中国語制御(コントロール)文における空主語処理について

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(1)

中国語制御(コントロール)文における空主語処理について

翟 勇

(九州大学大学院)

youtaku@lit.kyushu-u.ac.jp

キーワード:空主語処理,距離の方略,目的語優位仮説,主語優位仮説,

中国語,制御(コントロール)文

1. はじめに

心理言語学の研究における中心的な課題の一つは、「空所(gap)」を「フ

ィラー(filler)」で埋める際にどのような言語処理のメカニズムが働いてい

るのかを明らかにすることである(Demestre et al. 1999)。空範疇は音形を 持たない抽象的な要素だが、統語的には存在すると考えられている。語 彙的内容がないため、空の要素がほかの名詞要素(たとえば、その先行 詞)と同一指標を付与されなければならない。

ある種の gap は非定形節の主語の位置に現れる。Chomsky (1981)はこ の空範疇をPROと呼ぶ。PROを含む文の意味を解釈するためには、その 先行詞を同定する必要がある。PROとその先行詞はコントロール関係1に より同一指標を付与される。PROが非定形節に現れる場合、主節動詞の 一つの項はその先行詞になると解釈される。動詞の語彙特性により、主 節の主語と目的語のどちらかが先行詞になる。(1)と(2)(Chomsky 1981 から引用)の himself の先行詞は主節動詞の語彙特性により決められる。

(1b)と(2b)が非文法的であることから、promise は主語制御(コントロー ル)動詞、persuade は目的語制御(コントロール)動詞であることが分 かる。

(1) a. John promised Bill to feed himself.

1 ここでの制御(コントロール)は言語学においての概念であり、心理学における統制

(コントロール)の意味ではない。

(2)

b. *Mary promised Bill to feed himself.

(2) a. John persuaded Bill to feed himself.

b. *John persuaded Mary to feed himself.

PROについての研究は非常に興味深いテーマの一つである。まず、PRO は音形を持たない。また、NP 痕跡や WH 痕跡と違って、移動による痕 跡ではない。したがって、解析器は痕跡について何も暗示がないまま文 を読み進めることとなる。最後に、PROには先行詞が存在する2。これら 特別な特性を持つPROは、統語解析における様々なモデルを検証するた めの魅力的な特徴を有している。にもかかわらず、PROについてのオン ライン実験的証拠は極めて少ない。従来、主に英語、日本語を対象言語 として実験が行われてきた。しかし実験の方法および実験のデータはま だ不十分であり、PROについて更に研究を深める必要がある。

本稿では、従来行われてきた、英語と日本語の空主語文処理の実験結 果を再検討するため、新たに中国語の空主語文処理の実験を行った。第 2 節では、それぞれ英語と日本語の空主語文処理について紹介する。問 題点は第 3 節において示す。第 4節では、中国語の空主語文処理実験の 結果を二つ報告する。第 5 節において、三つの言語の実験結果を比較す る。第6節では、残った課題について述べる。

2. 先行研究のまとめ 2.1 英語の空主語文処理

Frazier, Clifton, and Randall (1983)は英語の母語話者がどれぐらい速く 空主語文を理解するのかという文理解課題を用いて、英語の空主語文処 理の実験を行った。実験文は (3)-(6)に示されている。

(3) Recent Filler (Subject control), unambiguous

Everyone liked the woman who1 the little child2 started [PRO2 to sing those stupid French songs for trace1 last Christmas].

(4) Distant Filler (Object control), unambiguous

Everyone liked the woman who1 the little child forced trace1 [PRO1 to sing those stupid French songs last Christmas].

2 構造上に妥当な先行詞がない場合には、PROは随意的な解釈となる。

(3)

(5) Recent Filler (Subject control), ambiguous

Everyone liked the woman who1 the little child2 begged [PRO2 to sing those stupid French songs for trace1 last Christmas].

(6) Distant Filler (Object control), ambiguous

Everyone liked the woman who1 the little child begged trace1 [PRO1 to sing those stupid French songs last Christmas].

実験の結果、(3)と(5)の反応時間は(4)と(6)より短かった。Frazier et al.

は実験の結果を説明するため、Most Recent Filler Strategy (MRFS)を主張 した(P. 196):

(7) Most Recent Filler Strategy:

During language comprehension a detected gap is initially and quickly taken to be co-indexed with the most recent potential filler.

曖昧文も非曖昧文もともに同じ結果が得られたので、Frazier et al.は、

解析器が PRO の妥当なフィラーについて何も情報がないときのみに MRFS を使うと示唆している。すなわち、動詞の語彙情報を使う前に MRFS を適用するのである。このストラテジーに従うと、解析器が最初 に PRO に一番近いフィラーで PRO を埋め、その後、動詞のコントロー ル情報によりその最適性をチェックする。このような“error-correcting” 手順を経るために、遠距離フィラー実験文は処理時間がかかる。更に、

もしtrace が可能なフィラーであれば、(4)において、traceはPROに一番

近いフィラーとなり、(3)と(4)の反応時間には有意差がないはずである。

これにより、Frazier et al.は、解析器がtrace を可能なフィラーとは見なし ていないと考えていることが分かる。この考えは、Sakamoto (1995, 1996) では、“Lexical Filler Only (LFO)”仮説と名付けられている3

まとめると、英語の空主語文処理の実験において、Frazier et al.は、解 析器が空主語の先行詞を決定する際、動詞の語彙情報が一時的に無視さ れ、距離的に最も近い語彙的先行詞が優先された後、動詞の情報が利用 されると主張した。

3解析器は語彙的なフィラーだけでなく、「痕跡」などの空範疇を可能なフィラ ーと見なしている場合、Sakamoto (1995, 1996)では、“Empty Filler Also (EFA)”

仮説と名付けられている。

(4)

実験文の関係節の構文を簡単にスキーマで表すと下記の(8)のように なる。

(8) Frazier et al. (1983):英語

移動

[フィラー2]-[フィラー1]-[動詞]-[痕跡]-[PRO]

MRF + LFO

2.2 日本語の空主語文処理

坂本(1995)の実験 1 では、(9)のような実験文を用いて、目的語制御文

のほうが主語制御文より処理時間が短いという結果が得られた。この実 験においては、目的語はPROに近いフィラーでもあり、MRFSが日本語 の空主語文処理に適用されるという仮説に矛盾しない。

