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産業・組織心理学研究_第30巻第2号

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Academic year: 2021

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  1 .はじめに ワークモチベーション(work motivation)は, 組織成員の職務行動や業績を規定する変数であるこ とから,ホーソン研究以降,古くから注目され,こ れまで多くの知見が蓄積されてきている。例えば, 欲 求 階 層 理 論(Maslow, 1970) や 達 成 動 機 理 論 (McClelland, 1985)などの内容論は,ワークモチ ベーションの個人差の問題を説明している。また, 期 待 理 論(Vroom, 1964) や 公 正 理 論(Adams, 1965)などの過程論は,組織成員のワークモチベー ションをどのように促進するかを考える上で有益か つ実践的な示唆を提供してきた。 さらに近年では,ワークモチベーションのダイナ ミックな側面が注目されつつある。例えば,仕事の 成果や取り組む課題の変化によってモチベーション が変動することは経験的にもよく気づかれている。 しかし,従来のワークモチベーション研究では,こ のような変動するモチベーションのダイナミックな 状態を必ずしも十分に捉えてこなかった(森永, 2010)。ワークモチベーションが,業績やそれに直 結する職務行動を左右することを考えると,こうし たワークモチベーションのダイナミックな状態を適 切に測定することは,モチベーション研究の理論的 発展に寄与するだけでなく,実践的にも大きな意義 があると考えられる。そこで本研究では,最近の標 準的な概念定義に基づき,我が国において適用可能 なワークモチベーション尺度の開発を行うことを目 的とする。 2 .ワークモチベーションの測定方法の発展 ワークモチベーションとは,与えられた職務を精 力的に遂行する,あるいは目標を達成するために頑 原 著

我が国における多側面ワークモチベーション尺度の開発

池 田   浩(九州大学) 森 永 雄 太(武蔵大学)

Developing a Measure of Multi-faceted Work Motivations in Japanese Organizations IKEDA Hiroshi (Kyushu University)

MORINAGA Yuta (Musashi University)

The purpose of this study was to develop a scale measuring multi-faceted work motivations in Japanese organizations. It also sought to verify the scale’s validity and reliability. In study 1, items of the scale were developed based on Barrick, Stewart, and Piotrowski’s (2002) work on a prior scale, and included additional content on motivational aspects of learning. These items were further elaborated and examined in preliminary investigation to determine whether each reflected three core dimensions: directivity, persistence, and strength. In study 2, web surveys comprising the items were administered to 600 Japanese employees whose responses were later analyzed. An exploratory factor analysis was performed to ascertain the scale’s validity and reliability, which revealed 4 factors: accomplishment, competition, cooperation, and learning-oriented motivation. In study 4, a longitudinal survey was administered to 300 Japanese employees to determine test –retest reliability and relationship between work motivation and job performance. The results generally supported the reliability and validity of the multi-faceted work motivations.

キーワード:ワークモチベーション,尺度開発,状態,方向性,持続性,強度 Key words:work motivation, scale development, state, direction, persistence, strength

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張り続けるなど,組織の成員が何かに向けて行動し ているダ イナミックな 状 態を表 す 概 念 で ある。 Mitchell(1997)は,ワークモチベーションを「目標 に向けて行動を方向づけ,活性化し,そして維持す る心理的プロセス」(p.60)と定義し,最近ではこの 定義が定着している(Kanfer, Chen, & Pritchard, 2008; Pinder, 2008)。 また,ワークモチベーションは,方向性(direction), 強度(strength),そして持続性(persistence)の 3 次元から構成されている(Kanfer, 1990; Mitchell, 1997)。方向性とは,目標をなぜ,どのように成し遂 げるのかの明確性を意味する。強度とは,目標の実 現に向けた努力や意識の高さを意味する。そして, 持続性とは,目標を追求・実現するために費やされ る時間の長さや継続性を意味する(Mitchell, 1997)。 では,海外の先行研究ではどのようにワークモチ ベーションを測定してきたのであろうか。先行研究 を概観すると,大きく 3 つに大別できるように思わ れる。 第 1 は,曖昧で多義的な刺激を呈示し,その反応 傾向を分析する投影法を用いた測定である。このア プローチは,かつてMurray(1938)が人間の行動 を説明するうえで多様な欲求に着目し,それらを TAT(主題統覚検査)によって測定を試みたのが 始まりである。これに着目したMcClelland(1961) は達成動機を測定するためにTATを用い,その曖 昧な図版に対して被検査者が語る物語の内容を分析 している。しかし,ここで測定された達成動機は, あくまでも特定の課題や現在取り組んでいる職務に 対するワークモチベーションではなく,比較的安定 した個人特性を捉えたものである。また,TATは 研究者の解釈に依存する部分も多く,故に測定の信 頼性の確保の点から,近年ではほとんど用いられて いない。 第 2 は,ワークモチベーションの状態を間接的に 推論あるいは測定してきた研究群である。例えば, 目標設定理論(Lock & Latham, 1990)に関わる研 究では,具体的で困難な目標とベストを尽くせと いった曖昧な目標のもとで課題を行った場合,前者 のもとで一貫して業績が高いことが明らかにされて いる。すなわち,目標と業績の高さとの関係からワー クモチベーションを推論していると言える。 また,内発的動機づけ理論に関する古典的な実験 では,ワークモチベーションが間接的に反映される 別の指標によって測定がなされている。Deci(1971) は報酬が内発的動機づけに及ぼす効果について実験 室実験を行っている。彼は,当時の大学生が興味を 持つソマパズルを実験の課題として取り上げ,実験 のセッションのあとに休憩時間でさえもそのソマパ ズルに取り組んだ時間の長さによって内発的動機づ けの高さを測定している。 これら 2 つの研究は現在においても大きな影響力 を持つ理論であり,それぞれの測定方法についても 一定の妥当性が認められる。しかしながら,これら 2つの測定方法は,現在取り組んでいる課題に関わ るワークモチベーションそのものを直接的に測定し たものではない。そのため,学術的にワークモチベー ションと他の変数との関連性について検討すること や,実務的に企業組織の従業員のワークモチベー ションを測定することに対する要請には,上記2つ の測定方法では十分に応えることができない。 これらを踏まえると,先行研究で用いられてきた 第 3 のアプローチが最も適切であると考えられる。 すなわち,特定の尺度を用いてワークモチベーショ ンを測定しようとする研究群である。モチベーショ ン研究が発展した20世紀後半以降の大半の研究で は,モチベーションを特定の尺度を用いて測定して きた。2003年から2013年までの期間で4つの学術雑 誌(Academy of Management Journal, Journal of Applied Psychology, Journal of Organizational Behavior, Organizational Behavior and Human Decision Processes)に掲載された3143編の論文か ら,タイトルに「motivation」が含まれた論文を調 べてみると39編であった(1.2%)。その中で最もワー クモチベーションを測定するために用いられている のは,Deci & Ryan(2002)の自己決定理論に基づ いた内発的動機づけ尺度である。研究者によって複 数の尺度が存在するが,例えばCameron & Pierce (1994)は“私の仕事はそれ自体がモチベーション となるぐらい面白い”など 6 項目によって内発的動 機づけの程度を測定している。最近では,Gagné, Forest, Gilbert, Aubé, Morin, & Malorni(2010)の 尺度が多くの研究で用いられている。これらの尺度 は,ワークモチベーションについてその内発性の程 度を自己決定の度合いから測定している。しかし, 組織で働く人のワークモチベーションは,現実的に は内発性の要素だけに限らず,上司からの期待や給 与などの外発性も併存しているため,ワークモチ

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ベーションを自己決定の側面のみで測定するのは限 界があると思われる。

