児童養護施設経験者との語りにみられる施設経験の意味づけと現在とのむすびつき : ナラティブ・アプローチを用いて
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(2) 目次. 1章問題と目的・・・・・・・・・…. @ 2 1節 児童養護施設に入所するということ・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・… @ 2 2節 児童養護施設で生活するということ・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・… @ 3 3節 児童養護施設を退所するということ・ ・.・・・・・・・・・・・・・・・… @ 5 4節 本研究の目的一・・・・・・・・… ・・・・・・・・・・・・・・・・・… @ 6 ・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 2章方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 7 1節ナラティブ・アプローチ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 7 2節 研究協力者・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 7 3節 手続き・・・・・・・・・・・… .一........、.....一...8 4節 分析方法・・・・・・・・・・… 一・・・・・… 。.・.......。8 3章 結果と解釈・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… ’… ’’’’’9 1節 Aさんの語りと解釈・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 9. 2節 Bさんの語りと解釈・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 27 4章 考察・・・・・・・・・・… ’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’52. 1節 AさんとBさんの語りに共通して浮かび上がってくること・・・・・・・… 54 2節 本研究の限界と今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 58 引用文献・・・・・・・・・・・・… ’’’’’’一’’’’’’’’’’’’’60. 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 63.
(3) 1章問題と目的 1節 児童養護施設に入所するということ 児童養護施設とは,児童福祉法41条で,「児童養護施設は,保護者のない児童,虐待さ れている児童その他環境上養護を要する児童を入所させて,これを養護し,あわせて退所 した者に対する相談その他の自立のための援助を行うことを目的とする施設」と定義され ている児童福祉施設の一つである。現在,全国583カ所の児童養護施設に31,593人の子ど もが生活しており,そのうちの83.2パーセントである26,277人は,親がいるにもかかわ らず,親からの虐待,放任,養育拒否や親の精神疾患,借金,失業,受刑,離婚・別居, 病気などの理由によって入所している(厚生労働省,2009)。. しかし,施設への入所理由は,「入所の際に最も顕著だった理由をあらかじめ与えられた 選択肢から一つだけ選んで分類したもの」(加藤,2005)であり,「長きにわたる一連の不. 幸な出来事の最後の一押し(引き金)」(Goodman,2000 津崎訳2006)である。子ども たちが施設に入所する背景には,入所理由だけではない,さまざまな出来事がある。妻木 (2010)は,児童養護施設に入所する子どもとその家族には,親の不安定な就業やそれに. よる貧困,親の死別や離婚による家族構成の不安定さ・不定形さ,さらには親の疾病・障 害と精神的不安定さがあり,それらの環境としての困難によって,しばしば家族関係に葛 藤,そして虐待が生じやすくなることを指摘してし)る。また,堀場(2010)は,親の親(祖. 父母)の代からの経済的貧困を背景に,親の「低学歴→不安定就労→失業・借金→地域社 会からの孤立→心身の健康状態の悪化→虐待・離婚→家庭崩壊→施設入所」という典型的 な「貧困」と「虐待」の再生産が多くみられることを明らかにしている。つまり,児童養 護施設で生活している子どもとその家族は,入所以前,物理的にも心理的にもさまざまな 困難を抱えており,またそれらの困難が重層化し絡み合っている状態なのである。そのた め森田(2006)は,児童養護施設で生活している子どもたちは,たとえ虐待が入所理由で なかったとしても,実は心理的虐待やネグレクトを受けていることが多いとしている。. また,施設で生活している子どもたちは,施設へ入所する際に,転校によって友人と別 れたり,住み慣れた場所を離れたりするなどさまざまな対象喪失を経験している(出野, 2008)。そして,すべての子どもたちに共通して体験しているのが,親との一時的または半 永久的な生別または死別である。施設入所に至るまでにどのような背景があったとしても,. 多くの子どもたちにとって親は愛着対象者である。それにもかかわらず,児童養護施設で 生活する子どもたちの多くは,なぜ自分が施設に入所しなければいけないのか十分に納得 しがたいまま親と離れて生活することを余儀なくされている(楢原・藤澤,2009)。そのた め児童養護施設に入所する子どもは,入所の際にr自分がどうしようもなく悪い子だから,. ついに親は自分のことを見捨てるんだ」と認知する可能性があり,入所以前の不適切な養 育関係によるトラウマだけではなく,愛着対象である親から「捨てられる」という分離・ 喪失による二重のトラウマを経験している(西澤,1995;大迫,2008)。.
(4) したがって,施設で生活する子どもたちは,家族から分離され施設に措置されたことに まつわる怒りや哀しみなどの感情を抱きながらも,「なぜ自分が施設で生活しなければいけ ないのか」という疑問を自分なりに一生懸命考えている(楢原・藤澤,2009)。また,施設. で生活する子どもたちのなかには,物心のつかない頃に施設に入所してきて家族について の情報を十分に知らなかったり,入所後の連絡が途絶えたまま家族と全く交流を持ってい なかったりする子どももいるため,「自分は何者なのか,どうして生まれたのか」という自 己形成に関わる問いがさまざまな場面で表出される(楢原,2009)。さらに,養育者への愛 情あるいは養育者からの圧力,自責感・恐怖・恥の感覚,社会的な価値観や偏見などから,. 子どもは自分の過去の体験や家族について,「秘密にしなければ,知られたら困る」と思い ながらも,一方で「言いたい,わかってほしい」という気持ちをもっている(市川,2003; 楢原,2009)。そして何より,「生まれてきてよかった,この世に自分の居場所がある,人 生は生きるに値する」という実感を求めているのである(村瀬,1996)。. このような状況を踏まえ,平成11年度から児童養護施設に心理療法等担当職員を配置す るという予算措置がとられ,児童養護施設へ心理職が導入されることとなった。さらに,. 施設で生活している虐待を受けた子どもたちにきめ細やかな支援を行うため「被虐待児受 入れ加算」がつくようになり,平成18年度からは,児童養護施設の心理療法等担当職員の 常勤化が推進されることとなった。坪井(2008)は,さらに,施設全体の方針や各部屋の 実態についての把握,すべての子どもたちに対して入所時のインテークやタイムリーな相 談,心理教育,退所に向けてのプログラム,退所後のフォローアップを行うこと,必要な 子どもには心理検査も行うこと,ケアワーカーやファミリー和ソーシャルワーカーとの勉 強会や連絡調整のサポートなども挙げている。しかしながら,非常勤の施設心理士が多い 現状では,子どもたちとの心理療法や心理アセスメント,また職員とのコンサルテーショ ンが主な心理職の職務内容である(鵜飼,2010)。. 2節 児童養護施設で生活するということ 厚生労働省(2009)によれば,児童養護施設で生活している子どもの年齢は,O歳から 18歳以上と幅広い。そのため,1年未満で施設を退所する子どももいれば,12年以上施設 で生活している子どももいる。さらに,施設入所後の家族との関係においても,月に一回 以上帰省したり,親と電話をしたり,面会をしたりする子どももいれば,一切親との交流 がない子どももいる。また全国には583か所の児童養護施設があり,施設の形態も20人以 上で生活する大合制,13人から19人までで生活する中合制,12人以下で生活する小舎制,. 6人以下で生活する小規模グループケア,6人以下で既存の住宅などで生活する地域小規模 児童養護施設,その他グループホームとさまざまである。そして,施設ごとに集団での生 活を維持するための特有の厳しいルールや理不尽な生活習慣があったり,伝統行事やレク リエーションなどがあったりする(全国児童養護施設協議会,2011)。つまり,一口に「児. 童養護施設で生活する子ども」と言っても,子どもの状況,施設の環境は多様である。そ.
