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1. 背景 NAFLD は非飲酒者 ( エタノール換算で男性一日 30g 女性で 20g 以下 ) で肝炎ウイルス感染など他の要因がなく 肝臓に脂肪が蓄積する病気の総称であり 国内に約 1,000~1,500 万人の患者が存在すると推定されています NAFLD には良性の経過をたどる単純性脂肪肝と

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Academic year: 2021

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非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)関連疾患の

疾患感受性遺伝子を用いたリスク予測

―全ゲノム関連解析によって4つの疾患感受性遺伝子を同定―

概要 1. 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、現在先進国で最も頻度の高い肝疾患であり、わが国には 1000 万人以上の患者がいると推定されています。NAFLD は単純性脂肪肝と非アルコール性脂肪肝炎(NASH) に分類され、NASH の一部は肝硬変や肝がんに進展します。遺伝的な要素も病気の原因の一つですが、そ の全容はいまだ明らかになっておらず、また、得られた知見の臨床への応用も十分ではありませんでした。 2. 今回、我々は 902 人の日本人 NAFLD 患者による全ゲノム関連解析において、新たな疾患関連遺伝子 DYSF を含む、4つの疾患感受性遺伝子(残り3つは GCKR、PNPLA3、GATAD2A)を同定しました。4 つの遺 伝子を詳しく調べたところ、GCKR は単純性脂肪肝に、GATAD2A は NASH に、DYSF は NASH 由来肝細 胞がんに、PNPLA3 はいずれにも関連することが分かりました。 3. これらの遺伝因子を組み合わせたところ、NAFLD を発症するリスクが最も高い人は最もリスクが低い人 に比べてオッズ比注1)で 5.0 倍になることがわかりました。また、NAFLD から NASH を発症する場合は 4.4 倍、NASH から NASH 由来肝細胞がんを発症する場合は 15.9 倍となりました。今後、遺伝的に高い リスクを持つ患者に対して重点的に治療や生活習慣改善の指導を行うことで、効率的な医療が可能になる と期待します。 京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センター・松田文彦 教授、済生会吹田病院・岡上武名誉院長を 中心とする研究グループは、NASH および NASH 由来肝細胞がんを含む NAFLD 患者 902 人と対照群 7,672

人の DNA を用いた網羅的 SNP注2)関連解析を行い、NAFLD のリスク予測を行いました。本研究は、厚生労

働省班会議(厚生労働科学研究委託費 難治性疾患実用化研究事業)参加施設などとの多施設共同研究です。 論文は 2 月 1 日に PLOS ONE に掲載されました。

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1.背景

NAFLD は非飲酒者(エタノール換算で男性一日 30g、女性で 20g 以下)で肝炎ウイルス感染など他の要因 がなく、肝臓に脂肪が蓄積する病気の総称であり、国内に約 1,000~1,500 万人の患者が存在すると推定され ています。NAFLD には良性の経過をたどる単純性脂肪肝と、肝細胞変性壊死、炎症性細胞浸潤、線維化を伴

い予後不良の NASH が存在し、NASH の一部は肝硬変、肝がんに進展します。NASH の国内の患者数は約 200

万人前後と推定され、毎年 1,000~2,000 人程度が NASH 由来の肝細胞がんを発症していると考えられてい ます。 我が国では、これまでウイルス性肝疾患患者が圧倒的に多く、次いでアルコール性肝障害患者が多かったの ですが、近年の治療薬の進歩でウイルス性肝炎の多くを占める C 型肝炎は殆ど完治するようになりました。ま た一人あたりの飲酒量の低下でアルコール性肝障害の患者数は頭打ちとなっていますので、今後は肝疾患にお ける NAFLD の比率が上昇するとみられています。他の先進国でも同様であり、特に米国では数年前に NASH が肝移植で 2 番目に多い理由となるなど、その傾向が顕著です。 NAFLD は肥満、糖尿病、脂質異常症と強く関連し、メタボリックシンドロームの肝臓での表現型と言われ ています。NAFLD の発症・進展には種々の因子が関与しており、遺伝的な素因も注目され研究が進められて きましたが、その全容はまだ明らかにはなっておらず、また、得られた知見の臨床への応用も十分ではありま せんでした。 2.研究手法・成果 本研究グループは、肝生検によって診断した 476 人の NASH 及び 58 人の NASH 由来肝細胞がん患者を含 む 902 人の日本人 NAFLD 患者のゲノム DNA を収集し、7,672 人の対照検体との間で、ゲノム上に分布する 約 10 万個の一塩基多型(SNP)の頻度を比較する全ゲノム関連解析(GWAS)注3)を行いました。 その結果、DYSF、GCKR、GATAD2A、PNPLA3 の4つの NAFLD 感受性遺伝子の候補を同定しました(図 1)。DYSF は NASH 由来肝細胞がんの発症との関連が新たに示された遺伝子でした(p 値 5.2x10-7、オッ ズ比 1.9(95%信頼区間 1.7-2.1))。DYSF は三好型筋ジストロフィーとの関連が報告されており、筋膜再生 に関わるとみられていますが、肝がんとの関わりはわかっていません。今後は、再現性の検証とともに遺伝子 機能のより詳しい解析が求められます。また、GCKR は単純性脂肪肝に、GATAD2A は NASH に、PNPLA3 はそのいずれにも関連することが分かりました。

