博 士 ( 医 学 ) 有 里 仁 志
学 位 論 文 題 名
胆道系発癌における増殖性胆管炎の役割に関する 実験的検討
学 位 論 文 内 容 の 要 旨 丶
|.,目 的
ビ リ ル ビ ン 肝 内 結 石 症 で は 胆 道 系 癌 が 高 率 に 合 併 す る こ と が 知 ら れ て お り 、 そ の 基 本 病態 で あ る 増 殖 性 胆 管 炎 と 発 癌 と の 関 連 が 強 く 疑 わ れ て い る 。 し か し 臨 床 例 で は そ の ほ と ん ど が 進 行 癌 で あ り 、 臨 床 的 に 胆 管 癌 の 発 生 機序 を 解 明 する こ と ( よ困 難 な の が現 状 で あ る。 我 々 は 以 前 よ り 家 兎 、 ラ ッ ト を 用 い 胆 汁 の う っ滞 と 逆 行 感染 を お こ す乳 頭 機 能 不全 モ デ ル を作 製 し 、 臨 床 例 の 増 殖 性 胆 管 炎 に 酷 似 し た 組 織 像 が 得 ら れ る こ と を 明 ら か に し た 。 今 回 は こ の モ デ ル を ハ ム ス タ ー に 応 用 し 、 増 殖 性 胆 管 炎 様 病 変 が 発 癌 の 誘 因 と な り う る か を 検 言 寸 し た 。 II.研究方法
1. 動 物 :7〜8週 齢 ( 体 重100〜120gr) の 雌 の シ リ ア ン ・ ゴー ル デ ソ ・ハ ム ス タ ーを 用 い た 。 2. 実 験 モ デ ル 作 製 ( 乳 頭 機 能 不 全 モ デ ル ): 開 腹 に て十 ニ 指 腸 乳頭 対 側 の 十ニ 指 腸 を26G針 に て 穿 刺 後 、5− 0ナ イ □ ン 糸 を 経 十 ニ 指 腸 的 に 乳 頭 よ り 胆 道 内 に 挿 入 ・ 留 置 し た 。 3.化学発癌:発癌物質n―nit rosobis(2―oxop ropyl)amine(以下BOP)の70ppm水溶液を|I、川群に 投与した。
4.実験群:I群:乳頭機能不全モデル君羊(n‑ニ各6)、II群:単開腹十BOP投与群(n 各12)、川群:乳 頭機能不全モデル十BOP投与君華(n二ニ各12)の3群と、対照群:無処置群(n 6)の4群とした。f,1|,
川 群 を4,8,12週後 に犠牲 死させ、 以下の 項目を 検索し た。尚 その1時 間前に5 −Bromo−2.−Deo xy―Uridine(以下BrdU)100mg/kgを腹腔内注入した。
1) 組 織 学 的 検 索 :肝 臓 , 肝 外胆 管 , 膵 臓を 一 塊 に 摘出 し 、10% 緩 衝 ホル マ リ ン 固定 し た 。 それ ぞ れ の標本 はヘマ トキシ リン・ エオジ ソ(H−E)染色.Periodic acid Schiff−Alcian‐Blue, pH2.
5(PAS一AB2.5) 重染色 、抗BrdU免疫染 色(ABC法) を行い 、組織 化学的 に検言寸 した。@各群におけ る 発 癌 率 ◎ 肝 外 胆 管 内 腔 面 積 ・ 壁 厚 の 測定 : H−E染 色標 本 に て 、OLYMPUS VIDEO MICROMETTE R MODEL VM−30を 使用 し て 測 定し た 。 ◎ 粘液 産 生 能 :PAS−AB2.5重 染 色に て 中 性 ムチ ン と 酸 性 ム チ ソ の鑑 別 を し た。 @BrdU Labeling Index( 以下BrdUL.I.) :同VM−30で1標本 中1,000個の 細胞を観察し、陽性細胞数の平均を算出しパーセントで表現した。
2) 胆 汁 の 細 菌 検 査 :I I川 群 の 肝 外 胆 管 胆 汁 を 採 取 し 、 普 通 寒 天 培 地 で 培 養 ・ 同 定 し た 。 3) 統 苫十学 的処理 :測定 数値は 平均値 土標準 偏差値 (Mean士S.D,)で 表した 。各週 におけ る各群 間 の 発 癌 率 の 比 較 はFisherの 直 接 確 立 計 算 法 に 、 各 群 間 の 測定 値 の 比 較は 分 散 分 析法 (Schef feの方法)によった。