(5) のため,施設で生活する子どもたち一人ひとりにさまざまな出来事があり,またその意味 合いもそれぞれ状況や環境によって異なる。したがって,施設経験者一人ひとりが固有の 施設経験を抱えていると思われる。. そして近年,児童養護施設で生活している子どもたちやかつて生活していた施設経験者 のその固有で多様な施設経験が本やプログ,講演会,論文などで伝えられるようになった (その一例として,全国児童養護施設協議会,1997;子どもが語る施設の暮らし」 メ,1999;. NPO法人社会的養護の当事者推進団体日向ばっこ,2009;全国児童養護施設協議会,2009; 渡井,2010;りさり,2011)。またその当事者の声から,どのような関わりが良かったのか,. などについての研究も行われている(青木・国分・細田・村瀬,2001;安藤・数井,2004; 国分,2005;全国社会福祉協議会・児童福祉部,2009;伊藤,2010)。. その当事者たちの声から固有の施設経験においても良かったこととして多く挙げられる のが,規則正しい生活や三食揃うおいしい食事,ひとりではないという安心感,旅行や外 出などの行事,施設内の人間関係などである。. 特に,職員に真剣に話を聴いてもらえたり,親身になって心配してもらったり,怒って もらったりすることは,施設で生活する子どもたちにとって忘れがたい特別な体験になっ ている(子どもが語る施設の暮らし編集委員会編,1999;全国福祉協議会,2009)。そして,. そのような特別な体験の積み重ねが,職員への安心感や信頼感を育み,入所中においても 退所後においても職員が心の拠り所となる場合がある(全国福祉協議会,2009)。国分(2005). は,信頼できる職員との関係が,子どもが親子の不適切な関係による傷つきから再生し成 長することを支えるとしている。また,安藤・数井(2004)は,誰々の子であるという自 明のアイデンティティをもたず葛藤してきた施設経験者が,施設職員など「重要な他者」. と関わり,自分とは何かという問いを自らに繰り返し問うことで,施設出身者であること を自分自身のアイデンティティと反転し,強み,自信,個性,オリジナリティ,としてい く過程を明らかにしている。さらに,施設経験者のなかには,たとえ入所中は職員と信頼 関係を築けなくても,親になってから職員を肉親に頼るような心の支えとなる存在と思え,. 現在でも子育ての悩みや自分自身のトラブルを相談する人,施設入所中には感じなかった 職員への感謝を述べる人がいる(全国児童養護施設協議会,2009)。. その一方で不満として挙げられるのが,施設特有の細かな規則,集団生活を維持するた めの生活時間,大勢の子どもとの生活によるプライバシーのなさ,強制的な行事への参加 などである。. また,施設職員との関わりが子どもたちにとって,忘れがたい特別な体験になるにもか かわらず,児童福祉施設最適基準法第42条のr職員1人に子ども6人」という配置基準は, 昭和51年以降改正されていない。財政的な問題もあり,児童養護施設は慢性的に職員の数 が足りておらず,職員は常に忙しい状況で大勢の子どもたちと関わらざるをえない。その ため,施設で生活する子どもたち一人ひとりが,その心の世界に欲求なり,怒りなり,悲 しみなりを抱えているが,職員がこれらを受け入れ,その要求にできる限りこたえてやる 4.
(6) だけの余裕はない(森田,2006)。つまり,施設で生活する子どもにとって,職員は「みん. な」の職員であり,決して「自分だけ」の親代わりのような存在ではないのである。むし ろ子どもたちは,職員の忙しない様子をよく見て,迷惑をかけないよう,甘えないよう気 を遣うこともある(全国福祉協議会,2009)。また職員をどう「共有」していくのかは,子. ども遠の大きな関心事であるため,子どもは職員に注目してもらい特別に扱ってもらえる よう,職員から好かれる術を身につけることもある(全国福祉協議会,2009)。. さらに,子どもたちの間に,厳しい上下関係や暴力があることも多い(子どもが語る施 設の暮らし編集委員会編,1999;全国社会福祉協議会,2009)。そして,その暴力は身体だ. けではなく,心理的,性的と多岐にわたっており,近年,施設内虐待と呼ばれ,問題とし て可視化されるようになってきている(長瀬,2011)。なかでも,大人からは信じがたく,. また子どもからは語られることが少ない子ども同士の性的暴力においても,杉山と海野 (2009)は,現在の児童養護施設には,入所以前の虐待の反復として行われている性的虐. 待と力による支配として伝統的に施設で行われている性的虐待の二種類があるため,蔓延 していることを明らかにしている。つまり,さまざまな困難がある家庭から保護されるべ く入所した,安全で安心であるはずの児童養護施設においても,日常的に施設内虐待が行 われているのである。自身も施設経験者である市川(2003)は,子ども同士の施設内虐待 は,長年のトラウマとなり,その後の人生に大きな影響を残したことを述べている。. しかし,施設で生活をする子どもたちは,良くなかったことについてさまざまな思いを 抱えているが,その思いをぶつけても何も変わらず,むしろ怒られたり殴られたりするた めに,「仕方がない」と諦め,我慢して生き抜いていることが多い(伊藤,2010;長瀬,2011)。. そして鈴木(2004)は,施設で生活する子どもたちには,こころの支えとなるような趣味 や人,夢などの生きがいを充分にもちにくいとしている。. 以上のように施設には良かったことや不満だったことなどさまざまな出来事があり,施 設経験者は施設経験に苦痛を感じる一方で愛着もあり全否定はできない,矛盾した複雑な 思いを抱えている(市川,2008:長瀬,2011)。. 3節 児童養護施設を退所するということ. 斎藤(2008)は,施設を退所後わずか2∼3ヶ月のうちに13パーセントもの子どもたち の所在が分からなくなることを明らかにしている。しかし,それは彼らが平穏に暮らして いることを意味しているわけでは決してない。児童養護施設で生活していた子どもたちは,. 施設退所後においても,施設経験者であるため,社会からのいわれなき差別や偏見,身元 保証制度の不備による社会生活上の困難,社会生活などの無知や社会性の未成熟から来る 対人関係障害,家族的・社会的支援が断たれているという社会的孤立との闘いなどがあり, むしろ施設退所後の社会への適応過程に重大な課題が山積みしている(市川,2004)。. また,大学や専門学校などの進学率が70.2パーセント(文部科学省,2010)の現代日本. において,施設経験者の進学率は1812パーセント(厚生労働省,2008)であり,ほとんど 5.
(7) の施設経験者は,中学や高校の卒業時に施設を退所し,10代から働かなければならない。. さらに,彼らの多くは,家族を頼ることができず,住居を確保する必要性もある。そのた め,職業選択の幅が狭まり,安定した職業生活への移行と職業的キャリアの展開が困難な りやすい。そして,金銭的な貯蓄も多様な人的資源も乏しくなってしまう。つまり,いざ という時のための溜めがない,ぎりぎりの生活になるのである(妻木,2011)。したがって,. 多様な困難を抱えた家族との生活のために,施設へ入所し生活する子どもたちは,施設を 退所して施設経験者となっても,さまざまな困難を背負わされる。. その一方で現在,施設経験者を中心に当事者団体の活動が全国に広がりをみせ,現在全 国に6団体がある。これらの団体による活動は,その目的や規模,参加者層などが異なる が,主にサロン活動といった居場所づくりやサポート活動,社会的養護に関する情報発信 などを行っている。. 4節 本研究の目的 児童養護施設経験者は施設入所前や入所中,退所後から現在において,施設経験者特有 のさまざまな経験を抱えていると思われる。そしてやまだ(2007)は,出来事は同じでも,. それをどのようにむすびつけるかによって,人生の意味や人生の物語は大きく変わるはず であると述べている。つまり,養育者との不適切な関わりにより,児童養護施設で生活し たという事実は変わらなくても,施設入所中や退所後現在に至るまでに経た出来事を,ど のようにむすびつけるかによって,施設生活を経験してきた自己や家族のイメージは変容 する。また,児童養護施設経験者でもある自分の人生の意味も大きく変わるだろう。. そこで本研究では,児童養護施設経験者一人ひとりに固有である施設入所から退所まで の施設経験と退所後から現在までの生活について聴き,施設経験者が施設経験と現在をど のようにむすびつけ,意味づけているのかを明らかにする。そして,「生まれてきてよかっ. た,この世に自分の居場所がある,人生は生きるに値する」という実感を切実に求めて施 設へ入所した子どもたちが,施設経験者でもある現在の自己について,どのようなアイデ ンティティを形成しているのかについて検討を行う。先行研究の少ない児童養護施設経験 者の現在に関する研究を行うことによって,「養育」を目的とする児童養護施設において,. 過去と現在だけではなく,未来へも視点を膨らませた心理的支援が行えるのではないかと 考えられる。.
