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空間光変調器を用いた光波制御と光情報処理

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(1)

招待論文

空間光変調器を用いた光波制御と光情報処理

岡本

†a)

前田 智弘

舟越 久敏

††

Lightwave Control and Optical Information Processing using Spatial Light Modulator

Atsushi OKAMOTO

†a)

, Tomohiro MAEDA

, and Hisatoshi FUNAKOSHI

††

あらまし 本論文では,空間光変調器 (Spatial Light Modulator, SLM) を用いた新規光情報処理システム構築と いう観点から,我々がこれまで進めてきた光複素振幅生成技術,並びに,位相共役光を用いた光計測システムに ついて紹介する.まず,効率と精度の両立が可能な複素振幅変調手法として,2 台の SLM を組み合わせて用いる DPM (Dual Phase Modulation) 法について述べる.次に,1 台の位相変調 SLM とランダム拡散板を組み合わせた 光複素振幅生成手法である SCM (Spatial Cross Modulation) 法を紹介する.特に,本論文では,この SCM 法を超 解像画像表示に用いる試みについて述べる.最後に,SLM による光複素振幅生成技術をデジタルホログラフィー などの光複素振幅検出技術と組み合わせることで,シングルショットでの 3 次元断層計測を実現する方法につい て述べる.

キーワード 空間光変調器,光複素振幅生成,光位相共役,超解像表示,3 次元光断層計測

1.

ま え が き

空間光変調器

(Spatial Light Modulator, SLM)

は,空

間的・時間的に振幅,位相,または偏光を変調するた

めに使用されるデバイスであり,近年,

3

次元表示な

どに用いる複素振幅生成

[1]

[7]

,ビームシェイピン

[8]

[10]

,収差補正などの補償光学

[11]

[13]

,光マ

ニピュレーション技術による光ピンセット

[14]

[16]

顕微鏡などの計測システム

[17]

[20]

など様々な分野

で応用されている.このような中で,本論文では,空

間光変調器を用いた新規光情報処理システム構築とい

う観点から,我々がこれまで進めてきた光複素振幅生

成技術,並びに,位相共役光を用いた光計測システム

について述べる.

光複素振幅生成技術とは,光の空間的な振幅(強度)

と位相を,電子的なデータに基づいて変調する技術の

総称であり,光情報処理システムを構成する重要な基

盤技術の一つである.現在流通している

LCOS (Liquid

Crystal on Silicon)

などを用いた

SLM

の多くは,光の

†北海道大学大学院情報科学研究院,札幌市

Graduate School of Information Science and Technology, Hokkaido University, Kita 14, Nishi 9, Kita-ku, Sapporo-shi, 060–0814 Japan

††岐阜大学教育学部,岐阜市

Faculty of Education, Gifu University, 1–1 Yanagido, Gifu-shi, 501–1193 Japan a) E-mail: [email protected]

位相または強度のどちらか一方を空間的に制御でき

る.このため,

1

台の

SLM

を用いて光の位相と強度

の両方を独立に制御する方法として,従来から,

SLM

上に

CGH (Computer-Generated Hologram)

を表示する

方法が用いられてきた

[21]

[23]

.しかし,この方法

では,

SLM

の物理解像度に比べて,光複素振幅の表

示解像度は大幅に低下してしまう.また,

1

次回折光

を用いるため,回折効率が低いという問題点があっ

た.我々は,これらの課題を解決する新たな方法とし

て,

DPM (Dual Phase Modulation)

法を提案し研究を進

めてきた

[24], [25]

DPM

法では,

2

台の位相変調型

SLM (Phase modulation SLM, PSLM)

を組み合わせる

ことで,光複素振幅を生成するため,

0

次回折光を用

いることによって高い回折効率が得られるだけではな

く,画像の表示解像度と

PSLM

の物理解像度が一致す

る高いピクセル利用効率を実現できる.本論文では,

DPM

法を用いた空間モード生成について述べる.

次に,

DPM

法では,

2

台の

PSLM

を必要とするが,

これは光学系の複雑化やコストの増大を招く.そこで,

我々は

1

台の

PSLM

とランダム拡散板を組み合わせ

ることで,光複素振幅を生成する

SCM (Spatial Cross

Modulation)

法を提案している

[26]

.本論文では,こ

SCM

法を超解像画像表示に用いる試みについて述

べる.超解像画像表示においては,

PSLM

の物理解像

(2)

を用いた新しい光情報処理システムの創出という観点

から,光複素振幅生成技術をデジタルホログラフィー

などの複素振幅検出技術と組み合わせることで,デジ

タル位相共役を実現し,更にその処理の一部をコン

ピュータ上で仮想的に実行することにより,

3

次元断

層計測を実現する方法について述べる

[27]

.特に,

1

回の複素振幅検出によって得られたデータから,複数

の断層面の情報を一括に再生できることを実験により

示す.

