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博 士 ( 水 産 科 学 ) 岸 田 治

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Academic year: 2021

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博 士 ( 水 産 科 学 ) 岸 田

  

    

学位論文題名

  Evolutionary Ecology of Predator

Induced Morphological PlasticitylnanAnuranTadpole   

(捕食者誘導型の表現型可塑性に関する進化生態学的研究:

    

無尾類幼生をモデルとして)

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  生 態系は多様な生物種から構成されており、生物間相互作用は個体群動態や群集構 造 の様相に影響する。生物間相互作用の生態学的機能を知るためには、個々の相互作 用の実態を分析し、そこから統一的な理解を導き出す必要がある。個々の相互作用を理 解 するためには、それを構成する個体のふるまいに焦点を当てることが有効である。

  生物間相互作用は、他の環境因子と同様に、時間的にも空間的にも均質であることは 少 ない。近年、進化生物学者や生態学者は、環境の不均一性に対する個体のふるまい としての表現型の可塑性に注目している。表現型可塑性とは、遺伝子型が同一であるに もかかわらず、環境の違いに応じて異なった表現型を発現する性質のことであり、代表的 な現象のーっとして、被食者生物の誘導防御形態戦略がある。遊泳カに乏しいワムシや ミジンコなどが、捕食者から排出された化学物質をたよりに棘を伸長し身を守ることは、よ く知られた例である。誘導防御形態戦略は、一部の陸上植物でも観察されるが、多くは水 圏を生活の場とする動物でみられ、この生態現象を探求することは、水圏生態系におけ る 群 集 構 造 や 、 水 圏 生 物 の 進 化 に 関 し て 深 い 洞 察 を も た ら す と 考 え ら れ る 。   防御形態を誘導する戦略はどのような状況で進化し維持されているのだろうか?表現 型 可塑性の進化にっいて調べた理論研究は、分断化選択を伴う環境の変異性を重要視 する。すなわち、ほとんどの理論研究が、「被食者は捕食の危険にさらされているときには 防御することは有益であるが、防御の発現や維持には費用がかかるため捕食者のいない 安全な環境では防御をしないほうが適している。そのため変異しやすい捕食者環境にお いて誘導戦略が維持される。」と推論している。それに対して実証研究は、多くの例にお

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いて 誘導 形態 の防 御機 能を 明ら かに し てき たも のの 、防 御費 用の 存在 を示 す証 拠はほと んど 提示 して こな かっ た。 その ため 、 防御 誘導 の適 応性 につ いて 明確 な支 持は 得られて いな い。 また 、多 くの 研究 が、 捕食 者1種 対被 食者1種の よう な、 極め て単 純な 系にのみ 注目 して おり 、実 際的 な捕 食者 環境 に おけ る被 食者 のふ るま いに っい ては ほと んど理解 され てい ない 。自 然界 では 、被食者は様々な種の捕食者から危険にさらさ れており、それ らと の相 互作 用は 変異 に富 んで いる 。 複雑 な捕 食者 環境 のな かで 、被 食者 はど のような 誘導 防御 戦略 をと るだ ろう か?また、それらの戦略はどのように進化し維 持されているの だ ろ う か ? 本 研 究 で は 、 誘 導 防 御 研 究 の 理 想 的な 被食 者モ デル であ る無 尾類 幼生 ( 工 ゾアカガエルのオタマジャクシ)とその捕食者(エゾサンショウウオの幼生とオオルリポシヤ ンマ のヤ ゴ) を対 象と し、 多様 な捕 食 者環 境に おけ る誘 導形 態の 発現 様式 とそ の機能、

形 態 発 現 量 の 地 理 的 変 異 に つ い て 調 べ 、 形 態 防 御 誘 導 の 適 応 的 意 義 と そ の 進 化 要 因 について理解することを目的とした。

(1)攻撃様式の異 なる捕食者に対する異なる防御形態誘導

  攻 撃様 式の 異な る捕 食者 に対 して は 、異 なる 防御 戦術 が効 カを 持っ はず であ る。被食 者は 異な る種 の捕 食者 に対 して 特異 的 な防 御を 発現 する だろ うか ?ま た、 もし 発現する なら 捕食 者の 種を どの よう に区別しているのだろうか?オタマジャクシを 丸のみにして捕 食するサンショウウオ幼生と、かじりついて捕 食するヤゴを用い、それらに対するオタマジ ヤク シの 形態 の変 化と その 際の 信号 認 知様 式を 実験 的に 調べ た。 その 結果 、オ タマジャ クシ は、 サン ショ ウウ オ幼 生に対しては接触の際に受ける信号を利用し、 頭胴部を大きく 膨ら ませ た形 (膨 満型 )に 変わり、ヤゴに対してはヤゴから排出される化 学信号を遠隔的 に探知することで、尾鰭の高い形(高尾型)に変わることが明らかとなった。次に、これらの 種特 異的 な形 態の 防御 機能 にっ いて 確 かめ たと ころ 、そ れぞ れの 捕食 者に 対し て、特異 的な 形態 をも つ個 体が 捕食 され にく い こと が示 され た。 膨満 型の 形態 は、 頭胴 部の膨ら みが サン ショ ウウ オ幼 生に よる丸のみを効果的に妨げること、一方で、高 尾型の形態は遊 泳カの向上をもたらすことで捕食回避に機能す ると考えられた。

