2007年度 卒 業 論 文
スキー場での人数規制を考慮したシミュレーション
指導教員:渡辺 大地講師メディア学部 ゲームサイエンス
学籍番号
M0104414
宮崎泰広
2007年度 卒 業 論 文 概 要 論文題目
スキー場での人数規制を考慮したシミュレーション
メディア学部 氏 指導 学籍番号 : M0104414 名 宮崎泰広 教員 渡辺 大地講師 キーワード 群集シミュレーション、スキー、スノーボード、 人体円、向心力 スキー場では、近年利用者の中で受傷する人数の割合が高くなってきている。スキー 場で受傷する原因の一つとしてスノーボーダーと他利用者の接触事故がある。その受傷 率は、6、7 年前と比べてスノーボードの利用客が増えるのと比例するように増えている。 スキー場での接触事故によって時には骨折などの大怪我を負うこともあり大変危険であ る。またそれは、群集の密集度によって危険も増大する。そのため、一部ではスキー、ス ノーボードどちらかの専用スキー場なども存在するが、具体的な人数規制が行われてい るところはほとんどない。本研究では、スキーヤーとスノーボーダーそれぞれの人数の割 合によって衝突回数がどう変化するかを実験し、割合をどのように調節すればそれぞれ のモデルが快適にすべることが出来るかを検証する。そのための手段としてまず、スキー 場における新たなシミュレーション手法を提案する。スキー場におけるシミュレーション を行う際にスキー、スノーボードのモデルを定義するとき、基本的な動作は直進と曲が ることである。スキー、スノーボードの動作をそれぞれ定義することによってモデルの動 きに変化を出す。スキー、スノーボードそれぞれのターンは力学的にはそう違いはない。 スキーヤー、スノーボーダーはそれぞれ重心を傾けることによって生まれる向心力によっ て曲がりたい方向に曲がる。それぞれに違いが出るのは板の違いによるところが大きい。 扱っている人の体重が同じ場合でも板の長さ、幅が違うことによって曲がっているときに 発生する遠心力の強さが異なるため、滑り方に違いが出る。滑り方の違いは、スキー、ス ノーボードの初級者、上級者によっても出る。モデルの動きを初級者、上級者と分けるこ とによってよりリアルなシミュレーションに近づけることができる。また、モデルが他モ デルとある程度近づいたときには回避行動をとるようにし、もしぶつかってしまった場合 は一定時間停止することとする。このようにスキー、スノーボードでそれぞれの特徴を生 かしたモデルを作ることによって、それらのモデルが混在するときのリアルな動きをする シミュレーションを作る。目 次
第 1 章 はじめに 1 1.1 本研究における目的 . . . . 1 1.2 本論分の構成 . . . . 3 第 2 章 シミュレーションモデルの設計 4 2.1 モデルの基本的な動作設計 . . . . 4 2.2 スキーヤーとスノーボーダーの区別化 . . . . 8 2.3 熟練度の設定 . . . . 10 2.4 衝突判定 . . . . 11 2.5 モデルの転倒 . . . . 14 2.6 コース上の規制 . . . . 15 第 3 章 検証 16 3.1 評価 . . . . 19 第 4 章 おわりに 20 謝辞 22 参考文献 23第
1
章
はじめに
1.1
本研究における目的
スキー場では、近年にかけて高い受傷率を維持している [1]。その原因としては、 スノーボーダーの受傷率が高いことが挙げられ、スノーボーダーの人数の割合は 昔と比べて近年ではスキーヤーと比べてほぼ半分程となっている [1]。スキー場で の受傷の原因として、自分で転倒することの次に他利用者との接触事故が多く、そ の内訳をみると、スノーボーダーと他利用者が接触するケースの割合が大変高い。 つまり、スキー場におけるスノーボーダーの人数の割合が大きくなることによっ て、怪我をする確率が上がっているということである。スキー場での衝突事故は、 対人事故でも場合によっては骨折、さらには死亡事故となってしまう恐れもあり、 大変危険である [2]。その場合、利用客はスキー場の安全の管理体制を問題とし、 それに対して訴えを起こす判例は世界中でもある [3]。全国スキー安全対策協議会 によれば、スキー場での事故の対策として、スキー場での行動規則や国内スキー 等安全基準が設けられている [4] が、一般スキーヤーなどではこれらはあまり浸透 していない。