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博 士 ( 工 学 ) 石 井 勝 弘 学 位 論 文 題 名 Spatio-temporal properties of coherent backscattering of light from dense disordered media

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Academic year: 2021

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博 士 ( 工 学 ) 石 井 勝 弘 学 位 論 文 題 名

Spatio‑temporal properties of coherent backscattering        of light from dense disordered media

(高密度散乱媒質からのコヒーレント後方散乱光の時空間特性に関する研究)

学位論文内容の要旨

  コロイド溶液や生体組織に代表される高密度の不規則媒質にレーザ光を照射すると光 波は媒質内で複雑に多重散乱される。この光多重散乱現象に関する研究は、光CT、粒径 計 測、 凝集 過程 の計 測など の新 しい 計測 分野 ヘ結 びつ くことが期待されている。

  散乱媒質の密度が増加すると、媒質内の光波の伝播は光子工ネルギの拡散として近似 できる。したがって、光多重散乱現象は、従来、光子輸送理論を基礎に発展してきた。

この理論は散乱光が本来もっている波動性を失う条件のもとで成り立っているため、媒 質から出射する散乱光の散乱角依存と偏光依存性を表現できない。近年、高密度散乱媒 質からの後方多重散乱光が逆反射方向に強度工ンハンスメントを発生することが実験的 に示された。この現象が同じ光路を互いに逆方向に伝播した一対の光波どうしの干渉で 発生することが示されるに至り、光多重散乱現象研究における波動理論の位置付けが再 認識された。また、計測的見地から、コヒーレント後方散乱光の強度エンハンスメント は光波の入射位置と出射位置との距離情報をもっており、媒質内の空間的構造の統計的 な性質を測定する可能性が示された。

  一方、散乱媒質は熱的ゆらぎにより時間的に変動しているので、多重散乱光も同様に 時間的に変動している。光子輸送理論によると、多重散乱光の時間相関関数は媒質内を 光波が伝播した距離の分布である光路長分布のラプラス変換によって与えられる。時間 相関関数の緩和時間は媒質内の粒子のブラウン運動に直接関係付けられており、粒子の 動的特性や粒子径の測定への応用としての拡散波分光が提案されている。このように、

動的な光多重散乱現象は散乱媒質の時空間特性を反映しており、その基礎的な研究成果 は媒質の時空間における構造解明に関する重要な研究分野を形成しつっあるのが現状で ある。

  本研究では、コヒーレント後方散乱光の強度分布と時間相関関数に代表される時空間 特性について、波動的特徴である散乱角依存性と偏光依存性を光子輸送理論とモンテカ

´レ口・シミュレーションで解析し、実験により確証する。また、シミュレーションの特 長を生かして、散乱粒子が凝集し空間的に不均一に分布する場合のコヒーレント後方散 乱 光の 時空 間特 性に ついて モン テカ ルロ ・シ ミュ レー ションと実験で解析する。

  本 論 文 は 、10章 で 構 成 さ れ て い る 。 以 下 に、 各 章 の 内 容 の 概 略 を 述 ぺ る 。   1章で は、 緒論 とし て本 研究 の背 景、 目的、 およ び本 論文 の概 要を 述べ た。

  第2章では、本研究のモンテカルロ・シミュレーションで用いるレーリー散乱理論と レーリー・デバイ散乱理論について概説した。さらに、光波の拡散近似に基づくコヒー レント後方散乱光の空間的強度分布の理論、および時間相関関数を用いた拡散波分光の 理論を示した。

    ―90―

(2)

  第3章と第4章では、3次元空間に一様ランダムに分布する粒子群からのコヒーレント 後方散乱光の時空間特性について調ぺた。第3章では、拡散近似のもとで導出された時 間相関関数に、コヒーレント後方散乱光の時間反転成分の干渉効果を繰込み、コヒーレ ント後方散乱光の時間相関関数を理論的に導出した。その結果、コヒーレント後方散乱 の影響により、時間相関関数の緩和時間にも後方散乱角依存性が現れ、逆反射方向に緩 和時間の最小が生じることを示した。さらに、平行偏光成分の場合についてのみ実験結 果と一致することを確認した。なお、本章の理論では本質的に垂直偏光成分で現れる逆 反射 方向 での緩 和時 間の ピー ク現 象を 解析 する こと ができないことを明示した。

  第4章では、前章の結果をうけて、コヒーレント後方散乱光の時空間特性について波 動理論を基礎にして解析するモンテカルロ・シミュレータを開発し、時空間特性の偏光 依存性を定量的に解析した。本章で開発したシミュレータは、多重散乱光の偏光依存性 を解析することが可能であるばかりでなく、単散乱の影響まで忠実に解析可能であるこ とが特徴である。その結果、両偏光成分で、実験結果と一致する緩和時間の散乱角依存 性を得た。さらに、得られた緩和時間の変化を光路長分布の散乱角依存性と関係付けて 定性的に説明した。   ̄

