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博士(歯学)須貝 誠 学位論文題名

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Academic year: 2021

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(1)

     博士(歯学)須貝   誠 学位論文題名

自動 pH サ イクル装置を用いた乳歯および      永 久 歯 エ ナ メ ル 質 脱 灰 の 比 較

学位論文内容の要旨

【目的】

  エナメル質は臨界pH以下で脱灰を生じ、それ以上では再石灰化を示す。この脱灰 と再石灰化が繰り返し起こるなか、両者のバランスが崩れることで、脱灰が多く生じ 齲蝕が発生、進行する。脱灰と再石灰化には歯面のpHが強く関与して茄り、口腔内 ではStephanのカーブでよく知られているような連続的な変化を示す。これまでの齲 蝕研究には、Single−section法で作製した試料を、脱灰溶液と再石灰化溶液に交互に浸 漬 す るpHサ イ ク ル 処 置 を 施 す こ と に よ っ て 初 期 齲 蝕 を 形 成 し 、Transverse Microradiography(TMR)などで観察するという手法が数多く行われてきた。しかしこ の方法 では、pHサイ クル処置中 における試 料表面のpHは、脱灰溶液のpHか再石灰 化溶液のpHしか示さない急激な変化となってしまい、Stephanのカーブのような連続 的たpH変化を再現することは不可能であり、実際の口腔内とは異なる環境での研究 になら ざるを得な かった。Matsudaらは口腔内のpH変化を再現できる自動pHサイク ル装置を開発し、連続的なpH変化における歯質の脱灰の経時的変化を検討する実験 系を構築した。これにより、連続したpHの変化による脱灰と再石灰化の繰り返しに よって起こる歯質の変化を血庇rDで観察することが可能となり、永久歯を用いた研究 において良好な結果を示した。しかし、これまでの自動pHサイクル装置を用いた研 究はすべてヒト永久歯を対象としており、ヒト乳歯での検討は行われていない。そこ で本研究は、ヒト乳歯を用い自動pHサイクル装置による乳歯エナメル質の脱灰を観 察し、エナメル質脱灰部分の定量分析を行うとともに、永久歯エナメル質の脱灰との 比較検討を行うことを目的とした。

【材料と方法】

1)試料の調整

  本研究には歯の交換期に自然脱落または抜去した健全ヒト乳臼歯およぴ抜去した健 全ヒト第三大臼歯を用いた。なお、歯の提供に関しては、本実験の趣旨を患者とその 保護者に十分説明し、その提供に承諾を得たもののみを用いた。得られた歯は低速切

(2)

断 機 を 用 い て 歯 冠 を 歯 軸 に 平 行 に頬 舌方 向ヘ 切断 し、 厚さ 約300弘mの切片 を作 製し た 。 得 ら れ た 切 片 は 切 断 面 を 砥 石を 用い て注 水下 で研 磨し 、約150ルmの厚 さに 調整 し た。切断面はスティッキーワックスで被覆し、Single‑section試料を作製した。試料 は 乳歯 、永 久歯 それぞ れ10切片 とし た。

2)自動pHサイクル装置の設定

  pHサ イ ク ル はMatsudaら の 方 法 を 用 い て1日9回pHが 変 化 す る 環 境 に 設 定 し た 。 脱灰溶液(0. 2mol/l乳酸、3.Ommol/l CaCl2、1.8rrif riol/l  KH2P04ヽpH4.5)と再石灰化 溶液(0. 02mol/l  HEPES、3.Ommol/l  CaCl2、1.8mmol/l  KH2P04、pH7.O)を用しヽて、

各 サ イ ク ル に お け るpHが5.5以 下で ある 時間 (脱 灰時間 )を 平均37.2土O.7分 、初 期 のpHに 戻 る ま で の 時 間 ( 回復 時間 )を 平均61.1土0.7分と なる よう に設 定し た。

サ イ ク ル 数 は1日9回 (6、8、10、12、14、16、18、20、22時 )と し、 この 期間 船よ び装置を稼動させない期間は再石灰化溶液に浸漬した。

