平成19年度 修士論文
不登校生における適応指導教室体験の構造
-PAC分析を通して-
弘前大学大学院教育学研究科
学校教育専攻学校教育専修臨床心理学分野 三浦 亜矢子
目次
第1章 問題と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 第2章 PAC分析の方法の検討-JMPかHALWINか-・・・・・ 9 第3章 調査対象と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22 第4章 4事例おける適応指導教室体験の構造・・・・・・・・・・・・・ 27 第5章 総合考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 88
文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 101
この論文は、その公開範囲に関して研究協力者の承諾をえて行った 事例研究であり、承諾された範囲外に対しては守秘義務が生じますので、
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弘前大学大学院教育学研究科臨床心理学分野
第 1 章 問題と目的
1.問題と目的
適応指導教室(以下、適応教室)に関する研究は、適応教室のあり方についての研究と通室生 に焦点をあてた研究の2つに大別することができる。前者の例として、河本(2002)は、適応教室で の援助活動について 6 つの因子(心理臨床的アプローチ、学習サポート、心の育成、集団活動、外 部との連携、組織内の連携)を抽出し、さらに重回帰分析から指導員は目的に応じた援助活動を 行っていることを明らかにしている。また、大鐘(2005)は、35 都道府県の 274 適応教室から回答を 得、職員の配置は教員などが 73.5%、臨床心理士の配置はわずか 4.2%であり、教育的指導が 中心であり、今後は心理的援助機能を充実するために臨床心理士の配置が増える必要があると 指摘している。しかし、これら適応教室のあり方に関する研究は、通室生の変化・発達の過程や 構造との関連性が見えてこない。
一方、通室生に焦点をあてた研究として、通室生の変化について調べた谷井・沢崎(2002)は、
全国 847 の適応教室において指導に関わる指導員に対して、指導員から見た通室生の状態を問 う質問紙を 1 学期と 3 学期に配布し、変化を調査した。半年間の教室活動の結果、「みんなと相談 しながら学習できる」、「多くの通室児童生徒と会話できる」、「学習について指導員に質問したり相 談できる」、「自由時間に友達と遊ぶことができる」、「自分の考えをみんなに伝えることが出来る」、
「一人で読書や学習などの活動が出来る」など、行動レベルで「かなりの向上」が見られるとした。
しかし、実際の支援方法や、通室生の内面や体験の変化については言及されていない。もちろん、
研究者と通室生の間には何の相互作用もない。
これに対して、高橋・本間(2001)は約 8 ヶ月間、週 1 回当該適応教室で、通室生と共に活動し ながら、適応教室内での友人関係があまり良くないと考えられる通室生(A)と、比較的よいと考え られる通室生(B)の 2 名を対象にし、友人関係、特に社会的スキル、対人不安傾向に注目して観 察と質問紙調査を実施した。その結果、2 名ともに社会的スキルの低さ、対人不安傾向の高さが 観察で明らかになり、A,Bとも社会的スキルの獲得、対人不安傾向を低減すべきとしている。そ こで、今後の適応指導の焦点としては、Aでは自分自身の考えている社会的スキルの程度と客観 的に観察される社会的スキルの程度との間に大きなズレが見られるので、自尊心に脅威を与え ないように注意を払いながらのアプローチが必要としている。Bでは昼夜逆転生活がストレス源と 考えられることから、引き続き規則正しい生活を送るように指導することにより、ストレス要因を減 らしながら活動性を上げることが方針になるとしている。そして、社会的スキルの低さ、対人不安 傾向の高さの改善のためには普段あまり接触のない通室生同士の関わりを可能にするような SST や EG を通して、社会的スキルを発揮させるような働きかけが必要であるとまとめている。ま た、小学校時代全く登校することが出来なかったが、適応教室では積極的な関わりが出来るよう になってきたAと、昼夜逆転生活を送りながらも、友人や指導員の通室を催促する電話で何とか
通級できているBのエピソードから、友人との関わりが不登校生にとって重要であるとも結論して いる。しかし、ここでもAとBの内面における友人の意味については言及されていない。また、この 2 例は適応教室での友人関係に違いはあるのに、なぜ社会的スキル、対人不安傾向に差がない のか、その要因に関する考察もなされていない。尺度得点だけではなく、通室生の内面や体験に 注目し、了解していく必要性と行動や内面の変化に関連する要因を見ていく必要性も示唆され る。
このように、これまで焦点があまり当てられてこなかった通室生の内面や体験とその変化に接 近するには、ただ長期にわたって通室生と活動するだけでは不十分であると思われる。その適応 教室の指導法・指導スタッフのパーソナリティー、通室生集団の動きなどの要因を押さえながら、
通室生の内面や体験に目配りしながら、通室生と体験を共有するという、長期のフィールドワーク が必要であろう。この中で、内面に眼を向けた観察と面接によって、通室生の適応教室体験を了 解することができ、そこから指導員との関わり、集団の動きなど内面構造との関連性や、内面・体 験の構造とその変化過程を探っていけば、より適切なサポート法やサポート焦点が分かるだろう。
こうした長期的フィールドワークに基づく観察法による研究例としては、「通室生の内面へのま なざし」と「斜めの関係」を強調した指導を行いながら、学生サポーターを通年で適応教室に派遣 する事業(豊嶋・近江・斉藤;2004、有馬・豊嶋;2006)の中で行われた研究がある。まず、小森・豊 嶋(1999)は、観察法と面接法によって、①勉強が苦手な生徒には、勉強圧の発し手である教師的 存在からの承認は強い適応要因にはならず、教師の雰囲気や拒否された感覚が強い非適応要 因となること、②斜めの関係を保ちつつ、勉強その他の活動を共に行い、適宜承認を与える存在 が適応のつなぎとなることなどが動機付け要因であることを明らかにした。つまり、教師-生徒と いうタテ関係ではなく、ヨコの要素を加えた斜めの関係に立つ存在が共に活動し、承認することが 成長感につながることを示している。田中・久米川・豊嶋(2002)は、9 ヶ月から 1 年 9 ヶ月の毎週サ ポートを通して、田中・久米川を含む 19 名の学生サポーター達が1対 1 で多くの関わりを持ちなが ら観察してきた通室生について、適応教室での適応を抑制する要因(適応抑制要因)と促進する 要因(適応促進要因)と思われるものをサポーター達に指摘させる質問紙調査を行い、それを通 室生ひとりひとりについてまとめ、さらにそこから一般化していくという方法で分析した。適応抑制 要因としては「学校的な刺激」、「したくない活動それ自体」、「不得手なものに向き合う」が挙げら れ、適応促進要因としては「学生サポーターとの交流」、「友人との会話」、「生徒間関係の仲介 役・繋ぎ手となること」、「逆ナナメの関係への転換」が挙げられた。つまり、斜めの関係や逆斜め の関係でのサポートと通室生同士の交流が適応を促進するのである。しかし、どちらの研究も、