2.

光複素振幅生成技術

光情報処理並びに情報フォトニクス分野においては,

光を何らかの情報の担い手として活用することを前提

とするため,電子情報処理システム内に蓄積された情

報を光に変換する手段としての光複素振幅生成技術が

必要となる.ここで,光複素振幅とは,光の位相と強

度の両方の情報を含む物理量を意味する.従来から広

く用いられている光複素振幅生成技術として,光の強

度または位相のいずれかを空間的に変調できる

SLM

上に

CGH

を表示する方法がある

[21]

[23]

.この方

法は,高精度な複素振幅の生成が可能であるため,主

として

3D

表示装置の研究開発においてしばしば検討

されてきた.しかし,空間的に変調されたホログラム

信号は,元信号よりも高い空間解像度を有するため,

一つのピクセルの光複素振幅を生成するために,多数

SLM

の物理ピクセルを必要とする.また,一般的

に用いられる軸外

CGH

では,生成される光複素振幅

信号が,

1

次回折光であるため,回折効率が低下する

問題がある.

このような課題を解決するために,我々は

DPM

呼ばれる新たな複素振幅生成手法を提案・研究してき

[24], [25]

DPM

は,

2

台の

PSLM

によって変調さ

れた位相変調光同士の干渉により,位相と強度両方の

変調を実現する方法である.

DPM

においては,図

1

に示すように,まず,ビーム

スプリッタ(

Beam Splitter, BS

)によって,入射ビーム

図 1 DPM の基本構成

が二つに分岐する.次に,分岐したそれぞれのビーム

に対して,

2

台の

PSLM

を用いて,異なる位相変調を

加える.その後,位相変調を受けた光波は,再び

BS

によって合波する.このとき,二つの位相変調された

光の干渉により強度変調が生じ,図の

3

の位置から,

複素振幅変調された光が出力される.ここで,出力さ

れる光複素振幅

E

out

(x, y)

E

out

(x, y) = A

out

(x, y) exp{iφ

out

(x, y)}

(1)

とする場合,

2

台の

PSLM

に表示するデータ

θ

1

(x, y)

及び

θ

2

(x, y)

は,それぞれ,以下の関係を満たす.

θ

1

(x, y)

= φ

out

(x, y) − φ

in

(x, y) + cos

−1

A

out

(x, y)

A

in

(x, y)

(2)

θ

2

(x, y)

= φ

out

(x, y) − φ

in

(x, y) − cos

−1

A

out

(x, y)

A

in

(x, y)

(3)

ただし,入射光波の複素振幅を

E

in

(x, y) = A

in

(x, y) exp{iφ

in

(x, y)}

(4)

とした.前述した軸外

CGH

とは異なり,

DPM

では

0

次回折光を用いるため高い回折効率が得られるととも

に,各表示ピクセルは独立して動作するので,表示解

像度と物理解像度が完全に一致する.

2

に,

DPM

を用いて,

MDM (Mode Division

Mul-tiplexing)

による通信において必要となる空間モード

変換を行った場合の光複素振幅分布を示す.図の上段

は,空間モードの強度分布を示し,図の下段は,空間

モードの位相分布を示す.空間モード

LP

21

の強度分

布は,四つのピークを有する点が特徴であり,また,

位相については円周方向に隣接する領域間で

π

の位相

差を有する.強度分布の上部に記載した

η

LP

21

(3)

図 2 DPM による空間モード生成の実験結果

対する結合効率であり,変換精度を定量的に表したも

のである.この結果では,前述した軸外

CGH

の他に,

位相板を用いた方法を含む三つの方法を比較して示し

ているが,軸外

CGH

DPM

において,非常に高精

度な

LP

21

成分が得られている.また,回折効率につ

いては,

DPM

は軸外

CGH

6.0

倍の値を実現してい

る.以上より,

DPM

は,効率と精度の両立が可能な

光複素振幅変調手法であるといえる.

3.

