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ヒト赤芽球系白血病細胞

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Academic year: 2021

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博 士 ( 薬 学 ) 川 崎 ナ ナ

学 位 論 文 題 名

ヒト赤芽球系白血病細胞 K562 株におけるヘモグロビン      合 成調 節 因 子と し ての 鉄 の 役割 に 関す る 研 究

学位論文内容の要旨

  ヘモグロビン(Hb)は,グロピン4量体にへム4分子が結合した複合タンパク質であり,未分化な造血幹 細胞から,赤芽球系細胞へと分化増殖する過程で合成される.ヘム生合成過程には計8種類の酵素が関与 していることが明らかにされているが,赤芽球分化過程におけるへム合成調節機構には不明な点が多い.

特に,ヘム合成に必須である鉄のへム合成調節機構における役割や,細胞内動態は明確にされていない.

  K562細胞は赤芽球系細胞に分化誘導される性質を有する自血病細胞株で,その分化誘導剤として酪酸,

ヘミンおよびエリス口ポエチン(EPO)等が知られている.本研究5よ,赤芽球分化誘導モデルとしてK562 細胞を用い,鉄によるHb合成調節機構を解明することを目的としている.まず第1章において,電気化 学検出HPLC(HPLC‑EC)を用いた高感度鉄測定法を確立し,っぎに第2章において,K562細胞のHb合成 過程におけるトランスフェリン鉄¢eTD,ヘム合成初発酵素d‐アミ丿レブリン酸合成酵素(ALAS),ヘミ ンおよびEPOの役割を明らかにした.最後に第3章におぃて,HPLC一ECを用いてK562細胞内鉄動態を 解析し,鉄によるHb合成調節機構を考察した.

第1章細胞内鉄動態解析法の確立

  (1)細胞は多数の共存成分を含む複雑なマトリックスであり,特定の鉄成分を分析するには高感度高選 択的分析法が要求される.そこで,鉄をニエチレン三アミン五酢酸(D'IPA)と安定な錯体を形成させ.陰イ オン交換樹脂で分離後,電気化学検出器を用いて定量する方法を考案した.その結果,従来の螢光検出 HPLCによる分析法よりも3価およぴ2価の鉄はそれぞれ50倍および10倍以上の感度で定量することが 可能となった.

  (2)本法の応用として,ラット肝臓およびヒト関節液を用いてヘム合成に関与していると考えられてい る低分子量鉄錯体(LMMFe)の挙動を検討し,本法が鉄動態解析法として有用であることを示した.

第2章K562細胞のHb合成過程における鉄とALASの役割について

  (1) K562細胞を1mM酪酸存在下4日間培養するとHb合成の亢進が認められた.この細胞にFeTfを作 用させると,Hb含量,ぷ‐アミノレブリン酸(ALA)含量およびALAS活性は,FeTf濃度に依存して増加 することが明らかになった.そこでへム合成におけるALASの役割を調べたところ,酪酸処理細胞のHb 合成は,外から添加したALAによって濃度依存的に亢進されること,また,ALA脱水酵素阻害剤スク シニルアセトンくSA)によって抑制されることが明らかになった.さらに酪酸処理後,Hb合成とALAS活

(2)

性はほ ぽ同時 に増加 すること がわか った. 以上の ことか ら,ALASは 赤芽球 ヘム合 成調節酵素として重要 な役 割 を 果 たし て い る こと , ま た,FeTfはALAS活性 を調節す ること を介し てHb合成 を調節 してい るこ とが示 唆され た.

  (2) K562細胞 をヘミ ンで処 理する とHb合成の亢進が認められたが,ヘミン処理細胞のHb合成は,FeTf, ALAやSAの 影響 を 受 け ない こ と が 示さ れ た . また , ヘ ミ ン処 理 細 胞 ではALA含 量 が低下 してい ること が確認 された .これ らの結果 から, 細胞内に取り込まれたへミンは,ヘムとしてHb合成に利用されるが.

新たな へム合 成は誘 導しない こと, むしろへム合成に対しては,抑制的に作用することが示唆された.一 方,K562細 胞 のHb合 成 はEPOによ っ て 亢 進さ れ な か った . ま た ,ALA,FeTfお よ びへミ ンを作 用させ た細 胞 に お いて もEPOの 効果 は 認め られな かった ことか ら,EPOはHb合成を 誘導し ないこ とが示 唆され た.

  以 上 の こと か ら ,ALASがHb合 成律速 酵素で あるこ と,FeTfや へミン などの 鉄関連 物質がHb合成調 節 に関与 してい ること が明らか →こな った.

第3章赤芽球分化過程における細胞内鉄動態

  (1)K562細胞を 硝酸,ト リク口ロ酢酸および限外ろ過処理することによって,それぞれトータル鉄,非 ヘム鉄およびLMMFeが選択的にかつ充分な真度(82.2〜92.80h)および精度(4.3〜7.7%)で定量可能であるこ とが示された.