また、スキー場によってはスキーかスノーボードどちらか専用の所 であったり、スノーボードの一部の技を規制したりしている所もあるが、具体的に 人数を規制している場所は今のところない。本研究では、スキー場においての人 数規制を行う際、それぞれの人数の割合がどの程度になればよいかを知ることが 目的である。本研究では、それらを検証する手段としてスキー場におけるスキー、スノーボードのモデルの設計を提案し、それを用いて新たなシミュレーション手 法の設計を行う。 スキー場におけるスキーヤー、スノーボーダー全体は、多数の要素からなる群 集とみなすことができる。群集とは、統制されていない多数の人の流れのことを いう。その群集をシミュレーション化する手法としては、既存研究において群集 シミュレーション [5][6][7] がある。群集シミュレーションによって特定の場所にお ける群集の流れをシミュレーション化する研究 [8][9][10] や突発的な状況による群 集の流れの変化をシミュレーション化する研究 [11][12][13] がある。しかし、既存 研究においては群集の個々は歩行者と想定する場合が多く、スキー場においての スキーヤー、スノーボードの場合は、 • モデルの描く軌跡 • 速度・加速度 • 当たり判定 これらの違いがあるため、群集シミュレーションとしてスキーヤー、スノーボー ダーのような動きを想定したモデルを扱う場合は、衝突の処理などにおいて正し いシミュレーションを行うことはできない。よって、本研究においては群集シミュ レーションを用いず独自のシミュレーション手法の開発をする。 そこで、本研究においては、 • 新たなモデルの定義 • スキー場という場所における定義 と大きく分けて二つの条件を解決する手法を確立し、スキー場においてスキーヤー とスノーボーダーの人数の割合を規制したとき、その割合によってスキー場の中 の群集の動きがどう変化するかを検証する。スキー場にはそれぞれのレベルにあっ た滑り場があり、上級者ほど山の高いところから急斜面を降りることができる。つ
まり、上級者ほどリフトでスキー場の高いところまで上がって、そこから速く滑り 降りる。上級者は初級者に比べて素早く向きを変えながら降りる軌跡になる。滑 り降りる途中でそれぞれのコースは統一され、そこは初級者や上級者など動きの 違うモデルが最も集まる場なので衝突の危険が高い。本研究ではそのちょうど上 級者と初級者が混ざるゲレンデを想定したシミュレーションを行う。
1.2
本論分の構成
なお本研究は、本章を含め全部で 4 章で構成されている。第 2 章においては本 研究におけるシミュレーションモデルの設計について述べ、第 3 章ではそれをプ ログラムをして実装したものを検証し、その評価を行う。最後に第 4 章では研究 全体の総括を述べる。第
2
章
シミュレーションモデルの設計
本章では、スキー場においてのシミュレーションをする際のスキーヤー、スノー ボーダーのモデルの定義をする。1 章で述べた通り、スキー場においてスキーヤー、 スノーボーダーをモデル化する場合、動作の AI としてそれまでの既存研究である 群集シミュレーションのモデル化の定義を使うことはできない。本章においては、 モデルに対する細かい設定事項について述べる。2.1
モデルの基本的な動作設計
本研究においてはスキーヤー、スノーボーダーを群集の個々として考えること になる。スキーヤー、スノーボーダーは自分自身でスピードを調節し、滑りたい ように、または他の利用客に接触しないように動く。また、スキーヤー、スノー ボーダーは技術的な面で個人差があり、その個人差によってできることも変わっ てくる。まずは、スキー場におけるスキーヤー、スノーボーダーとして動く際の 基本的な情報を挙げる。 スキー、スノーボードの動作には, • 直滑降 • 斜滑降がある。 スキーヤー、スノーボーダーがどちらの行動を選択するかは直感的なものであ る。それぞれを選択することで物理的にスキー板、スノーボードに対してかかる 力が変わってくるので、加速度が大きく変わる。その際、スキー、スノーボードの 板が向いている方向、つまりモデルの谷側に対して板の向いている方向は大変重 要である。スキー、スノーボードでは板の向いている方向によって進行方向が限 られるが、これはスキー板、スノーボードの事故の起きやすい原因でもある。