Spatial Cross Modulation

を用いた超

解像画像投影表示

前述した

DPM

においては,光複素振幅の生成に

2

台の

PSLM

を要するが,我々は,

1

台の

PSLM

による

デジタル位相共役再生技術と,ランダム拡散板による

空間位相変調技術を組み合わせることによって,任意

の空間に光複素振幅を生成する

SCM

法を提案してい

る.本章では,

SCM

法を

PSLM

の物理解像度を超え

る高解像度画像の投影表示に応用する試みについて紹

介する.

3. 1

単レンズ型

SCM

を用いた超解像画像投影手法

3

に単レンズ型

SCM [28]

を用いた超解像画像投

影手法

[29]

の概念図を示す.

SCM

法の基本動作は,

コンピュータ上で任意の複素振幅画像を散乱位相画像

にエンコードする過程(デジタルエンコード過程)と

エンコードされた複素振幅画像を光学的にデコードす

る過程(光学的デコード過程)で構成される.

デジタルエンコード過程では,

PSLM

の画素数より

はるかに多くの画素を有する入力画像の輝度情報が,

光波の空間光強度分布として与えられ,仮想拡散板の

空間位相分布を乗算した後,仮想レンズによるフーリ

エ変換を実行して複素振幅検出面での散乱した複素

振幅を求める.次に,

PSLM

の解像度と同じにするべ

図 3 単レンズ型 SCM を用いた超解像画像投影手法

く部分抽出処理を行い,その位相共役分布を計算し

PSLM

で表示する.最後の光学的デコード過程では,

PSLM

で変調された光波をエンコード過程における仮

想光学系と同じとなるよう配置された光学レンズと拡

散板を通過させることにより,入力画像と同じ解像度

の画像が投影される.

デジタルエンコード過程において,仮想拡散板によ

る空間位相変調と回折効果により,入力光波の波面は

複素振幅検出面において一様に散乱する.この散乱し

た波面の位相成分は,元の入力光波の強度と位相を含

むほとんど全ての重要な情報を保持している

[30]

.す

なわち,

SCM

のデジタルエンコードによって,入力画

像の情報は散乱複素振幅の位相分布全体に隈なく埋め

込まれる.部分抽出処理によって元画像の情報はある

程度失われるものの,画像情報のスパース性により元

画像の重要な情報は保持されており,本手法によって

PSLM

の解像度を超える高解像度画像の投影表示が可

能となる.

3. 2

画像投影表示シミュレーション

本手法による画像の投影表示性能について評価する

ため,図

3

に示した単レンズ型

SCM

を用いた超解像

画像投影手法による画像投影表示シミュレーションを

行った.シミュレーションの光波伝搬計算には,高速

(4)

図 4 画像投影表示シミュレーションに用いる入力画像 表 1 シミュレーションパラメータ

フーリエ変換ベースの角スペクトル法

[31]

を用いてい

る.図

4

にシミュレーションで用いた入力画像を示す.

画像の解像度は

1024

× 1024

ピクセルとし,画像には

4 (a)

中の点線で囲んだ

9

箇所(画像の中心と角,及

び辺の中央)に,図

4 (b)

に示すような

1

から

9

までの

数字が太さ

1

ピクセルで記されている.表

1

に示され

るパラメータを用いて,

PSLM

の解像度に対する投影

画像の画質について評価を行った.画質の評価には,

以下の式で定義されるピーク信号対雑音比(

PSNR

)を

用いることとする.

PSNR

[dB]

= 10 log

10

©­

­

«

max

[O(i, j)]

2 1 NxNy

Nx−1 i=0

Ny−1 j=0

|R(i, j) − O(i, j)|

2

ª®

®

¬

(5)

ここで,

R

(i, j)

O

(i, j)

はそれぞれ投影画像と入力画

像である.

5

PSLM

の解像度が入力画像の解像度に対し

て十分小さいときの投影画像とその

PSNR

値を示す.

投影画像は,画像の上部中央,中心,下部右端付近を

それぞれ拡大して示している.エンコード過程におけ

る散乱画像の部分抽出処理の影響により,

PSLM

の解

像度が低くなるに従って,

PSNR

値が低下している.

図 5 PSLM の解像度に対する投影画質の変化

しかしながら,

PSLM

の解像度が入力画像の画素数の

1/256

に相当する

64

× 64

ピクセルで投影した場合で

あっても,

20 dB

を超える

PSNR

値が得られており,

SCM

を用いた画像投影手法が超解像性能を有してい

ることが分かる.

