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博士(歯学)金 壮律 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(歯学)金   壮律 学位論文題名

口蓋の成長に及ぼす瘢痕組織と骨膜の影響 学位論文内容の要旨

【緒言]

  現 在 , 口 蓋 裂 の 手 術法 と して 最 も 広く 採 用さ れ て いる の は ,mucoperiosteal flapに よ るpush back法 で あ る , こ の 手 術 法 は , 幼児 前 期 に硬 口 蓋の 骨 膜 下で 剥離した 大口蓋動 脈を含む 粘膜骨膜 弁を作製 し,これを 縫合して後方ヘ移重カする もの で あ り, 軟 口蓋 を 後 方ヘ 移 動 する ことによ って鼻咽 腔閉鎖機 能も改善 される ため に , 術後 に 良好 な 言 語成 績 が 得ら れるとい う利点を 有してい る.しか しなが ら同 時 に ,こ の 手術 は 口 蓋部 組 織 に大 きな損傷 を与える のみなら ず,広範 囲にわ た る 口 蓋 粘 膜 骨 膜 剥 離 が 骨 のraw surfaceを 生 じ さ せる た め ,そ こ に瘢 痕 組 織 が形成さ れてしま うという 欠点もあ る,

  口 蓋 裂の 治 療 に際 し て手 術 を 行う こと は,嚥下 機能や言 語機能の 回復のた めに は不 可 欠 であ る が, 手 術 後に 顎 顔 面の 発育障害 ,すなわ ち顎顔面 の変形, ひいて は咬 合 ・ 咀嚼 な どの 機 能 障害 が 生 じる ことは長 い間大き な問題と なってき た,し かし な が ら, 果 たし て こ の発 育 障 害の 主因が瘢 痕組織が 存在する こと自体 にある のか , あ るい は 骨膜 剥 離 を伴 う 手 術に より瘢痕 組織が形 成される ことにあ るのか は不 明 の まま で ある . そ こで 本 研 究で は,瘢痕 が存在し ,かつ骨 膜が存在 しない 場合 と , 瘢痕 が 存在 す る が骨 膜 も 存在 する場合 の口蓋発 育の抑制 の程度を 比較検 討す る こ とを 目 的と し て ,薬 物 投 与に よル口蓋 に瘢痕を 形成させ たラット と,粘 膜骨 膜 切 除に よ ル口 蓋 に 瘢痕 を 形 成さ せたラッ 卜を用い ,組織学 的ならび に計測 学的に検 索した.

【実験材料および実験方法]

1.実験材料ならびに手術方法

  生後20日 目、体重 約50gの雄の ウイスタ ー系ラツ 卜84匹を使用し、下記の3つの実 験群を設定して、術後2週から8週目について検討した。

  1)無処置群   2)葉物投与群

  左 右 上顎第1臼 歯口蓋側 歯頚部近 心部に2.5% ホルマリン(25 u1X2)を注射し た。

  3)粘膜骨膜切除群

  前方部は左右上顎第1臼歯前縁を結び、後方部は左右上顎第3臼歯後縁を結び,上顎第 1臼歯前縁歯頚部から上顎第3臼歯後緑歯頚部で囲んだ部位を左右的に3分割し、その両 側1/3の部位に骨膜まで達するように切開を入れ、粘膜骨膜を切除して骨を露出した。

(2)

さ ら に 露 出 骨 は 小 綿 球 に て 擦 過 し 、 残 っ て い る 軟 組 織 を 除 去 し た 。 2.組織学的観察方法

  1)染色標本

  ラットの左心室より生理食塩水にて血液を洗い流した後,10%ホルマリンで瀧流固 定を行い,上顎骨と口蓋骨を一塊として切り出した,切り出した試料は脱灰終了後,通 法に従ってノヾラフィン包埋し,左右上顎第1臼歯近心舌側咬頭を結ぶ部位を中心とした 厚 さ 約7umの 前 頭 断 連 続 切 片 を 作 製 し てVanGieson染 色 を 施 し ,光 学顕 微鏡 で観 察した.

  2)MMA樹脂標本

  術直後から術後7週目まで1週間おきにoxytetracyclineとcalceinとを交互に背部皮下 に注射したラットについて,左心室より生理食塩水にて血液を洗い流した後,70%アル コールで灌流固定を行い,顎顔面骨を一塊として切り出した,切り出した試料は通法に 従づ てMMA樹 脂で 包埋 した. その 後, 精密 切断 で厚 さ約400ルmの前頭断研磨切片標 本を作製して共焦点レーザー顕徴鏡(oxytetracycline:364ルmIcalcei:n:488ルm) および落射螢光顕微鏡で観察した.

3.口蓋幅径の計測

  上顎の側方成長・発育を定量的に観察するため,術直後,2,4,6,8週目に上顎の 印象採得を行い,石膏模型を作製した,上顎骨部における成長量は左右上顎第1臼歯近 心舌側咬頭間の距離(MlーMl')により,また,口蓋骨部における成長量は左右上顎第2 臼 歯 遠 心 舌 側 咬 頭 聞 の 距 離(M2ーM2'冫 に よ り , 実 体 顕 微 鏡 下 で 計 測 し た .   なお,手術による侵襲が全身の成長・発育に与える影響を検討するため,生後20日目 から1週間おきに8週目まで体重を同一のバネ秤で測定した.また,体重の変化および模 型計測により得られたデ一夕について,tー検定による平均値の差の検定を1%の危険率 で行った.