(2)捕食者種特異的 な防御形態の柔軟な変化

  オ タマ ジャ クシ が生 息す る池 では 、 天候 や季 節的 な影 響に より 、捕 食者 の種 構成が変 化 し や す い 。 捕 食 者 の 種 構 成 と 密 度 の 変 化 に 応じ て、 被食 者が 防御 形態 を柔 軟に 変 え ることは適応度の増加にっながると予測される 。そこで、オタマジャクシが、捕食者環境の     ―61―

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変 化に 応じ て 捕食 者種 特異 的な 形態 を柔 軟に 変化 させ るこ とがで きるか検証した。まず、

オ タマ ジャ ク シを 、サ ンシ ョウ ウオ幼 生またはヤゴと同所的な環境で1週間飼育し、それぞ れ 膨 満 型 と 高 尾 型 の 形 態 へ と 変化 させ た。 その 後、 環境 中の 捕食 者 の種 を、 交替 させ た 場 合 と 除 去 し た 場 合 に わ け 、 形態 の変 化を 追っ た。 捕食 者を 除去 し た場 合に は、 オタ マ ジ ャ ク シ は 捕 食 者 特 異 的 な 形 態か ら元 の形 態へ と戻 った 。こ れは 、 防御 形態 を維 持す る た めに 費用 がかかっていることを示唆しており、捕食者がぃるとき のみ防御を発現すること の 適応 性を 支 持す る証 拠と なる 。捕 食者 を交 替さ せた 場合 には、 オタマジャクシは、交替 後 の 捕 食 者 に 特 異 的 な 防 御 形 態へ と変 化し た。 この よう な可 変性 は 、捕 食者 特異 的な 誘 導防御 戦略の進化において重要な役割を果たすと考えられた。

(3)捕食の危険性に応じた防御の調 節発現

  捕 食 者 の 密 度 や 個 体 の 攻 撃 能 カ や 貪 食 さ の よ う な 捕 食 者 種 内 の 性 質 の 変 異 性 は 、 捕 食 強度 の変 異 を導 く。 一般 に、 発現 量に 応じ て機 能が 高ま るが費 用も増加するような防御 形 質の 発現 は 、捕 食強 度に 応じ て費 用対 効果 を最 大化 する ように 調節されるべきである。

オ タマ ジャ ク シは 小さ な池 に生 息す るこ とが 多い ため 、捕 食者個 体の捕食能カがそこでの 捕 食強 度を 規定しうる。工ゾサンショウウオ幼生は、工ゾアカガエ ルのオタマジャクシの高 密 度環 境下 に おい て、 大き な口 器を 持っ よう に形 態変 化す ること が知られている。この形 態 は、 オタ マジャクシの膨満型の防御形態に対抗する機能をもって おり、オタマジャクシを 丸 のみ にす るのに極めて有効である。操作実験により、大きな口を もっサンショウウオ幼生 にさらされたオタマジャクシは、そうでないサンショウウオ幼生にさらされたオタマジャクシよ りも、 体をよく膨らませることが明らかとなった。この結果は、オタマジャクシは捕食強度に 応じて 防御形態の発現量を調節しうることを示している。

(4)サンショウウオ幼生に特異的な 形態発現の適応進化

  誘 導 防 御 戦 略 は 、 捕 食 圧 を 駆動 とし て適 応進 化し たと 考え られ る が、 それ を支 持す る 証 拠 は ほ と ん ど 得 ら れ て い な ぃ。 一般 に、 異な る選 択的 背景 をも つ 種聞 や同 種個 体群 間 の 形 質 の 比 較 は 、 形 質 の 進 化 的要 因を 理解 する うえ で有 効で ある 。 本研 究で は、 エゾ サ ン ショ ウウ オとエゾアカガエルの地理的分布に着目し、個体群比較 によルサンショウウオ幼 生 に 特 異 的 な 膨 満 形 態 発 現 能 カ の 進 化 的 要 因 を 検 討 し た 。 エ ゾ ア カ ガ エ ル は 北 海 道 の 本 島 と 奥 尻 島 に 分 布 す る が 、 エゾ サン ショ ウウ オは 本島 のみ に生 息 し奥 尻島 には 分布 し な い 。 本 島 と 奥 尻 島 の 個 体 群 の形 態発 現能 カを 比較 した とこ ろ、 本 島集 団は 奥尻 島集 団     ‑ 62

