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地域アニメ産業集積の今後

ドキュメント内 ii (ページ 62-66)

第5章  産業集積の今後と支援のあり方

第 1 節  地域アニメ産業集積の今後

東京都城西地域の集積は、空洞化するのではなく今後も一定維持するものと考察する。これ を、技術発展、海外展開、企業構造の面から論述する。さらに、この地域で最近急速に展開し、

今後の集積維持機能の中心と位置づけられると思われる「人材育成」の新たな潮流を指摘する。 

 

1.単純な産業空洞化論への疑問 

1.1 セル画からデジタル作画へ 

アニメ産業空洞化論の第一は、技術革新時の新技術への適用の遅れがある。「中小制作会社は 資本の制約もあり、最近アニメーションで多用されるようになったデジタル技術に十分に対応 できていない。」(内閣府[2003,p22])と、『地域の経済 2003』でも指摘されている。確かに産 業集積地が衰退する理由のひとつに、既存技術が陳腐化と新たな技術革新に乗り遅れる例はあ るが、東京都城西地域では、第 3 章のアニメ製作会社の聞き取り調査した両社とも、現在のデ ジタル転換はほぼ対応している。また、Fアニメ専門学校も、教育課程を全てデジタル化して いる。デジタル化のための設備機器も、技術開発の進歩による低コスト化で、以前と比べると 低い価格での投資が可能である。また、デジタル化対応のソフトも順次開発改良されている。

杉並、練馬の商工会議所調査でも、運営上の問題項目にはあるものの、その比重は決して高く ないうえ、「セル画」による制作は今ではほとんど行われていない。こうしてみると、技術革新 への対応遅れによる産業空洞化は当該地域にはあたらないだろう。 

 

1.2 平面から立体化 

次に、現在の日本の主流である平面的表現(2D)からコンピューター制作中心による立体画 像作品(3DCG)が主流になり、いずれ日本のアニメは廃れるとも言われる。現に、米国では 3 DCGが今後アニメ作品の主流になるという考え方があり、2003 年にディズニーは、2Dアニ メから完全に撤退して、3DCGへと進むため、杉並区にあった事業所を閉鎖した。 

2004 年公開の 3DCGアニメ『Mr.インクレディブル』のような、3DCGアニメは、技術の 進歩とともに、今後さらに一般的になると考えられる。米国では、3DCGアニメに全て置き換 わるとの論議もあるが、これによる東京都城西地域のアニメ産業集積の空洞化は、直接当たら ないと考える。それは、3DCGに対しても、デジタル化のときの対応と同じくこの地域の事業 者は対応していくことは、十分可能であるからである。技術進歩による低コストと、巨大なプ ラント設置の設備投資が必要な重化学産業と違う IT コンテンツ産業の身軽さの利点を生かす ことができる。 

また、平面画像と立体画像の受け入れ感覚の違いもある。絵画は平面画像が中心82であり、

これを受け入れる感覚がある限り、日本で主流の平面画像のアニメ作品は存続し、この問題で の産業空洞化論はあたらない。 

本稿では、技術革新による産業空洞化論が論点であり、文化論を論じるものでないので、こ こまでとするが、絵画が美術芸術として人々に受け入れられる要素がある限り、アニメという

「動く」「絵画」=「動画」も、受け入れられていくと考察する。 

 

1.3 中身重視のコンテンツ産業 

集積維持の次の理由は、アニメ制作の第一段階である、プリプロダクションにある。「プリプ ロダクションは、制作の準備段階のことです。企画所をもとに、脚本・設定・絵コンテなどア ニメーション制作に必要な材料を作り、制作フローを確定することを指します。」(デジタルア ニメ制作技術研究会[2003,p10])。 

コンテンツは、情報の中身の問題であり、表現技術はこれを具現化するものである。どんな 技術で見せていくことも重要であるが、何をどのように見せていくのか、原作のよさと、これ を展開する物語性のよさ、特に、企画書の段階での練り上げには、人と人との幾多のやり取り の上できあがることが多い。これらプリプロダクションの重要性がある限り、集積のメリット は維持され続ける。 

 

1.4『ほしのこえ』の衝撃 

一方、『ほしのこえ』83の成功は、一定の技術があれば、個人の才能の発揮により、作品が完 成できこれが市場ベースに出ることを証明した。筆者は、アニメ制作のプリプロダクションが この地域の集積のキーポイント84のひとつであると考えるため、この成功は、東京都城西地域 におけるアニメ産業には少なからぬ影響を与える可能性があると考察する。それは、労働集約 や産業集積でなくとも、アニメ制作ができること、つまり、「技術革新の結果、能力のある作家 による一人で制作したアニメが市場ベースに出る。」ことは、第二次世界大戦直後の当時のアニ メーターという専門的技術者が、この地域に集まり、そこから生まれたこの地域の集積の前提 が崩れる可能性を意味する。 

