博士(歯学)森 幸徳 学位論文題名
骨 芽細 胞様 細胞 のカ ルシウム依存 ATPase 活性 学位論文内容の要旨
緒言
硬組織の形成は、硬組織形成細胞による基質の合成および分泌と、基質へのミネラル沈着 による石灰化の過程を経て進行する。我々は、マウスの頭蓋冠から樹立された骨芽細胞様細 胞株で あるMC3T3−El細胞(El細胞)を用いて、細胞の石灰化にALPの活性が必須であるこ とと、ALPはプロテインホスファターゼとして機能している可能性について示してきた。その過 程で、 精製したEl細胞のALPがATPase活性を示すことも明らかになった。そこで、El細胞 におけるATPase活性の役割を調べる必要があると考え、特にカルシウムによって活性化され るATPaseの検出を試みた。
材料と方法
1.細胞培養と分画
El細胞を10%牛胎 児血清を 加えたQーMEMで5%C02ー95%空気 、37℃気 相下にて 培養 し、十分に石灰化が行われた培養開始後約30日の細胞を回収した。超音波処理後、遠心操 作 に よ っ て 核 お よ び ミ ト コ ン ド リ ア 、 細 胞 質 と ミ ク ロ ソ ー ム 分 画 を 得 た 。
2.各種酵素活性の測定
トリス塩酸あるいは炭酸緩衝液によって広くpHを変えて、ATP、ADP、B―グリセロリン酸の 加水分解反応を行い、酵素反応の結果生じた無機リンをChifiletらの方法にて定量した。また、
あらかじめ300ロ1のSDSを加えて酵素を変性させてからATP、ADP、ロ―グリセロリン酸を加え ても検出される値を、ブランクとして差し引いた。主に以下のような条件について測定を行つ た。
1)ATPase活性のpH依存性
2) ATPase活性の金属イオン要求性
種々濃度の2価金属、Cu2十、Ca2十、Mg2゛存在下でのATPase活性の変化を調べた。また、2 価 金 属 イ オ ン の キ レ ー タ ー で あ るEDTAのATPase活 性 に 与 え る 影 響 を 調 べ た 。 3)各種ATPase阻害薬のATPase活性に与える影響
ATPase阻害薬であるvanadate、ouabain、N―ethylmaleimide、bafilomicin、azideをカロえて ATPase活性の変化を調べた。
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3.パラニトロフェニルリン酸加水分解( pNPPase)活性の測定
酵素反応の結果生じたパラニトロフェノール(pNP)の発色を、420nmで測定することにより定 量した。
鈷果
1.MC3T3−El細胞(El細胞)のカルシウム依存性ATPase活性の検出
核とミトコンドリア、細胞質及びミクロソームのカルシウム依存性のATPase活性を測定したと ころ、比活性はそれぞれ24.2,19.7および110.3 nmol Pi/mg protein/minであった。これ以 降の実験では比活性の一番高いミクロソーム分画を用いた。
2.カルシウム依存性ATPase活性のpH依存性
ImMのCa2゛ あるいはMg2゛存在下でのATPase活性のpH依存性を調べた。Ca2゛の方が活 性は低いpHで増加し始め、pH7.43から8.16まではCa2゛存在下の活性はMg2゛存在下の活性 の約2倍であった。pH8.56からは両活性ともほぼプラトーに達したが、Mg2゛存在下の活性のほ うが10%程度低かった。Ca2゛存在下での最大活性は約pH10.5で得られた。一方、Mg2゛存在 下では、pH8.56から9.79まではほばプラトーであったが、それより高いpHでは活性は低下し た。これらのアルカリ性pH、でのATPase活性は、あらかじめSDSを添加してタンパク質を変性 させると観察されなかった。
3.アルカリ性pHでのATPase活性のCa2゛およびMg2+濃度依存性
pH10.43において活性はCa2゛およびMg2+濃度に依存して増加した。Ca2゛の場合50%活性 化濃度は約150ルM、Mg2゛存在下では60uM以下であった。Ca2゛存在下での活性はMg2゛存 在下の約5倍の値を示した。