近年では,ワークモチベーションの標準的な定義 に基づき,ダイナミックな側面を測定することを視 野に入れて作成されるようになった。具体的には, Barrick, Stewart, & Piotrowski(2002)の尺度がワー クモチベーションを 3 次元(方向性,持続性,強度) で捉えた上で,ワークモチベーションの側面として, 割り当てられた職務を完遂しようとする達成志向的 モチベーション(以下,達成志向M)に限定せず, 同僚他者よりもさらに高いレベルで職務を遂行しよ うとする競争志向的モチベーション(以下,競争志 向M),そして同僚と協力しようとする協力志向的 モチベーション(以下,協力志向M)の 3 側面で測 定している。

そ し て さ ら に,Barrick, Mitchell, & Stewart (2003)は,Barrick et al.(2002)の知見を拠り所 にワークモチベーション媒介モデルを提示してい る。これは,ワークモチベーションから職務パフォー マンスに結実する過程として,達成志向Mが中核的 変数として位置づけられ,そして 2 つの代表的な職 務特性(相互依存性,同僚との競争)の要請が高ま ることで,関連するモチベーション(協力志向M, 競争志向M)が喚起され,それが職務パフォーマン スに結実するというものである。このモデルは,複 数の側面のワークモチベーションを取り上げたこと に加えて,達成志向Mを中核的に位置づけ,そして 職務特性に応じて異なる側面のモチベーションが喚 起されて,パフォーマンスに結びつくダイナミック な心理プロセスに着目した点は理論的にも実践的に も興味深い。 3 .我が国におけるワークモチベーションの測定尺度 多側面に注目したワークモチベーション尺度が開 発され,業績との関係が幅広く実証されつつある欧 米に対して,我が国の先行研究の動向を概観すると 適切な尺度が存在しないことがわかる。2003年から 2013年までの期間で心理学を代表する学術誌(心理 学研究,社会心理学研究,実験社会心理学研究,産 業・組織心理学研究,応用心理学研究) 5 誌と経営 学系(経営行動科学,組織科学,日本経営学会誌, 日本労務学会誌,日本労働研究雑誌) 5 誌に掲載さ れた2215編の論文からワークモチベーションを測定 し た 論 文 を 調 べ て み る と わ ず か15編 で あった (0.7%)。その15編で測定された尺度を分析すると大 きく 3 つの尺度が用いられていることが判明した。 1 つ目は,三隅(1978)のモラール尺度で,リー ダーシップ研究などの従属変数として用いられてい る。この尺度は5項目から構成され,そのうち1項目 (“毎日の仕事に張り合いを感じている”)はワーク モチベーションの状態を測定しているものの,その 他は仕事に対する態度(興味,誇り)を測定してい るため,組織成員が職務に対してどの程度意欲的に 取り組んでいるか十分に明確ではない。 2 つ目は,田尾(1984)の内発的動機づけ尺度で ある。この尺度では、全ての項目が“生きがいを感 じる”や“仕事に熱中することがある”などワーク モチベーションの強度の次元に限定されている。し たがって,他の2次元である方向性や持続性は全く 考慮されていない。 3 つ目の堀野(1987)の達成動機尺度は,教育心 理学の領域で開発されたものの,産業・組織心理学 や経営学の領域でもよく用いられている。しかし, 達成動機は,あくまでも個人の安定した特性を測定 するものであり,現在取り組んでいる職務にどの程 度意欲的に取り組んでいるかの状態を捉えたもので はない。また,項目内容の一般性は高いものの,組 織場面で用いるにはやや抽象的な印象は否めない。 このように,我が国で最近の理論や定義を反映し た尺度は存在しない。これが作成されないことには, 我が国におけるワークモチベーション研究の理論的 かつ実証的な研究の進展のみならず,実践的に活用 することもできず,大きな問題を含んでいると言え よう。 4 .本研究で作成するワークモチベーション尺度 そこで本研究では,我が国において測定可能でな おかつ最新の定義に基づいたワークモチベーション 尺度を作成することを目的とする。そうした尺度を 作成するにあたり,先のBarrick et al.(2002)の尺 度は注目に値する。Barrick et al.(2002)は,尺度 項目を作成する上で,Mitchell(1997)のモチベー ションの定義と次元,そして関連する知見を参考に しながら,方向性,強度,持続性の 3 次元を含んだ 達成志向M,競争志向M,そして協力志向Mについ て主に営業職を意識した50項目の項目プールを作成 している。そして,その項目プールを518名の調査 協力者(354名の大学生ならびに164名の営業職)に

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回答してもらい,因子分析を施したところ方向性, 強度,持続性の 3 次元は因子として抽出されず,達 成志向M,競争志向M,そして協力志向Mの3側面 が因子として見出されている。このように,彼らの 尺度は,モチベーションの定義に含まれる 3 次元(方 向性,持続性,強度)を踏まえながら,達成志向M に限定せず,競争志向Mや協力志向Mの 3 側面で測 定している点が特徴的と言える。 しかしながら,我が国で適用可能なワークモチ ベーション尺度を作成するためには,次の 4 点につ いて改善ならびに検討を加える必要がある。 第 1 は,我が国おいて,昨今の組織環境を考慮す ると同時に様々な職種に適用可能な尺度項目を作成 することである。Barrick et al.(2002)の尺度は, 主に営業職を想定して作成されているため,他の職 種に馴染まない項目が多い。例えば,“私は他の誰 よりも多くの販売数を得るために,自分なりの目標 を掲げている”などは基本的に仕事の成果を数値化 できる職種以外は馴染まない。ワークモチベーショ ンは様々な職種で成果(業績や効率性,創造性など) を挙げるために必要不可欠な概念であることを考え ると,幅広い職種にも適用可能な尺度の作成が必要 であろう。 第 2 は,ワークモチベーションの新しい側面とし て「学習」を追加することである。近年,組織環境 の変化が激しいことから,組織成員は目標を達成す るだけでなく,自律的に知識や能力を学習すること も強く求められるようになった(中原, 2010)。一部 の先行研究で経験学習プロセスにおけるワークモチ ベーションの影響が示唆されている(松尾, 2006) ものの,これまで定量的な知見が蓄積されてきたと は言えない。そこで本研究では,学習志向のモチベー ションも同時に考慮することの必要性に注目し,こ の尺度を作成していくこととする。 第 3 は,ワークモチベーションについて,価値観 や姿勢など比較的安定した特性(trait)ではなく, 課題や環境によって変動しうる状態(state)を意 識して測定することである。Barrick et al.(2002) 尺度では,“私は,自分の仕事を終えるまで,決し てあきらめない”など,現在取り組んでいる仕事で はなく,あらゆる仕事に対する一般的な姿勢のあり 方を尋ねており,明確にワークモチベーションの状 態を捉えているとは言い難い。ワークモチベーショ ンが課題や状況によって変動する概念である重要な 前提を考慮すると,ワークモチベーションの状態を 測定することをより明確に意識した項目を設定する 必要があるだろう。 第 4 は,ワークモチベーション尺度に関する信頼 性と妥当性の検討である。Barrick et al.(2002)の 研究では,パーソナリティと職務パフォーマンスの 間を媒介する変数としてワークモチベーションの効 果が検討されているものの,尺度の妥当性や時間的 な安定性を含めた信頼性は検討されていない。ワー クモチベーション尺度が,その領域の学術的進展に 寄与するだけでなく,組織の従業員を対象とした実 践的活用,さらには幅広い関連研究でも検討される 可能性が高いことを考慮すると,適切な手続きを踏 まえて尺度を構成し,さらに多面的に妥当性と信頼 性を検討することが求められる。 以上の議論から,本研究では最近のワークモチ ベーション の 概 念 と 定 義 に 準 拠 し たBarrick et al.(2002)の尺度の枠組みと項目を参考にしながら, 我が国で適用可能な多側面ワークモチベーション尺 度を作成することが目的である。 1 1 .研究目的 研究 1 では,第 1 に多側面ワークモチベーション 尺度の原案を作成することが目的である。そして第 2 にワークモチベーション尺度の因子構造の確認を 行う。さらに,第 3 にワークモチベーションとパー ソナリティとの関係を検討する。 Barrick et al.(2002)の研究では,ワークモチベー ション尺度の因子分析を行った結果, 3 次元の因子 は抽出されず,達成,競争,協力の 3 因子が抽出さ れている。そこで,研究 1 でも,Barrick et al. (2002) に即して尺度全体を対象に因子分析を行い,上記の 3 因子に学習を加えた4因子が抽出されるかを検討 する。 次に,ワークモチベーション尺度の妥当性を検討 する。本研究で開発したワークモチベーションは, 4 つの側面から構成され,かつそれぞれが異なる志 向性を帯びたものである。従来モチベーションの状 態を直接的に捉えた尺度は存在しないものの,モチ ベーションの各側面(達成,競争,協力,学習)に 関連する既存の概念との関連性によって妥当性を検 討する必要があるだろう。Kanfer & Chen(2016)は, ワークモチベーションに関連する概念を包括的に整

