35.人
乳 の トラ ン ス 型 不 飽 和 脂 肪 酸 に
影 響 を及 ぼ す 食 品
-病 院 給 食 と市 販 マ ー ガ リン に つ い
て-大阪府立看護大学医療技術短期大学部
炭 原
加 代
I.緒
言
母 乳 栄養 の 利点 にっ い て栄 養 学 的 ・免疫 学 的 ・
母子 相 互作 用 の面 か ら必 要性 が述 べ られ,母 乳 哺
育 の 重 要性 が 再認 識 され て き た。 また,未 熟 児 ・
成熟 児 と も生 ん だ母 親 か らの母 乳哺 育 の重 要 性 が
再認 識 され てい る現 在,人 乳 成 分 を よ り明確 に し
て い くこ とが大切 で あ る。
人乳 の脂 質 及 び脂 肪 酸 組成 につ い ては 多数 の報
告 が あ り,日 本 人 の人 乳 の 脂肪 酸組 成 につ いて も
詳 細 な報 告 が見 られ る1)。 人乳 の 脂肪 酸組 成 は,
母 親 が摂 取 す る食事 内容 に大 き く影響 す る2)と 言
わ れ て い るが,近 年,日 本 人 の食 生活 はフ ァー ス
トフー ドや加 工 食品 の摂 取 が 多 くな って い る 。 こ
れ らの食 品 は低 原価 の マー ガ リンや シ ョー トニ ン
グお よ び食 用精 製 加工 油 脂 の 多量 の供 給 か ら成 り
立 って い る。使 用 さ れ て い る食 用加工 油 脂 の 多 く
は水 素添 加 加工 し た もの で あ り,こ の よ うな食 品
に は トラ ンス 型不 飽 和脂 肪酸(以 下 トラ ンス 酸 と
い う)が 含 まれ て い る。 そ して,人 乳 に も本 来天
然 の脂 質 に存 在 しな い トラ ンス酸 が,常 に少 量検
出 され て い る3)。
トラ ンス酸 が 大 人 に与 え る悪影響 と して,血 清
コ レステ ロー ル 濃度 や リポ タ ンバ ク質 に つ いて 比
較 的 よ く検 討 され て き たが,胎 児 や新 生 児 に与 え
る影 響 と しての 報告 は少 な い。 トラ ンス酸 に は,
リノ ー ル酸,α-リ
ノ レ ン酸 の不 飽和 化,ひ い て
はエ イ コサ ノ イ ド産 生 へ の干 渉作 用 が あ る。 こ の
作 用 は 多価不 飽 和 脂 肪 酸 の必 要 量が 多 くな る。 そ
の ため,不 飽和 活 性 化 が 低 い新 生児 で は,成 長 を
妨 げ る可 能 性 が指 摘 され て い る4)。
これ らの こ とか ら,看 護 に携 わ る看護 者 は,人
乳 の トラ ンス酸 に影 響 を与 える食事 内 容 や,そ の
トラ ンス酸 の給 源 とな って い る食品 につ い て,調
べ る必 要 が あ る。
そ こで,今 回,褥 婦が 入 院中 に摂取 す る病 院給
食 の トラ ンス酸 と,そ の 主 な給源 で あ るマ ー ガ リ
ンにつ い て実 験 か ら検 討 した。
II.研 究方 法
1.試
料
1)病
院給 食
某 公 立病 院の 給 食 は15日 間の周 期 で 献 立 が変 化
して い る。 そ こで15日 間 の病 院給 食 を用 いた 。献
立 に示 され た食 品 は すべ て 大阪府 内で 購 入 し,献
立 の100分 の1の 縮 分量 を使用 した。
2)供
試 マ ー ガ リン
市販 され て い る家 庭 用マ ー ガ リン ソフ ト型14品
種,ハ ー ド型1品 種 をスー パー マ ー ケ ッ トで 購入
した 。
2.脂
肪酸 メチ ル の調 製 と トラ ンス酸 の 定量
各 試 料 の脂 質 をForch5)ら の方 法 で 抽 出 した。
脂質 の 一定 量(50-100mg)に 内部標 準 物 質 と して一
定量(小5mg)の
ヘ プ タデ カン酸 を加 え,水 酸 化 カ
リウムー メ タ ノー ル 溶液 を加 えて加 熱 還 流 し た。
そ の後,三
フ ッ化 ホ ウ素 一 メ タ ノー ル溶 液 を添加
して脂 肪 酸 メ チ ルエ ステ ルを調 製 した 。 調製 した
脂 肪 酸 は薄 層 クロ マ トグ ラ フ ィー で 精 製 した後,
キ ャ ビラ リー ガ ス ク ロマ トグ ラフ ィー(GC)に か け
