は じ め に トビイロウンカ Nilaparvata lugens とセジロウンカ Sogatella furcifera は古くからアジア地域の水稲栽培にお ける重要害虫として知られている。この 2 種はほぼイネ 単食性であることと休眠性を持たないため,冬期にイネ がなくなる日本では越冬が不可能である。現在,ベトナ ム北部や中国最南端の海南島が越冬できる北限となって いる。これらの地域で越冬したウンカは,5 月ころに中 国華南地域に移動し,そこで 1 ∼ 2 世代増殖した後に, 6 ∼ 7 月ころに梅雨前線の南側を吹く強い下層ジェット 気流に乗って日本に飛来する(OTUKA et al., 2008;寒川, 2010)。 一般的に,害虫に対する殺虫剤抵抗性は,ある場所で 同じ薬剤を使い続けることによって発達する。しかし, イネウンカ類のような長距離移動性害虫では,飛来源に おいて殺虫剤を多用することによって抵抗性が発達し, それが日本に飛来するという特徴がある。このような害 虫の場合,飛来源において薬剤感受性を継続的にモニタ リングすることが重要であるが,ベトナムや中国では現 在,後述するような微量局所施用法による継続的なモニ タリングはほとんど行われていない。また,調査は行わ れていても情報を得ることが容易でない場合も多い。こ のため,日本に飛来するイネウンカ類個体群の薬剤感受 性をモニタリングする必要がある。 日本に飛来するイネウンカ類の薬剤感受性のモニタリ ングについては,永田・守谷(1970)によって開発され た微量局所施用法によって 1967 年に調査が開始され(福 田・永田,1969),その後多くの研究者が同一の手法で 感受性検定を継続してきた(遠藤,1989;永田,2000)。 筆者らの研究グループでは,イミダクロプリドに対する トビイロウンカの感受性低下が見つかった 2005 年以降, 微量局所施用法によるモニタリングを行ってきた。本稿 で は,こ の う ち の 2005 ∼ 12 年 の 結 果(MATSUMURA et al., 2014)に加えて,1967 年から現在までに行われた感 受性検定のデータをもとに,日本に飛来するトビイロウ ンカとセジロウンカの薬剤感受性の長期的な変動につい て概説する。なお,MATSUMURA et al.(2014)の内容につ いては松村(2013)と松村・真田(2014 b)の中でも一 部紹介したが,ここでは過去および 2012 年以降の状況 も含めて紹介する。 I イネウンカ類の薬剤抵抗性モニタリング手法 害虫の薬剤感受性の生物的検定法には様々な手法があ る。イネウンカ類の薬剤感受性については,永田・守谷 (1970)によるマイクロシリンジと微量局所施用装置(マ イクロアプリケーター)を用いた半数致死薬量(LD50値) の算出が標準的な手法となっている(遠藤,1996)。現 在は Burkard Scientifi c 社の手動マイクロアプリケーター が標準的なものとして使われているが,安価な小型ディ ス ペ ン サ ー を 用 い た 簡 易 検 定 法 も 確 立 さ れ て い る (SANADA-MORIMURA and MATSUMURA, 2011)。
ただし,微量局所施用法ではブプロフェジンなどの IGR 剤や,ピメトロジンなどの吸汁阻害作用を示す薬剤 のように,即効的な致死作用を観察しにくい薬剤の感受 性を検定できない。ブプロフェジンについては葉鞘浸漬 法による半数致死濃度(LC50値)を求める検定法が標 準になっている(栗山ら,1987)。ピメトロジンについ ても半数効果濃度(EC50値)を求める手法が IRAC の 標準的な検定法となっているが(IRAC,2012),辻本ら (2014)によって半数効果薬量(ED50値)を算出可能な 新たな手法(雌成虫に薬剤を微量局所施用したあと産卵 させて,次世代ふ化幼虫数を数える手法)も提案されて おり,現在,その手法の標準化が進められている(真田 ら,未発表)。 LD50値や ED50値を用いることによって,異なる年代 や場所で得られた感受性データを直接比較することがで きる。とりわけ,Base 値(殺虫剤が開発された直後に 最初に調べられた LD50値)が調べられている薬剤では, その値との比較を通じて抵抗性倍率が容易に計算できる (表―1)。これに対して,LC50値や EC50値については同 時に試験した感受性系統の値との比較しかできない。例 えば,前年に行った試験と本年の試験の LC50値を比較 している事例をよく見かけるが,薬液濃度が同じであっ
日本に飛来するトビイロウンカとセジロウンカの
薬剤感受性の長期的変動
松 村 正 哉
農研機構 九州沖縄農業研究センターLong-term Trend for Insecticide Susceptibility of Nilaparvata
lugens and Sogatella furcifera Immigrating into Japan. By Masaya