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理し,人々がなぜ課題に取り組むかを説明する個人 内変数として,特性,動機および欲求を取り上げて いる。本研究では,特性に対応する変数としてパー ソナリティ(ビッグファイブ),そして動機に対応 する変数として達成動機と目標志向性を取り上げる。 まず,ビッグファイブについては,本研究で作成 する尺度の拠り所となっているBarrick et al.(2002) の研究においても検討されており,本研究で作成し た尺度の妥当性を確認するうえで適切な指標である と考えられる。ビッグファイブとワークモチベー ションとの関連性については,既にJudge & Ilies (2002)がメタ分析を行い,神経症傾向(平均ρ=-.31) と勤勉性(平均ρ=.24)は目標達成に関わるモチ ベーションと関連することが確認されている。また, Barrick et al.(2002)の研究においても情緒安定性 (神経症傾向の低さ)と勤勉性は達成志向Mと関連 することが示されている。以上の知見から神経症傾 向の高さは(情緒安定性の低さ)は,感情の起伏が 激しく,ストレスを感じやすいため,課題を達成し ようとするモチベーションを抑制すると考えられ る。次いで,勤勉性は,自らの欲求をコントロール する力を持ち,意志が強いことから,自ら取り組む べき課題達成に対して意欲的であると考えられる。 仮説 1 - 1   神経症傾向は達成志向Mと負の関係 性を示すだろう。 仮説 1 - 2   勤勉性は達成志向Mと正の関連性を 示すだろう。 また,外向性とは対人関係における積極性を意味 し,協調性とは対人関係における共感性や思いやり を意味する。ビッグファイブと職務パフォーマンス と の メ タ 分 析 を 行ったHurtz & Donovan(2000) によると外向性と協力行動との間には正の関連性 (平均ρ=.17)が認められている。このことから, 外向性の高さは職場の同僚との関わりや交流を促進 する原動力になることから,外向性と協力的モチ ベーションとの間には正の関連性が認められるだろ う。さらに,経験への開放性は,新しい出来事への 知的好奇心を意味し,勤勉性も仕事に対する責任性 の高さを意味することから,これらの 2 因子は学習 志向Mと関連するだろう。 仮説 2   外向性は協力志向Mと正の関連性を示す だろう。 仮説 3 - 1   経験への開放性は学習志向Mと正の 関連性を示すだろう。 仮説 3 - 2   勤勉性は学習志向Mと正の関連性を 示すだろう。 次に,目標志向性とは,課題に対する意味づけ (Dweck, 1986)を意味し,自分の能力を高めるこ とを志向する学習目標志向性と,他者に自分の能力 の高さを示し,好ましい評価を受けることを求める パフォーマンス目標志向性に分類される。このパ フォーマンス目標志向性は,他者から好ましい評価 を得るために,課題を達成しようとする達成志向M を引き出すだけでなく,同時に他の仲間よりも優れ ていたいという競争志向Mも引き出すと予想され る。この特徴から,学習目標志向性は学習志向M, そしてパフォーマンス目標志向性は競争志向Mおよ び達成志向Mと関連するだろう。 仮説 4   学習目標志向性は学習志向Mと正の関連 性を示すだろう。 仮説 5 - 1   パフォーマンス目標志向性は競争志 向Mと正の関連性を示すだろう。 仮説 5 - 2   パフォーマンス目標志向性は達成志 向Mと正の関連性を示すだろう。 達成動機(堀野, 1987)は,物事を成し遂げたい という動機を意味し,その中には自己の達成や自分 なりの基準への到達を目指す自己充実的達成動機と 他者よりも優れていたい,他者に勝ちたいという競 争的達成動機に大別される。このうち,自己充実的 動機は,広く自分なりの価値観で物事を達成したい と考えるため達成志向Mと,そして競争的達成動機 は競争志向Mと関連すると予想される。 仮説 6 - 1   自己充実的動機は達成志向Mと正の 関連性を示すだろう。 仮説 6 - 2   競争的達成動機は競争志向Mと正の 関連性を示すだろう。 2 .方法 尺度項目作成の手続き 尺度は 3 つのステップを 経て作成した。第 1 は,本研究において目指す尺度 と最も関連性のあるBarrick et al.(2002)の尺度を 邦訳した。次に,Barrick et al.(2002)の尺度を参 考にしながら,ワークモチベーションの 3 次元(方 向性,持続性,強度)の定義に準拠し,尺度項目を 加筆修正した。なお,本研究では,方向性を“目標 をなぜ,どのように成し遂げるのかの明確性”,持 続性を“目標を追求・実現するために費やされる時 間の長さや継続性”,そして強度を“目標の実現に

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向けた努力や意識の高さ”と定義した。第 3 のステッ プでは,従来の 3 側面に加えて学習志向の尺度を新 たに作成した。 以上の手続きを踏まえ,達成,競争,協力,学習 の 4 側面(各15項目)60項目の尺度原案を作成した。 なお,各側面には方向性,持続性,強度が各 5 項目 ずつ含まれている。 調査手続き 本調査は,幅広い属性を持つ社会人 を対象としたため,調査会社に委託しWeb調査を 実施した。なお,回答者の負担を考慮し,調査を 2 つ(Aタイプ,Bタイプ)に分けて実施した。 調査回答者 調査回答者は合計600名であった。 Aタイプ300名(男性168名(56%)),Bタイプ300名 (男性132名(44%))であり,回答に不備のあった 者を除き,最終的に445名(Aタイプ228名,Bタイ プ227名)を分析の対象とした。 回答者の平均年齢は39.65歳(SD=10.52),平均 勤続年数は9.54年(SD=9.14),雇用形態は正社員 420名(70%),契約・派遣社員57名(9.5%),パート・ アルバイト123名(20.5%)であった。役職は,管理 職106名(17.7%),一般従業員314名(52.3%)であっ た。 業種は,管理・事務158名(26.3%),営業・販売・ サービ ス117名(19.5%), 生 産・ 物 流・ 工 事64名 (10.7%),専門職・スペシャリスト56名(9.3%),研 究・開発・設計34名(5.7%),IT/ソフトウェア技 術者31名(5.2%),その他140名(23.4%)であった。 調査票の構成 調査票は,Aタイプ(ワークモチ ベーション,達成動機)とBタイプ(ワークモチベー ション,ビッグファイブ,目標志向性)を用意した。 ワークモチベーションは,先述の尺度原案60項目 を用いた。各項目について,“全くあてはまらない” ⑴から“非常に当てはまる”⑸の 5 段階で回答を求 めた。 Aタイプに含まれる達成動機は堀野(1987)の尺 度を用いた。この尺度は,自己充実的達成動機(“何 か小さなことでも自分にしかできないことをしてみ たいと思う。”)と競争的達成動機(“どうしても私 は人より優れていたいと思う。”)の 2 因子から構成 されている。本研究では各 5 項目ずつを抽出し,“全 然当てはまらない”⑴から“非常に良く当てはまる” ⑺の 7 段階で回答を求めた。 Bタイプのうちビッグファイブは,小塩・阿部・ Cutrone(2012)によるTen Item Personality Inventory

