博 士 ( 農 学 ) 三 木 直 倫
学 位 論 文 題 名
寒 冷 地 に お け る 草 地 土 壌 の 有 機 物 並 び に 窒 素 の 経 年 的 動 態 と そ れ に 基 づ く 窒 素 施 肥 管 理 法 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
草 地は 一度造 成され た後,10数年 の長期 間にわ たって その ままの 状態で 利用される。その間,
施 肥は全 て表面 であ り,ま た枯死 茎藁・ 根な どの有 機物も 草地表 層に還 元されるため,表層土壌 の 養 分 供 給 能は 経 年 的 に高 まる。 一方, 草地 の牧草 収量は 造成2,3年目 が最高 を示し ,そ れ以 降 は経年 的に低 下す る。こ の収量 低下に 関し ては種 々な要 因が指 摘され ているが,牧草収量の規 制 要因と して大 きい 肥料・ 土壌窒 素にっ いて の検討 は少な い。
本 研究 では, 牧草収 量の低 下要因 にっ いて肥 料・土 壌窒素 の動 態と経 年過程で蓄積する有機物 と の関係 を中心 に検 討し, 草地の 経年化 に伴 う効率 的な窒 素施肥 料管理 法にっいて明らかにしよ う とした 。
1. 経 年 化 に 伴 う 収 量 の 変 化 と 肥 料 ・ 土 壌 窒 素 吸 収 及 び 有 機 物 蓄 積 と の 関 係 北 海道 北部の 鉱質土 に立地 する草地の収量は降水量の年次変動に対応して変化した。そのため,
15年 間に わたっ て順次 イネ科 単播草地を造成し,同一気象年で経年数の異ナょる草地の収量を比較 し た 。 肥 料 窒素 が 十 分 施用 されて いる条 件( 年間窒 素施肥 量18kg/10a)では 草地の 経年化 に伴 う 収量の 低下は 僅か であっ た。一 方,肥料窒素が少ない条件(年間窒素施肥量12kg710a)では,゜
造 成9〜10年 目 以 降 に収 量 低 下 を 示し た 。 こ の 主 な原 因 は1番 草収 量 が造 成7〜9年目以 降経年 的 に 低下す るため であり ,1番草に おける 肥料 窒素利 用率と 土壌か らの 窒素吸 収量の 低下が 関与 し て い た 。 しか し , 経 年草 地は地 温の高 い2,3番草で の肥料 窒素 利用率 が低い ものの ,土 壌か ら の 窒素吸 収量が 多いた めに, 必ず しも低 収とは ならあ かっ た。こ れらの 結果,1番 草での 肥料 窒 素 の 増 施 効果 は 草 地 の経 年化に 伴い増 大す るが,2,3番草 のそ れは経 年数に 関係な くほ ぼ一 定 であっ た。
草 地 の 枯 死 茎 葉 ・ 根 に よ る 年 間 の 有 機 物 還 元 量は400kg/10a, 窒 素 還 元 量は4〜5kg/10a 程 度 で あ っ たが , 物 理 分画 した蓄 積有機 物の うち地 表面枯 死茎葉 と粒 径2 mm以上 画分 のC/N比 と セルー 口ス, ヘミ セルロ ースの 存在割 合が 経年化 に伴っ て高ま った。 その結果,経年草地の表
層 土壌で は肥 料窒素 の有機 化量が 増加 し,低 温時に は有機 化され た肥 料窒素 の再無 機化が 遅れ,
ま た , 表 層 土壌 の 窒素 無機化 量も滅 少した 。こ のこと が1番草の 肥料窒 素利用 率, 土壌か らの窒 素 吸 収 量 の 低下 を も た ら し, さ ら に ,2,3番 草での 土壌か らの窒 素吸収 量の 増加に 関与し て経 年 草地の 牧草 生育, 収量に 反映し たも のと推 定した 。
草 地 は 経年 化 し て も 肥料 ・ 土 壌 窒 素の 収支 はほぼ バラン スして おり, 造成2〜4年目 までは 土 壌 窒 素 の 持 出し ,6〜8年目 以 降 は 土 壌へ の富 化とな り,10年 目程 度で造 成時の 土壌窒 素量に 回 復 し た 。 肥 料・ 土 壌 窒 素 の収 支 か ら 概 算 され た 肥 料 窒 素の 見 掛 け の 差引 き 損 失 率 は6〜9%で あ った。
2.草 地の 収量規 制要因 とその 改善