3) エナ メル 質脱 灰の 観察

  エナ メル 質の 脱灰 評価は 、TransverseMicroradiography (TMR)の 観察 によって行っ た 。 実 験 開 始 前 とpHサ イ ク ル 開 始 後1、2、3、4週 目 に、 両群の 試料 をア ルミ ステ ッ プ ウェ ッジ とと もにコンタクトマイクロラジオグラフイー撮影装置を用いて撮影した。

撮 影 条 件 は 、 管 電 圧15kV、 電 流3mA、 試 料 ー 焦 点 間 距 離100mm、 照 射 時 間20分 間 で 行 った 。撮 影に は、 ガラス 乾板 を用 い、 現像 定着 は専 用現 像液 、専 用定 着液を用いて 行 った 。

4)エ ナメ ル質 脱灰 の評価

  現 像 し たTMR画 像 はMatsudaら の 方 法 に 準 じ て 、 光 学 顕 微 鏡 に 接 続 し たCCDカ メ ラ と汎 用画 像処 理ソ フト ウェ アを 用い てデ ジタ ル化処 理を 行った。デジタル化した画 像 はAdobe Photoshop7.0を用 い、 エナ メル ‐象 牙境を 基準 として重ねあわせた。エナ メ ル 質 辺 縁 か ら 距 離150、250、350弘mの 位置で 、そ れぞ れ50ルmの幅 で表層 から150 ルmま での 領域 にお ける 脱灰 像の 黒化 度を 、画像 解析 ソフ トに より 測定 した 。得 られ た 黒化 度は 、ア ルミ ニウ ムス テッ プウ ェッ ジの 黒化度 を基 準として補正を行った後、

Angmarらの 式を 基に 解析 して ミネ ラル プロ ファ イルを 算出 した。各試料における実験 開 始 前 の ミ ネ ラ ル プ ロ フ ァ イ ル とpHサイ クル後 のミ ネラ ルプ ロフ ァイ ルを 重ね 合わ せ 、健 全歯 質の95% の位 置を 比較 し、 その 差と して現 れる 面積であるミネラル喪失量 をIntegratedMineralLoss(IML)、脱灰深度をLesiondepth(Ld)として算出し、この2 つ の要 素に より 脱灰 を評 価し た。

5)統計処理

  すべての統計処理はpく0. 05の有意差で行った。乳歯と永久歯のIML (Vol%.皿m)

(3)

と Ld ( pm) にっいて、各週の検定およぴ両群間における検定はー元配置の分散分析 (one‑way ANOVA) を用いて行った後に、Scheffe の方法を用いて比較検討を行った。

【結果】

   乳歯、永久歯両群における測定部位ごとのIML 、Ld の変化について、測定部位間で の統計学的有意差は認められなかった( p >0‑ 05) 。乳歯における測定部位3 カ所の平 均を用いた平均 IML 、平均Ld は週を経るごとに増加し、各測定期間において有意差が 認められた。永久歯においても同様な結果が得られた。また、乳歯は永久歯と比較し て、1 週、2 週、3 週、4 週におけるIML 、 Ld の値が高く、それぞれに諮いて有意差が 認められた。特に4 週における乳歯のIML 、 Ld は、他の週と比較して大きな値を示し た。

【考察】

   本研究では、口腔内に類似したpH の連続的な変化を再現する自動pH エナメル質に 人 工齲蝕を発生させ、ミネラル喪失量を示す IML と脱灰深さを示すLd により両者を 比較した。その結果、乳歯、永久歯ともに週を経るごとに、IML とLd がそれぞれ増大 した。この傾向は松田らや木地村らの報告と同様であり、本研究結果は乳歯およぴ永 久歯において妥当なものであると考えられた。―方、乳歯は永久歯と比較して齲蝕に 罹患しやすいことは周知の事実であり、今回の研究でも乳歯のIML 、Ld が永久歯のそ れと比べて有意に大きかったことで、乳歯は永久歯と比べて脱灰されやすいことが示 された。以上のことから、自動pH サイクル装置による脱灰・再石灰化処理は乳歯に おいても有用であることが示唆された。乳歯と永久歯は、厚さ、結晶の性状、有機質 の含有率ぬど、異なる部分が多い。そのため、同様のフッ素徐放性修復物を使用した としても、その抗齲蝕効果などに違いが生じることが予想される。自動pH サイクル 装置は、このような修復材料やフッ化物の効果の判定や、齲触学における乳歯と永久 歯 の 違 い に 関 す る 研 究 な ど に 応 用 で き る こ と が 示 唆 さ れ た 。

