本論文は, 2008年度テクニカル分析研究助成 (日本テクニカルアナリスト協会・大阪経 済大学経営学研究科共催) により, 個人の投資行動を行動ファイナンス面から行った研究 について, 最新実績データを加味して報告する。 Ⅰ.分析の目的・範囲と先行研究 1.先行研究にみるわが国個人投資家の投資行動 先行研究によれば, わが国投資信託 (以下, 投信もしくはファンドと呼ぶこともある) において, 投資家の主体である個人投資家の売買行動に合理的でない面があることが観察
加
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国
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投資信託における個人投資家の投資行動分析
合理的投資家への転換に向けての行動ファイナンス的視点からの一考察 <要旨> ・先行研究によれば, わが国の国内株式アクティブ運用投資信託 (投信) の投資家の売却行動 には,「市況上昇期には売り急ぎ, 下降期には売り渋る (損失回避)」というプロスペクト理論 が当てはまるとされる。 本研究では, それを確認すると同時に, 外国株式など他の投信にもそ れが当てはまることが示された。 購入行動においても, 市況上昇期に購入が偏在しがちで, 以 上の結果, 投資家は投信ファンド・マネジャーが達成するリターン (ファンド・リターン) を 享受できていない。 アクティブ・ファンドに投資しているが, 売買行動はパッシブと言える。 ・以上が多くの投信投資家の平均像 (Aタイプと呼ぶとする) だが, 国内株式パッシブ運用投 信 (インデックス・ファンド) の投資家像は異なる。 つまり, 市況下降期に購入が活発で, 売 買の時期による偏在が少ない。 結果驚くことに, ファンド・リターンを上回るリターンを得て いる。 パッシブ・ファンドに投資しているが, むしろ株価指数の動向に敏感で売買行動に移す アクティブ投資家 (Bタイプと呼ぶとする) というイメージである。 ・市況変動に対する売買行動の迅速性や売買量の多寡から, A・Bタイプとも, 能動型と受動 型に分れると想定される。 能動型はA・Bとも自主的に投資判断するタイプである。 受動型は, Aタイプが投信販売会社の勧誘に依存しがちな層で, Bタイプは確定拠出年金ファンド投資家 のような継続投資をベースに多少の資産構成変更を行うような層である。 ・投信投資家の多くは, Aタイプで, 能動型より受動型が多いと推察される。 投信売買が市況 上昇期に偏在しがちなことは, 販売会社の勧誘行動の結果とも取れるが, Aタイプ投資家がそ のような時期に投資への関心が強く向くことにも多く起因していると思われる。 ・個人投資家への投資教育にあたって,金融商品に対する知識も重要だが,Aタイプ投資家の ような不合理な行動をとりがちなことの教育が重要であり,わが国でも行動ファイナンス視点 から体系的投資家教育の研究・実践が必要と思える。教育だけでは行動転換が難しいとすれば, 定額継続投資制度など投資制度・スキームを提供することである。されている。 例えば,「市況上昇時には売り急ぎ, 下降時には売り渋る」といった点であ る。 以下, わが国における国内株式アクティブ運用型個別ファンドについての2つの先行研 究の知見を紹介する。 1) 金子久「個人投資家の投資行動と普及への展望」(2003年) わが国の追加型1) ・国内株式・一般フリー2) 運用の個別ファンドについての分析より, 次のような個人投資家の非合理的行動を確認している。 ① 「市況上昇時には売り急ぎ, 下降時には売り渋る」, 購入価額を基準に「利益確定・ 損失回避」いうプロスペクト理論 (図表1) を確認 ② ファンドのパフォーマンスを2∼3年観測した上で既存ファンドを選択するよりは, 新設ファンドを選択する傾向が強い ③ ①, ②より,「ファンドが1万円 (新設ファンドの購入基準価額) を越えると売りが 増える」ことを確認 2) 半田拓「個人投資家から見た投資信託の投資家リターン分析∼投資家に真のリターン をもたらす投資行動を求めて」(2006年) わが国の追加型・国内株式・株式一般型3) (前・金子論文とほぼ同じアクティブ型運用) 図表1 プロスペクト理論における価値関数 相対的な損失 相対的な利益 感応度逓減 (凹) 感応度逓減 (凸) リファレンス・ポイント (たとえば購入価格) (出所) ゴールドベルグ他著・真壁監訳 行動ファイ ナンス p. 62 1) 追加型とは, ファンド設定後自由に解約や追加設定が可能なファンドである。 これに対して, 設定 後償還まで追加設定ができないファンドを「単位型」と言う 2) 野村総合研究所 Fundmark 分類 (後述) で, 国内株式全体を対象とするアクティブ運用 (個別銘柄 選択により高いリターンを目指す) を指す。 それに対して, 株式市場と同じ銘柄構成により市場と 同等のリターンを目指す運用を, パッシブ運用もしくはインデックス運用と言う 3) 日本投資信託協会分類
の個別ファンドについての分析により, 次のような点を指摘している。 ① 投資家リターンはファンド・リターンを下回る;ファンド・リターンを享受していな い ・ファンド・マネージャーは, ベンチマークを上回るリターンを上げている ・投資家リターンは, ベンチマーク・リターンを下回る ・「収益率と解約率の間には正の相関が存在し, 収益率が高くなることで投資家が利食い を行なう投資行動」を確認 (プロスペクト理論が支持される)。「また, その関係は, より 短期的なリターン変化に強い相関を持ち, 短いタイムラグで解約率の増加が見られる」 ② DC (確定拠出年金) ファンドの投資家リターンは通常のファンドより良い。 キャシュ フローの安定(継続投資)の重要性を確認。 2.