(8) 2章 方法 1節ナラティブ・アプローチ 本研究ではナラティブ・アプローチを用いる。ナラティブ・アプローチでは,個人が経 験する出来事は多様であることを前提とし,経験する出来事についての語りにも個別性が あると考える。なぜなら,同じ出来事を経験しても,その人の年齢・性別・居住地域・家 族関係・時代背景などによって,それまで経験してきた出来事とその出来事との間に多様 なむすびつきが生じ,その人特有の意味づけがなされるからである。また逆にいえば,個 別の語りにはr強調や削除や空白や欠落といった作者の意識的,あるいは無意識的な編集 作用」(矢野,2000)もあり,唯一の絶対的な真実ではないといえる。したがって,語られ. る物語とは,語り手が経験を有機的に組織化する行為,つまり経験や人生を編集する行為 であるともいえ,語りには絶えざる修正と生成による語り直し,構成と再構成の連続とみ なされる生成的機能も有する(竹家,2008)。それゆえ,物語には多数の多様な筋立ての両 立を許容する「物語の複数性」がある(竹家,2008)。. さらに,ナラティブ・アプローチにおいて語られる物語は,語り手と聞き手の相互関係 よって,共同生成されたもの(枝川・辻河,2011)である。つまり,語り手が語る物語は 語り手の人生の物語ではなく,語り手と聞き手とのその時その場での関係性によって生み 出された,固有の物語といえる。. 2節研究協力者 過去に施設で生活したことがある施設経験者に筆者と語りを生成してもらうために,3通 りの方法で協力を募った。1つ目は関西地方の児童養護施設に施設の卒園生を紹介してもら う方法であった。2つ目はある当事者団体の非経験者スタッフにコンタクトを取り,そのス タッフから団体の経験者に向けたメールで協力を募る方法であった。3つ目は別の当事者団. 体のHPに記載してあったEmai1アドレスに研究協力の依頼メールを送信する方法であっ. た。その結果,1つ目の方法から2名,2つ目の方法から5名,3つ目の方法から4名が申 し出てくれた。本研究では,研究協力者に過去の施設経験を語ってもらうことが多大な負 担となる可能性もあったため,当事者団体に参加しており過去の施設経験を話したことが あることや団体を通じての仲間がいること,さらに施設退所時から現在までの経験をも語 ってもらうため,退所時からある程度の年月が経過していることを考慮し,2名に協力を依. 頼した。2名のプロフィールをTab1e1に示す。.
(9) Tab1e1 研究協力者の属性と調査状況 年齢. A. 30代. 性別. 男性. 20代. 派遣. 入所理由. 不登校. 社員. 前半. B. 職業. 女性. 後半. NPO 職員. 両親の離婚. 施設生活. 退所. 退所後. 時期. 理由. の生活. 12歳3月∼. 高校. 親との. 18歳3月. 卒業. 同居. 5歳∼. 母親と. 親との. 14歳3月. の再会. 同居. 面接回数. 面接期間. 3回. X年9月. 3回. X年9月∼ 10月. 3節 手続き はじめに書面で,筆者の属性,本研究の目的と意義,質問項目,プライバシーの保護, 語ることの危険性とその際に筆者ができる対応を説明し,同意書に署名をもらった。また,. 面接の中断が可能であること,不都合な質問には答える必要はないことなどについても説 明した。そのうえで,協力者の承諾を得て録音した。. 面接場所は協力者の希望に従って決定した。時間は1回あたり50分を目安とし,場合に. よっては45分から90分までの範囲で行った。回数は3回ずつ行った。 半構造化面接を行い,語り手に以下の質問(①施設での経験について,②退所から現在 の生活について,③施設経験の意味づけについて,④現在の自己について,⑤未来の自己 について)を提示し,語ってもらった。また,聞き手は適宜,その時の詳細な状況や気持 ちを確認する質問を行った。. 4節 分析方法 具体的には竹家(2008)を参考に,以下のような方法で分析・考察した。. ①逐語文字化したデータを精読し,全体としての形を見失わないように注意し,全体の語 りの流れをみる。物語を生成的で未完なものと捉え,物語における意味的連続性を重視 しながら,物語の筋とそれ以外の評価や態度を表わす語り,双方について構造的にみる。. ②語られた順序,特に聞き手と語り手の共同による継起順序の流れをみる。. ③語られた量とr語りの種類」に着目し,語り手の人生のr鍵になる言葉」を見出す。 ④物語の筋に基づく現実に基づいた年表を作成する。 ⑤評価や態度などの語りに注目し,経験の意味づけを分析する。 ⑥語り手のライフスドーリを構成し,解釈する。.
(10) 3章 結果と解釈 2名のインタビューとの逐語録から,施設経験者の施設経験の意味づけや現在とのむすび つきが明確になると思われるナラティブをゴシック体で示した。また竹家(2008)の分析 方法に倣い,語りから得られた年表を作成し,ナラティブの始めに提示した。ナラティブ. のA,BはTab1e1におけるそれぞれのインタビュイーを,イはインタビュアーを指す。下 盤は特に印象的な語りを,鍵になるようなことはは圏と表記した。なお,プライバシーの 保護のため,個人が特定されるような表現は,○○などを用いて改変を行った。語りの内 容が分かりにくいと筆者が判断した場合は()で補足説明を行った。. 1節 Aさんの語りと解釈. Aさんは,小学校6年生の3月から高校3年生の3月までの6年間を施設で生活した30 代前半の男性である。現在は,福祉施設に派遣社員として働く一方で,インタビュアーで ある筆者と同様に臨床心理士を目指しており,大学にも通っている。また統合失調症を患. っており,薬物療法とカウンセリングを受けている。Aさんの3回の語りにおける〈物語 世界〉の「筋」から得られた年譜をTab1e2に示す。 Tab1e2. Aさんの語りによる年譜. 12歳3月施設入所 18歳3月 施設退所 実家で生活するようになる. 18歳4月 大学進学 アルバイトをする。精神的にしんどくなる. 22歳3月大学卒業。アルバイトをしながら生活をする 当事者団体の活動に参加し始める. 25歳 一人暮らしを始める。カウンセリングに行くようになる. 母親がAさんの家に住む Aさんは,筆者の質問に対して,腕組みをし,沈黙したり「う一ん」と言ったりしながら,. じっくりと考えていた。そして,どのような内容でもにこにこと穏やかに話していた。ま た,文末に「はい」や「うん」と区切りをつけるので,筆者はもう少し詳しく聴きたく思 い,積極的に質問した。. 1)施設での生活に関する語り. Aさんは小学校1年生から6年生までの間に1年間ほどしか学校に行っていない「不登 校」であった。そのため一時保護所に預けられ,その際に施設に行くか,家庭に帰るかと.