本研究で得られた遺伝因子を組み合わせたポリジェニックリスクスコア注 4)の手法を用いて5段階の発症リ

スク群に分類し、それぞれの群を最もリスクが低い群と比較したところ、NAFLD の発症リスクはオッズ比 (95%信頼区間)で、リスクが低い群から順に 1.9(1.4-2.6)、2.2(1.7-3.1)、3.3(2.5-4.4)、5.0(3.8-6.6) となりました(図2)。また、NAFLD から NASH への発症では最もリスクが高い群で 4.4(2.7-7.4)、NASH から NASH 由来肝細胞がんへの発症では同じく最もリスクが高い群で 15.9(3.7-144.3)となりました。

肝生検で診断した検体を用いた NASH 由来肝細胞がんの GWAS は本研究が世界の先駆けであり、そこで得 られた結果をもとに発症リスクを推定するモデルを提示できたことは、病気を未然に防ぐ先制医療の実現にと って極めて重要性が高いと言えます。

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3 3.波及効果、今後の予定 本研究で得られた手法を用いて、NAFLD および NASH 患者のうち病状進展のリスクが高い患者に対して重 点的に治療や生活習慣改善の指導を行うことで、効率的な医療が可能になると考えます。また、各遺伝子と病 態との関わりを明らかにしたことから、各遺伝子の体の中での働きがより詳しく調べられ、その結果、治療や 予防方法の開発につながると期待しています。本研究は世界で最大規模の検体を用いた解析ですが、患者の数 はまだ限られており、より信頼性の高い結果を得るためにはさらに多くの検体を用いた再現性の検証が求めら れます。本研究グループは引き続き日本人の検体を収集し、解析を継続する予定です。 4.研究プロジェクトについて 本研究は、厚生労働科学研究費補助金 肝炎等克服緊急対策研究事業、日本医療研究開発機構 難治性疾患実 用化研究事業に支援を受けて実施されました。 <論文タイトルと著者>

タイトル:Risk estimation model for nonalcoholic fatty liver disease in the Japanese using multiple genetic markers

著者:Kawaguchi T, et al. 掲載誌:PLOS ONE

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<イメージ図>

図1. 全ゲノム関連解析の結果

上段:NAFLD と日本人対照群の比較

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5 図 2. NAFLD のリスク予測 遺伝子変異をもとに NAFLD 発症のリスク別に 5 段階の群に分類し、リスクが最も低い群と残りのそれぞれの 群を比較した。 <お問い合わせ先> 松田文彦 京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センター 教授 TEL: 075-366-4156 FAX: 075-751-4167 E-mail: fumi@genome.med.kyoto-u.ac.jp <用語解説> 注1)オッズ比:病気になった人のうちその遺伝因子を持つ人と持たない人の比と、病気になっていない人の うちその遺伝因子を持つ人と持たない人の比を比べた値で、遺伝因子による病気のなりやすさを示します。 注2)一塩基多型(SNP):遺伝情報は DNA の塩基配列によって決まりますが、すべての人が同じではなく個 人ごとに違っている部分があります。そのような個人ごとの塩基配列の違いを「遺伝子多型」と呼び、そのう ち 1 塩基の違いを SNP(スニップ:single nucleotide polymorphism)といいます。

注3)全ゲノム関連解析(GWAS):例えば、患者とそうでない人との間で一塩基多型(SNP)の出現頻度が大

きく異なっているところは病気と関係している可能性があると言えますが、それを全ゲノムにわたって調べる 方法です。GWAS は Genome Wide Association Study の略です。

注4)ポリジェニックリスクスコア:ポリジェニックとは、複数の遺伝因子という意味です。遺伝因子ごとに

病気のなりやすさに対する貢献の度合いは異なるため、その違いに基づいて、それぞれの SNP の変異に重み を付けます。そして、個人ごとに、その重みで調整した変異の数を複数の SNP について足し合わせた値を、 その個人の病気のなりやすさ(リスクスコア)とします。本研究では、そのスコアの高低で集団を5つに分割 し、最もスコアの低い群に対してスコアが高い各群がどの程度のリスクになるかをオッズ比にて示しました。

参照

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