4.

仮想位相共役を用いた光断層計測

本章では,我々が提案している光複素振幅制御技術

の応用事例として,仮想位相共役

(Virtual Phase

Conju-gation, VPC)

を用いた光断層撮影法

(VPC based Optical

Tomography, VPC-OT)

について紹介する.

光を利用した断層撮影技術

(Optical Tomographic

Imaging, OTI)

は非侵襲かつ高空間分解能で工業製品

の検査や生体イメージングが可能な技術として注目を

集めている.代表的な

OTI

として,光コヒーレンスト

モグラフィ

[32]

や共焦点レーザー走査顕微鏡

[33]

どが挙げられるが,いずれの手法においても深さ方向

のスキャン,若しくは一定深さにおける

2

次元方向

のスキャンが必要不可欠である.これらのスキャンは

計測時間の増大を招くため,リアルタイム性が求めら

れる計測への応用は難しい.我々は,完全なシングル

ショットでの光断層撮影の実現に向けて

VPC-OT [27]

を提案している.以下では,

VPC-OT

の原理を説明し,

マイクロメートルオーダーの段差を有するガラス板の

3

次元断層計測に関する実験について結果を報告する.

4. 1

VPC-OT

の原理

VPC-OT

は図

6

に示すように,仮想光学系において

プローブ光の分布を生成するエンコード過程,実光学

系におけるデジタルホログラフィーによる計測過程,

そして再度仮想光学系へと取り込まれた情報から断層

(5)

図 6 VPC-OT による光断層撮影の概念図.(a) エンコード 過程,(b) 計測過程,(c) デコード過程

像を再生するデコード過程に分けられる.

まず,エンコード過程では,矩形の窓関数

A

(x, y)

を振幅分布,ランダムな分布

h

d

(x, y)

を位相分布とす

る複素振幅分布を

2

次元逆フーリエ変換したのちに

位相分布の符号を反転させることで,矩形の強度分布

を有するプローブ光を計測物体に照射するためのホロ

グラムパターン

H

dis

(x, y)

を得る.計測過程において

は,実光学系上で

SLM

などにより

H

dis

(x, y)

を再生

し,プローブ光を複数の反射層を有する試料へと照射

する.試料の各層からの反射光を全て含んだ複素振幅

分布

E

r

(x, y)

はデジタルホログラフィーにより取得さ

れ,再度仮想光学系へと取り込まれる.デコード過程

では,

E

r

(x, y)

をフーリエ変換したのちに,エンコー

ド過程で与えたランダム位相

h

d

(x, y)

を再度与える.

このとき,

E

r

(x, y)

に含まれる対物レンズの焦点面か

らの反射光については,入力面と拡散面が共役の関

係となっているため,エンコード時に与えた

h

d

(x, y)

が相殺される.一方で,それ以外の面からの反射光で

は,入力面と拡散面との関係は焦点ずれ光学系となる

ことから

h

d

(x, y)

の相殺が生じず,より大きな位相擾

乱を受ける.そのため,焦点面以外で反射した成分は

空間フィルタにより除外され,焦点面の断層像が得ら

れる.ここで,焦点面以外の断層像を得るためには,

7

に示すように,デコード過程においてフォーカス

シフト計算を行い,所望の層からの反射光に対して入

力面と拡散面とが共役の関係となるようにする.この

図 7 仮想フォーカスシフトによる任意の面に対する断層 像取得の概念図.焦点面と所望の層との距離∆z に 対して 2∆z の伝搬計算をデコード過程で行うこと で,入力面と拡散面が共役の関係となり任意の z 位 置の断層像を得ることができる. 図 8 計測試料の形状.厚さ約 2 mm のガラス基板に一辺 の長さ 50µm の正方形の構造が奥行き 1.85 µm で周 期的に形成されている.

ようにして,

VPC-OT

では,全ての層の情報を有した

E

r

(x, y)

から選択的に任意の層の断層像を抽出するこ

とができる.

以上のように,

VPC-OT

では実光学系で取得する複

素振幅分布が既に全ての層の情報を含んでおり,撮影

後の解析処理において断層画像を取得することから,

シングルショットでの光断層撮影が可能である.最

近,ランダム位相変調を用いたワンピクセルカメラや

超解像イメージングに関する研究が盛んに行われてい

るが

[34]

VPC-OT

では解像度の拡張のためにランダ

ム位相変調を用いるのではなく,仮想位相共役を用い

て多数の断層画像を

1

枚の

2

次元画像に圧縮して変復

調する点が特徴となる.