(11) いう選択肢が出された。Aさんは,「家のほうが一・・荒れていたんで,家よりはいいかな あと思って」施設に入所することを選択した。 年功序列について(1回目の語り) イ1その6年間での施設での生活っていかがでしたか。 ^:あああ。施設の,施設は,う一んと,なんて言うのかなあ,絶対に年上に逆らってはいけないというの. があって。まあ,小6から入って,えっとなんていうかな,いきなりしばかれるって言うんですかね。 そういうのがあって,本当怖い場所やなあと思って。で,年を経るごとに,まあ僕はあんまり手を出し たことないんですけど,年功序列でだんだんえらくなっていく。う一ん,それにちょっとびびってた。 びびってたというか怖がってた時期がありましたね。 イ:年上の人は絶対なんですか。 ^:絶対ですね。. イ1ほおお。例えば… ^:え一例えば,お弁当箱を洗ってとか,洗濯まわしといてとか,何時に起こしてとか,まあ他愛もないこ ともあれば,えっと,急に呼ばれて,野球するぞとか自分の時間があんまりなかった感じですね。はい。 イ:そういう人に対して怖いというか。 ^=う一ん,まあ優しい人は優しかったんですけどね。. 暴力について(1回目の語り) A:えっと,いやあ,僕は(施設に入所することを)ちょっと楽しみにしてたんですけどね。なんかジャン グルジムがあって,みんな仲良くやってるんかなあとかいろいろ思ったんですけど,でも入ってみると あれあれ,まあどつかれたり,まあ… う一んと,そうですね,えっとああ,まあどつかれてばっか りやなあ。屋亟…≡≡国でしたからね。. イ1暴力が普通。 ^1ええ。かつんという時もありゃ,ほんまに,えっと鳩尾とか殴られたりしたり。. 暴力について(1回目の語り) ^1で,(施設経験のなかで)思い出したくないというのはやっぱり暴力が… 。まあ,一番思い出した くなかったのが,僕が勉強してたんですけど,いきなり年上の人がおちょくって,いやちゃうわ,引き ずり出してたかな。なんかとりあえず小学生とかに蹴らしてぼこぼこにされて,でちょっと腹が立った から胸倉を掴んだら,さらにぼこぼこにされて。… それで向こうが悪いのに僕謝ってしまったんです。 そこがちょっと屈辱的やっなあっと。. 小学校6年生だったAさんは「家のほうが… 荒れていたんで,家よりはいいかなあ と思って」と思って,施設で生活することを選択した。そして,施設での生活を「みんな 仲良くやってるんかなあ」と「楽しみにしていた」しかし実際の施設での生活は,Aさんの. 期待とは違いr絶対に年上には逆らってはいけない」年功序列であり,曝力が普通」であ った。そのため,Aさんは「優しい人は優しかったんですけどね」と語りつつも「びびって た,怖がってた時期があった」と語った。安全で安心できるはずの生活の場で,暴力を振 るわれることはもちろん,びびったり怖がったりと子どもながらに緊張し警戒しなければ 10.
(12) ならないのは,大変なストレスであったと思われる。. また施設への入所の際,Aさんは自ら施設を選択しており,入所をある程度納得していた. と思われる。しかし実際に入所した施設はAさんの予想とは異なり,仲良くというよりも 暴力が普通であったため,期待が裏切られたという困惑や落胆もあったかもしれない。. 中学時代について(1回目の語り) ^:(中学は)なんとなく全員行くから一緒に行くという。それでOO部とかに入って,はい。はじめ(走 るのが)遅かったけど,だんだん速くなってきてけっこう楽しかったです。 イ:すごいですね。. ^1ははは。あと,O○先生とかいう人が(施設に)いて,その人は秀才で頭がよくてなんでもできて,で 男前でさんたてだったんですけど,ちょっと憧れててましたね。 イ:ほおお。特にどういうとこに憧れてたとかありましたか。 ^:そうですね一。う一ん,どういうとこやろう。能才というかなんでも絵とかもうまかったし,何を敵わ. へんなあという感じゃったんですよ。はい。まあ対抗できるように,僕は勉強とOO(部活動)だけは 頑張りましたけどね。. 施設についてまずはじめに暴力を語っていたAさんだったが,施設に入所したことで中 学校に行けるようになり,部活動に楽しみを見出せるようになった。また,施設に憧れの 先生がいたことで,「何も敵わへんなあ」と語りつつも,Aさんは「対抗できるように」勉 強と部活動を頑張るようになった。. 高校時代について(1回目の語り) ^:う一ん,そうですね・… う一ん,まあ,う一ん,う一ん,自分の過去を思い出して高校時代が一番 輝いてたような気がするんで,うん。. イ1ほおほお。どういうとこが輝いてらっしゃったって特に思われるんですか? ^1いや,とりあえずスポーツ万能でテストもみんなより上で,大学進学したのも僕だけ,あのクラスの男 子では僕だけだったんで,はい。. 中学時代に○○先生に対抗するため勉強と部活動を頑張ったことで,高校時代のAさん は,スポーツも勉強も周囲の子どもよりも得意になった。それはAさんの自信となり,現 在においても誇りに感じていることが,語りからうかがわれる。飛永・針塚(2005)は, 学習能力は学校においては教師や他の児童から施設では職員から評価される機会が多いた め,自分の学習能力についての評価が自己評価と深く結びつき,自分はできるという感覚 につながると指摘している。. 年功序列について(2回目の語り) Alう一ん,ああ,ああ,年下の時確かに嫌なことがいっぱいあったけど,でも仲間もできたんで,う一ん, 結構楽しかった面もあったんです。. 11.
(13) 年功序列について(3回目の語り) ^1まあ施設は年功序列なんですね。ま,徐々に良くなっていくという。だから僕が高2くらいの時が一番 楽しかったかなあという。年上の人もいなくて,う一ん,う一ん,でも年下の時はすごくこわかったで すよね。いつ怒られるのかとか,いつ殴られるのか分からんくって,うん。まあ,う一ん,う一ん,ま あでも施設はそれなりに良かったですよ,はい。. 年功序列であった施設の生活では,年を経るごとに楽しい面もあったことも語られた。 具体的に楽しかった面として,Aさんは「みんなとサッカーしたり野球したりしたことです ね。あと一緒にお菓子食べたり」したことを挙げた。さらに,施設での甘酸っぱい思い出 として,高校2年生の時に施設内の女の子と半年間付き合った経験も語られた。 高校時代について(2回目の語り) ^=年上が年下を見るっていうのが普通だったんで,ちゃんと,それが年下が言うこときかない子とかいる. んですよね。そういうの怒らんとあかんのですけど,どうしても怒れないというか手出すのも苦手やっ たし,苦手というか嫌でしたね。うん。まあ他の子はちゃんとそういうのできてたんですけどね。せえ へんほうがいいと思いますけど。. 高校時代について(2回目の語り) ^=う一ん,ああそっかあ。う一ん,あのう,なんて言ったらいいのかな。う一ん,そう年下の子が,う一. ん,そうレイプみたいなことをしてて,それを先生に話すべきかむちゃくちゃ悩んでて,同期の子はま あしばいたりしててできましたけど,僕は(知っていたのに,年下の子をしばくことも先生に伝えるこ ともせずに)それで良かったのかなあと。. 「暴力が普通」であった施設において,高校生になったAさんが暴力を振るわれることは 少なくなったかもしれない。しかし反面,Aさんは「苦手というか嫌」でも年下の子に暴力 を振るって言うことをきかせないと,Aさんが先生に怒られる立場になった。また,年下の 子が女の子にレイプをし,同期がその年下の子をしばいていることを,Aさんは知って「そ れで良かったのかなあ」と悩み,苦しんだ。. 児童虐待防止の防止等に関する法律では,「児童が同居する家庭における配偶者に対する 暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。). の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心 身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しレ)心理的外傷を与える言動を行. うこと」も虐待と定義している。それを慮れば,施設での生活において日常的に暴力を見 聞きすることも,施設で生活する子どもたちのトラウマとなりうるかもしれない。. 高校時代(2回目の語り) ^:まあ(施設内で)僕だけ進学組だったんで,あの,(施設の職員に)勉強とかちゃんと教えてほしかっ. たなあっていうのもあったんですけど,うん,そういうのも言い出せなくなったり,あの,そう,あの. 受験勉強する場所がなかったんで,う一んとOO大のほうで図書館が9時までやってるから,そこでや. 12.