大阪市のデジタルときわ荘構想は、この『ほしのこえ』の成功がひとつのきっかけでもある。

今後、プリプロダクション段階で行われる face to face のコミュニケーションの重要性と、個 人の才能の発揮がどこまで秤にかけられていくか、またその調和があるかには注目する必要が あろう。 

 

2.グローバル化  

海外に技術力が移転して、産地の競争力が失われることは、典型的な地場産業空洞化論であ る。海外展開については、制作スタジオでもよく耳にする話ではあるが、東京商工会議所の杉 並・練馬両支部の調査、聞き取りを行った 2 社や日本動画協会も海外展開の側面のほうが強い。

中小のアニメ制作スタジオでも、多くが海外発注を行っている。個々のアニメーターの従来の

82 立体的視覚作品もあるが、平面画が中心であることはいうまでもない。

83 「新海誠の『ほしのこえ』は 10 万枚の DVD を売るヒット作である。ほとんど 1 人でデジタル製作し、テレ ビでも劇場でもなく、インターネットでプロモーション映像を配信して DVD を販売するというまったく新しい ルート戦略が成功し、圧倒的な売れ行きをみせている。」(山口[2004,p152]) 

84 筆者は、長い間杉並区に居住しているが、本稿作成中もファミリーレストランで、アニメーターたちの企画 打合せを見かけた。 

手作業的な単価が上がらない問題は指摘されているものの、地域内の中小アニメ制作会社でも、

中国をはじめ世界各地にその制作を展開している。 

市場はどこか、競争相手は誰かでは、動画協会の聞き取りでG専務理事が語ったように、今 後は単なる下請けでなく、著作権の課題など解決すべき課題は多いが、市場としての中国をは じめとする海外市場展開に、日本アニメの目は向かれている。この意味でも、グローバル化に よる一定の影響は受けつつも、この地域の産業集積は維持していくと考察85する。

3.文化芸術と産業の二面性 

プロスポーツの世界は、いくら長い期間その世界にいても、才能のない人間に対しては、収 入面を中心に処遇について厳しい世界である。これは、文化芸術の世界も同様である。才能中 心の世界であるからである。聞き取り調査でも、アニメ制作に関して、職人芸的なスキルも必 要とされ、才能や能力といった言葉をよく聞いた。 

アニメ産業は「産業」と名がつくように、あくまで「ものつくり」の産業であるが、基本部 分で、「アニメーション」の企画、脚本、原画や演出など作成工程それぞれの才能の部分に負う ものが大きい。 

聞き取り調査をしたA社、D社の代表取締役がともに、才能あふれるクリエーターは、この 世界でも経済的にも成功できるといっているように、デジタル技術の進歩により、技術の取得 の部分は変化があったものの、発想力や表現力の差やこれを具現化する動画作成スピードのス キルの差は、古典的な職人芸の世界あるいは、映画の俳優の世界やTVタレント(タレントは その名のとおり「才能」である。)の世界とも共通するものである。この性格は、文化芸術の側 面も併せ持つアニメ産業の二面性を垣間見るものである。 

低賃金や長時間労働と指摘されることを肯定するものではないが、文化芸術が産業となった ときにこの二面性を持ち続けるのは、なにもアニメ産業だけの問題でなく86、また、地域集積 とは別の課題であり、これをもって東京都城西地域の集積が空洞化する論にはつながらないだ ろう。 

 

4.中小企業問題としてのアニメ産業 

前項で、文化芸術要素からの問題を考察したが、多くのアニメ産業関係者と話すうちに、低 賃金長時間労働、人材の空洞化、海外競争などアニメ産業の課題の多くは、一般的にいわれる 日本の中小企業問題とほとんど重複する。 

①多くの事業者が中小企業に該当すること 

②比較的長く事業を続けていること 

③産業の構造は、古い製造業のタイプに近いこと 

④一定の地域に集積していること 

⑤契約制度などの基本的な整備が整っていないこと 

⑥労働条件が整っていないこと 

⑦下請け構造のなかでの長時間労働かつ低賃金であること 

「アニメ産業」という言葉を意図的に除いて列挙しても、他の中小企業産業構造とそのまま 置き換わることができるものである。よくいわれる「アニメ産業の光と影」的な論調の影の部

85 筆者が聞き取りなどの調査した範囲では、グローバル化が原因の倒産事例は余り聞くことはなかった。 

86 同じコンテンツ産業では、映画産業の俳優や監督業などが典型例である。 

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