全国 と秋 田県沿岸部 における正月雑煮の地域的特色
顔 千 恵
キー ワー ド:正月雑煮 食文化 全国傾向 秋 田県沿岸部
Ⅰ は じめに
郷土料理 に関する地理学的研究 には、木村
( 1 9 7 4 )
、 沼倉( 1 9 9 9 )
などがあ名。 それ らをふ まえ、本研究 は、全国 と秋 田県沿岸部 における正月雑煮の特色 を 明 らかにす る。正月雑煮 の全国傾向については、 日本 の各大学へ ア ンケー ト調査 を依頼 し1)、得 られた
2 4 9 0
人 の回答 を もとに分析 した。秋 田県沿岸部 の正月雑煮 につい ては、沿岸部である秋 田市 と男鹿市、 それぞれ4 6
、3 0
世帯 の合計7 6
世帯 に聞 き取 り調査 を行 った。Ⅱ
全国 における正月雑煮1. 雑煮餅 の形 と汁仕立て
雑煮 は、東 日本が角餅で清仕立、西 日本が丸餅で 近畿地方 を中心 に味噌仕立 を定説 とす る。 ア ンケー ト結果 も同様だ ったが、中には違 う形態 も存在 した。
第1図 は、雑煮餅の形 と汁仕立ての全国分布 を示 す。北海道 は、典型的な角餅 ・清汁型 の地域 である (第1図
a)
。東北地方 も、北海道 と同様 に角餅 と清 汁の卓越地域である。 ただ し、秋 田県 と山形県の内 陸部 に、丸餅の存在が比較的多 く認 め られ る (第1 図b)
。関東地方 と中部地方 は、角餅 ・清汁卓越地域であ る (第1図C,d)。 ただ し、石川県 で は、丸餅 と角 餅が混在 し、福井県では、丸餅 ・白味噌仕立てが多
く、西 日本 の影響 を強 く受 けているといえる。
近畿地方 は、多 くが丸餅で、汁 は中心部 において 白味噌仕立 てが多 い (第1図
e )
。 ただ し、 清汁 も 比較的多 く存在す る。現在 における近畿地方 の雑煮は、必ず しも白味噌仕立てでない。三重県沿岸部で は、角餅 ・清汁仕立ての事例が多 くみ られ る。
中国 ・四国地方 は、丸餅 ・清汁仕立 ての卓越地域 で、特 に中国地方 にそれが顕著 であ る (第 1図 f)。
高知県南部で は、角餅 の存在が確認で きた。飽入 り
餅や、ぜんざい風汁仕立ての小豆雑煮 は、 この地方 の特色である。土地 の貧 しさか ら、餅 の代用 として 小豆 を使 っていた とい う回答 もあ った。
九州地方 は、丸餅 の事例が多 く、汁 は清仕立てで あ る (第1図
g)
。鹿児 島県 には、角餅 の事例 が多く、九州地方 の中で も異 なる形態を示す。
アンケー ト結果か ら、餅 の形 は東 日本 と西 日本の 差異 と同時 に、 日本海側 と太平洋側 の差異 も考 え ら れ る。北陸地方や秋 田県 と山形県の内陸部で丸餅が 多 くみ られ、三重県、高知県南部、鹿児島県、宮崎 県沿岸部で角餅の存在が認 め られ るか らである。
2.雑煮 の ダシと具
ダシは、主 に鶏肉、鰹節、椎茸、昆布、煮干が使 われ る。東北地方 は、鶏肉の使用例が極 めて多 い。
また、地域 によ っては特徴的なダシもみ られ、広島 県 、岡山県、愛媛県で、 ブ リ、牡鳩、‑マグ リが、
九州地方で はスルメ、 トビウオ、海老がみ られた。
雑煮 の主 な具 には、鶏肉、蒲鉾、大根、人参、 ゴ ボウ、椎茸、里芋、青菜類がある。動物性食材 の う ち、鶏肉の使用率 は、北海道 と、東北、関東 を中心 とする東 日本 と九州地方で高 く、中郡、近畿、中国 。 四国地方では使用率が低 い。蒲鉾 は全国的に広 く使 用 され、中で も九州地方でその使用率が高 い。鶏肉 の使用率の低 い地域 で も高 い使用率が認 め られた。