通室生の内面構造や変化過程への言及は弱い。
フィールドワークに基づく面接法によって内面の構造や変化過程を明らかにしようとした研究と しては、グランデット・セオリー・アプローチに基づく山中・栗田(2006)、内藤(2002)のPAC(個人別 態度構造;personal attitude construct)分析に基づく山川・宮本(2000)、種市(2002)などがある。
まず、山中・栗田(2006)は十分なラポールが作られている通室生に対する半構造化面接と面接 結果に対するグランデット・セオリー・アプローチによって、適応教室と成長の意味を探り、【回復と
成長→相互作用の場への復帰(参加)】【ありのままの自分でいられる居場所】【やわらかい枠組 み】というカテゴリーを得、カテゴリー間の関係性も考察している。しかしこれらのカテゴリーは通室 生にとっての意味と言うより、研究者の認知枠組みの反映にとどまる印象があるし、通室生の成 長にとっての機能も見えてこない。しかも、得られたカテゴリーはこの領域に携わる者にとって常 識となっている事項に過ぎない。
次に、PAC分析による 2 つの研究に触れる前に、内藤の PAC 分析の特徴を見ておく。この方法 は、対象者自身の「内面」や「体験」(内藤は「態度」と呼んでいる)をクラスター分析によって構造 化し、それに基づく面接によって、対象者の内面世界を構成(construct)していく方法である(内藤;
2002)。この方法の特色を内藤(1993)は次のように述べている。「デンドログラムを著者がいくら考 察しても解釈不能であった。・・・中略・・・そこで、被験者自身に解釈させ、報告させることを思いつ いた。・・・中略・・・(これが)『認識的二重操作』であり、『了解心理学的解釈法』であり、『現象学的 解釈技法』ということになる」。つまり、PAC分析は、「対象者の体験ゲシュタルトの構造そのもの に接近できる方法」なのである(豊嶋・近江・斉藤;2004)。さらに、内藤(2002)では、被験者自身に よる解釈も踏まえた、研究者による解釈も有効であるとして、PAC分析を「間主観的方法」として いる。フィールドワークと共にPAC分析を使用すれば了解可能性も間主観性も極めて高くなると 思われる。
PAC 分析を用いて、「不登校児のためのキャンプ」が参加者に及ぼした影響を検討した山川・宮 本(2000)は、キャンプに参加した 1 例の小学 4 年女児とその保護者を対象とし、それぞれのキャン プによる変容を PAC 分析で捉えた。その結果、母子共にキャンプ体験で最も大きな影響を受けた のは人間関係で、女児では「友達ができてうれしい」「仲のいい友達と話すことが楽しかった」と述 べ、母親では母親同士が悩みを話し、それを分かってもらうことで落ち着いていく様子が見られ、
母子共にキャンプ参加は自己を受容するのに大きな役割を果たしていた。しかし、ここで扱ったの はキャンプという短期間の体験に過ぎず、しかも1事例にすぎない。また、PAC 分析では被験者と 調査者の間に十分なラポールがないと面接は平板に終わるし、さらに、既に触れたように、調査 者側が対象者の体験を了解できるだけの共通体験も必要となるが、長いサポート体験によるラポ ールや対象者との共通体験がどれほどあったかのかについては全く触れられていない。そのこと は、彼らがその重要性を認識していなかったことさえ示唆する。
これに対し、種市(2002)は、4 年間にわたって指導員を務めた適応教室で、十分なラポールを確 立済みの通室生 7 名が中学期を終えた後に、適応教室での体験を回顧させ、PAC 分析で体験の 構造を捉えようとした。ここで回顧法によって捉えられたものは、修了後にも機能している体験、つ まり、通室期から距離をおいた時点で「まだ、心に残っていること」の意味と構造である。その結果、
「全事例で他通室生や指導員、サポーターとのポジティブな感覚を伴う交流が肯定的変容に関わ り、個々の中核的課題の解消に強く影響していること」、「学校とは異なる父性性を抑えた指導や 自主性を尊重した関わりが適応教室への適応をもたらすと共に、通室生の自立性の向上や物事 に対する積極的な構えの構築に大きく寄与すること」、言い換えると指導員のとる斜めの関係での 交流が成長感をもたらすこと、「行事での活動が認知の変化や承認欲求の充足、肯定的自己感
の甦りのきっかけになること」、「適応教室体験で身につけた対人スキルや社会スキルが卒業後 の社会適応(高校適応)の要因になっていること」といった知見を得た。しかし、対象者はすでに適 応教室を卒業し、現在の生活に適応している者であるから、現在の良い適応状態が回顧にも投 影されて、通室中に感じていた意味とその構造からは、ずれている可能性もある。
そこで本研究では、適応教室に通室中の通室生であり、かつ調査者との間で十分なラポール が成立している者を対象に、適応教室での様々な体験の構造とどんな体験が適応や成長に促進 的に機能するのかを、通室生の視点から理解し、そこから有効なサポート焦点を探ることを目的と する。この目的のためには、PAC 分析とそれに基づく面接が適切であろう。また、適応と成長に促 進的に機能する要因を絞り込むために、対象者自身からも、小森(1999)にならって適応抑制・促 進要因を語ってもらう方法も採用する。
なお、三浦・田名場(2006)は通室中の通室生1例を対象とした PAC 分析の結果から、「適応教 室での人間関係を通して得たポジティブな感情」、「球技を通した協力関係」、「ポジティブな自分 に変わるきっかけ」、「日常生活の中で生じた不満とその許容」という5つのクラスターを得、そこか ら適応促進要因の抽出を行い、「Auchsein」感覚の獲得が適応教室での生活を支えているという 考察を行ったが、クラスター分析は、内藤(2002)の推奨する<HALWIN>ではなく、<JMP>を用 いた。しかし、<HALWIN>を用い再検討をするとより了解しやすい構造が得られることがわかっ た。そこで、PAC 分析のクラスター分析を<JMP>にするか<HALWIN>にするかの論議は「方 法」で詳しく述べることにしたい。
以上、本研究の目的は、通室生に対するサポートの方法や焦点を明らかにするために、適応 教室体験の構造を調べることであるが、まず、各事例における構造とサポート焦点・方向性を検 討する単一事例研究を行うことである。これは、第 4 章のⅠ~Ⅳで行われる。次に、それを踏まえ て事例の類似性を取り出していくことであり、これは第 5 章(総合考察)で行われる。