  (2)HPLC‑ECを用 いて 各薬物処 理細胞 内の鉄 含量を 測定し た.そ の結果 ,酪酸 処理細胞 ではト ータル 鉄量 は 増 加 して い るが ,非ヘ ム鉄,LMMFeおよび フェリ チンは 増加し ていな いこと が明ら かになっ た.

これ に 対 し てへ ミ ン処 理細胞 では, トータ ル鉄と 同程度に 非ヘム 鉄,LMMFeおよび フェリ チンが増 加し てい る こ と が示 さ れ た .つ ぎ に , 酪酸 処 理 細 胞にFeTfを 作 用 さ せた とき のHbおよ びALA合成 と鉄動 態 の関係 を検討 した. その結果 ,ヘム 合成の 律速段 階であ るALA合成 はFeTf濃度に依存して亢進されるが.

Hb合成は プラト ーに達 するこ とがわ かった. 鉄動態 に関し ては, 酪酸処 理細胞 のトー タル鉄 は未処理細 胞より 高いこ と,そ して,FeTf濃度に 依存し て未処理細胞と同じ傾向で増加することが示された.また.

酪酸処 理細胞 の非ヘ ム鉄は,FeTf濃度 が低い とき, 未処理細 胞と同 程度し か含有 されて いない が.FeTf 添加濃 度の増 加にと もなって 増大し ,Hb合成 の増加 に頭打 ち傾向 がみら れる高 濃度のFeTfを添加したと き,未 処理細 胞との 差が大き くなる ことが 示され た.最後に,フローサイトメトリー法を用いて各処理細 胞にお けるト ランス フェリン 受容体 卩瓜) 発現量 を測定した.その結果,酪酸処理細胞では,まず最初に TfRの 発 現 が 亢進 さ れ,引 き続い て鉄含 量,ALAS活性およ ぴHb含 量がほぽ 同時に 増加す ること が示さ れ た . 一 方 ヘ ミ ン 処 理 細 胞 で は , T瓜 発 現 量 が 低 下 し て い る こ と . が 確 認 さ れ た .   以 上 の 結果 よ り ,赤芽 球分化 が誘導 される とまずT爪発現 量が増 加し,FeTf依存的 にHb合成 調節酵 素 ALASの活性 が増加 するこ とによ ってHb合 成が亢 進され .るこ とが示 された, また, 非ヘム 鉄は細胞内で 過剰 に な っ たへ ム に 由 来す る 鉄 で あり , 非 ヘ ム鉄 やLMMFeはALA合 成 を高 め る 作 用を 有 し て いない こ と , 逆 に ,T爪 発 現 量 低 下 に 起 因 す るALAS活 性 の 抑 制 を 引 き 起 こ す こ と が 示 唆 さ れ た .

まと め

本 研 究 を 通 し て 以 下 の 知 見 が 得 ら れ た ・ 1. HPLC‑ECを用い た鉄動態解析法を確立した.

123

(3)

2. K562細胞の赤芽球分化過程において,鉄とALASがHb合成を調節していることが明らかになった.

3.細 胞 内 鉄 動 態 を 解 析 し , 鉄 に よ るHb合 成 調 節 機 構 に つ い て 以 下 の よ う に 考 察し た .   1) Hb合成過程においてはじめにTfR発現量が増加する.

2) FeTfがHb合成調節酵素であるALAS活性を調節している・

3) ヘ ム は TfR発 現 量 を 低 下 さ せ る こ と に よ っ て ALA合 成 を 抑 制 し て い る .

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(4)

学位論文審査の要旨

     学位 論文 題名     1

ヒ ト赤 芽球 系白 血病細胞 K562 株におけるヘモグロビン      合 成 調 節 因 子 と し て の 鉄 の 役 割 に 関 す る 研 究

   ヘモグロビンは,グロビン4 量体にへム4 分子が結合した複合タンパク 質であり,未分化な造血幹細胞が赤芽球系細胞へと分化増殖する過程で合 成される.ヘム合成過程に関与する酵素系は明らかにされているが,赤芽 球分化過程におけるヘム合成の調節機構,特に,ヘム合成に必須である鉄 の 役 割 や そ の 細 胞 内 動 態 に つ い て は 不 明 の 点 が 多 い .    本論文提出者は,酪酸などの分化誘導剤で赤芽球系細胞に分化誘導さ れ る 白 血 病 細 胞 株 K562 細 胞 を 用 い , 電 気 化 学 検 出 HPLC を用 い た高 感度の鉄測定法と,ヘモグロビン合成過程における鉄の役割や細胞内動態 に 関 す る 一 連 の 研 究 を 展 開 し , 以 下 の 成 果 を お さ め た .