(9) a. 主語制御文

俊男 iがおととい順子jに[〈PROi〉東京行き]を手紙で白状し た。

b. 目的語制御文

俊男 iがおととい順子jに[〈PROj〉東京行き]を手紙で命令し た。

しかし、(9)のかき混ぜ文を用いた実験2では、目的語はPROから離れ ている位置にあるにもかかわらず、目的語制御文のほうが主語制御文よ り反応時間が短いという実験 1 と同じ結果を得た。そこで、坂本(1995) は「目的語優位仮説」を主張した。

(i) 目的語優位仮説:解析器は距離的な遠近の情報とは無関係に目的語を フィラーとして優先的に選択している。

一方、織田他(1997)では、坂本(1995)と同じ実験文(9)を用いたにもかか わらず、主語制御文のほうが目的語制御文より反応時間が短いという、

坂本(1995)とは逆の結果を得た。更に、二瀬他(1998)では、(9)のかき混ぜ

文でも、解析器が主語を優先してPROを埋めるということを示している。

(5)

よって、織田他(1997)は「主語優位仮説」を主張した。

(ii) 主語優位仮説:「主語」という統語的情報を解析システムが利用し

た。

日本語の空主語文処理において、一方では「目的語優位仮説」、もう 一方では「主語優位仮説」を支持する実験結果が得られた。この点に関 して、Sakamoto (2002)は次のように説明した。織田他(1997), 二瀬他(1998) における再認課題では「格の階層性」に従い、解析器は主語(主格を持 っている)を選んで空所を埋める。一方、坂本(1995)における再生課題 では「意味役割の階層性」に従い、解析器は目的語(「に」という助詞 がついた目的語が「着点」という「意味役割」を担っていると解釈され る)を選んで空所を埋める。(10)のようなスキーマである。

(10) a. 坂本 (1995)

[再生課題]→[意味役割の階層性4]→[目的語優位]

〈意味役割情報〉

b. 織田他(1997)、二瀬他(1998)

[再認課題]→[格の階層性5]→[主語優位]

〈格の情報〉

実験文のかき混ぜ構文をスキーマで表すと、(11)のようになる。

(11) 坂本(1995)、織田他(1997)、二瀬他(1998):日本語

4 Nishigauchi (1984)は、日本語には意味役割の階層性があり、「着点(Goal)」が

最上位に位置すると主張している(1.Goal>2.Location, Source)。

5柴谷(1978)は、日本語には格の階層性があり、主格が最上位に位置すると主張 している(主格>対格>与格>他の格)。

(6)

移動

[フィラー2]-[フィラー1]-[痕跡]-[PRO]-[動詞] (目的語) (主語)

3. 先行研究の問題点

前節で検討した先行研究をまとめてみると、MRFS は英語の空主語文 処理には適用されるが、日本語の空主語文処理には適用されないという ことになる。もちろん、同一の処理方略がすべての言語に適用するとい うわけではない。よって、MRFS は日本語の空主語文処理ではなく、英 語だけに適用する方略である可能性もある。しかし、Frazier et al.は「最 も近いフィラーで空所を埋めるという方略が存在する言語的な根拠があ る」ので、MRFS が普遍的な方略であると主張した。たとえば、数多く の言語において(12b)より(12a)のような空所埋め依存関係が好まれる。

(12) (=Frazier et al.’s (7))

a. FILLER1 FILLER2 GAP1 GAP2

b. FILLER1 FILLER2 GAP2 GAP1

また、Frazier et al.は「最も近いフィラーで空所を埋めるのと同類の方

略がある」と述べた。これはMinimum Distance Principleである。つまり、

補文動詞に一番近い名詞句をその動詞の主語として解釈するという方略 である。C. Chomsky (1969)は、幼児(5歳-10歳)が間違って(13)のgrab の主語を Bill であるとみなすという結果を、Minimum Distance Principle で説明した。

(13) (=Frazier et al.’s (9a))

John promised Bill to grab the jewels.

上記のように、Frazier et al.はMRFSが普遍的な方略であり、すべての

(7)

言語に適用すると主張した。そこで本研究では、(14)のようなスキーマ を持つ中国語の空主語文を用いて、英語と日本語の空主語文処理の結果 を検証した。

(14) 中国語

移動

[フィラー2]-[フィラー1]-[痕跡]-[動詞]-[PRO]

ここで注意すべき点は、英語の空主語文処理においては、動詞のコン トロール情報が遅延的に用いられるという条件が成立した上で、MRFS が適用されるということである。日本語は主要部後置型言語であるため、

動詞は節の最後に入力される。したがって、動詞の情報はMRFSが適用 された後に働くかどうかを検証できない。

よって、(14)の中国語の空主語文の利点として以下の 2 点を挙げるこ とができる。

i) 英語と同じく、動詞が空所の前に現れるので、動詞の情報が即座に用 いられるかどうかを検証できる。

ii) 日本語と同じく、フィラー2を文頭に移動できるので、距離的に空所 に近いフィラーが空所を埋めるかどうかを検証できる。

また、英語と日本語の空主語文処理実験では、単語(文節)ごとの読 み時間を計測していなかった。各単語(文節)において、解析器はどう いう処理を行うのか、特に動詞の情報が即座に用いられるかどうかを検 証するため、今回の実験では単語(文節)ごとの読み時間を計測した。

4. 実験

本研究では、以下の2点を明らかにすることを目指している。

(i) 主節動詞の語彙情報(コントロール情報)が即座に利用されるかどう か。

(ii) MRF の方略が中国語の空主語文処理にも適用しうる方略なのかどう

か。

(8)

4.1 実験 1

4.1.1 実験文

実験 1では、(15)のような dui構文6を用いて、上記の(i)と(ii)を検証し た。中国語の dui 構文を用いることにより、主語・目的語が主節動詞に 先行するという構造が可能になる。

(15) a. 主語制御文(SO語順)

P1 P2 P3 P4 P5 P6 Shangzhou Xiaodong1 zai xinzhong dui nüyou2 zhencheng tanbai shuo7

先週 小東 手紙で 彼女に 真剣に 告白する P7 P8

[〈PRO1〉qu Beijing.]

北京に行く

「先週小東が手紙で彼女に北京に行くことを真剣に告白した。」

b. 目的語制御文(SO語順)

Shangzhou Xiaodong1 zai xinzhong dui nüyou2 zhencheng quangao shuo 先週 小東 手紙で 彼女に 真剣に 勧める [〈PRO2〉qu Beijing.]