そ のため、たとえ他の利用者が思った以上に近くに居た場合、急にそれを避けるこ とは難しい。滑り始めは上手い下手に関わらずそれぞれのモデルは直滑降を選択 することを想定する。 直滑降をしている時、スキーヤー、スノーボーダーが行う動作としては、加速 減速がある。それぞれがその動作を行うときの状況を考えてみると、 • 速度が遅いとき、加速する • 速度が速いとき、減速をするかもしくは斜滑降に切り替える の二つである。その際のタイミングとしては、個々の熟練度によって変わる。斜面 の上から滑り降りていくとき、熟練者ならほぼ減速せずに滑り降りていくが、初 心者ならば加速と減速を繰り返しながら降りていくことになる。スキーヤー、ス ノーボーダーが曲がらざるを得ない状況を考えると、 1. スキー場のコース上の限界に来た時 2. 障害物(人)にぶつかりそうになった時 3. スピードに恐怖を感じる時 この 3 つの場合がある。このときスキーヤー、スノーボーダーはそれぞれ斜面に 対してエッジをかける 1、2 の場合は必ず斜滑降を行うようにする。3 に関しては モデルそれぞれの状況によって変わってくる。これまでに調べたところ、速度に
恐怖を感じるのはスノーボードの方に多いようである。上記の他に直滑降、斜滑 降に関わらず、スキーヤー、スノーボーダーは自身の裁量によって平均速度を決 定する。つまり、目安としてスキーヤー、スノーボーダーそれぞれの熟練度によっ てモデルが保とうとする速度が変わることになる。本研究においてそれぞれのモ デルが曲がるのは、曲がらざるを得ない状況においてのみと想定する。 以上を踏まえて、スキーヤー、スノーボーダーのモデルには次の設定値を設け ることにする。 • 質量:m • 向心力:F • 斜面の角度:θ • 目的地座標:(Px,Py,Pz) θはスキー場の坂の傾斜の程度を表している。以下ではこれらの設定値について一 つ一つ具体的に述べていく。 人体をモデル化するとき、例えば群集シミュレーションの中で表すときは円が 主流であるが、その理由はモデルの形状を単純化することで処理を軽くしようと するためである。本研究においてのスキー場におけるモデルはモーションを考慮 しないものである。よって、処理の重さを考えて単純なモデルとして設定する。そ のため、それぞれのモデルは半径 r の球として表す。それぞれのモデルは斜面の 谷側に対して x 軸を中心に θ 回転している。 それぞれのモデルは質量に応じて重力 mg を受ける。スキー場においてはモデル は斜面から力を受けると考えて、その力を垂直抗力 N とする。垂直抗力 N とは、 摩擦力を考慮するためのみかけの力のことである。通常、垂直抗力 N は平坦な地 面に立っているときは、重力と釣り合う力が与えられている。本研究においては 斜面が θ となっているのでモデルは谷側に向かって滑り出すため、重力と垂直抗 力 N は釣り合わない。その時の垂直効力 N は平面時と比べて cos θ 倍になる。
スキー場でのスキーヤー、スノーボーダーを考えるとそれぞれのモデルは、曲 がる時重心を傾けることで曲がることができる。その時の雪面からの反力は、ス キーヤー、スノーボーダーが斜面に対して傾いた内傾角の大きさによって違う。こ の内傾角や、スキーヤー、スノーボーダーが雪面から受ける反力の大きさは、本 研究においては、曲がる時に描く曲線の内側に対して働く力である向心力 F の大 きさによって考慮するものとする [14]。この力の大きさによってそれぞれがどの 程度重心を傾けているかを想定することができる。向心力が大きい場合は、それ ぞれのモデルは斜面に対して体を大きく傾けており曲がる時は鋭いターンをする ことができる。向心力はそれぞれスキーヤー、スノーボーダーによって調節する ことができる力である。向心力とは反対に曲線の外側にかかる力を遠心力という。 この力は摩擦力と大きく関係しており、発生する遠心力を摩擦力によって抑える ことによって、向心力が保たれ、それぞれのモデルは曲がることができる。しか し、向心力の大きさには限界があり、その限界を超えてしまう時とは、遠心力が摩 擦力よりも大きくなってしまう時である。こうなると、スキーヤー、スノーボー ダーは曲がることができず、板はそのままの向きで滑り降りることになる。 