III.結 果
1. 発 癌 成 績 :1群 でtよ 胆管 炎 か ら の自 然 発 癌 はみ ら れ な かっ た 。 肝 外胆 管 で はIII群の12週(n
:12)での み41.7%に癌を認めた。肝内胆管では‖群の12週(n−―12)で25.0%、III群の8週(n=12) で50.0%、12週 (n=12)で91.7% に 発 癌が み ら れ た。 川 群 の 発癌 率 はI| 群 に比し 有意に 高率で
あった(p<0. 05−0.01)。
2.肝外胆管拡張変化1)肝外胆管内腔面積(xio−2fIIFII ):対照群の4.55土1.77に対し、|,川群 で(よ4週より拡弓長を認め、以後経時的に増強した。III群ではBOP投与により拡張の程度はさら に増強し、12週で280.49土97.59であった。II群(よ拡張軽度であり、I.||群間(pく0. 05)、|I
・ III群間(p<0.01)において有意差を認めた。
2)肝外胆管壁の肥厚(Xl0−2crii):対照群の3.82土0,74に対し、1、III群は線維性肥厚により 経時的に増強し、川君羊の12週では19. 64土5.31であった。||群は壁肥厚をほとんど認めず、|
・I|群闇およびl|.川群間において有意差を認めた(p<0. 01)。
3. 胆 一 の 形態 変 化1) 肝外胆管 変化: |群では 乳頭状 過形成、 壁線維性 肥厚を 認めたが 、付 属膿の 増生tよみられ なかっ た。I|群では乳頭状過形成を認めるのみだった。川群では4週で増 殖性 胆 管 炎 の三 徴 で ある乳頭 状増殖 、壁線維 性肥厚、 付属腺 増生の所 見を呈 しており 、12週 で5例 に 付 属 腺 か ら の 発 癌 を 認 め 、 う ち 1例 に 胆 管 上 皮 の 乳 頭 状 腺 癌 も み ら れ た 。 2) 肝内胆管 変化:| 群では12週で1例に腺 管の増生 を認め た。II群では12週で全例過形成以上 の変 化 を 認 め、 発 癌 が16.7%にみ られた 。III群 では8週で50.0% 、12週で は91.7%の 高率に 発癌を 認めた。 癌の組 織形態は の腺管増 生型@ 腺上皮細 胞増殖型◎問質増生型に分類できた。
1| 群 の 微 小 癌 に 比 し 川 群 は 多 結 節 お よ び 塊 状 型 等 の 高 度 進 行 癌 が 多 か っ た 。 4. 粘 液 産 生能1) 肝外 胆管:対 照群は 極少量のAB染色細 胞を認め るのみ であるが 、川群で は 乳頭状過形成部で童染色細胞が、付属腺でAB染色細胞が優位にみられた。
2)肝内胆管:対照群ではAB染色細胞が極少数散在する程度であるが、III群では染色性が増強し、
AB染色細 胞とPAS―AB童染 色細胞が 半々に みられ、 癌化し た腺管の 内腔に重 染性あ るいはAB染 性の粘液の貯留を認めた。
5.BrdUL.|.1)肝外胆管:対照群のL,川よ2, 47土0.71であった。III群で【ま乳頭状過形成底部,
増生した付属腺でBrdU陽性細胞が多数認められ、L.|,は4週の過形成部で14. 59土2.50、8週の 墨形成 部で13. 23士2.63、12週の癌腫部で14. 98土2.39と細胞回転亢進部の移行がみられた。
2) 肝 内 胆 管: 対 照 群ではBrdU陽性細 胞はほと んどみ られなか った。川 群の8週にお いて変 化
(―)→過形成→異形成→癌腫の順でL.1.はそれぞれ3.11土O.93、6.20土1.03、9.87土1.55.
11.61土2.32と 段階的 に増加し ていた。12週の腺管増生癌は11. 87土1.35と細胞回転の亢進が みられ たが、腺 上皮細 胞増殖癌 では4. 08土O.69と有意に低値であり、組織型による差がみら れた。(ロ〈0.01)。
6. 胆汁の培養検査 I、川群の5倒中全例にEsch. coliがみられ、同時にBac,distasonis、Bac.
