博 士 ( 医 学 ) 宮 崎 慶 子
学 位 論 文 題 名
異種心臓移植における超急性拒絶心臓の微細構造 学位論文内容の要旨
【 目 的 】心 臓 移 植の ド ナー 不足を解 決する方 法の1っと して異種心 臓移植が 研究され てい る .遠い異 種間で移 植すると 移植片は 数分から 数時間のう ちに拒絶 され,超 急性拒絶反応 と 呼ばれて いる.こ の機序と して自然 抗体,補 体等により 血栓形成 が生じ, 移植片が機能 停 止するこ とが明ら かになっ ている. しかし, その詳細な 組織像, 特に電子 顕微鏡像で血 管 内に血栓 を認める か,ある いは内皮細胞障害を認めるかという点については議論がある,
ま た近年, 超急性拒 絶におい てアポト ーシスが 生じている 可能性が 示唆され ているが,そ の 存在を証 明した報 告はない ,そこで 本研究で は,モルモ ット―ラ ット心臓 移植およびハ ム スター一 感作ラッ ト心臓移 植での超 急性拒絶 反応を組織 学的に検 討し,拒 絶の機序およ び アポトー シスの関 与につい て明らか にするこ とを目的と した.
【 材料と方 法】異種 移植のド ナーとし て,モル モットおよ びハムス ターを使 用した.レシ ピ ェ ン トと し て ,ラ ッ トを 使用した .感作ラ ットレシ ピェントは 心臓移植 の2週間前 にハ ム ス タ ーの 皮 膚 約2.0X2.Ocmを ラ ッ トの 背 部に 移 植 して 作 製し た , 腹部 異 所 性心 臓 移植 は ○no&Lindsey法 を改 良 して 行 っ た. 移 植し た 心 臓を 直 視下 に 観 察, 心 室 拍動 停 止を も って拒絶 とし,移 植片に血 流が再灌 流されて から拒絶さ れるまで の時間を 測定し,生着 時 間とした .拒絶さ れた心臓 は直ちに 摘出した ,モルモッ 卜からラ ットヘ異 種心臓移植を 4例 ( グ ル ー プA), ハ ム ス タ ー か ら 感 作 ラ ッ ト ヘ 異 種 心 臓移 植 を4例 (グ ル ープB) 行 っ た . また , 虚 血再 灌 流傷 害を調べ るためハ ムスター からラット ヘ心臓移 植を2例( グル ー プC)行 っ た .こ の 心臓 は 拒 絶の 徴 候な く 拍 動し て いた が,移植片 に血流が 再灌流さ れ た 後12分 で 摘 出し た ,正 常 コ ント 口 ール と し てモ ル モ ット , ハム ス タ ー各4匹 の 心臓 を 用 いた.摘 出した心 臓は長軸 に垂直に 分割した ゛.一片は ザンボニ 液(2%バラ フォルムア ル デヒド―15%飽和ピ クリン酸‑O.lMリン酸緩 衝液pH 7.4)で固 定し,ヘマ トキシリ ン―エ オ ジ ン(HE)染 色 標 本 , 補 体C3免 疫 染 色 標 本 , 二 ッ ク エ ン ド ラ ベ ル 法(TUNEL)標 本 を 作成した .一片は 液体窒素 で凍結し ,切片をPLP液(ペリオデート―リジンーバラフォル ム アルデヒ ド)にて 固定後,IgM免疫染色 標本を作 成した.一 片は2.5%グ ルタール アルデ ヒ ド1jン 酸 緩 衝液pH7.4で 固 定し 透 過 型電 子 顕微 鏡 標 本を 作 成し た , 透過 型 電子 顕 微鏡 で 内皮細胞 壁の厚さ ,飲小胞 の数につ いて組織 計量を行っ た.各群 間の統計 学的比較は,
F検定 を し た上 でStudent,st検定によ り検定し た.pく0.05を 統計学的 有意とした .数値 の 表記は平 均値士標 準偏差と した.
