化反応に関する研究)
炭素繊維は最先端の工業材料として高いポテンシャルを有している。とくに石油 系ピッチを前駆体とする高弾性炭素繊維は宇宙、航空機関連分野への応用が期待さ れている。
本論文は炭素繊維の製造原料とナょる石油系ピッチの構造と炭素化反応の解明を目 的として新しい手法である磁気共鳴法を用いた研究の結果を纏めたもので、その主 要な成果は次の点に要約される。
(1)複雑な化学構造を有する芳香族炭化水素化合物の混合体である石油系ピッチの 組成と化学構造を解明する手法として高温磁気共鳴分光法に着目した。まず13Cー NMRによって分解能の高いスペクトルをうる諸条件をポリエチレンを試料として 検討し、結合炭素の種類とその分布について詳細に解析できることを証明した。
(2)高温核磁気共鳴分光法(IH−,I。CーNMR)を用いて石油系ピッチの加熱処 理過程に おけるメソ フェーズ球 晶核の発生 をin−situで捉える ことに成功し た。また、光学的等方性のピッチから光学的異方性メソフェーズへの転移はピッチ 中の芳香族水素分率、スピン濃度の関数として表わされることを明らかにしている。
(3)in−situ高温ESR、スピンプローブ法により石油系ピッチの加熱処理過程に おけ る メソ フ ェ ーズ の 球晶 の 発生 、 成長 を モニ タ ーで き るこ とを示し た。
(4)メソフェーズ球晶の生成、成長、合体に関し、1°C一NMRスペクトルの化学 シフトとその巾と系中の構成分子集団の分子構造、分子運動とを関連づけている。
ESRスピン口一ブ法によって、メソフェーズ転移以前のメソフェーズ胚芽の核発
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生および冷却過程におけるメソフェ―ズの生成を検出できることを併せて見出した。
石 油系 ピッ チのメ ソフェーズ出現に関し脂肪族炭素含量の臨界領域が存在すること を 明ら かに した。 メソフェーズの出現から転移終了までの所要時間は、積層した芳 香 族平 面分 子中の 炭素に帰属されるピークの半価幅と相関があることを見出した。
(5) 高温13C―NMRス ペ クト ルの 温度 、時 間依 存性 を詳 細に しら べ、 メソ フェー ズ 生成 過程 を自己 触媒型反応として整理できることを示した。メソフェーズ生成過 程 の 速 度 定 数 は ア レ ニ ウ ス 式 に 従 う こ と を 見 出 し 、 活 性 化 エネ ル ギ ー237 kJ mol・l及び頻度因子2.59xl016%― ̄ h‑lを決定した。速度定数、活性化エネルギー 値 は 、 製 造 技 術 の 基 礎 デ ー タ と な る も の で あ り 、 そ の 意 義 は極 め て 大 き い 。
(6)水素化により原料石油系ピッチの化学構造およびその特性を変えた場合の、メ ソ フェ ーズ 生成機 構に与える影響および生成したメソフェーズピッチの特性変化を 高 温  ̄ 。C−NMRの ほ か に 、 固 体 高 分 解 能13C―NMR、DSCお よ び 水 素 移 動 特 性 を併 用し て検討 している。水素化処理は高温における水素移動能の増大およびメ ソ フ ェ ー ズ 生 成 温 度 の 高温 シフ トを 引き 起こ すこと を明 らか にし た。DSCによル メ ソフ ェー ズピッ チの分子サイズの特徴を測定することに成功している。また石油 系 ピッ チよ りもは るかに複雑な石炭の熱分解についても高温磁気共鳴法を応用し数 々の有用な情報を導いている。
これ を要 するに 著者は高温磁気共鳴分光法を応用し高性能炭素繊維の前駆体であ る ピッ チの 構造と 炭素化反応に関して新知見を得たものであり、機器分析化学、炭 素材料工学の進歩に貢献するところ大なるものがある。
よっ て、 著者は 、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認 める。
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