本研究の目的 本研究は, 先行研究が扱った国内株式アクティブ運用から範囲を広げ, ① 国内株式パッシブ運用 (インデックス運用) 型と2003年頃より急増した海外運用型に ついても観測する ② 個人投資家の投信売買行動と市況変動パターンとの関係を, 行動ファイナンスの視点 を入れ観察・分析する。 つまり, 前述・半田論文が指摘したファンドの価額変動の投 資家の売買行動への影響分析をさらに進展する。 ③ 上を踏まえ, 個人投資家への投信普及策などを考察する 分析基礎データは野村総合研究所提供 Fundmark4) 月次データ (1997年4月∼2012年6 月) であり, 分析対象は, 公募株式投資信託・追加型である。 なお, 前述・2先行研究は 個別ファンド段階での観察であったが, 本研究では該当ファンドの集計値段階での観察で ある。 3.ファンド・リターンと投資家リターンの定義・算出方法 追加型投信において発生しうるキャッシュフローは次のとおりである。 ① 設定額;投資家のファンド購入キャッシュフロー (ファンドへの入) ② 解約額;投資家のファンド売却キャッシュフロー (ファンドからの出) ③ 分配額;投資家のインカム・ゲインとしてのキャッシュフロー (ファンドからの 出) ④ 償還額;満期時に投資家の受け取る償還金キャッシュフロー (ファンドからの出) 1) ファンド・リターンと投資家リターン 図表2は, ファンドの月末の残高 (時価), 月次リターン, 月中のネット・キャッシュ フロー (設定額−解約額−分配額−償還額) の推移 (か月間) を示している。 4) 日本投資信託協会が公表する投資信託の運用実績を示す時系列 (日次・週次・月次) データベース・ サービス名。 追加型株式投信, 追加型公社債投信, 一部の単位型投信をカバーする。 個別ファンド 段階とファンド分類ごと集計データから成り, 本研究は, 収録開始の1997年4月以降の月次・集計 データを利用する
(1) ファンド・リターン ファンド・リターン (月次, %) は, ファンド・マネジャーの運用能力をみるリター ン尺度で, 運用金額の変化を反映しない次式・時間荷重収益率で定義する。 (2) 投資家リターン 投資家リターン (月次, %) は, 投資家が実際に享受したリターン尺度で, 投資家が どのタイミングで設定や解約を行ったか, 配当金・償還金を受け取ったかを反映するネッ ト・キャッシュフローをベースにした次式を満たす内部収益率から求められる。 Ⅱ.大分類ファンドでみる売買行動分析 1. 追加型株式投資信託の種類別 (大分類) 残高推移 先ず, わが国の投資信託の分類は分かりにくい点があるので補足しておく。「株式投資 信託」は, 株式を組み入れることのできる投信だが, 債券しか組み入れない投信も含まれ る。 これは, 別の計理スキームである「公社債投資信託」は基準価額が新規設定時より下 回ると分配ができないので, それが可能な「株式投資信託」のスキームが採用される場合 があるからである。 野村総合研究所 Fundmark は, 追加型株式投信を図表3のように, 大・中・小の3段階 に分類している (国内株式のみ一部, 小分類を示している)。 大分類に「国内債券」,「海 外債券」があるのは, 上で述べた理由である。 2003年頃より急増した「海外債券」ファン ドが含まれる。「国内債券」は, MMF (日々決算型) なども含め「公社債投資信託」スキー ムのものは含まれないので, 次に見るように金額的には少ない。 それで, 以後の分析対象 から除外する。 「国内ハイブリッド」,「海外ハイブリッド」は, 株式, 債券, 転換社債, 不動産など複 数資産に投資する投信である。 図表2 ファンドの月中キャッシュフローと月次リターン 月次リターン ; 月次リターン ; 月次リターン ; ネットキャッシュ フロー 残高 0 1 2 n 月末 ネットキャッシュフロー ()=設定額−解約額−分配額−償還額 … …
大分類「その他」には, 近年急増している上場投信 (ETF) の占める構成が大きい。 ETF の残高は, 日々の投資家の売買が即日反映されないので, 大分類「その他」も分析 対象から除外する。 以上をふまえ, 1997年3月以降の, 追加型株式投信の種類別 (大分類) 残高の推移を振 り返っておく (図表4)。 次のような点が特徴として挙げられる。 図表4 追加型株式投信の種類別(大分類)残高推移 (1997年3月∼2012年6月) 70 60 50 40 30 20 10 0 兆 円 年/月 国内株式 海外株式 国内債券 海外債券 国内ハイブリッド 海外ハイブリッド その他 97 / 03 98 / 05 99 / 07 00 / 09 01 / 11 03 / 01 04 / 03 05 / 05 06 / 07 07 / 09 08 / 11 10 / 01 11 / 03 12 / 05 図表3 追加型株式投信の分類(野村総合研究所 Fundmark 分類) 大分類 中分類(小分類;国内株式のみ) 国内株式(注2) ●一般(①フリー)●スタイル(①バリュー,②グロースなど4種) ●業種(①電機など7種)●インデックス(①日経225,②TOPIX, ③日経300,④建設・不動産など14種)●その他 海外株式 ●グローバル●エマージング●北米●アジア・オセアニア●欧州 ●中南米●業種●インデックス●その他 国内債券(注1) ●一般●インデックス●その他 海外債券(注1) ●グローバル●エマージング●米ドル建●アジア・オセアニア通 貨建●欧州通貨建●インデックス●その他 国内ハイブリッド ●転換社債●バランス●ターゲットイヤー●アセットアロケーショ ン●不動産投信●その他 海外ハイブリッド ●転換社債●バランス●ターゲットイヤー●アセットアロケーショ ン●不動産投信●その他 その他 ●ロングショート●リスク限定・軽減●上場投信(ETF)●ブル/ ベア●マネープール●限定追加型等●その他 (注1) 国内債券,海外債券は,所得税法上の追加型「株式投資信託」が対象。「公社債投資 信託」(「日々決算型」の MMF なども含む)は含まない (注2) 以下では,大分類(除く「国内債券」, 「その他」) と国内株式・小分類の一般・フリー とインデックス・日経225, インデックス・TOPIX について分析を行なう