【 結 果 】生 着 時 間は , グル ー プAは 平均32.5土47.7分, グ ルー ブBは 平 均12.3土5.0分で あ っ た .HE染 色標 本 では , グ ルー プA,Bと もに , 心 筋線維 間に多数の 赤血球が 見られ
筋線維間は解離して浮腫を認めた.炎症細胞の浸潤は認められなかった.グループCは正 常と同様であった.抗ラッ卜C3免疫染色では,グループAではすべてのI觚管の内皮斜‖胞に hね体の沈着を認めた.グルーブBでは動脈の内皮耐‖胞にのみ納体が沈着していた.抗ラッ トlgM免疫染色では,グルーブAでは動脈の内皮i川J包にのみIgMの沈着を認めた,一方,
グルーブBですべてのinL管の内皮細1胞にIglV1の強い沈着を認めた.正常コン卜口ール鮮,
グルー プCには 補体,IgMの沈着は認められなかった.TUNEL染色では,グルーブAで,
核が茶褐色に陽性を示す細胞を散在性に認めた.陽性細胞は内皮細胞が2.0士0.9% 心筋 細胞が0.5土0.2%であった,グル―ブB,グループC,正常コン卜□―ル心臓では陽性細 胞は認められなかった.透過型電子顕微鏡では,心筋細胞はグループA,Bとも正常構造 を保っていた.毛細血管内の血小板の凝集はグループA,Bともに認められたが,グルー プAで多く認めた.正常コント口ール群では,血管内の血漿部分の電子密度は血管周囲の 電子密度より高かったが,グループA,Bでは,血管内の血漿部分の電子密度と血管周囲 の電子密度が同じ程度に上昇していた.グループA,Bでは,毛細血管壁の菲薄化,電子 密度の増加,飲小胞の減少を認めたが,この所見は血小板が付着している部分でも,付着 していない部分でも認められ,グループAでグループBよりしばしば認めた.また,グル ープAでは,核および細胞質の分断像を示す細胞や,ク口マチン凝集を示す内皮細胞の核 をまれに認めた,グループCでは,血管内に血小板の凝集を認めず,心筋細胞とともに内 皮細胞は正常と同様の所見であった.グループAでは内皮細胞壁の厚さ16 9.7土27.9 nm, 単位面積あだりの飲小胞の数6.6土2.8で,正常モルモッ卜の壁厚282.5土76.2 nm,飲小 胞数31.2土7.2に比べて有意に減少していた.グループBでは壁厚300.1土113.8 nm,飲 小胞数20.0土14.2で,正常ハムスターの壁厚292.2土55.8 nm,飲小胞数33.5土2.1に比 ベ有意差は認められなかった.
【考察】本研究では光学顕微鏡および電子顕微鏡所見で,グループA,Bの両者において 血栓を認めた.血栓形成は超急性拒絶の重要な特徴と考える.しかし血小板が付着してい ない部分にも毛細血管壁の変性所見を認め,血栓による傷害の他に,補体や抗体といった 液 性 の 因 子 に よ り 内 皮 細 胞 が 直 接 傷 害 を 受 け て い る 可 能 性 を 示 し て い る . 飲小胞の減少と内皮細胞壁の菲薄化や電子密度の増加といった細胞の変性を窺わせる所 見は,アポトーシスの所見を示したグループAにおいて多く認めた.したがってこの所見 は,内皮細胞の変性,細胞死への過程に先行する機能停滞を示すものとみることができる 上 記 所 見 は , 感 作 ラ ッ ト 移 植 ハ ム ス タ ー 心 臓 で は 顕 著 で は な か っ た . グルー プAでは ,TUNELで陽性を示し,電子顕微鏡像で核のク口マチン凝集や分断像 を示す細胞が認められたことから,血管内皮細胞および心筋細胞にアポトーシスが生じて いることが明らかになった.血管内皮細胞で心筋細胞よりもTUNEL陽性率が高かったこ とは,傷害の主体が血管内皮であることを示唆している.超急性拒絶反応は,虚血再灌流 障害の影響を強く受ける可能性がある.しかし,グループCは正常ハムスター心臓と同様 の所見を示しており,今回の実験では,虚血再灌流障害の影響はないものと考える.グル ープAでC3分布がIgM分布より広範囲であったことは,グループAでは補体の別経路が主 体であることを示唆している.一方,グループBでIgM分布がC3分布よりも広範囲であっ たことは,補体の古典経路が主体であり,IgM自体が補体を介さずに直接,拒絶に関与し ている可能性をも示唆している.