MATSUMURA
ても実験条件によっては虫体に接触する薬液量そのもの が変わり得るため,LC50値の比較は同時に実験したデ ータに限るべきである。また,感受性系統の LC50値と の比較をもって Base 値との比較をしたような論議事例 もよく見かけるが,感受性系統は一般的に実験室内で長 年飼育を続けてきたものであるため,感受性系統の LC50値がその系統が採集された当時の値を反映してい るかどうかの保証はない。このため,実用濃度での効果 試験などではなく感受性の変動を調べることを目的とす る場合には,LD50値や ED50値を求める手法が確立され ている薬剤では,極力その手法で感受性検定を行うべき である。 以下,日本に飛来するトビイロウンカとセジロウンカ の薬剤感受性の長期変動について微量局所施用法で調べ られたデータを中心に紹介する。 II 有機リン剤,カーバメート剤,ピレスロイド剤 1 トビイロウンカ 有機リン剤 2 剤(マラソンとフェニトロチオン)の LD50値は 1967 年にはそれぞれ 6.9μg/g と 9.6μg/g であ ったが(表―1),1970 年代中ごろにはその値が 6 ∼ 7 倍 と な り,1984 年 の ピ ー ク 時 に は 25 ∼ 60 倍 に 達 し た (図―1)。1985 年以降は,両薬剤ともに LD50値が 1970 年 代後半の値まで減少したが,マラソンについては 2005 年 以降,2009 年をピークに再び値が増加した。2009 年に は LD50値の Base 値に対する抵抗性倍率は 215 倍であ った。この値は 1984 年のピーク時を大きく上回るもの であった。これに対して,フェニトロチオンの LD50値 は変動しつつも 2010 年以降には小さい値となり,2012 年 には Base 値に対する抵抗性倍率は 3 倍以下に減少して いる。マラソンとフェニトロチオンの抵抗性倍率の間に 2005 年以降に大きな違いが見られる原因としては,飛 来源において,近年もマラソンが混合剤として使われて いる可能性が考えられる。 カーバメート剤 3 剤(ミプシン,BPMC,カルバリル) の LD50値は,長期的に見るといずれも右上がりに増加 している(図―1)。2005 年以降には Base 値に対する抵 抗性倍率はいずれの薬剤も 20 ∼ 30 倍であり,薬剤によ る大きな違いは見られていない。 ピレスロイド剤のエトフェンプロックスについては, 1980 年代後半からデータがあるが,現在までの約 25 年 間の LD50値の変動は他の薬剤に比べて小さく,Base 値 に対する抵抗性倍率は 6 ∼ 10 倍の範囲で安定している 表−1 日本に飛来したトビイロウンカとセジロウンカの各種薬剤に対する LD50値の Base 値a)b) 薬剤 トビイロウンカ セジロウンカ 年次 LD50値(μg/g) 文献 年次 LD50値(μg/g) 文献 マラソン フェニトロチオン ミプシン カルバリル エトフェンプロックス イミダクロプリド 1967 1967 1967 1967 1986 1992 6.9 9.6 1.1 0.67 0.3 0.16 福田・永田(1969) 福田・永田(1969) 福田・永田(1969) 福田・永田(1969) 井上・深町(1989) ENDO and TSURUMACHI(2001)
1967 1967 1967 1967 1986 1989 1.9 0.72 0.89 0.55 1.4 0.21 福田・永田(1969) 福田・永田(1969) 福田・永田(1969) 福田・永田(1969) 細田(1989)
ENDO and TSURUMACHI(2001) a)Base 値は殺虫剤が開発された直後に日本で最初に調べられた LD50値 . b)BPMC は 1960 年代の値がない.また,ジノテフラン,チアメトキサム,フィプロニルについても殺虫剤が開発された直後に調べ られた値がない. BPMC LD 50 値( μ g/g ) マラソン エトフェンプロックス カルバリル ミプシン フェニトロチオン 2010 2005 2000 1995 1990 1985 1980 1975 1970 1965 0.1 1 10 100 1,000 1,500 図−1 日本に飛来したトビイロウンカの有機リン剤,カ ーバメート剤,およびピレスロイド剤に対する半 数致死薬量(LD50値)の長期的推移 2005 年以降のデータは MATSUMURA et al.(2014)から, そ れ 以 前 の デ ー タ は ENDO and TSUR UMACHI(2001), ENDO et al.(1988),福田・永田(1969),HIRAI(1993), 細 田(1983),永 田(2000),永 田・上 室(2002),
NAGATA et al.(2002),平ら(2001)から作図.