caccae、Bac.ovatusを各1例に認め、逆行感染が確認された。
IV.考 察
本モデ ルと同様 の処置 を施した ウィス タ一・ラ ットの実 験でも、総胆管末端部抵抗値が対照 群に 比 ペ 有 意に 低 値 であり、 胆汁中 に全例に 細菌を綛 め、こ のモデル の基本 病態は乳 頭機能 不全で あると考 えられ た。肝外 胆管ではIII群 の如く乳 頭機能不全状態のハムスターにBOPを経 口投 与 す る こと に よ り、早期 より付 属腺の増 生がおこ り、増 殖性胆管 炎の組 織像を確 認した ことか ら、BOPの直接 刺激ある いは胆汁 酸鱈職 の変化な どの関 与が考え られた 。粘液産 生能で もヒ ト 増 殖 性胆 管 炎 に類似し た傾向 を示すも のと考え られた 。本モデ ルの肝 外胆管癌 は、こ の増生した付属腺に癌が発生するのが特徴であ.リ、BrdUL.|.からも付属腺が発癌の母地とな る可 能 性 が 示唆 さ れ た。ヒト 胆管癌 でも胆管 内腔に腫 瘍が認 められず 、壁内 に広く進 展する 癌が 少 数 あ り、 そ の 病態の解 明に有 用と考え られた。 肝内胆 管では肝 外より も早期に 過形成
・異形 成変化を 示し、 種々の組 織像の癌 化がみ られた。BrdUL.1.は過形成ー異形成ー癌腫と 進展す る過程で 段階的  ̄に増加 し、過形 成およ び異形成 は前癌状態であると考えられた。以上 より乳 頭機能不 全下に 化学発癌 物質を負 荷した ハムスタ ーモデル(よヒ卜増殖性胆管炎に類似 Lた 組 繊 像 を呈L、 かっ 発 癌 が促 進 さ れた こ と より 、 増 殖性 胆 管 炎 を基 本 病態 とする肝 内結 石に合併する胆遭系癌の発生過程の解明に有用と考えられた。
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V.結 語
乳 頭 機 能 不 全 下 に BOP投 与 し た 群 (III群 ) に お い て 以 下 の 結 果 を 得 た 。 1.肝外胆管に早期よルヒトに類似した増殖性胆管炎の発現を認めた。
2.肝外胆管では12週で41.7%(n 12)に増生した付属腺を発生母地とする癌を認め、うち1例に 胆管上皮の乳頭状腺癌の合併をみた。
3.肝内胆管では早期に異形成・癌腫への進展がみられ、8週で50.0%(譱12).12週で91.7%(n 12)に癌を認めた。組織学上、腺管増生型・膿上皮細胞増殖型・問質増生型に分類できた。4.B rdUL.I.値から肝外胆管の乳頭状過形成底部お よび増生付属腺が発癌の母地となる可能性が 示唆された。
5. 肝 内 胆 管 で のL.1.値 の 推移 より 過形 成→ 異形 成→ 癌腫 への 進展 過程 が示 唆さ れ た.
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
胆道系 発癌に おける増殖性胆管炎の役割に関する 実 験的検 討
増 殖 性 胆 管 炎 と 胆 道 発 癌 と の関 連が 強く 疑わ れて いる が、 臨床 例で はそ のほ と んど が進 行 癌 で あ り 、 胆 道 癌 の 発 生 機 序 を解 明す るこ とは 困難 であ る。 そこ で申 請者 は胆 汁 のう っ滞 と 逆 行 感 染 を お こ す 乳 頭 機 能 不 全モ デル をハ ムス ター に応 用し 、増 殖性 胆管 炎病 変 が発 癌の 母 地となり得るかを検討した 。
7〜8週齢 の雌 のシ リア ン・ ハム スタ ーを 用い 、5−0ナイ ロン 糸を経十ニ 指腸的に乳頭より胆 道内に挿入,留置し、乳頭 機能不全モデルを作製した。発癌物質n―nit rosobis(2−oxopropyl) amlne(以 下BOP)の70ppm水溶 液を1週間 に25mg/kg体 重 の割 合で 群別 に投 与し た。 実験 群はI群
: 乳頭 機能 不全 群( 各観 察期 間毎6匹) 、u群: 単開 腹 十BOP投 与群 (同各12匹)、m群:乳頭機 能 不全 十BOP投 与群 (同 各12匹 )の3群 と、対照 群:無処置群(初回6匹)の4群とし、I,u,m群 を4,8,12週後に犠牲死さ せ、組織化学的に検討した。
