HPSI Working Paper Series
HPSI
Hosei University Policy Science Institute
法政大学政策科学研究所
法政大学大学院政策科学研究科
東京都城西地域におけるアニメ産業集積の今後と
自治体アニメ産業振興支援の現状・課題について
井山 利秋
法政大学政策科学研究所ディスカッション・ペーパー・シリーズは、同研究所および法 政大学大学院政策科学研究科メンバー、および外部研究者による暫定的な研究成果を取り まとめものであり、学界、研究機関、実務者など幅広い層の方々との意見交流をつうじて、 研究の一層の進展を図ることを目的としたものである。論文の内容や意見は、あくまでも 執筆者個人のものであり、政策科学研究所あるいは執筆者の属する機関としての見解を示 すものではない。 なお、本論文に関するコメント、質問等は、直接、執筆者に連絡されたい。 法政大学政策科学研究所連絡先 〒162-0843 東京都新宿区市谷田町 2−15−2 法政大学大学院事務 Tel. 03-5228-0550
2005 年 11 月
東京都城西地域におけるアニメ産業集積の今後と
自治体アニメ産業振興支援の現状・課題について
井山 利秋
1要旨
世界で放映されるアニメーションの約 6 割が日本製といわれている中で、アニメ製作(制 作)会社は、東京都の杉並区と練馬区に事業者数が際立って多く集中している。これに多摩 地域の武蔵野市、三鷹市を含めた東京都城西地域は、アニメ産業の世界最大の集積地とな っている。また、政府はアニメをはじめとするコンテンツ産業の成長を、日本が誇る産業 として支援し、全国のいくつかの自治体では、アニメ産業を産業振興のひとつとする計画 が検討されている。 本稿では、アニメ産業が東京都城西地域で世界最大の産業集積地となった過程を明らか にし、同地域のアニメ産業集積の特徴を現場スタジオの聞き取り調査等から検証し、クラ スターと呼ばれる集積形態となり得ているのかも考察する。そして国や該当自治体の振興 政策を、関係省庁への聞き取り調査等を通じて検証し、行政支援の問題点と課題を明らか にした。その結果、同地域のアニメ産業集積は、セル画からデジタル作画へ転換済の状況、 グローバル化の適応等から、空洞化するのではなく今後も一定維持するものと結論づけた。 そして、文化芸術と産業の二面性や中小企業問題などの課題が空洞化論に影響しているこ とを指摘した。さらにクラスターは、研究・教育機関がコア(核)となって、その発展を 支えることが多いのに対して、同地域にはこれに該当するものがないまま集積が進んだに もかかわらず、最近の教育・研究機関進出計画などの動きを鳥瞰図的に見渡すと、クラス ター維持機能が働いているかのように見え、産業集積の展望が広がるものと指摘した。 最後は、団塊世代退職後に「富」を生み出す、大都市部住宅地の産業政策の必要性を論 じたうえ、同地域のアニメ産業が人的集積から発展したように、種(シード)は、それぞれ の都市内にあると考え、それをいかに早く見つけ、選別し、育んでいくことが大切である とし、これを結論とした。 1 杉並区区民生活部生活経済課長 (法政大学大学院政策科学修士) e-mail: [email protected] 2 本稿は、法政大学大学院政策科学研究科に提出した修士論文を加筆修正したものである。本稿作成にあ たり、指導担当教員の間島正秀教授をはじめ、研究アドバイザーの岡本義行教授、拓殖大学の岡田彰教授、 那須大学の原田誠司教授から多くの示唆と指導を受けた。特に間島教授には、課程途中での研究内容変更 にもかかわらず、論文項目作成全般にわたる適切な指導をいただいた。また、諏訪教授及び日本労働研究・ 研修機構の勇上研究員には、研究グループに参加させていただき、多くの機会を得ることができた。そし て、多忙の中、聞き取り調査とその後の校正も協力いただいたアニメ産業関係者の皆様。 これらの方々に対して改めて謝意を述べる次第である。目 次
はじめに―都の西はアニメの杜 ……… 1
第 1 章 アニメ産業の構造と特徴 ……… 2
第 2 章 東京都城西地域への集積過程と現状 ……… 9
第 3 章 アニメ関係事業者への聞き取り調査 ……… 26
第 1 節 聞き取り調査 第 2 節 聞き取り調査のまとめ第 4 章 各セクターのアニメ産業支援 ……… 39
第 1 節 国のアニメ産業支援 第 2 節 自治体のアニメ産業支援 第 3 節 市民セクターの動き 第 4 節 人材育成・教育分野の動き第 5 章 産業集積の今後と支援のあり方 ……… 58
第 1 節 地域アニメ産業集積の今後 第 2 節 産業振興政策の課題と提言おわりに ……… 65
関係年表 ……… 66
参考文献 ……… 68
はじめに―都の西はアニメの杜
1.住宅地に形成された世界最大の産業集積地
1999 年の『ポケモン』のアメリカでのフィーバー1から、『千と千尋の神隠し』のアカデミー 賞アニメーション部門での受賞2や、『イノセンス』のカンヌ映画祭ノミネートなど、日本のア ニメ3は、クール・ジャパン(Cool Japan) 4と呼ばれる、海外から見た現在日本を象徴するひと つとなっている。これを支える、アニメ産業であるが、世界で放映されるアニメーションの約 6 割が日本製といわれている中で、日本動画協会の 2002 年の調査(日本動画協会[2003,p3])に よれば、全国のアニメ製作(制作)5会社数は、約 430 社であり、このうち、359 社、全体の 83% が東京都に集中している。このうち、杉並区と練馬区はともに事業者数が 70 社を超えて際立っ て多くなっている。これに多摩地域の武蔵野市、三鷹市を含めた東京都城西地域は、アニメ産 業の世界最大の集積地となっている。しかし、アニメ製作(制作)会社の多くは、一般の住宅街 やオフィスビルの一角に、所在を示す看板も小さく、目立たぬようにひっそりと存立している ケースが多い。首都圏のなかでも、「住宅都市」と呼ばれている地域で、なぜ、世界最大の産業 集積地が形成されたのか。また、集積の構造とその特徴はどこにあるのか。2.アニメ産業振興支援の内容と課題
政府は、内閣府の知的財産戦略会議で、アニメをはじめとするコンテンツ産業を、日本が誇 る産業として支援する方向へ進み、全国のいくつかの自治体では、アニメ産業による地域産業 振興を図る計画が検討されている。その中でも、東京都城西地域の自治体は、独自の産業振興 支援を開始している。行政は、いつからアニメ産業の振興を行い、その支援の内容と今後の課 題はどのようなものだろうか。 本稿では、日本の産業成長の鍵のひとつといわれるアニメ産業が、東京都城西地域で成長し、 世界最大の産業集積地となった過程を明らかにし、その特徴を分析し、クラスターと呼ばれる 集積の形態となり得ているのかを、現場スタジオの聞き取り調査等から検証し、アニメ産業集 積の今後について考察する。また、国や該当自治体の振興支援策を、関係省庁への聞き取り調 査等を通じて検証し、支援の問題点と課題を明らかにする。そして、この地域でのアニメ産業 に関する人材育成・教育の新たな動きを、今後の産業集積の維持発展と関連付けて考察した上 で、最後に、大都市部住宅地での産業振興支援の必要性を提言することを本稿の目的とする。 1 「米国で最も高い興行収入を獲得した日本のアニメ映画は、1999 年に公開された『ポケットモンスター ミ ューツーの逆襲』です。グロスで 8,574 万ドル(102 億 8,880 万円)、公開劇場数 3,043 館でした。これは『ス ターウォーズ』や『スパイダーマン』に匹敵する堂々の全米公開です。」(日本貿易振興会[2003,p2]) 2 同作品は同年のベルリン国際映画祭では金熊賞(グランプリ)を受賞。 3 「アニメーション」と「アニメ」の本論文における使用区分は、第1章で記述する 4 「クール」は「かっこいい」「いかす」という意で使用される。 5 「製作」と「制作」は、デジタルアニメ製作技術研究会『プロフェッショナルのためのデジタルアニメマニ ュアル 2002-2003』[2003,p131]の用語区分による。「製作=作品の企画を出し、資金と人材を集めて作品を制 作させ、作品の宣伝・興行・販売を行うこと。プロデュース」「制作=1.作品を作る実作業を行うこと。2.制 作進行担当者のこと。3.制作部署のこと。」「製作会社=作品を製作する会社。作品に関する著作権を持つ。広 告代理店、映画配給会社、出資会社などがなり、実際に作品を制作している会社とは異なることが多い。」「制 作会社=アニメーション作品を、制作会社からの依頼を受けて実際に作る会社、作品に対して出資していない 場合は、作品に関する権利を持つことが少ない。」なお、両方の意味を含む表現が必要な場合は、「アニメ製 作(制作)」のように併記する。第 1 章 アニメ産業の構造と特徴