  第5章から第9章は、凝集媒質からのコヒーレント後方散乱光の時空間特性について 述ぺた。第5章では、第4章で開発したシミュレータを凝集媒質からのコヒーレント後 方散乱光の解析に応用するために、凝集媒質の空間的構造を表す指標としてフラクタル の概念を導入し、フラクタル次元に依存した凝集媒質内での光波の自由行程分布を理論 的に導出した。さらに、得られた自由行程分布から発生させた粒子分布のフラクタル次 元による評価と、得られた凝集媒質からのコヒーレント後方散乱光の強度分布を算出す ることにより、本シミュレータの妥当性を確認した。

  第6章では、凝集媒質からのコヒーレント後方散乱光の空間特性について、前章で開 発したモンテカルロシミュレータを用いて定量的に解析した。その結果、強度分布が後 方散乱角の増加とともにべき則にしたがって減衰し、その減衰率が吸収に依存せず、媒 質のフラクタル次元にのみ依存することを示した。また、コヒーレント後方散乱光の平 行および垂直偏光成分のフラクタル次元に対する減衰率の変化の経験武を導出した。

  第7章では、縣濁液に塩を加えることでラテックス粒子の凝集を誘発させ、コヒーレ ント後方散乱光の強度分布の測定を行なった。その結果、粒子の凝集が始まると同時に 強度分布が急激に変化することを確認し、第6章で得た経験式を適用して媒質のフラク タル次元の算出を行った。本章の研究により、平行偏光成分は主にクラスタの媒質全体 における3次元的分布によって決まり、他方、垂直偏光成分はーつのクラス夕内部のフ ラクタル次元に従う粒子分布で決まることがわかった。よって、コヒーレント後方散乱 現 象 の 利 用 が 、 凝 集 媒 質 の 空 間 的 構 造 の 解 析 に 有 効 で あ る こ と を 示 し た 。   第8章では、凝集媒質によるコヒーレント後方散乱光の時間特性の数値解析を行った。

解析ではフラクタル次元依存性のみを調べるため、粒子はそれぞれがブラウン運動しな がら凝集が進行していく状況を仮定した。結果として、粒子の凝集による光路長分布の 変化は、時間相関関数にほとんど影響を与えないことを明らかにした。したがって、粒 子がクラスタを形成したことによるブラウン運動の拡散定数の変化のみが、時間相関関 数への影響として現れることがわかった。これは、時間相関関数によって、凝集媒質を 表す もう1つの 特徴 量で あるクラスタ長の測定が可能であることを意味している。

  第9章では、クラス夕―クラスタ凝集による拡散定数の変化を示す簡単なモデルとし て、粒子径分布がある多重散乱媒質を仮定し、それからのコヒーレント後方散乱光の時 間相関関数の解析を行った。種々の粒子径分布に対して解析を行った結果、時間相関関 数の変化が平均粒子径にのみ依存することを示し、時間相関関数を用いることによって 平均クラスタ長を測定できる可能性を示した。

  10章 で は 、 本 論 文 の 結 論 と し て 各 章 の 結 果 の 総 括 を 行 っ た 。     ―91―

(3)

学位論 文審査の要旨 主 査

  

教 授

  

永 井 信 夫 副 査

  

教 授

  

小 柴 正 則 副 査

  

教 授

  

三 島 瑛 人 副 査

  

教 授

  

笹 木 敬 司 副査   助教授   岩井俊昭

学 位 論 文 題 名

Spatio‑temporal properties of coherent backscattering        of light from dense disordered media

(高密度散乱媒質からのコヒーレント後方散乱光の時空間特性に関する研究)

  光多重散乱現象に関する研究は、生体計測、物性および物理化学の分野において新 しい現象の解明と新しい計測分野への展開が期待され、近年活発な研究が行われてい る。光多重散乱現象の解析は光子輸送理論を用いて行われてきたため、散乱光のべク トル波 動性に基 づく散乱角・偏光依存性を解析できない状態にあった。1984年、

多重散乱光が逆反射方向に強度エンハンスメントを発生するという特徴的な現象が発 見され、多重散乱現象の研究におけるべクトル波動性の位置付けが再認識された。

  本論文では、コヒーレント後方多重散乱光の強度エンハンスメント現象に関して、

その空間特性である強度分布と時間特性である時間相関関数の研究を展開しており、

10章から構成されている。

  1章 で は 、 本 研 究 の 背 景 、 目 的 、 お よ び 本 論 文 の 概 要 を 述 べ て い る。

  2章では、本研究の研究手法として用いたモンテカルロ・シミュレーションと光 子拡散理論の基礎となる散乱基礎理論と光子輸送理論、およぴシミュレータのアルゴ リズムについて概説している。

