硫化物再処理プロセスにおける核分裂生成物の挙動
佐藤修彰
*1,天野祐希
*2,桐島陽
*1Behavior of Fission Products in Sulfide Reprocessing Process
By Nobuaki Sato
,
Yuki Amano and Akira Kirishima
For the development of sulfide reprocessing process for spent nuclear fuel, behaviors of fission products (FP) in the sulfide reprocessing process was analyzed by the use of their radioactive tracers. First,the FP tracer doped U3O8was prepared by two stage heat-treatments using152Eu,141Ce,140Ba,137Cs,103Ru,95Zr and90Zr
tracers.Then the FP tracer doped U3O8was sulfurized by CS2at 573,673 and 773 K followed by dissolving the
sample into nitric acid.The dissolution ratios were obtained from γ-ray spectrometry of the tracers.The results are summarized as follows; 1) Dissolution ratio of Eu was high compared with that of U,and it increased with increasing sulfurization temperature,2) Cerium and Zr showed very low dissolution ratios as well as that of U,3) Dissolution ratio of alkali and alkaline earth elements was very high for all temperatures,4) Ruthenium showed very low dissolution ratio (c.a.1%),because of the formation of very stable sulfide,5)The experimental results correspond well with the thermodynamic consideration.
(Received on February 14th,2011) Keywords: Spent oxide fuel,minor actinides,fission products,sulfide reprocessing process
1
はじめに
現在,日本には54基の軽水炉が稼動中であり,エネルギー供給におけるシェアは35%に達する. 軽水炉では,化石燃料であるウラン鉱石より製造する二酸化ウランUO2を燃料として用いているが, エネルギー需要の急増によるウラン資源の安定供給が課題となっている.原子力の持続的な利用の ためには,使用済核燃料のリサイクル,すなわち核燃料サイクルの確立が不可欠である.使用済燃料 中には種々の核分裂生成物が存在し,その中には大きい中性子吸収断面積を有し,原子炉内での燃焼 に影響を及ぼす核種がある.また,放射能が強く,燃料製造工程に影響する核種もある.これらを再 処理工程において分離し,リサイクル燃料および廃棄物とする.次世代再処理法としていくつかの乾 式および湿式プロセスの基礎研究および工業化試験が行われている.我々は,硫化物の特長を利用し てレアーアース等の核分裂生成物(FP)を選択的に硫化して分離し,ウランやプルトニウムを酸化物 としてリサイクルする硫化物再処理法の研究を行っている[1–3].この方法は,原子炉で燃焼した使 用済みUO2燃料をボロキシデーションによりU3O8とする.次にこの酸化物試料について,FP中 の,特に中性子経済に影響をおよぼす希土類を分離すべき対象として,二硫化炭素(CS2)を用いて オキシ硫化物および硫化物にする.この際,硫化温度が低いため,U3O8 は還元されてUO2となる ものの,硫化はされない.また,リサイクルすべき使用済燃料中の核燃料物質であるプルトニウムに ついては,セリウムを模擬物質として行った結果,UO2と同様に,酸化物として分離・回収される ことがわかった[4].したがって,プルトニウムはウランと同様に酸化物燃料としてリサイクルでき ると考えられる.最後に,硫化された希土類成分を酸溶解処理により溶出させて分離し,UO2を回 収する.アルカリ金属やアルカリ土類金属についても選択硫化,酸溶解の各工程において同様な挙動 をすると考えられる.しかしながら,使用済核燃料中に含まれるネプツニウム(Np)やアメリシウム (Am),キュリウム(Cm)といったマイナーアクチノイド(MA)は数千年といった長い半減期をもつ もの(237Np : 2.14× 106y ,243Am : 7.37× 103y) が多く,それらの分離変換が核燃料サイクルにお いて重要な課題となっている.本プロセスにおいてもPuやMAの挙動を解明するために,マクロ量 *1東北大学金属材料研究所 *2日本原子力研究開発機構の使用は難しいが,237Npの(γ,n)反応により製造した236Puや,237Np,241Amといったトレー サーを用いて,硫化挙動を検討した[5, 6].本研究では,使用済核燃料中に共存するCsやZrといっ た他のFPについて,トレーサーを添加したU3O8試料を調製し,硫化および酸溶解処理後の試料の γ線スペクトロメトリーよりFP元素の溶解率を求めた.さらに,硫化反応について熱力学的に解析 し,実験結果と比較して,FP元素の硫化挙動について評価した.