第 1 章では、はじめに普段使い分けされていない「アニメーション」と「アニメ」の用語の 使用経緯からの定義を行う。次に、アニメ産業の市場規模を概観し作品の制作工程から、労働 集約型産業の性格を明らかにする。そして、産業の裾野の広い周辺効果のある産業であること を説明する。
1.アニメ(anime)は日本語
1.1 英和辞典にない「anime」 筆者が所持している英和辞典6では、「animation」の意味は、「名詞 1 活発;生気[元気](を与 えること)、2 アニメ製作;アニメーション、アニメ映画」となっている。一方、「anime」の単 語は収録されていない。所持しているもうひとつの日常レベル英和辞典7でも、「animation」の 意味は、ほぼ同様の表現で記載されているが、やはり、「anime」の単語は収録されていない。 ウェブ上の一般的な英和辞典8でも「anime」は「検索結果に該当するものが見当たりません。」 となる。では、「anime」なる英単語はどこで出来上がったのだろうか。 1.2「animation」から「anime」へ 一般的には単純に「アニメーション」の省略形が「アニメ」と思われるが、英語表記の単純 省略では、「ani」、「anim」、「anima」であり、日本語表記では「アニ」、「アニム」、「アニマ」と なってしまい、「アニメ」にはならない。英語の一般的辞典に記載されていないことを考え合わ せると、日本語の「アニメーション」を省略した「アニメ」からの転用で、「anime」はできた と考えるのが一般的と思われる。 それでは、日本ではいつ頃から「アニメーション」だけでなく「アニメ」の用語が使用され ていたのかを調べてみると、日本のTVアニメ放送が本格的に始まって 3 年目の 1966 年に発行 された『アニメーション入門』(森[1966])によると、本文中では、「アニメーション」を使用 しつつ、単純な省略体として「アニメ」の用語も多く使われている9。この頃には、既に日本語 の「アニメーション」の略語に「アニメ」が使われ、一般的に使用されていたと思われる。 英語圏に限定するが、「アニメ」の英語表記である「anime」は、本来は、言葉として存在し ない。ところが、米国内での「anime」という単語を知っていますかという調査では、「Yes=19%」 「No=81%」という結果になっている(日本貿易振興会,[2003])。津堅信之によれば、「諸外国で 『anime』という語が一般化したのがいつ頃かははっきりとわからないが、ディズニー映画の一 人舞台であるアメリカでも、遅くとも 1990 年代前半には、ファンの間では一般化していたよう である。」(津堅[2004,p168])。 日本貿易振興会調査の数値をどう見るかは論が分かれるが、本来母国語に無い単語を 2 割近 くの米国人が知っていることは、既に日本語の「アニメ」が「anime」となって、世界に浸透し ている状況を示しているものとも考えられるだろう。 1.3「アニメーション」はすべて「アニメ」か 6 小西友七・南出康世[2001],『ジーニアス英和辞典第3版』、大修館書店. 7 堀内克明・石山宏一[1999],『ポケットプログレッシブ英和・和英辞典』、小学館.8「goo 辞書EXCEED 英和辞典」(http://dictionary.goo.ne.jp/index.html 2004.12.17)
それでは、単純に「アニメーション」の省略語はすべて「アニメ」となるかといえば、事情 はそう簡単ではない。アニメーション制作に携わる、アニメーター、美術家、研究家など、100 余名の会員が所属している、日本アニメーション協会のウェブ・ページ上10では、「アニメ」の 表記は、わざわざ「いわゆるアニメ/Japanimation」とされ、ほとんど使用されていない。 同様に、同協会も共催した映像芸術系の大学や専門学校が中心となって実施された作品発表 会である、「インター・カレッジ・アニメーション・フェスティバル」のガイドブックでも、原 則「アニメーション」の用語が使われ、「アニメ」は、例外的または意図的に使用11されている に過ぎない。筆者が接した関係者の中でも、「自分の作品は『アニメーション』であって、『ア ニメ』でない」との内容の会話を交わした記憶もある。こうした「アニメーション」と「アニ メ」の使い分けから、ある程度のアウトラインが浮かぶ。 1.4 本稿での定義 本稿では、「アニメ(anime)」=「日本製の市場流通前提で制作されたアニメーション作品」と し、これを生産する産業を「アニメ産業」と表記する。これ以外のものを「アニメーション」 の表記で統一する。用語定義では、津堅が比較的体系的に説明している。 筆者は、前項までのなかで、「アニメ」と「アニメーション」という語を両方使っている が、実はこれらの語を使い分けて書いている。 専門家の間でも、この語の使い分けについては議論されているのだが、おおむね、海外 の作品を含めた全般的な語を「アニメーション」とし、主に『鉄腕アトム』以降で日本の テレビや映画を媒体として商業ベースで制作された作品を「アニメ」と呼ぶことが多いと 思われる。(津堅[2004,p20]) アニメの呼称では、「ジャパニメーション(Japanimation)」がある。「アニメ」と「ジャパニ メーション」の違いについて、岡田斗司夫は、日本の作品輸出との関係で、この差異について 論述している。 「ジャパニメーション」と「アニメ」の差は、単に言葉の差というだけではない。この 2つは、もっと根本的に違う物だ。ジャパニメーションと呼ばれていたのは、その頃アメ リカでずたずたに再編集され、テレビでお子さま向けに放映されていたもののことである。 (岡田[1995,p15]) また、津堅によるアメリカにおける日本アニメの歴史と現状についてのヒアリングによれば、 Japanimation という語は、1991∼92 年頃に生まれた言葉だが、日本のアニメファンの間 から生まれたものではなく、商業サイドの人たちが一般のアメリカ人への説明用に作り出 した語ではないか。現在でも、特に東海岸地域では Japanimation という語は使われている が、日本アニメファンの間では使われていない。(津堅[2004,p175]) 10 日本アニメーション協会 (http://www.jaa.gr.jp/j/ 2004.12.17) 11 本文 60 ページ中「アニメーション」使用は 133 箇所に対し、「アニメ」使用は、固有名詞的使用と「TV ア ニメ」などのように、意図的に使った部分あわせても 11 箇所である。(筆者調査)
Japanimation の用語定義は確立されてはいないが、海外、特に米国から見たアニメのひとつ の見方であるので、本稿では使用しない。
2.アニメ産業の規模