4.pH 7.4でのATPase活性のCa2十およびMg2+濃度依存性
実 験に用い たEl細胞 はpH7.4前後のQ―MEMを用い て培養すると、石灰化部位を形成す る細胞である。そこでpH7.4におけるATPase活性の性質を調べた。pH7.4においてもATPase 活 性はCa2゛およぴMg2゛濃度に依存して活性化され、50%活性化濃度はいずれも約100HM 程度であった。ImMのCa2十存在下での活性はMg2゛存在下での活性の約2倍であった。また、
あらかじめImMのCa2゛が存在する条件下でMg2゛の濃度を増加させると、活性は低下した。
Cu2十存在 下では 、ImMま での濃 度範囲で 活性が増 加する ことはな くむし ろ低下した。
5. 各 種 ATPase活 性 、 お よ び ア ル カ リ 性 ホ ス フ ァ タ ー ゼ 阻 害 剤 の 効 果 EDTAは 濃度に 依存してATPase活性を抑制し、lOmMではほぼ完全に抑制した。また多く のATPaseの阻害剤として知られているvanadateもその濃度に依存してATPase活性を抑制し たが、最大でもlOmMにおいて約50%であった。ouabain、bafilomycin、N→ethylmaleimideおよ びazideを添加しても活性は抑制されなかった。また、アルカリ性ホスファターゼの阻害剤であ る レ バ ミ ゾ ー ル 存 在 下 に 船 い て も 、 ATPase活 性 のpH依 存 性 を 示 し た 。
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6. 酵素 活 性の 基質 特異 性
pNPP分解 活性 は アル カリ 性pHより 、 むし ろ酸 性pHにお い て高 かった。 ロ―グリセロリン酸 分 解活 性は 、レ バ ミゾ ール の有 無に か かわ らず 顕著 なpH依 存性 を示 さな か った 。ADPの 分解 活 性 はATPase活 性 よ り 低 い が、ATPase活性 の場 合と 類 似し たpHプロ ファ イ ルで 加水 分解 さ れ た。 レバ ミゾ ー ル存 在下 でも 、同 様 の結 果が 得ら れた 。
考察
1. 従 来 知 ら れ て いる 筋小 胞体 あ るい は形 質膜 に存 在 する 主要 なCa2+―ATPaseはい ずれ も 至 適pHが 中性 付近 で ある が、 この 酵素 の至適pHはかなり高い アルカリ性であった。あら かじめ、
SDSを添 加 して タン パク 質変 性 操作 を行 って か ら活 性測 定を 行うと検出されないので 、高いpH でのアーチフ ァクトではない。また、アルカリ性ホスファターゼ阻害剤の作用、パラニ卜ロフェニ ル リン 酸お よび8ーグリセロリ ン酸を基質とした結果などか ら、測定しているATPase活 性がアル カリ性ホスフ ァターゼによるものとは考え られなかった。
2. ATPase活 性 のpH依 存 性 、Ca2+お よ びMg2+の 濃 度 依 存 性 、vanadateによ る阻 害様 式な ど から 、 測定 して いる 活性 が1種類 と は考えにくい。膜結合 酵素であると推定したので 、界面 活 性剤 で 可溶 化し た後 にグ リ セロ ール の密 度勾 配 遠心 を行 う方 法を試みたが、今回は 精製を 行 う こ と が で き な か っ た 。 精 製 し て 、 さ ら にATPaseの 性 質 を 検 討 す る 予 定 で あ る 。
3. 実 験 に 用 い たEl細 胞 が 基 質 を 石 灰 化 するpH7.4で のこ の 酵素 の性 質に つい て 調べ たと こ ろ 、Mg2+で も活 性 化し うる が、 本質的にはCa2+依 存性のATPaseが存在するもの と考えられた。
阻 害 剤 に 対 す る 反 応 性 か ら は 、 従 来 知 ら れ て い る ATPaseと は 異 按 る 。
結諭