【結語】血栓形成および血管内皮障害は異種移植超急性拒絶心臓における基本的特徴と考 える.血管内皮傷害としての毛細血管壁の菲薄化,電子密度の増加,飲小胞の減少,およ び血管内皮細胞と心筋細胞のアポトーシスの存在がモルモット―ラット心J臓移植で明らか になった.異種移植超急性拒絶は ドナー―レシビエントの組み合わせの違いにより多彩 性を示すことが示唆された.
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
異種心臓移植における超急性拒絶心臓の微細構造
異 種 心 臓 移 植 に お け る 超 急 性 拒 絶 反 応 の 機 序 と し て 自 然 抗 体 , 補 体 等 に よ り 血 栓 形 成 が 生 じ , 移 植 片 が 機 能 停 止 す る こ と が 明 ら か に な っ て い る , し か し , そ の 詳 細 な 組 織 像 , 特 に 電 子 顕 微 鏡 像 で 血 管 内 に 血 栓 を 認 め る か , あ る い は 内 皮 細 胞 障 害 を 認 め る か と い う 点 に つ い て は 不 明 瞭 で あ る . ま た 近 年 , 超 急 性 拒 絶 に お い て ア ポ ト ー シ ス が 生 じ て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ て い る が , そ の 存 在 を 証 明 し た 報 告 は な い ,
本 研 究 で は , モ ル モ ッ ト ー ラ ッ ト 心 臓 移 植 お よ び ハ ム ス ター 一感 作ラ ット 心臓 移植 で の超 急 性 拒 絶 反 応 を 組 織 学 的 に 検 討 し , 拒 絶 の 機 序 お よ び ア ポ ト ー シ ス の 関 与 に つ い て 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し た .
○no&Lindsey法 に 従 い , モ ル モ ッ ト か ら ラ ッ ト ヘ 異 種 心 臓 移 植 を4例 ( グ ル ー プA) , ハ ム ス タ ー か ら 感 作 ラ ッ ト ヘ 異 種 心 臓 移 植 を4例 ( グ ル ー プB)行 っ た . 感 作 ラ ッ ト は 心 臓 移 植 の2週 間 前 に ハ ム ス タ ー の 皮 膚 を ラ ッ ト の 背 部 に 移 植 し て 作 製 し た . 拒 絶 は 心 室 拍 動 が 停 止 し た 時 点 と し , 移 植 片 に 血 流 を 再 灌 流 し て か ら 拒 絶ま での 時間 を生 着時 間と し た.
ま た , 虚 血 再 灌 流 傷 害 を 調 べ る た め ハ ム ス タ ー か ら ラ ッ ト ヘ 心 臓 移 植 を2例 ( グ ル ー プC) 行 っ た . こ の 心 臓 は 拒 絶 の 徴 候 な く 拍 動 し て い た が , 移 植 片 に 血 流 を 再 灌 流 し た 後12分 で 摘 出 し た . 正 常 コ ン ト 口 ー ル と し て モ ル モ ッ 卜 ,/ヽ ム ス タ ー 各4匹 の 心 臓 を 用 い た . 摘 出 し た 心 臓 の 組 織 標 本 を 作 成 し , ヘ マ ト キ シ リ ン 一 工 オ ジ ン (HE)染 色 ,C3,Ig¥.一I免 疫 染 色 , ニ ッ ク エ ン ド ラ ベ ル 法 (TLTNEL), 透 過 型 電 子 顕 微 鏡 に て 検 討 し た . 生 着 時 間 は , グ ル ー プAは 平 均32分 , グ ル ー プBは 平 均12分 で 有 意 差 は 認 め な か っ た . HE染 色 標 本 で は , グ ル ー ブA Bと も に , 問 質 の 浮 腫 , 出 血 を 認 め た が 2群 間 に 明 ら か な 違 い は 認 め ら れ な か っ た . 抗 ラ ッ トC3免 疫 染 色 で は , グ ル ー ブAで は す べ て の 血 管 の 内 皮 細 胞 に 補 体 の 沈 着 を 認 め た が , グ ル ー ブBで は 動 脈 の 内 皮 細 胞 に の み 補 体 が 沈 着 し て い た . 抗 ラ ッ トIgM免 疫 染 色 で は , グ ル ー ブAで は 動 脈 の 内 皮 細 胞 に の みIgVIの 沈 着 を 認 め た が , グ ル ー プBで す ぺ て の 血 管 の 内 皮 細 胞 にIgVIの 強 い 沈 着 を 認 め た . こ の 分 布 の 違
秀 厚
顕 彦
慶 和
邦
田 部
畠 林
安 阿
北 小
授 授
授 授
教 教
教 教
査 査
査 査
主 副
副 副
いは動物 の種による 違いの他に 補体の活性 化経路の違 いによるものと考えられる.