また、副次的な目的として、PAC分析のクラスター分析には複数の方法があるので、その妥当 性も検討したい。
2.本研究の視点
山中・栗田(2006)は【回復と成長→相互作用の場への復帰(参加)】に意味があるとし、高橋・本 間(2001)は通室生の友人関係に注目した。小森・豊嶋(1999)は、教師-生徒というタテ関係では なく、ヨコの要素を加えた斜めの関係に立つ存在が共に活動し、承認することが成長感につなが ることを示し、また、田中・久米川・豊嶋(2002)は、斜めの関係や逆斜めの関係でのサポートと通 室生同士の交流が適応を促進することを示した。山川・宮本(2000)では母子共に、キャンプにおけ るヨコの関係が自己変容を促進しており、種市(2002)では、適応教室での斜めの関係と、対人ス キル・社会的スキルの獲得が中学期を終えた後の適応を支えている。ここから、指導員やサポー ターがヨコの要素を取り込んだ関係を作っていくことと、通室生同士のヨコ関係の交流や拡がりが
本研究の有力な視点になると示唆される。
サリバン(1946;訳書 1976)によると、前思春期の人間になったという標識は、「ある他者、ある特 定の相手が体験する満足と安全が自分にとって自分自身の満足と安全と同等の重要性を持つよ うになる」愛の形態が現れることとし、「同類だという感じ」を得ることで人は生まれて初めて自分 自身を表現し始めることができると指摘している。そして、サリバンはこの「自己と同じ性質のもの に対する愛」を同質親和性(isophilic intimacy)と呼んだ。ヤーロムら(1991)は、集団精神療法の療 法的因子のひとつとして「普遍性」を挙げ、「集団精神療法を受ける多くの患者は、他に比べようの ない孤独や哀れさの中で、特別であるとか、一人で受容できない問題や衝動を抱えていると密か に信じ込んでいる。しかし、グループセラピーにおいて、自分の問題が普遍的で、他のグループの メンバーと分かち合えるものであると気づくと、大いなる安堵感を体験する」としている。
辻(1978)は、ヤロームらの指摘する安堵感よりも積極的な意味を同質親和性や普遍的同質性 に見出している。サリバンを受けて、仲間とは、“自分に内在するものと同質のものを他者の中に 認め、その同じ性質をもつ者に対して親しみを持つ力(同質親和性)によって形成される”とし、さら に、仲間に自分と同質の苦痛や不安を見出すと、親しみを感じるだけでなく、そこに“自分が普通 の人間であることからずり落ちていない証し”を見とることが出来ると、“自らの苦痛や不安な体験 を受け止めることができる”と言う。そして、“自分と同じ条件下にあれば、人は誰しもそのような体 験をするのだ”という「普遍的同質性」の発見が、問題を克服する力を引き出すとした。つまり、サ リバンや辻は、発達や問題克服にとって同質の人との関係、つまり、ヨコ関係が重要であることを 指摘しているのである。
思春期の不適応や不登校生のヨコ関係の交流に注目したものとして、笠原(1977)、森田(1991) がある。笠原(1977)は、不登校生の友人関係について「退却しないで学校に行っている友人たち、
あるいは留年もしないで先へ行ってしまった友人たち、それらの人々は退却中の人間、留年して いる人間の側から見ると成功者としてのどっしりしたアイデンティティの持ち主として見え、それゆ えにあまり近づかれることを怖れる」としている。また、森田(1991)は不登校の基底要因として 4 つ の因子を抽出している。学校を欠席するにあたって訴える理由の第 1 因子軸が、対友人関係にお ける適応に問題を感じていたり、いじめなどによる精神的な被害や不安感などを中心とする「友人 関係性不安軸」であり、この第 1 因子の寄与率は 18.8%であった。笠原も森田も不登校生におけ るヨコ関係の困難さに注目し、さらに笠原は「斜めの関係」という概念を作って、その重要性を強調 したのである。
不登校生のヨコ関係については、池田の研究チームが独自の論を展開している。池田ら(1987) は、「登校拒否」を「青年期危機」一般を特徴づける「<共通感覚>獲得不全」に関わる問題化の ひとつの結果であり、とりわけ“親子関係に代表される「タテ関係」から友達や社会との「ヨコ関係」
へと参加していかなければならないという発達課題の前で挫折した姿”であると考える。そして、
「登校拒否」の根本的な問題は、「共通感覚」(common sense)の一面としての「Auchsein」感覚、
すなわち、“自分というものは人と決定的に違った特殊な存在なのではなく、自分も他者も「やはり
また基本的には同じ存在」なのだ”という感覚の獲得に関わる事柄であると考えていく。ここで、池 田グループが注目している「Auchsein」感覚は、サリバンの「同質親和性」、辻の「普遍的同質性 の感覚」とほぼ重なる概念であることを指摘しておく。
さらに、池田(1993)は、「登校拒否」の「時間」的契機として「生成の停滞」、「空間」的契機として
「タテ関係とヨコ関係の(均衡の)崩れ」があると捉え、停滞・不均衡からの展開には「均衡を取り戻 せるはずみ」をつけさせることが重要とした。そこで、「登校拒否」者との治療関係においては、治 療者は理解され受容され、治療者と同型的と感じられるような場をまず設定し、そこで「共通の感 覚」「共にあること」「もまたあること」を経験することが重要であり、その共有された経験を共に拡 げていくことがまず治療目標になる。また、「登校拒否」の“上下(タテ関係)へのとらわれ”は一応そ っとしておきながら、経験の幅を拡げることが自立を可能にするとして、まず、ヨコの広がりへの展 開をはかっていく。池田・吉井(1991)は、「ヨコ関係」とは、本人自身を等身大の大きさで「映し返し てくれること(ミラーリング)」という機能があり、ヨコ関係が自己存在の確認を可能にし、「自己確 立」の基盤になると考えるのである。つまり、タテの存在である治療者が共通感覚や共にあること、
Auchsein感覚を共に感じるヨコ関係の交流を作っていくということは、笠原の言葉で言うと「斜め の関係」に降りていくことであるが、それが「登校拒否治療」の第 1 の目標であり、第 2 の目標が、
治療者との関係に限らず、不登校生間も含めたヨコ関係を拡げていくことであるとまとめられる。
そして、タテ関係が治療課題になるのは、ヨコ関係の確立と拡がりの後であり、治療段階としては まずヨコ関係に繋ぎ、次に、タテ関係に繋いでいくこととなる。
このような治療仮説に基づいて行われたのが、「ヨコ体験合宿」(池田・吉井;1991)、「ヨコ体験 グループ」(池田・吉井;1997)である。これは不登校生たちが経験してこなかった集団体験を作る 目的から企図された集団心理療法であり、参加者数とほぼ同数の大学生・大学院生がファシリテ ーターとなり、それを心理臨床の専門家が見守る形で構成される。ファシリテーターは、全面的に 受容的な雰囲気の中で生徒の率直な自己表現を敏感に受け止めながら、他の生徒たちにつなぎ、