今回の研究においては雪面の状態は一定の斜度であるフラットバーンとし、部 分的な積雪などは考慮しないこととする。摩擦力は、速度ベクトル V の大きさに 比例する。山側と谷側を一直線でつなぐラインをフォールラインといい、フォー ルラインは斜面の最大傾斜線を表す。それに対してスキー板、スノーボードのな す角を α とする。向心力 F は、その時の速度ベクトル V と y 軸を θ 回転させてで きる軸に対する単位ベクトルが作る面に対して垂直なベクトルを表す。それを出 すにはベクトルの外積を使う。 よって、摩擦力を表す変数を e とすると、加速ベクトル A は以下の式(2.1)で 表す。 A = V | V | | g | sin θ cos α + F − eV (2.1) 以上を踏まえて、単位時間ごとに変化する速度ベクトル V は、現在 n フレーム
目だとすると以下の式で表せる。 Vn+1 = Vn+ An∆t (2.2) モデルは速度ベクトル V の大きさで進むが、その際のモデルの位置は、速度ベ クトル V によって決定する。坂の谷側に対してスキーやスノーボードの板が向い ている場合、加速度は最大になる。 その減速の程度は、摩擦力 e| V | とは他に本研究においては予めモデルに情報 として与える熟練度の違いによって変わることとする。熟練度の設定については 2.3で述べる。 群集の中の個々はそれぞれが目的の方向に向かっていて、最終的な目的地とい うものが存在する。例えば、駅構内で電車から降りた乗客はそれぞれの駅の出口 に向かって進んでいる。既存研究においても目的地は設定されており、歩行者は 様々な挙動をしながらも目的地に着くように進む [15][16]。本研究においても目的 地の座標として (Px,Py,Pz) を設定した。スキー場においての目的地とは、リフト がある付近のこととなるが、モデルがそこに一直線に向かうようになると不自然 である。よって、ある程度 z 座標を進んだところで斜面が緩やかになったと仮定 し、そこを仮目的地とすることによってそれぞれのモデルは動きを止めることと する。
2.2
スキーヤーとスノーボーダーの区別化
スキー場におけるシミュレーションを行う際、本研究にはスキーヤー、スノー ボーダーとモデルが 2 種類ある。このスキーヤーとスノーボーダーの違いを明確 にし、それぞれのモデルを定義する必要がある。そのため、物理的にスキーヤー とスノーボーダーの動きについて研究しているサイト [17]、や文献 [18] を区別化の 参考にした。まず、スキーは始めは両足に均等に体重がかかる均等荷重を意識し ており、その後重力が踵や爪先など前後にかけるように滑り、最終的には足の前 後真ん中に乗る中央荷重を心がける。その際、スキー板は長いので荷重点がかなりずれても誤魔化して滑ることができる。スノーボードの場合は、前のめりや後 反りにならないように膝を曲げながらかつ、両足の中央荷重と均等荷重を意識す る。この際、スキーにとっての均等荷重はスノーボードにとっての中央荷重であ り、中央荷重もまた逆となる。次に、曲がるときは板の片側のエッジだけで雪の 上に乗るエッジングの仕方がそれぞれ異なる。スキーの動きは、基本的な曲がり 方としては両足に均等荷重をしながら、左右のスキー板を同じ角度で傾けながら エッジングするが、スノーボードの場合は膝と腰を曲げながら前後にエッジング をして曲がる。その際、曲がる時の雪面に対するエッジの角度はスノーボードの 方が大きくなるため、摩擦はスキーよりもかかる。また、板の長さもスノーボー ドの方が短いため、回転半径は短くなり、その分強い遠心力は起きやすい。 その際、スノーボードでは速度が上がってくると膝曲げと腰曲げによるエッジ がかかりづらくなってくる。また、斜滑降の際にスノーボードでエッジをかけて 滑っているとき、谷側の足首の力を緩めることでエッジが外れ、横滑りし始める 特殊性がある。利用者の平均速度については、スノーボードよりもスキーの方が 速い。理由としては、スキーの方は両足 2 本で、板を使うことによって安定性を持 つという理由が大きい。また、上記の通りスキー板はスノーボードと違って板が 細いので雪面からの抵抗を受けにくいので速度は出やすい。逆に、スノーボード がなぜ速度が上がらないかというと、摩擦と遠心力のこともあるが、ある程度速 度が出ると、スキーのように 2 本の板で速度を調節できないのでスノーボーダー はそのことに恐怖を感じてしまうからである。 以上のことから、スキーとスノーボードの違いを挙げてみると、 • 回転の速さ • 視界の広さ • 速度上限 以上の三つである。