北京に行く

「先週小東が手紙で彼女に北京に行くことを真剣に勧めた。」

c. 主語制御文(OS 語順)

Dui nüyou2 shangzhou Xiaodong1 zai xinzhong trace2 zhencheng tanbai shuo [〈PRO1〉qu Beijing.]

d. 目的語制御文(OS 語順)

Dui nüyou2 shangzhou Xiaodong1 zai xinzhong trace2 zhencheng quangao shuo [〈PRO2〉qu Beijing.]

6 Dui は前置詞で、名詞の前に付加されて、動詞の対象を表すという意味を持

つ。

7 ここでは、shuo は Complementizer として機能している。(Hwang (1998), Simpson and Wu (2002))

(9)

(15a, c)の主節動詞"tanbai(告白する)"は主語制御動詞であり、一方、

(15b, d)の主節動詞"quangao(勧める)"は目的語制御動詞である。(15a,b) は「主語-目的語」の語順であり、(15c,d)は「目的語-主語」の語順で ある。よって、2 要因 2 水準(2×2)の実験デザインをなしている。P6 に おける主語制御動詞と目的語制御動詞の違いについて、文字数・音節数・

単語親密度に関して統制を行った。文字数は主語制御動詞も目的語制御 動詞もともに 2 文字で、音節はともに2 音節である。単語親密度につい て対応したサンプルの t 検定を行った結果、有意差は認められなかった

(主語制御動詞(M=3.96)・目的語制御動詞(M=3.91) t1(29)=1.217, p=.233,

t2(13)=1.176, p=.261)。したがって、異なる動詞であっても、ほぼ同じ語

彙特性を持っていると考えられ、直接に比較検討することが可能である。

4.1.2 予測

実験文の中には動詞が2つ存在する。一つは主節動詞P6 であり、もう 一つは補文動詞P7 である。もし主節動詞 P6のコントロール情報が一時 的に無視され、P7が入力される際、一番近い語彙的フィラーで空主語を 埋める場合、(15b)の P4 と(15c)の P3 が PROに近く、かつ妥当なフィラ ーなので、(15b)が(15a)より、(15c)が(15d)より P7の平均読み時間が短い と予測される。もし痕跡がフィラーと見なされている場合、(15d)のtrace2

がPROに近く、かつ妥当なフィラーなので、(15d)が(15c)よりP7 の平均 読み時間が短いと予測される。もし主語が優先的に空主語を埋めるとす るならば、主語制御文(15a)と(15c)のほうが目的語制御文(15b)と(15d)より P7の平均読み時間が短いと予測される。もし目的語が優先的に空主語を 埋めるとするならば、目的語制御文(15b)と(15d)のほうが主語制御文(15a)

と(15c)よりP7の平均読み時間が短いと予測される。予測を表にすると、

(16)のようになる。

4.1.3 手順と結果

被験者:中国語母語話者20 名(男性9名、女性 11名)。全員右利き。

平均年齢は28歳。被験者は実験に際し一定の報酬が与えられた。

刺激:実験では1 組4条件からなる28 組の実験文を合計112文使用した

(Appendix を参照)。実験ではラテン方格法を採用し、112 文の実験文

を4つのリストに分け、1人の被験者に対して1 組につき1条件の刺激

(10)

(16)表1: 実験 1の予測

主節動詞(P6)のコントロール情報が即座に利用され ない (P7の平均読み時間)

LFO (15a) > (15b) (15c) < (15d) MRFS

EFA (15a) > (15b) (15c) > (15d) 主語優位仮説 (15a,c) < (15b,d)

目的語優位仮説 (15a,c) > (15b,d)

文のみ呈示した。各リストは刺激文 28 文の他に 28 文のフィラー文、8 文の練習文、6文のウォームアップ文を含む70文で構成されており、刺 激文はリスト内でランダムに呈示した。

手順:視覚刺激を用い、被験者ペースの読みの方式で、それぞれの文節8 を呈示した。呈示方法は、文全体を左から右へと次々に閉じていく窓を 眺めているように見える「移動窓の読み(moving-windows reading)」であ った。文節ごとの読み時間を計測した。最後の文節を呈示終了後に、文 の中に出てくる人物の名を呈示し、「北京へ行く」と思われる人かどう

かをYES/NO 判断した。

結果:各文節の読み時間について反復測定による分散分析を行った。こ こでは、主節動詞P6 と補文動詞P7の結果を報告する。P6(主語制御動 詞"tanbai "+shuo、目的語制御動詞"quangao "+shuo)では、文タイプの 主効果が認められた(F1(1,19) = 6.43, p < .05, F2(1,27) = 6.10, p < .05)。しか し、語順の主効果(F1(1,19) = 1.59, p = .22, F2 < 1)と交互作用(F1 < 1, F2 < 1) は認められなかった。

P7"quBeijing"では、語順の主効果は被験者分析においてのみ有意差が 認められ(F1(1,19) = 4.66, p < .05,F2(1,27) = 1.01, p = 0.33)、文タイプの主効 果が認められた(F1(1,19) = 4.68, p < .05, F2(1,27) = 5.27, p < .05)。さらに交 互作用については、有意傾向が認められた(F1(1,19) = 3.60, p = .07, F2 (1, 27) = 3.86, p = .06)。下位検定の結果、目的語制御文における語順の単純 主効果(F1(1,19) = 7.31, p < .05, F2(1,27) = 4.06, p < .05)と、SO語順におけ る文タイプの単純主効果(F1(1,19) = 8.13, p < .01; F2(1,27) = 8.91, p < .005) は認められたが、主語制御文における語順の単純主効果(F1< 1, F2 < 1)と

8 ここでは、単語の場合と「前置詞+名詞」や「動詞+補文標識」などの場合 があるので、それらを総称して「文節」と呼ぶことにする。

(11)

400 500 600 700 800 900 1000

p1 p2 p3 p4 p5 p6 p7 p8 文節

平 均 読 み 時 間 (m s)

(15a)SO 語順主語 制御文 (15b)SO 語順目的 語制御文 (15c)OS 語順主語 制御文 (15d)OS 語順目的 語制御文

1 実験1における各文節の平均読み時間

OS語順における文タイプの単純主効果(F1 < 1, F2 < 1)は認められなかっ た。

4.1.4 考察

図1に示すように、P7の平均読み時間において目的語制御文(15b)のほ うが主語制御文(15a)より読み時間が短かった((15a) < (15b))。この結果は MRFSによる予測((15a) > (15b)) とは合致しないので、MRFSは中国語の 空主語文処理には適用されないと考える方が妥当である。したがって、

