第3章 アニメ関係事業者への聞き取り調査
第 2 節 聞き取り調査のまとめ
前節での聞き取り調査を通じての共通事項や、特徴的事項をまとめ、第 2 章の集積の過程と 現状を補完するとともに、第 5 章の、東京都城西地域アニメ産業の課題と提言のための分析を 行う。
1.取引関係
企業間の取引関係は、特定の企業との取引が中心となるものの、新規の企業への対応もかな り幅広く行われている。アニメ製作会社系列の歴史経過はあるものの、下請と元請問の強い系 列傾向はあまり見られず、仕事に応じた幅広い取引関係となっている。また、従来の企業との 取引では、「取引先の能力把握と信頼性の構築が非常に重視され」(半澤[2001,p66])る、半澤 の論は、この聞き取り調査にもあらわれた。また、業界団体が法人化されたのは、最近であり、
現在でもアウトサイダー的な事業者も多く、業界全体の連携が今後の課題と考えられる
2.人材採用と育成
2.1 人材空洞化の構造
一般的にいわれるアニメ産業人材空洞化論は、1970 年代初めに、アニメ産業で定期採用を中 心とする自社内での正規雇用方式が行われなくなってからは、自社内で人を育成しても、一人 前になる頃に他社へ行ってしまい、その分の投資が無駄になる。そして、自社でも同様に他社 の現役を引き抜き人員の確保に努める。結果、どの会社も人材育成に消極的になり人材の空洞 化が進み、人材空洞化の悪循環が続く。これに、海外への事業展開が加わったものといわれて いる。
2.2 定期採用の動き
今回の聞き取りで、この悪循環の連鎖を断ち切る動きが出はじめている。聞き取りを行った 両社とも、この業界では大手に位置づけられるためもあるが、定期採用を行っている。経験者 中心の中途採用だけでなく、新卒者中心(未経験者)中心の定期採用を行うことは、会社内の人 材育成の動きにも、影響を与える。
2.3 自社内での人材育成
もう一つの特徴的な動きは、A社が自社で直接人材育成を行いはじめることである。もとも と、A社は、当時の人材をすべて抱え込むことへの一種のアンチテーゼから設立し、機動性に 合わせた会社運営を目指し設立したものであったが、このA社が、実習生としてではあるが、
クリエーター部門の育成を自らのコストで行い始めた。この種の育成システムは、最大手のア ニメ製作会社が、みずから「研究所」として、以前から行ってきた例など一部に見られたが、
A社のような動きが今後も出てくる可能性があると考える。
2.4 離職と再就職や相互供給
下積みからの技術力向上に年数が要することや年功序列賃金体系でないため、芸術的領域と 賃金労働との狭間で、離職は制作部門を中心に行われている。また、離職と再就職が同業種間 で行われていることも、今回の聞き取りでもうかがわれた。さらに、聞き取りでレンタル制度 と述べられたように、個人的な会社間移動に加えて、会社間での人材相互供給が、幅広く緩や かに行われている。
3.専門学校
3.1 人材供給源の役割 表 3‑1 F 校の就職先例 自治体別一覧 自社内での人材育成システムが崩れた後の基
礎部分の人材育成は、専門学校が役割を負って いる部分が多いと考えられる。F校の卒業生の 就職先会社の所在地例一覧は、表 3‑1 のとおり、
東京都城西地域で 6 割近くとなる。これは、ア ニメ専門学校の一般的傾向と考えられ、F校以 外の専門学校を含めた、卒業生の量的数値を考 え合わせると、定期採用では、大卒の比率が高 いものの、専門学校が、この地域への人材供給 機関の有力な一つであることは考えられる。
F 校入学案内資料基に筆者が作成
人数
(人) 割合
杉並区 18 27.69%
練馬区 13 20.00%
武蔵野市 4 6.15%
三鷹市 3 4.62%
東京都(上記除く) 22 33.85%
東京以外 5 7.69%
計 65 100.00%
3.2 求められる能力
アニメ製作(制作)会社側での専門学校に対する期待度は高くない。専門学校側でもこの評価 を認識している。その原因は、専門学校側の教育内容の不備や熱意のなさというものが主要因 ではなく、もともとアニメのスキルは、絵画芸術などに近い、センス、才能に負う部分が多い ことが主たる要因と考えられる。また、2 年間という限定された教育期間の終わり部分は、就 職活動に追われるため、この部分のスキルアップが行いにくいこともある。アニメ制作(制作) 会社側も、高度な技術水準を求めていなく、社会人としての行動力や企画営業力など一般の会 社組織が求める基本的な部分が必要なことでは、一致していると考えられる。
4.技術革新と海外展開
4.1 デジタル化対応
「アニメ産業空洞化論」でいわれる技術革新に対する対応の遅れは、セル画からデジタルシ ステムヘの転換で、撮影関連の熟練層に影響が生じたものの、比較的短期間で完了対応してい るため、これにはあたらないと考える。専門学校などの教育分野でも、教育課程はすべてデジ タル化工程を前提として行われている。今後の課題では、F校や動画協会からは、デジタル化 の共通基準が求められ、この対応も行われ始めている。
4.2 空洞化でなく海外展開
海外展開は、聞き取りを行ったアニメ製作会社が大手のため、積極展開を考えている。動画 協会への調査でも人材の流出空洞化でなく、海外市場としての巨大なマーケットヘの中国への 期待が高い。このように、積極的展開、柔軟な対応化など、ここでも一般的に言われる単純な 空洞化論だけでは捉えられない面があると考える。
5.行政に求めるもの
A社B氏が制度の仕組み支援を語ったのに対して、D社E氏が個人クリエーターヘの職人集 団的な取り組み支援を語ったことが、30 年以上前のほぼ同時期に設立された両社の設立理念の 違いが、30 年以上たった現在でも、企業理念的な部分ともつながり、かつ、それぞれ活動して いることは、興味深い。F校G氏は、行政当局に対する厳しい指摘を行っている。行政に求め るものでの、このような厳しい対応は、第 3 章の聞き取り以外にも、筆者が接した中小事業者 には、行政に対する不信感に近い感情で、支援についても冷ややかに見ているものも多くあっ た。これは、従来この分野に対する独力での産業基盤を築いたことへの自負もあるが、現在行 われている行政支援の多くが、行政の都合によるミスマッチ事業であると考えている事に加え て、人材空洞化論も含めた中小企業政策全般に対する行政への不信感の側面も強いと考える。