  3章と第4章では、一様ランダムに分布する粒子群からのコヒーレント後方散乱 光の時空間特性について調べている。第3章では、コヒーレント後方散乱光の時間反 転成分どうしの干渉効果を時間に依存した光子拡散理論に繰込み、時間相関関数の散 乱角依存性の理論解析に成功し、実験で実証している。第4章では、ベクトル波動性 を基礎としたシミュレータを開発し、コヒーレント後方散乱光の時空間特性の散乱角・

偏光依存性を定量的に解析し、実験で確証している。さらに、時間相関関数の変化に     ‑ 92

(4)

つい ては 、光 路長 分布 と関 係付 けることにより定性的解釈を与えている。シミュレ ー タは 、多 重散 乱光 のぺ クト ル波 動性を解析することが可能であるぱかりでなく、単 散 乱や粒子形状の依存性まで解析が可能であるという汎 用性を有することが特徴てある。

  5章 から 第9章 は、 凝集 体か らの コヒ ーレ ント 後 方散 乱光 の時 空間 特性 につ いて 研究 を展 開し てい る。 第5章 では 、第4章 で開 発し た シミ ュレ ータ を凝 集体 に応 用す るた めに 、凝 集体 の空 間的 構造 の指標としてフラクタル次元を導入し、散乱光の自 由 行程 分布 を理 論的 に導 出し てい る。この自由行程分布から発生させた粒子の空間分 布 の次 元を 評価 する とと もに 強度 分布をシミュレーション実験することで、本シミュ レ ータ の妥 当性 を確 認し てい る。 第6章 では 、前 章で 開発 したシミュレータを用いて コ ヒー レン ト後 方散 乱光 の空 間特 性を定量的に解析している。その結果、強度分布が 後 方散 乱角 の増 加と とも にべ き則 に従って減衰し、その減衰率が吸収に独立でかつ媒 質 の次 元に のみ 依存 する こと を明 らかにしている。さらに、コヒーレント後方散乱光 強 度分 布の 次元 に対 する 減衰 率の 変化についての経験式を、シミュレーション実験か ら 導出 して いる 。第7章 で は、 前章 で得 たシ ミュ レー ショ ン実験の結果について実験 研 究を 行っ てい る。 ラテ ック ス粒 子の縣濁液に塩を加えて凝集を誘発させ、コヒーレ ン ト後 方散 乱光 の測 定を 行い 、粒 子の凝集が始まると同時に強度分布が急激に変化す る こと を確 認し てい る。 さら に、 シミュレーション実験で得た経験式から媒質の次元 評 価を 行い 、平 行偏 光成 分は 主に クラ スタ の3次 元的 分布 によって決まり、垂直偏光 成 分は クラ ス夕 内部 の粒 子分 布で 決まることを明らかにしている。結果として、コヒ ー レン ト後 方散 乱光 の解 析が 、媒 質の凝集過程の計測に有効であることを示している 。 第8章で は、 凝集 媒質 か らの コヒ ーレ ント 後方 散乱 光の 時間特性についてシミュレ ー ショ ン実 験を 行っ てい る。 粒子 の凝集で生じる光路長分布の変化が時間相関関数ヘ 与 える 影響 は微 少で あり 、粒 子が クラスタを形成することによる拡散定数の変化が主 要 な影 響を 与え るこ とを 明ら かに している。この結果から、時間相関関数を用いて、 凝 集媒 質中 のク ラス 夕長 の測 定が 可能 であ るこ と示 し てい る。第9章では、クラス夕 ― クラ ス夕 凝集 体か らの コヒ ーレ ント後方散乱光の時間相関関数の挙動についてシミ ュ レー ショ ン実 験し てい る。 媒質 のモデルとしてクラス夕分布を粒径分布をもつ多粒 子 系に 繰込 み、 時間 相関 関数 の変 化が平均粒子径にのみ依存することを示している。 こ の結 果は 、時 間相 関関 数を 用い た平 均ク ラス 夕長 の 測定 の可 能性 を明 示し てい る。

  10章 で は 、 本 論 文 の 結 論 と し て 各 章 の 結 果 の 総 括 を 行 っ て い る 。   こ れを 要す るに 、著 者は 、コ ヒーレント後方散乱光の現象解明においてべクトル 波 動性 の観 点か ら光 子輸 送理 論と シミュレーション実験法の確立を行い、多重散乱現 象 の物 理光 学的 解明 を行 うと とも に凝集体の構造解析において次元とコヒーレント後 方 散乱 光と の関 係を 導入 した 新し い測定法の可能性を明らかにしており、光物理学お よ び光計測工学の分野に貢献するところ大なるものがあ る。

  よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格があるものと認める。

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参照

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