(14) りたいとかそういうのがあったんですけど,う一ん,先生の判子全部集めて持ってきて,先生が受領し たらいいって言われたんですけど,紙がどっか行ってしまって,ああ,はい。結局あの夜中まで,えっ と3階建てなんですけど,小学校の勉強部屋っていうのがあるんですけど,まあそこを借りて勉強する ようになったという。うん,うん,まあ,う一ん,なんというか,ちょっと理不尽というか,もうちょ っと寛容になって,うん勉強に対して,う一ん手助けしてほしかったって思いましたね,うん。. 高校時代(1回目の語り) ^:受験,とてもしんどかったですよ。あの施設では朝の6時半から起きて,それで掃除をして,その後学 校行って,それで帰ってきて,え一と,う一ん,え一と,勉強,勉強時間は高校生ないですけど,僕の. 場合は受験勉強をしてたんで,僕は夜の2時半まで勉強してて,それで朝の6時半起きで,それの繰り 返しで,ちょっと精神的に病んできたと思うんですよね。. 高校時代(2回目の語り) ^:それと,勉強もしんどかったですし,う一ん,そうですね,そう,学校行ってたじゃないですか,高校。. そこで,あの,バスケットをするのが流行ってたんで。でも早く行かなきゃコートに間に合わないんで すよね,コートを借りてするので。そんで,僕あの,まあ,みんな何て言うんかな,授業が終わる1,2 分前に手挙げてrトイレ行きたいです」みたいなことで順番でやってて,僕の番来だけど,僕は動がへ んで,そんでそのまま授業受けてたっていうのがあって。そんで友達との信頼関係がそれでまた崩れて,. うん,そうですね,うん,もうとりあえず,うん逃げ出したいというか,うん大学受験受かって,それ でそのままお別れしたいなって思ってましたね。. 大学受験には多大なストレスが伴い,多くの受験生が心身にさまざまな影響を被る。そ のサポートとしては,親や友人への相談が有効といわれている。しかしAさんの場合,「ち ょっと理不尽というか,もうちょっと寛容になって,うん勉強に対して,う一ん手助けし てほしかったって思いましたね,うん」と語られるように,Aさんの受験に職員は非協力的 であったとことがうかがえる。また,高校のクラスの男子生徒のなかでも施設でもただ一. 人大学進学を希望していたAさんのまわりに,一緒に受験を頑張る友達はいなかった。そ れだけではなく,高校のクラスの男子生徒とは,バスケットコートの件をきっかけに信頼 関係が崩れ,r逃げ出したいというか,うん大学受験受かって,それでそのままお別れした いな」と思うような関係になってしまった。そのような状況で,施設という集団で生活し ながら一人で受験勉強し続けることは孤独であり,Aさんが語るように「とてもしんどかっ た」と思われる。. 2)退所後から現在までの生活に関する語り 孤独について(1回目の語り) イ1では,退所後から現在に至るまでの生活を。 ^:はい。え一と,そうですね,簡単に言ったら孤独でしたね。まあ今も孤独ですけど。 イ ・・・・・・… 孤独・・・・・・・・・・・・… 。. 筆者が退所後から現在までの生活についてAさんに尋ねると,Aさんは「孤独」と一言 13.
(15) で表現した。思いもよらない一言に筆者は絶句するしかなかった。その後,Aさんは自身の 人間関係を中心に現在までの生活を振り返った。. 大学受験に合格したAさんは,高校卒業に伴い施設を退所し,実家から大学へ通うこと になった。. 大学について(2回目の語り) ^=18か19くらいですかね。生活じゃない,精神面がちょっと病んできて,う一ん,なんで病んだかは, あ一素因は分からないんですけど,う一ん,あの,そう授業中とか大学通ってて,授業中とか一番前に行 って,まわりの視線とか気になるんで,うん,気になったり,偏頭痛になったりして,あの授業が受けづ らいから一番前に行って,で勉強してましたし。で,パソコンとかの部屋とかでも,できるだけ端っこと か人の来ないようにしてましたね。だから大学時代の友達は誰もいないですね。はい。. 高校の友達を「大学受験受かって,それでそのままお別れしたいなって思ってましたね」. と語ったAさんにとって,大学は新たな友達をつくる大切な機会だったのではないかと思 われる。しかし,Aさんは「精神面がちょっと病んできて」まわりの視線が気になり,でき る限り人と関わらないように行動した。それは自己を守るための行動でもあっただろうが,. 「だから大学時代の友達は誰もいないですね」という語りは,Aさんが単に事実を述べてい るだけではなく,自身の「孤独」な状況と寂しい思いを伝えているように思われる。. 家族について(1回目の語り) イ1(退所後,生活することになった)ご実家では。 ^:ああ,まあ両親はいたんですけど,あの両親2人とも精神病院に,1,2度入ったことがあるんですよ。. やっぱし,まあ聞いた話ですけど,2分の1の確率で精神病にかかりやすいって聞いたんで,まあ僕実 際かかって,で4人僕家族いるんですけど,そのうち僕と長女がかかったから,ちょうど確率通りにな ったんですけどね。. イ=4人の家族というのは。 A:え一抹,僕,姉,姉。. イ:わあ。女性ばかりですね。う一ん,どんな感じのご家族だったんですか。 ^=え一と,家族は会話がなかったですね。はい。. イ=会話がなかった。それは^さんと家族の間でなんですか。それとも家族全体がって感じなんですかね。 ^:え一まあ,全体が,はい。はい。. イ1じゃあ,なんか^さんからも話しにくい感じですかね。 ^1そうですね。. 近年,児童福祉施設では子どもたちの家庭復帰を意味する家族再統合の視点が強く求め られ,1999年に乳児院に,2004年に児童養護施設,児童自立支援に「家族支援相談員」(フ ァミリーソーシャルワーカー)が配置された。そして現在,家族再統合に向けてさまざま な取り組みが試行錯誤でなされている(八木・樋口・森・高田・中村,2011)。つまり,そ 14.