4. 2

エッチングガラスサンプルの計測実験

本実験では,図

8

に示すような形状にエッチング処

理が施されたガラス板の

3

次元反射率分布を

VPC-OT

により計測した.この試料では,大気とガラスとの境

界で反射が生じることから,反射率を有する層の分布

(6)

図 9 VPC-OT による 3 次元断層計測のための実験系. HWP1,HWP2:1/2 波長板,L1–L4:レンズ,PBS: 偏光ビームスプリッタ,BS1–BS3:ビームスプリッ タ,OL:対物レンズ,PSLM:位相型空間光変調器, M1,M2:ミラー.

がそのまま試料の

3

次元形状を与える.今回の実験

では,

C

言語の標準ライブラリ関数である

rand

関数

を用いて

[0:2

π]

区間で生成した

2048

値の一様乱数を

ランダム位相

h

d

(x, y)

として与えた.また,今回用い

た光学系では,プローブ光は試料表面において一辺約

106

µm

の正方形の強度分布をもつ.実験の際に使用

した光学系を図

9

に示す.まず,波長

532 nm

のレー

ザー光をシングルモードファイバ(

SMF

)に結合し,

その出射光をレンズ

L1

でコリメートすることにより

平行光を得る.平行光は偏光ビームスプリッタ(

PBS

により分岐され,透過光は試料への照射に,反射光は

複素振幅計測のための参照光に利用される.このとき,

各光路のパワー比は

1/2

波長板(

HWP1

)で直線偏光

の偏光方位を回転させることにより干渉縞の明瞭度が

最大化されるように調節される.

PBS

透過光は

PSLM

へと照射され,フーリエ面に矩形の強度分布

A

(x, y)

を再生するような位相変調

H

dis,

(x, y)

を与えられてプ

ローブ光となる.プローブ光は

2

枚のレンズ(

L2

L3

からなる縮小光学系を介したのちに対物レンズ(

OL

により集光され,試料へと照射される.試料は

OL

焦点面(

z

= 0

)に凸部が来るように設置され,試料の

各層からの反射光は再度

OL

L3

を通過し,ビームス

プリッタ(

BS2

)を反射して

CMOS

カメラへと導かれ

る.このとき,試料から

CMOS

までをリレーするレン

ズ(

OL

L3

L4

)は隣り合うレンズの焦点面が一致す

るように配置されているため,試料と

CMOS

との位

置関係は光学フーリエ変換の関係になっている.そし

て,試料からの反射光は,ミラー

M1

M2

により光軸

角度を変化させた参照光と干渉し,

CMOS

で干渉縞が

図 10 実験結果.(a) z= −1.6 µm,(b) z = 0.2 µm における x–y 平面の断層像,(c) 中心部における y–z 平面の 断層プロファイル,(d) 復元された 3 次元形状.

取得される.干渉縞画像はコンピュータへと取り込ま

れ,先述した

VPC-OT

のデコード過程を経ることで断

層画像が再生される.なお,本実験では,プローブ光

の拡散波面に起因するスペックルノイズを除去するた

めに,ランダム位相

h

d

(x, y)

を無作為に

50

枚用意し,

それぞれによって得られた再生像を加算平均した.

4. 3

実 験 結 果

実験によって得られた波面から,焦点位置(

z

= 0

を中心に前後の範囲

6.4

µm

,刻み

0.1

µm

で断層画像

を取得した結果を図

10

に示す.まず,図

10 (a)

より,

プローブ光照射範囲の中央に一辺約

50

µm

の正方形の

構造が,そしてその周囲に隣接する構造の一部が確認

できる.また,図

10 (b)

に示す,

z

= 0.2 µm

での断層

画像と併せて見ると,試料の凹凸により異なる深さ位

置で生じる端面反射を正しく計測できていることがわ

かる.また,これらの断層像間の距離は

1.8

µm

であ

り,試料の段差設計値である

1.85

µm

を高い精度で計

測できていることが分かる.続いて,図

10 (c)

に示す

y–z

平面の断層プロファイルより,反射層以外の

z

置からのノイズはほとんど生じていないことが分かる.