(1 )細胞内の鉄を高感度でかつ高選択的に分析する方法として,ジェチ レントリアミン五酢酸との安定な錯体を形成させ,陰イオン交換樹脂を用 い た HPLC で 分 離 後 , 電 気 化 学 検 出 器 を 用 い て 定 量 す る HPLC − EC 法を 考案した. 本方法は, 従来の螢光 検出HPLC による 分析方法に比べ て 3 価お よ び2 価 の鉄 を それ ぞ れ50 倍 およ び 10 倍 以上 の感度で定 量で き,また,細胞の硝酸,トリクロロ酢酸および限外ろ過処理標品を用いる と、それぞれトータル鉄,非ヘム鉄およぴ低分子量鉄錯体を選択的に定量 できる・

( 2 ) K562 細 胞 の酪 酸 処理 で 誘導 さ れる へ モグ ロ ビン合 成は,6 −ア ミノレブリン酸によって濃度依存的に亢進され,スクシニルアセトンに よって抑制されること,また、酪酸処理によルヘモグロビン合成と6 ―ア ミノレブリン酸合成酵素活性はほぼ同時に増加することを明らかにした.

さ ら に, ト ラン ス フェ リ ン鉄 は ,K562 細 胞 での へ モグロビン 含量,

6 −アミノレブリン酸含量および6 ←アミノレブリン酸合成酵素活性を濃度 依存的に増加させることを見いだした.即ち,赤芽球でのへム合成に6 ―

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良 治

彦 均

英 滋

沢 沢

橋 田

横 長

高 沢

授 授

授 授

   

   

教 教

助 助

査 査

査 査

主 副

副 副

(5)

アミノレブリン酸合成酵素が重要な役割を果たし,トランスフェリン鉄が 6 ―アミノレブリン酸合成酵素の調節を介してへモグロビン合成を制御し ていることを明らかにした.

   一方,ヘミン処理で誘導されるへモグロビン合成はトランスフェリン鉄,

6 −アミノレブリン酸やスクシニルアセトンの影響を受けず,ヘミン処理 細胞では 6 −アミノレブリン酸含量が低下していることから,細胞内に取 り込まれたヘミンはへム合成に対しては抑制的に作用することを明らかに した・

( 3 ) K562 細 胞 の 赤 芽 球 分 化 過程 に お け る 鉄 動 態 を 解 析 した 結果 , 酪酸処理細胞ではトータル鉄量は増加しているが,非ヘム鉄,低分子量鉄 錯体およびフェリチンは増加していないこと,一方,ヘミン処理細胞では いずれも増加していることを明らかにした.次に,酪酸処理細胞にトラン スフェリン鉄を作用させた時のへモグロビンおよび6 ーアミノレブリン酸 合成と鉄動態の関係を検討した結果,6 ―アミノレブリン酸合成はトラン スフェリン鉄濃度に依存して亢進されるが,ヘモグロビン合成はプラトー に達すること、トータル鉄は,酪酸処理細胞の方が未処理細胞より高く,

いずれの細胞でもトランスフェリン鉄濃度に依存して同じ傾向で増加する こと,一方,非ヘム鉄は,卜ランスフェリン鉄濃度が低い時はいずれの細 胞でも同程度しか検出されないが,トランスフェリン鉄濃度の増加に伴っ て増大し,ヘモグロビン合成の増加に頭打ち傾向がみられる高濃度のトラ ンスフェリン鉄存在下では両者の細胞での差が大きくなることを明らかに した.さらに,フローサイトメトリーによルトランスフェリン受容体の発 現量を測定した結果,酪酸処理細胞では,初めにトランスフェリン受容 体の発現が亢進され,引き続いて鉄含量,6 ―アミノレブリン酸合成酵素 活性およびへモグロビン含量がほば同時に増加すること,一方,ヘミン処 理細胞では,トランスフェリン受容体の発現量が低下していることを明ら かにした.

   以上の結果をもとに,赤芽球分化が誘導されると,トランスフェリン受 容体の発現量が増加し,卜ランスフェリン鉄依存的に6 ーアミノレブリン 酸合成酵素の活性が増加することによってヘモグロビン合成が亢進される こと、また,非ヘム鉄は細胞内で過剰になったへムに由来する鉄であり,

トランスフェリン受容体の発現を低下させることにより6 ―アミノレブリ ン 酸 合 成 酵 素 活 性 を 抑 制 す る と い う 仮 説 を 提 案 し た ,    以上の新知見およびそれを得るために用いた新研究技法は,赤芽球分化 における鉄の役割の理解にとどまらず,鉄が関与する広範囲な生命現象を 解明する上で重要な寄与をなすものである.

   審査員一同このことを高く評価し、本論文提出者が博士(薬学)の称号

を受けるにふさわしいものと一致して判断した.

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