【結論 】

   自動pH サイクルを用いて乳歯、永久歯における脱灰変化を IML 、Ld にっいて比較 検討し 、以下の結 論を得た。

1 .今 回の実験条件において、乳歯、永久歯のIML (Vol %.ルm) およぴLd (ル m)

   の 経 時 的 増 加 か ら 、 両 群 に 有 意 な 脱 灰 変 化 が 認 め ら れ た 。

2 .乳歯は永久歯と比較して IML およびLd が有意に増加したことから、乳歯は永久

   歯 よ り も 脱 灰 し や す い こ と が 本 実 験 か ら も 示 す こ と が で き た 。

3 .自動pH サイクル装置は乳歯においても、永久歯同様に脱灰、再石灰化を起こす

   ことが示されたとともに、乳歯を用いた齲蝕研究に有用であることが示唆され

   た。

(4)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

自動pH サイクル装置を用いた乳歯および      永 久 歯 エ ナ メ ル 質 脱 灰 の 比 較

  口 腔内 におけ る歯 質の 脱灰 ・再 石灰 化を 予測 することは、齲蝕の発生・進行の予 防・ 治療 におい て重 要で ある 。こ れま での 齲蝕 研究 では 、Singleーsection法で作 製 し た試 料 を 脱 灰 溶 液 と 再 石灰 化溶 液に 交互 に浸 漬す るpHサイ クル 処置を 施す こ とに よっ て、初 期脱 灰を 形成 し観 察す ると いう 手法が数多く行われてきた。しかし こ の 方法 で は 、pHサ イ ク ル 処 置 中 に お け る 試 料 表 面 のpH変 化は 急激 で、Stephan の カ ーブ で 知 ら れ る 連 続 的 なpH変化 を再 現す るこ とは 不可 能で あり 、実際 の口 腔 内とは異なる環境での研究にならざるを得なかった。

  松 田 ら は 口 腔 内 の 連 続 的 なpH変 化 を 再 現 す る こ と が 可 能 な 自 動pHサ イ ク ル 装 置を 開発 し、そ の有 効性 を報 告し てい る。 しか し、これまでの研究はすべてヒト永 久歯 を対 象とし てお り、 ヒト 乳歯 での 検討 は行 われていない。そこで本研究は、自 動pHサイ ク ル 装 置 を 用 い て 乳歯 エナ メル 質の 脱灰 を観 察し 、エ ナメ ル質脱 灰部 分 の定 量分 析を行 うと とも に、 永久 歯エ ナメ ル質 の脱灰との比較検討を行うことを目 的とした。

  試 料は 健 全 ヒ ト 乳 臼 歯 お よび 健全 ヒト 第三 大臼 歯を 厚さ 約150ルmの薄片 に調 整 し た も の を 用 い た 。 装 置 の 設 定は 松 田 ら の 方 法 に 準 じ 、1日9回pHが 変 化 す る 環 境に設定した。脱灰溶液`(0.2moljl乳酸、3.Ommol/l CaCl2、1.8DIDlol/l KH2 P04、 pH4.5) と 再 石 灰 化 溶 液 (0.02mol/l HEPES、3.Ommol/l CaCl21.8mmo:Ul KH 2P04.  pH7.0)を 用 い て 、 各 サ イ ク ル に お け るpHが5.5以下 であ る時間 (脱 灰 時 間 )を 平 均37.2士0.7分 、 初 期 のpHに 戻 る ま で の 時 間 ( 回復 時間 )を平 均61.1 土0.7分と なる よう に設 定し た。 各サ イクル の間 隔は60分 とし ,こ の期 間お よぴ装 置を稼動させない期間は再石灰化溶液に浸漬した。