2
試料の調製
2.1
トレーサー添加
U
3O
8の調製
152 152 152 152Eu, Eu, Eu, Eu, 141141141141Ce, Ce, Ce, Ce, 140140 140
140Ba, Ba, Ba, Ba, 95959595Zr, Zr, Zr, Zr, 103103103103Ru, Ru, Ru, Ru,
硝酸溶液 硝酸溶液 硝酸溶液 硝酸溶液 混 合 U U U U3333OOOO8888 トレーサー トレーサー トレーサー トレーサー添加添加添加添加ウランウランウランウラン硝酸溶液硝酸溶液硝酸溶液硝酸溶液 ウラン ウランウラン ウラン硝酸溶液硝酸溶液硝酸溶液硝酸溶液 沈殿・ろ過 NH NH NH NH4444OHOHOHOH 焼成(1273 K) トレーサー トレーサー トレーサー トレーサー添加添加添加U添加UUU3333OOOO8888((((1111)))) 焼成(1073 K) 混 合 137 137 137 137Cs, Cs, Cs, Cs, 85858585SrSr硝酸溶液SrSr硝酸溶液硝酸溶液硝酸溶液 トレーサー トレーサー トレーサー トレーサー添加添加添加添加UUUU3333OOOO8888((((2222)))) 152 152 152 152Eu, Eu, Eu, Eu, 141141141141Ce, Ce, Ce, Ce, 140
140 140
140Ba, Ba, Ba, Ba, 95959595Zr, Zr, Zr, Zr, 103103103103Ru, Ru, Ru, Ru,
硝酸溶液 硝酸溶液 硝酸溶液 硝酸溶液 混 合 U U U U3333OOOO8888 トレーサー トレーサー トレーサー トレーサー添加添加添加添加ウランウランウランウラン硝酸溶液硝酸溶液硝酸溶液硝酸溶液 ウラン ウランウラン ウラン硝酸溶液硝酸溶液硝酸溶液硝酸溶液 沈殿・ろ過 NH NH NH NH4444OHOHOHOH 焼成(1273 K) トレーサー トレーサー トレーサー トレーサー添加添加添加U添加UUU3333OOOO8888((((1111)))) 焼成(1073 K) 混 合 137 137 137 137Cs, Cs, Cs, Cs, 85858585SrSr硝酸溶液SrSr硝酸溶液硝酸溶液硝酸溶液 トレーサー トレーサー トレーサー トレーサー添加添加添加添加UUUU3333OOOO8888((((2222))))
Fig.1 Preparation of U3O8sample doped with FP
trac-ers. 次に,トレーサーを添加したU3O8試料 の調製方法をFig.1に示した.アクチノ イドとして236Pu,241Amおよび237Np を,また,FPとして152Eu,137Cs,85Sr を添加した.所定量の金属ウランを硝酸 溶液に溶解し,ウラニル溶液を得た.これ に152Euや141Ce,140Ba,103Ru,95Zrの 硝酸溶液を添加し,混合溶液とした.こ れにアンモニア水を添加して重ウラン酸 アンモニウム(ADU)を沈殿させ,メン ブレンフィルターにより濾過してトレー サー添加ADUを得た.このADUをア ルミナ製るつぼに入れ,空気中1273 Kに おいて12時間焼成し,トレーサー添加 U3O8(1)とした.137Csや90Srの酸化物 は1273Kでは揮発するので,得られたトレーサー添加U3O8にこれら硝酸溶液を所定量添加し,空気 1073Kにおいて加熱処理を行い,FP添加U3O8試料を調製した.得られたトレーサー添加U3O8試 料(2)を用いて,硫化実験および酸溶解実験を行った.