(TIPI-J)を用いた。TIPI-JはBig Fiveの 5 因子を各 2 項目合計10項目で測定するように構成されてい る。各項目について,“全く違うと思う”⑴から“強 くそう思う”⑺の 7 段階で回答を求めた。なお, TIPI-J各次元は正方向と負方向で構成されており, 負の方向の項目を逆転処理し,得点を合計すること で各下位尺度得点を算出するようになっている。小 塩他(2012)によると幅広い概念を 2 項目で測定す ることから,内的整合性(α係数)はあまり高くな らないように構成されている一方で,十分な再検査 信頼性と妥当性が認められている。目標志向性は柳 澤(2007)の尺度を用いた。この尺度は,学習目標 志向性(“私は,新たに学習を必要とすることに取 り組むのが好きである。”),パフォーマンス目標志 向性(私は,過去にうまくできたことに取り組むこ とが好きである。”)の 2 因子から構成され,各 5 項 目ずつ“全くそう思わない”⑴から“非常にそう思 う”⑸の 5 段階で回答を求めた。 3 .結果と考察 ワークモチベーション尺度の因子構造の検討  ワークモチベーション尺度 4 つの側面全ての項目 (60項目)に対して探索的因子分析(最小二乗法, プロマックス回転)を行ったところ固有値(24.40, 3.99, 3.22, 2.39, 1.40, ・・・)の減衰傾向ならびに解 釈可能性から 4 因子構造が妥当であると判断した (累積寄与率62.97%)。 4 因子に含まれる項目を見る と,第 1 因子が協力志向M,第 2 因子が競争志向M, 第 3 因子が達成志向M,そして第 4 因子が学習志向 Mで構成されていた。 なお,ワークモチベーションの側面(達成,競争, 協力,学習)ごとに因子分析を行ったところ全ての 側面が 1 因子構造を示し,Barrick et al.(2002)同 様に 3 次元(方向性,強度,持続性)は因子として 抽出されなかった。Barrick et al.(2002)によると, 3 次元のうち方向性は職務行動を制御する役割を持 つとともに,方向性を意味する目標に連動して強度 や持続性の次元が喚起されることが指摘されてい る。したがって, 3 つの次元はモチベーションのプ ロセスにおいて決して切り離せない要素であるが故 に,独立した因子として抽出されなかったと解釈す ることができる。 さらに,本研究では,多側面ワークモチベーショ ン尺度を様々な組織で適用するうえで,各因子の妥

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Table 1. ワークモチベーション尺度の因子分析結果(N=428) 因 子 項 目 1 2 3 4 M SD 第 1 因子:競争志向的モチベーション(α=.97, M=2.91, SD=0.88) 同僚よりも優れた成果(業績,評価)をあげることは,今の私にとって大きな喜びである(強) .90 .01 -.01 -.10 2.80 1.10 私は,同僚よりも優れた成果(業績,評価)を得るまで,決して諦めずに職務に取り組み続けている。(持) .88 -.04 .01 -.04 2.79 1.11 私は,同僚に負けないために,一所懸命仕事をしている。(強) .88 -.08 -.03 .06 3.00 1.13 私は,現在の仕事で同僚に負けたくないと思っている。(強) .85 -.10 .04 -.04 2.99 1.13 私は,どうすれば同僚以上に成果(業績や評価)を挙げることができるかを理解している。(方) .76 -.02 .03 .03 2.85 1.04 私は,職場で最も優れた従業員になるまで,決して諦めることなく取り組み続けている。(持) .67 .11 .03 .09 2.93 1.09 私は,同僚よりも優れた成果を挙げることが職場にどのように貢献するかを理解している。(方) .65 .15 -.20 .23 3.13 1.01 私は,現在の職場で最も優れた従業員になるために,勤務時間以外でも継続的に努力している。(持) .62 .02 .16 -.07 2.63 1.13 私にとって,現在の職場で優れた存在になることは重要である。(方) .60 .15 .08 .01 3.10 1.09 第 2 因子:協力志向的モチベーション(α=.96, M=3.28, SD=0.80) 私は,継続して皆と仲良くしようとしている。(持) -.16 .86 .00 .02 3.35 0.94 私は,職場の同僚とよい関係を築くための取り組みを継続的に行っている。(持) -.03 .84 -.07 .00 3.18 0.97 私は,同僚や上司と協力的に関わることができるよう,非常に気を配っている。(強) -.05 .81 .03 .00 3.38 0.98 私は,同僚や上司と今以上に互いに協力し合えるように継続的に取り組んでいる。(持) .03 .79 .07 -.02 3.33 0.98 私は,同僚と良い関係を築く見通しがつくと,ワクワクした気持ちになる。(強) .12 .78 .01 -.16 3.19 1.03 私は,どうすれば同僚や上司とこれまで以上に質の高い協力ができるかについて考えている。(方) .18 .77 -.01 -.04 3.14 0.97 私は,この職場(チーム)の一員になりたいという願望を持って仕事に取り組んでいる。(強) .11 .73 -.09 .06 3.15 1.02 私は,職場のなかでなぜ同僚と協力する必要があるか自覚して,仕事に取り組んでいる。(方) -.02 .64 .07 .15 3.44 0.95 私は,同僚や上司と協力して仕事を行うことで,どのような結果が生まれるかを理解している。(方) -.07 .64 .17 .09 3.32 0.95 第 3 因子:学習志向的モチベーション(α=.97, M=3.00, SD=0.75) 私は,どうすれば今以上に自分を成長させることができるかを考えている。(方) .03 .06 .85 -.10 2.94 0.90 私は,今以上に高度な知識や技能を習得すべきと考え,仕事に取り組んでいる。(方) .00 .02 .83 .00 2.94 0.91 私は,今以上に成長することにエネルギーを注いでいる。(強) .09 -.01 .78 -.05 2.88 0.91 私は,仕事でうまくいかないときにも,学ぶ姿勢を持ち続けている。(持) -.05 .01 .78 .07 3.03 0.90 私は,仕事で新しい知識や技能を身につけることが大好きだ。(強) .09 -.01 .78 -.05 3.04 0.89 私は,仕事で優れた成果を挙げるために,今以上に成長しようと努力し続けている。(持) .09 -.04 .78 .09 2.96 0.94 私は,知識やスキル,能力をなぜ伸ばす必要があるかを理解している。(方) -.01 .05 .74 .04 3.05 0.89 私は,自分の仕事を通して継続的に学習している。(持) .11 .00 .71 .00 2.92 0.91 私は,難しいことを行わなければならない時には,全力で取り組んでいる。(強) -.14 .08 .65 .13 3.15 0.89 第 4 因子:達成志向的モチベーション(α=.96, M=3.31, SD=0.74) 私は,自分の職務を完了させるまで粘り強く取り組んでいる。(持) -.02 -.03 .02 .85 3.37 0.90 私は,自分に与えられた職務を完了することに大きな意義を感じて,職務に従事している。(強) -.04 -.03 .04 .82 3.25 0.94 私は,自分の職務を全うするまで,決して諦めることはなく取り組んでいる。(持) .09 .00 -.08 .76 3.31 0.93 私は,自分の職務を全うするまで,決して気を抜かずに仕事に取り組み続けている。(持) .04 -.04 .02 .76 3.18 0.93 私は,自分の職務を果たすことが,同僚や職場,組織にどのように貢献するかを理解している。(方) -.12 .18 -.04 .73 3.36 0.91 私は,仕事を達成するために業務の優先順位を自分なりに掲げている。(方) -.08 .02 .11 .70 3.48 0.97 私は,少しでも多くの職務を果たしたいという願望を持って挑戦している。(強) .16 -.05 .01 .70 3.17 1.01 私は,職務を全うするために,ひたむきな気持ちで取り組んでいる。(強) .11 -.06 .03 .69 3.17 0.87 私は,自分の職務をこれまでよりもさらに効率的に行う方法を考えている。(方) -.08 .04 .20 .54 3.49 0.97 因子間相関 1 2 3 4 1 ― .53 .54 .49 2 ― ― .63 .61 3 ― ― ― .68 注)方=方向性,持=持続性,強=強度をそれぞれ示す。

