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東京女子医科大学々会読75回忌会抄録
日 時 昭和30年12月8Fi(土)午後2時半場所 東京女子医大 臨床講堂
1. 類白血病牲反応を呈した膿瘍の四剖検例 (三神内科)梅木信子 類白血病性反応という概念は決して単一な内容を持 つも(7]iでなく,種々の疾患に随伴して惹起される末精 血液像の白血病への類似症を総括している。・最近吾々 は腹部擁に罹患後,間激的の発熱と,貧血を主訴とし 入院,敗血症を疑って治療していた患者に,白血病と 鑑別困難な本症を経験したので報告する。 患者は47才女子,家婦,家族歴,引時歴に特記すべ き事はない。昭和29年3月,左下腹部に擁を生じ,以 来5ヵ月,局所療法及抗生物質大量療法を行い漸く治 癒したが,その頃より発熱と貧血を見る様になり8月 本院へ入院した。入院時血液は赤血球37万,血色素20 %・色素指数1・0,百分率ては好しD球88%を算したが 無下細胞は認められなかった。体温は37.2。・・一38.5。C を上下していた。入院後再三動静肱血の培養を試みた 携何れも陰性であった。治療としてマイシ伽,.テ ラマイy,コリスチン,クmロマイセチン等を用い, 又輔血,V・B12チヨコラB鉄,フォリアミンの使用に よb一時小康を得たかの感があっtこが血液像に変化が 起り,末期には白血病様症状で死亡した。 剖検により骨髄,淋巴腺,腎,肝,脾に,異型,分 裂像の多い骨髄性幼弱細胞の増殖を認めた。これらは 末稽血液中60%に及んだ幼弱国包ρ増加や,アウエ・レ 氏小体の出現,白血病横裂口を示した事,且つ予後不 良であった点葉から急性乃至亜急性骨髄性白血病を習 わせた。然し一一方同時に見られた肝膿瘍,腹部皮下化 膿巣,化膿性腹膜炎,全身の敗血症1性反応は,臨床的 に本症の発現が敗血症様症状と密接に結びついている 事,しかもその経過中にi発現した事,及び生前の血液 像で比較的成熟型の細胞が多くあった事,骨叩打痛, 出血傾向が全く認められなかった事等と考え合はせ て,類白血病性反応と診断する事は不当でないと思わ れた。 2. 口蓋篇桃に発した細綱肉腫の一・t例 (耳鼻科)窪敦子 (演)新田志ず子,金井美津 70才の農婦,左口蓋扁桃に原発した細網肉腫症例 で,主訴は嚥下痛であった。3ヵ月程前から咽頭痛あ り,1ヵ月程前から嚥下痛と軽度の嚥下困難を訴え る・慰謝一般的には著変なく・局所a勺には石州扁 桃力1正中線近く迄腫脹し,凸凹抹で,弾力性硬,唇面 に浅い潰瘍を認めるも落潮なく,周囲に浮腫性浸潤が 認められた。入院醇厚検査成績は,貧血,血沈中等度 促進の殺陣変な「く,扁桃摘出術を施行したが,被膜外 の腫瘍浸潤はみられなかった。摘出扁桃の重量10gで 組織学的所見では網状に互に連絡した細胞が増殖i.L, 鍍銀染色の結果格子形成を認め;細網肉腫の網状型で ある事を確認した。ラヂウム照尉1550mg時,ザルコ マ■シン15gを使用し,治癒経過良好であるかに見え たが,3ヵ月後の今日,左顎下淋巴節に栂指頭大の転 移が認められ筒治療継続中である。 3. 人工流産後に於ける破傷風患老よリ分離した破 傷風菌に就て (細菌)(演)中西清子・,小林千鶴 忍共の一一一人中西は昭和15年竹内と共に人工流産後に 発症した破傷風患者の膣内容より破傷風菌(小○株) を分離し,その生物学的性状と凝集反応等を試験した が,今回も亦同様入工流産後に発症した破傷風患者の 子宮内容から破傷風菌を分離したので戴に報告する。 先ず被検材料を染色鏡検したが破傷風菌に特有の芽 胞を有する桿菌は認められなかったので,一h部血液寒 天斜面を用いて嫌気性に培養し,一部はマウスに接種 した。マウスによっては破傷風菌を検出出来なかった が,血液寒天斜面培養に於て培地の上部迄破傷風菌に 特有の菌苔が発育したので針峰より無菌し,肝片ブイ ヨンに純培養しその上清液をマウスの皮下に接種した 所,マウスは翌日破傷風の症状のもとに姥死したので 本菌を破傷風菌と同定した。さきに中西は土壌より多 数の破傷風菌を分離し,それ等の生物学的性状,抗原 構造等を検したので今回の菌株とさきに分離した菌株 との間に性状に近いものがあるか否かを知ろうと思っ て既の実験を行った。即ち普通寒天斜面,血液寒天斜 面,ブドウ糖1血液寒天斜面,ブドウ糖寒天高層.血液 寒天平板.EF片ブ/ヨン,ゲラチン,脳粥,牛乳,凝 固血清等の培地への培養,含水炭素分解試験,インド ール反応の検査等を試みた。また本菌の毒素と破傷風 菌抗毒素血清との中和試験を行い本菌の毒素は完全に 中和される事を証明した。本菌の擬集反応の結果は中 一 56.r57 西がさぎに報告した7種類の生菌家兎免疫血清によっ て本菌生菌の擬集反応を行った所,徳島3株血清によ って擬集され,他の6種の血清によっては凝集されな かった。依って本四は徳島3株に属するものと考えら れる。昭和15年分離の小○株も徳島3株に属した。徳 島3株は中西によると土壌中に最も多く#在する菌型 なので,その様な点から隅然にも同型であったのかど うか不朗であるが,興味ありと信じここに報告する次 第である。 4.高血圧症,特にその病因について (中山内科)山田喜久馬 高血圧を呈する疾患は種々存在するが,eのうち二 次的な症候性高血圧でない所の本態性高血圧症は近年 世界の交明国の死因の第一位をしめるに至っている。 tの本態性高血圧症は医学の進歩にも拘らず未だに原 因不明とされてをり,根本的治療法が確立されていな い。∼二の疾患の本態が解明せられるならばその治療も 確立せられるに至ると考えられる。そこで今回は本態 性高血圧症の病因についてどの様に考えられているか について虚説する。高血圧症の病因については,なぜ 高血圧症が家族的に多くみられ,各地に普遍的に分布 しないかという点からと,いかなる機構で血圧上昇を みるのかという=二方向から研究されていると考えられ る。即ち前者では遺伝,環境が主として対象とされて をり,後者では神経性,腎性,内分泌性の因子が問題 とされて研究されている。しかしながら現在迄多くの 業蹟が発表され,多くの∼二とが明にはなったけれども 未だに本態性高血圧症の本態を一元的に説明しうるも のはないのであって,要するにこの高血圧症は遺伝を 基盤とした体質性疾患であって,種.々の環境因子,神 経性因子,体液性の自性ならびに内分泌性因子の数多 くの要素の関与の下にその発生をみるものと考えられ ている。即ち本態性高血圧症というものは現在未知の 分野の方が多く今後の問題と考えても過言でないと思 う。 〔雑