2.2
硫化実験
次に,得られた試料について,CS2雰囲気において反応させ,硫化挙動を調べた.硫化反応装置の 概略は既報に示してある[3].まず, 所定量のトレーサー添加U3O8試料を石英ボートにのせ,これ を電気炉中央部にくるように反応管内の所定位置に置いて,真空排気後窒素置換した.続いてCS2に N2ガスをバブリングして得られる混合ガスを系内へ導入(50ml/min)した.次に,電気炉を炉中央 部に挿入された熱電対とデジタルプログラム調節計(CHINO KP-1000)により制御し,所定温度ま で10K/minで昇温後,同温度にて1時間保持し反応させた.反応温度は573,673および773Kとし た.反応後の試料について酸溶解実験を行った.2.3
酸溶解実験
硫化実験後の試料について硫化された部分を選択的に溶解して分離するために,以下のように酸溶 解実験を行った.硫化後のU3O8試料を323Kの1M硝酸100 mlに浸漬して1時間振とうし,溶解 させた.次にこの溶解液をANODISCフィルター(0.02mm)を用いて吸引ろ過し,ろ液(1)および残 差を分離した.残渣についてはさらに加熱した濃硝酸で溶解させて残渣溶解液(2)を調製した.2.4
γ
線測定による溶解率の決定
FP元素についてはγ線スペクトロメトリーを利用して定量分析が可能であり,反応前後における 物質収支からその挙動を調べた.使用したトレーサーの核種,半減期および測定に使用したγ線のエ ネルギーをTable 1に示す.2.4で得られるろ液(1)および残渣溶解液(2)についてはCanberra製 Ge半導体検出器(Model 2001C)を用いて3000∼100000秒測定し,それぞれのγ線の放射能強度を 求めた.得られた放射能強度Aより各元素の溶解率Dを次式により求めた.ここでA0およびA1は それぞれ,硫化および酸溶解処理前後の各核種の放射能強度である. D(%) = A1/(A0)× 100 (1)Table 1 Half life and γ ray energy of the FP tracers [7]. Tracer 137C
s 85Sr 140Ba 152Eu 141Ce 95Zr 103Ru
Half life(d) 30.17(y) 64.9 12.75 13.33(y) 32.50 64.0 39.35
γ ray energy(keV) 145 514 537 122 145 757 497
2.5
吸光度測定によるウランの溶解率の決定
Uの溶解率は,Ar-IIIを呈色試薬として用いた吸光光度定量により各溶液のUの濃度を定量する ことにより決定した.他の金属イオンはトレーサー量(CM<10−12M)であるため,共存金属イオン による妨害は無視できるものとした.装置は島津製作所製の分光光度計UV-3100PCを使用した.予 め,濃度既知の場合の吸光度を濃度に対してプロットして最小二乗法で検量線を作成した.各溶液か ら一部を採取して希釈して,液性を0.1 M硝酸,1.5× 10−4M Arsenazo-IIIとして吸光度を測定し, 650.00 nmでの吸光度からUを定量した.3
実験結果
3.1
硫化処理おける
U, Eu, Sr
および
C
sの挙動
500 600 700 800 Sulfurization temperature / oC 0 20 40 60 80 100 D is so lu ti o n r a ti o / %Fig.2 Dissolution ratios of U(2),Eu(3),
Sr(△) and Cs(▽). 硫化および酸溶解処理前後の放射能強度から求めた U(2),Eu(3),Sr(△)およびCs(▽)の溶解率を硫化 温度に対してFig.2に示す.Uの場合には,硫化温度 が増加しても,5%程度の低い溶解率を示した.これ に対し,Eu,SrおよびCsとも,硫化温度の上昇とと もに,溶解率も上昇し,ウランとの分離ができること がわかる.特に,CsやSrでは90%近い溶解率が得 られ,硫化処理後に酸溶解処理を行うことにより,FP 元素をウランと分離できることを示唆している.希土 類元素の場合,酸化物とCS2との反応により低温にて オキシ硫化物を生成し,高温においてはセスキ硫化物 を生成する.セスキ硫化物に比べるとオキシ硫化物の 1M硝酸への溶解は常温では遅いものの,それでも, 1時間では十分に溶解する.このようなIII価の希土 類元素の溶解挙動に対し,アルカリおよびアルカリ土
類元素では,酸化物や硫化物の状態において硝酸に容易に溶解し,高い溶解率を示すこととなった.