植物性食材の うち、大根 の使用率 は全国的 に高 い が、秋 田県、山形県、北陸を中心 と した中部地方、
山陰地方で は使用率が低 い。 これ らはすべて 日本海 側の積雪地域である。 セ リと ミツバ は非常 に似 た も のゆえに使用率が補完的にな っている。 セ リの使用 率 は東北地方で高 く、その他 の地域 にはほとん ど存 在 しない。 ミツバ は全国的に使用 され、関東、中部 地方で高 い使用率がみ られ る。椎茸 は、九州地方 と 東 日本で使用率が高 く、西 日本ではあまりみ られな い。青菜類 と里芋 は、東北地方以外 の各地域でみ ら れ、岡山県、関東地方、愛知県、静岡県ではほうれ
‑ 3 3‑
Akita University
a.
北海道&. I, + ,'' .
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︻東b
角餅 ・晴汁 ■
丸餅 ・晴汁
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角餅 ・白味噌汁 □ 丸餅 ・白味噌汁 ○ 角餅 ・赤味噌汁 山 九餅 ・赤味噌汁 ① 角餅 ・あわせ味噌汁 □
丸餅 ・あわせ味噌汁 角餅 と丸餅両方 ・消汁 角餅と丸餅両方 ・白味噌汁 角餅 ・消汁 と白味噌汁 丸餅 ・清汁 と白味噌汁 小豆雑煮
餅な し ・清汁
0◆◇回⑳☆▲
C.関東地方
0 30Lb
∫.中国 ・四国地方
第1図 日本 における正月雑煮 の餅 の形 と汁仕立 て
*分布 は市町村 ごとで、少 な くとも
1
事例以上 を表す。破線枠 内は、同 じ地域である。
沖縄県 は雑煮 を食べない地域 であるため除いた。
地図にない島峡部 は回答 のない地域 である。
( 2 0 03
年全国正月料理 ア ンケー トよ り作成)‑3 4‑
Akita University
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O ヽど.九州地方
ん草 の使用率が高 い。小松菜 の使用 も関東地方 と中 部地方 を中心 にみ られ る。春菊 は九州地方でみ られ
た。里芋 の使用率 は、近畿地方 において高 い。
3 .
雑煮以外の正月料理沖縄県 は正月に雑煮を会す地域ではない。代 わ り に豚肉の内臓 と野菜 を入れた中味汁、豚肉を主 と し た汁物、 ソーキ汁、 イナムルチ‑の事例があ った。
黒豆,数 の子 とい ?た代表的正月料理 は、 どの地 域 において も食べ られている。
年取 り魚 には、主 に鯛、 ブ リ、鮭があ り、鮭 は東 日本 に多 く、 ブ リは西 日本 に多 い。 その他、秋 田県 で‑ タ‑ タ、高知県、兵庫兵でtサ'/ヾがみ られ、福井 県にはサワラの事例があ った。島根県、鳥取県には、
赤貝が存在す る。九州地方 は、沖縄県 と近 い地理的 位置関係 にあるためか、豚骨、 スペア リブといった 豚肉料理 の事例がみ られた。
Ⅲ 秋田県沿岸部 における正月雑煮
1
雑煮餅 の形 と汁仕立て秋 田市 と男鹿市 の両地域 とも角餅 。清汁仕立てで 占め られ、秋 田県沿岸部 は、典型的な角餅 。清型で あることが聞 き取 り調査か らわか った。丸餅や白味 噌仕立ての事例 もあるが、 これは対象者 の好みによ
るもので、地域的特色 とはいえない (第
2