言語処理には「距離的に近いフィラーで空所を埋める」というような一 般的な処理システムからは独立した言語処理システムがあることが明ら かになった。

また、P6(主節動詞+shuo)の平均読み時間は、目的語制御動詞より 主語制御動詞の方が短かった。P6(主節動詞+shuo)の文字数・音節数・

単語親密度は統制されているので、この差はこれらの要因による差では ない。この差は、P6(主節動詞+shuo)が入力される前に、主語制御文 と目的語制御文のいずれにおいても、解析器が「処理中の文は主文の主 語について言及したものである」と予想していたことが原因であると考 えられる。よって、P6が入力されたとき、目的語制御動詞の場合、予測 と一致しないので、主語制御動詞より読み時間が長かったと考えられる。

P7(qu Beijing)の平均読み時間においては、目的語制御文(15b,d)より主

(12)

語制御文(15a,c)の方が短かった((15a,c) < (15b,d))。この結果は(16)の主語 優位仮説による予測と一致している。つまり、主節動詞が入力された際、

動詞の語彙情報は一時的に無視され、主文の主語で空所を埋めた後、主 節動詞の語彙情報を使って適合性を判断するということである。

しかし、実験1の実験文では、主節動詞P6 と補文動詞P7が隣接して いるので、解析器が空主語として主文の主語と目的語のどちらかを探し 始めるのが、主節動詞 P6が入力された段階なのか補文動詞 P7 が入力さ れた段階なのか判断しにくい。つまり、空所をフィラーで埋める際、主 節動詞の語彙情報(コントロール情報)が即座に用いられるかどうかを はっきり判断できない。そこで、主節動詞と補文動詞の間に三つの副詞 を入れて、実験2を行った。

4.2 実験 2

4.2.1 実験文

実験 2 では、(17)のような実験文を用いて、主節動詞の語彙情報(コ ントロール情報)が即座に利用されるかどうかを検証した。

(17) a. 主語制御文(SO語順)

P1 P2 P3 P4 P5 P6 Shangzhou Xiaodong1 zai xinzhong dui Xiaohong2 zhencheng tanbai shuo

先週 小東 手紙で 小紅に 真剣に 告白する P7 P8 P9 P10

biye hou cong Changchun zhijie [〈PRO1〉qu Beijing9.]

卒業後 長春から 直接に 北京に行く

「先週小東が手紙で小紅に卒業後長春から直接に北京に行くことを真剣に 告白した。」

9 実験文がすべて「北京に行く」で終わっているので、解析器が特別なストラ テ ジ ー を 作 り 出 し て し ま う 可 能 性 が あ る と い う こ と が 指 摘 さ れ た (Edson

Miyamoto氏から)。しかし、今回の実験結果においては、P10の平均読み時間

では各条件において有意差は観察されなかった。したがって、「北京に行く」

をほかの表現に変更しても今回の実験の結果には影響を与えないと思われる。

ただし、Miyamoto氏から指摘を受けた点に関しては、今後の検討課題としたい。

(13)

b. 目的語制御文(SO語順)

Shangzhou Xiaodong1 zai xinzhong dui Xiaohong2 zhencheng quangao shuo 先週 小東 手紙で 小紅に 真剣に 勧める biye hou cong Changchun zhijie [〈PRO2〉qu Beijing.]

卒業後 長春から 直接に 北京に行く

「先週小東が手紙で小紅に卒業後長春から直接に北京に行くことを真剣に勧 めた。」

c. 主語制御文(OS語順)

Dui Xiaohong2 shangzhou Xiaodong1 zai xinzhong trace2 zhencheng tanbai shuo biye hou cong Changchun zhijie [〈PRO1〉qu Beijing.]

d. 目的語制御文(OS語順)

Dui Xiaohong2 shangzhou Xiaodong1 zai xinzhong trace2 zhencheng quangao shuo biye hou cong Changchun zhijie [〈PRO2〉qu Beijing.]

4.2.2 予測

Frazier et al. (1983)に従って、主節動詞P6 の語彙情報が一時的に無視さ

れると仮定してみよう。そうすると、以下の一連の予測が成り立つであ ろう。

(i) 空主語に一番近い語彙的フィラーで空主語を埋めると仮定する。その 場合、P10が入力される際、(17b)のP4 と(17c)のP3 がPROに近く、かつ 妥当なフィラーなので、(17b)が(17a)より、(17c)が(17d)よりP10の平均読 み時間が短いと予測される。

(ii) 空主語に一番近いフィラー(痕跡を含む)で空主語を埋めると仮定

する。そうすると、(17b)の P4、(17d)の trace2が PRO に近く、かつ妥当 なフィラーなので、(17b)が(17a)より、(17d)が(17c)よりP10の平均読み時 間が短いと予測される。

(iii) 主節の主語で空主語を埋めると仮定する。その場合、P10 の平均読

み時間においては、主語制御文(17a,c)のほうが目的語制御文(17b,d)より 短いと予測される。

(iv) 主節の目的語で空主語を埋めると仮定する。その場合、P10 の平均

読み時間においては、目的語制御文(17b,d)のほうが主語制御文(17a,c)よ り短いと予測される。

実験 1 の結果は、(i),(ii),(iv)の予測とは合致しないが、(iii)の予測とは

(14)

矛盾しない。したがって、主節動詞のコントロール情報が即座に利用さ れるかどうかが判断できない。もし実験 2 で、(i),(ii),(iii),(iv)の予測が正 しくないことが判明すれば、主節動詞のコントロール情報が最初の段階 では利用されないという仮定自体の妥当性が低いということになる。

4.2.3 手順と結果

被験者:実験1とは違う中国語母語話者24名(男性 8名、女性16 名)。

全員右利き。平均年齢は28歳。被験者は実験に際し一定の報酬が与えら れた。

刺激:実験では1 組4条件からなる36 組の実験文を合計144文使用した

(Appendix を参照)。実験ではラテン方格法を採用し、144 文の実験文

を 4 つのリストに分け、1 人の被験者に対して 1 組につき 1 条件の刺激 文のみ呈示した。各リストは刺激文 36 文の他に 36 文のフィラー文、8 文の練習文、6文のウォームアップ文を含む86文で構成されており、刺 激文はリスト内でランダムに呈示した。