ここで,各反射面の境界部分の信号が欠落しているが,

これは急しゅんな構造変化によって生じた極めて高い

空間周波数成分が対物レンズの開口数により欠損した

ためである.また,断層プロファイルの半値幅より約

0.77

µm

z

軸分解能で断層像を取得できることを確

(7)

認した.水平方向分解能については,本実験結果から

は評価できないが,文献

[27]

において

USAF 1951

像力テストターゲットの計測により

2.19

µm

の分解能

が達成されている.最後に,

x–

y

平面の各位置におけ

る反射率のピーク値を用いて試料の

3

次元表面形状を

復元したものが図

10 (d)

である.プローブ光照射範囲

において,エッチング加工により微小な段差を与えた

ガラスサンプルの

3

次元表面形状が正確に再現されて

いることが分かる.以上より,

VPC-OT

を用いること

で,機械的な走査を一切要さずに試料の

3

次元断層計

測が可能であることを示した.

今後は加算平均回数の低減に向けて

PSLM

に表示す

るホログラムパターンの最適化など検討を進め,最終

的には完全なシングルショットでの光断層撮影の実現

を目指す.

5.

む す

本論文では,我々がこれまで進めてきた光複素振幅

生成技術を基礎として,データのスパース性に着目し

た超解像画像表示技術,並びに,仮想位相共役を用い

た光断層撮影技術について述べた.光複素振幅生成技

術については,空間モード通信におけるファイバ結

合を考慮した変調パターンの改善や繰り返し計算を

用いた

SCM

表示画像の最適化について取り組んでい

[35], [36]

.また,いずれの応用においても,物理的

な光学系をコンピュータ内にモデリングして,コン

ピュータ内で位相共役演算を実行するプロセスを含む

もので,物理光学系がもつ様々な不完全性から解放さ

れ精度が向上するとともに,物理光学系では設定が困

難な様々な処理を実装することが可能になる点で,今

後の更なる展開が期待できる.

謝辞

空間光変調器によるモード変換等に関して,

有益なご助言をいただいた

KDDI

総合研究所の若山雄

太氏,相馬大樹氏,釣谷剛宏氏,

(

)

オプトクエスト

の高畠武敏氏,並びに,情報通信研究機構ネットワー

クシステム研究所の品田聡氏,和田尚也氏の各位に深

謝いたします.光複素振幅生成に関して有益なご助言

をいただいた岡山大学医歯薬学総合研究科の渋川敦

史特任助教に深謝いたします.光位相共役に関して,

有益なご助言をいただいた情報通信研究機構ネット

ワークシステム研究所の後藤優太氏,並びに,富士フ

イルム

R&D

統括本部解析技術センターの大

龍介氏

に深謝いたします.日ごろから,光エレクトロニクス

全般にわたりご助言をいただいている北海道大学大学

院情報科学研究院の富田章久教授,及び,小川和久助

教に深謝いたします.本研究の一部は,

JSPS

科研費

JP19K04366

の助成を受けたものです.

[1] A. Jesacher, S. Bernet, and M. Ritsch-Marte, “Colour hologram projection with an SLM by exploiting its full phase modulation range,” Opt. Express, vol.22, issue 17, pp.20530–20541, 2014. [2] W. Zaperty, T. Kozacki, and M. Kujawińska, “Multi-SLM color

holographic 3D display based on RGB spatial filter,” J. Display Technology vol.12, no.12, pp.1724–1731, 2016.

[3] T. Kozacki and M. Chlipala, “Color holographic display with white light LED source and single phase only SLM,” Opt. Express, vol.24, issue 3, pp.2189–2199, 2016.

[4] S.F. Lin and E.S. Kim, “Single SLM full-color holographic 3-D display based on sampling and selective frequency-filtering meth-ods,” Opt. Express, vol.25, issue 10, pp.11389–11404, 2017. [5] Z. Gongjian, Z. Zhang, and Z. Yang, “Wave front control with SLM

and simulation of light wave diffraction,” Opt. Express, vol.26, is-sue 26, pp.33543–33564, 2018.

[6] I. Rincon and V. Arrizon, “Generation of complex optical fields by double phase modulation in a SLM,” OSA Continuum, vol.2, issue 10, pp.2983–2996, 2019.

[7] S.F. Lin, H.K. Cao, and E.S. Kim, “Single SLM full-color holo-graphic three-dimensional video display based on image and frequency-shift multiplexing,” Opt. Express, vol.27, issue 11, pp.15926–15942, 2019.