表層土 壌の酸 性化が 牧草収 量に 及ぼす 影響は 窒素施 肥量 の少な い条件 ほど大 きく, これ には肥 料 窒素利 用率 と土壌 からの 窒素吸 収量 の低下 が関与 した。 この結 果は ,@表 層土壌 の酸性 化は有 機 物の分 解を 抑制し ,蓄積 有機物 量の 増大と 未分解 な粗大 画分の 割合 を高め た,◎ 施肥後 の有機 態 窒 素 含 量 が増 加 し , 生 育後 半 ま で 高 く維持 された ,◎ 表層土 壌のpHが5.5以 下にな ると土 壌 窒 素 の 無 機 化が 抑 制 さ れ ,pH上 昇 効 果も 顕著 に増大 したこ となど に起因 した 。した がって ,草 地 の 窒 素 循 環 か ら み た 表 層 土 壌 のpH環 境 は5.5以 上 に 維 持 す る 必 要 が あ っ た 。 酸性化 した草 地表層 土壌の 改善 のため の炭カ ル表面施用は,施用当年で僅かナょ収量低下を引起 こ す が ,2,3年 目 は 増 収を も た ら し た。 施 用 当 年 の肥 料 窒 素 の 肥 効低 下 は , 表 層土 壌のpH上 昇 による 窒素 揮散の 影響よ りも蓄 積有 機物の 急速な 分解に よる肥 料窒 素の有 機化の 影響が 大きい と 推定し た。 施用時 期は春 期より 秋期 が優っ た。
草 地 に おけ る 有 機 物 分解 は 牧 草 生 育期 間, 特に地 温の高 い7〜8月の降 水量に 支配さ れた。 経 年 草 地 の2,3番 草 収 量 は7〜8月 の 降水 量 が 多 い 年 次(250mm程 度 ) で 造成3,4年 目草 地 よ り 高 収とな り, 少ない 年次(150mm前後) で低収 とナょ った。 これ らの関 係は翌 春の1番草 収量にも 反 映 し , 経 年草 地 の1番 草収 量 は 前 年 の降 水 量 が 不 足 した 年 次 で造成3,4年 目草地 のそれ の75
% と低収 であ った。 以上の 結果は ,@ 草地の 経年化に伴い窒素無機化能の高い土層が表層に偏り,
◎ 降水不 足年 にはこ の表層 が過乾 に陥 って蓄 積有機 物の分 解が抑 制さ れ,◎ 土壌か らの窒 素吸収 量 が 滅 少 し たこ と に よ る と推 定 し た 。 したが って,7〜8月 の降水 量が少 ない 条件で は,経 年草 地 に 対 し て 秋 施 肥 の 実 施 ま た は 翌 早 春 の 肥 料 窒 素 を 増 肥 す る 必 要 が あ っ た 。 3. 土 壌 窒 素 吸 収 量 の 経 年 変 化 に 対 応 し た 効 率 的 窒 素 施 肥 管 理 の 組 み 立 て 一般農 家草地 の収量 は経年 化に 伴い低 下した が,こ れは 土壌か らの窒 素吸収 量が経 年的 に減少 す るため であ った。 土壌か らの窒 素吸 収量の 予測法として,草地では作土試料の生土培養法によっ
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て 測 定 さ れ る 無 機 態 窒 素 含 量 が 有 効 で あ る と 考 え ら れ た 。 し か し , 混 播 マ メ 科 草 種 に よっ て 土 壌 分 析 値 と の 関 係 が 異 な る こ と や 混 播 マ メ 科 草 か ら の 窒 素 移 譲 量 を ど う 評 価 す る か の 問 題が 残 さ れ た 。 そ こ で , 土 壌 か ら の 窒 素 吸 収 量 を @ 草 地 更 新 時 の 土 壌 , ◎ 施 用 厩 肥 , ◎ 混 播 マ メ 科草 移 譲 ,