まず、スキーとスノーボードでは、向いている方向を変える際の回転運動の速 さに違いが出る。例えば、スノーボードのターンのコツとして曲がりたい方向に 視線を向けると簡単に曲がれるというが、それはスノーボードがより直感的な滑 り方ができるという理由になる。経験者から聞いた意見として、スノーボードは いつ曲がってくるかわからないので怖いという意見も多い。スノーボードのその 曲がりやすさゆえに制御できなくなって転倒してしまったり、他利用者とぶつかっ てしまうということもあるのだろう。以上を考慮すると、スキーとスノーボード の違いとして、回転する時の半径の違いと向心力の大きさに違いがある。スノー ボードの方が回転半径は短く、向心力の限界はスキーよりも大きくならないよう に設定する。 また、スノーボーダーはスキーヤーと違いどちらかの足を前に出して滑るので、 体の正面を谷側に短い間しか向けていられない。その場合、滑り降りる際にスノー ボードに乗っているときのスノーボーダーの視界は背中を向けている分見えづら いと考えられる。本研究においてはモデルそれぞれに視界を設定するが、スキー とスノーボードでは、スノーボードの方が−30◦狭くなるように設定する。 次に、それぞれのモデルには速度の上限を設定するが、スキーの方がスノーボー ドよりも速度に対応できるということから、速度上限はよりスキーの方を +20km/h 程高く設定する。
2.3
熟練度の設定
歩行とは違いスキー、スノーボードを扱う上で個々にはそれぞれ熟練度があり、 それによっても滑り方は変わってくる。本研究においてもよりスキー場における リアルなシミュレーションに近づけるため、モデルに熟練度の設定を設けること とする。スノーロボットについての増田の研究 [19] によると、滑り方による初級 者と中級者と上級者の区別の仕方として摩擦力に影響する雪面に対する板の角度 が重要な要素となっている。スキーではエッジを立てることによってスキーと床 面に接する部分が小さくなり、曲がるときの摩擦力が小さくなり、曲がりやすくなるのでターン数も比較的多くなるが、体勢が不安定である。反対にエッジを立 てないときは曲がる時ときの摩擦力は大きくターン数は減るが安定性は高い。こ の研究では、初級スキーロボットは、エッジ角を大きく保ち、不安定な軌跡を描 いて滑り降りる。中級者はエッジ角を小さく保ち安定した状態で滑らかな軌跡を 描く。上級者は中級者よりも傾斜の高いところでもエッジ角を大きく保ちながら 安定した軌跡を描くことが可能になっている。 本研究において具体的にどこで区別化をするかというと、 • 速度の上限 • 曲がる時の速度 • 向心力の大きさ 以上の設定をモデルそれぞれのレベルによって分けることで区別化を図る。スキー もスノーボードも上級者に近いほどに平均速度が上がることが考えられる。また、 本研究ではスキーとスノーボードの比較とは別に速度でも上級者と初級者で設定 を分ける。熟練度に応じた平均速度 V を設けることで、自身の許容範囲を超えそ うになったとき、モデルは自ら減速をかける。初級者に対して上級者の平均速度 Vは 1.5 倍とする。また、上手い人ほど曲がる際に雪面から受ける抵抗力をそれ ほど感じさせない滑りをすることができる。初級者の人の場合は、曲がる際に立 てたエッジに対して力をいれるため、余計な摩擦力を受けることが多い。そこで、 実装する際には摩擦力に適当な定数をかけることで、曲がる際の減速程度を上級 者と下級者で区別できるようにする。また、それぞれの向心力には限界があり、そ のまま滑り続けると遠心力が摩擦力を上回り、曲がれなくなる。そこで、上級者 の人に対しては初級者よりも向心力の限界を大きく持たせる。
2.4
衝突判定