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当性を保ちつつも,回答者の負担を軽減するために, 可能な限り少数の項目で測定することを目指してい る。そこで,各側面ごとに方向性,持続性,強度そ れぞれ因子負荷量が高い順に 3 項目ずつを抽出し, 最終的に各側面 9 項目( 4 側面で合計36項目)を最 終的な尺度項目として採用した。その36項目に対し て再度探索的因子分析(最小二乗法,プロマックス 回転)を行ったところ固有値(16.43, 3.24, 2.48, 1.94, 0.88,・・・)の減衰傾向ならびに解釈可能性から先 の因子分析と全く同様の 4 因子構造が得られた(累 積寄与率62.87%)。その最終的な因子分析の結果を Table 1に示す。なお,項目数を少数に絞り込んでも, 累積寄与率の値はほぼ同じ値を示していた。 関連概念との関係性 Table 2にワークモチベー ション尺度の妥当性を検討するため他の変数との相 関係数を示している。まず,ビッグファイブとの関 連性を見ると,勤勉性は達成志向Mと高い相関係数 を示していた。しかしながら,神経症的傾向とは明 確な関連性は認められなかった。したがって,仮説 1 - 1 は支持されなかったものの,仮説 1 - 2 は支持 された。他方で,外向性と協調性は協力志向M(仮 説 2 を支持)と,経験への開放性と勤勉性は学習志 向Mと予測通り関連性を示していた(仮説 3 - 1 と 仮説 3 - 2 を支持)。 次に,目標志向性との関連性を見ると,学習目標 志向性は学習志向Mと正の関連性を示し(仮説 4 を 支持),パフォーマンス目標志向性は,やや値は低 いものの,競争志向Mおよび達成志向Mと関連性を 示していた(仮説 5 - 1 と仮説 5 - 2 を支持)。 最後に,達成動機のうち自己充実的達成動機は達 成志向Mと強い正の関連性を示し(仮説 6 - 1 を支 持),競争的達成動機も競争志向Mと正の関連性し ていた(仮説 6 - 2 を支持)。 2 1 .研究目的 本研究で新たに開発するワークモチベーション尺 度は,幅広い職種に適用することを目指している。 そのため先の研究 1 では,Web調査を通して多様 な業種や職種を対象とした。研究 2 では,さらに尺 度の適用可能性を検討するため,特定の専門職種で ある看護師とシステムエンジニアを対象にワークモ チベーション尺度を測定し,それぞれ4因子構造と して認められるか再現性を確認する。 2 つの職業を調査に取り上げた理由について,ま ず看護師は人の生死に関わる仕事であることから, 大きなストレスを抱え,バーンアウトに陥ってしま うことも珍しくない(田尾・久保, 1996)。そのため 離職率も高く,モチベーションを維持あるいは改善 Table 2. ワークモチベーションと妥当性を検討する変数との相関係数(N=445) ワークモチベーション 次元 尺度 α M SD 達成志向 競争志向 協力志向 学習志向 パーソナリティ ビッグファイブ 外向性 -.22 2.84 1.04 .28** .22** .28** .32** 協調性 -.09 3.62 0.85 .20** .06 .21** .10 勤勉性 -.25 3.01 0.98 .36** .26** .20** .23** 神経症的傾向 -.07 3.08 0.92 -.12 -.11 -.28** -.19* 開放性 -.18 3.04 0.92 .17* .06 .12 .26** 動機・態度 目標志向性 パフォーマンス目標 .83 3.32 0.70 .29** .25** .20** .23** 学習目標 .88 3.34 0.75 .65** .38** .46** .71** 達成動機 自己充実的達成動機 .92 3.12 0.62 .61** .34** .53** .72** 競争的達成動機 .91 2.74 0.75 .42** .48** .41** .54** 注1)ビッグファイブに関しては相関係数を算出し,目標志向性・達成動機に関しては信頼性係数(α)を算出した。 注2)**p <.01, *p <.05

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することが職場において重要な課題とされている。 また,システムエンジニアは,クライエントの要 請に基づいてシステムの設計からプログラミング, 運用と保守などの一連の業務を担う。そこには納期 が大きなプレッシャーになるだけでなく,システム は動いて当たり前と認識されるために,システムエ ンジニアの業務自体が構造的にモチベーションを上 げにくいと指摘されている(前田, 2008)。 以上の背景から, 2 つの職種はワークモチベー ションを保持することが強く求められており,本尺 度を幅広い職種に適用可能かどうかを検討するため の第一歩として適切な調査対象であると思われる。 2 .方法 看護師を対象とした調査 2013年11月に東北地方 の総合病院に勤務する看護師209名に調査票を配布 し169名から回答を得た(回収率80.9%)。調査は, 担当者が職場ごとに配布し,個別に回収された。な お,調査票は,回答の内容のプライバシーを保護す るために,回答後テープ付きの封筒に封入して提出 された。 システムエンジニアを対象とした調査 2013年12 月に首都圏の企業に勤務するシステムエンジニア 467名を対象に調査を実施し,351名から回答を得た (有効回答率75.2%)。調査は,社内のWebシステム を通じて実施された。 なお,看護師ならびにシステムエンジニアともに 回答者は全て非管理職である。 調査内容 調査では,研究2で作成したワークモ チベーション尺度36項目について回答を求めた1) 3 .結果と考察 探索的因子分析による因子構造の確認 まず看護 師データを対象に探索的因子分析(最小二乗法,プ ロマックス回転)を行ったところ研究1と同様に4因 子構造が最も適切であると判断した(固有値15.83, 3.57, 2.57, 2.44, 1.05, ・・・)。累積寄与率は67.82% であった。同様に,システムエンジニアのデータに ついても 4 因子構造が最も適切であると判断した (固有値10.13, 2.47, 1.93, 1.61, 1.12, ・・・)。累積寄 与率は48.76%であった。したがって,特定の職種を 対象とした因子分析によっても全く同様の因子構造 が抽出された。なお,看護師のデータによる累積寄 与率は,研究1の因子分析のそれと同程度の値を示 していたが,システムエンジニアの累積寄与率はや や低い値を示していた。 記述統計量と相関係数 看護師およびシステムエ ンジニアの各データに基づく記述統計量ならびに変 1) 研究 2 で作成したワークモチベーション尺度は本来36項目であるが,システムエンジニアを対象とした 調査において,学習志向Mの“私は,難しいことを行わなければならない時には,全力で取り組んでい る。”(強度)の 1 項目が調査票から抜け落ちてしまっている。しかし,研究 3 において, 4 側面からな る因子構造を再確認し,また 4 側面ごとに各次元を代表する項目を抽出して確認的因子分析を行ううえ で,大きな影響はなく,むしろ特定の職種を対象に検討する意義が大きいと判断し,35項目に基づいて 分析を行った。 Table 3. 看護師およびシステムエンジニアを対象としたワークモチベーションの記述統計量と相関係数 看護師 システムエンジニア ワークモチベーション ワークモチベーション M SD M SD 達成志向 競争志向 協力志向 学習志向 達成志向 3.33 0.57 3.56 0.56 ― .50** .61** .59** 競争志向 2.52 0.72 2.90 0.65 .48** ― .55** .62** 協力志向 3.51 0.64 3.46 0.52 .58** .47** ― .60** 学習志向 3.18 0.67 3.42 0.60 .59** .56** .61** ― 注 1 )相関行列のうち左下は看護師,右上はシステムエンジニアのデータを意味する。 注 2 )**p <.01