骨 芽細 胞様 の細 胞 であ るMC3T3ーElのミ クロ ソ ーム 分画 に、 アルカリ性に至 適pHをもちCa2
゛に よっ て活 性化 さ れるATPaseを 見 出し た。 種々 の性 質 より 、新規のATPaseで ある可能性が ある 。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
骨芽 細胞様細 胞のカル シウム依存ATPase 活性
審 査 は 、 全 審 査 委 員 出 席 の も と 行 い 、 ま ず 学 位 申 請 者 に 対 し て 提 出 論 文 の 内 容 の 説 明 を 求 め た 。 学 位 申 請 者 か ら は 以 下 の 内 容 の 論 述 が な さ れ た 。
硬 組 織 の 形 成 は 、 硬 組 織 形 成 細 胞 に よ る 基 質 の 合 成 お よ び 分 泌 と 、 基 質 へ の ミ ネ ラ ル 沈 着 に よ る 石 灰 化 の 過 程 を 経 て 進 行 す る こ と か ら 、 カ ル シ ウ ム の 能 動 輸 送 を 行 う シ ス テ ム が 必 要 で あ る 可 能 性 が あ る と 考 え ら れ る 。 そ こ で 、 骨 芽 細 胞 様 細 胞 株 で あ るMC3T3−El細 胞(El細 胞 ) を 用 い て 、 カ ル シ ウ ム に よ っ て 活 性 化さ れるATPaseの 検出 を試 みた 。
通 法 に 従 っ てEl細 胞 を 培 養 し 、 十 分 に 石 灰 化 が 行 わ れ た 培 養 開 始 後 約30日 の 細 胞 を 回 収 し た 。 超 音 波 処 理 後 、 遠 心 操 作 に よ っ て 核 お よ び ミ トコ ンド リア 、 細 胞 質 と ミ ク ロ ソ ー ム 分 画 を 得 て 、 カ ル シ ウ ム 依 存 性 のATPase活 性 を 測 定 し た と こ ろ 、 比 活 性 は そ れ ぞ れ24.2,19.7お よ び110.3 nmol Pi/mg protein/min で あ っ た 。 こ れ 以 降 の 実 験 で は 、 比 活 性 が 一 番 高 い こ と と 、 輸 送 に 関 与 し て い る可 能性 があ ると いう こと から ミク ロソ ーム 分画 を用 い た。
1 mMのCa2゛ あ る い はMg2゛ 存 在 下 で のATPase活 性 のpH依 存 性 を 調べ たと ころ 、 Ca2゛ の 方 が 低 いpHで 活 性 が 増 加 し 始 め 、pH7.43か ら8.16ま で はCaz→存 在下 の 活 性 はMg2゛ 存 在 下 の 活 性 の 約2倍 で あ っ た 。pH8.56か ら は 両 活 性 と も ほ ば プ ラ ト ー に 達 した が、Mg2゛ 存在 下の 活性 のほ うが10% 程度 低か った 。Caz→存 在下 で の 最 大 活 性 は 約pH 10.5で 得 ら れ た 。 一 方 、Mg2゛ 存 在 下 で は 、pH8.56から9.79 ま で は ほ ぼ プ ラ ト ー で あ っ た が 、 そ れ よ り 高 いpHで は 活 性 は 低 下 し た 。 こ れ ら の ア ル カ リ 性pHで のATPase活 性 は 、 あ ら か じ めSDSを 添 加 し て タ ン パ ク 質 を 変 性 さ せ る と 観 察 さ れ ず 、 ア ル カ リ 性 ホ ス フ ァ タ ー ゼ(ALP)の 阻 害 剤 存 在 下 で も 活 性 に 変 化 が な か っ た こ と か ら 、ALP以 外 の 酵 素 活 性 に よ る も の と 結 論 し た 。 pH 10.43にお いて 、活 性 はCa2゛ およ びMgz+濃 度に 依 存し て増 加した。Ca2→の場 合50% 活 性 化 濃 度 は 約150ロM、Mg2゛ 存 在 下 で は6 0uM以 下 で あ っ た 。 実 験 に 用 い たEl細 胞 はpH 7.4前 後 のQ‑MEMを 用 い て 培 養 す る と 、 石 灰 化 部