・2001年頃までは, 国内株式が残高の過半を占めていた。 ・2003年頃より海外債券が, 2005年頃より海外株式, 海外ハイブリッドが急増し, 海外も のが残高の多くを占めている。 ・全体残高も2003年頃までは10∼20兆円で推移していたが, 2004年頃から急増し2006年頃 には70兆円近くまで達した。 2008年8月のリーマン・ショックで半減近くまでになったが, その後急回復したが, 最近は欧州金融危機などで足踏み状態にある。 2.種類別 (大分類) ファンド・リターンと投資家リターン, 超過リターン 図表5は, 種類別 (大分類) でみた分析期間での平均残高, 平均解約率, 平均設定率5) , ファンド・リターンと投資家リターンなどを示す。 国内株式については, 小分類段階で あるアクティブ運用の 「一般・フリー」 とパッシブ運用の 「インデックス・日経225と TOPIX,その合計」の観測結果も示す。 次に示すようにインデックス型ファンド投資家の 売買行動に特異な点が見られるからである。 1) 平均解約率と平均設定率 (月間) ・大分類では, 平均解約率は2.60%∼4.43% (年間31.2%∼53.2%), 平均設定率は3.02% ∼6.07% (年間36.2%∼72.8%) に分布する。 海外ものの設定率が高いのは, 図表4にみ たように, 観察期間に海外ものが急増した影響が大きい。 ・興味深いことに, 国内株式における「インデックス運用」全体の解約・設定率 (3.08%, 図表5 ファンドの解約・設定状況,ファンド・リターンと投資家リターンの比較 (大分類,1997年3月∼2012年6月) 平均残高 (億円) 平均 解約率 平均 設定率 ファンド リターン (A) 投資家 リターン (B) 超過 リターン (C)BA リスク(D) Aの標準 偏差 リスク調 整後超過 リターン C/D 国内株式 64125 3.11% 3.39% 0.25% 0.36% 0.11% 5.58% 0.020 一般 フリー 28990 2.89% 3.47% 0.28% 0.46% 0.18% 5.65% 0.032 インデッ クス 日経225 10056 3.36% 3.64% 0.34% 0.19% 0.14% 5.82% 0.025 TOPIX 4666 2.42% 2.44% 0.26% 0.24% 0.02% 5.21% 0.004 合計 14722 3.08% 3.24% 0.29% 0.21% 0.09% 5.57% 0.015 海外株式 39251 4.43% 6.07% 0.21% 0.62% 0.41% 6.21% 0.067 海外債券 119446 2.68% 5.28% 0.15% 0.08% 0.07% 2.82% 0.024 国内ハイブリッド 10144 2.60% 3.02% 0.07% 0.13% 0.07% 3.30% 0.020 海外ハイブリッド 46657 2.91% 5.49% 0.04% 0.31% 0.35% 3.71% 0.094 ・国内株式には小分類 「一般・フリー」, 「インデックス (日経225, TOPIX, その合計)」 を加えている ・超過リターン=投資家リターン−ファンド・リターン ・リスク;月次ファンド・リターンの標準偏差 ・リスク調整後リターン=超過リターン/リスク 5) 平均残高;月末残高の平均値, 解約率=当月解約額/前月末残高, 設定率=当月設定額/前月末残 高
3.24%) が, 国内株式全体 (3.11%, 3.39%) と同じ程度である点である。 アクティブ運 用である「一般・フリー」(2.89%, 3.47%) ともほぼ同じ水準である。「インデックス運 用」はパッシブ (消極的) 運用に分類され, その投資家は「buy & hold (買って保有し続 ける)」と想像しがちであるが, アクティブ・ファンド投資家と同程度に売買しているこ とが分かる。 インデックス運用の中でも, 日経225型 (3.36%, 3.64%) のほうが TOPIX 型 (2.42%, 2.44%) より積極的に売買していることが示される。 2) ファンド・リターン ・観測期間では, ファンド・リターンは「海外債券」,「海外ハイブリッド」以外はマイナ スであった。 ・国内株式の中で, 一般・フリーのファンド・リターン (−0.28%) は, インデックス・ 日経225 (−0.34%) を上回ったが, インデックス・TOPIX (−0.26%) を下回った。 こ のことは, 半田 (2006) の指摘した「株式一般型 (一般・フリーとほぼ同じ) のファンド・ マネージャーは, ベンチマークを上回るリターンを上げている」は必ずしも当たらないこ とを示している。 3) 投資家リターンと超過リターン ・大分類でみると, 投資家リターンは「海外債券」以外はマイナスであった。 ・投資家リターンとファンド・リターンの差である超過リターンは, すべての大分類がマ イナスで, 投資家はファンド・リターンを享受しきれていない。 前述・半田 (2006) は, 国内株式 (アクティブ) ファンド投資家はファンド・リターンを享受していないとしたが, それは他の大分類にも当てはまることになる。 ・国内株式の小分類でみると, 一般・フリーの超過リターンは−0.18%と半田 (2006) の 指 摘 ど お り だ が , イ ン デ ッ ク ス ・ 日 経 225 (+0.14%) と イ ン デ ッ ク ス ・ TOPIX (+0.02%) はともにプラスである。 運用のプロであるファンド・マネージャーがインデッ クスを上回り続けるのが難しいとされるなかで, 個人投資家がファンド・リターンを超え るリターンを得ていることは驚くべきことである。 