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数間の相関係数を示したのがTable 3である。 看護師データでは,システムエンジニアと比べて, やや競争志向Mが低い。これは,看護師の業務は相 互に協力を要するものであるからであると推察され る。なお,変数間の相関係数は, 2 つの職種間でほ ぼ同程度の値を示していた。 4 因子構造の適合の評価 次に,看護師およびシ ステムエンジニアの各データを対象に,研究 2 で 行った因子分析の結果(Table 1)をもとに,各因 子(側面)ごとに 3 次元(方向性,強度,持続性) の項目で最も因子負荷量の高い項目を 1 項目ずつ抽 出した。次に,各側面 3 項目ずつ合計12項目の因子 数を 1 ないしは 4 つに設定したモデルについて確認 的因子分析を実施し,そのモデルの適合度を検討し た2。その結果,看護師( 1 因子モデル:CFI=.65, RMSEA=.21, AIC=480.9,4因子モデル:CFI=.97, RMSEA=.07, AIC=147.0)およびシステムエンジ ニア( 1 因子モデル:CFI=.77, RMSEA=.13, AIC =398.1, 4 因 子 モ デ ル:CFI=.92, RMSEA=.08, AIC=213.4)いずれの適合度指標も 1 因子モデル よりも 4 因子モデルの方がより当てはまりが良いこ とを示していた。 3 1 .研究目的 研究 3 では,縦断的調査を通して,ワークモチベー ション尺度の再検査信頼性について検討する。次い で,尺度の妥当性について確認するために職務パ フォーマンスとの関連性について検討する。 第 1 に,尺度の再検査信頼性について検討する。 ワークモチベーションは比較的安定した特性ではな く,課題要請の変化に応じて変動する状態変数であ る。このことを踏まえると,安定した課題に取り組 む従業員であれば,ある一定の時間経過であったと しても,ワークモチベーションの変動は少ないと予 想される。 一方,課題の要請が変化した場合には,それに連 動してワークモチベーションの水準も変動するた め,安定した課題に取り組む従業員と比べて, 2 時 点におけるワークモチベーションの水準の関連性は 低くなると予想される。 第 2 に,ワークモチベーションと職務パフォーマ ンスとの関連性について,先述の通りBarrick et al., (2003)は,達成志向Mを中核的変数として位置づけ, そして 2 つの代表的な職務特性(相互依存性,同僚 との競争)の要請が高まることで,関連するモチベー ション(協力志向M,競争志向M)が喚起され,そ れが職務パフォーマンスに結実するという理論的モ デルを示している。 Barrick et al.(2003)のモデルを拠り所に,ワー クモチベーション尺度の妥当性を検討するうえで Figure 1に示すような仮説を設定することができ る。なお,ワークモチベーションの各側面の効果を 検討するための職務パフォーマンス指標として,競 争志向Mには職務の遂行度合いを意味する課題パ フォーマンス,協力志向Mには同僚や職場に対する 協力行動を意味する文脈的パフォーマンス,そして 学習志向Mには将来を意識した職務行動としてプロ アクティブパフォーマンスを用いる。 まず,競争志向Mは,達成志向Mによって高めら れ,それが課題パフォーマンスに結びつく媒介効果 を示すだろう。また,この効果は,職務特性のうち 同僚との競争が高いときほど顕著であるだろう(仮 説 7 )。 次に,協力志向Mは,達成志向Mによって高めら れ,それが文脈的パフォーマンスに結実するだろう。 そしてその媒介効果は,職務の相互依存性が高いと きほど顕著であるだろう(仮説 8 )。 最後に,学習志向Mは,達成志向Mによって高め られ,それがプロアクティブパフォーマンスに正の 効果をもたらすだろう。そしてその媒介効果は,学 習の必要性が高い職務特性において顕著であるだろ う(仮説 9 )。 2 .方法 調査手続き 研究 2 と同様に調査会社に委託し Web調査を実施した。なお,課題要請の変化によっ 2) 脚注1)に関連して,システムエンジニアを対象とした調査において項目の一部が抜け落ちており,看護師 ならびにシステムエンジニアで測定したワークモチベーション尺度項目数が不揃いになっている。そのた め,各側面 3 項目ずつ合計12項目を取り上げて 4 因子構造の適合度を確認した。

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てワークモチベーションが変動するか否かも確認す るため, 1 か月の間隔をあけて,第 1 回目を2015年 1 月中旬,第 2 回目を 2 月中旬の 2 時点で調査を実 施した。 調査回答者 第1回目の回答者は300名(男性161 名(53.7%)),第2回目は266名(男性136名(55.2%)) であった。なお,分析は,第 1 回目と 2 回目の両方 の調査に回答した266名を対象とした。回答者の平 均年齢は46.34 歳(SD=13.05),平均勤続年数は 10.51年(SD=10.94), 雇 用 形 態 は 正 社 員178名 (59.3%),契約・派遣社員40名(13.3%),パート・ アルバイト82名(27.3%)であった。役職は,管理 職61名(20.3%),一般従業員239名(79.7%)であっ た。 業種は,管理・事務77名(25.7%),営業・販売・ サービス68名(22.7%),専門職・スペシャリスト33 名(11.0%),生産・物流・工事16名(5.3%),研究・ 開発・設計16名(5.37%),その他90名(30.0%)であっ た。 調査票の構成 第 1 回目調査では,研究 1 で作成 したワークモチベーション尺度の 4 側面各 9 項目を 用いた。また,現在取り組んでいる職務特性として 同僚との競争(私の仕事は,他の同僚と競い合うこ とが求められている。),相互依存性(職場の同僚や 他部署との連携や協力がなければ,私の仕事は進ま ない。),そして学習の必要性(私の仕事に必要な知 識やスキルは,絶えず新しいものが求められる)に ついて 5 段階で回答を求めた。 第 2 回調査ではワークモチベーション尺度,職務 パフォーマンスとして課題パフォーマンス(“与え られた仕事は,的確かつ締め切り通りに確実に取り 組むことができている。”など 3 項目(津曲・池田・ 古川, 2011)およびプロアクティブパフォーマンス (“期待以上の成果を出そうと,自ら進んで改善や工 夫を重ねている”など 3 項目(津曲他, 2011),文脈 的パフォーマンス(“自発的に職場内の同僚を援助 している”など 3 項目(池田・古川, 2008),各 3 項 目ずつ設定した。以上の項目について 5 段階で回答 を求めた。最後に,職務特性の変化度を測定するた めに,第 1 回目で測定した職務特性(同僚との競争, 相互依存性,そして学習の必要性)の各項目につい て“ 1 ヶ月前と全く変わらない”⑴から“ 1 ヶ月前 と大きく変わった”⑸の 5 段階で回答を求めた。 3 .結果と考察 ワークモチベーション尺度の再検査信頼性 ワー クモチベーション下位尺度の再検査信頼性係数を算 出したところ,達成志向M=.57( 1 回目M=3.35, SD=0.69,α=.93, 2 回目M=3.33,SD=0.67,α =.92),競争志向M=.66( 1 回目M=2.92,SD=0.79, α=.93, 2 回目M=2.82,SD=0.78,α=.94),協 力志向M=.67( 1 回目M=3.28,SD=0.74,α=.95, Fig. 1. 研究 3 の仮説モデル 仮説7 仮説8 仮説9 課題 パフォーマンス 文脈的 パフォーマンス プロアクティブ パフォーマンス 競争志向的 モチベーション 協力志向的 モチベーション 学習志向的 モチベーション 達成志向的 モチベーション 同僚との戦争 学習の必要性 相互依存性 職務特性 ワークモチベーション 職務パフォーマンス