2.1 直接市場規模 アニメ産業の国内市場規模は、1995 年以降、1,600 億円前後で推移していたが、2001 年に 1,860 億円となり、2002 年には 2,135 億円と初めて 2,000 億円を突破した。 図 1-1 国内アニメ市場の推移 出典 メディア開発綜研資料をもとに筆者作成 2.2 国内関係市場規模 図 1-1 は、映画、ビデオ、テレビ製作の売り上げのみの金額であり、関連商品を含めた市場 規模に関する正確な統計数値ではない。野村総合研究所によれば、コンテンツに関連する 4 分 野(アニメ、アイドル、コミック、ゲーム)の産業全体の市場規模は約 2 兆 3,000 億円12とし ている。また、「キャラクターライセンスを与えた製品の総生産額は 2 兆円との説も」(経済産 業省[2003])。さらに、「日本のアニメ産業の国内市場規模は約 2,000 億円である。テレビ局か らの『製作委託費』、映画興行収入、パッケージのレンタル及び販売額等の総計である。その他 キャラクターグッズ売上額の数%にあたるマーチャンダイジング収入も入っている。この程度の 売上額なら、製造業でいえば中ぐらいの会社の規模であろう。ところが、国内外におけるアニ メ関連の市場規模の推計は、2∼3 兆にものぼるものともいわれている。」 (山口[2004,p4])。 把握概念の違いもあるが、どれも直接的な市場規模をはるかに超え、おおむね 2 兆円規模を 示している。ちなみに、2 兆円の規模は、日本国内の米生産額13に匹敵する額である。 2.3 米国における市場規模 アニメ産業の規模を示すひとつの見方として、日本貿易振興機構の調査「米国アニメ市場の 実態と展望」によると、米国内のアニメの市場規模は、「米国におけるアニメビジネス市場は小 12 野村総合研究所 2004 年 8 月 24 日『NEWS RELEASE』による。 13 農林水産省統計情報データーベース「年次別農業総産出額及び生産農業所得」によれば、2002 年の米の産 出額は、2 兆 2,284 億円。 26 46 120 261 1069 16111588 1637 1651 1519 1593 1860 2135 0 5 0 0 1 0 0 0 1 5 0 0 2 0 0 0 2 5 0 0 ( 億円) 1970 1975 1980 1985 1990 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 ( 年) アニメ産業の市場規模売ベースで推定 5,231 億円(2002 年)」(日本貿易振興会[2003a,p8])となる。これは、米国が 同年に日本から輸入した鉄鋼製品の約 4.1 倍に相当する額14となっている。米国でのアニメ関 連産業の状況を同調査では、「アニメ・イベントは 15 億円市場」(日本貿易振興会[2003a,p9]) であり「全米で毎年多くの『日本のアニメやコミック』にこだわったイベントが開催されてい る。多くはファンが独自に組織化して開催するもので、日本からパネラーや講師としてプロデ ューサー、監督、キャラクターデザイナーなどクリエーターが招待されることもよくある。2002 年に開催されたイベント数は 18、そのうち参加者数を公表しているものが 12、そのトータルが 10 万 1400 人。」(日本貿易振興会[2003a,p9])など、米国における人気ぶりの一端が垣間見え る。
3.アニメ産業の構造
3.1 アニメ制作工程の概要 会社ごとに多少異なる部分もあるが、デジタル工程が導入されている、一般的なアニメ制作 工程の概要15を簡単に記述する。 1)企画 どのようなアニメ作品にするのかから、企画は開始される。人気漫画等からの原作やオリジ ナルものなど、ジャンルも含めて検討しテーマを決め、あらすじ(シノプシス)を文章化し企画 書を作成する。この段階で、登場する主人公(メインキャラ)や主に使われる背景、乗り物等の メイン美術の設定も行われることが多い。また、漫画原作のあるものは、主人公の細かな表情 をアニメの動きに合わせたものに一部修正することもある。 2)シナリオ 企画書を基に、脚本家が作品全体の流れやそのテーマを考えて、場面区切りや場面展開ごと に、セリフや基本的な動きも含め文章を作成する。劇で使われるシナリオと同じで、作品全体 の流れができあがる。 3)絵コンテ シナリオ文章を各場面(カット)ごとに、時間進行を含めて映像イメージに変える。構図やセ リフ、効果音も含めて書き込み作成する。これで、視覚的にもアニメ作品のイメージができあ がる。米国では「ストーリーボード」と呼ばれる。 4)その他のキャラクター設定や美術設定 企画段階で設定された、主人公等以外の登場するキャラクターや乗り物などメカニック部分 や背景等の美術を設定する。 5)「美術ボード」(美術設定) 企画で決められた背景部分などのイメージを統一したうえで作成する。 6)原画 絵コンテや設定されたキャラクターを基に、カットごとにその時間にあわせた動きの中心と なる部分を正確に描いていく。また、彩色する色指定も行う。 7)動画 14 総務省統計研修所『第五十三回 日本統計年鑑 平成16年』15-7 主要国及び主要商品別我が国の輸出額(平 成 14 年)による米国向け鉄鋼輸出額は、1,272 億 1,900 万円 15 株式会社サンライズ会社概要資料[2004]「Making of Animation」及びデジタルアニメ製作技術研究会[2003] を参考にした。原画と原画をつないで、キャラクターの動きを変化するように作画する。 8)デジタル彩色 原画で指定された色指定書ごとに、コンピューターにより場面ごとに彩色をする。 9)デジタルエフェクト 前工程からのデーターをもとにして、映像的な特殊効果や表現の付加作業を行う。 10)コンポジット キャラクターの動き部分と美術ボードで設定し作成した背景などのデーターを合成する。 11)ビデオ編集 ここまでの映像部分の動画の動きや特殊効果や背景など編集する。「音の無い」映像部分は、 ここで一応できあがる。 12)アフレコ(After Recording) 声優が、映像に合わせて声を吹き込む作業を行う。 13)ダビング セリフや効果音、音楽などの音響素材をひとつにまとめる。 14)ビデオフォーマット編集 映像原版と音源版をひとつにし、納品仕様を満たすように編集する。 15)完成 製品としてのアニメ作品はここで一応完成する。 この制作工程を図示すると図 1-2 のような流れになる。 図 1-2 デジタルによるアニメ制作工程例 サンライズ会社概要資料[2004]「Making of Animation」をもとに筆者作成 企 画 原 画 メインキャラ設定 メイン美術設定 シノプス シナリオ 絵コンテ ゲストキャラ設定 ゲスト美術設定 動 画 デジタル彩色 デジタルエフェクト コンポジット ビデオ編集 アフレコ ダビング ビデオフォーマット編集 完 成 背 景 美術ボード
3.2 労働集約型産業 図 1-2 で見るように、アニメ作品はかなり多くの工程を経て作成されているが、デジタル工 程以前のセル画時代の工程では、更に多くの工程を要していた。 図 1-3 は、デジタル化以前のセル画制作工程の一例である。セル画工程では多くの手間と人 手をかけ動画を一枚一枚手で彩色し、出来上がったセル画を「線画台」と呼ばれる撮影機械で、 背景部分とあわせて一枚一枚撮影する作業があり、現在では、多くがコンピューターの画面上 で行える編集作業も、手作業的な工程で行われていた。 デジタル化では、すでに彩色や編集部分だけでなく、原画や動画部分をデジタル化した作品 も多く制作されている。また、図 1-2 は日本で主流である 2D と呼ばれる平面表現のものだが、 立体的な画像表現を行う 3D アニメは、その工程の多くがデジタル化されている。 アニメ作品は「アニメ製作会社」である元請プロダクションと、動画や作画を中心に行う「ア ニメ制作会社」の作画プロダクションや背景美術を専門に行う会社、撮影・編集会社、音声制 作プロダクションなど、多くの部門別の分業体制によって作られている。以前に比べると工程 が簡略化されたとはいえ、多くの工程とこれを支える分業体制があり、人手・労働力を多く必 要とする労働集約型産業16の性格は現在でも大きく変わってはいない。 図 1-3 セル画アニメ制作工程例 企画 脚本 プロダクション デザイン キャラクター設定 メカニック設定 美術設定 音響 音楽 効果 セリフ 絵 コ ン テ レ イ ア ウ ト 原 画 検 査 撮 影 編 集 アフレコ 動 画 ト レー ス 彩 色 録音 (ダビング) 完成 背景原画 作画 特殊効果 日経 BP 社[2000],『進化するアニメ・ビジネス』をもとに筆者作成 3.3 産業の裾野と周辺効果のある産業 前項では、アニメ制作工程だけを捉えたが、直接的な市場規模から広がる周辺産業との関係 を示したのが図 1-4 である。 16 TVアニメ作品のはじめと終りに流れる、オープニングテロップとエンディングテロップに多くの制作スタ ッフと、関係会社がいくつも登場するのも、分業体制による労働集約産業であるアニメ産業の性格を象徴し ている。
