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書評 Eric Bulson, ed. The Cambridge Companion to the Novel. Cambridge: Cambridge University Press, 2018. xviii + 314 pp.

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Academic year: 2021

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(119) [  ]21  小説とは何かを論じる書物は枚挙にいとまが 無い。とりわけ 20 世紀以降、小説自体がリアリ ズムの枠を超え、モダニズム、ポストモダニズ ム、ポストコロニアリズム、フェミニズム、多文 化主義等諸々の思潮の変遷を伴い、大きく変化し てきたこともあって、小説についての議論は必然 的に繰り返される事柄となった。本書 Cambridge Companion to the Novel(2018) は、 多 く の 小 説 と それをめぐる小説論の概要を提示し、現時点での 小説をとりまく諸問題の議論の立脚点を明確にす る。

  類 書 と し て 比 較 し や す い も の に、 同 じ く ケ ン ブ リ ッ ジ 大 学 出 版 局 の 別 シ リ ー ズ の 一 冊、 M. Mackay 著 Cambridge Introduction to the Novel (2011)がある。両者は執筆時期が比較的近いの で、論考の範囲もかなり重なる。但し Cambridge Introduction to the Novel が Mackay の 単 著 で あ り、 統一した構成をもって小説というジャンルの分 析・解説・例証を提示しているのに対し、本書 Cambridge Companion to the Novel は編者 E. Bulson に よる序論と、筆者の異なる十五の章から成るアン ソロジーである。また本書は、「小説とは何か」・「小 説の機能」・「小説の行方」をそれぞれテーマとす る三部構成で、これまでに出版された小説と小説 論に関する議論に加えて、今後の小説の行方につ いての考察も含むことを特徴とする。21 世紀も 早二旬となる今日の時点において、新たな洞察の 方法を提供している点でも大学院生に薦めたい一 冊と言えるだろう。  紙幅の許す範囲で順に概要を追う。編者 Bulson は序論で、小説とは、「作家が実験的自我(登場 人物)という手段を用いて、存在の大きなテー マを検討する大きな散文の形式」という Milan Kunderaによる定義を引き合いにして、人間が自 分の存在について考察するのを助けてくれる様々 な声や物語や場所を見つけに行ける数少ない場の 一つであると論じる。そして、小説を通して人が 存在の大きなテーマに近づきうるのは、小説が W. Benjamin の言う「生存の深遠な複雑さの証拠」と なる力を有するからであり、そういう力が「小説 は人間性にどっぷり浸かっている」という E. M. Forster の結論を導いたと述べる。その上で Bulson は、異なるジャンルを混在させて歴史・ロマンス・ エピック等の要素を織り込みながら、常に変化し 続けてきたことを小説の最大の特殊性と捉える。 この考えは、小説をその原初的なものから未来を 予測させるものまで、古代から 21 世紀に至る広 範な時間と空間の広がりの中で考察する本書の姿 勢を裏付ける。「小説には未来がある」という D. H. Lawrenceの言葉を正しいとして、無論 20 世紀 初頭と今とでは見えているものは違うと断わりつ つ引用しているのも、その姿勢を示唆するもので あろう。  第 I 部「小説とは何か」。

 1 章 Th e Novel as Genre の論者 V. Cooppan の狙 いは、各種のジャンル論を介して小説の時間性を 考察することにある。Cooppan は、小説がエッセ ンスというよりプロセスであると延べ、小説で繰 り返されるテーマに対する表現形式や構造の自由 度を論じた M. Robert や、小説の決定的な変移性 を主張する M. Mckeon の議論を紹介する。そして、 小説の言語の中に時間の本質を見出した Mikhail Bakhtinの、言語・時間・空間・形式に着目した 包括的小説ジャンル論を取り上げる。Northrop Fryeがジャンルを(ロマンス・悲劇・喜劇・アイ ロニーに)分解したのに対し、Bakhtin はそれを

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e Cambridge Companion to the Novel.

Cambridge: Cambridge University Press, 2018. xviii + 314 pp.

