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博 士 ( 工 学 ) 鬼 柳 善 明

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Academic year: 2021

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博 士 ( 工 学 ) 鬼 柳 善 明

学 位 論 文 題 名

高 性 能 ス ポ レ ー シ ョ ン パ ル ス 中 性 子 源 の      中 性 子 工 学 に 関 す る 研 究

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  中性子散乱は凝集体(液体や固体)の原子・分子レベルでの構造およびそれらの運動を調べる 上で最も重要な手法のーっである。中性子散乱実験は原子炉または加速器中性子源を用いて行わ れている。原子炉は技術的問題から中性子強度増が困難となっているが,加速器中性子源の方は 中工ネルギ 一陽子(0. 5〜3GeV)を用いた核破砕(スポレーション)反応による強力中性子源

(スポレーション中性子源)が作られるようになり,最近は原子炉に代わるものとして重要視さ れてきている。既に,0. 5GeV陽子を用いる小中強度施設,0.8GeV陽子を用いる大強度施設が 日本におよび欧米で各2施設稼働している。しかし,大強度施設では陽子ビ―厶出カの増加分に 見合う中性子強度増が得られていないのが現状である。更に強度の高いスポレーション中性子源 の建設が我国および欧米で計画されており,既存の施設に比べはるかに効率の高い中性子源を開 発することが強く望まれている。

  本研究は高性能スポレーションパルス中性子源実現のために,減速材集合体(夕ーゲット・減 速材・反射体からなるシステム)の中性子工学にっいて実験および数値解析による検討を行い,

その最適化を行うとともに,特に高性能パルス冷中性子源を開発することを目的としているゴ   第1章では物質研究における中性子の有用性とスポレーション強中性子源の必要性及びその現 状,さらにこれまでの研究と本論文の目的にっいて記述する。

  第2章では中性子散乱実験の概要および中性子散乱研究用減速材集合体の性能を評価するため の指標として用いられる利得指数にっいて述べる。

  第3章ではスポレーション夕一ゲットに関する検討を数値計算によって行う。陽子工ネルギー をO.5から3 GeVまで変えた場合に中性子収量がどうなるかを,夕ーゲット材料,形状,サイズ を種々変えて検討した。ターゲット物質として,核分裂性物質である劣化ウランと種々の非核分 裂性物質にっいて調べ,後者のなかではタングステン,金が良い特性を持っこと,有効な夕一ゲッ トサイズおよびターゲットと減速材の最適配置を明らかにした。また,減速材から放出される低

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工ネルギ―中性子強度の陽子工ネルギー依存性を調べ,これまで不利と考えられていた3 GeV でも有用であることを示した。

  第4章では熱中性子減速材にっいて検討する。従来から用いられてきているウィンク配置減速 材の中性子特性を測定し,スラプ配置のものと比較した。ウィング配置減速材の最適厚さはスラ ブ配置と比べてかなり違っており,これまでスラブ配置のデータをもとに設計を行ってきた傾向 があったが,ウィング配置のデータにもとづく最適設計を行う必要があることを明らかにした。

また,ウィング配置減速材の性能は総合的に判断すると,スラブ配置と比べてそれほど劣ってい ないことが示された。従って,実験室内の放射線レベルが非常に高くなることが避けられないス ラブ配置を,強度を上げる目的のためだけに無理に採用することは得策ではないと考えられる。

新しい型の配置であるフラックストラップ型減速材にっいて,数値計算によって種々最適化を 行った。この減速材の強度はウィング配置のものと同程度であるが,より高い強度を得るための 種々の工夫を取り入れることができ,ウィングと比較して約1.5倍まで強度が上げられることを 示した。この値はスラブ配置と同程度の強度であり,しかも放射線レベルを上げるという欠点が ないため,垂直陽子ビ―ム人射と組み合わせたフラックストラップ型は有用な配置であることが 明らかとなった。

  減速材の中性子特性をより深く理解するために,減速材における中性子輸送過程を,ソース分 布と減速材中での中性子輸送過程に分けて数値解析により調べた。その結果,ウィング及びスラ ブ配置減速材における中性子特性を支配する要因が明らかとなった。ここで得られた知見は,体 系の異なる 減速材集合体における中性子 輸送過程を理解する上でも 役立っと考えられる。