て トラ ンス酸 を求 め た。 装置 は島津 コ ンピ ュー タ
ガ ス ク ロマ トグ ラ フGC-9A型 で,検 出器 は水 素 炎
イオ ン化 検 出 器,カ ラム はHR-ss-10を 使 用 した。
デ ー タ処 理装 置 は,島 津 ク ロマ トパ ックC-R2AXを
用い た 。脂 肪 酸 メ チ ルエ ス テルの 同定 は,標 準 物
質 の 保持 時 間 との比 較 によ っ た。
III.研 究 結 果 1.病 院 給 食 の ト ラ ン ス 酸 連 続15日 間 の 病 院 給 食 に 含 ま れ る 総 脂 肪 酸 組 成 を 示 し た(表1)。 トラ ン ス 酸 は,ト ラ ン ス ー ヘ キ サ デ セ ン 酸(t-16:1),ト ラ ン ス ー オ ク タ デ セ ン 酸 (t-18:1),ト ラ ン ス ー オ ク タ デ カ ジ エ ン 酸(t,t-18: 1)の3種 類 が 検 出 さ れ た 。 主 体 はt-18:1で,総 脂 肪 酸 の3.4%∼6.2%の 範 囲 で あ っ た(表1)。 次 に1日 の 脂 質 と トラ ン ス 酸 の 関 係 に つ い て 調 べ た(表2)。 実 測 値 の 脂 質 含 量 は57∼86gで あ り 平 均73gで あ っ た 。 病 院 給 食 に 含 ま れ る ト ラ ン ス 酸 は 脂 質 の 量 に か か わ ら ず2∼3gで あ り,献 立 に よ り異 な っ た 。 2.加 工 食 品 の ト ラ ン ス 酸 病 院 給 食 で,ト ラ ン ス 酸 を 含 ん で い る と考 え ら れ る 加 工 食 品 や 反 芻 動 物 に 由 来 す る 食 品 を 選 び, 総 脂 肪 酸 組 成 を 調 べ て トラ ン ス 酸 を 測 定 し た 。 ト ラ ンス 酸 の 主 体 はt-18:1で あ り,総 トラ ン ス 酸 は マ ー ガ リ ン で11.2%,食 パ ン は15.5%,牛 肉 は3.6%, 牛 乳 は3.1%で あ っ た 。 食 パ ン は 材 料 と し て,シ ョ ー トニ ン ク を 使 用 し て い る の で,シ ョー トニ ン グ の トラ ン ス 酸 を 測 定 す る と,12%で あ っ た(表3)。 トラ ン ス 酸 の 給 源 と な っ て い る 主 な 食 品 は,マ ー ガ リ ン ,シ ョー トニ ン グ,乳 製 品 な ど で あ っ た 。 3.市 販 マ ー ガ リ ン の トラ ン ス 酸 家 庭 用 マ ー ガ リ ン,ソ フ ト型14品 種,ハ-ド 型 1品 種 の 脂 肪 酸 組 成 を 示 し た(表4)。 トラ ン ス 酸 は 総 脂 肪 酸 の0∼19.5%で 平 均9.8%で あ っ た 。 ト ラ ン ス 酸 は,t-1811,t,t-18:2の2種 類 検 出 さ れ た 。 主 体 はt-18:1で,19.5%が 最 高 で 平 均 値 は9.1% で あ っ た 。t,t-18:2は1.5%が 最 高 で 平 均 値 は0.7% で あ っ た 。 次 に 内 部 標 準 法 で のGC分 析 値 か ら,マ ー ガ リ ンの 脂 質1009に 含 まれ る トラ ン ス 酸 の 量 を 求 め た (表5)。t-18:1の 平 均 値 は11.5g,最 高 の も の は, 24.1g/100gで あ っ た 。 こ れ らの マ ー ガ リ ン の 中 に は,ト ラ ン ス 酸 を 含 ん で い な い 商 品 が1個 あ っ た 。 IV.考 察 北 欧 諸 国 や 米 国 で は,人 が 摂 取 す る トラ ン ス 酸 に つ い て の 報 告 が 多 い が,日 本 人 が 摂 取 す る トラ ン ス 酸 に つ い て の 報 告 は 少 な い 。 日 本 人 に お い て は,1984年 に 趙 ら6)が 大 学 定 食 の ト ラ ンス 酸 を 測 定 し た結 果,1人1日0.8gで あ っ た 。 又,農 水 省 食 用 油 脂 課 資 料 「我 が 国 の 油 脂 事 情(1982)」 を 基 に トラ ン ス 酸 の 摂 取 量 を 見 積 も る と,2g/日 程 度 に な る と報 告 し て い る 。 