図 1-4 アニメビジネスの広がり 経済産業省「アニメーション産業の現状と課題」をもとに筆者作成 図 1-4 の右側は、キャラクター商品などを含む、作品製作工程以外の関係する産業の広がり である。版権ビジネスと呼ばれる、産業分野の幅広い裾野と周辺効果がうかがわれる。 このほかにも、アニメ専門学校に代表される教育分野もある。直接的なビデオや衛星放送等 の再利用だけでなく、街中にあふれる、玩具やキャラクターグッズ、さらには食品パッケージ に印刷されるキャラクターなど、日常生活の分野にアニメの主人公は登場している。これらす べて版権ビジネスの分野となる。こう考えると、「2 兆円産業」も体感的ではあるが「なるほど」 と納得するものもある。 権利料収入 権利許諾 版権ビジネス 作品製作 ス ポ ン サ ー 広 告 代 理 店 放 送 局 ︵ キ ー 局 ︶ 放 送 局 ︵ 地 方 局 ︶ 作画プロダクション 美術会社 撮影・編集会社 音声製作プロダクション 権 利 管 理 窓 口 放 送 局 又 は プ ロ ダ ク シ ョ ン CS・BS 放送会社 ビデオ製作会社 玩具会社 食品会社 衣料会社 ゲームソフト会社 元請けプロダクション (企画・脚本・プロジェクトマネージメント等)
第 2 章 東京都城西地域への集積過程と現状
第 2 章は、はじめに研究対象地域範囲の特定とその理由を述べる。次に、アニメ産業の集積 に関する先行研究の紹介を行ったうえで、核となるアニメ製作会社の設立状況や関連事業所集 積の状況とその理由を、当時のセル画を中心とする分業体制と技術的制約から論述する。また、 杉並、練馬の東京商工会議所各支部でそれぞれ行った、地元アニメ事業者の調査を一体化して 分析する。さらに、専門的技術を持つ人的な集積が与えた影響をマーシャルの産業集積の考え と関係づけ、集積のきっかけやその後の産業集積は、マーシャルの教科書的な古典的産業集積 論そのままの世界が展開されていることを論証する。最後に、最近の産業集積論の中心である ポーターによるクラスターにふれ、この地域の集積は、アニメ産業クラスターであることも論 述する。1.研究対象について
1.1「東京都城西地域」 「城西地域(地区)」は、東京都の 23 特別区の地域区分のひとつとして使われている。一般 的には、杉並区、練馬区、中野区と世田谷区を示す概念17である。 先行研究では、アニメ産業が集積している地域の名称を「武蔵野地域」(福川信也[2002, p41])や「東京西北部」(半澤誠司[2001,p65])としている。しかし、武蔵野地域では、アニ メ製作(制作)会社が最も集積している杉並区と練馬区を示す概念でなく、また、東京西北部 では、東京都全体を見渡すと多摩地域を示す場合も多い。本稿では、2003 年 3 月に東京都産業 労働局から報告された、「『産業集積の活性化へむけた産業政策のあり方』に関する調査研究報 告書」が、杉並区・武蔵野市・三鷹市を調査対象にして、「城西地域」の名称で報告しているこ と。また、東京都議会での答弁18で、アニメ産業に関して「城西地域」と使用していることに より、対象地域を「城西地域」と表記する。また、全国では城下町の西側を「城西」と称して いるものがいくつかあるため、「東京都」を加え「東京都城西地域」とする。そして、地区の概 念は比較的区切りの強い表現に対して、地域は対象地域の広がりを示すため「地域」の表現と する。 1.2.対象地域に、武蔵野市と三鷹市を含める理由 杉並区と練馬区は、アニメ製作(制作)会社数も他の市区と比しても、群を抜いて多く、対象 地域としては異論のないところであるが、武蔵野市と三鷹市は、杉並区と練馬区に隣接してい るものの、アニメ製作(制作)会社数は、新宿区や国分寺市には劣っている。しかし、行政の動 きを中心とする各自治体内の活動を見ると、武蔵野市は、商工会議所や地域の事業者が中心と なって、市の中心駅である吉祥寺駅周辺で、アニメフェア19を積極的に行っていること。三鷹 市には、ジブリ美術館、正式名称「三鷹市立アニメーション美術館」があり、これを核にした 17 特別区協議会調査部[2000],『特別区の産業振興に関する調査報告書―特別区産業振興研究会報告 資料室 調査情報第 28 号』や東京都産業労働局[2003c],『都民の購買動向に関する調査報告書』など、特別区の地 域区分は、都心・副都心・城東・城南・城西・城北と一部例外はあるものの、城西地域は上記の 4 区のケー スが多い。 18 2004 年 3 月 15 日「平成 16 年度予算特別委員会(第 3 号)有手産業労働局長『東京の産業を支えるものづ くり産業の主な集積といたしまして、…(中略)…城西地域のアニメ等コンテンツ産業、…(中略)…の集 積などがございます。』」 19 吉祥寺アニメワンダーランド地域振興を行い、またコンテンツ・アニメ事業活性化を活動の中心とするNPO法人20が、市 関連のSOHO事業所に所在し、ここを中心に活動を積極的に行っていること。さらに、この ような地域での活動を踏まえて、東京都の東京国際アニメフェア実行委員会で行政・地域関係 の委員は、杉並区、練馬区、武蔵野市、三鷹市の 2 区 2 市であること。 上記の理由により、アニメ産業集積の広がりでは、隣接する他の多摩地域や、新宿区・渋谷 区にも多くの製作(制作)会社があるが、杉並区、練馬区に加えて、武蔵野市、三鷹市の 2 区 2 市を本稿の主な対象とし、対象地域全体の総称を「東京都城西地域」と表現する。
2.先行研究
一口に、アニメに関する研究先行や文献といっても、多くの分野に分かれている。アニメの 発達史的なものでは、古くは、『日本アニメーション映画史』(山口旦訓・渡辺泰[1977])や最近 の山口[2004]や津堅[2004]の通史的なものがある。日本だけでなく世界のアニメーション全般 については、森[1966]や『世界アニメーション映画史』(伴野孝司・望月信夫[1986])が詳しい。 また、最近のアニメビジネス論、アニメ作品全般や個々の作品の文化論にいたっては、数多く 出版されているが、アニメ産業集積に関するものや、地域産業の視点での研究はあまり多くな い。 本稿では、産業集積に関するものとして、アレン J.スコット21(Allen,J.Scott)による 1980 年代のロスアンゼルス・アニメーションスタジオの労働集約型産業研究と、地域産業の視点で の研究であり、東京都城西地域アニメ産業集積の研究を中心にした先行研究である、福川と半 澤の研究を中心に紹介する。 2.1 スコットによる、ロスアンゼルス・アニメーションスタジオの労働集約型産業研究 1)特定地域への産業集積や労働集約型産業の性格分析 スコットは、「この事例研究は、ロスアンゼルスのアニメ映画労働者の局地的労働市場が持つ 社会空間構造 sociospatial structure に関する経験的調査」(スコット[1996,p166])として、 ロスアンゼルスのアニメーション映画労働者を対象に、労働者の職種類型と居住関係、就業と 失業の相関関係を分析研究した。 1980 年代の調査であるが、現在の日本のアニメ産業や東京都城西地域の集積状況とよく似た、 特定地域への産業集積や労働集約型産業の性格が述べられている。例えば、「アニメ映画産業は、 1920 年代から 1930 年代にかけて合衆国において成長し、第二次世界大戦後まもなくして、ロ サンゼルスに最終的に集中するようになった。現在、ロサンゼルスには、30 から 40 ものアニ メ映画スタジオが存在している。