TOPIX 型投資家が若干のプラスに対 して, 先に積極的な売買をすることを観測した日経225型投資家の超過リターンはかなり 高い。 日経225型投資家は, 積極的な売買をとおしてファンド自体のリターンより高いリ ターンを得ている, むしろアクティブな投資家のイメージが浮かぶ。 3.月次リターンと解約率・設定率の関係 投資家の売買 (設定・解約) 行動を, ファンド・リターンとの関係で観察する。 図表6 は, 月間の解約率 (当月解約額/前月末残高) および設定率 (当月設定額/前月末残高) とファンドの月次リターンとの関係をみたものである。 行動には時差があると考え, 当月 (t0),1か月前 (t−1), 2か月前 (t−2), 3か月前 (t−3) リターンと解約率・設定率 の間の相関係数, および回帰係数βを示している6) 。 βは, 月次リターン1単位変化に対 6) 月次リターンが正と負の範囲をとるのに対して, 解約率, 設定率は正の範囲をとるので, 解約率な いし設定率を月次リターンで説明する回帰分析を行う際は, 厳密には非負となる非線形の関数式を 想定すべきであるが, ここでは簡便のため実数値による直線回帰で行っている。 相関係数の算定も
する解約率ないし設定率の増分を示している。 1) 解約率と月次リターンの関係 (図表6−①) より) 先ず, 解約 (ファンド売却) 行動から観察する。 βの値の傾向は, 相関係数とほぼ同様 であり, 相関係数高いほど解約感度が高いことが分かる。 ・すべての大分類で, 相関係数がプラスであることから月次リターンが高いほど解約率が 増える傾向にあることが示される。 つまり,「市況上昇時は売り急ぎ, 下降時は売り渋る」 というプロスペクト理論がすべての大分類に当てはまる。 ただ, 海外債券はプラスながら 相関係数値は他より小さめで, リターン感応度は低いと言えそうだ。 ・3か月前までのリターンとの時差相関係数がプラスであることから, 解約行動が持続す ることが示される。 国内ものは当月リターンに対する相関係数が最大で月を経るごとに低 下するのに対して, 海外ものは1か月前リターンに対する相関係数が最大となっている。 海外ものに対する, リターン認知・行動が国内ものより遅れると考えることができまいか。 ・国内株式の中で, インデックス・日経225が一般・フリーより当月 (t0) 相関係数とも 同様である。 図表6 月次リターンと解約率・設定率の関係 ① 解約率と月次リターンの時差相関係数及び回帰係数β 相関係数 t0 相関係数 t1 相関係数 t2 相関係数 t3 β t0 β t1 β t2 β t3 国内株式 0.422 0.320 0.265 0.220 0.182 0.139 0.116 0.096 一般 フリー 0.366 0.295 0.265 0.220 0.171 0.138 0.125 0.104 インデッ クス 日経225 0.478 0.342 0.206 0.120 0.215 0.155 0.094 0.055 TOPIX 0.245 0.175 0.085 0.000 0.131 0.094 0.046 0.000 合計 0.426 0.309 0.175 0.083 0.192 0.140 0.080 0.038 海外株式 0.189 0.283 0.076 0.070 0.075 0.112 0.030 0.028 海外債券 0.033 0.155 0.061 0.054 0.017 0.080 0.032 0.028 国内ハイブリッド 0.321 0.295 0.243 0.256 0.169 0.156 0.128 0.135 海外ハイブリッド 0.166 0.225 0.126 0.105 0.086 0.117 0.066 0.055 ② 設定率と月次リターンの時差相関係数及び回帰係数β 相関係数 t0 相関係数 t1 相関係数 t2 相関係数 t3 β t0 β t1 β t2 β t3 国内株式 0.174 0.201 0.258 0.286 0.116 0.134 0.173 0.193 一般 フリー 0.223 0.200 0.259 0.252 0.227 0.205 0.268 0.260 インデッ クス 日経225 0.377 0.151 0.028 0.078 0.143 0.058 0.011 0.030 TOPIX 0.141 0.055 0.116 0.051 0.041 0.016 0.034 0.015 合計 0.331 0.128 0.066 0.073 0.109 0.042 0.022 0.024 海外株式 0.183 0.300 0.201 0.234 0.124 0.203 0.137 0.160 海外債券 0.069 0.155 0.113 0.141 0.097 0.217 0.160 0.199 国内ハイブリッド 0.252 0.290 0.210 0.269 0.176 0.202 0.147 0.188 海外ハイブリッド 0.183 0.257 0.275 0.237 0.207 0.291 0.315 0.272