最 近(1996年1月)古 賀 ら7)は,寮 食 お よ び 大 学 定 食(昼)7日 分21食 の トラ ン ス 酸 の 摂 取 量 を 推 定 し,1人1日 の 食 事 の ト ラ ンス 酸 は,0∼1.29gで 平 均0.63gで あ っ た と報 告 して い る 。 人 乳 に は 常 に 少 量 の ト ラ ン ス酸 が 含 ま れ.こ の トラ ン ス 酸 は 褥 婦 が 摂 取 す る 食 物 に影 響 す る2)と 言 わ れ て い る 。 こ の こ とか ら,褥 婦 が 入 院 中 に 摂 取 す る病 院 給 食 の トラ ン ス 酸 を測 定 し た 。 連 続15 日 間 の 病 院 給 食 の トラ ン ス 酸 は,2∼3g/日 で 平 均 2.6g/日 で,趙 ら6)や 古 賀 ら7)の 報 告 よ り少 し高 か っ た 。 Enig8)ら に よ る と,米 国 人 の トラ ン ス酸 の 摂 取 量 は,1人1日 当 た り12.5∼15.2gで 平 均13.3gと 言 わ れ て い る 。 こ れ ら の 成 績 と比 較 す る と,日 本 人 の ト ラ ン ス 酸 摂 取 量 は,米 国 人 の1/5以 下 で あ り少 量 で あ る こ と が わ か る 。 岡 本 ら9)は,日 本 の 油 脂 調 理 食 品 に 含 ま れ る ト ラ ン ス 酸 に つ い て 調 べ,マ ー ガ リン,シ ョー トニ ン グ,ド ー ナ ツ,フ レ ンチ フ ラ イ な ど は ト ラ ンス 酸 を 多 く含 ん で い る と報 告 して い る 。 上 記 の 報 告 や,病 院 給 食 の トラ ン ス 酸 は 脂 質 の 量 に 比 例(表2)し な か っ た こ と か ら,ト ラ ン ス 酸 を 含 ん で い る と 考 え られ る加 工 食 品 や,反 芻 動 物 の 食 品 を 選 び ト ラ ン ス 酸 を 測 定 し た 。 トラ ン ス 酸 の 主 体 はt-18:1で あ り,マ ー ガ リ ン や シ ョー トニ ン グ に 多 く含 ま れ て い た 。 ま た,反 芻 動 物 の 牛 肉 は3.6%,牛 乳 は3.1%検 出 さ れ た 。 これ ら の こ と か ら,病 院 給 食 の トラ ンス 酸 の 給 源 と な っ て い る 主 な 食 品 は,マ ー ガ リ ン,シ ョー トニ ン グ,乳 製 品 な ど で あ る こ とが わ か っ た 。 現 代 の 食 生 活 で は,パ ン に マ ー ガ リ ン を つ け て
食 べ る機 会 が 多 い こ と か ら,市 販 さ れ て い る マ ー ガ リ ン の トラ ン ス 酸 を 測 定 した 。 ト ラ ン ス 酸 は 平 均 して 総 脂 肪 酸 の9.8%で あ っ た 。 ま た,ト ラ ン ス 酸 の 主 体 はt-18:1で,平 均 値 は9.1%,脂 質100g中 .には11.5g含 ん で い た 。 しか し,ト ラ ン ス 酸 を 含 ん で い な い 商 品 も あ る こ と が わ か っ た 。 小 日 山 ら10)の 報 告 で は,ソ フ ト型 は0.4%∼18% で 平 均 値 は11%,ハ ー ド型 は5∼24%で 平 均 値 は, 15%に な っ て い る 。 一 方Sommerferd11)は ,マ ー ガ リ ン 中 の トラ ン ス 酸 に つ い て,ガ ス ク ロ マ トグ ラ フ法 に よ る 測 定 値 と し て ま と め 報 告 し て い る 。 そ れ に よ る と,米 国 で は13.8%∼22.1%,カ ナ ダ で は25∼40%,西 ドイ ツ で は0.1%∼53.2%で あ る 。 著 者 らの 実 験 結 果 は 平 均 値9.8%で,こ れ ら と も 考 え あ わ せ 諸 外 国 と比 較 す る と,日 本 の 製 品 は,ト ラ ン ス 酸 が 少 な い こ と が わ か る 。 この よ う に,日 本 の マ ー ガ リ ンは ト ラ ン ス 酸 が 少 な く,日 本 人 の トラ ンス 酸 摂 取 量 も 米 国 人 に 比 べ て1/5以 下 で あ る これ ら の こ と か ら,現 代 の 日本 人 の 摂 取 量 で は 問 題 な い12)と の 報 告 も あ る が,褥 婦 や 新 生 児 に つ い て の 研 究 は あ ま り さ れ て い な い 。 新 生 児 は 特
