• 検索結果がありません。

博 士 ( 法 学 ) 林 田 清 明

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "博 士 ( 法 学 ) 林 田 清 明"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

博 士 ( 法 学 ) 林 田 清 明

     学 位 論 文 題 名

《法と経済学》の法論理 学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  本研究は,ミクロ経済学のアプローチを法律に適用する((法と経済学))の展開と可 能 性 を 検 討 す る 。 近 年 の 経 済 学 の 発 展 の 影 響を 受 け て 《 法 と経 済学 》は1960年代 は じめ にア メリ カに おい て誕生した。市場理論や需要・供給理論から法律を説明する ことは広くは社会的行動領域への応用のーつでもある。

  本研究は,((法と経済学》の実証的分析よりも,法理論としての《法と経済学》に 着 目す るも ので ある 。不 法行為や独占禁止法をはじめとして《法と経済学》の具体的 な 適用 領域 が広 がり ,ま た法学方法としての性格がクローズアップされるにっれて,

法 学の 根本 的な 問題 であ る法解釈や法的理由づけ(法的推論)や正義論など法理論と しての((法と経済学))の問題が近年議論されるようになった。また,これまでの((法 と経済学))の紹介や研究は,そのある側面の特徴や個別的なテーマなどに限られてい た。本研究はこれまで議論の少なかった《法と経済学》の法理論の面に焦点を当てた。

  《法 と経 済学 》に 対し ては,伝統的な法学の立場から多くの疑問や批判が投げかけ ら れて きた 。法 律は そも そも異質と考えられる経済学を受け入れうるものか。伝統的 に 法律 は正 義や 公平 とい った価値を目標にしているのであって,経済学の需要や供給 と いう 道具 では 説明 しき れないのではないか。法律の判断に経済学的な理由づけや推 論 (リ ーズ ニン グ) を持 ち込むことによって,かえって不都合は生じないか,などで ある。そこで,本研究の目的は,第一に,((法と経済学))とは何かである。第二に,

《法と経済学))はなぜ可能かである。その基礎や根拠に目を向け,とくに法学で問題 とされる正義(論)にどのようにアプローチするかを議論する。‐第三の目的は,((法 と経済学》は実際に使えるかという実践的な課題を検討する。

  第一部においては((法と経済学))が何であるかを検討するために,第1章では,《法 と 経済 学》 や法 の経 済分 析の誕生と展開をその法理論の潮流や背景から説明した。ま た ,第2章で は, 実際 の事 件や 例に どの よう に適 用さ れるかを見るために,これまで の 法学 と特 徴的 に異 なっ て《法と経済学》が持っている分析方法や分析モデルに焦点 を 当て た。 市場 理論 から の分析モデルを元にここでは取引法と不法行為法を対象とし て ,取 引費 用, コー スの 定理,事故の抑止などを用いて分析した。その上で,これら の 私 法 規 範 が 資 源 配 分 の 効 率 性 と 密 接 に 関 連 し て い る こ と を 明 ら か に し た 。   第3章 は, 正義 の問 題を 扱う こと によ って 《法 と経 済学》の哲学的・規範的な基礎 を明らかにしようとした。第一に,法律にいう正義と《法と経済学))のアプローチの 違 いを 扱っ てい る。 《法 と経済学》論者の問にも,効率性と並んで正義・公平・公正

(2)

など の非 経済 的価 値を 認め る立 場と,これらの非経済的価値を考慮せずに効率性を中 心に考える立場がある。しかし,伝統的に正義として扱われてきたものの多くは,((法 と 経 済 学 ) ) の 視 点 か ら は 資 源 の 配 分 の 効 率 性 に 関 わ る も の で あ る 。

  

第二に,((法と経済学》の規範的基礎の問題を取り上げている。なかでもR .ドゥオ ーキ ンら の議 論を 通し て《 法と 経済学》の規範的基礎としての効率性やR. ポズナーの いわゆる富の最大化概念の持つ意味と問題点を検討している。

  

2

部 では ,法律 学に 根本 的な 問題 であ る法 的推 論や 法解 釈の問題を取り上げて,

これ を法 的推 論の 性質 ,法 的推 論の在り方それに法的推論・法解釈の方法の三つの観 点か ら検 討を 進め た。 第4 章 は, 伝統 法学 でも 多く の議 論が ある法解釈や法的推論の 性質を明らかにしている。そこでは,法的推論は論理や類推などによる推論ではなく,

広くは実践的推論であることを明らかにした。

  

っ ぎに ,《 法と 経済 学》 は法 解釈の理論や法的推論をどのように考えるのかを扱つ ている。((法と経済学))は,実践的推論の立場に立って(新)プラグマティズム法学 とし ての 特徴 を明 らか にし てい る。実践的推論自体は閉じられたものではなく,道徳 的 立 場 や より 科学 的な 立場 を志 向する 立場 まで 含み うる 様々 な方 法の いわ ば寄 せ集 めで ある 。こ のた め実 践的 推論 はフレクシブルであるが,経済学的な推論もこの中に 含めることができる。