次第に生徒同士の関係が深まるように配慮していく。参加者とファシリテーターが「共通感覚を共 に感じるヨコ関係」を作るために、「ファシリテーター集団がまず“渦”を作っておき、そこにメンバー を入れて巻き込んでいく」という方法(池田・吉井・桐山他;1992)も取られる。このように、ファシリテ ーターとの関わりを媒介として、個々の生徒の心理的課題が仲間関係の中で試され、仲間関係の 中で共有されることによって、仲間関係が「ヨコ体験」としての意味を獲得していくのである。そこで は、同年齢帯の仲間との間で、お互いに個人的な悩みを表出し理解しあい、共有することで安堵 感を得、“互いが抱える悩みは異なっても、相違点を乗り越えてお互いに理解し合いたいという欲 求”が現れ、理解し合い、互いの個人的な悩みを共有することで安堵感と“「他者のAuchsein性」
への気づき”Auchsein感覚を得る、という過程を進んでいく。
以上、先行の研究・理論から不登校生の内面と体験にとって、仲間との交流や斜めの関係を含 むヨコ関係の要素、特に「普遍的同質性」の認知、共通感覚や「Auchsein」感覚が重要であるこ とが示された。
第 2 章 PAC 分析の方法の検討‐JMP か HALWIN か‐
1.問題と目的
PAC 分析は内藤(2002)の推奨する HALWIN を用いなくても、JMPやSPSSなど別の統計ソフト を用いることもできる。JMP は SAS 社が開発、販売しているものであり、木村(2003)は 40 代、神経 症、男性 1 事例から得た職業生活に関する 17 の連想項目について、JMP,HALWIN,SPSS の 3 つの方法によってクラスター分析を行い比較検討している。その結果、操作性とカラー表記での 見やすさという周辺的な理由からJMPが優れているとしているが、ソフトウェアによるデンドログラ ムの違いについては「多少あるが、実用上の問題はない」としか言及していなく、構造の違いにつ いては全く触れていない。
三浦・田名場(2006)は、適応教室に通室する不登校男子中学生 1 事例(後出の事例 A)から得た、
適応教室での生活・体験などについての連想項目を、JMPを用いて分析したが、その項目に HALWIN を適用してみると、木村(2003)が言う「多少の違い」ではなく、かなり異なる構造のデンド ログラムが得られる。そこで本章では、次章以降で採用する方法を決める目的から、デンドログラ ムの見易さや操作性といった点からではなく、HALWIN とJMPのどちらが了解性や妥当性が高い かを検討する。
2.使用する事例と方法
使用する事例は、適応教室の通室生である男子中学 2 年生の A と、女子中学 3 年生の B の 2 事例である。2 名とも、JMP と HALWIN の 2 つのソフトウェアで検討する。A に対しては、前述のよ うに、まず JMP を実施し、それに基づく面接を行っている(結果の概略は次節で述べる)。しかし、
なぜそのクラスターに入るのかが了解しにくい項目があったり、解釈-命名が難しいクラスターが あったため、HALWIN で再分析した。面接は適応教室と事例の了承を得て、なるべく時間をかけな い方針で実施しているので、HALWIN によるクラスターを基にした面接は行っていない。事例 B で は、HALWIN によって面接まで行っているが、JMP による面接は、A と同じ理由で実施していない。
考察は次の方法で進める。まず、HALWIN と JMP で異なるクラスター構造が得られたり、少数の 連想項目であっても、それが属するクラスターが違っているところに注目する。そして、異なってい る点について、面接の中での事例の陳述と解釈者側にとっての了解しやすさに基づいて、事例ご とにどちらが適切かを判断していく。
3.事例 A
3-1:JMP による分析
20 の連想項目について JMP で得たクラスターは図 1 の通りであるが、特にクラスターⅠとⅡの 解釈が困難であった。クラスターⅠは、集団雰囲気に始まり、学習面から体育面、それに自己変 容感まで加わった広範囲を覆うクラスターとなっており、クラスターⅢの〔4.個人レッスンがいい〕、
〔9.MPT,PT(いずれも、日課の活動の名称),お茶があるからいい〕という日課としての活動から、
〔8.調理実習が楽しい〕、〔5.いろいろな行事がある〕、〔6.社会見学〕、〔7.フレンドシップ(大学主 催の 1 日行事)〕といった行事までを覆うクラスターとなっている。
豊嶋・遠山(1996)は、大学生の不適応に関して、集団データの分析からも、事例研究からも、不 適応学生が学生生活を切り取る認知枠組みや生活空間の枠組みが客観的な分類枠組みからず れた、了解困難な分化をしていることが特徴であることを見出している。ここから、A のクラスター
ⅠとⅢが解釈困難なのは、A の不適応性が強いためであろうと考えた。
クラスター解釈は以下の通りである。なお、面接における A 自身の言葉は、文中アンダーライン を施した。
クラスターⅠ≪適応教室での人間関係を通して得たポジティブな感情≫:A はクラスター名をつ けることができなかったが、クラスター全体を見渡して感じたこと(以下、「全体イメージ」)として「心 が豊かになった」、「目の前が見えてきた」という反応が得られ、「みんなが優しく、授業(学習時間 の学習指導を指す)が楽しい」と述べている。ただし、A はクラスターⅢに属する〔4.個人レッスン がいい〕もこのクラスターⅠに含めている。このクラスターは解釈が最も困難だったクラスターであ る。このような、命名に至った経緯を述べる。
まず、〔19.I先生がうるさい〕は学習指導も含めて全般に厳しい、タテ性の強い関係をとる指導 員であるIに対する印象であるが、それを通して〔16.頭が前よりよくなった〕が得られたと解釈する ことが出来た(詳しくは第 4 章)。そこで、〔3.授業が楽しい〕、〔16.頭が前よりよくなった〕、〔19.I 先生がうるさい〕は学習面での成長感や楽しさに関する項目群とみてよい。そこから、クラスター
Ⅲに属する〔4.個人レッスンがいい〕を、A はクラスターⅠに含めようとしたと考えられる。
こうした、学習面での楽しさに、〔11.体育が楽しい〕というように、体育面での楽しさも合わせて、
〔15.もっと明るくなった〕という変容感が得られたと解釈すると、こうした「楽しさ」、「成長・変容感」
を支えているのが、〔1.みんなやさしい〕、〔2.サポーターが来ること〕でいう、他通室生やサポータ ーの優しさであると考えられた。また、〔15.もっと明るくなった〕に関連して「ここ(適応教室)にいる 人って学校に不満を持って来てるから暗い人が多いと思う。学校に困難を持っている人が集まっ て、適応教室は明るくしたいって感じになっている」という陳述が得られた。他通室生も自分と同様 に、「明るくしたい」気持ちを持っていると捉えていることがわかる。このような捉え方は、〔1.みん なやさしい〕と連動するであろうと考えられた。