手順:実験1と同じである。

結果:各文節の読み時間について反復測定による分散分析を行った。こ こでは、主節動詞P6、主節動詞の次の文節 P7 と補文動詞P10 の結果を 報告する。

P6(主語制御動詞"tanbai"+shuo、目的語制御動詞"quangao"+shuo)で は、文タイプの主効果が認められた(F1(1,23) = 5.43, p < .05, F2(1,35) = 13.87, p < .001)。しかし、語順の主効果(F1 < 1, F2 < 1)と交互作用(F1 (1,23)

= 1.17,p =.29, F2 < 1)は認められなかった。

P7"biyehou"では、語順の主効果が認められた(F1(1,23) = 5.87, p < .05, F2

(1,35) = 6.79, p < .05 )。文タイプの主効果は被験者分析では有意傾向が認

められ(F1 (1,23) = 3.88, p = .06)、項目分析でも有意差が認められた(F2 (1,

35) = 5.07, p < .05)。さらに交互作用については、有意差が認められた(F1

(1,23) = 6.51, p < .05, F2(1,35) = 13.95, p < .001)。下位検定の結果、目的語 制御文における語順の単純主効果(F1 (1,23) = 12.36, p < .001, F2 (1,35) = 18.37, p < .001)と、SO語順における文タイプの単純主効果(F1(1,23) = 9.90, p < .005, F2(1,35) = 15.39, p < .001)は認められたが、主語制御文における 語順の単純主効果(F1 < 1, F2 < 1)とOS語順における文タイプの単純主効 果(F1 < 1, F2 < 1)は認められなかった。

P10"quBeijing"では、語順の主効果(F1 < 1, F2 < 1)、文タイプの主効果(F1

< 1, F2 < 1)、交互作用(F1 < 1, F2 < 1)共に認められなかった。

(15)

300 400 500 600 700 800 900 1000 1100

P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7 P8 P9 P10 文節

平 均 読 み 時 間 (m s)

(17a)SO語 順主語制 御文 (17b)SO語 順目的語 制御文 (17c)OS語 順主語制 御文 (17d)OS語 順目的語 制御文

2 実験2における各文節の平均読み時間

4.2.4 考察

図 2 に示すように、P10 の平均読み時間では、各条件において有意差 が観察されなかった。この結果は4.2.2の予測(主節動詞のコントロール 情報は最初は無視される)と一致しない。予測(i),(ii)と合致しないという ことは、実験 1 と同様、解析器は空主語に一番近いフィラー(痕跡を含 むかどうかと無関係に)で空主語を埋めるという操作を行うわけではな いと考えられる。つまり、MRFの方略が中国語の空主語文には適用され ないことが示唆される。また、予測(iv)と合致しないことにより、実験 1 と同様、空主語を埋める際、解析器は「目的語優位」仮説で遂行しては いないことを示している。予測(iii)については、実験1では矛盾しない結 果を得たが、実験 2では、予測(iii)と合致しない結果を得た。よって、実 験 2 の結果は、予測(i),(ii),(iii),(iv)と合致しないので、主節動詞のコント ロール情報が一時的に無視されるという仮定自体の妥当性が低いと考え られる。

P10 の平均読み時間においては、各条件で有意差が見られないという ことは、補文動詞P10が入力される前に、解析器はすでにPROの先行詞、

すなわち、補文動詞の動作主が誰であるのかを予測していることが示唆 される。この予測は主節動詞P6の持つ情報を基にして行なわれていると 考えたほうが妥当である。つまり、解析器は主節動詞のコントロール情 報により、補文動詞の動作主を予測しているのである。よって、補文動

(16)

詞が出現した段階で空主語についての処理は完了し、それ以上は何も処 理しないので、各条件においては有意差が見られないことになる。

P6 の平均読み時間は、実験1と同様、主語制御動詞のほうが目的語制 御動詞より短かった。したがって、主節動詞が出現する前、解析器は「処 理中の文は主文の主語について言及したものである」と予想することが 考えられる。

P7 の平均読み時間においては実験1と同じ傾向が現れた。表2に示す ように、主語制御文(両語順の平均:542ms)のほうが目的語制御文(両 語順の平均:610.5ms)より読み時間が短かった10。更に、OS語順目的語

制御文(17d)のほうが SO語順目的語制御文(17b)より読み時間が短かった。

また、SO 語順主語制御文(17a)のほうが SO語順目的語制御文(17b)より読 み時間が短かった。上記で述べたように、主節動詞 P6 が入力される前、

解析器は「処理中の文は主文の主語について言及したものである」と予 想していると考えられる。よって、主文の主語のほうが主文の目的語よ りも記憶に残りやすいと考えられる。主節動詞 P6が出現した段階で、動 詞のコントロール情報により、解析器は次の補文動詞の動作主が誰であ るのかを理解しているので、P7 の平均読み時間においては、主語制御文 のほうが目的語制御文より読み時間が短いと推測される。しかし、OS 語 順目的語制御文(17d)と OS 語順主語制御文(17c)の間に有意差が見られな かった。OS語順目的語制御文(17d)の場合、解析器はdui目的語が想起し やすいので、差が見られないと考えられる。Dui 目的語が想起しやすい 理由としては、文頭であるから想起しやすいことや、文頭にある dui 目

的語がtopicであるため想起しやすいことなどが挙げられる。

(18) 表2 P7の平均読み時間(実験2)

主語制御文 目的語制御文 差 SO語順 541ms(17a) 684ms(17b) -143 OS語順 543ms(17c) 537ms(17d) 6 差 -2 147

10 実験2においては、文タイプの主効果は被験者分析では有意傾向に留まって いたが(F1 (1,23) = 3.88, p = .06)、項目分析では有意差が認められた(F2 (1, 35) =

5.07, p < .05)。よって、主語制御文のほうが目的語制御文より読み時間が短い

という強い傾向があると考えられる。

(17)

4.3 実験 12のまとめ

実験 1 と 2 はともに、MRFS は中国語の空主語文処理を導くストラテ ジーとしては適切ではないことを示唆している。また、実験 1 と2 では ともに、主節動詞P6の平均読み時間において、主語制御動詞のほうが目 的語制御動詞より短かった。したがって、主節動詞P6 が入力される前に、