  

《 法と 経済 学》 学者 とく にポ ズナーは,法学において実践的推論を明確にとるプラ グマ ティズム法学(0 .W .ホームズ以来の,とくにB .N. カドーゾらの方法)にその方 法を 位置 づけ てい る。 プラ グマ ティズム法学の立場をとるのは,第一に,ホームズの 有名 な「 法の 生命 は論 理で はな く,経験である」の言が示唆するように問題を具体的 にか つ経 験的 に見 るこ とが でき る。第二に,論理や科学的観察では解決することので きな い法 的な 問題 に対 して ,社 会的な必要に応じた確信を形成することができる,な どがあげられる。

  

《 法と 経済 学》 は法 解釈 や法 的推論のレベルにおいても具体的な理論を提案する必 要が ある 。こ のた めに ,第

5

章は ,制 定法 の解 釈に つい て経 済学や公共選択理論の成 果に 基づ いた 立法 の経 済理 論を 展開した。伝統的な立法観は,私心なき立法者・議員 が公 共目 的や 公共 善な ど合 理的 目的のために合理的に制定されているという(H .M . ハート.A.M. サックスによる公益目的説)。これに対して,近時の立法め経済理論は,

政 治 市 場 にお いて 立法 者と 特別 利益集 団と の間 の政 治的 取引 の結 果と して 多く の法 律は 制定 され てい ると する 。こ の立法の経済理論は,どのように制定法を解釈・適用 す る べ き かな ど民 主制 の中 での 司法や 裁判 所の 役割 をあ らた めて 問い 直し てい る。

  

っ ぎ に ,集 団的 意思 決定 ある いは社 会的 ・公 共的 意思 決定 にお いて はK. アロ ーの 一般不可能性定理が支配しており,このため集団的意思決定や公共的選択は循環する。

この 定理 は複 数の 裁判 官が 介在 する司法による判断にも当てはまるため,公共選択理 論を取り入れた法解釈のあり方に焦点を当てた。この検討によって,((法と経済学))

は 裁 判 所 によ る法 的推 論や 法解 釈のあ り方 を判 例お よび 立法 の理 論に 基づ いた 類型

の中 から 明ら かに して いる 。さ らに,司法権の独立,憲法の解釈さらに法解釈の正当

性・ 客観 性な どに つい て経 済学 的説明を用いて分析した。わが国では未開拓の公共選

(3)

択理論による示唆が持つ意義は大きいといえよう。

  結論 として, 《法と経済 学》では ,法律は 私たち人 間のニーズに応え,それを実現 するための道具であると考える。この意味では((法と経済学))は道具主義的であり,

実践的課題に応えるというプラグマティックな性格を持っている。第二に,((法と経 済学》は,社会において法が果たしている役割を理解する基礎を提供することができ,

法律をよルダイナミックに捉えることを可能にする。第三に,((法と経済学))はわが 国の 伝統的な 法学とは基 本的な点 で異なる が,この 世界が資源の稀少な世界である以 上経 済学や経 済学的分析 を避けて 通ること はできず ,それはまた法や法学を知る上で は有益なパースペクティヴと理論をもたらすものである。

(4)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

《法と経済学》の法論理

  この研究は法理論としての((法と経済学))に着目し、ミクロ経済学のアプローチの法律へ の 適 用 、すな わち《法 と経済 学》の展 開と可 能性を検 討した ものであ る。第1部に おいては ま ず、効率 性が法 制度評価 の基準で あり、 著者が主 として 取り上げ る私法についていえば、

裁 判所は市 場を中 心とする 私法で経 済的効 率性を押 し進め ているこ とを述べる。次に公序良 俗 違反、錯 誤、詐 欺・強迫 、物権変 動の対 抗問題、 権利濫 用、不法 行為法(過失責任)など に ついて、 市場理 論からの 分析モデ ルをも とに、取 引費用 、コース の定理、事故の抑止など を 用いて分 析した うえで、 これらの 私法規 範が資源 配分の 効率性と 密接に関連していること を明らかにしている。次に著者は、正義の問題を扱うことによって((法と経済学))の哲学的・