なお、〔11.体育が楽しい〕に関しては、体育活動の項目群からなるクラスターⅡに属していない 点に疑問が残ったし、デンドログラムにおいては〔4.個人レッスンがいい〕が別クラスターに属して
いることも疑問であった。それらの疑問については、〔4.個人レッスンがいい〕は、A 自身がクラス ターⅠに含めているという理由で、それ以上の検討は避けることとし、〔11.体育が楽しい〕は、クラ スターⅠで拾われた学習・体育活動の項目は活動それ自体としてよりも、それらを通して得られた ポジティブな感情を得たことを意味すると考えて、上記のような命名を行った。
クラスターⅡ≪球技を通した協力関係≫:A はこのクラスターを「(問題のない)協力」と命名した。
日常の体育活動や休み時間に、男子を中心に球技を通して関係が作られていったことを反映す るクラスターである。球技が仲間関係を作るきっかけとなり、安心できる適応教室生活につながっ ていると思われる。
クラスターⅢ≪ポジティブな自分に変わるきっかけ≫:全体的イメージとして、行事での「息抜 き」「環境が変わる」という反応が得られた。
しかし、前述したように「個人レッスンがいい」も、「MPT,PT(いずれも日課の活動の名称),お 茶」も行事ではなく、日課である点に疑問が残る。その疑問の解決のために、次のような解釈を行 った。まず、A 自身は〔4.個人レッスンがいい〕をこのクラスターから除外しているという理由から、
これを疑問点としては扱わない。「MPT,PT,お茶」は日課ではあるものの、他の日課活動と比べ ると自由度が高く、行事的な要素を含むものと考えた。そこで、このクラスターは行事関連のクラ スターであると捉えた。
行事では班編成が行われ、普段あまり関わらない通室生とも関わる機会となって、「誰とも協力 できることがわかった」と A は述べている。また、〔5.いろいろな行事がある〕、〔6.社会見学〕、〔7.
フレンドシップ〕は館外に出かける行事のため、「旅行気分」であるとも述べられた。このように、
「息抜き・旅行気分」の、非日常的な雰囲気の中で、互いの「協力」が行事活動への積極性を作り だし、それがさらに他通室生との協力関係を開いていったことを示すクラスターであると考え、上 記のような命名を行った。
クラスターⅣ≪日常生活の中で生じた不満とその許容≫:全体的イメージとして「生活してたら、
自分の中でこういうのが出てきた感じで、これ(クラスター4)に深い意味ってのはない」と述べた。
最も不満なのは「昼食時全員が集まる」項目であり、別の活動中に昼食を摂るように要求されると いう、「タテ性の強い強制」圧への不満であるが、A 自身、許容範囲内としていた。
図 1.A の JMP でのデンドログラム
1.みんなやさしい(+)
2.大学生がくる事(+)
3.授業が楽しい(+)
4.個人レッスンがいい(+)
5.いろいろな行事がある(+)
6.社会見学(+)
7.フレンドシップ(+)
8.調理実習が楽しい(+)
9.MPT,PT,お茶などあるからいい(+)
10.時間にちょっと不満?(0)
11.体育が楽しい(+)
12.生活はたっきゅうとかしていい時間をすごしている(+)
13.たっきゅう,バド,バレーがうまくなった(+)
14.スタミナがついた(0)
15.もっと明るくなった(+)
16.頭が前よりよくなった(+)
17.みんなが集まって、めしをくうのは、あまりひつようないと思う(-)
18.牛乳がないこと(-)
19.I先生がうるさい(0)
20.格闘技系ファンがいない(-)
0 5 10 11.4
3-2:A における JMP と HALWIN の比較検討
上で述べた諸問題点について再検討を加える。第 1 は、〔4.個人レッスンがいい〕についてであ る。個人レッスンとは、学習時間に通室生に 1 対 1 で指導するものであるが、〔4.個人レッスンが いい〕という項目のイメージは、「学生とか先生が、わかるまで何度聞いても優しく教えてくれる」と いうものであった。ここから、〔4.個人レッスンがいい〕は、〔1.みんなやさしい〕、〔2.大学生が来 る〕、〔3.授業が楽しい〕と類似の意味があると解釈できる。つまり、Aの主観においても、我々の 解釈の上からも、JMPではクラスターⅠに属している〔4.個人レッスンがいい〕は〔1.みんなやさ しい〕、〔2.大学生が来る〕、〔3.授業が楽しい〕との共通性が高いのである。
第 2 は、クラスターⅠに属する〔15.もっと明るくなった〕についてである。この項目について A は、
前述したように、「適応教室は学校に困難を持っている人が集まるから、適応教室は明るくしたい」
と解説した。一方、クラスターⅢに属する〔8.調理実習が楽しい〕、〔9.MPT,PT,お茶があるから いい〕は、「『明るくする』息抜きなので楽しい、いい」としている。ここから、Aの内面では〔15.もっと 明るくなった〕はクラスターⅠよりも、クラスターⅢに関連することがわかる。少なくとも、〔15.もっと 明るくなった〕がクラスターⅠに属するのは納まりが悪いのである。
第 3 は、クラスターⅠに属する〔11.体育が楽しい〕についてである。この項目について A は、
「体育の時間ではチームや対戦相手が決まったら、みんなで協力し合って楽しくできる」と解説した。
ここからは、〔11.体育が楽しい〕はクラスターⅠよりも「楽しさ」や「息抜き」のクラスターでもあった クラスターⅢに属してもおかしくはないし、体育関係のクラスターであるクラスターⅡに属しても了 解がつく。つまり、〔11.体育が楽しい〕がクラスターⅠにあるのは妥当性が低いように思われる。
第 4 に、クラスターⅠに属する〔19.I先生がうるさい〕についてである。「うるさい」はI指導員のタ テ性に対する反応として了解できるのであるが、Aは面接では、「間違えた時とか怒った時にうるさ いとかじゃなくて、教えるのが次から次と出てきて・・けど、そのおかげで覚えれた」と述べており、
〔16.頭が前よりよくなった〕と重なるのは了解できる。しかし、これはクラスターⅠについてのAの 解説、「みんなが優しく授業が楽しい」とは異質である。つまり、〔19.I先生がうるさい〕がクラスター
Ⅰに属する根拠が分かりにくいのである。
なお、クラスターⅠにAは命名できなかったことを指摘したが、クラスターⅢも命名できなかった。
つまり、少なくともクラスターⅠとⅢについてはAの内面ではうまく統合されていなかったことになる。
JMPのクラスターの納まりが悪いことは明らかである。
それに対して、HALWIN のデンドログラム(図 2)は了解しやすいことが分かる。
第 1 点目は〔4.個人レッスンがいい〕については、〔1.みんなやさしい〕、〔2.大学生が来ること〕
と同じクラスターに属している。第 2 の〔15.もっと明るくなった〕も、〔8.調理実習が楽しい〕、〔9.