解析器は「処理中の文は主文の主語について言及したものである」と予 想していることが考えられる11

実験2の結果によると、補文動詞(P10)が入力される前に、解析器はす でに空主語の動作主が誰であるのかを理解していると考えられる。つま り、実験文の中にあるもう一つの動詞(主節動詞P6)により空主語を埋 めることが示唆される。要するに、主節動詞P6の語彙情報(コントロー ル情報)が即座に利用されることが分かった。主節動詞の後に補文標識 shuo が付いているので、次に補文が続くことは明らかである。この時、

補文の主語(空主語)が誰であるかは主節動詞の語彙情報により即座に 判断される。

主節動詞(P6)が入力される前に、解析器は「処理中の文は主文の主語 について言及したものである」と予想していると仮定してみよう。そう すると、空主語として主文の主語が目的語より想起しやすいと推測され る。よって、P7 の平均読み時間において、主語制御文のほうが目的語制 御文より短いと予測される。しかし、実験1と2はともに、P7 の平均読 み時間において、SO 語順目的語制御文(15b,17b)のみ処理負荷がかかった ことが分かった。一方、OS語順目的語制御文(15d,17d)は主語制御文と同 じ程度の処理負荷であった。したがって、OS語順の場合、目的語の顕著

11 査読者のご指摘により、主節動詞P6の平均読み時間が異なることには、「dui 構文で目的語制御(コントロール)動詞が用いられることがあまりない」とい う可能性もある。これを検証するため、次の(i)のような実験文を用いて、文完 成課題の質問紙実験を行う予定である。下線の所に適当な動詞を入れ、主語制 御(コントロール)動詞のほうが目的語制御(コントロール)動詞より多いか どうかを検証する。

(i) a. Xiaodong(小東) dui Xiaohong(小紅に) shuo(補文標識) qu Beijing.

b. Dui Xiaohong(小紅に)Xiaodong(小東) shuo(補文標識) qu Beijing.

(18)

性が高くなったと考えられる。すなわち、PROを埋める際、解析器は主 文の目的語を想起しやすくなり、目的語を先行詞として処理する負荷が 小さくなったのである。目的語の顕著性が高くなった理由は、dui目的語 が文頭に現れることや、文頭に現れるdui目的語がtopic であることなど が挙げられる12

中国語の空主語文処理のプロセスについてまとめると次のようになる。

まず、「主語 dui目的語」までの段階で、解析器は次の内容が主文の主 語について言及したものと予想している。主節動詞 P6 が入力される際、

主語制御動詞の場合、予想と一致しているのに対して、目的語制御動詞 の場合、予想と一致していないので、読み時間が長かったと考えられる。

そして、解析器は即座に主節動詞の語彙情報を用いて、主文の主語と目 的語を探し始める。補文動詞 P10 が入力された際、解析器はすでに空主 語が誰であるかを判断し終わっている。

5. 総合考察

英語を対象とした空主語文処理では、Frazier et al. (1983)は(i) MRFS: 一番近いフィラーで空所を埋めるという仮説;(ii) LFO:痕跡はフィラー とはみなされない;(iii) 動詞の語彙的情報は MRFSが適用された後に働 くと主張した。

日本語を対象とした空主語文処理では、坂本(1995)、織田他(1997)、二

瀬他(1998)の結果をまとめると、(i) MRFS は日本語の空主語文処理には

適用されない;(ii) 再認課題では、「主語優位」で文処理が遂行される;

(iii) 再生課題では、「目的語優位」で文処理が遂行されると提唱された。

中国語を対象とした本研究では、(i) MRFSは中国語の空主語文処理に

12 しかし、OS 構文の場合に、「目的語を文頭に移動させることによって『顕 著性』が生じる」ならば、動詞の RT にこの影響があらわれないのはなぜかと いう指摘があった(査読者による)。Dui 目的語が文頭に現れても、解析器が

「処理中の文は主語について言及したものである」と予想しているとすれば、

主節動詞P6の平均読み時間に影響を与えないと思われる。どうしてdui構文に おいては、解析器が「処理中の文は主語について言及したものである」と予想 しているかというと、一つの解釈として、中国語の「主語」が非常に特殊な性 質を持っているからである。これについては、今後の課題として検討する予定 である。

(19)

は適用されない;(ii) 主節動詞の語彙情報(コントロール情報)が即座 に用いられるということが分かった。

中国語と日本語の空主語文処理において MRFS が適用されないという ことは、MRFS は英語のためだけに適用される特殊な方略である可能性 がある。しかしながら、英語の空主語文処理では、MRFS が適用される 前提は動詞の語彙情報が遅延的に用いられることにある。しかし、文理 解は時間軸に沿って即時的に展開されている。すなわち、次々に入力さ れる要素の情報を処理するプロセスは高速で遅延なく行われているはず である。英語の空主語文について、動詞が入力された時点で、動詞の情 報だけを無視することは、こうした一般的な情報処理システムから見て も妥当であるとは言い難い。もしこの前提が間違っていると、MRFS が 存在するための基盤も失われることとなる。更に、今回の実験結果から、

動詞の語彙情報が即座に用いられることが分かった。したがって、言語 処理は距離的な方略に従って決まるのではなく、言語的な情報に関与し た独自の処理方法があると考えたほうが妥当である。

6. 今後の課題

本研究では、MRFS は中国語の空主語文処理には適用されなく、主節 動詞の語彙情報が即座に利用され、空主語を埋めるということが明らか になった。しかし、どうして英語の場合、距離的遠近による知覚方略を 利用し、日本語の場合、文法(主語・目的語という情報)を参照して空 所を埋めるのかについてまだ疑問が残っている。これを解決するために、

以下に述べる二つの実験を行う予定である。

(i) 中国語母語話者の子供(5-10歳)を被験者に実験を行う

C.Chomsky (1969)は、英語母語話者である5歳から10 歳までの子供を

対象に行った実験の結果、Frazier et al.が主張した「最も近いフィラーの 方略(MRFS)」と同じ原理に基づく Minimum Distance Principleを主張 した。ここで、中国の5歳から10 歳までの子供を被験者に、実験1と2 を行い、「最も近いフィラーで空主語を埋める」という結果が出たと仮 定する。そうすると、個別言語の文法を習得する前の段階における文処 理のストラテジーは普遍的であると考えることができる。そのストラテ ジ ー と は 、 た と え ば 、Frazier et al.の Most Recent Filler Strategy や C.Chomsky のMinimal Distance Principle のようなものである可能性があ る。その後、個別言語の文法を習得してから、各言語の特殊なストラテ