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への迎合を許容する可能性を残すことも否めない と指摘する。

 6 章 Modernism and the Novel で C. Flynn は、 革新と多様性を標榜するモダニズム小説が、プ ロットよりも内面性の表現を第一位の要素とし て、語りの形式の様々な刷新をもたらしたことを 確認する。その上で、モダニズム小説の強力な断 絶性にもかかわらず、その中にある系統的連続性 と変容の関連を Conrad、Proust、Joyce、V. Woolf、 および第2世代として Jean Rhys と Beckett をケー ス・スタディにして論じる。

 第 II 部「小説はどのように機能するか」。 7章 Novels and Characters で M. Figlerowicz は、作 中人物と現実の間の蓋然性が小説の緊張感を作り だし、時に熱狂をもたらして小説の隆盛を促した こと、また小説の持つ「信じさせる力」が、物事 に対する慣習的理解を覆させる力となることを論 じる。

 8 章 Novels and Readers の 論 者 S. Keen は、20 世紀後半以降、特に世界市場の批評メカニズムと してブッカー賞などの各種文学賞が、作者を遠く 広い読者層につなげるのに寄与したと言う。また、 多々ある読者理論の殆どが、含意された読者(the implied reader)を想定していると述べ、W. Booth と W. Iser の読者理論にナラトロジーを介在させ た S. Chatman によるコミュニケーションの流れ のパラダイムを紹介する。さらに Keen は、含意 された読者と現実の読者の間には往々驚くほどの 差異が存在することに触れ、その差異に優劣を含 ませるのでなく、自由で人間的な普遍主義に帰す る形で注意を払うべきだという Fredric Jameson の 考えを推奨する。

 9 章 Th e Space of the Novel で R. T. Tally Jr. は、 小説を文学的地図作りの一形式と捉える。J. R. R. Tolkienの Th e Lord of the Rings のようにプロット自 体が地図作りを促す作品もあるが、小説は常に作 者・読者・登場人物が遭遇する想像上の場所を導 く地図を作成しているのであり、それ自体が活発 な力で世界を形作る手段となると言う。

 10 章 Th e Novel and the Law で R. Spoo は、 小 説が事実と真実(の幻想)に本質的に関わるジャ ンルであり、攻撃的と受け取られるテーマを掘り 下げるのに適した語りの形式を持つために、法律 の的にされやすいと言う。そして、1. 猥褻性、2. 著作権、3. プライバシーの観点から、小説が被っ た過去の様々な訴訟や処分の例を分析する(特に 結合し、あらゆるジャンルを統合するものとし て、小説を異種混淆の生命体に仕立て上げたと述 べる。小説をフローと捉え、最も流動的なジャン ルとする考えを Cooppan は提示する。

 2 章 Rises of the Novel, Ancient and Modern で A. Beecroftは、世界に展開するナラティヴ・フィク ションの歴史の中で、小説を固有の形式として特 定する方法は何かと問い、複数の地域ごとの起源 を ることは規模として扱いやすいと言う。例え ば、18 世紀イギリスにおける産業資本主義およ びプロテスタンティズムの結合が、個人主義の台 頭と相俟ってリアリズム小説の興隆を促したと する Ian Watt の Th e Rise of the Novel: Studies in Defoe, Richardson, and Fielding(1957)はよく知られている。 但し Beecroft は、Watt が小説の起源をロマンスと の区別に依拠して設定したことに対して、フラン スのリアリズム小説ではその区別があまり明確で ないこと、またイギリスとフランスのリアリズム 小説をナラティヴ・フィクションのパラダイムと して強調しすぎると、その基準からはずれる古今 東西の散文フィクションが幾つも現われることを 指 摘 し、Satyricon、Don Quixote、Th e Tale of Genji、 Th e Plum in the Golden Vase 等の例をあげる。より正 確なリアリティの表出ではなく、より大きな作品 を構成する小さなナラティヴのスムーズな結合の 創出の問題として考えることを Beecroft は提起し ている。