MPT,PT,お茶があるからいい〕と同じクラスターに属している。第 3 点目の〔11.体育が楽しい〕が、
体育関連のクラスターに属している。第 4 点目の、〔19.I先生がうるさい〕については、この項目と
〔16.頭が前よりよくなった〕の 2 項目で独立したクラスターとなっており、、これは“I先生のおかげ で覚えられた”という A の陳述の通りである。
以上の諸点から、JMPよりも HALWIN の方が、了解性の高い構造を提供していると結論できる。
JMP によるクラスターが了解困難なのは、A の不適応性が強かったためではなく、JMP 自体の問 題だったと言えよう。なお、HALWIN による詳細な考察は第 4 章に譲る。
0 8.23 |----+----+----+----+----+----+----+----+----+----+ 距離
|_____. 1.みんなやさしい(+) |_____| 2.大学生が来ること(+)
|_____|_______. 8.調理実習が楽しい(+) クラスター1 |_____. | 3.授業が楽しい(+)
|_____| | 4.個人レッスンがいい(+) |_____|_______|__________. 9.MPT,PT,お茶があるからいい(+) |_____. | 5.いろいろな行事がある(+)
|_____| | 6.社会見学(+) クラスター2 |_____| | 7.フレンドシップ(+)
|_____|__________________|________. 15.もっと明るくなった(+)
|___________. | 16.頭が前よりよくなった(+) クラスター3 |___________|_______________. | 19.I先生がうるさい(0)
|___________________________|_____|___. 20.格闘技系ファンがいない(-) クラスター4 |_____. | 11.体育が楽しい(+)
|_____|________. | 13.卓球、バド、バレーがうまくなった(+) クラスター5 |_____. | | 12.生活は卓球とかしていい時間をすごしている(+)
|_____|________|______________________|___________. 14.スタミナがついた(0)
|_____. | 17.みんなが集まってめしを食うのは必要ない(-)
|_____|_______________. | 18.牛乳のないこと(-) クラスター6 |_____________________|___________________________| 10.時間にちょっと不満(0)
+----+----+----+----+----+----+----+----+----+----+
図 2.A の HALWIN でのデンドログラム
表 1.A のクラスター対応表
連想項目 HALWIN JMP
1.みんなやさしい
2.大学生(サポーターの意)が来ること 3.授業が楽しい
8.調理実習が楽しい 4.個人レッスンがいい
9.MPT,PT(いずれも日課の活動名),お茶があるからい い
クラスター1 クラスターⅠ
クラスターⅢ
5.いろいろな行事がある 6.社会見学
7.フレンドシップ(大学主催の 1 日行事)
15.もっと明るくなった
クラスター2
クラスターⅠの一部
16.頭が前よりよくなった 19.I先生がうるさい
クラスター3
20.格闘技系ファンがいない クラスター4 クラスターⅣ 11.体育が楽しい
13.卓球、バド、バレーがうまくなった
12.生活は卓球とかしていい時間をすごしている 14.スタミナがついた
クラスター5 クラスターⅠの一部 クラスターⅡ
17.みんなが集まってめしを食うのは必要ない 18.牛乳のないこと
10.時間にちょっと不満?