マ ラ ソ ン ▼,フ ェ ニ ト ロ チ オ ン ▽,ミ プ シ ン □, BPMC ●,カルバリル○,エトフェンプロックス■
(図―1)。 なお 2005 年以降には,筆者らの調査のほかに,トビ イロウンカの BPMC とエトフェンプロックスに対する LD50値が長崎県と山口県で求められているが(小嶺ら, 2008;中川ら,2012),同一年度の LD50値を MATSUMURA et al.(2014)の値と比較すると,概して類似している。 2 セジロウンカ セジロウンカについても有機リン剤 2 剤,カーバメー ト系 3 剤,エトフェンプロックスの LD50値が 1967 年以 降調べられているが,トビイロウンカに比べてデータは 少ない(図―2)。特にトビイロウンカで有機リン剤 2 剤 とカーバメート系 3 剤に対する LD50値に大きな変動が 見られた 1975 ∼ 84 年にかけて,セジロウンカのデータ がとられていないため,これらの薬剤に対する感受性低 下が,いつ起こったかは不明である。しかし,1976 年 と 80 年のデータを見ると,いずれの薬剤の LD50値もト ビイロウンカのものよりも小さいため,感受性の低下の 時期はトビイロウンカよりも遅く起こったと考えられる (図―1,図―2)。1984 ∼ 2000 年には,セジロウンカの有 機リン剤 2 剤とカーバメート系 3 剤に対する LD50値は トビイロウンカの値とほぼ同様であったが,2005 年以 降は有機リン剤 2 剤の LD50値がトビイロウンカの値に 比べて小さい傾向にある(図―1,図―2)。特に,トビイ ロウンカで明瞭に見られたマラソンに対する LD50値の 2009 年のピークはセジロウンカでは見られていない。 ピレスロイド剤のエトフェンプロックスについては, トビイロウンカと同様に LD50値の大きな変動は見られ ず,Base 値に対する抵抗性倍率は 3 倍以下と,トビイ ロウンカに比べて低く推移している(図―1,図―2)。 III ネオニコチノイド剤,フィプロニル 1 トビイロウンカ 1990 年代以降に開発されたネオニコチノイド剤やフ ェニルピラゾール剤のフィプロニルは,イネウンカ類の 防除において育苗箱施用薬剤や本田散布剤として広く使 われるようになった。これらの薬剤は,日本のみならず 日本に飛来するイネウンカ類の飛来源となるベトナム北 部・中部あるいは中国南部においても多用されており, 2005 年以降に各地でイミダクロプリドに対するトビイ ロウンカの感受性の低下が報告されるようになった (MA T S U M U R A et al., 2008 ; WA N G et al., 2008 ; LI N G et al., 2011)。日本で最初に調べられたトビイロウンカに対す るイミダクロプリドの LD50値は 1992 年の 0.16μg/g で あった(表―1)。その後,2000 年以降には LD50値が約 10 倍に増加したが,2005 年以降にはさらに抵抗性倍率 が増加し,2008 年には 111 倍に,2012 年には 616 倍(LD50 値 は 98.5μg/g)に 増 加 し た(図―3)。2012 年 以 降 も LD50値は増加を続けている(松村ら,未発表)。前述し BPMC LD 50 値( μ g/g ) マラソン エトフェンプロックス カルバリル ミプシン フェニトロチオン 2010 2005 2000 1995 1990 1985 1980 1975 1970 1965 0.1 1 10 100 1,000 1,500 図−2 日本に飛来したセジロウンカの有機リン剤,カー バメート剤,およびピレスロイド剤に対する半数 致死薬量(LD50値)の長期的推移 2005 年以降のデータは MATSUMURA et al.(2014)から, そ れ 以 前 の デ ー タ は ENDO and TSUR UMACHI(2001), ENDO et al.(1988),遠藤ら(1989),福田・永田(1969), HIRAI(1994),細田(1989),NAGATA et al.(2002),平 ら(2001)から作図. マ ラ ソ ン ▼,フ ェ ニ ト ロ チ オ ン ▽,ミ プ シ ン □, BPMC ●,カルバリル○,エトフェンプロックス■ チアメトキサム チアメトキサム フィプロニル フィプロニル ジノテフラン ジノテフラン イミダクロプリド イミダクロプリド 2010 2005 2000 1995 1990 1985 198519901995 200020052010 0.01 0.1 1 10 100 150 LD 50 値( μ g/g ) 図−3 日本に飛来したトビイロウンカ(左)とセジロウ ンカ(右)のネオニコチノイド剤 3 剤およびフィ プロニルに対する半数致死薬量(LD50値)の年次 推移 2005 年以降のデータは MATSUMURA et al.(2014)から, それ以前のデータは ENDO and TSURUMACHI(2001),永 田・上室(2002),NAGATA et al.(2002),平ら(2001) から作図.