(16) れだけ施設で生活していた子どもたちが家庭に引き取られ家族と共に生活を営むことは, 容易くないといえる。. Aさんも18歳となり,高校の卒業を機に家庭へ引き取られた。施設入所から退所までの 6年間の問にAさんと家族にどのような交流があったのかは分からないが,筆者から尋ね ないと家族について語られなかったこと,そしてAさんの語りの内容からから,家族との 情緒的な結びつきは強くなかったことが感じられる。. また,Aさんは大学入学後にアルバイトを始めた。「精神面がちょっと病んで」くる18, 9歳ころまでは,なかなか仕事にも人間関係にも慣れなかったが,一緒にお風呂に行ったり,. サッカーをしたりとr結構楽しめた面」もあったことが語った。その一方で,大学卒業後 のアルバイトについては以下のように語った。 アルバイト(2回目の語り) ^:大学を卒業して,就職活動をしてなかったんで,アルバイト生活ばっかりで,そこで人間関係をつくる のは結構難しかったんで。うん… うん。 イ=難しい。どんな人間関係だったんですか。. ^1う一ん,う一ん,う一ん,まあ大抵は僕,う一ん一人で仕事に集中するんで,う一ん,まあお金のため に働いてるって思って,充実感よりもお金の高いとこを取ってしまうくせがあったんで,まあそういう 斬っていうのは人間関係が結構あの,荒いというか,だからその中で自分を保つのができなかったとい うか。だからブーイングとか結構来ましたし,社員の人にも結構怒られたりして,うん。それでそんな んばっかりしてたから,あのまあ生活もお金がなくて成り立たず,そう。そんで,まあ自殺願望という か自殺未遂を2度ほどして,うん,まあでも,う一ん,ああ,そうやなあ,もしこのまま死んでもいい かなあって思いきや,まあ生きてしまったんで,まあ50くらいまで生きようかなあと思いなおしました けどね,うん。. 大学時代に視線が気になり,人と関わらないようにしていたAさんにとって,卒業後の アルバイト先でブーイングを言われたり怒られたりするようなr荒い」人問関係は,傷つ き追い詰められる経験だったと思われる。ましてAさんには,その体験を共有してくれる 家族や友達はいなかった。そのような状況では,Aさんが語るように自分を保ち働き続ける. のは困難であろう。そして,Aさんは金銭的にも精神的にも追い詰められ,自殺未遂を2 度もした。. その後は4年ほど前から現在の職場である福祉施設で派遣社員として働いている。. 当事者団体について(3回目の語り) イ1^さんにとって,当事者団体の活動に参加することって,どういうことなんでしょうかねえ。 ^=う一ん,まあ匿司ですかね。あ一でも,う一ん,ちょっと病気があるんで,子どもに対して笑ったり普 通に振る舞えるかとか,そういうのがいつも匡……ヨで,う一んなんて言うんかな,う一ん昔通に喋ったり. するのが喋れないというか,何言ったらいいのかわからないというか,だからいっつも無口なんです。. 15.
(17) あはは。 イ はあ。. ^:う一ん,ある程度の信頼関係が築けると喋れるんですけど。ほんまはもっとたぶん喋りたいと思うんで. すけど,自制するというか,う一んこれ以上喋ったら傷つけることとかあるかもしれないから,結構僕 う一ん,う一ん,ちょっと皮肉なところがありまして,あ一そう人を傷つけるような言葉を簡単に吐い てしまうという,そういうことがないように大学時代から無口で通してたんですけど,頭の中で考えて 話すよりもそのまま話してしまったら,大抵相手に軽蔑されたり,軽薄な人だったり思われて,なかな かうまく,う一ん,まあ人間関係が作れなかったんで,まあそっから病気も悪化してったんですけどね。 イ う一ん,子どもたちにもそういう言葉を発してしまわないかっていう不安があって。 ^ そうですね。. イ ・… でも喜びもあるっておっしゃられてたんですが,どんな喜びですか? ^:う一ん,やっぱし皆が,う一んそやなあ,皆が笑ってくれる時とか。例えば,う一ん,例えば,そう突 拍子もないことをたまに言ったりするんで。 イ ほうほう,^さんがですか?. ^あ,はい。それで笑ってくれて,うん。うん,場が盛り上がってくるとか,落語家になりたいなあとか も思ったりして。. イ:そうですね。落語とかも笑わすお仕事ですもんね。そういうおもろいこと言って,子どもたちとか当 事者団体の方が笑うのが,喜びっていう感じですか ^:そうですね. イ1そういう当事者団体みたいな場があるってことは^さんにとっていかがですか? ^:あ一僕にとっては,うん,同じように喜びというか,うん。うん。. Aさんは自ら当事者団体について語ることはなかったが,筆者が問うと当事者団体のメン. バーと関わることは,子どもを傷つけるのではないかという不安を感じながらもAさんの r喜び」であることが語られた。特に場が盛り上がってくると,r落語家になりたい」と語. られたように,Aさんにはrほんまはもっとたぶん喋りたい」という思いがあり,人と関わ り「喜び」を感じられる当事者団体は,Aさんの居場所の一つになっていると思われる。. 3)施設経験の意味に関する語り 家族団簗(2回目の語り) イ:その施設入所してから現在までの生活を振り返っていただいたのですが,現在の^さんは施設で育っ た経験をどう思ってらっしゃるのかなあって思ったんですが。. ^1ああ,そうですねえ。まあ家よりは良かったと思いますけどね。うん。う一ん,う一ん,まあ家は母親 が過干渉だったんで。ま,今もですけどね。そう,やっぱ施設を出るとみんな,うん,つらいというか 孤独感を味わうというか,そこから僕は抜け出せなくなってしまって。. イ ・… その退所されてから孤独感がずっと。・… その孤独感は施設に育ったのとなんか関係とか あったりするんですかね。. 16.
(18) ^ たぶんそうだと思いますね。(施設は)予想以上に医憂国璽みたいな感じの場所。. 家族団簗と似たことばに一家団簗ということばがある。広辞苑(1986)によると,一家 団簗とは「家族が集まってなごみ楽しむこと」とある。しかし,Aさんの家族に関する語り. からAさんの家族には会話がなく,家族団簗の雰囲気であったとは言い難い。また,家族 以外の場,大学では「精神面がちょっと病んできて」視線が気になり,人目につかないよ. うに行動し友達を作ることができなかった。さらにアルバイトではr結構楽しめた面」も あったが,大学卒業後の人間関係のr荒い」職場では,ブーイングを言われたり怒られた りし,金銭的にも精神的にも追い詰められ,自殺未遂を二度も図るほどだった。そのためA さんは,施設退所後から現在までの生活を「ずっと孤独」と語った。したがって,Aさんに とって,集団で生活を営み「(施設の)みんなとサッカーしたり野球したりしたことですね。. あと一緒にお菓子食べたり」した楽しい体験や,施設内の女の子と半年間付き合った甘酸 っぱい思い出がある施設は,日常生活において人と関わった大切な温かい経験がある,ほ ぼ唯一の場所と思われる。. だからこそ,施設は常に「暴力が普通」で,決して子どもたち全員が日々を楽しく生活 していたわけではないことを,Aさん自身がよく理解しているにもかかわらず,施設を「家 族団簗みたいな感じの場所」と表現しているのだろう。それほど切実にAさんは「孤独」 を抱き続けており,また人と関わることを大切に思っている。. 特別の社会(2回目の語り) ^まあ・施設って瞳1亙彊なんですよ机やっぱし規則があったり・行事があったりしたら全員参加“ なったら他の普通の子の家1こ泊まったりとか,そんなんできないですし,なったら,あの,うん,そん な社会に対しての免疫能力とかがないんですよね。そういうので施設出てから,僕バイトしたけど,あ んまりいい思い出がないというか。 イ1はあ。 ^1バイトは嫌でしたね。. イ1嫌。バイトが嫌なのは,なんか施設の免疫のなさと関連があるんですかね。 ^:あ一。免疫のなさですね。発達した社会性が全然通じなかったで,まあ今も言われますけど。 イ:社会性が通じないとは。. Alまあ例えばですけど,あの,O歳から入ってきた子っているんですけど,そういう子って成長するにつ れどっかに遊び1こ行ったりしようとするけど,切符の買い方とか分からないんですよね。それとか,う ん,まあ一人暮らしになって,いきなり料理とかせなあかんとか言われても料理の作り方が分からなか ったりして,うん,まあ,うん,そういうとこが開けてないというか。うん。. イ1う一ん,施設が社会に対して開けてなくて。 ^1ああ,そうですね。. イ1で,家庭に育ったらあるような社会経験の不足のようなのが,バイトの時に困ったような感じなので すかね。. 17.