スキー、スノーボーダーはそれぞれ衝突判定を持つ。モデルは歩行者とは違う のでスキー場においては接触してしまった場合、それは怪我に繋がることが多い。それぞれは自身の速度を考慮して、接触しないように予め余裕を持った距離で避 けようとする。 空間内に存在するモデルの数を k とする。そのとき、それぞれのモデルを B1, B2, B3, ..., Bk とし、それぞれの位置ベクトルを B1,B2,B3,...,Bkとする。その空間内において、 それぞれのモデルを中心とした球から当たり判定を設定する。空間内にモデル Bj、 Biが存在し、Biを中心とした球の半径をそれぞれ rj,riとするとき、Biの周囲に 存在するモデルとの当たり判定は以下の式(2.3)で表す。 | Bj − Bi |< rj+ ri, j = 1, 2, ..., k i6= j (2.3) モデルはその当たり判定の領域に入った他モデルの中から自身が反応できる範 囲のモデルに対して対処する。それはモデルそれぞれが視界を持っているという ことを想定している。その範囲の指定方法としてベクトルの内積を用いた。モデ ル Bj,Biの位置ベクトルをそれぞれ Bj,Biとして、それらの始点を原点に重ねた 時のなす角 θ は次の式(2.4)で表す。 cos θ < BjBi | Bj || Bi | (2.4) 式(2.4)のとき、スキーモデルの場合は、2 つのベクトルのなす角が θ =| 90◦ | 以下の時モデル Biは反応し、回避行動をとる。距離が近くなる程、それぞれのモ デルの回避行動をとる際の回転運動は大きくなる。その時の移動方向は z0軸方向 の単位ベクトル e2とのなす角が 0 以上のとき、V の反対方向のベクトルと式(??) で定義した斜面の谷側に向かう力 A の合力を正規化することで回避方向ベクトル を出す。 スキーヤーやスノーボーダーは、自身の進行上に他のモデルが居る場合、それ を避けようとするが、衝突判定に入った際のモデルの動作は、 • 相手のモデルは静止していて、自分自身は動作している
• 両方ともモデルは動作している と二通りの場合が考えられる。 以下の図 2.1 は片方のモデルが静止している場合の動いているモデルの回避行動 を表す。 図 2.1: 衝突判定の際のモデルの回避行動 また、衝突判定に入った二つのモデルが動作している場合は、モデルがそれぞ れ向いている方向が重要になる。回避行動に入った際に二つのモデルの進行方向 が同じになってしまった場合は、接触の危険が高くなる。その場合は後ろにいる モデルが接触しないように減速するようにしなければならない。衝突判定に入っ た時、進行方向が重なってモデル間同士の距離が近くなるとき、後からくるモデ ルは極端に減速する。図 2.2 はその様子を表したものである。 ただ、1 章でも述べた通り、近年で接触事故は増えているので、視界の外から突 然他モデルが中に入ってきたとき、モデル同士が接触する可能性は高い。図 2.3 は 接触の危険が高い状況を表すときのモデルの位置である。
図 2.2: 進行方向が重なった際の回避行動 モデル同士の距離が 0 になった場合は接触とみなして、速度ベクトルに定数を かけることで減速させながら止まるまで進み、止まったら一定時間静止するよう な処理を行う。
2.5
モデルの転倒
遠心力は摩擦力によって抑えられており、遠心力が摩擦力を超えてしまうと、モ デルはその板の向きのまま谷側に滑り降りてしまう。よって、向心力一定以上の 力を超えた時、モデルは遠心力を摩擦で抑えきれなくなり、転倒する。図 2.3: 進行方向が交錯する
2.6
コース上の規制
3章で述べたとおり、スキーヤー、スノーボーダーモデルはコース上での障害物 (人)を避ける処理の他にコース上の限界にきた時も反応する。 それは 2 パターンあり、 1. x軸上の限界まで来たとき、モデルは壁にぶつからないように曲がる 2. z軸上の限界に来たとき、モデルは徐々に減速し、最終的には止まる この 2 つの処理を行うようにする。第
3
章
検証
本章ではこれまでに述べた手法を実装したシミュレーションモデルについて述 べる。まず、モデルに対して細かい設定を与える。オブジェクトは 2 種類あり、ス キーとスノーボードに分かれる。それぞれのオブジェクトの色は赤と青で区別し、 スキーとスノーボードではスキーのほうが板の長さが長いので、オブジェクトの大 きさはスキーの方が大きいものとする。具体的にはスキーの長さは 70cm、スノー ボードの長さは 50cm とする。重力加速度は g = 9.8 である。質量 m は男女の平 均的な値として 55kg とする。プログラムで実装する際は、ゲレンデの一部を切り 取った部分をフィールドとする。