イミダクロプリド●,ジノテフラン▽,チアメトキ サム○,フィプロニル■
た有機リン剤のマラソンでは,Base 値に対する抵抗性 倍率は 42 年間で 215 倍であったが,イミダクロプリド の場合には 20 年間で 616 倍という,短い期間に高い倍 率で抵抗性が発達したことがうかがえる。この理由につ いては,飛来源のベトナムや中国で,イミダクロプリド がトビイロウンカの本田散布の防除薬剤として極めて多 用されてきたことによると考えられる(松村ら,2007)。 なお,2005 年のイミダクロプリドの LD50値は 0.73 μg/g であったが(図―3),同じ年に宮崎,鹿児島,佐 賀 で 採 集 し た ト ビ イ ロ ウ ン カ の LD50値 は 0.66 ∼ 3.5 μg/g であり,2005 年には 2001 年までに比べて感受性 の低下が進んでいたと思われる(MATSUMURA et al., 2014)。 ネオニコチノイド剤のチアメトキサムについては, 2006 年には LD50値は 0.27μg/g であったが,値は年々 増加し,2011 年には 5.7μg/g となり,この間の抵抗性 倍率は 21 倍となっている(MATSUMURA et al., 2014)。ク ロ チ ア ニ ジ ン に つ い て は,2007 年 の LD50値 は 0.23 μg/g であった(中川ら,2012)。この値に対する抵抗 性倍率は 2011 年までは 5 倍程度であったが,2013 年以 降には約 30 倍に増加している(松村・真田,2014 a)。 一方,同じネオニコチノイド剤のジノテフランとニテ ンピラムについては,LD50値,抵抗性倍率ともに比較 的小さい値であり,2013 年まで実用レベルでの感受性 低下は見られていない(松村・真田,2014 a)。フィプ ロニルについても感受性低下は見られない(図―3)。た だし,ジノテフランとフィプロニルの LD50値は,2006 ∼ 12 年の間に 10 倍以下の範囲ではあるものの増加傾向 にあるため,今後の動向には十分注意する必要がある。 以上のように,トビイロウンカについては同じネオニ コチノイド剤の中でも薬剤によって感受性に大きな違い が見られる。 2 セジロウンカ セジロウンカについては,トビイロウンカと異なり, フィプロニルの LD50値が 2005 ∼ 12 年の間に大きく変 動し,2009 年のピーク時には 77.2μg/g と大きな値とな った。フィプロニルについては 2005 年以前の Base 値 が調べられていないため,2005 年の時点でどの程度の 感受性低下が起こったのかについては不明である。しか し,フィプロニルのプロビット回帰直線の傾きは他の薬 剤に比べて小さな値(0.2 ∼ 0.6)であった。傾きの値が 小さい場合,薬量を増やしてもすべての個体が死亡しな いため,実用場面でも効果が高くないものと考えられる。 一方,セジロウンカではネオニコチノイド剤 3 剤(イ ミダクロプリド,チアメトキサム,ジノテフラン)に対 する LD50値は,いずれも小さな値であり,また 8 年間 で大きな変動が起こっていないことから,感受性は変化 していないと考えられる。 以上のように,イミダクロプリドとフィプロニルに対 してトビイロウンカとセジロウンカで全く異なる感受性 パターンが見られた。このような種特異的な抵抗性発達 の要因の一つとして,殺虫剤散布対象の害虫と散布時期 の違いが考えられるが(松村,2009),作用機作におけ る種間の違いの有無についても今後検討する必要がある。 IV ブプロフェジン ブプロフェジンは現在,無人ヘリコプターによるイネ ウンカ類防除の主な本田散布剤として広く使われてい る。前述のように,ブプロフェジンについては微量局所 施用法が適用できないが,佐賀県では 2000 年代後半か ら葉しょう浸漬法による調査が続けられてきた。それに よれば,トビイロウンカのブプロフェジンに対する感受 性低下は 2012 年ころから疑われ始めたが(菖蒲・山口, 2013),2013 年に飛来したトビイロウンカは,実用濃度 レベルでも感受性が低下していることが明らかにされて いる(近藤ら,2014)。