(20)

ジー、たとえば、日本語の「目的語優位」・「主語優位」、中国語の「動 詞語彙情報の即時利用」などにより処理を行うと考えてよいだろう。

(ii) 中国語を学習する日本語母語話者を被験者に実験を行う

第二言語習得の視点から、異なる習熟度(中級:中国語検定試験2級;

HSK6-8 級/上級:中国語検定試験準1 級と 1 級;HSK9-11級)の被験者

に、実験 1 と 2 を行う。習熟度中級の日本語母語話者が完全に中国語の 文法を自分の言語知識に設定(setting)できない場合には、距離的遠近によ り空所を埋めるという結果が多く観察されると予測される。一方、習熟 度上級の日本語母語話者は、中級の学習者よりも多くの中国語文法を自 分自身の言語知識に設定(setting)していると推測されるので、中国語母語 話者と同じ実験結果になると予測される。

もし実験結果が(i)と(ii)の予測通りになれば、言語発達の初期段階では、

解析器は一般的方略(general strategy)を用いており、言語習得が完了する と、言語的方略(linguistic strategy)に移行するということを示唆している と想定される。しかしながら、言語的方略を用いる段階に至っている場 合でも、一般的方略を使わないことを排除できない。解析器がより経済 的なストラテジーを選んでいる可能性は常にある。つまり、言語処理は 言語理論と完全に無関係、あるいは、必ず関係付けるというようなどち らか一方ではなく、状況に応じて、解析器にとって一番経済的な(効率 が良い)方略が選択されているのではないかと考えられる。もちろん、

どのような状況であれば、どの方略が用いられるのかを説明することが 必要となってくる。

謝辞

本論文を執筆するにあたり、ご指導いただいた九州大学の坂本勉先生、

稲田俊明先生、久保智之先生、上山あゆみ先生にお礼を申し上げます。

特に坂本先生には、長きに渡って丁寧なご指導をいただきました。心よ り感謝申し上げます。また、多くの九州大学の大学院生の方々にも日頃 より貴重な助言をいただきました。さらに、二名の匿名査読者から貴重 なコメントをいただきました。記して感謝いたします。もちろん、本論 文に見られる一切の誤りは全て筆者の責任でございます。なお、本研究 の一部は、九州大学大学院人文科学研究院附属言語運用総合研究センタ ー(Center for the Study of Language Performance) [http:// www.lit.kyushu

(21)

-u.ac.jp/˜cslp]の補助を受けている。

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Appendix

実験 1 リスト1 の中の実験文 28 文(SC=SO語順主語制御(コントロー

ル)文、OC=SO 語順目的語制御(コントロール)文、SCS=OS語順主語

制御(コントロール)文、OCS=OS語順目的語(コントロール)文)

01 SC Qiantian Xiaodong zai xuexiao dui laoshi fanfu baozheng shuo qu Beijing.

02 SC Zuotian Wangnvshi zai gongsi dui Lixiansheng zhengshi shenqing shuo qu Beijing.

03 SC Shangzhou Xiaodong zai dianhuali dui nvyou jili bianjie shuo qu Beijing.

04 SC Qiantian Wangnvshi zai gongsi dui Lixiansheng mingque biaotai shuo qu Beijing.

05 SC Zuotian Xiaodong zai xuexiao dui tongxue teyi xuanyao shuo qu Beijing.

06 SC Shangzhou Xiaodong zai xinzhong dui nvyou zhencheng tanbai shuo qu Beijing.

07 SC Qiantian Xiaodong zai jiali dui fumu dadan fashi shuo qu Beijing.

08 OC Zuotian Wangnvshi zai gongsi dui Lixiansheng dasi gudong shuo qu Beijing.

09 OC Shangzhou Xiaodong zai xuexiao dui nvyou zhudong quandao shuo qu Beijing.

10 OCQiantian Wangnvshi zaibangongshili duiLixiansheng zhengshi minglingshuo qu Beijing.

11 OC Zuotian fumu zai dianhuali dui erzi mingque fenfu shuo qu Beijing.

12 OC Shangzhou Wangnvshi zai gongsi dui Lixiansheng maoran fenfu shuo qu Beijing.

13 OC Qiantian Xiaodong zai xuexiao dui nvyou chengken quangao shuo qu Beijing.

14 OC Zuotian Wangnvshi zai gongsi dui Lixiansheng zhengshi mingling shuo qu Beijing.

15 SCS Dui erzi shangzhou fumu zai dianhuali buduan chengnuo shuo qu Beijing.

16 SCS DuiLixiansheng qiantian Wangnvshi zaibangongshili fanfu shenqing shuo qu Beijing.

17 SCS Dui nvyou zuotian Xiaodong zai xuexiao buduan fashi shuo qu Beijing.

18 SCS Dui nvyou shangzhou Xiaodong zai dianhuali guyi bainjie shuo qu Beijing.

19 SCS DuiLixiansheng qiantian Wangnvshi zai gongsi teyi xianshi shuo qu Beijing.

20 SCS Dui nvyou shangzhou Xiaodong zai dianhuali buduan xunuo shuo qu Beijing.

21 SCS Dui Lixiansheng zuotian Wangnvshi zai bangongshili qinzi qingshi shuo qu Beijing.

(23)