【実験結果】

  パラフィン切片標本を観察すると,薬物投与群および粘膜骨膜剥離群の両者で口蓋粘 膜下結合組織に瘢痕組織の形成が認められたが,前者では瘢痕組織と骨との間に骨膜が 存在して両者を分けているのに対し,後者では骨膜は完全に消失し,瘢痕組織と骨が密 に 結合 して いた .MMA樹 脂包埋標本をみると,薬物投与群では術直後と術後1週目の ラベリング線の間隔が狭かったが,その後は無処置群とほぼ同様の所見が観察された,

また,粘膜骨膜切除群においては,術後3週目までのラベリング線は不明瞭で,術後3週 目 以 降 の ラ ベ 1jン グ 線 も , そ の 間 隔 は 他 の 実 験 群 に 比 べ て 狭 か っ た .   一方,口蓋幅径を計測すると,薬物投与群における口蓋の側方成長抑市I亅は,術直後か ら術後2週目にかけてわずかにみられたが,その後は無処置群とほぼ一定の差を保った まま幅径が増加する傾向を示した.しかしながら,粘膜骨膜切除群における口蓋の側方 成長は継続的に抑制され,無処置群はもちろん,薬物投与群との問でも口蓋幅径の差は 大 きく ,す べて の計 測値 で有意差が認められた.また体重変化については,無処置 群 に 比 較 し て 術 操 作 を 加 え た 実験 群で は, 術後1週 目にわ ずか な体 重低 下が みら れたが,その後,無処置群とほぼ同様の成長曲線を示し有意差が認められなかった.

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【考察】

  薬 物 投 与群 に おい て 術 後2週目 に みら れ た 口蓋 の 成長 抑 制 は, 薬 物投与に 伴う 侵 襲と 炎 症に よ っ て引 き 起 こさ れ たも のであ り,瘢痕 組織が存 在したとし ても,

瘢 痕組 織 と骨 と の 間に 骨 膜 が介 在 する のであ れば,口 蓋の成長 抑制はほと んど認 め られ な いこ と を 示唆 し て いる と 思わ れる. また,粘 膜骨膜切 除群におい ても,

薬 物投 与 群と 同 様 に術 後2週 目ま で は 粘膜 骨 膜 切除 に 伴う 侵 襲 と炎 症によ って成 長 抑制 が 引き 起 こ され る と 考え ら れる ,しか しながら ,葉物投 与群とは異 なり,

粘 膜骨 膜 切除 群 で は侵 襲 と 炎症 に よる 影響が 消退した 後も骨膜 が再生され ないた め に, 瘢 痕組 織 と 骨が 密 に 結合 し ,引 き続き 口蓋の成 長を抑制 するのであ ろうと 考えられる.

  なお,粘膜骨膜切除群において,組織学的な観察により認められた骨添加量の減少だ けでは,計測学的に観察された程の口蓋幅径の発育抑制は生じないように思われる.こ れはおそらく,癜痕組織と骨の密な結合により,歯槽突起の外側への成長が抑制され,

歯槽突起部が内側に傾斜するようなカが働いた結果ではないかと推測されるが,この点 に 関 し て は , 今 後 さ ら に 詳 細 な 研 究 を 行 う 必 要 が あ る と 思 わ れ る .

【結諭】

1.薬物投与群では,癜痕組織と骨との問に骨膜が介在しているのに対し,粘膜骨膜切 除 群 で は , 骨 膜 は 完 全 に 消 失 し , 瘢 痕 組 織 と 骨 が 密 に 結 合 し て い た . 2.薬物投与群における口蓋の成長抑制は,術直後から術後2週目にかけてわずかにみら れたが,その後の成長抑制はほとんどみられなかった,これに対して粘膜骨膜切除群で は,口蓋の成長は継続的に抑制され,無処置群はもちろん,薬物投与群との間でも大き な差が認められた.

3.口蓋裂手術後に口蓋の成長抑制が生ずるのは,瘢痕組織の存在そのものというより は,むしろ骨膜が存在しないことによって,瘢痕組織と骨が密に結合した結果であると 考えられた,

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(4)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

口蓋の成長に及ぼす瘢痕組織と骨膜の影響

  審 査は ,各審査 委員がそ れぞれ個 別に,学位 申請者に 対して提 出論文の 内容なら び に そ れ に 関 連 す る 学 科 目 に つ い て 口 頭 試 問 す る 形 式 で 行 わ れ た .   口 蓋裂 の治療に 際して手 術を行う ことは,嚥 下機能や 言語機能 の回復の ために不 可 欠 であ るが,手 術後に顎 顔面の発 育障害,す なわち顎 顔面の変 形,ひい ては咬合 ・咀 嚼 など の機能障 害が生じ ることは 長い間大き な問題と なってき た.しか しながら ,果 た して この発育 障害の主 因が瘢痕 組織が存在 すること 自体にあ るのか, あるいは 骨膜 剥 離を 伴う手術 により瘢 痕組織が 形成される ことにあ るのかは 不明のま まであっ た.