に高く, 解約行動が早いことが示唆される。 2) 設定率と月次リターンの関係 (図表6−②) より) 次に, 設定 (ファンド購入) 行動を観察する。 ・大分類でみれば, 時差相関係数がすべてプラスであることから, 月次リターンが高いほ ど設定率が高くなる (いわゆる順張り) 傾向にあることが示される。 ・解約はリターンの変化に即応する傾向が強かったのに対して, 当月よりは時差が長いほ ど相関係数が大きい場合もあり, 設定行動はリターン上昇後持続する傾向が強い。 これは, 後で観察するように, 新規のファンドは好リターンを確認してから開発・販売される傾向 が強いことからも理解できる。 ・国内株式の小分類でみると, インデックス投資家の行動は特異である。 つまり, 相関係 数は当月, 1か月前がマイナスであり, リターンが悪いほど迅速に設定が増える (いわゆ る逆張り) 傾向にある。 4.以上のまとめ 以上から, 大分類レベルで見ると (国内株式・インデックスファンドを除く),投資家 行動にはほぼ共通の次の傾向が見られる。 ① 投資家リターンはファンド・リターンより低く, ファンド本来のリターンを享受 していない。 ② その原因の1つとして, ファンド・リターンが良い時期に売買 (設定・解約) が 活発であるのに対して, ファンド・リターンの悪い時期は売買行動が低調な点が 指摘できる (これは, 国内株式インデックス投資家がファンド・リターンの悪い 時期に設定が活発な点と好対照である)。 売却行動において, 金子 (2003) が示 した「利益確定, 損失回避」という「プロスペクト理論」が, 国内株式以外でも 観測されたことになる。 ③ また, 購入行動がリターンの悪い時期に低調ということは,「安い時期に購入」 という選択肢を放棄していることであり, 投資家リターン悪化の大きな要因になっ ていると言える。 設定率とリターンとの時差相関が比較的長期にわたり高いとい うことは, 後に示すように, ファンド新商品がそのような時期に設定されがちと いう点も影響していると思われる。 Ⅲ.国内株式におけるアクティブ・ファンドとパッシブ・ファンド投資家の売買行 動分析 以上みたように, 国内株式のインデックス・ファンド投資家の売買行動は異なる。 イン デックスの中でも, 特に日経225型ファンド投資家は, ①売買頻度が高い, ②超過リター ンが高い点で特に異なる。 そこで, 国内株式の一般・フリー投資家と日経225投資家の売 買行動を詳しく比較観察してみる。 1.価格指数の動向と設定率・解約率, ファンド純増数の関係 あるファンドの月の月次リターン として, 月末のファンド価格指数 を次のよ
うに定義する (1997年3月末の価格指数を1000として)。 月末ファンド価格指数; 図表7は, 上記で求められた価格指数と設定率・解約率の推移を一般フリー (上図) と 日経225 (下図) についてみたものである。 同じ国内株式投資なので, 価格指数の動き (折れ線) は多少の高低差はあるもののほぼ同じである。 棒グラフは設定率 (上向き) と 図表8 国内株式2小分類ファンドのファンド純増数と価格指数の推移 (1997年4月∼2012年6月) フ ァ ン ド 純 増 数 15 10 5 0 5 10 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 価 格 指 数 97 / 04 97 / 10 98 / 04 98 / 10 99 / 04 99 / 10 00 / 04 00 / 10 01 / 04 01 / 10 02 / 04 02 / 10 03 / 04 03 / 10 04 / 04 04 / 10 05 / 04 05 / 10 06 / 04 06 / 10 07 / 04 07 / 10 08 / 04 08 / 10 09 / 04 09 / 10 10 / 04 10 / 10 11 / 04 11 / 10 12 / 04 一般・フリー インデックス・ 日経225 フ ァ ン ド 純 増 数 15 10 5 0 5 10 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 価 格 指 数 ファンド数 1997年3月末 ; 34 最大時 ; 54 2012年6月末 ; 45 ファンド数 1997年3月末 ; 176 最大時 ; 316 2012年6月末 ; 285 一般・フリー インデックス・ 日経225 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 価 格 指 数 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 価 格 指 数 設 定 率 解 約 率 設 定 率 40% 30% 20% 10% 0% 10% 20% 40% 30% 20% 10% 0% 10% 20% 図表7 国内株式2小分類ファンドの設定率・解約率と価格指数の推移 (1997年4月∼2012年6月,価格指数;1997年3月末=1000) 解 約 率 97 / 04 97 / 10 98 / 04 98 / 10 99 / 04 99 / 10 00 / 04 00 / 10 01 / 04 01 / 10 02 / 04 02 / 10 03 / 04 03 / 10 04 / 04 04 / 10 05 / 04 05 / 10 06 / 04 06 / 10 07 / 04 07 / 10 08 / 04 08 / 10 09 / 04 09 / 10 10 / 04 10 / 10 11 / 04 11 / 10 12 / 04
解約率 (下向き) を示し, 両図の目盛は同じである。 図表8は, 価格指数 (折れ線) とファンド純増数 (棒グラフ) の推移を一般フリー (上 図) と日経225 (下図) についてみたものである。 図中に, ファンド総数の推移として, 1997年3月末, 最大時, 2012年6月末のファンド数を示している。 1) 一般・フリー投資家の特徴 ・一般・フリーの場合, とりわけ設定率, 解約率の高い時期が2つある。 価格指数が2000 年2月末に高値 (1488) となる相場上昇期と, 2006年3月末に高値 (1280) となる相場上 昇期時期である。 特に前者は高い。 ・ファンド純増数も上記の時期に多く, 購入意欲の高まった投資家向けに新規ファンドが 設定され販売促進される結果,さらなる購入行動につながると思われる。 なお, 相場下降 期の2001年10月頃にファンド純増数が多いのは, その時期わが国に確定拠出年金 (DC) 制度が導入され, そのために新規ファンドが設定された影響である (日経225にもわずか ながら見られる。 図示はしないが TOPIX により強くその傾向は見られる)。 ・上記2つの時期以外では, 設定率・解約率とも低い。 2) 日経225投資家の特徴 ・一般フリーに比べて, 設定・解約は一時期に集中することは少ない。 先にみたように平 均設定率 (3.64%), 平均解約率 (3.36%) とも, 一般・フリー (3.47%, 2.89%) より高 いことから, パッシブ運用ファンドへの投資家だが, むしろアクティブ・ファンド投資家 よりどのような相場局面でも活発な売買行動をとっている。 ・ファンド数の増減は少なく, 販売会社による手数料率の小さいインデックス・ファンド への勧誘は少ないと判断されるから, 自主的な判断に基づく売買行動をとる度合いが高い と思われる。 2.設定率・解約率の月次リターンの時差相関分析 前掲図表6 (月次リターンと解約率・設定率の関係) を詳しく観察してみる。 図表9は, 参考までに一般・フリー(左図)と日経225(右図)について, 観測期間183か月の設定率・ 解約率と当月リターンの関係をプロットしたものである。 日経225の設定率がリターンの マイナス時に高まる傾向が確認される。 1) 解約行動の比較 図表6の解約率と月次リターンとの時差相関係数を観察すると, ・リターンとの相関係数が当月, 1か月後では日経225投資家が高く, 2か月後, 3か月 後では一般・フリー投資家が高い。 βも同様で, 日経225投資家の解約度合いが早めなの に対して, 一般・フリーは当初は日経225投資家ほど高くはないが持続する傾向がみられ る。 ・TOPIX 投資家は日経225投資家と少し異なるが, 後で考察する。 2) 設定行動の比較 何度も触れたように, 設定行動は反対である。 ① 一般・フリー投資家の設定行動
・一般・フリー投資家は, リターンが好調時に設定率が高まる傾向だが, 時差相関は高い ほうから, 2か月後, 3か月後, 当月, 1ヶ月後リターンである。 当月に反応するが2∼ 3か月遅れて設定行動が高まることを示している。 その1つの要因として, 先にみた一般・ フリーのファンド純増が市況の継続的に上昇する時期に多いことと関係していると考えら れる。 金子 (2003) が指摘する「ファンドのパフォーマンスを2∼3年観測した上でファ ンドを選択するよりは, 新設ファンドを選択する傾向が強い」の表れと思われる。 つまり, 市況上昇で既存のファンドを購入する動きより, 市況上昇傾向の中で設定される新規ファ ンドを購入する動きのほうが強いということになる。 ② 日経225投資家の設定行動 ・日経225投資家は, リターン低下時に迅速に設定行動に出る傾向が強い。 つまり, 設定 率と月次リターンの時差相関は当月−0.377, 1ヶ月後−0.151, 2か月後+0.028というこ とから, 短期間に設定行動を終えると考えられる。 3.一般・フリー投資家と日経225投資家, TOPIX 投資家の平均的イメージ 1) 一般・フリー投資家のイメージ 以上から, 一般・フリー投資家の平均像は,「市況上昇時に売り急ぎ, 市況下降時には 売り渋る」というプロスペクト理論が示す典型であり, ファンド設定意欲も市況上昇期に 強い「順張り」投資家である。 つまり, 市況上昇時に設定・解約行動が積極的だが, それ 以外の時期はむしろ消極的である。 結果, ファンド・リターンを享受しきれていない。 ア 図表9 国内株式2小分類ファンドの解約率・設定率と月次リターンの関係 (1997年4月∼2012年6月) 設定率 (横軸) vs 当月リターン (縦軸) 設定率 (横軸) vs 当月リターン (縦軸) 25% 20% 15% 10% 5% 0% 5% 10% 15% 25% 20% 15% 10% 5% 0% 5% 10% 15% <一般・フリー> <インデックス・日経225> 解約率 (縦軸) vs 当月リターン (横軸) 解約率 (縦軸) vs 当月リターン (横軸) 25% 20% 15% 10% 5% 0% 5% 10% 15% 25% 20% 15% 10% 5% 0% 5% 10% 15%
クティブ運用ファンドに投資しているが, 逆説的だが, むしろパッシブ投資家である。 市況上昇期の設定行動が時間差で高まることから, 早めに既存ファンドを購入する投資 家と販売会社の勧誘で新規ファンドを購入する投資家がおり, 2∼3か月時差相関が高い ことから, 後者の比率が高いと想定される。 この投資家像は, 大分類でも同様に観測されるので, 大部分の投資家の平均的イメージ である。 2) 日経225投資家のイメージ 以上から, 日経225投資家は, パッシブ運用とされるファンドを投資しながら, むしろ 日経225の市況変動に敏感に対応して売買 (設定行動に関しては「逆張り」型) し, ファ ンド・リターンより高いリターンを実現する, むしろ自主的に投資判断するアクティブ投 資家である。 3) TOPIX 投資家のイメージ TOPIX 投資家について補足すれば, 解約・設置行動は日経225投資家とほぼ同じ性向だ が, 次のような点から, アクティブ度は低い。 ① 平均解約率, 平均設定率が日経225投資家の2/3程度である ② 超過リターンはプラスながら0.02%と日経225投資家の0.14%より低い TOPIX 投資家と日経225投資家の投資行動の違いを, 次に2点から考察する。 (1) 確定拠出年金 (DC) 比率の違い TOPIX 型ファンドのうち DC 専用ファンド残高比率は, 日経225型ファンドより高い。 つまり, 2012年6月末現在, TOPIX 型ファンド残高に対する DC 専用ファンド比率は54.5 %に対して, 日経225型は1.5%である7) 。 観測期間の平残ベースでは, それぞれ29.0%, 1.5%である。 確定拠出年金は, 加入者が資産構成を変更できることが特徴だが変更率は 低いとされることと, 趨勢として積み立てが続くことから, 結果として設定・解約率が低 いと考えられる。 (2) TOPIX 指数の認知度 報道における指数の認知度も影響しているのではないかと推定できる。 日経225のほう が新聞, TV などでの露出度が高く, 市況動向に敏感な投資家は, 日経225型ファンドを 好むのではないかと思われる。 Ⅳ.投信個人投資家のタイプと合理的投資家への転換の必要性 1.投信おける個人投資家のタイプと行動特性 以上の投資家の平均像の違いから, 投信に投資する個人投資家の行動を規定する大きな 要素として次の2つが浮かぶ。 ① 売買行動の活発時期;次の2タイプに大別される 7) 日経225指数は225銘柄の平均株価であるので, 市場全体の動きを示す TOPIX 型ファンドのほうが DC ファンドに採用される度合いが高かったと思われる