[8] S. Li, Y. Wang, Z. Lu, L. Ding, P. Pengyuan, Y. Chen, Z. Zheng, D. Ba, Y. Dong, H. Yuan, Z. Bai, Z. Liu, and C. Cui, “High-quality near-field beam achieved in a high-power laser based on SLM adaptive beam-shaping system,” Opt. Express, vol.23, issue 2, pp.681–689, 2015.

[9] A. Mostafa, E.A. Akhlaghi, and H.A.J. Müller, “SSPIM: a beam shaping toolbox for structured selective plane illumination mi-croscopy,” Scientific Reports, vol.8, Article number: 10067 , 2018. [10] O. Tzang, E. Niv, S. Singh, S. Labouesse, G. Myatt, and R. Piestun, “Wavefront shaping in complex media with a 350 kHz modulator via a 1D-to-2D transform,” Nature Photonics, vol.13, pp.788–793, 2019.

[11] C. Li, M. Xia, Q. Mu, B. Jiang, L. Xuan, and Z. Cao, “High-precision open-loop adaptive optics system based on LC-SLM,” Opt. Express, vol.17, issue 13, pp.10774–10781, 2009. [12] M. Vinas, C. Benedi-Garcia, S. Aissati, D. Pascual, V. Akondi,

C. Dorronsoro, and S. Marcos, “Visual simulators replicate vision with multifocal lenses,” Scientific Reports, vol.9, Article number: 1539, 2019.

[13] Z. Yu, M. Xia, H. Li, T. Zhong, F. Zhao, H. Deng, Z. Li, D. Li, D. Wang, and P. Lai, “Implementation of digital optical phase conjugation with embedded calibration and phase rectification,” Scientific Reports, vol.9, Article number: 1537, 2019. [14] H. Kim, W. Lee, H. Lee, H. Jo, Y. Song, and J. Ahn, “In situ

single-atom array synthesis using dynamic holographic optical tweezers,” Nature Communications, vol.7, Article number: 13317, 2016. [15] D.K. Gupta, B.V.R. Tata, and T.R. Ravindran, “Optimization of a

(8)

imaging sensor with high resolution,” Light: Science & Applica-tions, vol.8, Article number: 44, 2019.

[19] J. Kanngiesser, M. Rahlves, and B. Roth, “Double interferometer design for independent wavefront manipulation in spectral domain optical coherence tomography,” Scientific Reports, vol.9, Article number: 14651, 2019.

[20] V. Balasubramani, H.Y. Tu, X.J. Lai, and C.J. Cheng, “Adaptive wavefront correction structured illumination holographic tomog-raphy,” Scientific Reports, vol.9, Article number: 10489, 2019. [21] C. Chang, Y. Qi, J. Wu, J. Xia, and S. Nie, “Speckle reduced

lens-less holographic projection from phase-only computer-generated hologram,” Opt. Express, vol.25, issue 6, pp.6568–6580, 2017. [22] S.J. Liu, D. Xiao, X.W. Li, and Q.H. Wang, “Computer-generated

hologram generation method to increase the field of view of the reconstructed image,” Appl. Opt., vol.57, issue 1, pp.A86–A90, 2018.

[23] N. Yoneda, Y. Saita, and T. Nomura, “Binary computer-generated-hologram-based holographic data storage,” Appl. Opt., vol.58, is-sue 12, pp.3083–3090, 2019.

[24] A. Shibukawa, A. Okamoto, Y. Goto, S. Honma, and A. Tomita, “Digital phase conjugate mirror by parallel arrangement of two phase-only spatial light modulators,” Opt. Express, vol.22, Issue 10, pp.11918–11929, 2014.

[25] T. Maeda, A. Okamoto, K. Ogawa, A. Tomita, Y. Wakayama, and T. Tsuritani, “Mode conversion based on dual-phase modulation utilizing interference of two-phase-modulated beams,” Optical Re-view, vol.25, Issue 6, pp.734–742, 2018.

[26] A. Shibukawa, A. Okamoto, M. Takabayashi, and A. Tomita, “Spa-tial cross modulation method using a random diffuser and phase-only spatial light modulator for constructing arbitrary complex fields,” Opt. Express, vol.22, issue 4, pp.3968–3982, 2014. [27] Y. Goto, A. Okamoto, A. Shibukawa, K. Ogawa, and A. Tomita,

“Virtual phase conjugation based optical tomography for single-shot three-dimensional imaging,” Opt. Express, vol.26, issue 4, pp.3779–3790, 2018.