規 範的な基 礎を明 らかにし ようとし ている 。っまり 、効率 性と公平 (正義を含む)は実現さ れ る べ き2大目標で あるが 、前者は 市場が 、後者は 立法府が 担って いるので あり、 市場の枠 組 みを与え る私法 は効率性 が主目標 である 。しかも 、正義 ・公平は 効率性とトレードオフの 関 係にある から、 たとえ正 義(分配 )を考 慮する場 合にも 効率性は 無視されてはならないの で あ る 。第2部にお いては 、著者は 、法解 釈におけ る実践的 推論の 重要性を 指摘し 、それを 反 映する法 律学と してプラグマティズム法学を評価しつつ、その現代的な一形態として((法 と 経済学》 を捉え ようとし ている。 著者に よれば、 いわゆ る判決三 段論法、利益考量、経験 科 学的認識 などは 、法的推 論におい てはさ ほど重要 な意義 をもって いるわけではない。なぜ な ら、法は 実践そ のもので あるから である 。従って 、法的 推論の真 の姿を捉えるためには実 践 的推論と いう人 間独自の営為に目を向ける必要がある。実践的推論は、内省・想像・常識・

共 感・権威 ・隠喩 ・類推・ 慣習・記 憶・帰 納などの 複合体 であり、 それは前向きで革新的、

か つ同時に 緻密な 法実践を可能にするものである.。このような見方はプラグマティズムの再 評 価にっな がって おり、偏 狭な科学 主義、 法本質主 義、形 式主義な どの既存の法律学の陥穽 を否定し、将来にわたる政策的な展望を開くものである。そして((法と経済学))は、このよ う な視点に 適合的 な法理論 である。 続いて 著者は、 制定法 の解釈に ついて公共選択論の成果 に 基づいた 立法の 経済理論 に依拠し 、政治 市場にお ける立 法者と特 別利益集団との問の政治 的 取引の結 果とし て多くの 法律は制 定され ていると する。 この立法 の経済理論は,どのよう に 制定法を 解釈・ 適用する べきかな ど民主 制の中で の司法 や裁判所 の役割をあらためて問い 直 している 。この ような立 場に立て ば裁判 所は立法 府の代 理人であ り、立法府と利益集団と     ーー47ー

毅 晃

村 下

     

松 木

授 授

教 教

査 査

主 副

(5)

の問で 合意した 取引を 実行する 役目を負 ってい る。しか しその 取引は妥 協の産 物であるから しばし ば立法者 の意図 は見えに くくなっ ている から、そ の場合 には利益 と費用 の分散集中を 考慮すべきだとする。そして著者は最後に、《法と経済学))の有用性は(i)道具主義的であり、

実践的 課題に応 えると ぃうプラ グマティ ックな 性格を持 ってい ること、(ii)法律をダイナミ ックに 捉えるこ とを可 能にする こと、(iii)現実 世界が資源の稀少な世界である以上、法や法 学 を 知 る 上 で は 有 益 な パ ー ス ペ ク テ ィ ヴ と 理 論 を も た ら す も の で あ る と 述 べ る 。   これま での日本 の紹介 や研究は、((法と経済学》のある側面の特徴や個別的なテーマなど に限ら れていた 。この 研究は《 法と経済 学》の 観点から の日本 人の研究 者の初 めての包括的 な研究 である。 この研 究は公共 選択論( 立法の 経済学) も視野 に入れつ つ書か れた論文であ り、問 題関心も 法と経 済学で一 貫してい る。必 ずしも新 しい知 見がちり ばめら れているとい うわけ ではなぃ が、ア メリカに おける法 と経済 学の文献 を徹底 的に渉猟 咀嚼し 、その結果と して高 度に統合 された 論文であ る。問題 の経済 学的、数 学的フ オーマラ イゼイ ションには若 干の問 題がある が、当 該の問題 の理論的 実践的 インプリ ケーシ ョンは的 確に示 されていて、

法学者 の論文と しては 十分であると思われる。さらに、従来の((法と経済学》には見られな かった 法的推論 の様式 、特に実 践的推論 と解釈 的視点へ の着目 は重要で あるだ ろう。従って 結諭と して、《 法と経 済学))のモデルで、法制度全体(すなわちアメリカ法のみならず日本 法も、 さらに解 釈の方 法論につ いても) の説明 が可能で あるこ とを示し たとい う点でこの研 究は重 要であり 、高く 評価する ことがで き、法 学博士の 学位を 授与する に相当 であると判断 した。

参照

関連したドキュメント

これは基礎論的研究に端を発しつつ、計算機科学寄りの論理学の中で発展してきたもので ある。広義の構成主義者は、哲学思想や基礎論的な立場に縛られず、それどころかいわゆ

この問題をふまえ、インド政府は、以下に定める表に記載のように、29 の連邦労働法をまとめて四つ の連邦法、具体的には、①2020 年労使関係法(Industrial

経済学研究科は、経済学の高等教育機関として研究者を

るものとし︑出版法三一条および新聞紙法四五条は被告人にこの法律上の推定をくつがえすための反證を許すもので

と判示している︒更に︑最後に︑﹁本件が同法の範囲内にないとすれば︑

 自然科学の場合、実験や観測などによって「防御帯」の

 処分の違法を主張したとしても、処分の効力あるいは法効果を争うことに

少子化と独立行政法人化という二つのうね りが,今,大学に大きな変革を迫ってきてい