残りの地方には、せいぜいひと握りの数のスタジオがあるに 過ぎない。」(スコット[1996,p166])このように、米国でも産業の地域集積を示している。また、 「アニメ映画産業は、非常に労働集約的である。」(スコット[1996,p168])、分業体制での制作 工程に関しても、「これらの専門化したサービスのなかには、自由契約で働く台本作家・カメラ 備品の賃貸サービス・写真術とフィルム現像・作曲・音楽スタジオ賃貸業・ダビング・特殊効 果といった活動が存在する。」(スコット[1996,p169])。さらに、「動画製作におけるかなりの単 位の下請けが外国に発注されており、このことが、局地労働市場に寝こそぎの変化をつくりだ した近年の重要な変化の一つをなしている。」(スコット[1996,p169])と、海外下請け構造によ 20 特定非営利法人コミュニティ・サポーターズ 21 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)政策学部、地理学部教授る産業空洞化の変化も述べている。 2)現在へも続く課題の提起 デジタル工程以前のセル画工程時代のものではあるが、当時の産業の中心であった米国にお けるアニメーション産業集積の状況や、労働集約産業の分析から、海外への労働力流出(流出先 の一つが、当時の日本)や、産業空洞化の指摘、技術革新による就労構造の変化など、現在の日 本で指摘される問題点が、そのまま本論において課題として提起されている。このように、ア ニメ産業の構造は、日本、特に東京都城西地域が特別なものでなく、20 年以上前の米国におい ても一足早く指摘されているなど、示唆に富むものが多い。 2.2 福川信也と半澤誠司による、東京都城西地域アニメ産業集積の研究 1)自治体の役割提言と集積の維持 東京都城西地域アニメ産業の集積構造の特徴について、本格的に分析を加えた研究では、福 川信也22と半澤誠司23によって 2001 年にそれぞれ発表されたものがある。 福川は地域開発の視点からアニメ産業の支援体制での自治体の役割について提言している。 こうした取り組みは、「アニメの都」というイメージを PR する手法としてはオーソドッ クスなものと言える。しかし、冒頭にも述べたようにアニメーション産業は、表向きは華 やかな一面を持つものの、その産業基盤は意外に脆弱である。地方自治体がアニメ産業と の関係を構築するにあたっては、アニメを一過性のイベントやまちづくりのPR材料とし て利用するだけでなく、アニメ産業にとって大きな問題点である人材開発に対する支援を 行うことが必要だと思われる。(福川[2002,p116]) このように、今後の自治体支援体制への提言を行ったうえで、アニメ産業の市民セクターの 動きについて、NPOの動きをあげている。 最後に、重要となるであろうアニメ産業支援の担い手としてNPOを挙げておく。宮徹 理事長(元日経BP社記者)が中心となって 99 年に設立・認証された特定非営利活動法人 コミュニティ・サポーターズ(武蔵野市、会員 35 名)は、中央線沿線を活動基盤にアニメ 産業集積の支援活動を行っている。(福川[2002,p119]) 一方半澤は、アニメ産業の集積を分析した結果から、東京都城西地域のアニメ産業の将来に ついて、一般的にいわれているように、同地域の産業が空洞化するのではなく、今後も一定の 維持が継続するものと分析した。 このように、グローバル化とデジタル化の進展は、既存の産業集積を弱め分散を促すよ うにみえる。しかし、日本のアニメ産業においては、取引先の能力把握と信頼性の構築が 非常に重視され、それを容易にする人的繋がりは東京以外では見出しにくい。したがって、 一部の工程の移転や集積内部の構造変化は進むものの、東京の重要性は大きくは変わらな 22 福川信也[2001],「武蔵野地域におけるアニメ産業集積と自治体の役割」、『産業立地』第 40 巻第 7 号.本論 は研究ノートであるが、福川は翌 2002 年に「都市集積をみせるアニメ産業―武蔵野地域の新たな展開」関満 博・佐藤日出海編『21 世紀型地場産業の発展戦略』、新評論.を発表している。 23 半澤誠司[2001],「東京におけるアニメーション産業集積の構造と変容」、『経済地理学年報』第 47 巻第 4 号.
いものと思われる。加えて、アニメ市場のいっそうの拡大が予想されている。海外との競 争があっても、日本の制作会社数が減少するとは考えにくく、産業集積が解体の方向に向 かうとは考えられない。(半澤[2001p,66]) などと結論づけ、この地域のアニメ産業集積が将来的に維持するとの見解をしめしている。 2)本稿提言につながる評価 両論とも東京都城西地域(福川の「武蔵野地域」、半澤の「東京西北部」)のアニメ産業を産業 集積として認識し、スタジオ聞き取り調査や取引先の分析を行い、集積の過程や労働集約産業 の分析を行っている。福川や半澤以前にも、東京都城西地域のアニメ産業が集積していること は知られていた24が、これを産業集積の視点で事業所調査まで含めて系統立て分析したのは、 筆者の知る限り両氏のそれぞれの研究がはじめてである。両論の産業集積の形成のきっかけが 本稿と必ずしも完全には一致しないものの、福川のデジタル化と人材育成対応や半澤の取引関 係の相互関連性による集積維持機能の論証は、本稿研究につながるものとして評価すべきもの である。 2.3 その他の先行研究 この地域の集積に関するその他の先行研究では、上田祥二25 は、日本で必要とされる地域開 発のあり方について考える際に、現存する日本でのコンテンツ産業の集積地を調査する必要が あると考え、杉並・武蔵野地区に集積するアニメ産業に関しての調査を行っている。また、藤 川誠心26は、高知県での産業振興の一つの可能性としてアニメ産業を取り上げるなかで、杉並 区のアニメ産業振興に言及し、ここで、行政主導のブランド戦略とアニメ作品の善し悪しによ るアニメ産業の評価とのミスマッチによる問題点を指摘している。
3.集積の歴史
アニメ作品やアニメ産業の発達史は、多くの著作物があり出版されているが、本稿では、主 にどこでアニメが製作(制作)されていたかを中心に記述し、世界的なアニメ産業が、なぜ東 京都城西地域に集積したのかを、一般的に集積のはじまりといわれる、東映動画の大泉スタジ オ設立以前に、同地域に存在したと考えられる人的資源との関係に焦点あて論述する。 3.1 アニメの誕生 アニメの誕生は、山口によれば、「下川凹天、幸内純一、北山清太郎の 3 人が、同じ年にあい ついでアニメ作品を製作・公開したのである。準備に入ったのも前年の 1916(大正 5)年で同 じ年だ。」である(山口[2004,p44])。 地理的な位置関係を含めた、第二次世界大戦終了時までのアニメ製作(制作)スタジオの歴 史は、三好寛の「日本のアニメーション・スタジオ史」に詳しく述べられている。日本で最初 のアニメスタジオは、「日活向島撮影所考案係の新海文字郎が北山の提案に応え、アニメーショ ン制作がスタートした。」(三好[2003,p24])、「作画作業は千代田区平河町にあった北山の自 24 1997 年 1 月に発行された「情報メディア白書 1997 年版」でも、西武池袋・新宿線や中央線沿いにスタジオ が集中していることが報告されている。 25 上田祥二[2002],「コンテンツ産業集積による地域開発の実例と相互比較の研究」早稲田大学大学院国際 情報通信研究科 2002 年度修士論文 26 藤川誠心[2004],「高知の産業振興としてのアニメ産業の可能性」高知工科大学大学院工学研究科 2004 年 度修士論文宅で、撮影は日活向島撮影所で行われ」(三好[2003,p24])以降、関東大震災の被災により、 一部が京都に移転したものの、東京を中心に「以後も、東京、横浜、京都でアニメーションス タジオは増え、1937 年(昭和 12)年の日華事変以降は戦争の影響を受けながらも、その制作が 続けられていった。」(三好[2003,p26])。