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2 回目M=3.18,SD=0.77,α=.95),学習志向M=.61 ( 1 回目M=3.14,SD=0.76,α=.95,2 回目M=3.09, SD=0.72,α=.94)の値を示し,時間的安定性を 示す十分な値が認められた。 また,ワークモチベーションは,課題の変化によっ て変動する変数である。これを確認するため,第 2 回目調査で 1 ヶ月前と比べ職務特性に変化が無かっ た群(変化無)3,変化が認められた群(変化有)に 分けて再検査信頼性を算出した(Table 4)。 その結果,達成志向Mは, 3 つの職務特性の変化 によって再検査信頼性係数に有意な差が認められず 安定した傾向を示している。これは,達成志向Mが 中核的な要素であり,課題が変化したとしても影響 を受けづらい,比較的安定したものであることを示 唆している。それに対し,競争志向M,協力志向M, そして学習志向Mは,特に同僚との競争や学習の必 要性に関わる職務特性が変化することで統計的に有 意な変動が認められた。これらは,職務特性に変化 がなければ,ワークモチベーションも比較的安定し た傾向を示す一方で,それらが変化するとワークモ チベーションも変動するというダイナミックな性質 を持つことを示している。 ワークモチベーションと職務パフォーマンスとの 関 連 性  次 に, ワーク モ チ ベーション と 職 務 パ フォーマ ン ス と の 関 連 性 に つ い て 検 討 し た。 Barrick et al.(2003)のワークモチベーション媒介 モデルでは,達成志向Mが中核的変数として位置づ けられ,特定の職務特性の要請が高まることで,関 連するワークモチベーションが高まり,結果として 職務パフォーマンスに結実することを示している。 本研究においても,ワークモチベーション尺度の妥 当性に関する証左を蓄積するために,このモデルに 基づいて検討した。具体的には, 3 つの職務特性の 程度に基づいて群分けし,そして各群で,達成志向 Mを説明変数とし,競争志向M,協力志向M,そし て学習志向Mを媒介変数,職務パフォーマンス(課 題,文脈的,プロアクティブ)を基準変数とする媒 介分析を行った。その結果がTable 5である。 同僚との競争では,その特性が要請されているか 否かに関わらず,達成志向Mから課題パフォーマン スへの直接効果は認められたものの,競争志向Mを 介した間接効果は認められなかった(仮説 7 を不支 持)。 次に,相互依存性の職務特性では,達成志向Mか 3) 群分けの方法として,“ 1 ヶ月前と全く変わらない”⑴および“ 1 ヶ月前とあまり変わらない”⑵を「変 化無」群,そして“ 1 ヶ月前と少し変わった”⑶“ 1 ヶ月前とある程度変わった”⑷“ 1 ヶ月前と大きく 変わった”⑸と「変化有」群と設定した。 Table 4. 職務特性の変化ごとに見たワークモチベーション尺度の再検査信頼性 同僚との競争 相互依存性 学習の必要性 変化無 (N=214) 変化有 (N=32) 変化無 (N=202) 変化有 (N=44) 変化無 (N=199) 変化有 (N=47) ワークモチベーション 達成志向 .57** .56** .58** .52** .58** .42** n.s. n.s. n.s. 競争志向 .66** .39* .66** .63** .68** .43** 1.97* n.s. 2.23* 協力志向 .70** .32† .68** .61** .71** .34* 2.71** n.s. 3.15** 学習志向 .67** .10 .66** .41** .68** .17 3.61** 2.10* 3.92** 注1) 表中の上段の数値は群ごとの再検査信頼性係数(相関係数:r)。また下段の統計量は相関係数の差を検定したz 値を示す。 注2)**p <.01, * p <.05, †p <.10

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ら文脈的パフォーマンスへの直接効果が認められ た。次いで,媒介変数に協力志向Mを投入すると, 達成志向Mから文脈的パフォーマンスへの効果は, 相互依存性低群および高群いずれも有意に減少し間 接効果が認められた(仮説 8 をおおむね支持)。 最後に,学習の必要性の職務特性では,達成志向 Mからプロアクティブパフォーマンスへの直接効果 を示していた。しかし,学習志向Mを媒介変数とし て設定すると,学習の必要性高群のみにおいて有意 な間接効果が認められた(仮説 9 を支持)。 総 合 考 察 本研究では,昨今の標準的なワークモチベーショ ンの定義に則したBarrick et al.(2002)の尺度を参 考に,方向性と持続性,そして強度の 3 次元が適切 に内包され,そして比較的安定した価値観や姿勢な どの特性ではなく,課題の変化に応じて変動する状 態を捉えたワークモチベーション尺度を作成するこ とが目的であった。 1 .幅広い職種を対象とした多側面ワークモチベー ション尺度の因子構造 研究 1 の因子分析の結果,達成志向M,競争志向 M,協力志向M,そして学習志向Mの側面に関する 4 因 子 構 造 が 抽 出 さ れ た。 こ れ は,Barrick et al.(2002)の知見を追認するものである。 また,この因子構造は,研究 2 において看護師や システムエンジニアなど特定の職種でも確認され た。特に,確認的因子分析の結果では, 1 因子構造 よりも 4 因子構造のモデルでより適合度が高いこと が示されたことから,ワークモチベーションが4側 面で構成されている事実を頑健に示すものである。 さらに,この結果は,幅広い職種や業種に適用する ための重要な第一歩となる証左を示すものであり, これを足掛かりに他の特定の職種においても検討を 重ねていく必要があるだろう。 次に,ワークモチベーション尺度の妥当性を検討 するために,関連尺度との関係性について検討した 結果おおむね予測通りの変数との相関関係を示して いた。しかし同時に,本来予測していない変数との 関係性も見受けられた。ワークモチベーションの 4 つの側面は因子分析では独立した因子として抽出さ れていたものの,因子間の相関も中程度の関連性が 認められているために,こうした結果が得られたと 考えられる。したがって,ワークモチベーション尺 度の各因子の妥当性については今後も検討を重ねる 必要があるだろう。 2 .ワークモチベーション尺度の再検査信頼性 次に,研究 3 では再検査信頼性について検討した。 これについて,本研究では基本的にワークモチベー ション尺度 4 側面の再検査信頼性は総じて高いもの の,取り組む課題が変化した場合にはワークモチ Table 5. 多側面ワークモチベーションに関わる媒介分析 同僚との競争 相互依存性 学習の必要性 低群 (N=169) 高群 (N=77) 低群 (N=157) 高群 (N=89) 低群 (N=162) 高群 (N=84) 直接効果 直接効果 直接効果 媒介変数なし 媒介変数なし 媒介変数なし  達成M→課題P .56** .51** 達成M→文脈P .50** .50**  達成M→プロアクP .58** .55** 媒介変数あり 媒介変数あり 媒介変数あり  達成M→競争M .57** .53** 達成M→協力M .65** .57** 達成M→学習M .60** .67**  競争M→課題P .09 .18 協力M→文脈P .34** .41** 学習M→プロアクP .08 .41**  達成M→課題P .50** .41** 達成M→文脈P .28** .27* 達成M→プロアクP .54** .27* 間接効果 間接効果 間接効果 .05 .10 .22** .23** .05 .28** 注1)間接効果の有意性検定はSobel検定による。 注2)**p <.01, * p <.05