(19) ^:そうですね。. イ:具体的にどんなことで。. ^1えっと,まあ,そうですね・… う一ん例えば,そう僕パチンコ屋でバイトしてたんですけど,した こともあるんですけど,そこで… う一ん,なんて言うんかな,えっと,まあ慣れるまで3ヵ月くら いかかったんですよね。どう,相談していいものやらとかそういうのを考えながらやってたんで,うん で結構お金高くもらってたんで悪いなとか思いながらも,う一ん具体的に困ったのちょっと覚えてない んですけど。えっと,そうですね・… う一んとりあえず人間関係ですね。どうやって入っていった らいいのかなみたいな感じで。まあ,僕は6年生からだったんで,まだ切符の買い方とかは分かるんで すけど,友達の作り方は分からなかった,うん。. 鳥籠(3回目の語り) A:(施設は)こういうのはあかんとか,こういうのはいいとか,そういうのを教えて,律してくれる場で したけど,うちのおかんは,う一ん子育てが下手だったのかよくわかんないですけど,う一ん子どもに 対して,まあ特1こ長女に愛情を与えてて,う一ん,そんで,う一ん僕に対してはあんまり愛情を感じて ないような感じで接してたんで,うん。う一ん,まあそんなところですね。. イ=これがいいよとかこれはだめだよとか言って自分を律してくれる存在である施設って^さんにとって いかがだったんですか。. ^1う一ん,やりやすいというか,はい。でも施設でいけないことは社会では必ずしもいけないことではな いという,そういうのがありましたね。 イ:前回ルールが厳しいっていう風1こ仰られてたんですけど。 A=ああ,そうですね。. イ1ルール厳しいけれども,同時にやりやすいという思いも抱かれてたんですか。 ^:う一んまあ,[蔓竈のような生活を送ってたけども,それはそれなりに楽しいというか。毎日えさはある し,水もあるし,ちょっと飛べるしという。うん。. 施設を退所したAさんは,大学でもアルバイト先でも「友達の作り方が分からなかった」。. さらにアルバイト先ではr荒い」人間関係のなかでブーイングを言われ,怒られることも 多かった。施設では「仲間」と共に集団生活を営み「とりあえず,スポーツ万能でテスト. もみんなよりも上で,大学進学したのも僕だけ」と語られるような優秀な高校生だったA さんにとって,施設の退所後は,全く違う世界に感じられ,困惑し,社会の人からは認め られないような「孤独」を感じたのではないだろうか。そして社会におけるやりにくさは,. 施設で育ったことによる社会経験の不足と考え,施設経験者は社会に対しての免疫がない と語った。そのため,施設での生活を,「Oレールを)教えて,律してくれる場」「やりやす い」と表現しながらも,社会に対して晧別の社会」「鳥籠」と閉鎖的に語ったと思われる。. そして,同じ「特別の社会」「鳥籠」で育った当事者と関わることは,施設の外の世界であ る社会から認められていることにはならないため,当事者団体という居場所があるにもか かわらず,自身を「孤独」と語ったのかもしれない。. 18.
(20) 過去を捨てる(1回目の語り) A:まあ(恋愛も暴力も)どっちも過去の話やなあと。今はとりあえず勉強して臨床心理士の大学院1こ入ろ うかなあってことです。はい。いっぺん全部写真捨てたんですよね,あの施設とかにいた時の。それで,. まあ過去を清算したというかそういう感じで。うん。もう特にこの最近施設には行ってないですし。は い。. イ:いっぺん全部写真を捨てた。写真を捨てられたっていうのはいつ頃の話ですか。 ^1いっやろうなあ。大学生ぐらいの時ですね。. イ1なんかその時はどういう思いで写真を捨てられたんですか。 ^:えっと,どういう思いですかね。う一ん,たぶん怒りやと思うけど。ちょっと怒る感じです。はい。 イ:何に対する怒りなんですかね。 ^:う一ん,自分に対するもんですかね。いや,僕自虐的で,なんと言うんかなあ,う一ん,そう二度ほど. 自殺未遂をしたんですけど,なんて言うんかな,う一ん,僕の,なんて言うんかな,なんとかエリアっ てあるじゃないですか。 イ:なんとかエリア… 。. ^:う一ん,なんて言うんかな,僕のエリアみたいな。あの,それがとても狭くて,う一ん,えっと,どう. しても他人よりも自分のほうを,自分の内面を,例えば肩ぶつかったら,とりあえず僕はすぐにすみま せんって言うと思いますし,う一ん,う一ん,う一んと,例えば,う一ん,う一ん,そう嫌なことがあ っても自分に溜め込むとか,はい。 イ=溜め込む。う一ん,吐き出すんじゃなくて。 ^:そうですね。. イ:う一ん,嫌なことがあっても自分に溜め込むのがどういう風に怒りにつながってくるんですかね。 ^1はい。え一とそうですね,なんでこんなんできへんねんみたいな感じで。 イ1はあ。. ^:まあカウンセリング受けてたんですけど,う一ん,どうしても,自殺願望があって。まあ人生50年っ て考えてますからね。. イ1・・・… 寿命80年ですよ。 ^:ははは。そうですけどね。はい。. 過去を捨てる(1回目の語り) イ:大学生の時にこう怒りを感じて写真を捨てられて。. ^1はい。う一んと,そうですね,う一ん,そうですね,僕の場合さっきから内面的と言ってるとおり,物 にあたったりしないですけど,その時だけは何と言うか,う一ん,ああそっか,過去を捨てたいなって 思って。そういう気分で。 イ:過去を捨てたいなって気分。. ^1たぶん1・大学生から,はい。 イ=大学生からいつくらいまで続いたんですか。 A:う一ん,まあ今もです。. 19.
(21) イ:今も。 A:はい。. イ:今も過去の,過去のどんな部分捨てたいんですか。. ^1う一ん,そうですね,施設にいた時の患い出かな。でも逆に施設はおもしろかった面もあるし。ちょっ と矛盾しますけど,うん。施設は良かったげど,悪かった面もあって。うん。そういうのを全部捨て去 ればなんか変わるかなあと思って,うん。. Aさんは,「施設は良かったけど,悪かった面もあって」と語ったように,施設経験を全 て否定しているわけではなく,両義的な思いを抱いていた。また,施設を「家族団簗みた いな場所」と表現したように,施設経験を大切な温かい経験としても意味づけていた。し. かし同時に,施設はAさんにとって晧別の社会」「鳥籠」であり,生活しやすくそこそこ 楽しいものの,そこでの経験は退所後の社会に対して「開けていない」ものであった。そ. のため,社会で思うような人間関係が形成できず,ずっとr孤独」と語った。アルバイト でも怒られることが多く,金銭的にも精神的にも追い詰められた。そしてr嫌なことがあ っても自分に溜め込」み,相手に謝る一方で,自身に「なんでできへんねんみたいな感じ」 で怒りを覚え,責めていた。したがってAさんは,社会に「開けていない」施設経験を, 写真を全部捨てたように,自己から捨てたかったのではないだろうか。そして,現在とは 違うrなんか変わ」った自己に生まれ変わりたかったように思われる。. 4)現在の自己に関する語り 孤独感(3回目の語り) イ1前回お話していただいて,ずっと孤独感があったっていうのは1回目の語りも2回目の語りもお話さ れてたじゃないですか。孤独感って^さんのおっしゃる孤独感ってどんなのだろうっていうのが改めて。 ^1う一ん,そうですね。う一ん。孤独感。う一ん,そうですね。う一ん,匡憂…1ヨに似てるかもしれません ね。. イ:空腹感。. ^:どうしても,う一ん,う一ん,どうしても,う一ん,そう,まあ食事だったら必ず買ってこなきゃいけ. ないし,自分で作ったりもするし,う一ん,そうですね,また食べないのも選択できるし,同じように 孤独感はなんて言うかな,僕の友達はお金でつながってる子もいますし,う一ん,フットサルのみで付 き合ってる人もいるし,自分の心の中の本当の自分を見せれてる友達がまだいないんですよね。自分が そう作ろうとしてないのかもしれないですけど,でも,う一ん,まあ,やっぱし空腹感と同じで耐えき れない状態になったりもするし,はい。そういう時は,あの一当事者団体のメンバーにメールとか送っ て,ちょっとつながってるなあというのを感じますけど。う一ん,う一ん,その孤独感だけはどうにも 解消できないですね。たぶん結婚しても同じやと思いますけど。う一ん。う一ん。 イ1言葉にすると,空腹感って例えていただいたのですが,どんな思いとか気持ちとかってあったりしま すか。. ^=う一ん,う一ん,やっぱし画国ですかね。. 20.