  第5章では反射体の効果を実験及び数値計算によって調べ,最適材料にっいて検討する。反射 体効果は減速材の大きさ,ターゲットで発生する中性子の空間分布によって影響を受けることが 明らかとなった。これによって,これまでそれぞれの実験あるいは計算で矛盾した結果が報告さ れていた反射体の最適化にっいて,統一した説明ができるようになった。一般に,反射体材料と しては減速が弱くマクロ断面積が大きい物質が良い特性を示すことを明らかにした。放出中性子 の時間分布は,反射体によっては大きな影響を受けず,デカップラーをっけた場合には変わらな いことが分かった。具体的な反射体材料としてはこれまで考えられていなかった鉄,二ッケルな どが良い特性を持っており,デカップリングエネルギーが低い場合には,従来用いられてきたべ りりウムが良い反射体であることが示された。

  第6章では高性能パルス冷中性子源の開発研究にっいて述べる。現在最も中性子特性が優れて いると考えられている20K固体メタン冷中性子源は,放射線損傷のために強力中性子源では使用

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で きない 。そ れに代 わるも のとし てデカ ップ リング 型の液 体水素 減速 材が使 用されているが,冷 中 性子強 度が 非常に 弱い。 そのた め,よ り強 度の高 い冷中 性子源 の開 発が強 く望まれている。そ の 候補と して ,プレ モデレ 一夕付 カップ リン グ型液 体水素 減速材 を新 たに提 案し,実験的にその 特 性 を調 べた。 種々 の最適 化研究 の結果 ,冷 中性子 強度を 従来型 の液体 水素 減速材 に比べ て約6 倍 ま で 上 げ るこ と に 成 功 した 。 パ ル ス 幅の 広 が り は従来 型の2〜3倍, ピーク の高さ は約2倍で あ る。冷 中性 子実験 用に新 たに利 得指数 を定 義し, この減 速材の 性能 を評価 した結果,典型的な 冷 中 性子 実験で ある 中性子 小角散 乱及び 高分 解能散 乱実験 におい て従来 型よ りもそ れぞれ6倍 及 び2倍 高い性 能が得 られる こと が分か った。 固体メ タン 冷中性 子源と の比較 でもそ の性 能は優 れ て いた。 この ことか ら,本 研究で 開発さ れた 新冷減 速材シ ステム は大 強度ス ポレーションパルス 中 性子源 にと って非 常に有 用なも のであ るこ とが明 らかに なった 。

  第7章 は総括 で, 本論文 のまと めと, ここで 得ら れた結 果を用 いるこ とに よって ,同じ 加速器 を 用いて も既 存の施 設に比 べて総 合性能 が約10倍優れ た施設 を作 ること ができることを述べる。

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 教授

山崎 成田 榎戸 渡辺

初 男 正 邦 武 揚     昇

  中性 子を プロー ブとし て,中 性子 線の回 折や散 乱によ り固体 ・液 体を研 究する 方法は ,光 やX 線等 をプ口 ーブ とする 方法と は異なった独特の情報が得られる点で非常に有用である。本論文は,

中性 子散乱 によ り固体 ・液体 の原子 ・分子 レベ ルの構 造と原 子・分 子の 動きを調べるために必要 とす る中性 子源 のうち で,陽 子加速 器を用 いた スポレ ーショ ン反応 によ るパルス中性子源の中性 子工 学設計 に関 するも のであ る。こ の種の 中性 子散乱 実験に は,非 常に 高い中性子束の低工ネル ギー 中性子 源を 必要と し,従 来,原 子炉よ りの 中性子 または 線形電 子加 速器による中性子が用い られ てきた が, 更に強 度の高 い中性 子源を 求め てスポ レーシ ョンパ ルス 中性子源ヘ向かっている のが 世界の 趨勢 である 。