に 大 人以 上 に 影響 を受 け や す いの で,人 乳 を与 え
る褥婦 は,ト ラ ンス酸 を含 ん だ マー ガ リンな どの
摂 取 を控 え るよ うに心 掛 け るべ きで あ る 。
その ため に は,看 護者 は褥 婦 に,人 乳 を与 えて
い る間 トラ ンス酸 を多 く含 む マー ガ リン等 を,摂
取 しな い よ うに指導 して い くこ とが大 切 で あ る。
V.結
論
人乳 に含 まれ る トラ ンス酸 は母 親 が摂 取 す る 食
物 に影 響 す る2)と の こ とか ら,15日 間 の病 院給 食
に含 まれ る トラ ンス酸 を測定 した 。 トラ ンス酸 は
総 脂 肪 酸 の3.4%∼6.2%で あ り,1人1日
当 た りの
.トラ ンス酸 は2∼3gで あ っ た。 トラ ンス酸 の 給 源
とな って い る主 な もの は,マ ーガ リン,シ ョー ト
ニ ング,乳 製 品 な どで あ る こ とが わ か っ た。 そ れ
で,次 に,市 販 され て い る家 庭 用 マ ー ガ リン,ソ
フ ト型14品 種,ハ ー ド型1品 種 の トラ ンス 酸 を測
定 した。 トラ ンス 酸 は平 均 して9.8%で あ り,ト ラ
ンス酸 を含 ん で い な い商 品 も あっ た。
看 護者 は,母 乳 を与 え る褥 婦 に,授 乳期 間 中 は
出 来 るだ け トラ ンス酸 を含 まな いマ ー ガ リン を摂
取 す る よ うに,指 導 して い く ことが 大切 であ る。
Table 1 Composition of fatty acid in nursing mothers diets
Values arc expresed as percentage of total fatty acids. tr : trace. t : trans
Table 3 Trans fatty acid content or main foods in nursing mothers diet
Table 2
Contents of lipid and trans fatty acid in nursing mothers diets
Average 73.12.7
Table 5
Trans unsaturated fatty acid content of margarines for home use (g/100g lipid)
No.1-14 : soft-type margarines, No. 15 : hard -type margarines. tr : trace
Table 4 Composition of fatty acid In margarines for homc use
Values are expresed as percentage of total fatty acids. tr : trace . c : cis. t : trans 引 用 文 献
1)井 戸 田正 他:最 近 の 日本 人 人 乳 組 成 に関 す る 全 国 調 査(第 二 報)-脂 肪 酸 組成 お よ び コ レ ス テ ロ ー ル,リ ン 脂 質 含 量 に つ い て-,日 本 小 児 栄 養 消 化 器 病 学 会 雑 誌,5.159-173,1991.
2) Potter, J.M., et al. : The effects of dietary fatty acids and cholesterol on
the milk lipids of lactating women and the plasma cholesterol of brest-fed
infants,Am.J.Clin.Nutr.,29,54-60,1976. 3)炭 原 加 代 他:人 乳 の 初 乳,移 行 乳,成 塾 乳 の 脂 肪 酸 組 成 と トラ ン ス脂 肪 酸 に つ い て,大 阪 府 立 看 護 短 大 紀 要,7,65-70,1985. 4)菅 野 道 廣:ト ラ ンス 酸 摂 取 上 の 問 題 点,脂 質 栄 養 学,16,196.1997.