TL NEL染色ではグルーブAのみで陽性細胞を認め,陽性細胞は内皮細胞が2.0%、心筋細 胞が0.5%であった.透過型電子顕微鏡にてグループAでは,核および細胞質の分断像を 示す細胞や,ク口マチン凝集を示す内皮細胞の核を認め,アポトーシスが生じていると考 えられる.毛細血管内にはグループA,Bともに血小板の凝集を認めた.グルーブA,Bで は毛細血管壁の菲薄化,電子密度の増加,飲小胞の減少を認めた,この所見は血小板が付 着している部分でも,付着していない部分でも認められ,抗体,補体により直接,内皮細 胞障害が生じている可能性が示唆される.内皮細胞壁の厚さ,飲小胞数について組織計量 を行うと,グループAでは内皮細胞壁の厚さ,飲小胞数ともに有意に減少していたが,グ ループBでは有意差を認めなかった.グループCでは検討項目すべてにおいて正常コント 口一ルと同様であった.今回の実験では虚血再灌流障害の影響はないものと考える.
血栓形成および血管内皮障害は異種移植超急性拒絶心臓における基本的特徴と考える,
血管内皮傷害としての毛細血管壁の菲薄化,電子密度の増加,飲小胞の減少,および血管 内皮細胞と心筋細胞のアポトーシスの存在がモルモット―ラット心臓移植で明らかになっ た.異種移植超急性拒絶は,ドナー―レシピェントの組み合わせの違いにより多彩性を示 すことが示唆された.
公開発表に際して,副査の北畠教授からはモルモットーラッ卜心臓移植,ハムスター・感 作ラッ卜心臓移植の2つの超急性拒絶モデルの違い,ヒト・ブ夕心臓移植との関係,超急性 拒絶を回避するための治療,小林教授からは一方は感作して一方は感作しないというモデ ルを使わざるを得なかったのはなぜか,感作ラッ卜において血清学的に本当に抗体価が上 昇していたのか,自然抗体が存在するなら古典経路も活性化されるはずではないか,抗体 と補体の染色の分布から補体の活性化経路は言えないのではないか,抗体だけが内皮細胞 障害を起 こすことは あり得ない のではない か,主査の 安田教授からはdiscordantと concordant異種移植の根本的な違い,異種における遅延型反応は同種における急性拒絶反 応と同様と考えてよいか,等の質問があった.申請者は実験結果,文献的知識に基づいて 概ね妥当な回答を行った.一部,不十分な回答であった点は,後に個別に面談し回答した.
副査の阿部教授には別日審査を頂き,教授から心臓停止は血行遮断によるものではない か , 血 漿 の も れ は ど こ か ら か 等 質 問 が あ っ た . 申 請 者 は 明 快 に 回 答 し た . 本研究は,超急性拒絶における新たな組織学的所見,アポトーシスの関与を明らかにし,
異種移植のメカニズム解明,治療に寄与するものであり,審査員一同はこれらの結果を高 く評価し,申請者が博士(医学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと判定した.