  この 中 性 子 源 は, 加 速器 から出 カされ る陽 子のス ポレー ション 反応に より 中性子 を発生 する

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夕ー ゲット と,発 生した 速中 性子を 減速し て低工 ネル ギーに する減 速材, 減速材の周りを取り囲 む反 射材か らなり ,これ らを 合わせ て減速 材集合 体を 構成す る。こ の集合 体に対する要請は,同 じ陽 子ビ― ム入カ に対す る低 工ネル ギー中 性子の 収量 をでき るだけ 多く, 放出時間幅の拡大を抑 えて ,かつ ,バッ クグラ ウン ド放射 線が低 いよう に供 給する ことで ある。 既存のスポレ―ション 中性 源では ,減速 材集合 体に 関する 中性子 工学的 研究 が系統 的に行 われて いないために,十分に 最適 化され ていな い嫌い があ った。 本論文 は,夕 ーゲ ット, 減速材 ,反射 材にっいて,それらの 大き さ,空 間的配 置,材 質が 出カパ ルス中 性子の 強度 ,放出 時間特 性にど のように影響するかを 中性 子輸送 計算に より系 統的 に調ベ ,要所 にっい て線 形電子 加速器 による 中性子を用いた実験を 行い ,計算 結果の 裏付け を行 った結 果を述 べてい る。

  以下 に著者 の研 究成果 を列記 する。

  (1)夕 ーゲッ トに関 して ,核分 裂性物 質のウ ラン, 非核分裂性物質のうちで特性の優れていた タン グステ ンにっ き,夕 ーゲ ットの 形状, サイズ と中 性子収 量との 関係, 及びダーゲットと減速 材の 最適配 置を明 らかに した 。また ,中性 子収量 の陽 子工ネ ルギー 依存性 を調べ,従来の定説と 異な り,3 GeVまで は収 量の増 加に有 効であ るこ とを示 した。

  (2)夕 一ゲッ トに 対する 減速材 の配置 の仕 方の区 別であ るウィ ング配 置と スラブ 配置に っき,

減速 材の中 性子特 性を測 定し ,減速 材の最 適厚さ が両 者で異 なるこ とを示 した。これは,ウィン グ配 置減速 材の最 適設計 に有 用なデ 一夕を 提供す る。 また, 減速材 中の中 性子輸送の数値解析を 行い ,ウィ ング, スラブ 両配 置にお ける中 性子特 性の 違いは ターゲ ッ卜に より減速材中に形成さ れる 速中性 子ソー スの空 間分 布の差 で説明 できる こと を示し た。

  (3)新 しい 型の減 速材配 置であ るフ ラック ストラ ップ型 に対し ,数 値計算 によって,種々の最 適化 を行い ,ウィ ング配 置よ り優れ ている ことを 示し た。

  (4)反 射体効 果を実 験及 び数値 計算に よって 調べ, 反射体効果は減速材の大きさや減速材・反 射材 中での 速中性 子ソー ス( ターゲットにより形成される)の空間分布により影響を受けること,

反 射 体材 料 と し て は減 速 が弱 くマ クロ断 面積が 大きい 物質 が良い 特性を 示すこ とを明 らか にし た。

  (5)工 ネ ルギ ー が0.005eV以下 の 中 性 子 を供 給 する 高性能 パルス 冷中性 子源 にっい て,プ レ モデ レー夕 一付カ ップリ ング 型液体 水素減 速材を 新た に提案 し,実 験的に その特性を調べ,格段 の性 能向上 が期待 できる こと を示し た。

  これ を要す るに ,著者 は,ス ポレーションパルス中性子源の最適設計に必要な広範な知見とデ一 夕を 系統的 な実験 と数値 解析 により得たもので,これを用いるナょらば,同じ能カの陽子加速器で

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従来より高性能な中性子源が実現可能と考えられる。陽子加速器のコストが極めて大きいことを 考慮するならば,著者は,中性子散乱実験を利用する物質研究(生体物質を含む)の進展に大き く寄与すると言う意味で非常に効用の高い,放射線源工学上の優れた成果を得たものである。

  よ っ て , 著 者 は 博 士 ( 工 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 あ る も の と 認 め る 。

参照

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