しかし、第二次世界大戦前の東京都城西地域は、こ の産業(産業と呼べるほどの規模であるかも含めて)に、無縁の地域であったと考えられる。 3.2 集積のきっかけとなる人的資源の集積 第二次世界大戦中とその敗戦の時期に、この地域に注目すべき動きがある。それは、現在の 西武池袋線江古田駅周辺に設立された茂原製作所とその後継の新日本動画社である。 三好によると、茂原製作所は、「1943(昭和 18)年ごろ、茂原英雄が山本漫画社を吸収して 東京・江古田に設立。」(三好[2004,p24])と、初めて現在の東京都城西地域に含まれる、西 武池袋線江古田駅周辺が登場し、この会社が敗戦後解散した直後には、「茂原製作所解散後、山 本早苗はGHQに映画製作の許可を申請し、これが認められると江古田にアニメーション制作 者たちを集めた。他のスタジオも爆撃で崩壊したり、メンバーが徴兵されたりと活動不能状態 だったが、この呼びかけに、後述する政岡憲三、村田安司、荒井和五郎らが応じ、総勢 100 人 を超えるスタッフが集まったという。1945 年 10 月、山本、村田、政岡らが代表となって新日 本動画社が設立され、11 月に日本漫画映画株式会社に改組した。戦後の日本のアニメーション 制作はこのスタジオを中心に始まる。」(三好[2004,p24]) 東京都城西地域の集積の始まりは、一般的には 1957 年の東映動画大泉スタジオの開設に始ま るとされているが、それ以前に、日本のアニメ史に名を残した人々27を中心に、「戦後まもなく 100 人以上の制作者が集まり、新日本動画社というかつてない大組織が生まれたのは奇跡的と も言える」(三好[2004,p27])のように当時の日本のアニメ制作技術者の多くが、東京都城西 地域の一角に集い活動を開始していた28。これはその後の同地域の集積と現在までの発展に大 きく寄与していると考えられる。この後、この会社から去った、山本と政岡は隣接する新宿区 に日本動画のちの日動映画を設立し、これが東映動画、現在の東映アニメーションへのつなが り、東京都城西地域集積の直接的なはじまりとなる。 3.3 東映動画大泉スタジオ 東京都城西地域で、アニメ製作(製作)会社が本格的に関係するのは、1956 年に東映が日動 映画を買収して設立した東映動画(現東映アニメーション)が、1957 年に、「東京都練馬区の 大泉に、当時としては話題をさらった冷暖房完備の白亜のスタジオも建設した。当時のマスコ ミは『夢の工場』と報じた。」(山口[2004,p67])ことに始まる。この東映動画は、その後「日 動映画から移った 23 人でスタートした社員も、10 年後には 560 人になり、名実ともにアニメ 界のトップ企業となった。」(山口[2004,p67])と成長を続け、現在でもアニメ業界のリーディ ング企業29である。 27 山本早苗(1898∼1981)、東映動画で日本初の長編カラーアニメ作品『白蛇伝』(1958)の製作担当。村田安 司(1896∼1966)、戦前の切絵技法のアニメーションで高い評価がある。政岡憲三(1898∼1988)、戦前の名 作といわれる『くもとちゅうりっぷ』(1943)の制作者 28 山口も「GHQの指令によって全国に散らばっていたアニメ関係者が総動員されたわけである。」(山口 [2004,p64])と、当時のアニメ制作技術者が全国から集まったことを述べている。 29 東映アニメーション 2002 年 3 月期の売上は、160 億円 (「情報メディア白書 2003」P67)、業界第 1 位で、 市場の 1 割弱のシェアを占めている。
3.4 手塚治虫と虫プロダクション 手塚治虫も一時期住んでいた、漫画家が集っていた有名な「トキワ荘」は、現在の西武池袋 線椎名町にあった。1953 年に当時の豊島区椎名町にあったトキワ荘に移転した頃は、すでに手 塚は、漫画家としての第一人者の地位を築いていた。手塚のアニメ制作に対する取り組みは、 多くの研究30があり、ここでは省略するが、1961 年に練馬区富士見台に手塚治虫プロダクショ ン(虫プロ)を設立した。設立された虫プロの富士見台とトキワ荘は同じ沿線で数駅離れている だけである31。 終戦直後に全国から江古田に結集したアニメ制作技術者達、漫画のトキワ荘と虫プロ、そし て大泉の東映動画と西武池袋線の沿線に、要町「トキワ荘」、江古田「新日本動画社」、富士見 台「虫プロ」、大泉学園「東映動画」と直線距離で 10 キロ程度の私鉄沿線に、当時のアニメ産 業の発展に関する多くの要素が集まっている。 3.5 東京都城西地域の集積へ 前項までの東映動画も虫プロも練馬区に所在している。ここでは、集積地のもう一つの杉並 区や周辺地域への集積波及について簡単に述べていく。 虫プロから 1964 年に東京ムービーが、当時の杉並区東田町に立地し、手塚治虫の事務所を結 ぶ中杉通りに関連事業所が集まりはじめた。1970 年代には、当時の東映動画や虫プロから、現 在杉並区に所在する製作会社の多く、マッドハウスやサンライズ、葦プロ、ディーンなどが、 製作会社を立ち上げた。さらに、1990 年代にボンズなどがこの地に設立されている。また、東 京都城西地域と周辺地域のひろがりでは、国分寺市には竜の子プロダクションが、1962 年に設 立され、『マッハ GOGOGO』や『忍者戦隊ガッチャマン』など、独自のキャラクターで成長し、 ここからも多くの会社が設立された。こうして、東京都城西地域とその周辺に集積の連続性が 形成された。 3.6 その他の集積要因 本稿では、集積の要因を主にアニメ制作技術者の人的な集積の始まりから述べてきた。産業 集積を促す要因はこのほかにも、この地域はキー局となる東京都心部にある放送局からは、比 較的近い位置にあり、TVアニメ放送のための毎日の作品輸送のやり取りには便利であったこ と。また、第 1 章の図 1-2 や 1-3 で説明した制作工程は、セル画時代(現在でも)の動画や作 画の制作や、録音作業など、多くが分業体制による各事業者間で行われている。このため、放 送時間が定められ、定期的にそして確実に完成させるための時間的制約が、事業者間の近接に つながり、集積につながっていった。さらに、当時から地価が都心中央部よりは割安であり、 事務所立地や起業のための資本投資が都心部に比べれば、行いやすかったこともある。
4.マーシャルの産業集積論とアニメ産業
4.1 マーシャルの産業集積論 新 古 典 派 経 済 学 の 代 表 的 学 者 で あ っ た ア ル フ レ ッ ド ・ マ ー シ ャ ル ( Alfred Marshall 1842-1924)は、その著書『経済学原理』で、「ある種の財の生産規模の増大に由来して起こる 経済を二つに区分」(マーシャル [1965,p248])して、その一つ、産業の全般的発展に由来する 30 日本アニメの歴史に関する各種著書で、手塚治虫に関する記述のないものを探すのが困難である。 31 山口もトキワ荘と虫プロダクションの地理的関連については述べている。山口[2004, p71]ものを外部経済と呼び「ある特定の地区に同種の小企業が多数集積すること、すなわちふつう 産業立地と呼ばれている現象によって確保されることの多いところの、非常に重要な外部経済 の検討にうつっていくことにしよう。」(マーシャル [1965,p249]) 、これを研究対象にしてい る。また、「ある地域に集積された産業はふつう、たぶん正確な表現とはいえないが、地域特化 産業と呼ばれている。」(マーシャル [1965,p251])と、 地域特化産業の言葉で産業の集積を位 置づけ、産業集積の基本的な考え方やその成立の特徴について述べている。 以下本項では、マーシャルの考えと東京都城西地域アニメ産業の集積を関係づけていく。 4.2 結果としての「支配者による計画的な導入」 敗戦直後の新日本動画社の設立は、マーシャルが、産業集積の成立要因の一つとしてあげて いる「支配者による計画的な導入」(マーシャル [1965,p253])、「さらに支配者たちが計画的に 遠方から職人を呼びよせ、かれらを特定の町にかたまって住まわせる場合がいっそう多い。」