3.2
Ce, Zr, Ba
および
Ru
の挙動
Table 2にはCe,Zr,BaおよびRuについて,CS2により673Kにおいて1時間硫化処理し,そ の後酸溶解した場合の,溶解率を示した.CeやZrはウランと同程度の溶解率を示した.また,Ba は11%とウランより高い溶解率であったが,Ruの場合には1%とほとんど溶解しないことが分かっ た.CeやZrは酸化物の場合,IV価のCeO2やZrO2が安定であり,これらはUO2と同じ結晶構造 を持ち,硫化においてもUO2と同様の挙動を示したものと考えられる.Baの場合には,BaSが酸に 容易に溶解するため,硫化反応が進行したものと考えられる.Ruの場合も,硫化は進行するものの, RuS2が酸に溶解しにくく,したがって,低い溶解率となったものと考えられる.Table 2 Dissolution ratio of Ce, Zr, Ba and Ru. Element Ce Zr Ba Ru D(%) 6.17 5.20 11.18 1.09 これらの結果から,希土類元素や,アルカリおよびアルカリ土類元素の溶解に比べ,ウランやIV価 の二酸化物MO2の溶解率は小さく,選択硫化および酸溶解処理により希土類元素の分離と核燃料物質 の回収が可能であることが分かった.白金族元素については硫化により硫化物を生成するものの,そ れらは安定で硝酸に溶解しにくいことが分かり,回収ウランからの分離について検討する必要がある.
4
熱力学的検討
4.1
希土類元素の挙動
400 600 800 1000 1200 Temperature / K -400 -300 -200 -100 0 100 ∆ G 0 / k J m o l -1 (1) (2) (3) (1)1/3U3O8+CS2=US2+CO2+1/3O2(2)Eu2O3+CS2=Eu2O2S+CO+1/2S2
(3)2SrO+CS2=2SrS+CO2
Fig.3 Gibbs free energy for the reactions of U3O8, Eu2O3and SrO with CS2.
本研究で対象とした核分裂生成物についてCS2と の反応のGibbs自由エネルギーについて熱力学デー タベースMALT [8]を用いて検討した.Fig.3には, U3O8, Eu2O3およびSrOとCS2との反応によりそ れぞれUS2, Eu2O2SおよびSrSを生成するときの CS21モルあたりのGibbs自由エネルギー(∆Go)の 温度変化を示した.3.1では137Csを用いた実験結果 があるが,セシウムの場合,Cs2Oのような酸化物の データはあるものの,硫化物のデータがないため,図に は示していない. 同様に,Fig.7には,ZrO2, CeO2,
BaOおよびRuO2 とCS2 との反応によりそれぞれ ZrS2, Ce2O2S, BaSおよびRuS2 を生成するときの CS21 モルあたりのGibbs自由エネルギー(∆Go)の 温度変化を示した. まず,FPとして最も多く生成する希土類元素の挙動について考える.Fig.6からEu2O3の場合低 温からオキシ硫化物を生成し,硝酸に溶解するため,高い溶解率は示しているが,CeO2の場合には, 6.2%とウランと同程度の溶解率になっている.Fig.3および4から,U3O8からUS2を生成する反応 と,CeO2の硫化反応では,低温では∆G0が正であり,硫化が進みにくいことがわかる.既報[4]で も述べたように,固体ではCe(IV)が安定であり,反応しにくいが,高温になるとCS2との反応によ
りCe(IV)がCe(III)へ還元され,その後,オキシ硫化物Ce2O2Sを生成すると考えられる.オキシ 硫化物を生成すると,酸に溶解するようになると考えられる.しかし,CeO2はUO2と同じ結晶構造 を持ち,使用済燃料中では,UO2と固溶体を生成している. 400 600 800 1000 1200 Temperature / K -400 -300 -200 -100 0 100 ∆ G 0 / k J m o l -1 (1) (2) (3) (4) (1)ZrO2+CS2=ZrS2+CO2
(2)2CeO2+CS2=Ce2O2S+CO2+1/2S2
(3)2BaO+CS2=2BaS+CO2
(4)RuO2+CS2=RuS2+CO2
Fig.4 Gibbs free energy for the reactions of ZrO2,CeO2,BaO and RuO2with CS2.