クラスター6 クラスターⅣ
注;項目はHALWINのデンドログラム配置の順に表示した
4.事例 B
図3、図4、表2の通り、2つの方法で類似のクラスター構造になっており、各クラスタ ーを構成する項目も表 2 のようにほぼ同じである。唯一の違いは、〔3.人とのコミュニケ ーションがちゃんととれるようになった〕がJMPではクラスターⅢ、HALWINではクラス ター1に属することである。どちらに属しても解釈はつくが、JMPの場合は、クラスターⅢ が他者の理解-気づかいが出来るようになり、しかも考え方が変わって(「前は友達がいなく てもいいと思っていたのが、やっぱり友達は大事」)、コミュニケーションも上手くなった ことを意味するクラスターであると解釈できる。HALWINの場合は、クラスター1は友達(同 じ中学の同学年の通室生であり、学校にテストを一緒に受けに行った友達を指す)との交 流の中でコミュニケーションが上手くなり、明るくなり、テスト時登校も出来るようにな ったことを意味するクラスターであると考えられる。
図 3.BのJMPでのデンドログラム
ところが、〔3.人とのコミュニケーションがちゃんととれるようになった〕とは、B の陳述によれば
「自分の気持ちを出せるようになった」という意味である。ここからは、他者理解-思いやり、友達が 大事という他者中心的なまとまりである JMP のクラスターⅢよりも、特定の友達との交流の中で内 面の表出も、登校もできるようになり、明るくなったという、自己の押し出しを意味する HALWIN の クラスター1 に属させるほうが了解しやすい。
つまり、事例 B では 2 つの方法で得られたクラスターの対応はよいが、了解性という点で HALW IN が優れているといえる。なお、HALWIN による詳しい考察は第 4 章で述べる。
0 5
1.友達(+)
7.テストの時学校に行けるようになった(+)
11.おしゃれ(+)
4.明るくなった(+)
5.考え方が変わった(+)
8.行事では色んな大学生さんと話すとことができてよかった(+)
9.マイプランタイム(+)
2.人の気持ちを理解するようになった(+)
6.気づかいが上手くなった(0)
3.人とのコミュニケーションがちゃんととれるようになった(+)
10.体育(0)
0 5.67
|----+----+----+----+----+----+----+----+----+----+ 距離 |________. 1.)友達(+)
|________|_____. 3.)人とのコミュニケーションがちゃんととれるようになった。(+) クラスター1 |______________|______. 4.)明るくなった。(+)
|_____________________|___________. 7.)テストの時学校に行けるようになった。(+) |_________________________________|____. 10.)体育(0)
|_________________. | 8.)行事では色んな大学生さんと話すことができて良かった。(+) クラスター2 |_________________|____________________|__________. 9.)マイプランタイム(+)
|________. | 2.)人の気持ちを理解するようになった。(+)
|________|_______________. | 5.)考え方が変わった。(+) クラスター3 |________________________|__________________. | 6.)気づかい上手くなった。(0)
|___________________________________________|_____| 11.)おしゃれ(+) クラスター4 +----+----+----+----+----+----+----+----+----+----+
図 4.Bの HALWIN でのデンドログラム
表 2.B のクラスター対応表
連想項目 HALWIN JMP
1.友達
4.明るくなった。
7.テストの時学校に行けるようになった。
3.人とのコミュニケーションがちゃんととれるようになった。
クラスター1 クラスターⅠ
クラスターⅢ 2.人の気持ちを理解するようになった。
5.考え方が変わった。
6.気づかいが上手くなった。
クラスター3
10.体育
8.行事では色んな学生さんと話すことができて良かった。
9.マイプランタイム
クラスター2 クラスターⅣ
11.おしゃれ クラスター4 クラスターⅡ
注;項目はHALWINのデンドログラム配置の順に表示した
5.結論
事例 A、事例 B、両方において HALWIN の方が了解性、妥当性共に優れている。従って、以下 では、HALWIN を採用する。なお、事例 A,B 以外でも JMP によるクラスター構造を押さえておくこ ととする。
第 3 章 調査対象と方法
1.調査対象
1-1:調査対象者の通室する適応教室の特徴
対象者の生活の場となっている適応教室には、学習指導員(ほとんどが教員出身)、看護師(以 下、一括して指導員)が計 8 名勤務する。通室生のほとんどは中学生であり、実通室生数は 10 名 程度から 20 数名と時期や日によって変化する。この適応教室には、H 大学教育学部のフレンドシ ップ事業として、毎年度、計 20 名程度の H 大学教育学部の 3 年次以上の学生、大学院生(以下、
一括してサポーター)が、サポーターとして派遣される。2 年間サポートを継続する者も多く、大学 院進学後も続ける者もいるので、1 年目サポーターから 4 年目サポーターまでいることになる。サ ポーターは午前の時間帯を中心に、各自週 1 回の活動曜日を決め、通年でサポート活動を行う。
そのため、月~金までの各日、1 日4~5名のサポーターが入ることになる。ただし、学生の教育 実習期間中にはサポート活動が中断されるので、1 日 4~5 名体制が崩れて 1 日 1~2 名になるこ ともある。また、週 1 日の活動日以外には、大学側がフレンドシップ事業として開催する行事日や、
適応教室独自に行う社会見学などの行事には、参加できる全てのサポーターが入って終日サポ ートを行う。
1 日のスケジュールは、X 年度、X+1 年度は午前に学習活動(2 時間)と集団活動、午後は自習 時間で構成されていた。X+2 年度からスケジュールが変更になり、午前に学習活動(1 時間)と集団 活動、午後は学習活動(1 時間)となった。集団活動は曜日によって異なり、指導員が企画運営す る「PT(プラン・タイム)」、通室生が自由に活動する「MPT(マイ・プラン・タイム)」、体育、創作活動 が組まれる。主な活動場所は、通室生が学年ごとにまとまり、ひとつの部屋で学習などの活動を する集団学習室(日常「大部屋」と呼ばれる)が 1 室と、集団学習室に入ることに抵抗のある通室 生の個別学習室(日常「個室」と呼ばれる)が 3 室ある。通室開始時は個別学習室にいる通室生も 適応教室に慣れてくると集団学習室に移っていくことが多い。
サポーターに対しては、笠原(1977)、豊嶋(2002)、有馬・豊嶋(2006)などに基づいて、臨床心理 学分野の教員と、この事業のための客員教授が、「共感性」、「尊敬的態度」、「自己開示性」とい った治療的能力と「斜めの関係」、「私もまた」(Auchsein)感覚、「不登校からの回復過程」論、など 関わるための基礎知識と基礎技法を事前指導、中間指導で指導するほか、個別スーパービジョ ンを実施している。さらに、教員は適応教室指導員全員とサポーターの全員参加による年3回の