市況上昇時中心に設定・解約;国内株式・インデックス投資型以外の多く の投資家 市況上昇時に解約, 市況下降期に設定;国内株式・インデックス型投資家 ② 売買行動の能動性;次の2つのタイプが浮かぶ。 能動型;日経225投資家像である「自主判断型で, 市況変動に対して行動 が早く, 売買頻度も高い」タイプ。 国内株式・一般・フリーやそれ以外の 大分類にも存在する自主判断型 受動型;一般・フリーでの設定行動が遅れるタイプで, 自主判断と言うよ り, 販売会社の助言などに依存しがちと想定される。 確定拠出 (DC) 向 けファンド投資家が多く, 継続投資で売買頻度の小さい TOPIX 投資家も 同類とみる 以上2つの行動軸で投信・個人投資家を分類したのが図表10である。 縦軸が①「売買行 動の行動時期」を示し, 「市況上昇期中心」は下方向, 「市場上昇期;解約, 市場下 降期;設定」を上方向とする。 横軸が②「売買行動の能動性」を示し, 「能動的」を左 方向, 「受動的」を右方向に示す。 2軸で表現される4つの象限から, 図表10のとおり投信・個人投資家の平均像は次の4 つのタイプがイメージされる。 ●A1 タイプ (左下) ・国内株式・一般・フリーはじめすべての大分類に共通するタイプ ・A2 と違って, 自主的に投資判断し, 投資行動は早い ●A2 タイプ (右下) ・国内株式・一般・フリーはじめすべての大分類に共通するタイプ ・市況変動に時間遅れで行動するタイプで, 投信販売会社の助言を受け行動しがちとみる 図表10 投信売買行動からみた個人投資家のタイプ 市況上昇期;解約 市況下降期;設定 市況上昇期中心に 設定・解約 受 動 型 能 動 型 B2 タイプ ●国内株式・ インデックス・TOPIX ●継続投資がベース A2 タイプ ●国内株式・一般・フリー はじめすべての大分類 ●販売会社依存 A1 タイプ ●国内株式・一般・フリー はじめすべての大分類 ●自主判断 B1 タイプ ●国内株式・ インデックス・日経225 ●市況に敏感, 自主判断
●B1 タイプ (左上) ・国内株式・インデックス・日経225投資家に代表されるタイプ ・市況動向に敏感で積極的に売買する。 自主的に投資判断し, 投資行動が早い ・想像を膨らませれば, 個別株式投資にも積極的な投資家像と重なる ●B2 タイプ (右上) ・国内株式・インデックス・TOPIX 投資家に代表されるタイプ ・確定拠出 (DC) 年金ファンドでの投資行動にみられように, 継続的投資傾向が強いが, 市況動向にはあまり敏感ではない 上記4タイプの投資家数のイメージは, 投信残高から推察すれば次のとおりである。 ・大多数を占めるのが, Aタイプである ・国内株式・一般・フリー投資家の設定行動が遅れ気味な傾向が強いことから, A1 タイ プより A2 タイプ (受動型) のほうが多いと推察される ・B1 タイプのほうが B2 タイプより多い8) 2.合理的投資家への転換のための考察 わが国の個人金融資産は,預貯金の比率が高く,「貯蓄から投資へ」と叫ばれてから久 しい。投資信託比率は2012年3月末で4.4%と10年前の2.0%より大きく増加したが, 上で 見たようにわが国の投信・個人投資家の多くは上記Aタイプであり, 売買行動が市況上昇 期に偏在しがちなためファンド・リターンを享受できていない。 本稿の最後に, とりわけAタイプ投資家を, より合理的投資行動に向かわせる方策につ いて考察する。とは言え, 個人投資家をAタイプからBタイプのような, 特に市況に敏感 で超過リターンを得る B1 タイプへいきなり転換するのは容易ではないだろう。転換すべ き最も基本的なことは, 市況上昇期以外においても投資に関心を持ち行動に移せるように することだろう。このような視点から脱Aタイプへの転換策を, 次の3点, ①投資家教育, ②投資制度・スキームの提供, ③販売会社・投信運用会社の対応, から考えてみる。 1)投資家教育 投資家教育について, わが国の確定拠出(DC)年金加入者向け教育の現状から考えて みる。加入者向け教育として, 次が義務付けられている。 ・金融商品の仕組みと特徴(性格や特徴, 種類, リターンやリスクなど) ・資産運用の基礎知識(リスクの種類と内容, 長期投資・分散投資の考え方など) しかしこのような金融・投資知識だけでは不十分で, 個人投資家が合理的でない行動をと りがちなこと自体を充分認識させる体系的な教育を追加する必要である。本研究でみた損 失回避行動や市況上昇期に集中する設定行動など以外に, 行動ファイナンスにおいては多 くの非合理的行動が指摘されている9)
。英国 FSA (Financial Service Authority)の調査に よれば, 個人の「金融ケイパビリティ10)
のバリエーションは, 情報の相違よりも, むしろ 8) 2012年6月末の残高は, 日経225投信が10,025億円, TOPIX 投信は4,114億円
9) 角田(2011), 新保(2012)など