@ 草 地 系 内 の 有 機 物 由 来 に 大 別 し , そ れ ぞ れ の 規 制 要 因 と 変 化 様 式 を 検 討 し た 。 @ 草 地 更 新 時 に お け る 土 壌 か ら の 窒 素 吸 収 量 は 更 新 対 象 草 地 の 利 用 形 態 , 植 生 及び 立 地 土 壌 の 種 類 に よ っ て 異 な っ た の で5種 類 に 類 型 区 分 し た 。 な お , 耕 起 方 法 や 耕 起 時 期 の 違 い が 土 壌 か ら の 窒 素 吸 収 に 及 ぼ す 影 響 は 造 成 当 年 に 限 ら れ た 。 ◎ 厩 肥 の 効 果 は 施 用 量 が 同 量 で あ れ ば造 成 時 基 肥 二 ニ 維 持 段 階 の 表 面 分 施 で あ っ た 。 施 用 厩 肥 に 由 来す る 窒 素 吸 収 量 は, 施 用 法 と 土 壌 によ っ て 経 年 変 化 が 異 な っ た の で , そ れ ぞ れ の 窒 素 吸 収 予 測 式 を 示 し た 。 ◎ ラ ジ ノ ク 口 ― バ を 主 要マ メ 科 草 種 と す る 混 播 草 地 の マ メ 科 草 窒 素 移 譲 量 は 前 年 の マ メ 科 率 を 独 立 変 数 と す る 指 数 関 数 式で 表 現 さ れ , 造 成2年 目 で 年 間2 kg,3年 目 で3〜4kg/10a程 度 で あ っ た 。 ま た , マ メ 科 率 を 適 正 水 準 (20〜30% ) に 維 持 し う る 混 播 イ ネ 科 草 の 「 土 壌 十 肥 料 十 マ メ 科 草 移 譲 」 合 計 の 年 間 窒 素 吸 収 量 は10〜12kg/10aで あ っ た 。 @ 草 地 系 内 の 枯 死 茎 葉 ・ 根 な ど の 有 機 物 窒 素 の 消 失 率 は , 経 年 数 と 牧 草 生 育 期 間 の 降 水 量 に 依 存 す る の で , そ れ ら を 独 立 変 数 と し た 有 機 物 由 来 の 窒 素 吸 収予 測 式 を 提 案 し た 。
こ れ ら の 窒 素 吸 収 量 予損l亅式 か ら 求 め ら れ た 推定 値 と 肥 料 窒 素 の合 計 量 は イ ネ 科 草の 年 間 窒 素 吸 収 量10〜20kg/10aの 範 囲 で 造 成2〜5年 目 の イ ネ 科 草 主 体 及 び イ ネ ・ マ メ 混 播 草 地 に っ い て 実 測 さ れ た イ ネ 科 草 の 窒 素 吸 収 量 と よ く 適 合 し た 。
以 上 の 結 果 に 基 づ い て , 土 壌 か ら の 窒 素 吸 収 量 が 多 い 造 成2〜5年 目 程 度 ま で の 草 地 に 対 す る 効 率 的 な 窒 素 施 肥 管 理 法 と , 土 壌 か ら の 窒 素 吸 収 量 が 低 下 し た 経 年 草 地 に 対 す る 窒 素 施肥 管 理 法
を提示した。
学位論文審査の要旨・
主査 教授 佐久間敏雄 副 査 教授 但野利秋 副査 教授 中世古公男
本 論 文 は5章 か ら な る 総頁 数152頁 の 和 文 論 文で あ る 。 図52, 表61お よ び引 用 文 献122篇 を 含 み,
他 に参考 論文14篇が添 えられ ている 。
草 地の 収量を ,造成 後長期 にわた って 維持す ること は,年 来の 懸案で あるが ,変化 が多様かつ 長 期にわ たるた めに ,いま だに適 切ナょ 対策を樹立できない状態にある。この研究は,天北地方の 経 年草地 におけ る牧 草収量 逓減の 原因を ,肥 料およ び土壌 窒素の 動態と それ に対す る蓄積有機物 の 影 響 を 中 心 に し て 研 究 し , 窒 素 施 肥 法 の 原 理 を 明 ら か に し た も の で あ る 。 は じめ に,提 起され た問題 に対す る既 往の研 究を要 約して ,蓄 積有機 物の消 長とそ の分解によ る 窒 素 の 可 給化 を 考 慮 し たイ ネ 科 草地の 窒素施 肥法 を究明 するこ とに研 究の 焦点を しばっ た。
ま ず ,オ ー チ ャ ー ドグ ラ ス 単 播草 地を ,窒素 肥料施 肥水準18およ び12kgN/10a/年 で,15年 間 にわた って順 次造 成し, 経過年 数の異 なる 草地の 収量を 同一の 気象・ 土壌 条件下 で比較した。
こ の 結 果 , 収量 低 下 は 造 成7年 目 以降 の1番草に 顕著に 現れ, また, 窒素 施肥量 の少な い区で 著 し.いことが明らかになり,それを防止する上で窒素の円滑な供給が重要なことを示した。しかし,