5) Forch,J.et al.: A simple method for the isolation and purification of total lipids from animal tissues,J.Biol.Chem., 226,498-509,1957. 6)趙 英 子 他:ヒ ト血 清 お よび 脂 肪 組 織 な らび に 大 学 食 堂 の 定 食 中 の トラ ン ス脂 肪 酸 含 量,日 本 栄 養 ・食 糧 学 会 誌,37,31-35,1984. 7)古 賀民 穂 他:大 学 食 堂 の 定 食お よ び 寮 食 中 の トラ ンス脂 肪 酸 含 量,日 本 栄 養 ・食 糧 学 会 誌, 50。180-183.1997.
8) Enig,M.G.et al : Isometic trans fatty acids in the us diet, J. Am. Co11.Nutr., 9,471-486,1990. 9)岡 本 隆 久 他:日 本 の 油 脂 調 理 食 品 に 含 ま れ る トラ ン ス脂 肪 酸 量 に つ い て,油 化 学,42,996 -1002,1993。 10)小 日 山 正剛 他:最 近 の 国 産 家 庭 用 マ ー ガ リ ン 類 の品 質 特 性,油 化 学,43,162-174.1994.
11) Sommerferd, M. : Trans unsatureted fatty acids in natural products and proceed foods, Prog. Lipids Res.,22,221-233,1983.
12)菅 野 道 廣:油 脂 の 栄 養 と疾病,163-166,幸 書 房,東 京,1990.
36.サ
ー モ グ ラ フ ィ に よ る皮 膚 温 と
冷 え症 状 との 関 連 性
-そ の2冷
え症 状 と半 身 浴 等 の 効
果-徳島県立看護専門学校
○ 岡 島真 理子
妹 尾
栄
I.緒 言 前 回,我 々 は7月 と2月 の 全 身 の サ ー モ グ ラ フ ィ測 定 結 果 か ら,腰 部 の 冷 え の 訴 え と 皮 膚 温 に 関 連 性 が あ る こ と,全 身 の 最 高 温 度 と最 低 温 度 の 温 度 格 差 が 大 き い ほ ど 冷 え を訴 え る 割 合 が 高 い こ と を 明 らか に した い 。 今 回 は 前 回 の デ ー タ を も と に 冷 え を 訴 え る部 位 と皮 膚 温,冷 え を訴 え る 部 位 と 冷 え 症 状 の 関 連 に つ い て 分 析 を行 っ た 。 さ ら に 学 生 が 日頃 訴 え る 生 理 痛,下 痢 や 腹 痛 な ど の 冷 え症 状 を 軽 減 す る た め に,日 常 手 軽 に で き る 半 身 浴 ・ 中 指 そ ら し ・足 操 術 を 実 施 した効 果 を 皮 膚 温 と冷 え症 状 の 変 化 か ら 分 析 した 。 II.方 法 1.無 作 為 臨 床 試 験 2.対 象:前 回 と 同 様 で あ る 。 な お,7月 の サ ー モ グ ラ フ ィ 測 定 者117名 の う ち59名 を無 作 為 抽 出 し,半 身 浴 と 中 指 そ ら し と足 操 術 を9月 か ら 1月 ま で の5か 月 間 行 っ た群 を実 験 群,実 施 しな か っ た58名 を 対 照 群 と した 。 3.半 身 浴 ・ 中 指 そ ら し ・足 操 術 の 方 法: 半 身 浴2)は 入 浴 時 、 ぬ る め の 湯 に 胸 ま で20分 間 ゆ っ た り とつ か る 方 法 で あ る 。 中 指 そ ら し3)は 手 の 中 指 を そ ら しヅ ボ 刺 激 を す る 方 法 で あ る 。 足 操 術4)は 足 の ツ ボ 刺 激 方 法 で あ る 。 この3つ の 方 法 を1日1回 以 上,5か 月 間,任 意 の 時 間 に行 って も ら っ た 。 4.