 5 章 Realism and the Novel で M. Sayeau は、 小 説とリアリズムの不可分な関係について、Roland Barthesの Flaubert 論や Watt の Defoe / Richardson 分析に触れた後、C. Gallagher のフィクショナリ ティに関する議論を提示する。また、小説の発展 とともに心理的リアリズムが次第に主流となった ことを述べた上で、リアリズムが欧米のような世 界の中枢から外の世界と出会う時に何が起こるの かに関して J. M. Coetzee のエッセイ(1986)を紹 介する。さらに、リアリズムにファンタジー・魔法・ 神話の要素を挿入したマジックリアリズムについ ては、G. G. Marquez や J. L. Borges ら南米作家に よる実践を経て、Salman Rushdie、Toni Morrison、 Angela Carterら英語圏作家にも多々見られ、ポス トコロニアル的・マイノリティ的現実が伝統的リ アリズムの表現にうまく適合しないことからそれ が生み出された、という考えは説得力があると述 べる。しかし、古典的リアリズムに内在する問題 を顕在化した反面、西欧の読者の異国趣味や現実

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Novel は、強烈なストーリー性とメディアへの適 合性を持って急成長してきたグラフィック・ノ ヴェルが予想させる今後の小説との相関的影響に ついて論じている。

 15 章 Th e Novel as Planetary Form の論者 J. Keith は、小説が、国家と深い結びつきを保持してきた 時代から、そのカテゴリーを超えた地理的歴史 的スケールに移行する「プラネタリー・フォー ム」としての将来を予告する。世界同一交換シス テムを土台としたグローバリゼーションとの差異 化を意識した「プラネタリー」の語は、Gayatri C. Spivak[Death of a Discipline(2003)]に拠るもので あり、人間性の条件としての、他者に対する関係 性を呼び起こすことを意図するとされる。Keith はこれを小説に当てはめ、小説とその歴史を他者 との関係性において読み、考えることを主張し、 Spivakがベンガル語から英訳した Mahasweta Devi の中編小説 Pterodactyl(「翼手竜」)の例を挙げる。 Keithはまた、この「プラネタリー」な時間的空 間的感覚が、実は 3 世紀の Heliodorus による Th e Ethiopian Romance のような揺籃期の小説にも見出 しうる、小説が本来保有する特質である可能性を 論じる。  このように、本書は様々な角度から小説論を展 開する。21 世紀の現時点において小説を考察す るための諸々のヒントを提供してくれるだろう。 大西洋を跨いだ Joyce、Lawrence、Radclyff e Hall ら の例)。その上で、法の力が小説を時には抑制し、 時には普及と消費の形成に驚くべき影響力を及ぼ すことを論じる。  11 章 M. Algee-Hewitt ら 3 名のスタンフォード 大学研究チームによる Th e Novel as Data は、小 説を大量の言語資料の集積体としてデータ分析す ることの意義を論じ、Dickens の David Copperfi eld の具体的な分析例を載せている。Franco Moretti が Atlas of the European Novel, 1800-1900(1998) で Jane Austenの作品のマップ化や貸出図書館のデー タ化を披露し、先佃を付けたこの手法は、Moretti が率いてきたスタンフォード大学文学ラボのお家 芸とも言えるだろう。この手法では無数のテキス トの導入が可能になることで、小説のオーソドッ クスな基本的問題(プロット・人物・テーマ・技 法等)の解析のみならず、歴史的文化的包括的洞 察の提供が可能になると論じている。  第Ⅲ部「小説はどこへ行くか」。

 12 章 Th e Novel as Commodity で P. Joshi は、商 業資本と文化資本の両面性を伴って何世紀も流通 してきた小説が、拡大するグローバル社会におい て(媒体の形式は変化しても)常に書き続けられ、 読み続けられる物質的存在であり続けるだろうと 述べ、出版文化の歴史と今後を論じる。

 13 章 J. Baetens と H. Frey に よ る Th e Graphic

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