22 OCS DuiLixiansheng qiantian Wangnvshi zai gongsi buduan duncu shuo qu Beijing.

23 OCS Dui nvyou shangzhou Xiaodong zai dianhuali dadan songyong shuo qu Beijing.

24 OCS Dui Lixiansheng zuotian Wangnvshi zai gongsi teyi duncu shuo qu Beijing.

25 OCS Dui tongxue qiantian Xiaodong zai xuexiao fanfu suoshi shuo qu Beijing.

26 OCS Dui erzi shangzhou fumu zai dianhuali zhencheng quanyou shuo qu Beijing.

27 OCS Dui Lixiansheng zuotain Wangnvshi zai gongsi fanfu suoshi shuo qu Beijing.

28 OCS Dui nvyou qiantian Xiaodong zai dianhuali zhencheng quanyou shuo qu Beijing.

実験2リスト1の中の実験文36文

01 SC Shangzhou Xiaohong zai jiali dui Xiaodong zaisan fashi shuo mingnian cong Xian yiding qu Beijing.

02 SC Qiantian Xiaodong zai kafeiting dui Xiaohong buduan chuixu shuo biyehou cong Xian shijie qu Beijing.

03 SC Shangci Xiaoliang zai gongsi dui Xiaoyan buduan biaotai shuo mingnian cong Shanghai yiding qu Beijing.

04 SC Qiantian Xiaowei zai xuexiao dui Xiaoli fanfu chengnuo shuo biyehou cong Changchun yiding qu Beijing.

05 SC Zuotian Xiaoyan zai dianhuali dui Xiaoliang zhudong chengren shuo biyehou cong Changchun zhijie qu Beijing.

06 SC Shangzhou Xiaoliang zai xuexiao dui Xiaoyan teyi xuanyao shuo biyehou cong Changchun zhijie qu Beijing.

07 SC Zuotian Xiaodong zai xinzhong dui Xiaohong zhencheng tanbai shuo biyehou cong Xian zhijie qu Beijing.

08 SC Zuotian Xiaowei zai gongsi dui Xiaoli maoran huibao shuo xiageyue cong Shanghai zhijie qu Beijing.

09 SC Shangci Xiaoliang zai xuexiao dui Xiaoyan qinzi daobie shuo xiazhou cong Dalian zhijie qu Beijing.

10 OC Qiantian Xiaohong zai jiali dui Xiaodong buduan tixing shuo yinianhou cong Dalian yiding qu Beijing.

11 OC Zuotian Xiaoliang zai dianhuali dui Xiaoyan fanfu zhufu shuo mingnian cong Xian zhijie qu Beijing.

12 OC Shangzhou Xiaohong zai gongsi dui Xiaodong fanfu guli shuo xiageyue cong Dalian yiding qu Beijing.

13 OC Zuotian Xiaoli zai xuexiao dui Xiaowei buduan zhuyuan shuo xiageyue cong Changchun zhijie qu Beijing.

(24)

14 OC Zuotian Xiaodong zai gongsi dui Xiaohong shuankuai pichun shuo mingtian cong Shanghai zhijie qu Beijing.

15 OC Shangzhou Xiaowei zai bangongshi dui Xiaoli mingque zhishi shuo mingnian cong Xian zhijie qu Beijing.

16 OC Shangci Xiaohong zai gongsi dui Xiaodong teyi quangao shuo xiageyue cong Dalian zhijie qu Beijing.

17 OC Shangci Xiaowei zai dianhuali dui Xiaoli zaisan duncu shuo mingnian cong Xian yiding qu Beijing.

18 OC Shangzhou Xiaoyan zai gongsi dui Xiaoliang zhengshi mingling shuo houtian cong Xian zhijie qu Beijing.

19 SCS Dui Xiaoliang qiantian Xiaoyan zai bangongshi aisan xunuo shuo xiazhou cong Dalian yiding qu Beijing.

20 SCS Dui Xiaohong shangci Xiaodong zai bangongshi zhengshi shenqing shuo mingnian cong Changchun zhijie qu Beijing.

21 SCS Dui Xiaoliand shangzhou Xiaoyan zai jiali buduan chuiniu shuo biyehou cong Xian zhijie qu Beijing.

22 SCS Dui Xiaowei shangci Xiaoli zai xuexiao fanfu jieshi shuo biyehou cong Changchun zhijie qu Beijing.

23 SCS Dui Xiaowei shangci Xiaoli zai gongsi zaisan qingshi shuo xiageyue cong Changchun zhijie qu Beijing.

24 SCS Dui Xiaoli shangzhou Xiaowei zai gongsi qinzi qingshi shuo xiageyue cong Shanghai zhijie qu Beijing.

25 SCS Dui Xiaoyan shangci Xiaoliang zai dianhuali tanshua biaoming shuo biyehou cong Changchun zhijie qu Beijing.

26 SCS Dui Xiaohong shangzhou Xiaodong zai kafeiting zhudong tanbai shuo yinianhou cong Xian yiding qu Beijing.

27 SCS Dui Xiaoyan zuotian Xiaoliang zai xuexiao zaisan bianjie shuo biyehou cong Shanghai zhijie qu Beijing.

28 OCS Dui Xiaohong shangci Xiaodong zai gongsi fanfu jianyi shuo mingnian cong Shanghai yiding qu Beijing.

29 OCS Dui Xiaowei zuotian Xiaoli zai xuexiao zhengshi pizhun shuo biyehou cong Shanghai zhijie qu Beijing.

30 OCS Dui Xiaohong qiantian Xiaodong zai dianhuali jili quandao shuo biyehou cong Xian zhijie qu Beijing.

31 OCS Dui Xiaowei qiantian Xiaoli zai gongsi zhudong yaoqing shuo

(25)

mingnian cong Xian zhijie qu Beijing.

32 OCS Dui Xiaoliang qiantian Xiaoyan zai bangongshi fanfu jili shuo xiageyue cong Xian zhijie qu Beijing.

33 OCS Dui Xiaodong qiantian Xiaohong zai jiali chengken zhufu shuo yinianhou cong Dalian zhijie qu Beijing.

34 OCS Dui Xiaoli qiantian Xiaowei zai dianhuali zaisan tixing shuo biyehou cong Dalian zhijie qu Beijing.

35 OCS Dui Xiaoli shangci Xiaowei zai dianhuali zhudong quandao shuo biyehou cong Dalian zhijie qu Beijing.

36 OCS Dui Xiaohong zuotian Xiaodong zai xuexiao buduan qiangpo shuo biyehou cong Changchun zhijie qu Beijing.

(26)

Processing of Empty Subjects in Control Structures of Chinese

Yong Zhai (Kyushu University)

One of the central objectives of psycholinguistic research is to clarify the mechanism of language processing when a "gap" is filled with a "filler". In this paper, two experiments on the processing of empty subjects in control structures of Chinese has been carried out to reexamine the findings of previous experimental results on empty subjects in English and Japanese. The results indicated that (i) Most Recent Filler Strategy (MRFS) is not applied in the Chinese empty subject sentence processing;(ii)the control information of the main clause verb is used immediately. Therefore, it was clarified that there was a language processing system independent of the MRF strategy in the language processing.

(受理日 2006 年3月31 日 最終原稿受理日 2006年10月30日)

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