このため,UO2と同様の挙動を示す.このことは,
PuO2の模擬としてCeO2が使用されることもあり,
236Puトレーサーを用いた実験でも同様の挙動を示し
た.ZrO2はUO2への溶解度はCeO2やPuO2ほど
高くないが[7],同じ蛍石型構造をとり,同様の挙動 を示すことが分かる. このようなIV価の希土類元素に対し,Eu2O3の ようなIII価の希土類元素は,CS2と低温にて反応し て,オキシ硫化物や硫化物を生成する.Fig.2の結果 からはEuの溶解率は硫化温度の上昇ともに増加して いる.Fig.3からは,Eu2O2Sが生成し,硫化温度の 上昇とともに反応速度の増加や,オキシ硫化物から Eu2S3 やEu3S4といった硫化物を生成し,より溶解 率が増加したものと考えられる.
4.2
アルカリおよびアルカリ土類元素の挙動
-80 -60 -40 -20 0 20 log P(S2) / atm -80 -60 -40 -20 0 20 lo g P (O 2 ) / a tm Sr SrO SrS SrSO4 C+O2=CO2 C + S2 = C S2 1/2S2+O 2=SO 2Fig.5 Potential diagram for the Sr-S2-O2
system at 773 K. 使用済燃料中には,FPとして半減期が数十年の 137Csや90Srが存在する.ここでは,アルカリおよび アルカリ土類元素の挙動について検討する.3.2にお いてCsおよびSrは高い溶解率を示し,ウランと分 離できることがわかった.まず,アルカリ元素である Csの場合,Fig.2に示したように,137Csは高い溶解 率を示している.アルカリ元素の酸化物自体が,酸に 溶けやすく,硫化によりさらに溶解しやすくなったも のと考えられる. 次に,アルカリ土類元素の場合について検討する. Fig.3に見られるように,SrOとCS2との反応により SrSを生成する反応の∆G0は,大きな負値を示し,硫 化反応が進行することが分かる.生成したSrSは酸に 可溶であり,その結果高い溶解率を示したものと考え られる.Fig.5には773Kにおける Sr-S2-O2系のポ
テンシャル状態図を示す. 比較のため,同温度におけるlogP(S2),logP(O2)およびlogP(SO2) = 0
となる線を破線で示した.この図をみると,log P(S2)およびlogP(O2)の交点はSrS領域内にあり,
この温度ではSrSを生成することが分かる.したがって,CS2による硫化処理によりSrSを生成し,
SrSが可溶性であるため,高い溶解率を示したものである.さらに,硫化温度の上昇とともに,硫化
率が上がり,その結果,溶解率も上昇したものと考えられる.また,BaOの場合には,CS2との反応
によりBaSを生成し,Srと同様高い溶解率を示すものと考えられたが,Table 2の結果では11%と
低かった.これは,BaOがZrO2のような酸化物とBaZrO3のような安定な複合酸化物を生成し,硫
4.3
高融点金属元素の挙動
-80 -60 -40 -20 0 20 log P(S2) / atm -80 -60 -40 -20 0 20 lo g P (O 2 ) / a tm Zr ZrO2 ZrS2 Zr(SO4)2 C+O2=CO2 C + S2 = C S2 1/2S2+O 2=SO 2Fig.6 Potential diagram for the Zr-S2-O2
system at 673 K. -80 -60 -40 -20 0 20 log P(S2) / atm -80 -60 -40 -20 0 20 lo g P (O 2 ) / a tm Ru RuO2 RuS2 C+O2=CO2 C + S2 = C S2 1/2S2+O2=SO 2
Fig.7 Potential diagram for the Ru-S2-O2
system at 673 K. 使用済燃料中に混在する高融点金属元素としては, Zr,NbおよびMoがある.ZrO2はUO2と同じ蛍石 構造をとるが,UO2への溶解度は高くなく,一部は固 溶体,他はZrO2として存在する.Table 2に示した 673Kにおける硫化の結果から,ZrはUと同程度の 溶解率を示した.Fig.3からは,ZrO2からZrS2への 硫化反応の∆G0 はこの温度範囲では正であり,硫化 は起こりにくい.Fig.6には673KにおけるZr-S2-O2 系ポテンシャル状態図を示した.この図をみると,log P(S2)およびlogP(O2)の交点はZrS2領域内にある ことが分かる.ZrS2を生成したとしても,酸に不溶 であり,低い溶解率を示すと考えられる.しかし,熱 力学データはないものの,Zrの場合にもオキシ硫化 物ZrOSが報告されており,ZrO2から部分硫化によ るオキシ硫化物の生成と,その溶解率への寄与がある ものと考えられる.このことは,ウランの場合にも, UO2から一旦UOSを生成してから,UOSがさらに 硫化されてUS2となる.このため,ZrO2もUO2と 同様な硫化挙動をするものと考えられる.