福岡県においても 2013 年に感受 性の調査が行われ,同様な結果が得られている(清水, 2014)。このため,2013 年のトビイロウンカ多発要因の 一つとして,ブプロフェジンによる防除が十分でなかっ たことが挙げられている(松村・真田,2014 b)。2014 年 からは,無人ヘリコプターによる本田防除ではブプロフ ェジン剤とジノテフラン剤等との混合剤が使われる事例 が増えている。 なお,中国とベトナムにおいては,2010 年にトビイ ロウンカのブプロフェジンに対する中∼高程度の抵抗性 が 発 達 し た と の 報 告 が あ る(LING et al., 2011)。一 方, セジロウンカについては,現在までブプロフェジンに対 する感受性が変化したという報告は見あたらない。 お わ り に ピメトロジンは,日本においてトビイロウンカに対す るイミダクロプリド剤とセジロウンカに対するフィプロ ニル剤に対する抵抗性発達が起こったあと,2 種のウン カに効果の高い代替薬剤として,苗箱施用薬剤としての 普及が拡大している。また,飛来源のベトナムや中国に おいても,本田散布剤としてのピメトロジンの使用量が 近年大きく増加している(LING et al., 2011)。このため, ピメトロジン剤に対するイネウンカ類の感受性について も早期に Base 値を求めておく必要がある。前述したよ うに,辻本ら(2014)の手法の標準化を急ぐ必要がある。 また,今後開発される薬剤には,ピメトロジンと同様に
吸汁抑制作用を示す薬剤が出てくる可能性もある。この ような薬剤については,将来抵抗性倍率を比較できるよ うに早めに Base 値を調べておくことが重要である。 微量局所施用法で調べられた LD50値の変動と実際の 圃場における防除効果との関係については,LD50値が どのレベルになると防除効果が落ちるなどと一概にいう ことはできないが,圃場試験における残効との関係から ある程度の対応付けが可能になる。2005 年にはトビイ ロウンカのイミダクロプリドに対する LD50値が大きく なり,一方フィプロニルに対する LD50値は小さいまま であった(図―3)。行徳ら(2007)は,2005 年に飛来し たトビイロウンカに対するイミダクロプリド剤とフィプ ロニル剤苗箱処理の残効について調査を行っている。そ れによれば,イミダクロプリド剤の残効期間は 15 ∼ 30 日,これに対して,フィプロニル剤のそれは 58 日以上 であった。このようなデータによって防除効果との対応 付けが可能になる。ただし,苗箱施用薬剤については, 施用後の気象条件などの環境条件によって稲体内の薬剤 濃度が早く低下する場合もあると考えられる。井上 (1993)は,苗箱施用したイミダクロプリドの稲体内濃 度のイネの生育に伴う消長とトビイロウンカの発生推移 との関係を解析している。今後,他の薬剤についてもこ のような調査を行っていくことが,薬剤感受性のデータ と圃場での防除効果との対応付けをするうえで重要になる。 冒頭に述べたように,トビイロウンカとセジロウンカ の薬剤抵抗性は,飛来源地域で抵抗性を発達させた虫が 日本に飛来するという特徴を持っている。このため,飛 来源地域において薬剤感受性の継続的なモニタリングを 行いその情報を得ることが,日本のイネウンカ類の発生 予察において重要となる。筆者らの研究グループでは, これまでも飛来源のベトナムにおける薬剤感受性モニタ リング体制の整備に向けた研究協力を行ってきたが,ベ トナムにおいてピメトロジンの感受性検定法などを含め た継続的なモニタリング体制を早急に確立するため,今 後さらに研究協力や共同研究を強化していく予定である。 引 用 文 献 1) 遠藤正造(1989): 植物防疫 43 : 517 ∼ 521. 2) (1996): 同上 50 : 435 ∼ 439.
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