博 士 ( 理 学 ) 樋 口 博 紀
学 位 論 文 題 名
Studies on Novel Functionalized Redox Systems:
Construction of R/Iulti‑input and ‑output rvIolecular Response Systems
(新規を機能性酸化還元系の研究:多重入出力型分子応答系の構築)
学位論文内容の要旨
光、熱、電場などの外部刺激によってその物性値を可逆に変化させる分子応答系は、分子スイッチや デバイスなどへの応用が期待されている。電気化学的入カによって色調の変化するエレクトロクロミズ ム系はその代表例である。分子応答系の多くは原理的に単一の入カに対して単一の出カを与える。しか しながら近年では、複数の入カや出カを行うことができる応答系へと興味が移行している。このような 観点から本研究ではエレクトロクロミズム系の分子素子としての応用をも踏まえ、さらなる機能の付与 された酸化還元系の構築を目指した。.特に、1,3.ジェン骨格の2,3−位がジプロトン化された特異な構造 を有するブタン‐1,4―ジイルジカチオンの安定化に初めて成功し、このものを機軸とした様々な応答系に ついての研究を展開した。本論文は以下の五章で構成されている。
第一章では、プロトン移動によってスイッチされる二重モードエレクトロクロミズムという特異な系 のプロトタイプの構築に成功した(スキーム1)。淡黄色のオレフイン1の酸化的二量化によって濃青色 の1,4‐ジカチオン22゛が安定な塩として単離することができた。またこの塩を還元するとC‑C結合の開 裂を伴って出発物のオレフイン1へと変換できる。さらに22゛に塩基を作用させて脱プロトン化を行う ことで強い黄色のジェン3へと変化することができ、このものは紫色のジカチオン42゛とでニ電子移動 を伴い可逆に相互変換する。したがって、この系ではプロトン移動の前後でニつの異なったモードの色 調変化を示すエレクトロクロミズム系であり、電場、pHのニっの信号を入カとする多重入力型応答系 としての展開が可能である。
Scbeme1
Ar Ar 2H ゛ Ar Ar 一 上 → ArAr
Ar 斧 ‑Ar 一 Ar#Ar
3 42+
[‑ ‑l Mode‑2
Ar = p‑Me2NC6H4
第二章では、ビフェニル骨格を有する酸化還元系を設計した(スキーム2)。ジオレフィン5は酸化に よって分子内でC‑C結合を形成し、渡環型1,4|ジカチオン62゛を生成する。このものは安定な塩として ―218―
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単 離さ れ 、 還 元に よ っ て 出発 物 の ジ オレ フ ィ ン5を 再 生す る 。 ま たこ の時、 中性状 態とカ チオン 状態で 大 きく 色 調 が 変化 す る た めこ の 系 は 分子 内 で のC‑C結合 形 成 、 切断 過程 を伴っ たエレ クトロ クロミ ズム 系 とな る こ と が明 ら か と なっ た 。 こ の時 、5の軸 不斉に基 づく鏡 像体は 容易に 変換し てしま うが、(R)‑5 からはぽ,R)̲62゛が、(S)‑5からは(S,S)̲62゛が特異的に生成すると予想されるためビアリール骨格の修飾によ っ て 、 キ ロ オ プ テ ィ カ ル 出 カ が 付 与 さ れ た 多 重 出 力 型 応 答 系 に 展 開 で き る 可 能 性 が 示 さ れ た 。 Scheme2
ArAr と´ArAr 蕊1 .蕊
Ar p‑Me2NC6H4
第三章 では、 電子移 動によ って可逆 なシク ロファ ン構造 の形成 と消失 を伴う 酸化還 元系を構築した(ス キー ム3)0中 性状 態 の 電 子供 与 体7は 直 線 状の 構 造 を 有し て い る が、 酸 化 に よっ て ジ カチ オン状 態へと 変化す る際に 分子内で のC‑C結 合形成 を伴って シクロ ファン 型構造 になる 。シク ロファ ン型】,4・ジカチ オン82゛ は安 定 な 塩 とし て 単 離 され 、 還 元 によ っ て 直 線状 の7を定 量的に 再生す る。ま たこの時 、淡黄 色と 濃 青 色 とい う 劇 的 な色 調 の 変 化を 伴う。 したが って、 この系 は電子 移動によ って大 きく構 造が変 化 する 動的シ クロファ ン と も呼ぶ べき特 徴を有 するこ とが明 らかと なった。 シクロ ファン 類は一般に、
渡環 相 互 作 用や 分 子 の 歪み に 由 来 する 特徴的 な物性 を有す ること が知ら れている ことか ら、そ れらを 出 カとし て取り 出す系の プロト タイプ を与え たこと になる 。
Scheme3
Ar p‑Me2NC6H4
第 四 章で は 、 ベ ンゼ ン 環 上 の離 れ た 位 置に ニ つ の 発色 団 を 有す る電子 供与体9の酸化 還元応答 系を研 究した(スキーム4)。このものは酸化によって分子間でCーC結合形成を行い、オリゴメリックなポリ(1,4‐ ジ カチオ ン)102n十 を生じ た。102n十は安定 な塩と して単 離され 、還元によってモノメリックな9を再生す る 。 し た がっ て こ の 系で は 、 電 子移 動 によっ てモノ マーと オリゴ マーと で可逆な 相互変 換をす る特異 な 酸 化 還 元 系と な る こ とが 明 ら か とな っ た 。 これ ら の 系 はN上の 置 換基に よって、 流動性 や粘性 のよう な 溶媒のバルクの性質をスイッチできる可能性が示された。
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Scheme4
(Ar て丶丶◎釧カ
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Ar p‑Me2NC6H4
第五章では、電気化学的入カに対して三重の出カを有する応答系の構築に世界で始めて成功した(スキ ーム5)。ツイ ン型の電子供与体11は発色団としてテトラシアノアントラキノジメタン(TCNAQ)ユニツ トを有し、またキラルなスペーサーを持っためにエキシトンカップリングに由来するCD活性を有する。
さらにはアニオン状態12においてアントラセン骨格を生じることで螢光性をも示す。これによってこ の系では、11の電気化学的な還元によってUV‑VisやCDスベクトルの変化ばかりでたく、蛍光スペク トルもが変化する多重出力型応答系となることが明らかとなった。
Scheme5
coo‑c.L ‑ooc
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これまで、多くの有機酸化還元系においては溶液中でその挙動が研究されてきたが、分子デバイスヘ の適応という側面から金属表面上での検討も行われ始めている。さらには、低分子量ゲル化特性をもあ わせもったエレクトロクロミック系も最近報告されている。本研究で開発した様カな酸化還元系は分子 応答系の応用研究、さらには分子素子の開発における非常に有用なプロトタイプを与えるものである。
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