[28] H. Funakoshi and A. Okamoto, “Image reconstruction simulation by spatial cross modulation method with single lens and random diffuser,” Tech. Digest of International Symposium on Imaging, Sensing, and Optical Memory (ISOM 2018), pp.117–118, Ki-takyushu, Japan, Oct. 2018.

[29] Y. Lu, A. Okamoto, H. Funakoshi, T. Maeda, K. Ogawa, and A. Tomita, “Super-resolution optical projection using single-lens spa-tial cross modulation method,” Tech. Digest of International Sym-posium on Imaging, Sensing, and Optical Memory (ISOM2019), pp.131–132, Niigata, Japan, Oct. 2019.

[33] S.W. Paddock, “Confocal laser scanning microscopy,” BioTech-niques, vol.27, no.5, pp.992–1004, 1999.

[34] M.P. Edgar, G.M. Gibson, and M.J. Padgett, “Principles and prospects for single-pixel imaging,” Nature Photonics, vol.13, pp.13–20, 2019.

[35] T. Maeda, A. Okamoto, K. Ogawa, and A. Tomita, “Wavefront superposition method for accurate and efficient mode conversion,” Appl. Opt., vol.58, issue 25, pp.6899–6905, 2019.

[36] T. Maeda, A. Okamoto, K. Ogawa, and A. Tomita, “Accurate Com-plex Amplitude Modulation by Iterative Spatial Cross Modulation Adapted to Arbitrary Input Intensity Distribution,” Technical Di-gest of International Symposium on Imaging, Sensing, and Optical Memory 2019 (ISOM’19), We-L-04, Oct. 2019.

(2019 年 11 月 26 日受付,2020 年 3 月 19 日再受付, 9 月 9 日公開)

岡本

(正員)

1990 北海道大学大学院博士課程了.工 博.現在,北海道大学大学院情報科学研究 院准教授.情報フォトニクス,光情報処理, 光通信システムの研究に従事.米国光学会 会員.

前田 智弘

(学生員)

2013 北海道大学・工卒.2015 同大大学 院修士課程了.現在,同大学大学院博士後 期課程で通信分野の研究に従事.

舟越 久敏

(正員)

2005 北海道大学大学院工学研究科博士課 程了.博士(工学).現在,岐阜大学教育学 部准教授.光位相共役,光情報処理の研究 に従事.

図 2 に, DPM を用いて, MDM (Mode Division Mul- Mul-tiplexing) による通信において必要となる空間モード 変換を行った場合の光複素振幅分布を示す.図の上段 は,空間モードの強度分布を示し,図の下段は,空間 モードの位相分布を示す.空間モード LP 21 の強度分 布は,四つのピークを有する点が特徴であり,また, 位相については円周方向に隣接する領域間で π の位相 差を有する.強度分布の上部に記載した η は LP 21 に
図 2 DPM による空間モード生成の実験結果 対する結合効率であり,変換精度を定量的に表したも のである.この結果では,前述した軸外 CGH の他に, 位相板を用いた方法を含む三つの方法を比較して示し ているが,軸外 CGH と DPM において,非常に高精 度な LP 21 成分が得られている.また,回折効率につ いては, DPM は軸外 CGH の 6.0 倍の値を実現してい る.以上より, DPM は,効率と精度の両立が可能な 光複素振幅変調手法であるといえる.
図 4 画像投影表示シミュレーションに用いる入力画像 表 1 シミュレーションパラメータ フーリエ変換ベースの角スペクトル法 [31] を用いてい る.図 4 にシミュレーションで用いた入力画像を示す. 画像の解像度は 1024 × 1024 ピクセルとし,画像には 図 4 (a) 中の点線で囲んだ 9 箇所(画像の中心と角,及 び辺の中央)に,図 4 (b) に示すような 1 から 9 までの 数字が太さ 1 ピクセルで記されている.表 1 に示され るパラメータを用いて, PSLM の解像度に対する投影
図 6 VPC-OT による光断層撮影の概念図.(a) エンコード 過程,(b) 計測過程,(c) デコード過程 像を再生するデコード過程に分けられる. まず,エンコード過程では,矩形の窓関数 A( x, y) を振幅分布,ランダムな分布 h d ( x, y) を位相分布とす る複素振幅分布を 2 次元逆フーリエ変換したのちに 位相分布の符号を反転させることで,矩形の強度分布 を有するプローブ光を計測物体に照射するためのホロ グラムパターン H dis (x, y) を得る.計測過程において は,実光学系
+2

参照

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