4.4
白金族元素の挙動
使用済核燃料中にはPtやPd,Rh,Ruといった白 金族元素が混在する.ここでは,白金族元素の硫化挙 動について検討する.3.2において,673 Kでの硫化 処理において103Ruの放射能強度から求めた溶解率 は1%と低い値を示した.Fig.3において∆G0 は負 に大きな値を示し,RuS2を生成する.しかしRuS2 は酸に不溶であり,従って,硫化反応は起こるものの,硫化物が溶解しないため,低い溶解率となっ たものと考えられる.Fig.7には673KにおけるRu-S2-O2系のポテンシャル状態図を示す.この図 を見ると,IV価の化合物RuS2およびRuO2が存在するが,データがないため硫酸塩などは描かれていない.比較のため,同温度におけるlog P(S2),logP(O2)およびlogP(SO2) = 0となる線を破線
で示した.この図をみると,logP(S2)およびlogP(O2)の交点はRuS2領域内にあり,この温度では
RuS2が安定であることが分かる.したがって,CS2による硫化処理によりRuS2を生成するものの, RuS2は酸へは不溶のため,溶解せずに残渣中に残ったものと考えられる.
5
おわりに
本研究では,新しい概念に基づく硫化物再処理プロセスにおけるFP元素の挙動について,152Eu や137Cs,85Sr,95Zr,103RuといったRIトレーサーを添加したU3O8を用いて硫化および酸溶解実 験を行い,それらの挙動について検討した.結果は以下のようにまとめられた.1) FP(152Eu,141Ce,140Ba,137Cs,103Ru,95Zrおよび85Sr)を添加したU 3O8試料を調製した. 2) 673∼773 Kにおける硫化および酸溶解処理において,ウランはほとんど溶解しなかった. 3) セリウムやジルコニウムもウランと同様な挙動を示すことが分った. 4) ユウロピウムやセシウム,ストロンチウムおよびバリウムは高い溶解率を示した. 5) ルテニウムは低温にて硫化されるものの,酸へ溶解せず,低い溶解率を示した. 本研究により得られた結果から,使用済燃料をボロキシデーション後に硫化処理を行うと,FP中の 希土類元素やアルカリ金属,アルカリ土類金属,白金族元素も硫化される.生成した硫化物は硝酸へ の溶解により分離でき,硫化されなかったウランおよびプルトニウムは酸化物として回収できるもの と考えられる.白金族硫化物が酸に溶解しないため,それらの分離が必要となる.本プロセスの特徴 は,低温かつ簡単な工程であること,燃料成分を酸化物として回収できること,使用する反応物質が 極めて少量で済むことなどがあるが,今後,選択硫化の低温化やマクロ量を用いた酸溶解など,プロ セスの効率化を明らかにし,プロセス全体の成立性を検討していく必要がある.
謝 辞
本研究におけるトレーサー製造にあたってご指導賜りました東北大学理学研究科付属原子核理学研 究施設大槻勤准教授に感謝の意を表します.文 献
[1] Sato, N., Shinohara, G., Kirishima, A., Tochiyama, O., J. Alloys Compds,451 (2008), 669. [2] Sato, N., Tochiyama, O.; Recent Advances in Actinide Science, The Royal Soc. Chem., Sp.
Pub. 305 (2006), 457.
[3] 佐藤修彰,佐藤宗一,素材研彙報, 63 (2007), 69.
[4] 佐藤修彰,古村基宏,桐島陽, J. of MMIJ, 124 (2008), 640.
[5] 佐藤修彰,天野祐希,仁平敏文,三頭聰明,桐嶋陽,素材研彙報, 64 (2008), 31. [6] 佐藤修彰,桐嶋陽,環境資源工学, 57 (2010), 135.
[7] Magill, J., Pfennig, Galy,J.: “Chart of the Nuclides”, 7th Edition, European Communities, (2006).