図)。ダシに使 う主要 な食材 は、 ア ンケー ト調査 の結果 と同様である。男鹿市 は、秋 田市 に比べ鶏肉の使用 率が低 い。 これは、正月料理 を神への供え物 として、
意識 して肉を避 ける事例がみ られたためである。具 は、家 によって工夫 され、男鹿市 は秋 田市 に比べ、
異の種類が少ない。男鹿市でみ られた特徴的な具 は、
海苔である。代表的な事例 と して、男鹿市 の
F
さん は、醤油を薄めた汁 に餅 を入れ、海苔 を放 って手軽 に雑煮を食べ られ るよ うに しているとい う。『秋 田市史』、『いなかの食卓 秋 田だよ り』 によ ると、秋 田県では正月 にとろろ飯を食べ る習慣があ る。聞 き取 り調査で も、男鹿市 は、対象者すべてが とろろ飯を食べていた。食べ る期 日も一定でな く、
元旦が とろろ飯な らば
2
日は雑煮、 とい うよ うに、雑煮を食べ る期 日も元旦 とは限 らない。事例 として、
Hさん は、 大晦 日、 なまはげを家 にあげ終 わ り、
ひと段落 した意味で雑煮 とご馳走 を食べ る。 お腹 を 休 めるため、元旦 はとろろ飯を食べてゆ っくりと過
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Akita University
餅
が汁
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昭≡ ::(''';餅の
形汁の
形態
0 20 40 60 80 100(V
第
2
図 秋田県沿岸部 に串ける正月雑煮の形態( 2 003
年聞 き取 り調査 よ り作成)ごすそ うである。 このように、 とろろ飯 と雑煮 は、
男鹿市 において密接 な関係 にある。秋 田市で とろろ 飯を食べ る例 は
46
人中6
例 と少 な く、 この習慣が衰 退 しているとも考え られる。Ⅳ おわ リに
秋 田県沿岸部の雑煮餅の形、汁仕立ては、典型的 な東 日本型である。雑煮の呉 は、 ア ンケー ト調査で は舞茸の事例があ ったが、秋 田県沿岸部の聞 き取 り では確認で きなか った。
雑煮を概観す ると、異の素材 という点で東北地方 と九州地方 はやや似 た性質を持つ。
アシケ‑ トと聞 き取 りにあたらて、全国の各大学、
秋 田市 と男鹿市 の多 くの方 々にご協力 いただいた。
資料収集の際には、秋 田市連合婦人会 において貴重 な資料 をいただいた。本稿作成では、秋 田大学教育 文化学部 の篠原秀一先生 に貴重な御指導をいただい た。末筆なが ら、 ここに深謝 申 し上 げます。
注
1) アンケー ト実施協力者 は以下の通 りである。(敬 称略、五十音順)。秋本弘童、伊藤貴啓、井村博 宣、遠藤匡俊、岡村 治、奥井正俊、小島泰雄、
小野寺淳、香川貴志、川瀬正樹、河原典史、根 田 克彦、酒井多加志、 市南文一、篠原秀一、須 山 聡、平 篤志、 田和正孝、高橋 誠、武 田一郎、
堤 純、中川 正、中西僚太郎、中村周作、中村 康子、中山慎吾、初沢敏生、林 絶代美、林 秀 司、尾藤章雄、平井 誠、船杉力修、松井圭介、
松村啓子、松村公明、丸山浩明、柳井雅也、山下 潤、山下宗利、渡部育子。
文 献
相場 栄
( 1 9 85 ):
『いなかの食卓 秋 田だより』文 化出版局,206 p.
秋 田市史編纂委員会編
( 2 00 3 ):
『秋 田市史 第16
巻 民俗編』秋田市史編纂委員会,76 5 p
.木村 ムツ子
( 1 97 4):郷土料理 の地理的分布.地理
学評論,第47巻,394‑ 40
1.沼倉 徹