(マ ーシャル [1965,p253])との比較で考えると、当時絶対的な権限を持っていたであろうGHQの 意向により、江古田に結集したアニメ制作技術者達は、それが集積を目指す意思であるか否か に関わらず、「ある事件がたまたま起こったために、ある特定の産業がある町に栄えることにな った場合もあるだろう。」(マーシャル [1965,p253])と、産業集積する要因の一つとなることを しめしている。 4.3 専門的技術者集団の人的な集積 先行研究で述べたスコットによる、制作技術者の勤務先と居住地との関係32や、1950 年代前 後の交通事情や居住スタイル33をあわせて考えると、こうして集められた、アニメ制作技術者 たち、つまり当時の日本のアニメ制作技術者の多くは、すでに東京都城西地域の一角を中心と して、生活していたと考えることが妥当34ではないか。また、当時のアニメ(この場合は「アニ メーション」といったほうが適切かもしれない)技術は、先端技術かつ職人芸的な要素が強く、 一種門外不出のような雰囲気35もあった。このような、専門的技術者集団の人的な集積がこの 地域にはあったことは、産業集積の要素である人的資源の集積との関係でも注目すべきことで あり、専門的技術者集団の人的資源の集積が、その後の東京都城西地域の産業集積の大きな要 素となったと考えることは、自然な流れであろう。 4.4 教科書的な集積 この後の西武池袋線沿線から始まり、さらには杉並区への集積の過程と、一度集積が開始さ れると、「しかし自由な産業と企業がたとえどのような方法で促進されてきたにせよ、それが成 立するとなると、生活の技法の向上にとって最上の条件がととのったことになるのだ。」(マー シャル [1965,p254])、「産業がその立地を選択してしまうと、ながくその地にとどまるようで ある。同じ機能を要する業種に従事する人々がたがいにその近隣のものからうる利便にはたい 32 スコットの調査は、制作技術者の職層別の勤務先と居住地との関係を実証分析している。 33 当時の東京の一般勤労者のライフスタイルは、自己所有の持ち家でなく、仕事にあわせた賃貸住宅が多かっ た。「都市化が急激に進んだ戦前の東京、大阪等でも、戸建持家に固執する層は必ずしも多くなかったことが 知られており」国土交通省住宅宅地審議会[1999]「21 世紀の豊かな生活を支える住宅・宅地政策について」 中間報告 34 本稿では、当時のアニメ制作技術者の居住地までは調査できなかったため、実証はされていない。 35 この時代の雰囲気は、山口[2004, p51]が詳しく述べている。
へん大きなものがあるからである。」(マーシャル [1965,p255])となり、集積の安定性が維持さ れる。 このことは、アニメ製作(制作)会社側からだけでなく、アニメ制作技術者にとっても、「地域 特化産業は技能にたいする持続的な市場を提供することからたいへんな利便を得てきている。 使用者は必要とする特殊技能をもった労働者を自由に選択できるような場所をたよりにするで あろうし、職を求める労働者はかれらのもっているような技能を必要とする使用者が多数おり、 たぶんよい市場が見いだせるような場所へ自然と集まってくるからである。」(マーシャル [1965,pp255-256])と、人材が需要と供給いずれの側からも集中することを説明する。また、マ ーシャルは、集積の一方で、「運輸通信手段の改良が産業の地理的分布に及ぼした影 響 」 [1965,p258])では、運輸通信手段の改良により、集積とは相反する他地域への展開状況を生み 出すことも指摘している。これは、スコットが述べた 1980 年代の米国アニメーション産業の海 外展開説明や本稿で述べる産業空洞化論とも関係する。 この数年間の間に、アニメ産業は注目を集めているが、集積のきっかけや、当時のアニメ産 業の技術者水準、東京都城西地域アニメ産業のその後の集積過程は、マーシャルの教科書的な 古典的産業集積論そのままの世界が展開されてきたといえよう。
5.集積の現況
5.1 全国のアニメ製作(制作)会社の現況 全国のアニメ製作(制作)会社数は、定義付けられる産業区分の範囲があいまいなため、調査 実施機関により、ばらつきがある。しかし、どの調査数値を見ても、その多くが東京都、それ も杉並区・練馬区を中心とした東京都城西地域に集中していることでは一致している。 図 2-1 日本動画協会による東京都アニメ(製作)制作会社分布1)日本動画協会による調査 日本動画協会による 2002 年の調査36では、全国のアニメ(製作)制作会社は 430 社。このうち、 359 社が東京都に所在。杉並区と練馬区は、ともに事業者数が 70 社を超えている。 2)インターネットタウンページ「アニメ制作会社」 筆者が、インターネットタウンページ「アニメ制作会社」で調べた結果では、全国のアニメ 制作会社は、301 社となっている。このうち東京都は、239 社、79.4%であり、杉並区、練馬区、 武蔵野市、三鷹市の 2 区 2 市で 111 社、全体比率 36.9%、東京都内比で 46.4%になっている。 全国的には、東京都が他の地域のどこよりも圧倒的に集中している。特に、杉並区だけで東 京都を除く全国のアニメ製作(制作)会社の合計数を越えるなど、圧倒的な集積となっている。 杉並区と練馬区は、第 3 位の新宿区、第 4 位の渋谷区の 2 倍から 3 倍の事業所数があるが、新 宿区や渋谷区は、日本を代表する商業都市でもあり、全体の事業所比を考えるとこの地域への アニメ産業の集積度は、著しいものがあるといえよう。 表 2-1 インターネットタウンページによる全国の「アニメ制作会社」 件数(件) 割合(%) 杉並区 63 26.36% 練馬区 40 16.74% 新宿区 21 8.79% 渋谷区 19 7.95% 西東京市 14 5.86% 港区 9 3.77% 国分寺市 8 3.35% 武蔵野市 6 2.51% 豊島区 6 2.51% 東久留米市 6 2.51% 中野区 5 2.09% 小金井市 5 2.09% 千代田区 5 2.09% 大田区 3 1.26% 東村山市 3 1.26% 三鷹市 2 0.84% その他 24 10.04% 合計 239 100.00% インターネットタウンページ (http://itp.ne.jp/ 2004.11.23) をもとに筆者作成 5.2 日本動画協会加盟東京都城西地域の創業状況 集積の直接的な始まりである東映動画の大泉スタジオ設立から 40 数年間、現在東京都城西地 域に本社や主なスタジオのある日本動画協会加盟の正会員は、29 社中 11 社であるが、これら の設立時期とその現所在地は表 2-2 一覧のとおりである。 設立は 1970 年代が多く、社歴も 20 年から 30 年を超える会社も多く、比較的長い間この地 域で活動いている。
36 2002 年秋に調査、「アニメは東京の地場産業」 (日本動画協会「AJA NEWS Vol3 2003.7」) としている。
件数(件) 割合(%) 北海道 4 1.33% 東北 6 1.99% 東京都 239 79.40% 東京都除く関 東 10 3.32% 甲信越 8 2.66% 東海 6 1.99% 近畿(関西) 17 5.65% 中国 5 1.66% 九州・沖縄 6 1.99% 合計 301 100.00%
表 2-2 現在の東京都城西地域の主なスタジオ所在と設立年月 所在区市名 会社名 所在地 設立年 杉並区 株式会社サンライズ 杉並区上井草 1972 年 株式会社マッドハウス 杉並区荻窪 1972 年 株式会社葦プロダクション 杉並区上荻 1975 年 株式会社スタジオディーン 杉並区西荻北 1975 年 有限会社ハルフィルムメーカー 杉並区上荻 1993 年 株式会社ボンズ 杉並区井草 1998 年 練馬区 東映アニメーション株式会社 練馬区東大泉 1948 年 株式会社ぎゃろっぷ 練馬区関町北 1979 年 株式会社スタジオコメット 練馬区豊玉北 1986 年 武蔵野市 株式会社ジェー・シー・スタッフ 武蔵野市境 1986 年 三鷹市 株式会社ぴえろ 三鷹市下連雀 1979 年 日本動画協会ホームページ(http://www.aja.gr.jp/ 2004.12.23)を基に、筆者作成 5.3 杉並区内のアニメ製作(制作)会社集積分布 図 2-2 は、杉並区内のアニメ製作(制作)会社分布である。 杉並区内のスタジオは、中央線駅周辺や西武新宿線など、練馬区と接している杉並区北部に多 く集積している。 図 2-2 杉並区内のアニメ製作(制作)会社 出典 杉並区[2001]『アニメーションフェスティバル 2001』ガイドブックから転載