ア ン ケ ー ト調 査:ア ン ケ ー ト調 査 は 冷 え を 訴 え る 部 位11カ 所 と 冷 え の 症 状17項 目 の 質 問 紙 を用 い て 自 記 式 で,7月 と2月 の サ ー モ グ ラ フ ィ 測 定 時 に 行 っ た 。 ア ン ケ ー ト回 収 率 は7月 は10 0%,2月 は 実 験 群67.2%,対 照 群98.3 %で あ っ た 。 分 析 は 多 重 ル デ ィ ス テ ィ ッ ク ・モ デ ル,studentst-test,x2検 定 を 用 い た 。 III.結 果 1.冷 え を 訴 え る 部 位 と 皮 膚 温 冷 え を 訴 え る 部 位 と皮 膚 温 と の 関 連 性 を み る と 有 意 の 関 連 が み られ た も の は 表1の と お りで あ っ た 。7月 で は 足 底,足 背,手 掌,手 背 の 部 位 の 冷 え の 訴 え と腰 部 の 皮 膚 温 と 関 連 が あ っ た 。2月 で は 手 掌,体 全 体 の 冷 え の 訴 え と腹 部 に 関 連 が あ っ た 。 な お,7月 と2月 の 冷 え を 訴 え る 部 位 の 有 無 の 一 致 の 程 度 は,Kappaに て 体 全 体 は0.66 (実 質 的 な 一 致),下 腿 は0.46(中 程 度 の 一 致)で あ っ た 。 表1.冷 え を 訴 え る部 位 と 皮 膚 温2.冷
えを訴 え る部位 と冷 え症 状 の関 連 性
結縁5)の 報 告 を も とに冷 えの症 状17項
目につ
いて 調査 した結 果,7月,2月
ともに疲 労,生 理
表2.冷
え症状 の 割合
表3.冷 え を訴 え る 部 位 と 冷 え 症 状(n=58) **P<0 .01,*p<0.05 痛,肩 こ り の 症 状 を 訴 え る 割 合 が 高 か っ た (表2)。冷 え を 訴 え る 部 位 と冷 え 症 状 と の 関 連 性 に つ い て,有 意 の 関 連 が み られ た も の は 表3の と お りで あ っ た 。 この 結 果 か ら7月,2月 と も に 四 肢 末 端 の 冷 え の 訴 え が7月 は 嘔 気,気 力 不 足, 起 床 困 難,2月 は7月 の 症 状 に 加 え て 入 眠 困 難, 頭 痛,肩 こ り,下 痢 等 の 冷 え症 状 と関 連 して い た 。 3.半 身 浴 ・中 指 そ ら し ・足 操 術 の 効 果 1)全 身 各 部 位 の 温 度 2月 の 実 験 群 と 対 照 群 の 全 身 各 部 位 の 平 均 温 度 に 差 は な か っ た 。 しか し,唯 一,手 掌 に お い て 有 意 差(P<0.05)が 認 め られ,対 照 群 の 手 掌 が 実 験 群 よ り,0.5℃ 高 か っ た 。 2)冷 え 症 状 冷 え 症 状 の 有 無 にっ い て 実 施 群 と対 照 群 を 比 較 す る と,実 施 群 の 入 眠 困 難 ・生 理 痛 が 有 意 に 少 な か っ た(P<0.05)。 な お,実 施 前 の7月 の 入 眠 困 難 ・生 理 痛 に つ い て 両 群 に 差 は な か っ た 。IV.考 察
冷 え を訴 える部位 と皮膚 温,冷 え を討 え る部 位
と冷 え症状 の 結果 か ら,足 底,足 背,手 掌,手 背
な と四肢 末端 に冷 え を訴 えて い る人は7月 は腰 部,
2月 は腹 部の 皮膚 温が低 い こ とが わか った 。 この
こ とか ら,7月
は腰 部 の皮 膚 温、2月 は腹 部の 皮
膚温 を上げ るこ とに よ って,訴 える冷 え症状 を改
善で きるので は ないか と考 え る。 また,7月
と2
月 の冷 え を訴 え る部位 と冷 え症 状 の有 無の 一致 度
か ら,体 全体 は実 質的 な 一致,下 腿は 中程 度 の一
致 であ っ た。 このこ とか ら,7月
に体 全体 の 冷え
や 下腿 の冷 え を訴 え る人 は2月 に も訴 え る こ とが