  そ こで 学位申請 者は,口 蓋形成手 術後に生ず る顎顔面 の発育障 害が,瘢 痕組織が 存 在する こと自体 にあるの か,ある いはpush back法により生じた骨膜のなぃraw surface 上に瘢 痕組織が 形成され ることに あるのかを明かにすることを目的として,無処置群,

な らび に実験群 として瘢 痕組織が 形成され骨 膜が保存 される薬 物投与群 と瘢痕組 織が 形 成さ れ 骨 膜が 存 在し な い 粘膜 骨 膜切除群 の2っを設 定し,組 織学的な らびに計 測学 的に比 較検討し た.

  そ の結 果,@薬 物投与群 および粘 膜骨膜切除 群の両者 で口蓋粘 膜下結合 組織に瘢 痕 組 織の 形成が認 められる が,前者 では瘢痕組 織と骨と の間に骨 膜が存在 して両者 を分 け てい るのに対 し,後者 では骨膜 は完全に消 失し,瘢 痕組織と 骨が密に 結合して いる こ と, ◎ 薬 物投 与 群に お け る口 蓋 の成長抑 制は,術 直後から 術後2週目 にかけて わず か にみ られるが ,その後 の成長抑 制はほとん どみられ ないこと ,◎粘膜 骨膜切除 群で は ,口 蓋の成長 は継続的 に抑制さ れ,無処置 群はもち ろん,薬 物投与群 との間で も大 きな差 が認めら れること などを明 らかにし た・

  以上の結果 から,学 位申請者 は,口蓋 の成長抑 制が生ず るのは,瘢 痕組織の 存在そ のものとぃ うよりは むしろ, 骨膜が存 在しない ことによ って瘢痕組 織と骨が 密に結合 し て し ま う 結 果 で あ る と し , 実 際 の 口蓋 形 成手 術 に おい て も, 骨 膜 を剥 離 せず , 粘 膜 だ け を 剥 離 す る 手 術 法 を 採 用 す る こ と が , 術 後 の 成 長 抑 制 を 可 及 的 に 少 な

光 治

重 進

田 村

吉 中

授 授

教 教

査 査

主 副

(5)

くするために有用であると考えられると結論づけている.

  

論文の審査にあたっては,各審査委員ともに,はじめに学位申請者が本研究を構想 した経緯,本研究に関連する歴史的背景,本研究の目的,材料と方法,結果,考察,

および今後の研究の展望などを説明した後、提出論文の内容ならびにそれに関連する 事 項 に つ い て , 各 審 査 委 員 が 口 頭 に よ り 試 問 す る 形 式 で 行 っ た .

  

試問内容は,設定した実験群の妥当性,実験方法の詳細,組織学的研究技法,上顎 骨の成長と発育,瘢痕による発育抑制の機序,組織の修復機序,種々の口蓋形成手術 法とその問題点,口蓋裂における矯正学的アプローチなど,多岐に亘るものであった が,いずれの質問に対しても明快な回答が得られたことから,学位申請著は本研究に 直接関係する事項のみならず,口蓋裂全般に亘って基礎的ならびに臨床的な広い学識 を有していると認められた.また,今後の研究の展開に関しても,本研究を元にして 今後ますます発展してゆく可能性が高いと認められた.

  

本研究は,これまで不明であった唇顎口蓋裂の手術後に生じる口蓋の側方発育の抑 制の原因について,無処置群ならびに瘢痕組織が形成され骨膜が保存される薬物投与 群と瘢痕組織が形成され骨膜が存在しない粘膜骨膜切除群の

2

つの実験群を設定して 組織学的・計測学的検索を行った結果,このような発育抑制は,瘢痕組織の存在その ものというよりはむしろ,骨膜が存在しないことによって瘢痕組織と骨が密に結合し てしまう結果であることを明らかにしたものである.また,この結果は同時に,口蓋 形成手術を行う際に,術後の成長抑制を可及的に少なくするためには,骨膜を剥離せ ずに粘膜だけを剥離する手術法を採用する方が,良好な結果を得られる可能性を示唆 している.

  

実際に唇顎口蓋裂手術の現場では,これまで一般に採られて来た,粘膜と骨膜の両 者を剥離するとぃう方法に代わって,骨を含む組織における修復には骨膜の有無が大 きな要因となるとぃう観点から,骨膜を剥離せずに粘膜だけを剥離する手術が行われ るようになってきており,術後の発育抑制に関して良好な結果が得られることが報告 されている.

  

このように,臨床の現場で骨膜を保存する手術法が採用されつつある時期に,本研

究がその新しい手術法の妥当性を裏付ける根拠となりうる研究成果を得たことの意義

は大きく,口蓋裂治療のみならず,関連する研究分野の発展にも大きく寄与するもの

であると考えられる.従って,学位申請者は博士(歯学)の学位を授与されるにふさ

わしいと認められた.

参照

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