スキーヤー、スノーボーダーモデルはこれまで に述べた手法により、モデル同士の衝突判定、コース上の制限、モデル自身の意 思を反映させながら、滑り降りていく。実際のスキー場では、それぞれの実力に 合わせて、初級者コース、中級者、上級者コースに分かれている [20]。スキーヤー の安全を図るため、一般にスキー場には図 3.1 のようにコースの難しさを表す標示 [21]があり、通常それは色と形によって区別できるようになっている。 そこで実装する際、モデルがそれぞれ持っている熟練度に従って、動き方を変化 させるようにする。上手なプレイヤーと下手なプレイヤーの動きを分けることで よりリアルなシミュレーションとすることができる。上級者の場合は、速度を上げ るので、急に出会ってしまった場合は接触するもしくは上級者自身が激しく転倒 してしまう場合もある。初級者は最大速度は上級者より出ず、結果として遠回り図 3.1: コースの難度を表す指導標 な軌跡を描く。コースが分かれていることを表すため、同じ色のオブジェクトでも プログラム上の右上から流れてくるのが上級者で、画面の左上側から流れてくる のが初級者としている。スキー場では、利用客の安全を守るためにその対策とし て、スキーかスノーボードどちらか専用のスキー場があったり、スノーボードの 一部の技を規制したりしているが、実際それぞれの利用客の具体的な人数規制を 行っている所はない。そこで、本研究ではそれぞれのモデルの割合を規制すること でその時のスキー場での群集の流れを検証する。全国スキー安全対策協議会 [1] に よれば、それぞれの割合は近年では大体半分だが、スキーの方がわずかに大きい。 しかし、スキー場や日によってはスノーボーダーの方が多くなる時もあるだろう。 本研究においてプログラムのフィールド上には 9 のモデルが存在し、フィールド 上に止まっているモデルを 3 人、あとはスキー、スノーボードのモデルの数をそ れぞれ 3 人とする状態を基準とする。また、フィールド上に止まっているモデルの 数はスキーが 2、スノーボードが 1 とする。そこで動いているモデルの割合を変化 させながら、それぞれ一定時間プログラムを動かし衝突回数と衝突相手を調べる。 熟練度についてはそれぞれのモデルを上級者と初級者に分け、上級者はそれぞれ のモデルが 2 以上存在するシミュレーションにおいては 1 人存在するものとする。 次の図 3.2 はスキー場において、スキーヤー、スノーボーダーの上級者と初級 者の動きを考慮した場合のシミュレーションで、このときの人数の割合は 1:1 とす る。表 3.1 はそのときのスキー、スノーボードそれぞれの衝突回数と衝突相手を示 すものである。
図 3.2: 1:1 のシミュレーション 表 3.1: それぞれの衝突相手と回数 モデル\衝突相手 スキー スノーボード スキー 1 2 スノーボード 2 1 このとき、静止したモデルと衝突した回数は、スキーが 0、スノーボードが 1 で ある。次に、スノーボードの人数を増やし、スキーの人数を減らした場合のスノー ボードの割合が大きいときのシミュレーションを行った。人数の割合は 2:1 とする。 表 3.2 はそのときのスキー、スノーボードそれぞれの衝突回数と衝突相手を示すも のである。 表 3.2: それぞれの衝突相手と回数 モデル\衝突相手 スキー スノーボード スキー 0 1 スノーボード 1 2 このとき、静止モデルに衝突した回数はスキーが 1、スノーボードが 2 である。 次に、スキーの割合が大きいときのシミュレーションを行った。それぞれの人 数の割合は 1:2 とする。表 3.3 はそのときのスキー、スノーボードそれぞれの衝突
回数と衝突相手を示すものである。このとき、静止したモデルと衝突した回数は、 スキーが 0、スノーボードが 1 である。 表 3.3: それぞれの衝突相手と回数 モデル\衝突相手 スキー スノーボード スキー 2 2 スノーボード 2 1 また、表 3.4 は人数規制を行ったそれぞれのシミュレーションでのスキー、ス ノーボードの衝突回数を表にしたものである。 表 3.4: 割合による衝突回数 スキー:スノーボード\ スキー スノーボード 1:1のシミュレーション 3 4 1:2のシミュレーション 2 5 2:1のシミュレーション 4 4
3.1
評価