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ベーションは変動すると予想した。 分析の結果は,予測を支持し, 1 ヶ月間の期間を あけて縦断的に測定したところ,ワークモチベー ション 4 側面の全ての再検査信頼性は十分な値を示 していた。 さらに,職務特性の変化の有無ごとに,ワークモ チベーション尺度 4 側面の全ての再検査信頼性を検 討したところ,達成志向Mを除いた 3 側面(競争, 協力,学習)は概ね職務特性の変化がなければ高い 再検査信頼性を維持し, 1 ヶ月間の期間を空けても 高い関連性を示していた。それに対し,職務特性が 変化した場合には, 2 つの測定時におけるワークモ チベーションの相関係数(再検査信頼性係数)は相 対的に低下し,ワークモチベーションは変動してい ることを示していた。この結果は,ワークモチベー ションが課題の変化に応じて変動しやすい状態変数 であることを裏付ける証左であることを示唆してい る。なお,ワークモチベーションを複数の時期に測 定するだけでなく,職務特性の変化に連動してその 変化を捉えた研究は国内外において皆無に近いこと を考えると,この知見はワークモチベーション研究 の理論的発展に寄与するものと思われる。 ワークモチベーションの中でも,達成志向Mのみ 職務特性の変化に影響を受けず,高い安定性を示し ていた。これは,達成志向Mは,職務特性の内容や その変化のいかんに関わらず,職務の成果を挙げ, また職務を全うすることが組織において職務に取り 組む上で必要不可欠なワークモチベーションである からであると考えられる。なお,先述のBarrick et al.(2003)のモデルでは,達成志向Mが中核的変数 として位置づけられ,職務特性の要請が高まること で,競争志向Mや協力志向Mが喚起されることを想 定していた。これは競争志向Mや協力志向Mは職務 特性の要請によって影響を受けるのに対し,達成志 向Mは職務特性いかんに影響を受けないことを意味 し て お り, こ こ で も 本 研 究 の 結 果 はBarrick et al.(2003)のモデルを実証的に裏付けていると解釈 することもできる。 また,協力志向Mについては,職務特性のうち相 互依存性の変化の有無によって明確な違いは見られ なかった。このことは, 1 ヶ月間の期間で同僚との 協力が求められるようになったとしても,それに 伴って協力志向Mが直ちに喚起されるわけではない ことを示唆している。その原因として,競争志向M や学習志向Mは個人内で変わりうるモチベーション であるのに対し,協力志向Mはその対象である職場 の同僚にも依存するものである。したがって,いざ 相互依存性が高まったとしても,急に同僚に対して 協力を申し出ることへのためらいなどが生じて,協 力志向Mが十分に高まるまでには時間と同僚の職務 の遂行状況などが関与してくるのかもしれない。 3 .ワークモチベーションと職務パフォーマンスと の関連性 最後に,ワークモチベーションと職務パフォーマ ンスとの関連性について検討した。本研究では,ワー ク モ チ ベーション の 妥 当 性 を 検 討 す る た め に, Barrick et al.(2003)のモデルに依拠し, 3 つの職 務特性の要請の高さごとに,達成志向Mから競争, 協力,学習志向Mを介して,そして職務パフォーマ ンスに影響する媒介分析を行った。 分析の結果は,同僚との競争に関わる職務特性の 下での間接効果のみ有意な結果は得られなかったも のの,相互依存性と学習の必要性に関する職務特性 の下では統計的に有意な間接効果が認められた。こ の結果は,従来,ワークモチベーションは,一般的 に想定された達成志向Mの側面だけでなく,職務特 性に応じて,関連するワークモチベーションが喚起 され,それが職務パフォーマンスに結実することを 示唆するものである。換言すると,職務パフォーマ ンスを予測する際,従来のワークモチベーション研 究では暗黙に達成志向Mだけを想定していた。しか し,職務特性に応じた関連する側面のワークモチ ベーションを取り上げることで,職務パフォーマン スをより予測できる可能性を示唆しているものと思 われる。 なお,同僚との競争に関わる職務特性の下で,達 成志向Mから課題パフォーマンスへの直接効果は認 められたものの,競争志向Mを介した間接効果は認 められなかった。この結果は,営業職を対象とした Barrick et al.(2002)の知見とは異なる結果である。 このことが生じた原因として,職務パフォーマンス の指標が想定される。Barrick et al.(2002)では, 職務パフォーマンスを上司が 8 つのパフォーマンス 領域(仕事の質,正確さ,顧客満足度など)につい て 1 (はるかに期待を下回っている)から 7 (かな り期待を上回っている)の 7 段階で評定した測度に よって測定している。それに対し,本研究では課題 パフォーマンスとして,“与えられた仕事は,的確

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かつ締め切り通りに確実に取り組むことができてい る。”など,与えられた仕事をどれだけ的確に行え たかについて 3 項目で測定している。すなわち, Barrick et al.(2002)は,標準的な職務や期待をど れだけ上回っていたかを扱っていたのに対し,本研 究では標準的な職務や期待にどの程度到達していた かを指標としており,優れた職務を行っていたとし ても評定上それを反映することができなかった。し たがって,今後,職務遂行の卓越さ(仕事の質や正 確性など)を評定できる指標を下に,この仮説につ いて再度検討する必要があるだろう。 最後に,本研究では,共通方法バイアス(Podsakoff, MacKenzie, Lee, & Podsakoff, 2003)を回避するた めに,ワークモチベーションは第1回目の調査で測 定したデータを,そして職務パフォーマンスは第 2 回目のそれを用いて分析している。しかし,いずれ も同じ回答者から得られたデータに基づいて分析し ているため,少なからずバイアスが生じている可能 性は否めない。今後は,ワークモチベーションと職 務パフォーマンスとの関連性を厳密に明らかにして いくためにも,例えば上司による職務パフォーマン スの評価や客観的指標(業績など)を測定してとの 検討していく必要があるだろう。 4 .本研究の理論的かつ実践的意義 こうして本研究ではワークモチベーションの尺度 を作成したが,これを用いることで学術的にも実践 的にも大きく貢献できると思われる。 まずは,ワークモチベーションを適切に測定する ことで,これがどのようなプロセスで客観的な業績 (売上げや目標達成度)に結実するのかを明らかに することができる。さらに,個人レベルのワークモ チベーションからチームレベルのそれへの概念的拡 張も検討可能になるだろう。 また,これまで産業・組織心理学や組織行動論で は,人事評価制度やリーダーシップなど多くの研究 の従属変数として組織成員のワークモチベーション との関連性の解明が期待されていた。しかし,これ を測定するための適切な尺度が存在しなかったため 十分な検討には至らなかった。本研究の尺度を用い ることによって,ワークモチベーションを規定する と想定される主要な変数との関連性が明らかになる だろう。このように,ワークモチベーション研究の みならず,関連する研究領域の進展にも大きく貢献 できると思われる。 また,実践的にも,様々な年代を対象にワークモ チベーションを測定することで,その結果を基にマ ネジメントの判断材料としても大いに活用すること が可能になる。例えば,若手,中堅,そしてシニア 社員のワークモチベーションを測定し,比較するこ とで各年代特有の傾向を明らかにすることことがで きる。それによって,各年代がよりいきいきと働い てもらうための施策を検討することなどが可能にな ると考えられる。 引 用 文 献

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