わ か り,夏 期 ・冬期 を通 して同 部位 に冷 え を訴 え
てい る ことがわ か った。
谷 津 は 中指 そ ら しの効 果 につ いて,施 行 後1時
間 まで の サーモ グ ラフ ィで皮 膚 温の 変化 を と らえ
てい るが,長 期 間実施 した後 の サー モ グラ フ ィの
温度 変化 につい ての 報告 は ない ため,今 回 この研
究で5カ 月間の 実施 期 間 を設定 した。そ の結 果,
半身 浴,中 指 そ ら し,足 操 術の3つ の方 法は,5
カ 月間の実施 で 皮膚 温 を上 げ る効果 は なか った。
ただ,手 掌の皮 膚温 が 対照 群 にお いて高 くな る と
い う予想 外の結 果が で た。 この こ とにつ い ての理
由は現在 の とこ ろ不 明 で,今 後 検 討の 必要 があ る。
冷え症 状 の うち生理 痛,入 眠 困難に つい ては5
か 月間 の半 身浴 ・中指 そ ら し ・足操 術 を施 行 す る
によ って改善 され る こ とが分 か った。 半 身浴 につ
い て進藤2)は 副交 感神 経 の刺 激 に よ り,血 管 が拡
張 し,血 行 が よ くな り,冷 え症状 な どが改 善 で き
る と述 べて い る。 中指 そ ら しに ついて谷 津3)は 手
の ヅボを刺 激す る こ とに よ り,自 律神 経 を刺 激 し
た り,ホ ル モ ンの調整 に よ り冷 え症状 な どが 改善
で きる と述 べて い る。ま た,足 操術 につ い て寒河
江4)は,足 の ツボや 筋 肉の刺 激 をする こ とに よ り,
間脳 を通 して ホルモ ンの 分 泌 と自律神 経 の調 整 に
よ り内臓 や諸器 官は 正常 に機 能 す るこ と を述べ て
い る。半 身浴 ・中指 そ ら し ・足 操術 に よ り,自 律
神 経,特 に副 交感神 経 の刺 激 が入 眠困難 ・生理 痛
を緩 和 させた ので は ない か と考 え られ る。
今 回は 冷え症 状 の緩 和 と皮 膚 温 との 関連 性 にっ
い て 十 分 な 検 証 は で き な か っ た が,今 後 は 皮 膚 温 だ け で な く深 部 の 体 温 と の 関 連 性 も 検 討 す る必 要 性 が あ る 。 また,冷 え 症 状 の 中 に は 単 に 冷 え が 原 因 で 起 こ っ て い る も の は か りで は な い こ と も考 慮 す る 必 要 が あ る と考 え る 。 V.結 論 1.7月 で は 足 底,足 背,手 掌,手 背 の 冷 え を 訴 え る人 は 腰 部 の 皮 膚 温 が 低 か っ た 。2月 で は 手 掌, 体 全 体 の 冷 え を 訴 え る 人 は 腹 部 の 皮 膚 温 が 低 か っ た 。 2.7月 と2月 の 冷 え を 訴 え る部 位 の 有 無 の 一 致 度 は,体 全 体 は 実 質 的 な 一 致,下 腿 は 中 程 度 の 一 致 で あ っ た 。 3.冷 え 症 状 の 項 目 の 中 で,7月 ・2月 とも に 疲 労,生 理 痛,肩 こ りを 訴 え る 割 合 が 高 か っ た。 4.全 身 各 部 位 の 平 均 温 度 は 実 験 群 と対 照 群 に お い て 差 は な か っ た 。 しか し,唯 一,手 掌 に お い て 対 照 群 が 有 意 に高 か っ た 。 5.冷 え 症 状 の 有 無 に つ い て 実 験 群 と対 照 群 を 比 較 す る と,2月 の 入 眠 困 難 ・生 理 痛 を 訴 え る 人 は 実 験 群 が 有 意 に 少 な か っ た 。 こ の こ と よ り,半 身 浴 ・中 指 そ ら し ・足 操 術 は,入 眠 困 難 や 生 理 痛 を 緩 和 さ せ る の に 効 果 が あ っ た 。 