心理的相違によってよりよく説明できる」とされる11) 。このように根本的には個人の潜在 的な心理に根差し理屈だけでは簡単に修正しにくい不合理な行動を, 個人はとりがちだと いうことを知らしめる教育を, わが国でもそのあり方を含め学術的研究・実践が必要と思 える。 2)行動ファイナンス理論を取り入れた投資制度・スキームの提供 個人を合理的な行動に転換することが, 教育による個人の知識形成や意識変革だけに頼 るだけでは難しいとすれば, 有力な方法は外部から投資制度・スキームを提供することで あろう。行動ファイナンスでは, 人の行動特性の1つとして「後悔回避(将来後悔するよ うなことを避けたい)」を挙げている。例えば, 先に示した損失回避・先送りも, 損失を 実現することで後悔が深まることを避けるからと解釈される。角田(2011)は, 次の「後 悔回避の3つのルール」を挙げている。 ① 定期的なルールに基づく決定を心がける ② 中立的な選択にする12) ③ コンサルタントや委員会制を利用し, 責任を自分1人で引き受けないようにする 以下の方策や事例は, 上の後悔回避という点からも, 個人を合理的投資行動へ誘導する 制度ないしスキームと言えよう。 (1)継続投資の有効性と継続投資制度拡充 投資行動が市況上昇期に偏在しがちな点に関しては, 市況動向にかかわらず継続的に投 資することでかなり克服できる。金子(2003), 角田(2011)も, ドルコスト平均法(定 額継続投資)の有効性を指摘している。継続投資は, 市況動向いかんでは最適な投資行動 ではないと指摘されるが, 後悔回避ルール①から支持できる。半田(2006)も, 継続投資 型の確定拠出年金ファンドの投資家リターンが高いと指摘し, 本研究でもそれはほぼ確認 できた。 2001年より開始されたわが国の確定供出年金は, 継続投資の制度化とも解釈できる。さ らに本制度に2012年1月より社員による掛け金上乗せ(マッチング拠出)が認められた。 自己資金を投入することで, 継続投資の効果に加え, 個人の資産配分の変更への関心がよ り高まることが期待される。また, 2014年1月から「日本版 ISA13) 」が開始される。これ は, 「毎年100万円までの株式や株式投信への新規投資について, 口座内で生じた譲渡益 や配当金が非課税になる」14) などの特徴を持つもので, 個人向け継続投資機会の増大につ ながる。ただ, 3年間の期間限定なので, その恒久化が期待されている。 (2)米国での確定拠出年金での制度的工夫 11) FSA 消費者リサーチ・ペーパー「金融ケイパビリティ;行動経済学の地平」, 2008年7月。角田 (2011)p. 155 よりの再引用 12) 例えば, 見通しが的中する満足より見通しが外れる後悔のほうが大きいので,中立策としてリスク 資産への投資は集中せず分散する
13) 英国が1999年に導入した ISA (Individual Savings Account)制度の日本版 14) 日本経済新聞2012年12月19日
わが国の確定拠出年金において, 加入者の投資行動として①長期投資なのにリスクを回 避し安全資産のウエイトが高い, ②資産配分変更が少ないなどが指摘されている。歴史の 長い米国でも類似のことが起こっており, 単に金融・投資知識の提供だけでは投資行動に つながらないとして, 次のような制度面からの行動誘発が行われている15) 。 ① ライフサイクルファンドやターゲットイヤーファンドの提供;年金受給開始まで の年数に応じたリスクに見合う資産構成を設定 ② コンピュータソフトなどを使った加入者個人に対するアドバイス提供 ③ 運用業者によるアドバイス;客観的な投資選択肢の提供と同一手数料徴収が条件 以上は, 先に示した「後悔回避の3つのルール」面からもうなずけるものである。 3)販売会社・投信運用会社の対応 国内株式・一般・フリーのファンド純増数推移でみたように, 市況上昇期やその後にファ ンド純増が多かった。販売会社も市況上昇期に営業が活発化する傾向にあるわけだが, そ れが個人投資家の行動を促進する面と, 個人投資家の多くが市況上昇期に投資への関心が 高まることからこの時期の営業が活発化するという面の両面によると言えよう。一方, プ ロスペクト理論などからすれば, 損が出ている時期には投資家は販売会社との接触を回避 する傾向にあると想定できる。販売会社は, 市況下降期の情報提供の在り方などの工夫が 求められる。特に損失が出ている時期に, 損失認知を避けたがる投資家へ, 保有ファンド の客観的損益情報や市況動向に目を向けさせることは重要と思える。また, 一定手数料で 販売会社が資産運用アドバイス ・ 実行を行うラップ ・ アカウントもしくは SMA (Separated Management Account)制度は, 後悔回避ルールの観点からも脱Aタイプ策として, 売買 手数料が高めのアクティブ型運用投信の機動的配分変更を促す方策として有力と考えられ る。 投信運用会社のとっても, 金子(2003)が指摘した「ファンドのパフォーマンスを2∼ 3年観測した上でファンドを選択するよりは, 新設ファンドを選択する傾向が強い」とい う点に対し, A1 タイプの受け皿として既存ファンドの運用充実・認知向上をすすめ, 販 売会社とともに A2 タイプ投資家の A1 タイプへの転換努力が必要と思われる。 本研究にあたって, 野村総合研究所金融イノベーション研究部・金子久上級研究員(参 考文献執筆者)に, データ提供やアドバイスを頂いた。また, 京都大学経営管理大学院・ 加藤康之教授には米国の個人投資家サービスの実情などのアドバイスを頂いた。ここに謝 意を表します。 (2012年12月28日執筆) <参考文献> ・金子久「個人投資家の投資行動と普及への展望」,『証券アナリストジャーナル , 2003年7 15) 新保(2012)P. 146
月号
・半田拓「個人投資家から見た投資信託の投資家リターン分析∼投資家に真のリターンをもた らす投資行動を求めて」,『証券アナリストジャーナル , 2006年8月号
・角田康夫『新版・行動ファイナンス , 金融財政事情研究会, 2011年 ・新保恵志(編著)『金融・投資教育のススメ , 金融財政事情研究会, 2012年