(22) イ1飢え。それはなんて言ったらいいんですか,飢えっているっていうのはどういう感情なんですかね? ^1もうまわりをかまっていられずに,もうなりふりかまわず,え一そうですね,まあ食いつくみたいな感 じで。とりあえず,例えば彼女が欲しいと思ったら,誰でもいいから好きですって言って,みんなあか んって言われて,まあ実際そうやったんですけどね。. 苦しい(3回目の語り) ^:もう,そうですね。まあ,楽しい人生やったなあと50くらいで。う一ん,僕の人生観は50くらいで死 ぬだろうなあっていう。. イ:1回目の語りの時も仰ってましたよね。. A:う一ん,あんまり長く生きる気がしないというか,生きたくないというのもありますしね。うん。う一 ん,まあ,はい。もうカウンセリングとか薬物療法とかもう6年くらいやってるんですよね,それで, う一んと,そうだいぶ良くなったんですけど,ただやっぱし,う一ん,そう人混みとか一人でいる時,. まあどうしてもいてもたってもいられず逃げたくなるような感じがあるんですよね。う一ん,何から逃 げたいというか,まあ人の群れから逃げたいという,自分から孤独になりたいという欲求があって,う 一ん。それが,う一ん,苦しいというか,はい。苦しいんで,う一ん,まあ人生50年だったら,まあ十 分生きただろうと納得できるかなあ。うん。. イ ・・一・… 納得というは,苦しいなかでも生きられたという。 A そうですね。・… そうですね,いつ死ぬかずっと考えるよりも,自分でピリオド打ったほうが速い かなあって。自分も納得できるし,う一ん。まあ,う一ん,う一ん,そうですね,まあ凝縮した人生に できるだろう。. イ:養殖? ^:凝縮というか。. イ ああ。中身がぎっしり詰まったっていう感じですか?凝縮。. ^ そうですね。無駄を省いて生きれたらいいなあっと。うん。うん。ほんて,人生50年だったら十分や っていったなあと納得いくかなあという,うん。. イ 今はもうちょっとっていう感じですか? ^ う一ん,いや,今もそうですね。はい。. イ ・・・… 今もそうですっていうのは,納得,いつ死んでも納得できる感じってことですか? ^ う一ん,う一ん,今はまだ… 当事者団体が途中なんで,まだですけど,まあ当事者団体が完成でき たら,うん,それが僕の生きた証みたいなものになりますので,うん。まあ,その時は喜んでっていう か,苦しみから解放されるというような感じはします。はい。・・… まあ,結婚でもしたら死生観は. 変わると思うんですけどね。でもたぶん生涯独身だと思うんで。うん。・・… まあ,生き疲れている というか,う一ん,う一ん,うん。そうだなあ,宮澤賢治の銀河鉄道の夜みたいな感じで,うん。まあ 死んだらどうなるか分かんないじゃないですか。僕はそっちに希望を持っているというか,う一ん。ま あ,天国あるか地獄あるか,そういうのも見てみたいなあと思いますし,うん。う一ん。まあ,自分に とって,それがまた将来になるのかもしれないですね。もしも天国か地獄に落ちたらどうなるかとか。. 21.
(23) うん。まあ,ただの粉になるのか。うん。まあ,だから自殺願望はどうしても出てくるというかなんと いうか,まあ,まあ,そうですね。僕はちっぽけでいいんですよね。一つの喜びとかそういうのが残れ ば,うん。う一ん。後はうん,他の後進の人が進んで出てくれるやろうと思うんですね,はい。. Aさんは,人の群れから逃げ孤独になりたいとも思う自分の人生に生き疲れ,苦しいと表 した。そして,死を生の苦しみから解放されるものと捉え,死後の世界に希望をもってい た。しかしその一方で,「生きた証」「一つの喜びとかそういうのが残れば」と語られたよ. うに,自分が生きた痕跡を残したいとも思っていた。Aさんは,そのような跡を何かしら残 せることで,苦しい自らの生にも意味があることを確かめたいように思われる。また,他 者に認めてもらうことで,忘れないでほしいという願いがあるようにも感じられる。. 物足りべん(2回目の語り) イ:(仕事,大学,当事者活動など)いろいろされていらっしゃるんですけど,現在ご自身についてどう思 われますか。. ^1う一ん,もうちょっと年を若くしたいなあと。まあ,あの僕も臨床心理士目指してるんですけど,大学 入る時にもう既に臨床心理士っていうのあるの知ってたら,そっち側いったやろうなあっていうことが あって,うん。う一ん,で,受けたのが経済学ばっかりやったから,ほう,そうです。そうですね,だ ったんで,う一ん,もうちょっと将来について考えるべきでしたね。. イ:^さんは将来なんか臨床心理士になりたいとか,もうちょっと年若くしたいなあとか,なんか未来に 向かつてこう開かれているなあっていう風に印象を受けたんですが。 ^:ああ,そうなんですけどね。うん,う一ん,そう,現実に,そう普通の生活に戻ると,う一んなんて言. うんかなあ,人間的に成長が止まってるなあっていうのが実感できて,それで大学とか行って,まあ知 識とかを手に入れようとしてるんですけど,なかなかそれが身についてないという,うん,まあ一応合. 格とかはしたんですけど,合格というか単位は取れたんですけど,うん,それでも,う一ん,匿巫固 [≡…四というか。うん。 イ ^. =現実の自分1こ対してですか。. はい。う一ん,そうですね。たぶんこのまんま頑張って卒業して大学院に行くと,40くらいになるん ですよね,はい。だから,う一ん将来に対する不安感とか,あとは自分の能力がまあ年取ること1こ衰え るじゃないですか,それに対する不安感とかが,ありますね。うん。. イ ^. 1現状に満足していなくて,でもこれからに対する不安とか焦りみたいなのもある感じ。 はい。そうですね。. イ こんなこと言ってもなんの意味もないかもですけど,でも私の大学院はなんか40代,50代,60代の. 方も臨床心理学コースに普通にたくさんいらっしゃいますので,^さんは全然お若いと思いますよ。 ^. ははは。そうなんですけどね。ははは。ああ,なかなか。. イ そうですね。… その未来への希望は,同時に現実への物足りなさがあるからこそ。. A. はい。そうですね。. Aさんは現在の自己に対して「もうちょっと年を若くしたいなあ」と語った。インタビュ 22.
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