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に比べて膨満形態の発現能カが著しく高かった。この結果から、オタマジャクシは、サン ショウウオ幼生からの捕食圧を駆動として膨満形態を誘導する能カを進化させてきたと考 えられた。

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学位論文審査の要旨

     学位論文題名

  Evolutionary Ecology of Predator −Induced Morphological Plasticity in an Anuran Tadpole

(捕食者誘導型の表現型可塑性に関する進化生態学的研究:

    

無尾類幼生をモデルとして)

  捕食者がいる環境で形態を変化させる生物種は、水圏動物で数多く知られている。こうした環 境応答型の形態変化がもつ生態学的機能や適応的意義を知ることは、水圏生態系の生態学的な 理解を深める上で重要と考えられる。多くの場合、捕食者がいる環境で発現した形態は防御機能 をもっことがわかっているが、なぜ捕食の危険にさらされたときのみ防御形態を発現するのかはわ かっていない。また、形態変化を扱った過去の研究のほとんどは、ある捕食者1種に対する被食 者の形態反応に注目しており、より複雑化した捕食者環境に対する被食者の形態反応にっいて はほとんど理解されていない。本研究は、異なる攻撃様式をもつ捕食者に対する形態誘導の適応 的意義と進化的要因について、エゾアカガエル幼生をモデル生物とした複数の実験により検証し たものである。

本論文において評価される点は次のとおりである。

  異なる種の捕食者に対して異なる形態反応が誘導されるための必要条件を適応論的主張に基 づいて整理した。異なる攻撃様式をもつ捕食者に対しては異なる防御形態を発現すべきであると 予測し、この予測をエゾアカガエル幼生で実験検証した。実験の結果、カエル幼生が噛みっき型 捕食者のオオルリボシヤンマ幼虫(ヤゴ)に対しては逃避に有効な尾鰭の高い形態を発現し、丸 のみ型捕食者のエゾサンショウウオ幼生に対しては、丸のみを防ぐために頭胴部を著しく膨らませ る こ と が 明 ら か と な っ た 。こ れ ら の結 果 は 、先 の 予 測を 強 く 支持 す る もの で あ っ た。

1)カエル幼生は、ヤゴとサンショウウオ幼生のそれぞれに特異的な防御形態を発現したあとで     も、環境の変化に応じて再度形態を変えることができることを示した。っまり、一度どちらかの     捕食者種によって形態が誘導されても、捕食者が交替したときには、新たな捕食者に対して     特異的な防御形態へと変化できること、また、捕食の危険が取り除かれたときにはもとの形態     へと戻ることが明らかにされた。可逆的な反応は防御形態の維持にコストがかかることを示唆     しており、このことは危険にさらされてから形態を発現するという防御誘導の適応性を示す証     拠として考察された。

    ―64ー

美 憲

治 也

豊 泰

聖 欣

橋 井

嶋 村

高 桜

五 西

授 授

授 授

   

   

教 教

教 助

査 査

査 査

主 副

副 副

(6)

2)対サンショウウオ幼生の防御形態が危険の程度に応じて調整的に発現されることを示した。エ     ゾサンショウウオ幼生はカエル幼生の高密度環境下では、大きな顎に特徴づけられる捕食に     有利な形態を発現することが知られている。実験により、大顎型のサンショウウオ幼生にさらさ     れた場合には、カエル幼生が防御形態をより強く発現することを明らかにし、これが費用対効     果を最大化する戦略である可能性を指摘した。

3)エゾアカガエル幼生における対エゾサンショウウオ幼生の防御形態誘導が、エゾサンショウウ   オ幼生からの捕食圧を進化要因として獲得されたという仮説を、捕食圧の異なる個体群間の     比較により検証した。エゾサンショウウオが分布する北海道本島とそれらが分布しない奥尻島     のカエル個体群を用いて、防御形態の発現能カを比較した。実験では、採集した親ガエルか     ら人工授精で得た幼生を用いることで、両個体群だけでなく交雑集団も比較の対象とした。結   果 として 、北海道 個体群 は奥尻個体群に比べて防御形態の発現能カが高いこと、交雑集団     は中間的な発現能カを持っことを明らかにし、この戦略の進化的要因と遺伝的背景について   理解を深めた。

  以上の結果は、環境誘導型の形態変化に関し、捕食者環境の複雑性に注目することで、従来 の研究では得られていない新しく重要な知見を数多く提供している。また、得られた知見の多くが 水圏生物における形態的誘導戦略の進化生態学的考察の範疇にとどまらず、生物個体のあらゆ る形質の可塑性について普遍的な理解をも深めていることは高く評価される。よって、審査員一同 は 、 本 論 文 が 博 士 ( 水 産 科 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 の あ る も の と 判 定 し た 。 な お、平成181124日 の研究科 教授会 最終審査 におい て、投票 数28票、 可とする もの28 票で研究科委員全員が合格と判定した。

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参照

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