5.4 東京都城西地域生まれの作品とキャラクター人気 東京都城西地域生まれの作品は、日本で最初の長編カラー作品である『白蛇伝』を東映動画(現 東映アニメーション) が製作したのをはじまり、連続TVシリーズの『鉄腕アトム』は、当時 の虫プロから生み出された。1960 年代から 1970 年代に放映された、スポーツヒーローの『巨 人の星』や『あしたのジョー』や少女向けアニメの『魔法使いサリー』や『アタック№1』も この地域の作品である。 表 2-3 東京都城西地域の主なスタジオの最近放映されたTV作品例 2004.11 月現在 所在区市名 会社名 作品名 杉並区 株式会社サンライズ 機動戦士ガンダム SEED DESTINY 株式会社マッドハウス 無人惑星サヴァイブ 株式会社葦プロダクション F-ZEROファルコン伝説 株式会社スタジオディーン タクティクス 有限会社ハルフィルムメーカー プリンセス・チュチュ 株式会社ボンズ 鋼の錬金術師 練馬区 東映アニメーション株式会社 ワンピース 株式会社ぎゃろっぷ こちら葛飾区亀有公園前派出所 株式会社スタジオコメット マシュマロ通信 武蔵野市 株式会社ジェー・シー・スタッフ 藍より青し 三鷹市 株式会社ぴえろ NARUTO 各社ホームページ等による筆者調べ 最近のTV作品(TV作品から劇場公開された作品も含み)は、表 2-3 に、一部を記載したが、 日曜日午前中や夕食時の「お子様・家族タイム」から、深夜放送枠向けまで、列挙に暇がない。 一般的には、制作スタジオ数割合で作品数も比例すると考えられるので、全国で放映される 半数近くはこの地域でつくられているのは当然の事となる。 次に、アニメ作品に登場する主人公たち、一般的にはキャラクターと呼ばれる登場人物の人 気度で見ても、この地域、特に杉並区は、キャラクター人気は高い。最も一般的なアニメ雑誌 であり創刊されて 20 年以上たつ『アニメージュ』(徳間書店)2004 年 9 月号での、人気キャラ クターベスト 30 のうち半数以上が、杉並区生まれ37。過去五年間の同月の人気ランキングでも、 ほぼ同様の数値となっている。これは、比較的青年層が多く講読する雑誌のため、幼児・家族 中心のキャラクターよりも、この傾向が強くでている。アニメ作品に対する文化論は、本稿の 主題でないため、これ以上の詳細分析は行わないが、杉並区のスタジオの作品は、年齢的なタ ーゲットがやや高めのためこの傾向が出ているものと思われる。しかし、この層が現在のアニ メ文化を支える中心購買層の一つでもあり、ガンダムクレジットカードの発行38や日経キャラ クターズの発刊39など、アニメが「子供の見るもの」からもはや、30 歳代以降の層に対しての 経済効果の波及も無視できないものとなっている。
6.東京商工会議所による事業者調査
東京都城西地域のアニメ製作(制作)会社の実態は、公的な機関での調査はほとんど行われ 37 作品の製作スタジオ及び主な制作スタジオで杉並区内が事業所所在地の数。(筆者調べ) 38 VISA や JCB では、「ガンダムオフィシャルカード」として、『機動戦士ガンダム』図柄のクレジットカード がある。 39 30 歳代を主な購読者層にして、2003 年 6 月に創刊。ていなかったが、2001 年に東京商工会議所杉並支部でこの地域のアニメ産業に関係する事業者 の調査40が初めて行われた。これに続き 2003 年には、東京商工会議所練馬支部が杉並支部とほ ぼ同様の設問項目で調査41を行っている。 以下、この二つの報告書から、主な共通設問項目を中心に、筆者が設問を集計し、この地域 のアニメ製作(制作)会社の概要を分析報告する。 6.1 調査概要 表 2-4 調査概要一覧 杉並区 練馬区 調査名 平成 13 年度杉並アニメーション事 業実態調査報告書 練馬区アニメーション産業実態調査 報告書 調査実施機関 東京商工会議所杉並支部 東京商工会議所練馬支部 調査対象 杉並区に拠点を持つ約 60 社のアニ メ関連企業 練馬区に拠点を持つ 71 社のアニメ 関連企業 調査方法 アンケート用紙を郵送し、回答を書 き込んだ後返送してもらう方式 郵 送 に よ るア ン ケ ー ト用 紙 の 送 付 (一部訪問や電話ヒアリング含む) 回答状況 35 社 44 社 主な調査項目 1.事業概要について 平均従業員数、社歴、事業内容 2.経営について 現在の経営形態、今後の経営形態 現在の経営状況、今後の経営予測 現在の経営上の問題 受注先、発注先企業 アニメ産業の今後、将来の予測 杉並区や商工会議所に支援して もらいたいこと 1.事業概要について 平均従業員数、社歴、事業内容 2.経営について 現在の経営形態、今後の経営形態 現在の経営状況、今後の経営予測 現在の経営上の問題 受注先、発注先企業 アニメ産業の今後、将来の予測 練馬区や商工会議所に支援しても らいたいこと 調査時期 2001 年 11 月∼12 月 2003 年 7 月∼8 月 6.2 調査内容 1)30 人未満が全体の 80%以上(従業員数) 表 2-5従業員数別の企業数 図 2-3 従業員数別の企業数 0 5 10 15 20 25 会社数(未回答除く) 10人未満 10∼20 20∼30 30∼50 50人以上 従業員数別企業数 杉並区 練馬区 40 東京商工会議所杉並支部[2002],『平成 13 年度杉並アニメーション事業実態調査報告書』. 41 東京商工会議所練馬支部[2003],『練馬区アニメーション産業実態調査報告書』. 従業員数別の企業数 杉並区 練馬区 10 人未満 11 13 10∼20 6 14 20∼30 12 7 30∼50 2 6 50人以上 3 4 未回答 1 0 合計 35 44
従業員別の企業数は、合計では 10 人未満が最も多く、30 人未満で回答企業全体の 80%以上 を占めている。 2)20 年以上の長い活動歴(社歴) 表 2-6 社歴について 図 2-4 社歴について 社歴は、両区とも 20 年以上が最も多く、両区あわせて全体の 45%近くとなっている。 3)分業の幅広い事業内容(事業内容) 表 2-7 事業内容について(複数回答) 事業内容について 杉並区 練馬区 計 製作全般 19 22 41 原作・演出・監督 13 16 29 キャラクターデザイン・原画作成 14 25 39 動画作成 11 17 28 仕上げ(デジタル・セル) 5 17 22 特殊効果 6 8 14 美術・背景 13 7 20 撮影 5 13 18 ゲーム・デザイン 5 4 9 (デジタル)編集 4 5 9 事業内容は、製作全般が最も多い。 4)版権を有する主体は少ない(経営形態) 表 2-8 経営形態について(練馬区回答一部重複回答含む) 杉並区 練馬区 計 自家製作(版権を有する)主体 4 12 16 一部は自家製作している 13 6 19 製作の一部を受注している 18 22 40 他社製品の受注制作 - 19 19 その他 - 1 1 合 計 35 60 95 版権を有している主体(自家製作)は、杉並区では 4 社、練馬区でも 12 社と全体の 2 割に達 せず少ない。 社歴 杉並区 練馬区 5 年未満 4 4 5∼10 1 6 10∼15 9 9 15∼20 6 4 20 年以上 13 21 未回答 2 0 合計 35 44 0 5 10 15 20 25 30 35 会社数(未回答除く) 5年未満 5∼10 10∼15 15∼20 20年以上 社歴について 杉並区 練馬区