こ の間, 枯死茎 葉, 根ナょ どとし て土壌 に還 元され る窒素 の量は4・5kg710a/年に 達し,土壌お よ び 肥 料 を 合計し た窒素 収支は ,造成 後6年目頃 から プラス に転ず る。さ らに ,土壌 窒素の 総量 は10年 目前 後 で造成 前の状 態に 復帰し ,その 後も微 増の傾 向を たどる 。した がって ,1番草の 収 量 低下は 窒素総 量の 減少と いうよ りは, その 利用率 が低下 するこ とによ ると 推定し た。これを確 か め る た め に, 物 理 分 画 した 蓄 積 有機物 の化学 性を 調べ, 粗大画 分のC/N比と セルロ ース/ ヘ ミ セル口 ―ス比 が, 経過年 数とと もに高 まることを突き止めた。すなわち,経年草地においては,
C/N比 の高 い 有 機 物 の蓄 積 が 窒 素源 の蓄 積を相 対的に 上回る ように なり ,肥料 窒素の 有機化 が 増 え,土 壌窒素 の無 機化が 抑制さ れるた めに 窒素不 足が起 こりや すくな る。 したが って,窒素不 足 は 高 温 ・ 多 湿 な 時 期 に は 表 面 化 せ ず , 低 温 で 乾 燥 し や す い1番草 生 育 期 に 強く 現 れ る 。 次 に, 年次の 経過に ともな って草 地表 層土壌 の酸性 化が著 しく なり, これが 収量の 低下と密接 に 関係し ている こと を示し た。酸 性化に とも なって 土壌表 層の蓄 積有機 物が 増加し ,肥料窒素の 利 用 率 が 低 下す る が ,pH5.5以 下に なると 土壌窒 素の無 機化 も明ら かに抑 制され た。炭 カル の 表 面施用 によっ て当 年の収 量は若 干低下 した が,2年目 以降は 増収した。施用当年の収量低下は,
窒 素の揮 散によ ると いうよ りは, 有機物 の急 激な分 解によ る肥料 窒素の 有機 化によ るところが大 き いと推 定した 。
草 地 の蓄 積 有 機 物 は,7一8月 の降 水量が 多い年 ほど速 やか に分解 し,そ れによ って放 出さ れ る 無 機 態 窒 素が , 当 年 の2,3番 草 収 量お よ び 翌 年 の1番 草収 量に好 影響 を与え るが, 造成後 年 数 が経過 するほ どそ の傾向 が顕著 になっ た。古い草地ほど有機物蓄積量の多い部分が表層に偏り,
寡 雨 年 に は 過度の 乾燥に よって 生物活 性が 抑制さ れるこ とがそ の理 由であ った。 それゆ え,7―
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8月 の降 水 量が 極端 に 少な い年 に は, 秋施 肥 を行 うか ,翌早春の窒素 肥料を増施する必 要がある と した。
試 験圃 場に お ける 以上 の 結果 を,天北地域の農 家圃場にっいて確認 するとともに,一 般の施肥 法 を考えるうえで重要 な問題点を次の3点に整理した。(1)草種・土壌による違い(2)混播草地にお け るマメ科牧草からの 窒素移譲量,(3)厩肥の影 響。草種,土壌による違いにっいては,現地調査 結 果に基づいて5類型に区分し ,それぞれの窒素利用率を推定した。(2)にっいてはラヂノク口バ一 混 播草地の移譲量を差 引法によって推定 し,それを前年マ メ科率の関数として現した。(3)にっい て は ,数 力所 の 草地 にお け る厩 肥窒素の消失率を 実測して,それに由 来する窒素の供給 量を施用 法 別 ,土 壌別 に 推定 する 方 法を 示した。これらの 結果を総合して,有 機物由来窒素の吸 収を予測 す る モデ ルを 考 案し ,そ の 予測 精度を検証すると ともに,それに基づ いて肥料として施 用すべき 窒 素の量を決定する方 法を体系化した。
以 上の 成果 は ,草 地生 態 系内 部における窒素の 循環機構を解明した 点で学術的にユニ ークな成 果 で ある と同 時 に, 経年 草 地の 窒素施肥法の確立 に寄与するものであ り,応用研究とし ても高く 評 価できる。
よ って 審査 員 一同 は, 別 に行 った学力確認試験 の結果と併せて,本 論文の提出者三木 直倫は,
博 士(農学)の学位を 受けるのに十分な 資格があるものと 認定した。