そ の 結 果 、1. 発 癌 成 績 と 胆 管 組 織 学 所 見 は1) 肝 外 胆 管で は、I群 での 増殖 性 胆管 炎は み ら れ ず 、 ま たI,H群 で の 発 癌 は な か っ た 。 し か しm群 で は4週 で 増 殖 性 胆 管 炎 を 確 認 し、12 週 で は 増 生 し た 付 属 腺 か ら の 発 癌 を5例 に 認 め た 。2) 肝 内胆 管で は、I群 の自 然 発癌 はな か っ た。 発癌 はH群の12週 で25.0% に対 し、m群で は8週 で50.0%、12週で91.7%と高率に認め た。癌の組織形態は 腺管 増生型,腺上皮細胞増殖型,問質増生型 に分類された 。2.肝外胆管 拡 張 お よ び 壁 肥 厚 は 、 本 モ デ ル を 作 製 し たI,DI群 に お いて 有意 に増 強が みら れ た。3.粘 液 産 生能 でも ヒト 増殖 性胆 管炎 に類 似し た態 度を 示し た 。4 .BrdU Labeling Index(L.I.)より 1)肝 外胆 管で は付 属腺 が 発癌 の母 地と なる 可能 性が 示唆 され た。2)肝内 胆管では変化(−)
→過形成→異形成→癌腫の 順で、L.I.の段階釣な増加がみられた:
以 上 よ り 乳 頭 機 能 不 全 に 化 学発 癌物 質を 負荷 した 本モ デル は、 ヒト 増殖 性胆 管 炎に 類似 し た 組 織 像 を 呈 し 、 か つ 発 癌 が 促進 され たこ とよ り、 増殖 性胆 管炎 に合 併す る胆 道 系癌 の発 生 過程の解明に有用と考えた 。
審 査 に あ た っ て 、 副 査tの 細 川 教 授 よ り1. 本 実 験 モ デ ル に ハ ム ス タ ー を 使 用し た理 由、
2. ハ ム ス タ ー で 本 モ デ ルを 作製 した のは 申請 者が 最初 であ るの かの 確認 、3. 本モ デル 単独 での 増殖 性胆 管炎 発生 の 有無 とそ の組 織所 見、4. 観 察期 間延 長で 本モ デル 単独 での 発癌 の可 能 性 に つ い て の 質 疑 が あ っ た 。 申 請 者 は1. ハ ム スタ ーは 胆嚢 を有 し、 胆汁 組成 がヒ トに 近く 、か つ胆 道系 腫瘍 の 自然 発生 が2.5% にみ られ る。2.ハ ムス タ― 使用 およ び発 癌実 験は
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一 郎
男
澄
純 和
眞
野 嶋
川
内 長
細
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
最初である。3 .ハムスター乳頭機能不全モデル単独では増殖性胆管炎はみられず、 BOP 負荷 にて初めて増殖性胆管炎が確認され、その後発癌がみられた。4 .本ハムスターモデルを6 カ月,
12 カ月観察したが癌を認めなかったっと回答した。
副査の長嶋教授より5 .他臓器での発癌の有無、6 .肝内胆管での増殖性胆管炎と発生母地 の関係、7. 抗CEA 、抗CA19 ―9 染色での検討、8 .癌抑制遺伝子p53 に関する検討、9 .粘液産生 腫瘍との関係について質疑があった。 申請者は5 .BOP 経口投与は胆道系に特異的に作用す るため、膵臓等の他臓器に癌はみられなかった。6 .肝内胆管では付属腺の確認はできなかっ た。癌発生母地は胆管上皮と考えた。7 .8 .今回は検討していないが、それそれの特性につ き文献的考察を述ぺた。9 .明らかに粘液産生腫瘍と関係する所見はなかった。と回答した。
加藤(紘)教授より10 .本モデルでの胆汁うっ滞と感染の関係、11 .付属腺増生におけるBOP の作用 につ いて の質疑があった。 申請者は10 .胆汁うっ滞と感染の相互作用と考える。
11. 胆汁酸組成を検討していないため断定はで曹ないが、胆管壁に化学作用が働いたと考える。
と回答した。
藤岡助教授より12 .増殖性胆管炎での炎症細胞浸潤の有無、13.BOP 投与単独と本モデル十 BOP 投与での肉眼的・組織学的発癌形態づ差の有無、14 .胆嚢の組織変化についての質疑があっ た。 申請者は12 .早期には炎症細胞浸潤が著明であるが、8 週以降徐女に消退していた。
13 .BOP 投 与単 独では微小癌であったのに対し、本モデル十BOP 投与では進行癌であった。
14. 胆 嚢 に 癌 は 認 め ず 、 他 の 報 告 で も 胆 嚢 で の 発 癌 は 低 率 で あ っ た 。 と 回 答 し た 。
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、また研究者として誠実かつ熱心であり、申請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資 格 を 有 す る 者 と 判 断 し た 。
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