「事例研修会」のスパーバイザーを務める。
X~X+1年度は「事例研修会」以外に通室生、個々人の状態や変化、関わる際の留意点など、
個人情報がサポーター全員に広く開示される機会はなかったが、X+2 年度から、朝にサポーター と指導員の情報交換の時間が持たれるようになった。ただし、通室するに至った背景に関する情 報はサポーターには開示されない。
一方、指導員の専門的体系的な研修機会は乏しく、学習指導員という職掌と、教員出身という 出自のために、サポーターに比べると、指導員の関わりは、教師的・指導的関わりになりがちで、
「タテ」性が強くなる。
著者は X~X+2 年度にサポーターを務めた。調査対象者のうち 1 名(A)にはサポーター1 年目 末に調査を行い、C には 2 年目末に、B と D には 3 年目頭に調査を行っている。
1-2:調査対象者
X 年度から X+2年度の間に長期間適応教室に通室し、調査時点には適応状態が良好になって いる者で、かつ PAC 分析が実施できそうと判断できた者のうち、適応教室側から調査を許可され た者を対象とした。公表を前提に調査に応じてくれた事例は、中学 2 年男子 1 名(事例 A)、中学 3 年女子 3 名(事例 B,C,D)の計 4 名である。4 事例とも、通室開始時から調査者はサポーターとし て関わっており、対象者とのラポールは確立済みである。さらに、ラポールが確立しているだけで はなく、通室開始から面接時までの対象者の行動や対人関係の変容、背景などの概略を押さえ た上で面接していることも、本研究の大きな特徴である。
2.方法
2-1:調査の概略
内藤(2002)の HALWIN による PAC 分析を行ったが、補助的情報を得るために、適応促進要因・
適応抑制要因も質問した。
連想刺激は、適応教室での生活、印象に残る体験、感じたこと、自己変容感を広く拾う目的か ら、種市(2002)のものを使用した。連想刺激は以下の通りである。
対象とした適応教室の特質
本研究を進める際、第1に対象生徒のペースを最優先にし、かつ適応教室の日常プログラムの 妨げにならないよう、休み時間や指導員の許可が得られた日課の時間を用いて行った。そのため、
通常は、全手続きは 2 時間程度で終わるが、適応教室の時間割や上記の制約から 1 度に全手続 きを行うことは不可能なので、45 分程度で区切り、数回に分けて行うことにした。その際、対象生 徒の忘却を防ぐために翌日、遅くとも翌々日に次の回を設定した。
「適応教室での生活や適応教室であったことを思い浮かべてください。適応教室での普段の生活や行事での 活動など、適応教室のことで印象に残ってることや、今、頭に浮かんでくるのはどんなことでしょうか。そして、
それら適応教室での生活や活動を通して、あなたが思ったことや感じたこと、考えたことはどんなことでしょう か。適応教室であったことで印象に残っていること、適応教室に行って感じたこと、また、適応教室に行って自 分が変わったなと思うことでしたらどんなことでもよいです。頭に浮かんだイメージや事柄を、思い浮かんだ順 に番号をつけて 1 枚のカードに 1 つのことを書いてください。」
まず、連想項目と類似度評定を書くまでを一区切りとした。これは、短い対象者で 45 分、長い対 象者で 90 分を要した。その後、データを持ち帰ってデンドログラムを作成し、日を改め面接を行っ た。デンドログラムに基づいた面接の所要時間は各々異なるが、1 事例で計 75~90 分を要した。
対象者に疲労や飽きが見られた所で区切ることもあり、全手続きを終えるのに 3~4 回が必要で あった。
手続き
内藤(1997)によって示された PAC 分析の手続きを基に、対象が中学生であることを考慮し、多 少の変更を加え、以下の手順で面接を行った。
1) 連想刺激の教示
適応での体験と自身の変容に関する連想刺激として、上記の教示をまず示し、口頭で「適応で の普段の生活・行事・印象に残っていること・適応にいって自分が変わったと思うことについて思 い浮かぶことを話してください」と告げた上で、上記の教示を口頭でゆっくりと読み上げた。なお、
ここで「適応」とは、通室生もサポーターも適応教室を「適応」と呼んでいることに基づく言葉であ る。
2)連想項目の記入
およそ縦 5cm、横 8cmの付箋紙を 30~40 枚程度対象者の前に置き、頭に浮かばなくなるまで 自由連想させ、連想した言葉や文章を、順にカードに記入させた。
3)重要度のランク付け
自由連想により得られた連想項目を、「内容に関係なく、自分にとって重要と感じる順に並べ替 えて下さい」と伝え、並び替えた順に重要順位をカードにつけさせた。
4)類似度距離行列の作成
連想項目間の類似度距離行列を作成するために、連想項目すべてを対にして、以下の教示と 5 段階の心理的距離尺度に基づいて類似度を評定させた。内藤(2002)では 7 段階評定が用いら れているが、種市(2002)では、対象者の年齢を考慮して 5 段階評定を採用しているのにならい、本 研究でも 5 段階評定を用いた。「あなたがこれまでに書いてくれた各カードの内容が、言葉の意味 でなく、直感的なイメージでどのくらい似ているか考えて、その近さの程度をこの1から5を基に判 断してください。」
とても近い 1 わりと近い 2 どちらともいえない 3
わりと遠い 4 とても遠い 5
その際、対象者の「類似度」感にアンカリングをするため、初めに、1の“とても近い”と感じる対、
5の“とても遠い”と感じる対、3の“どちらともいえない”と感じる対を 1 組ずつ選ばせた。
5)クラスター分析
<HALWIN>を用い、連想項目間の距離行列を入力し、デンドログラムを析出した。なお、クラ スター分析の距離算出については、開発者である内藤(1997)の推奨するウォード法である。
6)クラスターの決定
デンドログラムをその余白部分に連想項目の内容を記入し、これをコピーして、1 部は対象者が、
もう 1 部は実験者が見ながら、デンドログラムの見方を説明し、対象者の解釈によりクラスターの 切断を行った。
7)対象者によるクラスターの意味付け(対象者報告)
クラスターのまとまりを確認しながら、以下の手順でクラスターと全体のイメージを質問した。
①各クラスターのイメージやそれぞれの連想項目が近くに配置された理由として考えられるもの を尋ねた。具体的には「このグループからどんなイメージが浮かんできますか。また、どんな内 容でまとまっていると感じるでしょうか。」と尋ね、次に、「名前をつけるとしたらどうする?」との 促しによって命名させた後、詳しい陳述を求めていったが、命名に至らない場合は、そのクラス ターごとの詳しい陳述の後に再度命名を求めた。最終的に命名できなかった場合には、そのク ラスター全体を見た時の印象・感想を尋ねた。以下、本文ではこれを「全体イメージ」という表現 で表すこととする。
②クラスター間のイメージや解釈の異同を尋ねた。教示は「□番と△番のグループを比べてみ てください。どんな所が同じで、どんな所が違っていると感じるでしょうか。」である。この時、直前 の比較対での陳述を引きずらないように可能な限りランダム対にした。
③最後に、PAC 分析全体についての感想を尋ねた。教示は「全体として見た時に、どんなイメー ジが浮かんできますか。」である。
8)各連想項目のイメージ評定
各連想項目について、そのイメージが対象者にとってにプラス(+)、マイナス(-)、どちらとも いえない(0)のいずれかに該当するか回答させた。
9)「適応促進要因」と「適応抑制要因」の確認
適応促進要因は「適応教室で元気になること、楽しいこと、明日も来ようと思うことはどんなこ