  脱 灰 の 評 価 は 、 試 料 に 対 し て実 験 開 始 前 と 開 始 後1週 毎 に4週 ま でIYansverse Microradiography (TMR)撮 影 を 行 っ た 。 得 ら れ た 画 像 は デ ジ タ ル 化 し た 後 、 実験 前後 の画像 をエ ナメ ル一 象牙 境を 基準 とし て重ねあわせ、エナメル質辺縁から 距 離150、250、350 pmの 位 置 で 、 そ れ ぞ れ50pmの 幅 で 表 層 か ら150ルmま で の領 域に 船ける 脱灰 像の 黒化 度を 求め た。 得ら れた黒化度はアルミニウムステップ ウ ェ ッジ の 黒 化 度 を 基 準 と して 補正 を行 った 後、Angmarら の式 を基 に解析 して ミ ネラ ルプ ロファ イル を算 出し た。 実験 前後 のミ ネラルプロファイルを重ね合わせて

孝 彦

保 英

若 野

八 佐

授 授

教 教

査 査

主 副

(5)

健全歯質の95 %の位置を比較し、その差として現れる面積であるミネラル喪失量を Integrated Mineral Loss (IML) 、脱灰深度を Lesion depth (Ld) として算出し、

こ の 2 つ の 要 素 に よ り 脱 灰 を 評 価 し 、 乳 歯 と 永 久 歯 で 比 較 し た 。    その結果、乳歯、永久歯ともに週を経るごとにIML およびLd が増加し、各測定 時間において有意差が認められた。また、乳歯は永久歯と比較して各測定時間にお いて IML 、Ld が高く 、有意差が認められた。特に乳歯では第 4 週においてIML 、 Ld が大きく増加し、永久歯の脱灰傾向と差異が認められた。さらに、乳歯では表 層脱灰およぴ表層下脱灰が認められたのに対し、永久歯では表層脱灰のみ認められ た。

   以上の結果から、乳歯は永久歯よりも脱灰しやすいことが本研究からも示すこと ができた。また、自動pH サイクル装置は、乳歯に茄いても、永久歯同様に脱灰・

再石灰化を起こすことが示されたとともに、乳歯を用いた齲蝕研究に有用であるこ とが示唆された。

   口頭試問では、本論文の内容とそれに関連した学問分野にっいて質疑応答がなさ れた。主な質問事項は、

@黒化度測定部位の設定根拠にっいて

◎エナメル質脱灰部の形態観察にっいて

◎乳歯およぴ永久歯における表層下脱灰の個体差にっいて

@ 予 備 実 験 と 本 実 験 に 茄 け る エ ナ メ ル 質 脱 灰 の 違 い に っ い て

◎口腔内温度における自動pH サイクル装置の実験について

◎TMR 画像上での黒化度測定部位の位置にっいて

◎同一被検歯面上におけるエナメル質脱灰の差について

◎被検歯エナメル質の成熟度と脱灰の関係にっいて

◎ 乳 歯 に 描 け る 第 4 週 の 脱 灰 と エ ナ メ ル 小 柱 構 造 と の 関 連 に っ い て

◎乳歯およぴ永久歯におけるエナメル質の厚さにっいて

@今後の展望にっいて

などであり、これらの質問に対し申請者から適切かつ明快な回答が得られた。さら に実験手技を含めた詳細な内容についても熟知していることが示され、申請者が関 連する分野にっいて幅広い知識を有しており、研究の立案と進行、結果の解析につ いて十分な能カを有していることが明らかになった。さらに、本研究の発展を見据 えた今後の展望と、発展に必要となる研究にっいての具体的な提示が申請者から示 された。

   本研究は、乳歯と永久歯の脱灰・再石灰化に茄いて差異があること、ならびに乳 歯の脱灰・再石灰化に関する実験において自動pH サイクル装置が有用であること を示した点が評価された。

   以上のことから、審査担当者全員が、本研究が学位論文に十分に値し、申請者は

博士(歯学)の学位を授与するのに十分な学識・資質を有しているものと認めた。

参照

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