全体として、接触回数に注目するとスノーボードの接触回数の方が多くなって いるが、それは静止しているモデルとの接触回数で特に差が出ている。スノーボー ドの割合が大きいときは、スキーの衝突回数は減るが、スキーの割合が多いとき のスキーの衝突回数よりスノーボードの衝突回数が多くなってしまう。スキー同 士の接触、スノーボード同士の接触でみると、スノーボード同士の方が多くなっ ている。結論としては、スキー場においての接触事故はスノーボーダーの動きが 大事な一因をになっているといえる。規制をする際においての結論としては、ス ノーボードの人数割合をスキーより小さくした方がそれぞれのモデルは快適に滑 ることが出来る。第
4
章
おわりに
本研究は、スキー場においてスキーヤーとスノーボーダーの数に注目し、それ ぞれのモデルの数の割合を変えてみた場合のシミュレーションの検証を行った。そ のために本研究においては、スキー場においてのシミュレーションを行うための 手法を提案し、それをプログラムとして実装することで検証を行った。結果とし ては、スキー、スノーボードの人数の割合を変化させることでそれに対するシミュ レーションの変化を発見することができた。スキー場における混雑に関しては、麓 付近はコース規制などでリフトの配置に気を使っていたりするものの、滑り降り てきた際の上級コースと初級者コースが交差するところは大変危険である。 今後の課題としては、今回の研究においては実装することができなかったスキー 場における積雪を考慮したシミュレーションや上から下に滑り落ちていく際の傾 斜の変化による加速度の変化などのスキー場における条件の付加である。天候の 移り変わりによるモデルの動作の変化も考慮できる。スキー場での禁止標識や注 意標識 [21] は全国で統一されているので、それらの条件を付け加えるとよりリア ルなシミュレーションになる。モデルについては、今回は単純に男女で分けただ けだが、その利き足によってまた滑り方が違ったり、年齢によって滑り方が違う 様子などスキー場におけるモデルの個性化をシミュレーション化できればなお良 くなるだろう。 本研究においてのスキーヤー、スノーボーダーモデルはまだまだリアルさに欠けるものである。今後よりいっそうの改善が必要となる。また、それとは別に、本 研究ではスキー場を扱ったが、同様の考え方でそれ以外でも違うシチュエーショ ンにおいての新たなモデルの設計手法を発見しようとすることもできるだろう。
謝辞
本研究を進めるにあたり、終始温かいご指導をいただいた渡辺大地講師、三 上浩司講師、小沢賢侍氏に心より感謝いたします。 また、研究生活において大変お世話になりましたメディア学部渡辺研究室の 院生の皆様、並びに学部生の仲間達、家族にも深く感謝します。 最後に、本研究を支えてくれた皆様、この論文に目を通してくださった全て の方々に厚く御礼を申し上げます。参考文献
[1] 全国スキー安全対策協議会, ”スキー場障害報告書 ’05 ’06 シーズン調査結 果 ”. http://www.safety-snow.com/2006-2007kekka/index.html.
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[3] Ski & Snowboard Safety,”Ski & Snowboard Safety: 裁 判・判 例 ”. http://m244.blogspot.com/search/label/ [4] 全国スキー安全対策協議会, ”スキー場での行動規則 ”. http://www.safety-snow.com/koudou.htm. [5] 和田剛, 岡田公孝, 高橋幸雄,“ 個人行動をベースにした歩行モデルと歩行流シ ミュレーション ”, 日本オペレーションズリサーチ学会, 2003. [6] 藤原大三郎,“ 群集流動シミュレーションにおけるグループ歩行表現導入の有 効性 ”, 東京工科大学卒業論文, 2003. [7] 石川朱香音,“ 人間の行動特性を考慮した雑踏における自律エージェントモデ ルの歩行行動 ”, 東京工科大学卒業論文, 2003. [8] 和田剛,“ スクランブル交差点における歩行挙動モデルとシミュレーション ”, 東京工業大学修士論文, 2001.
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