引 用 ・参 考 文 献 1) 妹 尾 栄 他: サーモグ ラフィに よ る 皮 膚 温 と 冷 え 症 状 の 関 連 性 、 日 本 助 産 学 会 誌 、10:2, 117-180, 1997 2) 進 藤 義 晴: 万 病 に 効 く半 身 浴, 11-15, マキノ出 版, 1993 3) 谷 津 三 雄: 手 の 中 指 そ ら し, 安 心, 9 (7), 125-158, マキノ出 版, 1991 4) 寒 河 江 徹: 自分 で 行 う足 操 術17種, ら く ら く足 操 術, 168-176, マキノ出 版, 1993 5) 結 縁 繁 夫: 冷 え とふ る ち ― 現 代 医 学 の み お と した も の―, 189-190, 漢 方 研 究, 1991
37.母 乳 育児 支援 に向 け乳頭 形 態 変 化 の観 察
助産院ベビーヘルシー美蕾
○ 山 岡み の り
瀬 井
房 子
鎌 田
邦 子
駒 形
美 佳
Iは
じめ に
当 院で は積 極 的に 母乳 育児 をすす め 直 接 母 乳(
以 下直 母 とす る)を 推 進 して い る。 そ の た め母 児
同室 と し出生 直後 よ り自律授 乳 を行 な って い る。
しか し,扁 平 ・陥没 乳頭 とい った 形態 的 問題 か ら
スム ーズ に直 母 が行 な え ないケ ース が あ る。 一般
的 に このよ うなケ ース に対 し,児 が 吸 畷 で き る よ
うに な る まで搾 乳 し哺乳 瓶で 母乳 をの ませ る よ う
指 導 す る施 設 も少 な くな い。 しか し,い ざ直 母 に
移 行 した い と思 って も今度 は児 が 母親 の乳 頭 を嫌
が り直 接 吸 畷 して くれ な い と悩み,他 院 で 分娩 し
な が ら も 当院 に相 談 に くるケ ー ス に多 々 遭 遇す る
そ こで,児 が吸 畷 で きな いの は乳 頭 が 短 いか ら
で は な いか と考 え,妊 娠 中及 び分娩 後 にお ける 形
態 の補 正や 突 出ま た乳 頭 トラブル を少 な くす る援
助方 法 を検 討す る ため に,乳 頭形 態 変化 の 観察 を
行 な っ た。 今 回 は,乳 頭 の長 さの変 化 にっ いて 報
告 す る 。
II方 法 1対 象 平 成9年2月25日 か ら4月28日 ま で と 平 成 9年7月13日 か ら9月16日 ま で の 当 院 で 分 娩 し た70名 を 対 象 に 行 な っ た 。 初 産22名 ・経 産 48名 で あ っ た 。 2方 法 1)乳 房 の チ ェ ッ ク リス トを 作 成 し,そ れ に も と ず き 乳 房 の 状 態 を観 察 し た 。 2)乳 頭 計 測 は チ ェ ッ ク リス ト8番 に も と ず き, ノギ ス に て 授 乳 開 始 時 と 退 院 前 日 に 計 測 し た 。 3)マ タ ニ テ ィ ア セ ス メ ン トガ イ ド乳 房 カ ル テ 用 表 現 基 準 に も と ず き,乳 頭 を 分 類 し た 。 4)退 院 前 日 の 計 測 値 に は 補 助 器 具(ニ ッ プ ル 吸 引器 ・ニ ッ プ ル リ ン グ ・ニ ッ プ ル シ ー ル ド ・ミ ル ケ ア)を 使 用 し た ケ ー ス も 含 ま れ て い る 。乳 房 チ ェ ッ ク リ ス ト
III結 果 1.乳 頭 形 態 の 内 訳 は 両 側 と も 長 い 乳 頭5名,普 通 乳 頭45名,短 い 乳 頭5名,扁 平 乳 頭2名 ,左 右 で 形 態 の 違 う乳 頭14名 だ っ た 。 陥 没 乳 頭 は2 名 お り,2人 と も片 方 の み 陥 没 で 刺 激 に て 突 出 す る 仮 性 陥 没 乳 頭 だ っ た 。 2.乳 頭 の 長 さ の 平 均 は,授 乳 開 始 時-8.87mm・ 右8.58mm,退 院 前 日 一 左9.58mm・ 右9.61mmだ っ た 。(図1) 3.授 乳 開 始 時 と退 院 前 日 ま で の 乳 頭 の 長 さ を 比 較 す る と 両 側 伸 展47.1%,ど ち らか 一 方 が 伸 展34